第3章 謀略と別離
7. 「Backhand Blow」
7月初旬のある日、学園都市にあるニュースが飛び込んできた。
イギリス清教から学園都市に、友好使節が派遣されるというニュースだった。
その代表者は、学園都市に数年間、滞在した経験があり、科学側への理解も深く、いわば親科学派の長だという。
さらに以前から空位が続いている、イギリス清教最大主教の候補者でもあるらしい。
そのニュースが流れたとたん、上条当麻の様子が変わった。
上条の今の恋人たる御坂美琴は、そんな彼を見ると何も言えなくなり、ただ彼の横で見守るしかなかった。
なぜなら、その使節の名は「Index-Librorum-Prohibitorum」、通称「インデックス」と呼ばれ、上条当麻の初恋の人であったからだ。
美琴は、上条が未だ、インデックスに対して、複雑な思いを持っていることを知っている。
彼女は、インデックスも上条に対し、恋慕の情を持っていたことも知っており、自分と上条が恋仲になっていることに、彼女なりの引け目もあった。
イギリス清教から学園都市に、友好使節が派遣されるというニュースだった。
その代表者は、学園都市に数年間、滞在した経験があり、科学側への理解も深く、いわば親科学派の長だという。
さらに以前から空位が続いている、イギリス清教最大主教の候補者でもあるらしい。
そのニュースが流れたとたん、上条当麻の様子が変わった。
上条の今の恋人たる御坂美琴は、そんな彼を見ると何も言えなくなり、ただ彼の横で見守るしかなかった。
なぜなら、その使節の名は「Index-Librorum-Prohibitorum」、通称「インデックス」と呼ばれ、上条当麻の初恋の人であったからだ。
美琴は、上条が未だ、インデックスに対して、複雑な思いを持っていることを知っている。
彼女は、インデックスも上条に対し、恋慕の情を持っていたことも知っており、自分と上条が恋仲になっていることに、彼女なりの引け目もあった。
ベタな田舎芝居の前口上はこれまで。
恋人達にとって、舞台裏の真実は狂言回し。
上条の元に、ある人物からの呼び出しがあった日が、この『三文オペラ』のリハーサル初日だった。
恋人達にとって、舞台裏の真実は狂言回し。
上条の元に、ある人物からの呼び出しがあった日が、この『三文オペラ』のリハーサル初日だった。
「かみやん、久しぶりだにゃ」
「上条当麻、お久しぶりです」
「ああ土御門。神裂もひさしぶりだな」
「上条当麻、お久しぶりです」
「ああ土御門。神裂もひさしぶりだな」
指定された待ち合わせ場所に出向いた上条当麻を迎えたのは、彼の元クラスメイト、土御門元春と、天草式十字凄教女教皇たる神裂火織。
「で、2人とも今度はなんだ?また何かあったのか?」
彼らが上条の前に姿を見せるときは、何か厄介事を持ってくる時ばかりだ、と上条の不幸センサーが警告を鳴らしている。
「かみやん、今回はイギリスのクソッタレ共の始末だ。単刀直入に言わせてもらう……」
土御門の口調がいつもと異なる時、それは手間のかかる仕事だということを物語る。
「かみやん、日本を出て、イギリスで暮らしてくれないか……」
「なんだとっ!どういうことだ!」
「これはかみやんにしか出来ない仕事だ。インデックスに関することだからな」
「インデックス……、彼女がどうかしたのか?」
「彼女は、イギリス清教にとって、重要人物であることは知ってるよな」
「なんだとっ!どういうことだ!」
「これはかみやんにしか出来ない仕事だ。インデックスに関することだからな」
「インデックス……、彼女がどうかしたのか?」
「彼女は、イギリス清教にとって、重要人物であることは知ってるよな」
上条の顔が険しくなった。
インデックスの能力、経歴は、いずれも今のイギリス清教の看板を背負って立つには充分だ。
さらに上条勢力の魔術側トップとしての人脈もある。
インデックスの能力、経歴は、いずれも今のイギリス清教の看板を背負って立つには充分だ。
さらに上条勢力の魔術側トップとしての人脈もある。
「彼女はここ数年内に、イギリス清教の最大主教に就任する予定だ。
だがな……彼女が親科学派であるために、組織内の反科学派のクソッタレ共が猛反発しているのさ。
彼女が無事に就任したら、魔術と科学の争いはおそらく沈静化する。
クソッタレ共は従うしか生き残るすべは無い。
だが彼女が失脚した時は、魔術と科学は再び戦争だ。
この学園都市に再び魔術師(クソ野郎)が押し寄せてくることになるだろう」
だがな……彼女が親科学派であるために、組織内の反科学派のクソッタレ共が猛反発しているのさ。
彼女が無事に就任したら、魔術と科学の争いはおそらく沈静化する。
クソッタレ共は従うしか生き残るすべは無い。
