とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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変化を兆す初詣[誓う守り]


大晦日(夜)

~上条宅にて~

上条当麻は実家のほうで年を越すことにしていた。
インデックスは小萌先生と姫神とで新鮮食い倒れ旅行に行ってしまったので、帰省することに決めたのだ。
今ごろ年中腹ペコシスターは旅行先の調理場と小萌先生の財布を阿鼻叫喚に渦に叩きこんでいることだろう。
初詣は家族そろって日付が変わる頃に行くことにしていて、外出までの空いた時間はリビングでグータラしていた。
今こそ不幸生活に終止符を!今週のこの時間からは《とある幸福の上条日記》が始まるのですよ~といった具合に。
そんな平和を満喫していた上条を嘲笑うかのように携帯電話の着信音が鳴った。
電話主の名前は 御坂 美琴。

『もっ、もしっ、もしもし?』

取りあえず切る。

『ちょっとアンタは!何勝手に切っ』

気のせいと思い切る。

『人の話を聞』

電源を切ろうかと考えていたところ…

「あらあら当麻さん。どうしたのかしら。さっきから様子が変よ?」

母、上条詩菜に心配されてしまった。やはり着信音とバイブレーションは幻聴と幻覚ではないらしい。
まさかの番組打ち切りっ!?まだ一話なのに殺生な!と現実逃避してみるがまったく着信は止まない。
観念して電話に出るしかないようだ。

「何か用かビリビr『いいかげんにしろぉぉおおおーーーッ!』」

興奮と怒号により荒くなった息を整える美琴と、耳元で叫ばれたので聴覚が麻痺した上条。
お互いの事情で電話は通話状態のまま一時中断された。 


『アンタ、あれよね。以前から思ってたけど一度耳鼻科に行ったほうがいいんじゃない?』

「すいません」

『なんだったらこの美琴先生が直々に治してあげましょうか?コレで。さぞかし風通しも良くなるんじゃない?』

「ごめんなさい!それだけはご勘弁を美琴様ぁーー!」

ジャラジャラという音を聞いて、上条は電話越しに土下座モードに移行する。
その様子を見ていた詩菜は何か感じてしまったのか、

「あらあら、今の当麻さんに激しくデジャビュを感じてしまうのは何故かしら。
一体どこのどなたに影響を受けてしまったのでしょうね、刀夜さん?」

この問いに父、上条刀夜もごめんなさい、と息子同様になるしかなかった。
そんな上条夫妻はさておき、不幸センサーをビンビンさせながら上条は用件を尋ねる。

「それで何の用だ?ビリビリ」

『ビリビリ言うな!それはそのぅ…アンタと…一緒に…今夜初詣に…』

「初詣?いや上条さんは先約がありまして…」

『…へ?』

「聞こえなかったのか?だから先約があるって。あ、なんだったら一緒に行くか?」

『…』

先約と表現するも単に家族で出かけるだけなのだが、しかしてこの物言いが勘違いのもとになってしまう。
無意識に出てしまった言葉なので上条も気付かない。
どうしたービリビリ?、と続けようとしたところを詩菜が遮った。

「当麻さん、お友達からのお誘い?」

「うん。ほら大覇星祭のときに会った常盤台中学の」

友達ではないよなーあれ?御坂とは傍から見たらどうなんだろーと思いながら返した。

「私たちの事は気にしないで、行っても大丈夫ですよ」

詩菜は事情をどこまで察したのか、ここにはいない誰かさんに救いの手を差し伸べる。
しかし簡単にいかないのが世の常。刀夜のデリカシーの無さが妻に向けられた。

「いいのかい?母さんいろいろ準備してたみたいだけど…」

本人は愛する妻を気遣ったつもりなのだが、妙な気遣いが女の子の気持ちをスルーすることに結婚しても学習していないらしい。

「刀夜…さん?」

言葉で表現しにくい黒いなにかを発しつつある妻に危機を感じたのか、刀夜はいつものようにDOGEZAする。

「友好関係を深めるのも大切ですよね父さんたちのことは気にせず行ってらっしゃいだからお願いしますから許して下さい母さん!」

またもやいちゃつき始めた両親を尻目に、上条は美琴に行ける旨を伝えようとするが…

「あれ?切れてる」

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~御坂宅~

断られるかもしれないことを御坂美琴は予想していた。

(『初詣?いや上条さんは先約がありまして…』)

家族で行くなら家族と行く、そう答えると考えていたのでまさか先約と言うとは思わなかったのだ。
誰と行くのかを聞けば良いのだけれど、他の言い回しを考えていなかったのでついフリーズ。

「はぁー」

落胆してしまうのは避けられない。
成功したらと誘う前からいろいろ想像(妄想とも言う)していた予定が消えてしまい、負の感情に苛まれていく。

先約ってことは他の女と?

