勘違いのバレンタイン
「バレンタイン!バレンタインには絶対素直になってアイツに告白しよう!!」
そう決意する1人の少女がいた。
少女の名は「超電磁砲」こと常盤台中学2年、御坂美琴。
これまで美琴は上条に何度も想いを伝えようとしてきたがことごとく失敗してきた。
ならばバレンタインにはストレートに「好き」と伝えようと決意したのだ。
断られれば今までの関係は壊れてしまうかもしれない。
だがそれ以上にこのままのずっと友達でいることが、
そして上条に自分以外の彼女ができることは絶対に嫌だった。
告白すると決意したのは1月15日、バレンタインのちょうど1ヶ月前。
せっかくの告白チョコをつまらない物にはしたくない。
この1ヶ月の期間を利用してとびっきりすごいチョコを作ろうと美琴は考えたのだ。
黒子の目を盗み舞夏に教えてもらい特訓して2月13日にはどこの一流レストランにだしても
絶賛されるであろうチョコが完成した。
……チョコを渡すことについて舞夏に盛大にからかわれたのは言うまでもない。
こうして美琴は2月14日をむかえることとなる。
朝から何度も告白のシュミレーションをする。
ここ1ヶ月何度もしてきたことだがいまだちゃんと言えるか不安はある。
勝負は放課後、今日だけは絶対に会わなければならないので上条の寮の前で待つつもりだ。
メールや電話で会う約束をするつもりだったが不幸が炸裂し、ついに上条の携帯は壊れてしまった。
だから連絡をとろうにもとれない状態だった。
ならばバレンタインまでに会って約束しておけばいい話なのだがチョコ作りが忙しい&探しても
会えない状況が続き最終手段の確実に会える寮で待ち伏せになったわけである。
当初は上条の学校まで行くことも考えた。
が、以前会いに行ったときは上条の愉快なクラスメート達によってとんでもないことになった事を思い出し却下した。
特に金髪と青髪の高校生はいろいろとすごかった。
美琴は思い出すだけで身震いするほどだ。
そのときの上条の悲惨さは各自でご想像ください。
「(…よし!準備完了!)」
放課後いったん常盤台の寮に戻った美琴はシャワーを浴び髪を整えその他準備を完了させる。
舞夏情報(土御門元春ルート)によれば今日も上条は補習があるのですぐには帰ってこないことがわかっていた。
そのため念入りに準備することができたのだ。
「絶対成功させるんだから!待ってなさいよ!」
そう言って勢いよく寮を飛び出していった。
まあ待つのは美琴になるわけだが
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは上条の寮の前、すでに日は暮れている。
そしてその場でチョコを渡され告白される上条の姿があった。
その告白に対する上条の返事は―――
「ごめん…おまえとは付き合えない…」
「!?……なんで?…どうして?」
「おまえのことは嫌いじゃない。でも他に好きなやつがいるんだ。」
断られたことかなりショックらしく目の前の少女は震えているようだ。
上条は何か声をかけようとしたがその前に女の子は黒髪をなびかせ走り去って行った。
…………黒髪?
