とある部屋のひな祭り
今日は3月3日、雛祭りだ。
当日にもかかわらず仲むつまじく雛人形を飾りつけている2人組がいる。
「だ~か~ら~そこじゃないって言ってんでしょ!」
「もうこの際どこでもいいだろ!」
ここは上条の部屋。
美琴が持ってきた(実際は配達してもらった)雛人形を飾りつけようと悪戦苦闘している。
なぜ美琴の部屋ではないのかというと規則の厳しい寮であるということと相部屋ということが理由だ。
まあ常盤台の寮だと上条が入れず2人で作業ができないというのが1番の理由だが…
飾ろうと言い出したのはもちろん美琴。
だが飾ることは建て前で本音は誰にも邪魔されずに上条とすごしたいだけである。
もっとぶっちゃければいちゃいちゃしたいだけだ。
バレンタインで付き合い始めて早数週間。
2人の仲はそれほど進展していなかった。
これまで何度かデートをしたが黒子の妨害や上条のフラグ体質のため2人でゆっくり過ごせたことはほぼない。
また上条は美琴がまだ中学生だという理由で消極的になりがちだった。
だから雛人形を飾りひな祭りということでいい雰囲気をもっと距離を縮めようという作戦である。
もう日が暮れようとしている時間になりようやく完成。
「やっとできたわね…予想以上に時間かかったわ…」
「だからやめようって言ったのに…」
「なによかわいい彼女のお願いがいやだったってわけ?」
「いやそういうわけじゃないけどこれすぐ片付けるとなるとなんかむなしいっていうか…」
などと言い争いを始める2人。
しかし疲れていたのかすぐに静かになった。
上条は完成したばかりの雛人形に目をやる。
「しっかしほんといろんな種類があんだなこれ。」
「まあね。…こうやって2人して並んで見てると私達もお内裏様とお雛様みたいね///」
「…お前かわいいこと言うな…」
先ほどの雰囲気が嘘のように一気に桃色空間に切り替わる。
2人の顔はどんどん赤くなっていく。
いい雰囲気になったのにもかかわらずさっきの発言の恥ずかしさのあまり美琴は慌てて話題を変える。
「じゃ、じゃあさ!五人囃子を誰かにたとえると?」
「五人囃子か………五人囃子って男だよな?」
「一応現代で言う美少年って設定らしいわよ。」
「っていうと…………土御門とか青ピ?」
「あの2人か……ってか5人言いなさいよ。」
「5人…」
上条は考える。
しかし意外と思いつかない。
思いつかないためあれ?おれって男子の友達少ない?とか考えて少し落ち込む。
そこで学校内以外の人物もいれて考えてみる。
そこでまず思いついたのが
「そうだ!一方通行!」
「…なんだかお内裏様とお雛様を攻撃しそうなんだけど…楽器持ってる姿も想像できないし。」
そこで上条は一方通行の五人囃子姿を想像してみる。
…いろんな意味で恐ろしい……
次に思いついたのが
「天草式のメンバーだ!建宮とかぴったりだろ!」
「あのクワガタか…服装は似合うかもしれないけど少年じゃなくない?」
「そういわれるとそうか…他の天草式もほとんど少年ではないな…」
「一応聞くけど他には?」
う~ん、と唸る上条。
イギリス精教でだれか考えてみる。
すぐに思いついたのが不良神父ステイル=マグヌス
(あいつ年齢的には少年だしな…意外といけるかも)
イギリス精教ではステイルしか思いつかなかったため次にローマ正教を考える。
ローマ正教で男といえば“神の右席”の三人。
テッラ、アックア、フィアンマを思い浮かべる。
(あいつらが五人囃子だったら怖すぎるだろ…)
もっともな意見である。
まあそれ以前に少年ですらないのだが。
「つーか何が楽しくてひな祭りに“神の右席”を思い出さにゃならんのだ…」
「誰か思いついたの?」
「いや…あんまり…てか美琴は誰か思いつかないのかよ。」
「え?えーと…」
一応先ほどから考えていたがあまり思いつかない。
男の知り合いはやはり少ない。
しいて言うならば
「……海原光貴?」
「あいつか…まあなくもないような…って美琴だって1人しか言えないじゃないか!」
「だって男子の知り合いなんてあんまりいないし…それに…」
「それに?」
「男子の知り合いは当麻さえいれば私は満足だし…ね…///」
再び桃色空間に突入。
顔を赤くしモジモジしながら話す美琴。
最後のほうは声が小さくなり聞き取りずらかった。
だがそれがたまらなくかわいい。
上条にとってストライクだった。
「確かに…美琴が俺以外の男と話してるのはいやだな…」
「と、当麻ったら意外と独占欲が強いのね。///」
「そ、そりゃお前は俺の彼女なんだから独占したくもなるさ。///」
「当麻…」
「美琴…」
2人は見つめあう。
そして徐々に近づき、距離はゼロに―――
「上やーん!!ちょっと飯わけてくれないかにゃー!!」
ならなかった。
突如部屋に入ってきたのは隣の部屋の土御門。
インターホンすら鳴らさず突撃してきた。
いい雰囲気を邪魔されたことに対し怒りのドロップキックをくらわす上条。
くらった土御門はそのまま通路へ吹っ飛んでいく。
いきなり何するんだにゃー!とか叫ばれたがそんなことは気にしない。
さらに数発けりをいれ思いっ切りドアを閉め鍵をかける。