だが彼女が失脚した時は、魔術と科学は再び戦争だ。
この学園都市に再び魔術師(クソ野郎)が押し寄せてくることになるだろう」
――まずいことに、と言いかけて土御門の顔が曇る。
「――インデックスの失脚は、彼女の実質的な死を意味することにもなる……」
「――ッ!」
「――ッ!」
上条の脳裏に、あの少女の優しい笑顔が蘇えってきた。
「彼女の10万3000冊分の知識は、彼らによって利用され、この学園都市にも悲劇をもたらすことになるだろうからな……」
「ちきしょう!ステイルはどうしているんだ?」
「ヤツにはまだ主役は無理だ。
だからかみやんの出番なんだ。
それにこれは学園都市理事会も内諾済みだ」
「理事会だと?」
「ちきしょう!ステイルはどうしているんだ?」
「ヤツにはまだ主役は無理だ。
だからかみやんの出番なんだ。
それにこれは学園都市理事会も内諾済みだ」
「理事会だと?」
上条は意味が分からないという顔で土御門の顔を見る。
「ああ、学園都市にとっては棚ボタ話だからな。
魔術側の最大勢力が親科学派になれば、世界から学園都市への脅威が減るっつうわけだ。
かみやんはこれからイギリスへ渡り、インデックスの護衛兼サポート役として、彼女の傍にいる。
だが特に何もしなくて良い。
奴らが勝手に動いてくれるだろうしな。
何かあったときだけ動いてくれればいい。
必要なのはてめえのその右手の力と、時間だけだ。
お前さんが手を汚すことは、おそらくないだろうがな」
「それで……いいのか?」
「ああ、かみやんには、数多くの仲間が居る。
それはイギリス清教内にとどまらず、科学界、ローマ正教にロシア成教、魔術師側にも数多い。
その人脈をもって、反対派への圧力となってもらうためにな。
ま、トランプで言えばジョーカーみたいなもんだ」
「ジョーカー……」
「ああそういうことだ。
ま、理事会としては、表立ってかみやんを支援できない。
内政干渉と捉えられるのは、あちらさんに大義名分を与えちまう。
だから、かみやん個人として、単身向こうへ渡ってもらうことになる。
その点、過去にインデックスとの色恋沙汰があったかみやんなら、カモフラージュになる……」
「インデックスはなんて言ってるんだ?」
「あの子には、何も知らせてません」
魔術側の最大勢力が親科学派になれば、世界から学園都市への脅威が減るっつうわけだ。
かみやんはこれからイギリスへ渡り、インデックスの護衛兼サポート役として、彼女の傍にいる。
だが特に何もしなくて良い。
奴らが勝手に動いてくれるだろうしな。
何かあったときだけ動いてくれればいい。
必要なのはてめえのその右手の力と、時間だけだ。
お前さんが手を汚すことは、おそらくないだろうがな」
「それで……いいのか?」
「ああ、かみやんには、数多くの仲間が居る。
それはイギリス清教内にとどまらず、科学界、ローマ正教にロシア成教、魔術師側にも数多い。
その人脈をもって、反対派への圧力となってもらうためにな。
ま、トランプで言えばジョーカーみたいなもんだ」
「ジョーカー……」
「ああそういうことだ。
ま、理事会としては、表立ってかみやんを支援できない。
内政干渉と捉えられるのは、あちらさんに大義名分を与えちまう。
だから、かみやん個人として、単身向こうへ渡ってもらうことになる。
その点、過去にインデックスとの色恋沙汰があったかみやんなら、カモフラージュになる……」
「インデックスはなんて言ってるんだ?」
「あの子には、何も知らせてません」
神裂が横から話し出した。
「彼女は、この件で何も知らないほうが安全でしょうから」
「安全?」
「つまり、何かあったらかみやんが責任とって死ぬってことだにゃ」
「安全?」
「つまり、何かあったらかみやんが責任とって死ぬってことだにゃ」
土御門のサングラスが光る。
「なにーっ!!」
「つまりてめぇはとかげの尻尾ってことだ……。ま、そんときゃ俺様もねーちんも付き合うことになるだろうしにゃ」
「土御門……」
「俺たちは外様の人間だ。だから使い捨てにされても惜しくは無い。
俺らの命で、こんな田舎芝居の幕引きが出来るのなら悪くはないってことだぜい。
ただし、念には念を入れるためにな、かみやんには彼女と別れてもらうぜい」
「まて!それはどういうことだ……」
「『超電磁砲』とは別れてもらう。敵を欺くにはまず味方からってことだにゃ」
「なぜそこまでしないといけないんだ?」
「かみやん。彼女をこちら側に引っ張り込んでも良いってのか?」
「それは……」
「追い詰められた連中は何をするかわからないにゃ。
万が一彼女に矛先が向かったら、どうするんだぜい」
「つまりてめぇはとかげの尻尾ってことだ……。ま、そんときゃ俺様もねーちんも付き合うことになるだろうしにゃ」