そう、何を隠そう上条は美琴以外の女の子にも告白されていたのだ。
ちなみに少女を「おまえ」と呼んだのはここ数週間でそこそこ仲良くなったからだ。
そして告白された上条だが様子がおかしい。
何か疲れており少し悲しそうな表情だ。
悲しそう、というのは告白を断り女の子を悲しませてしまったからではないようだ。
それは上条の今日1日の生活を振り返ればわかることだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝上条が学校に着くとなにやらいつもと空気が違う。
男子も女子も落ち着きがないように思える。
その原因がわからないためとりあえずデルタフォースの2人に話しかける。
「どうしたんだ?お前ら?」
「どうしたもこうしたもないでカミやん!」
「今日がバレンタインだということを忘れたとは言わせないにゃー!」
「「チョコをもらえるかどうかで男の価値が決まるんだにゃー!!(やで!!)」」
「価値っておまえら…」
そういや今日はバレンタインだったな、などと思いつつ土御門&青ピの「価値」発言に突っ込む上条。
記憶喪失である上条でもバレンタインがどういうイベントかは一応であるが知っている。
「まあ問題なのはカミやんがいくつチョコをもらうかってことなんだにゃー!」
「そうやでカミやん!1個もらうことに1発は殴らせてもらうで!?」
「なんでだよ!おかしいだろ!それにもらっても義理だろ!?本命ならともかく義理チョコで殴られてたまるか!!」
その発言に少しイラつく土御門と青ピ。
フラグ建築士である上条に本命チョコをわたす女子はいくらでもいるのだ。
ただそれが本命だということにキング・オブ・ザ鈍感である上条が気づくはすがない。
気づくはずがなかったのだが……
「にしても今日姫神が休むってのは痛いにゃー…」
「え?姫神休みなの?なんで?」
「なんでもインフルエンザで40度も熱があるらしいで。ボクらの希望が…」
「チョコもらえないから落ち込んでるのか…少しは心配してやれよ…」
デルタフォースの3人がそんな会話をしていると教室に他のクラスの女子が入ってきた。
いつもなら誰も気になどしないが今日だけは違う。
その女子にはクラス中の視線が集まる。
と、その女の子は上条を見つけると表情を赤らめ上条のもとへやってきた。
そして…
「上条君…これ…」
その女子の手にはきれいにラッピングされたチョコがあった。
「え?ああチョコか。わざわざありがとな、義理でもうれしいよ。」
ほとんど面識がなかったためなんで俺に?、などと思ったがとりあえず受け取る上条。
この時点でクラス中から殺気が感じられる。
その殺気を感じ取った上条はこの後どんな目に遭うか予想でき、頭の中で「不幸だ…」とつぶやいた。
だが次に起きることは上条が予想もしていなかったことだった。
「……違う。」
「へ?」
「義理じゃない。私はあなたのことがずっと好きでした。付き合ってください!!」
「…………………はい?」
教室内は時間が止まった。
誰も動かない。
男子も、女子も、吹寄も、間近で告白を見ていた土御門と青ピも、告白した女子も、
そして告白された上条も
(ズットスキデシタ?ワタクシカミジョウハコクハクサレタノデスカ?イヤコレハユメデスカ?)
などと考えたまま動かない。
鈍感である上条もこれは流石に告白だとわかり脳内はパニックに陥っている。
普通ならこんなに人がいる教室ではなくどこか別の場所に呼び出して告白するだろう
と、教室にいた何人かは考えたがそれでころではない。
フラグメイカーであり鈍感王の上条に好きだという想いを伝えられた人間は今までいない
と、クラスメイトは思っていた。
その上条が告白されたのだ。
クラス中の興味は上条がどう答えるのか、ということに集中している。
「それで…返事は…?」
この空気を破ったのは告白した女の子。
完全に固まっている上条に尋ねた。
その言葉に我にかえった上条は落ち着いて今の状況を整理する。
「(これは…告白…だよな。)」
誰がどう見ても、どう聞いても告白である。
「(見た目は結構かわいいな…。)」
告白してきた女の子は髪はセミロングでおとなしそうな子だ。
胸はそこそこ、身長は上条の鼻くらいまではある。
「(他に俺を好きになってくれる子なんていないし…。断って悲しませるなら付き合うほうが―――)」
そこまで考え上条は自分の中に妙な感情がわいてきたを感じた。
それはなんともいえない感情でありこの子と付き合うことを拒むものだった。
なぜこんなこの感情が生まれたのかわからなかったが逆らってはいけないと本能的に感じた。
「こんな俺を好きになってくれてありがとな。嬉しいよ。でも…付き合うことはできない…」
結果上条は告白を断った。
そのよくわからない感情に従ったのだ。
「そうですか…でも、私あきらめません!」
そういい残しその女の子は去っていった。
悲しそうな顔をされたことに罪悪感が生まれる。
(やっぱ悲しませちまったな…それにしてもあの感情はいったいなんなんだ……)
罪悪感と共に若干の後悔、そして疑問が生まれる。
上条はあの感情が何なのか知らない。
そしてこの告白が上条の1日を大きく変えることになるとも―――
この告白のあとにあったもの
まず土御門と青ピを筆頭とするクラスメイトの男子にいつも以上にフルボッコされる。
ボロボロになった上条をさらに吹寄の頭突きが襲う。
ここまでは上条にも予想はできた。
だがこの集団リンチのあとに起こることはまたしても上条が予想していなかったことだった。
それは―――
「上条くん!1時間目のあと2階の空き教室に来てくれる?」
女子達による上条への告白ラッシュが始まったことだ。
1時間目終了後まずクラスの女子が上条に特攻する。
さすがにクラス内ではなく空き教室に呼び出してからだ。
「上条くん!前に助けてくれた時から好きでした…付き合ってください!!」
本日2度目の告白をされた上条は再びパニック状態へ突入。
(またぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?今日はいったいどうなっているんでせうか!?なんか魔術でも発動してんのか!??)