なぜ鍵をかけなかったと悔やむがいくら悔やんでも時間は戻らない。
当然のごとく桃色空間は消滅。
むしろ気まずい空間が生まれる。
「……え~と…そ、そうだ!三人官女を誰かにたとえると!?」
あまりの気まずさに上条が強引に話題をふる。
「さ、三人官女ね…やっぱ黒子、初春さん、佐天さんかな。」
「おー、あの3人か。」
なんとか気まずい雰囲気は消え去った。
上条はほっとするがこの話題は致命的な弱点があるということに気がつかない。
「固法先輩もいいと思うけどね。当麻は誰か思い浮ぶ?」
「3人っていうと…姫神、吹寄、雲川先輩あたりか?」
「なるほどね~。」
「天草式だと神裂、五和と対馬?だっけ。この3人とかいいんじゃね?」
五人囃子の時と違いどんどん名前を挙げていく上条。
その勢いはとどまるところを知らない。
「あとは…小萌先生、黄泉川先生、親船先生の先生による三人官女もありか。」
「え?ねえちょっと…」
「風斬も似合いそうだよな~。」
「お~い…」
「日本以外だとアニェーゼ、ルチア、アンジェレネの3人とかもありだろ。」
「……」
「イギリス精教ならオルソラ、シェリー、インデックスがいるな。」
「あの、さ…」
「リメエア、キャーリサ、ヴィリアンの王女の三人官女なんてのは豪華だな。」
「いいかげんに…」
「あ!御坂妹、番外固体、打ち止めの三人官女もいいんじゃ―――」
「せんかコラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
そう叫ぶと同時に大覇星祭の時のような鉄拳を放つ。
今回は横腹にだが。
ちなみに電撃ではないのは電化製品を考慮してのことだ。…たぶん
上条に物理的ダメージを与えたかったわけではない…はずだ。
そしてその場にうずくまる上条。
「アンタね…なんで五人囃子の時と違ってスラスラと名前が出てくんのよ…」
「ちょ…今のは……きついって…」
「5、6人ならともかく多すぎるでしょ!それにまだまだ言えそうだったじゃない!!!」
「ゴホッゴホッ……あ、いや、すいません…」
「なにが先生とか王女による三人官女よ!挙句の果てに妹達までもってくるし!!!!」
「み、美琴…ちょっと落ち着いて…」
「こ・れ・が……落ち着いていられるかぁぁぁぁぁああーーーーーー!!!!!!!」
「だぁーーー!!!電撃は止めて!家電が死んじゃう!!」
「アンタが死んでその女癖を治してこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」
美琴は帯電しながら暴れようとする。
上条はそれを決死の覚悟で止める。
さっきじゃなくて今こいよ土御門、とか思ったがくる気配はない。
もはやどうしようもないのでとりあえず右手で美琴の腕をつかむ。
帯電していた電気は一瞬で消え去り怒りくるっている美琴が残る。
そして上条はその怒りをも消す。
方法は簡単、そのまま抱きしめたのだ。
「ふえ!?ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと当麻!?」
“幻想殺し”もビックリなくらい瞬時に美琴の怒りは消え去る。
抱きしめたまま数分が経過。
美琴はさっきまで怒っていたのが嘘のようにおとなしくなり目はトロンとしている。
「…落ち着いたか?」
「うん……ふにゅ…」
「じゃ、いつまでも立ってるのもなんだし座ろうぜ。」
そう言うと上条は抱きしめている美琴と共にベッドに腰を掛ける。
美琴の顔は緩みきっていた。
上条は抱きしめるのをやめていたが美琴が抱きついている。
この状況が数分続いたあと、完全に落ち着いたためか美琴の表情が悲しげなものに変わる。
「当麻…ごめんね、殴ったり死ねなんて言っちゃったりして…彼女失格だよね…」
不安なのか抱きつく力が強くなる。
「そのうえ暴れようとして…嫌われても当然…うう…ほんとにごめんね…」
美琴は今にも泣き出しそうだった。
それを見た上条は美琴の頭をなでる。
「嫌いになんかなるわけないだろ?俺は美琴にデレデレなんだからさ。」
「…ほんとに?今日も無理やり手伝わせたのに?」
「全然気にしてないって、俺はお前といるだけで楽しいしな。」
「そっか…楽しいんだ……よかった。」
「それと…さっきはごめんな、お前の気持ちを考えてなくて。」
「ううん、いいのよ。あれは当麻には女の人の知り合いが以上に多いからちょっと不安だったから…」
「まあ確かに多いな……でも安心してくれ。」
「?」
「たとえどれだけ多くの女の人と知り合いになろうと俺のお雛様は美琴だけだからさ。」
「!!…えへへ、嬉しいな~。も、もちろん私にとってのお内裏様は当麻だけだからね!」
お互い顔が赤くなっていることがわかる。
恥ずかしいため2人は少しは離れたが今この2人を邪魔するものは何もない。
部屋には西日が射しており壁に2人の影が映し出されている。
その影の距離は近くなり、そして
―――1つになった。
数秒後影は2つに戻った。
美琴はゆっくり上条に寄り添う。
西日が射しているためベッドは赤く染まって見える。
そのベッドの上に座っている2人はお雛様とお内裏様のようだった。