第2章 超電磁砲の恋
5. 「Personal Reality」
上条当麻は確かに聞いた。
今、自分が組み敷いている少女の言葉を。
何かの罠(トラップ)のように、自分のからだに腕を巻きつける少女が、耳元で囁く愛の言葉を。
少女の愛の囁きが、自分の心の障壁を撃ち崩した音を。
それまで、彼の心が纏っていた愚かな衣装を。
その衝撃が、上条の心を赤裸に引ん剥いた。
彼は剥き出しの心の痛みに耐えられなかった。
その痛みが彼を狂わせた。
生まれてから、いや記憶を失ってから知った初めての感情。
その感情はあまりに大きく、あまりに深かった。
彼にとってそれは、押さえつけることも、解き放つこともできないものであった。
その思いが光ならば、その輝きが作る影の暗さ。
その闇の黒さに彼は耐えるすべを知らなかった。
その痛みを抑える術を知らなかった。
ただ一つ、目の前にいる少女に縋るしかなかった。
今、自分が組み敷いている少女の言葉を。
何かの罠(トラップ)のように、自分のからだに腕を巻きつける少女が、耳元で囁く愛の言葉を。
少女の愛の囁きが、自分の心の障壁を撃ち崩した音を。
それまで、彼の心が纏っていた愚かな衣装を。
その衝撃が、上条の心を赤裸に引ん剥いた。
彼は剥き出しの心の痛みに耐えられなかった。
その痛みが彼を狂わせた。
生まれてから、いや記憶を失ってから知った初めての感情。
その感情はあまりに大きく、あまりに深かった。
彼にとってそれは、押さえつけることも、解き放つこともできないものであった。
その思いが光ならば、その輝きが作る影の暗さ。
その闇の黒さに彼は耐えるすべを知らなかった。
その痛みを抑える術を知らなかった。
ただ一つ、目の前にいる少女に縋るしかなかった。
「なあ……俺は……お前を傷つけたくない……」
少女は止めを刺すように、もう一度少年に囁いた。
「ううん、私は傷つかない……
これは私が望むこと……
当麻の心の痛み、私なら癒せると思う……
当麻の好きにして構わないから……
今はあの子の代わりでもいい……
だから……」
これは私が望むこと……
当麻の心の痛み、私なら癒せると思う……
当麻の好きにして構わないから……
今はあの子の代わりでもいい……
だから……」
御坂美琴は神に捧げられた生贄だった。
神の力を得るために、今、流さねばならない血の犠牲。
上条は泣きながら、激しく美琴を求めた。
心の傷を、彼女の愛で埋めるかのように。
美琴は目を瞑ったまま、ただ彼のなすがままに抱かれた。
身体の痛みと流した血が、彼の心の痛みをわずかでも分かち合うことになれば、と思いながら。
やがて全てが終わった時、なぜか美琴は自分がこれまでと違う人間になったように感じていた。
普通、その行為によって、少女は女に変わると言われる。
だが美琴には、それだけではない、新たな自分がそこにいるように感じられた。
神の力を得るために、今、流さねばならない血の犠牲。
上条は泣きながら、激しく美琴を求めた。
心の傷を、彼女の愛で埋めるかのように。
美琴は目を瞑ったまま、ただ彼のなすがままに抱かれた。
身体の痛みと流した血が、彼の心の痛みをわずかでも分かち合うことになれば、と思いながら。
やがて全てが終わった時、なぜか美琴は自分がこれまでと違う人間になったように感じていた。
普通、その行為によって、少女は女に変わると言われる。
だが美琴には、それだけではない、新たな自分がそこにいるように感じられた。
「お前、今自分が何を言ったか分かって……」
「ええ、わかってる……」
「ええ、わかってる……」
そういうと、美琴は上条に軽く口付けをした。
上条はからだを起こすと、信じられないと言わんばかりの顔で彼女の目を見た。
上条はからだを起こすと、信じられないと言わんばかりの顔で彼女の目を見た。
「今度は私だけを見て抱いて……」
「――俺は今……」
「ええ、当麻はさっき、私に癒しを求めた。そうでしょう」
「……」
「何度も言うけど、私は当麻が好き。ずっと前から私の心は当麻のものだった」
「――俺は今……」
「ええ、当麻はさっき、私に癒しを求めた。そうでしょう」
「……」
「何度も言うけど、私は当麻が好き。ずっと前から私の心は当麻のものだった」
――それに……と言いながら、美琴は笑顔で上条の瞳を見返した。
それは上条が今まで見たことの無い、美琴の心からの笑顔だった。
それは上条が今まで見たことの無い、美琴の心からの笑顔だった。
「さっきの、覚えてる?