しかし2度目なので少しは耐性がついたのか冷静さを取り戻し返事を考える。
(えーと…さっきは断っちゃったけど今回は…ん?)
そこまで考えたところで上条は自分の中に先ほどと同じ感情が芽生えてくることに気づく。
やはりそれがなぜ今生まれるのか、なぜ自分にとって嫌な感情なのかはわからない。
だがその感情は先ほどよりはっきりとしている。
はっきりとこの告白を断れといっている。
(くそっ!なんなんだよこれ!!こんなもんに従ってたまるか!)
そう思い上条は告白の返事をOKすることを決意する。
断れば相手を悲しませるのは明らかだ。
これ以上自分の都合で誰かを悲しませたくないという思いもある。
一息いれてから上条は待っている女の子に話し始める。
「待たせてごめん。それで返事なんだけど……あの…ごめん、付き合うことは…できない。」
上条が現実に出した言葉は先ほどまで考えていたこととは正反対の答えだった。
途切れ途切れではあったが断る意思を告げる上条。
自分自身でわけがわからなかった。
(な、なんで!?なんで俺は断ってんだ!?)
断りの返事を聞いた女の子はやはり悲しそな表情をしながら手に持っていた物を上条に渡す。
「そう…わかった…けどこれは受け取ってくれる?あの時のお礼でもあるから…」
そう言いチョコを渡すとその女の子はその場を去っていった。
(……いったいどうしたんだ俺は…)
受け取ったチョコを手に呆然とする上条。
なぜ自分は告白を断ったのか、どれだけ考えようと上条は答えを導き出すことはできなかった。
困惑した様子で自分の教室に戻ろうとすると先ほどとは別の女の子が入ってくる。
「あ、あの上条くん!これ受け取って!!…もちろん義理じゃ…ないから…!」
(………また告白…マジですか…)
本日3回目の告白にあう上条。
この告白も断ったがその後さらに2人に告白されることとなる。
休み時間は10分、実に10分間に4人に告白されることとなったが上条はそれをすべて断った。
どう考えようと「あの」感情に逆らうことは不可能だったのだ。
2時間目が始まるころには疲労困憊状態、頭から煙がでそうなほど考えたせいだ。
その後も上条への告白ラッシュは続いた。
休み時間ごとに行われる告白の嵐。
あまりの告白の多さに男子達も手がだせない。
昼休みにもなると告白事件は学校中に広がり、上条は学年問わず告白されるようになる。
上条はそれをすべて断っていたが意外と女子達が悲しそうな表情をしないということに気がついた。
そもそも女子達は今日上条に告白する気はなく、ただチョコを渡そうと考えていた者が多かった。
する気があったとしても告白に気づいてくれないと思っていた。
だが1人目の告白が今回の騒動の引き金となった。
女子達は本当に好きならはっきり告白しなければ何も始まらないと気づかされたのだ。
こうして告白ラッシュが始まったわけだが告白が成功する可能性が低いことは女子達もわかっていた。
ではなぜ告白するのか。
理由は簡単、上条に印象を残すためだ。
バレンタインにチョコは渡し告白すれば自分を印象付けることができる。
たとえ断られようとも上条が自分を意識してくれるようになればOKというわけだ。
さらにこの日告白しない、ということはした子より遅れをとるため告白をしないわけにはいかなくなる。
こうして告白の連鎖が生まれたのだった。
結局上条に対する告白ラッシュは放課後、されには補習が終わった後も続いた。
そしてその後待ち受けていたのは学校内の男子ほぼ全員との追いかけっこ。
こうしてこの日上条は壮絶な学校での生活を終え帰路につくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