まさか現地妻がいるのだろうか?
普段のスルーっぷりや周りにいる美少女の多さから鑑みるに既に心に決めた人がいてもおかしくはない。
あのシスターなのだろうか?
彼の両親とも先に知り合っていたようだし夏は一緒に海に行ったらしい。
もう付き合いも公認なのか?既に婚約!?結婚届け!?学生結婚!?新婚旅行!?
先ほどからやたら出てくる[婚]の一文字に惑いながら思考が泥沼と化していることに気付いていない。
そもそも[他の女]という単語が出るあたり若干のヤン化が始まっていることに自覚があるのだろうか。

でも…ここは外でそれに…

上条当麻は記憶喪失だ。曰く、約半年ほど前に記憶を失いそれ以前のことを覚えていないとの事。
ならば現地妻説は薄れるはずだが、もしかしたらという考えが不安を捕えて離さない。

(「不便だけどなんとかやっていける。それに事情を知ってる奴が一人でもいると心強いし、御坂と話すときは気が楽だしな」)

記憶の件は偶然知り、彼に尋ねてそんな風に答えてもらった。
記憶喪失という深刻な事態であるはずなのに、それでも笑っていた彼を思い浮かべる。
すると、必要以上に美化された当麻氏を回想してしまったせいか頬が紅潮し、恋する乙女のソレへと変貌していく。

最近はいつもこうよね…

上条への思いが恋だと自覚して以来、彼のことを考えるたびに心がぐるぐるする。
素直になれないが故に偶然を装ってでしか話かけることができず、彼の姿を探して街をぶらつく自分にいらいらしていた。
それでも彼と日常を過ごせた時は心がふわふわする。
具体的に言うなら、出会えたとき、無視されずに楽しく会話できたとき、またなと別れ際に声をかけられたときなどだ。
しかし、別の女性とそんな時間を楽しそうに過ごしている場面を見ると心がずきずきする。

アイツはどうなんだろう…

そのとき携帯からの着信音が彼女を現実に引き戻した。
電話主の名前は 上条 当麻。
彼からの連絡はわかりやすいよう着信音を特別にしていた。
もしこれが別の人からだったら気付かないところだったかもしれない。
携帯を震える手で掴み、深呼吸して、通話ボタンをプッシュ。

「先約があるんじゃないのアンタは」

『いきなりだなオイ』

全くだ。いきなりすぎる。アンタはいつもそうだ。

「なによ」

『初詣行くんだろ。何時に何処にいけばいいんだ?』

あれ?先約はどうしたの?

「…いいの?」

『いいもなにも誘ってきたのはお前だろ』

これはつまり…デート出来るってことよね?

「ええっと、ちょっとまって、時間!そう時間確認するからっ!」

『おーい落ち着けー』

無理だ。落ち着けるはずがない。他でもないアンタとなんだから。

「取りあえず後でメールするから、だからっそのっあのっ」

『?』

「あっあっありがっ」

『さっきから変だぞ』

誰のせいだ誰の。

「なんでもないっ!」

『じゃあ切るな』

電話が終わり、またもや自分に落ち込んでしまう。
どうしていつも素直になれないのだろう。
しかもありがとうの一言さえ言えないなんて。

「はぁー」

ため息を吐く。でも、ちょっと前のソレとは込める意味が違う。

「急に無理言って誘ったのに…ありがとって言いたいのよ。ばかっ」

結局、自分の都合に合わせてくれた。先約よりも自分を優先してくれた。その事実に、彼の優しさに、悶えてしまう。

「ありがとぉってぇ~♪言いたいのよぉ~♪ばかぁ~♪でもぉ~♪そんな当麻がぁ~♪だいちゅきぃ~♪」

まるで[ツンデレ]から[デレ]だけを抽出し濃縮したような言葉を聞こえてきた。
びっくりして振り返るとそこにはニヤニヤしながらこちらを見ている母こと、御坂美鈴が立っている。
ご丁寧に悶えているところまで再現しているのは余計だろう。