『俺、御坂のこと、好きになってもいいのか』って言ったこと……。
ね、どうしてそう言ったの?」
「……わからねぇ。」
「人恋しかった?」
「……多分」
「正直でよろしい」
「……」
「だったら今度は、私に恋したつもりで抱いて」
「なぜそうまで……」
「――今だから正直に言うわ。
私はね、『自分だけの現実』を確立した後に当麻に恋をしたの。
でもそのとたん、その感情に飲み込まれちゃって、「PR」が揺らいじゃったんだ。
昔、よく2人でいた時、漏電とか、能力の暴走とかしちゃったでしょ……」
「そういや、家庭教師が始まった頃とか、2人で出かけた時とか……」
「そ、レベル5にもかかわらずね。
恥ずかしながら……。それに、私もあの頃は今よりずっと幼かったし……」
『俺、御坂のこと、好きになってもいいのか』って言ったこと……。
ね、どうしてそう言ったの?」
「……わからねぇ。」
「人恋しかった?」
「……多分」
「正直でよろしい」
「……」
「だったら今度は、私に恋したつもりで抱いて」
「なぜそうまで……」
「――今だから正直に言うわ。
私はね、『自分だけの現実』を確立した後に当麻に恋をしたの。
でもそのとたん、その感情に飲み込まれちゃって、「PR」が揺らいじゃったんだ。
昔、よく2人でいた時、漏電とか、能力の暴走とかしちゃったでしょ……」
「そういや、家庭教師が始まった頃とか、2人で出かけた時とか……」
「そ、レベル5にもかかわらずね。
恥ずかしながら……。それに、私もあの頃は今よりずっと幼かったし……」
そうして美琴はどこか遠くを見るような目をした。
上条にはそんな美琴の顔が無性に切なく思え、彼女を自分の胸に抱き寄せた。
上条にはそんな美琴の顔が無性に切なく思え、彼女を自分の胸に抱き寄せた。
「もう、済んだことだろ……。
それにお前にそんな顔をされたら、俺まで切なくなってしまう」
それにお前にそんな顔をされたら、俺まで切なくなってしまう」
そう言った上条の顔は限りなく優しい。
「当麻のそんな顔、久しぶりに見たわね」
「そうか?」
「ええ、ここ最近全然見なかったわ……」
「ならお前のおかげ……だな」
「ね、今度は笑った顔を見せて……」
「にらめっこでもするか?」
「そうか?」
「ええ、ここ最近全然見なかったわ……」
「ならお前のおかげ……だな」
「ね、今度は笑った顔を見せて……」
「にらめっこでもするか?」
そう言うと、ふざけるように上条の顔が崩れた。
「「――ぷふ……ははは……」」
久しぶりに見た、2人きりでの笑い。
「やっぱり笑ってる当麻の顔が一番ね」
「美琴も笑顔が一番似合うぞ」
「美琴も笑顔が一番似合うぞ」
一頻り笑った後、――ふう……と美琴は一息付いた。
「で、さっきの続き。
それからやっと分かったの。
わたしの中に、上条当麻という存在が欠かせないことに。
私が上条当麻を好きだってことが、自分の「PR」にとって必要不可欠なの。
その事に気が付いた時から、私の「PR」が揺らぐことはなくなったわ」
「そうだったのか……」
「でね、今、当麻に私の初めてを……捧げた時に気が付いたの。
当麻に愛された時、私は『新しい自分だけの現実』が確立できるんだなってこと。
私にとって、本当に大切なものが出来た時。
それを守るために、自ら立ち上がることが出来る時がそうなんだろうってね
私を愛してくれる人と、その周りの世界を守ると自分自身に誓える時。
それが私の新しい『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が完成する時だと感じてる」
それからやっと分かったの。
わたしの中に、上条当麻という存在が欠かせないことに。
私が上条当麻を好きだってことが、自分の「PR」にとって必要不可欠なの。
その事に気が付いた時から、私の「PR」が揺らぐことはなくなったわ」
「そうだったのか……」
「でね、今、当麻に私の初めてを……捧げた時に気が付いたの。
当麻に愛された時、私は『新しい自分だけの現実』が確立できるんだなってこと。
私にとって、本当に大切なものが出来た時。