現在の時刻は6時30分、美琴は上条の寮の近くでかれこれ1時間半以上も上条の帰りを待っていた。
なぜ寮の前ではなく近くで待っているかというと先客がいたからだ。
その黒髪の高校生と思われる少女は手に小さな箱を持ち誰かを待っているようだった。
その少女が上条を待っているとは思わなかったものの同じ場所にいれば気まずいし
告白を見ても見られても気まずいので少し離れたところで待つことにしたのだ。
「遅いな…アイツ…」
そうつぶやきながらため息をつく。
上条が告白ラッシュに会って帰るのがさらに遅れていることを美琴は知る余地もない。
あたりは暗くなりかなり寒くなってきたが美琴は待ち続ける。
体が冷え切ってしまったころ、ついに待ち人の姿が見えた。
暗いのではっきりは見えないがあのツンツン頭は上条に間違いない。
緊張はしたがやっと会えるという嬉しさに駆られ美琴は上条の元へ走っていく。
すると上条が誰かと話をしていることがわかった。
相手は寮の前にいた少女、上条がチョコをもらっていることがわかると美琴の表情は一気に暗くなった。
(え…まさか…あの人と付き合ってるの……?)
絶望が押し寄せようとする中、少女の「付き合って」という言葉を聞き一瞬だが安心する。
だがすぐに上条の返事が気になり今度は極度の不安に襲われる。
(まさか…OKしちゃう…とか……?)
悪い方向にばかり考えていたが上条が「ごめん」と言うのが聞こえると目の前が明るくなったような気がしたが
次に「好きな子がいる」という言葉は美琴を絶望の淵へ追いやった。
絶望に襲われた美琴はもはや告白しようという考えは消えていた。
上条には好きな子がいる。
それを考えると一刻も早くここを立ち去りたくなる。
だがふと先ほどの方向を向くとこちらに気づいたのか上条がやってくるのが見えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰る途中でも上条への告白は止むことはなかった。
どこからか校外にも上条が告白されたという情報は伝わっており他の学校の生徒にも告白された、というわけだ。
「はぁ…今日は壮絶な1日だったな…。不幸ではないけど…別の意味では不幸だな…。」
大量のチョコレートをかかえようやく寮の入り口に着いた。
するとここでも上条は知り合いの高校生に声をかけられ告白される。
1日で告白に対する耐性がかなりついた上条は相手をキズつけないよう丁寧に断る。
だが理由を聞かれたためあの「好きな子がいる」と言う言い訳をしてその子が去るのを見届ける。
すると上条はその子が去っていった方向に美琴がいることに気づいた。
なんでこんなとこにいるんだ?と思ったが声をかけることにした。
「おーい御坂!どうしたんだよこんなところで。」
まさか声をかけられるとは思っていなかったためビクッとする美琴。
美琴にとっては今1番会いたくない相手だった。
だが近くまで来て見えた上条の表情がなにやら嬉しそうなことに少し気持ちが和らぐ。
「…別にいいでしょ。私がどこにいようと…ん?」
美琴は上条が持っている紙袋に入った大量のチョコに気がつく。
それらはどう見ても本命チョコにしか見えなかった。
「え?ああこれか。今日学校と帰り道にもらったんだよ。」
「ふーん…そうなんだ…(やっぱコイツもてるんだな…この中にこいつの好きな子のチョコもあるのかな…)」
大量のチョコを見ながらそんなことを考えている美琴。
嬉しそうな表情をしていたのはこのたくさんチョコのためかと落ち込む。
自分を見つけて嬉しそうな表情をしてくれたのかと思ったためガッカリ感は大きい。
すると今度は上条が美琴の持っている物に気がつく。
「ん?おまえ…その手に持ってるのは…」
「!?」
気づかれたくないことに気がつかれた美琴はかなり動揺する。