「ちょっとなに聞いてんのよ!いったいいつからっ!」

「いつからって『それはそのぅ…アンタと一緒に今夜初詣に…』から?」

「ほとんどじゃないのよっ!」

声をかけたのに無視したのは美琴ちゃんでしょ?と言いながら何やら木箱を差し出してきた。
しかも今度はニマニマしている。

「それはそうと美琴ちゃん、ここに初詣デ―トに必要なものがあるんだけどどうする?」

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元旦

~某神社にて~

「っつーか、人を呼び出しておいて本人いねーのかよ」

日付が変わったばかりの時間なので外は寒い。
少し厚めのコートとマフラー、そして手袋などの防寒具を用意したが寒いものは寒いのだ。
不幸だ、とため息をついて上条は辺りを見回すが約束の相手はまだ来ていない様子。
境内は参拝客で賑わっており、あの中に入らないといけないのか、と不満をこぼさずにはいられない。

理由その1
上条当麻は不幸体質であり人ごみは鬼門だ。
気付いた時には財布を落とし、注意はしていても誰かにぶつかり因縁をつけられる、などなど。
もっとも人ごみの有無に関わらずトラブルを起こすことに今は言及しない。

理由その2 
地域別による温暖と寒冷の格差現象。
カップル地方には比較的暖かい陽光が降り注ぎ、より過ごしやすく愛を育む一日になるでしょう。
ロンリー地方はカップル地方からラブラブ前線の影響により砂を吐きたくなり、外出を控え部屋の隅で膝を抱えたくなる一日になるでしょう。
気象予報士がいたらそうコメントを残すに違いない。
なおラブラブ前線は停滞しておりカップル地方に引っ越すしか対応策はないので悪しからず。

「ごめーん、着付けとかで遅れちゃった」

その声を聞いて舌打ちしたくなる。また格差が生じてしまったらしい。

「あけましておめでとうって、なに一人でブツブツ言ってんの?」

やはりこの右手は異性との縁まで打ち消してしまうのだろうか。
そもそも神の奇跡やら何やら打ち消してしまう能力者が参拝するのはおかしい気がする。

「ちょっと?聞こえてる?」

女の子の容姿はレベルが高いらしい。あの娘マジ可愛くね?的な男性諸君のつぶやきが聞こえてきた。
でもそんな人と縁があるわけねーよなーと思った自称駄フラグ建築士上条当麻は――

「不幸だ」

――と言ってしまった。
瞬間、上条さんの周りの温度が下がる。

「人をさんざん無視しておいて…」

ポツリと言った声に聞き覚えがあったので振り返ると

「あれ?なぜ汗が噴き出るのが止まらないんでせう?」

そこには綺麗という言葉が似合う少女がいた。

「慣れない着物とか下駄とか苦労してたのに…」

顔は俯いていてよく見えない。

「もしかして…」

けれど彼女から発せられる怒気やら電気やらには覚えがあって…

「終いには…そんな女の子に向かって…不幸だとかどういうことなのよゴラァァァアアアーーーッ!!」

《とある幸福の上条日記》は製作者の事情により《とある不幸の上条日記》に変更したようだ。



雷神様の怒りを買って約一時間後。
そこにはぎこちなくもカップルに見えなくもない二人がいた。

「ちょっと歩くの速いって。下駄なんだからもっと気を使ってよ」

「おぅ」

手をつないで歩いてはいるものの、ガチガチに緊張している様が台無しにしている。

「ちゃんと聞いてるのって、きゃっ!」

「うわっ御坂っ!」

美琴がつまずいて転びそうになるのを上条が抱きとめる。

「ありがと…」

「おぅ」

このやり取りも通算5回目なのだが全く変化がない。
上条は美琴を抱きとめる度に彼女の柔らかさや香り、濡れた上目づかいにやられそうになった。
しかも美琴も恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてプルプル震えている。なにこの可愛い生き物。
今の美琴は色々とヤヴァイ。
普段とは異なった格好に違う一面を見ている気がする。
いつもなら彼女は彩度の低い制服姿だっただろう。
今は違う。
艶やかな赤い生地に気品のある刺繍の入った着物。でも不思議と派手な印象は無い。
整った顔立ちには必要無いと思っていた化粧が施されていた。
その容貌は、中学生と表現するには大人過ぎる。
そんな存在に今の状況を加えれば、動揺と緊張で固まるのは避けられない。
いつもの彼女に可愛いだの綺麗だのと意識したことは無かったはずだ。
だけど今はどうだろう?
込み上げてくるなにかを押し戻し、いつも通りに振舞おうとするも上手くいかない。