それを守るために、自ら立ち上がることが出来る時がそうなんだろうってね
私を愛してくれる人と、その周りの世界を守ると自分自身に誓える時。
それが私の新しい『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が完成する時だと感じてる」
上条の心の中で何かが目を覚ました。
「ほんと、自分勝手な話でごめんね。
でも例え仮初めでも、もう一度当麻に愛してもらえれば、私はこの先ずっと幸せでいられるから。
たとえそれが一生の思い出になるとしても……」
「やめないか……」
「え……?あ……、ごめ……」
「違うんだ、美琴……」
でも例え仮初めでも、もう一度当麻に愛してもらえれば、私はこの先ずっと幸せでいられるから。
たとえそれが一生の思い出になるとしても……」
「やめないか……」
「え……?あ……、ごめ……」
「違うんだ、美琴……」
そういうと、上条は美琴の身体を引き寄せ、深く濃厚に口付けた。
やがてゆっくりと唇を離した上条が、ポツリと話しだした。
やがてゆっくりと唇を離した上条が、ポツリと話しだした。
「――俺はやっぱりどうしようもないバカだったらしいな」
意味が分からない、という表情の美琴に、もう一度軽く口付けをした。
「今大事なことを思い出したんだ。
黙ってそのまま聞いて欲しい」
黙ってそのまま聞いて欲しい」
美琴の目を真直ぐに見つめる上条に、彼女は引き込まれていた。
「昔、あるヤツと誓ったんだ。
御坂美琴と、その周りの世界を守るってな」
御坂美琴と、その周りの世界を守るってな」
ドキッと美琴の心臓が鳴った。
数年前、夏休み最後の日に聞いた、忘れようとしても忘れらないあの言葉。
それを今、この時、この瞬間に再び耳にするとは夢にも思わなかった。
数年前、夏休み最後の日に聞いた、忘れようとしても忘れらないあの言葉。
それを今、この時、この瞬間に再び耳にするとは夢にも思わなかった。
「俺はそのことを、インデックスばかりにかまけて、どうやらすっかりおろそかにしてしまっていた。
いや、本当の意味を考えずに、誤魔化していたかもしれない。
俺にとって、御坂美琴は大切な存在なのかどうかってことを。
インデックスが俺から去っていったことと合わせて、それを俺自身、ちゃんと理解していたのかってことをさ」
いや、本当の意味を考えずに、誤魔化していたかもしれない。
俺にとって、御坂美琴は大切な存在なのかどうかってことを。
インデックスが俺から去っていったことと合わせて、それを俺自身、ちゃんと理解していたのかってことをさ」
美琴は上条の目に何かが宿る瞬間を見た。
それはかつて、何度も目にしてきた、愛しい男の顔でもあった。
それはかつて、何度も目にしてきた、愛しい男の顔でもあった。
「正直、今の俺には、まだインデックスを思う気持ちが残っている。
でもな、美琴。
これから俺は、前よりももっと、お前のことを好きになれると思う。
あんな告白されて、こういうことになって、ちょっと順番は違うけれど、でも互いが互いを必要としているのは分かってる。
それにお前にこの痛みを癒してもらったのは確かだし……」
でもな、美琴。
これから俺は、前よりももっと、お前のことを好きになれると思う。
あんな告白されて、こういうことになって、ちょっと順番は違うけれど、でも互いが互いを必要としているのは分かってる。
それにお前にこの痛みを癒してもらったのは確かだし……」
上条は少し迷ったような顔をしたが、やがて意を決したように言葉を続けた。
「なあ、卑怯で、汚いやり方なのは先に謝る。
でも今言っておかないと、俺はやがて自分を許せなくなるかもしれない。
だから、ここであらかじめ言っておくことにした。
美琴、その誓い、俺が本当に守れるようになるまで、保留しても構わないか?
その時が来たら、俺はお前の前で……、お前の目の前でお前自身に誓うからさ。
それまで、俺の横にいてくれないか……」
でも今言っておかないと、俺はやがて自分を許せなくなるかもしれない。
だから、ここであらかじめ言っておくことにした。
美琴、その誓い、俺が本当に守れるようになるまで、保留しても構わないか?