様々な想いが頭の中で渦巻くがばれてしまったものはしょうがない。
せっかくあれだけ苦労して作ったのだ。
先ほどまでは渡さないでおこうと考えていたが上条を前にして告白はできなくても
せめて食べてほしいと思い渡すことを決意する。
「ああ…これね、普段お世話になってるしアンタにあげようと思ってさ…」
そう言うと美琴はチョコを上条に手渡した。
「記憶喪失のアンタでもバレンタインくらい知ってるでしょ?美琴センセーの手作りチョコなんだから喜びなさいよ?」
本当はこんな言葉ではなく素直に好きと言って渡したかった。
それを考えると涙があふれそうになる。
だが泣く姿を見られるわけにはいかない。
「じゃ…私は帰るから…」
そう言うと美琴は寂しそうに自分の寮の方向に歩きだす。
「待てよ!!」
立ち去ろうとする美琴を上条は腕をつかみ引き止める。
「え!?な、何よなんか用でもあるの?」
引き止められたことに驚くも早く立ち去りたい一心から少し強めの口調で聞く。
「ああ大ありだ!…その、な、チョコスッゲー嬉しいよ、ありがとな。」
上条の予想外の言葉に硬直する美琴、続けて上条が
「まさかお前がチョコくれると思わなかったよ、まあそれはいいとして…聞いてくれ。
御坂が俺のこと好きだと思ってるなんて全く気づかなかった。むしろ嫌われてると思ってたんだ。」
などと言い出すから美琴はわけがわからなかった。
なぜ自分が上条のことを好きだとバレているのか訊ねようかと思ったが黙って続きを聞くことにした。
「でもおれはお前と一緒にいることが楽しかった。嫌われていてもいいから一緒にいたかったんだ。
んで俺は今日初めて自分の気持ちに気がついた、遅いよな気づくのが。」
そこまで言うと上条は美琴を引き寄せ抱きしめる。
いきなり抱きしめられたことに美琴は真っ赤になりパニック状態になる。
(えーーーー!!??何これどうなってんの!?なんで!?なんで抱きしめられてんの私!!?)
だがここでふにゃー化するわけにはいかない。
なんとか耐え、続きの話を聞こうとする。
そして上条は力強く、はっきりとこう告げた。
「俺からも言わせてくれ。俺は御坂、いや美琴、お前が好きだ、大好きだ!俺と…付き合ってくれないか?」
最後まで聞いてもなぜこうなった全くわからなかった。
だが今はそんなことはどうでもよかった。
上条が自分に好きだと言い告白してくれた。
それだけわかれば今の美琴には十分だった。
美琴も上条をおもいっきり抱きしめ返事を告げる。
「うん…すっごい嬉しい…私も当麻のことが大好き…」
それだけ言うと美琴は恥ずかしさ&嬉しさMAXでついにふにゃー化し気絶してしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん…ここは……ベッド?…なんだ…夢だったんだ…」
まだ完全に覚醒はしていないものの目を覚ました美琴はベッドの上で残念そうにつぶやいた。
もう一眠りしようとあの抱きしめられ告白されたことを思い出し幸せに浸る。
(そうよね…あんなわけのわからない展開夢に決まってるわ…でも現実では絶対に成功…)
そこまで考えたところで違和感に気づく。
ベッドの感触がいつもと違う。
それがわかると思いっきり上半身を起こし周りを見渡す。
美琴の目に映った光景は見たことのない部屋とベッドの近くに座っている上条の姿だった。
「……え?」
「お!やっと目が覚めたか美琴!もう大丈夫なのか?」
「大丈夫だけど…あの……なんで?」
「いや、なんでって何がだ?いきなり漏電するし気絶するからビックリしたんだからな。」
ここまで聞き美琴は告白された出来事が現実だったことを理解する。
同時についに上条と恋人同士になれたことを実感し天にも昇る気分になる。