「(どうしてこうなった…)」

上条は事の始まり思い出す。
雷神様を怒らせてしまい、なだめるために上条は今までの経験を総動員して対処にあたった。
単に土下座スキルを全開にしてひたすら謝っていただけなのだが…
なだめるために使うスキルが土下座しかない自分の情けなさに泣きたくなる。
それでようやく怒りが静まったと思ったら――

「あけましておめでとう」

「あけましてまことにめでとうございます」

「新年早々アンタは私を怒らせたわよね?」

「その通りでございます」

「不愉快な思いをさせたわよね?」

「面目次第もございません」

「じゃあもちろん一日中言うことを聞くのよね?」

「それはさすがに…」

「 聞 く の よ ね ! ! ? 」

「もちろんでございます姫!」

理不尽な気がするんだけど何故だろうと惑う上条をスルーし美琴は続ける。

「まずアンタは今日一日私の…かっかか彼氏役なんだからね!」

「はい?」

突然の彼氏役任命の儀に呆気にとられる上条。
この流れにはどこか覚えがある。

「ナンパ避けとか色々あるでしょっ!察しなさいよ!」

「あー」

どうやら上条の不幸センサーに曇りは無いようだ。
呼び出しに応じた事を後悔するがもう遅い。

「というかアンタに拒否権は無いのよ!黙って言うこと聞けばいいの!」

「はぁー、ふこ」

不幸だ、と言いそうになるのを止める。
同じ過ちを繰り返せば今以上に重いペナルティーを課せられるだろう。

「じゃあ…はい」

美琴はおずおずといった感じで上条に手を差し出してきた。

「あのぅ…美琴サン?この手は一体なんでせうか?」

「今のアンタは私の…かっ彼氏なんだからちゃんとエスコートしてよっ!」


そんなこともあり上条は美琴と手をつないで寄り添いながら歩いているワケだ。
人ごみも酷いしはぐれると危ないもんな、と自身を納得させ、隣にいる未確認電撃物体に目を向ける。

(俺も結婚できたらこんな風に奥さんの尻に敷かれる生活になるんかね――)

漠然と考えながらまだ見ぬ未来に上条は想いをはせていた。

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上条が思考をどこかに飛ばしていたころ美琴も出陣前に母から言われたことを思い返していた。

「でも初詣に誘うぐらいで美琴ちゃんも大袈裟よね~♪」

「うっさい!」

余計なお世話と言わんばかりの美琴。

「付き合ってるんだからもっと素直にならないと損するわよ?」

「つっ付き合うなんてそんなっ!」

「嘘っ!まさかまだ付き合ってないの!?」

美鈴は美琴に驚愕の視線を向けてきた。

「ッ~~~!!」

「あのねぇ。恋心を自覚したのがつい最近ってわけでもないんでしょ?」

娘の奥手っぷりに呆れ顔で美鈴は続ける。

「一端覧祭とかクリスマスとかイベントあったでしょうに…」

「それは…全然会えないし…連絡も取れなくて…」

美琴も上条と親密になろうとしていたのだが、そのイベントやらの準備で忙しくなかなか会えなかった。
仮に会えたとしてもツンツンしてしまったり、意識が吹っ飛んだりとコミュニケーションになっていないという悲劇。

「どーせ素直になれなかっただけじゃないの?さっきの電話のように」

図星を突かれて何も言えなくなる美琴に美鈴は追撃する。

「彼、もてる感じだし?このままじゃ他の人に奪われちゃうわよ?」

その言葉に顔面蒼白。心当たりがありすぎるのだ。
美鈴は取りあえず茶化すのを止めてより真摯に問いかける。

「初恋なんでしょ?」

「…うん」

「好きなのよね?」

「…うん」

「自分と向き合えないクセにそれを理解しろってのは、恋に破れる臆病者よ。後悔したくないなら彼と過ごす一秒を大切になさい」


そんなありがたい言葉をいただいたのに開幕からつまずいてしまった。
そしてそう在りたい関係を形だけとはいえ命令する始末、母に申し訳なさすぎて泣けてくる。
しかし彼はこんな扱いを受けて不満は無いのだろうか?
偽海原の件のときはそっけない感じだったのに、今の彼がそれと異なるのは気のせいではないはずだ。

(ちょっとは意識してくれてるのかな…)

また意識が飛びそうになり、必死に耐える。
夢想するのは帰ってでも出来るのだ。今は目の前の彼に集中しよう。


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