その時が来たら、俺はお前の前で……、お前の目の前でお前自身に誓うからさ。
それまで、俺の横にいてくれないか……」
美琴はその言葉を聞きながら、自分の想いが確かに愛しい人の心に届いていることが分かった。
「私に断る選択肢なんて最初から存在しないわ。
さっきも言ったでしょ。
私は当麻のものだって……」
「なら言い直すよ。
美琴、お前はずっと『此処』にいるんだぞ!」
「はい!」
さっきも言ったでしょ。
私は当麻のものだって……」
「なら言い直すよ。
美琴、お前はずっと『此処』にいるんだぞ!」
「はい!」
2人は抱き合い、軽く口付けを交わした。
「そういや、さっきの『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』なんだけどさ。
俺の「PR」ってなんだろうなと思ってな」
「そうね。当麻は記憶喪失だし、右手の力があるから分からないけれど、でも能力者のそれとは違うような気がする。
「だとしたらなんだろう」
「そうね。もしかしたら当麻の中に、もう出来上がっているものなのかも。
だから当麻はそれがあるから、能力が必要なかったんだと思う」
「……」
「今の当麻にはね、これまでの私と一緒で、まだ色々迷いがあるのだと思う。
だから自分が拠って立つもの、つまりこれまでの『自分だけの現実』をもう一度見直す必要があるんじゃないかな」
「ん、でも俺は無能力者だ」
「ううん、能力とは関係ない。
当麻のそれは、『生き方』とでもいうべきかしら」
「『生き方』……か。」
俺の「PR」ってなんだろうなと思ってな」
「そうね。当麻は記憶喪失だし、右手の力があるから分からないけれど、でも能力者のそれとは違うような気がする。
「だとしたらなんだろう」
「そうね。もしかしたら当麻の中に、もう出来上がっているものなのかも。
だから当麻はそれがあるから、能力が必要なかったんだと思う」
「……」
「今の当麻にはね、これまでの私と一緒で、まだ色々迷いがあるのだと思う。
だから自分が拠って立つもの、つまりこれまでの『自分だけの現実』をもう一度見直す必要があるんじゃないかな」
「ん、でも俺は無能力者だ」
「ううん、能力とは関係ない。
当麻のそれは、『生き方』とでもいうべきかしら」
「『生き方』……か。」
まだ形にはなっていないそれに、上条は一瞬の不安を感じた。
ただ御坂美琴というものが、その中に存在することだけは、今ここで断言できる気がした。
美琴がそんな上条の不安をかき消すようにした。
ただ御坂美琴というものが、その中に存在することだけは、今ここで断言できる気がした。
美琴がそんな上条の不安をかき消すようにした。
「わからなければ、どこでもいい、なんでもいいから、今分かることをやって、また後で考えてみたらいいんじゃない?」
「そうだな……。それが真理なら、何度繰り返したって問題ないしな……」
「そうだな……。それが真理なら、何度繰り返したって問題ないしな……」
――なら、今出来ることは……上条は美琴の耳元で囁いた。
「な、美琴。もう一度、今度はお前だけを見て、優しくするから……」
「待って、1つだけ聞かせて?」
「ん……?」
「当麻は……今の自分、記憶を失った後の『上条当麻』は好き?」
「どうかな。でも、こんな自分でも……嫌い……じゃないな。
いや、むしろ好きだな」
「そう。よかった……」
「どうした?」
「だって、自分のことを好きになれない人って、本気で他人を好きになれるわけないじゃない……
私は昔の当麻も、今の当麻も、どちらもみんな大好きだから」
「待って、1つだけ聞かせて?」
「ん……?」
「当麻は……今の自分、記憶を失った後の『上条当麻』は好き?」
「どうかな。でも、こんな自分でも……嫌い……じゃないな。
いや、むしろ好きだな」
「そう。よかった……」
「どうした?」
「だって、自分のことを好きになれない人って、本気で他人を好きになれるわけないじゃない……
私は昔の当麻も、今の当麻も、どちらもみんな大好きだから」
美琴は上条に思いの丈を込めて、今度は深く濃厚に口付けを交わした。
「こんな彼女が出来たし、一世一代の大失恋もしたし、今の俺に感謝、だな」
「そうよ。こんな素敵なお嬢様に惚れられるんだもんね」
「一度このお嬢様の減らず口を塞いでやろうか」
「今の当麻には無理ね」
「ならせめて啼かせてやるまでさ……」
「そうよ。こんな素敵なお嬢様に惚れられるんだもんね」
「一度このお嬢様の減らず口を塞いでやろうか」
「今の当麻には無理ね」
「ならせめて啼かせてやるまでさ……」
ターンオーバー。
上条は美琴の首筋に歯を立てた。
上条は美琴の首筋に歯を立てた。