というかもう昇っている。
「お~い、どうしたんだよボーっとして。」
「あ、え、えと…ごめん…あのここって…アンタの部屋よね?」
「ああそうだぞ。そういや1度も来たことなかったっけ?」
美琴はここがいつか行きたいと思っていた場所ナンバー1の上条の部屋であることを認識し
心の中で激しくガッツポーズをする。
ちなみにインデックスはイギリスに帰っているので今はいない。
と、ここで意識が完全に戻ったため先ほどの告白での疑問を思い出す。
「そういやさ、あの告白のときなんかおかしくなかった?」
「え?俺なんか変なこといったか?」
「だってさ、と、当麻から告白してきたのに…なんていうか…なんかひっかかるっていうか…」
ここで勇気をだし上条を名前で呼ぶ。
名前はうまく呼べたがおかしかったところをうまく言い表せない。
その言葉に上条が反応する。
「は?俺はお前に告白されたからその返事をしたんじゃないか。」
「…………………はい?」
美琴はチョコを渡したとき同様わけがわからなくなる。
告白?そんなことをした記憶は微塵もない。
「告白って…私した記憶ないんだけど…」
「はぁ!?何言ってんだよ、チョコくれたじゃねーか。」
「…………………はい?」
やはりわけがわからない。
なぜチョコを渡すだけで告白したことになっているのか。
混乱している美琴を前に上条はとんでもないことを言い出す。
「だってバレンタインにチョコ渡すってことは告白するってことなんだろ?」
これには美琴も叫ばずにはいられなかった。
「アンタはバレンタインに義理チョコがあることを知らんのかーーーーー!!」
叫びながら勢いよく立ち上がる。
上条は叫ばれたことに驚きながらも衝撃の一言を放つ。
「義理チョコ!?それって本当に存在すんのか!?今日俺は義理チョコなんてもらわなかったぞ!!」
その言葉に美琴はベッドの上で立ち上がったまま固まる。
義理チョコをもらわなかった?
あの量で?
そう思いベッドに座りそばに置いてあったチョコの入った紙袋を見る。
チョコは100個くらいありそうだった。
「ま、まさか…あのチョコの数だけ告白された……ってこと?」
「ああそうだぞ。……まさか上条さんがこんなにもてるとは思いませんでしたよ…」
美琴は唖然とした。
想像をはるかに超えるほど敵はいたのだとわかったからだ。
だがすぐにその中から自分を選んでくれことを理解しそれがたまらなく嬉しかった。
(やば…これはにやけちゃうわ……て、そうだ。)
にやけるのを抑えようとしていると話が若干それていることに気づき残っている疑問を追及する。
「で、なんで義理チョコの存在を知らないわけ?」
「え?だって俺記憶喪失だろ?バレンタインは初めてだからてっきり義理チョコは俺の思い違いだと思ってさ。」
「あ…」
この一言で美琴はすべて理解した。
つまりはこういうことである。
上条は記憶喪失であり今回のバレンタインが初めてだ。
だが上条にもバレンタインの知識は普通にありもちろん義理チョコのことも知っていた。
しかし今日の告白ラッシュにより上条は本命チョコしか貰わなかった。
これにより上条は義理チョコというの物は存在せず自分の間違いと認識した。
つまりチョコも貰う=告白される、と変換されたのだ。
だから美琴からチョコを渡されたということは告白されたと上条は勘違いしたというわけだ。
「なるほどね…それにしても当麻が私のこと好きだったなんて正直意外だわ。」
「……正直言うと俺も今日気づいたんだよ。」
「え?」
「今日何回も告白されたけどさ、そのたびに妙な感情が生まれたんだ。」
上条はすべてを説明する。
「その感情が何なのか最初は全くわからなかったけどな、何回も告白されるうちにだんだんわかってきたんだ。
俺には好きなやつがいる、そしてそれが御坂美琴だってな。
だから誰か別のやつと付き合うことを考えると嫌な気分になったんだ。
まあそれが完璧にわかったのは帰り道だったんだけどな。」
ちなみに上条が“好きな子がいる”という断り方を始めたのも帰り道からである。
最も一番最初にこのセリフを言ったのは帰り道にあまりにしつこく断った理由を聞いてくる子がいたからだ。
だがそれが上条にすべてを理解させたのだ。
美琴は上条の言葉を真剣に聞いていたが聞けば聞くほど顔が緩んでいく。
「―――それと美琴のことが好きだってわかったの時は嬉しかったけど同時に悲しかったな。」
その言葉に美琴はすばやく反応する。
顔の緩みも一瞬で元に戻った。
「か、悲しかったってどういうこと!?私のことを好きになることが嫌だったわけ!?」
「お、落ち着け!最後まで聞けよ!悲しかったってのは今日なかなか会えなかったからだ!」
「え?それって……?」
「いつもなら公園とかで会えるだろ?チョコをもらえるもらえないは別として今日は会いたかったんだ。」
「…なんで?」
「なんでって俺は初めて誰かを好きになったんだぜ?会いたくなるのも当然だろ?」
そう、上条は記憶喪失のため今まで人を好きになった経験はない。
記憶喪失以前に誰かを好きになったことはあったかもしれないが今の上条の初恋は美琴ということになる。
また美琴の顔は緩みはじめる。
そんな美琴を前に上条は続ける。
「会えずに寮に着いた時は不幸だと思ったし悲しかった。実際不幸だってつぶやいたしな。
だから会えた時はスッゲー嬉しかった。チョコくれた時なんか飛び上がって喜びたかったんだぞ?
なのにお前は渡すだけ渡してすぐ帰ろうとするから慌てて引き止めたんだよ。」
「そうだったんだ…」
美琴は上条の言葉を夢見心地で聞いていた。
好きな人が自分のことをここまで想ってくれていたのだから嬉しいのは当たり前だ。
と、ここまで話し上条は少し表情を変える。
「それで俺のいろんな勘違いがわかったわけだが……美琴のあの言葉は本物なんだよな?」
「あの言葉?」
上条は聞き返されると顔が赤くなる。
そして少し恥ずかしそうに、不安そうに尋ねる。
「…ほら、お前の返事だよ。“私も当麻のことが大好き”って言葉は俺の勘違いじゃ…ないよな…?」
その言葉からは上条の不安がひしひしと伝わってきた。
先ほどまで盛大な勘違いをしていたのだ、
美琴の言葉も自分の勘違いだったのではないかと考えるのも不思議ではない。
美琴は上条にわからない程度に微笑む。
「ねぇ、まだ私のチョコ見てないでしょ?」
「見てないけど…俺の質問はスルーですか?」
「いいから見てみなさいって!」
そう言われとりあえず従う上条。
机の上に置いてあった他の物より大きめの箱を手に取り開けてみる。
中身は様々な種類のチョコがきれいに並べされていた。
ホワイトチョコもあり見栄えもすばらしい物となっている。
「おお…美味そうだな。」
店の物のように美味しそうなチョコを見て思わずつぶやく上条。
それを聞いた美琴は嬉しそうな顔をしたあとすぐにため息をつく。
「…わからないか、じゃ少し離れて見てみて。」
よくわからないままチョコから離れる上条、するとあることに気づく。
それはホワイトチョコレートだけを見るとある文字になっていることだ。
その文字とは
“I LOVE TOMA”
「これは…つまり…」
「そうよ、これであの言葉が勘違いじゃないってことはわかったでしょ?」
「ああ…ありがとう美琴。」
とびきりの笑顔で微笑む美琴を見て上条は少し涙目になる。
そんな姿を見られてはならないと慌ててチョコのほうを向く。
「そ、そうだ!これ食ってもいいか?」
「当麻のために作ったんだからいいに決まってるでしょ?」
それを聞くと上条は1つ手に取り口に放り込む。
そんな上条をドキドキしながら見つめている美琴。
上条の感想は
「なんだこれ!すげーうまいぞ!今まで食ったチョコの中で1番うまい!!」
そう言うと2個、3個と食べていく。
美琴は苦労した甲斐があったと小さくガッツポーズする。
ここで美琴はふと思い出す。
チョコを作っていたとき舞夏教えてもらったことと見せてもらったバレンタイン特集の本のことを。
「あ、あのさ…」
「どうした?」
「私が…食べさせてあげよっか?」
上条が固まる。
朝最初の告白をされた時より硬く固まる。
(食べさせる…というのはカップルの王道の“あーん”ってやつですね、わかります)
それをするのは恥ずかしい、しかし食べさせてもらいたい。
上条の中でそんな矛盾が生まれるも勝利したのは
「……お願いします。」
食べさせてもらうほうだった。
美琴は顔を赤く真っ赤にしながら1つチョコを取る。
よくよく見ると少し震えている。
「じゃ、じゃあいくわよ。」
なんでそんなに赤くなって震えてんだ?と上条が思った次の瞬間
目の前にあったものは真っ赤になった美琴の顔、口には柔らかいものが当たり甘い味がした。
美琴はチョコを口にすると間髪入れずに上条にキスしていた。
数秒この状況が続いたあと美琴のほうからゆっくりと離れる。
「み、み、み、美琴さん!?今…何をしたんでせうか?」
「何って…た、食べさせてあげたんだけど…本命チョコはこうやって食べさせるものなんでしょ?」
「……それどこで覚えた知識?」
「…友達に教えてもらったんだけど?……もしかして何か間違ってた?」
美琴は顔をさっきより真っ赤にしている。
そしてその言葉からは先ほどの上条のように不安が伝わってくる。
そんな美琴を前に上条が言えることは1つ。
「…いや何も間違ってません。」
今度は美琴の盛大な勘違い。
原因は舞夏にあった。
チョコを作っているときに教えこのチョコを食べさせる方法を教えたのだ。
美琴が疑わないように口移しで食べさせるという内容が載った本まで見せていた。
まあ舞夏は本当に実行するとは夢にも思ってなかったのだが…
今までバレンタインに本命チョコを渡したことはなくこの手のイベントに微塵も興味がなかった美琴は
あっさり舞夏の言うことを信じたわけである。
そしてその友達が舞夏だとは知らず上条が心の中で叫ぶ。
(間違ってるなんて言えるかぁーーー!!!そしてその友達GJ!)
美琴とキスができた嬉しさで実際に叫びそうになる。
だがこれを何回もすると理性が崩壊しかねないのでもうしないと心に誓う上条。
すると美琴が上条の服を軽くひっぱる。
「ねぇ……当麻からもしてほしいな…ダメ…かな?」
上条ノックアウト状態。
告白に耐性がついてもこういったことに耐性がないに等しい上条は恥ずかしがりながら上目使いで
お願いする美琴に逆らえるはずがなかった。
誓いは早くも消え去りこの後数回繰り返すこととなる。
こうして2人は勘違いのおかげで甘々のバレンタインを送ることができた。
上条の理性は崩壊しなかったのか――――――それは神のみぞ知る。
*おまけ
数日後上条の寮の前にて
「あの時ここで俺達カップルになったんだよな~……そういやさ」
上条がふと何かに気づく。
「何?どうしたの?」
「お前チョコ渡してすぐどっか行こうとしたけどさ…」
「うん?」
「あのチョコ見たら確実に本命ってわかるだろ。」
「!!?」
上条の冷静なツッコミに美琴は思わず顔が赤くなる。
あの時は気が動転していてチョコを渡し、すぐに去ることしか考えられなかったため
そこまで頭が回らなかったのだ。
2人は顔を見合わせると大笑いした。
その笑顔は本当に幸せそうだった―――