「土御門……」
「俺たちは外様の人間だ。だから使い捨てにされても惜しくは無い。
俺らの命で、こんな田舎芝居の幕引きが出来るのなら悪くはないってことだぜい。
ただし、念には念を入れるためにな、かみやんには彼女と別れてもらうぜい」
「まて!それはどういうことだ……」
「『超電磁砲』とは別れてもらう。敵を欺くにはまず味方からってことだにゃ」
「なぜそこまでしないといけないんだ?」
「かみやん。彼女をこちら側に引っ張り込んでも良いってのか?」
「それは……」
「追い詰められた連中は何をするかわからないにゃ。
万が一彼女に矛先が向かったら、どうするんだぜい」
――ああ、今まで考えていた。散々考えてみた。
――俺の生き方は……自分を捨てて、残ったもの全て拾っていくことだ。
――ああ、俺はいつも自分を捨てていくんだったな。
――今、捨ててはならないものは……
――俺の生き方は……自分を捨てて、残ったもの全て拾っていくことだ。
――ああ、俺はいつも自分を捨てていくんだったな。
――今、捨ててはならないものは……
「――俺は……美琴を捨てる気は無い。
俺が捨てていいのは自分だけだ。
土御門、この田舎芝居、ギャラは2人分よこせ。
ジョーカーは科学側に、もう1枚あってもいいと思うんだ」
俺が捨てていいのは自分だけだ。
土御門、この田舎芝居、ギャラは2人分よこせ。
ジョーカーは科学側に、もう1枚あってもいいと思うんだ」
土御門が険しい顔をした。
神裂があっけにとられている。
神裂があっけにとられている。
「てめぇ。本気か?」
「上条当麻、あなたという人は……」
「ああ、本気だとも……」
「ひでぇヤツだ、てめぇは。いつから悪党に鞍替えしたんだよ」
「俺に関わった女が『不幸』になるだけのことだ……」
「上条当麻、あなたという人は……」
「ああ、本気だとも……」
「ひでぇヤツだ、てめぇは。いつから悪党に鞍替えしたんだよ」
「俺に関わった女が『不幸』になるだけのことだ……」
――それに、と言った上条の顔が笑う。
「それでも今のアイツなら、地獄の底まで俺に付いて来るに決まってるからな」
『Backhand Blow』
俺はいつもそうだった。
後手からの一撃。
先制攻撃なんて器用なことは出来ない。
自分の事は何もかも捨てて、最後に残ったこの手で全て拾っていく。
誰1人かけることなく、誰1人残すことなく最後に全て拾ってやる。
ああ、惚れた女みなキッチリ拾ってやるさ。
美琴にそろそろ借りを返さないとな。
俺はいつもそうだった。
後手からの一撃。
先制攻撃なんて器用なことは出来ない。
自分の事は何もかも捨てて、最後に残ったこの手で全て拾っていく。
誰1人かけることなく、誰1人残すことなく最後に全て拾ってやる。
ああ、惚れた女みなキッチリ拾ってやるさ。
美琴にそろそろ借りを返さないとな。
――さらにだ。
この権力闘争にけりが付いたとき、科学は世界を握ることになる。
そうなった時、『絶対能力者計画』や『暗闇の五月計画』のような暴走が、再び起こらないとも限らない。
人間なんて、野心と欲望の塊だ。
ならばどうする上条当麻。
お前の守るべき世界はどこだ?
愛するものとその周りの世界……
この学園都市をも拾ってやる方法。
俺のいつものやり方で。
考えろ。考えるんだ。
どこかに『冴えたやり方』があるはず……
思いつかないのであらば……
そうなった時、『絶対能力者計画』や『暗闇の五月計画』のような暴走が、再び起こらないとも限らない。
人間なんて、野心と欲望の塊だ。
ならばどうする上条当麻。
お前の守るべき世界はどこだ?
愛するものとその周りの世界……
この学園都市をも拾ってやる方法。
俺のいつものやり方で。
考えろ。考えるんだ。
どこかに『冴えたやり方』があるはず……
思いつかないのであらば……
「土御門、相談がある……」
言いかけて、上条は女教皇に向きなおる。
「その前に神裂、1つ頼まれてくれ。
美琴をここへ連れてきてくれないか。
連絡しておくから」
美琴をここへ連れてきてくれないか。
連絡しておくから」
神裂を送り出した後、真剣な顔をして携帯メールを打つ上条。
土御門はこんな上条を見たことが無かった。
土御門はこんな上条を見たことが無かった。
――こいつはいったいどうなっちまったんだ。
「土御門。俺は不幸にして、今まで棚ボタってやつが現実に存在するとは思えない。
そんな都合のいいことが起こるって奴らが思っているなら、俺はその幻想をぶち壊してやろうかと思うんだがどうだ……」
「……」
「どうした?そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔しやがって」
「かみやん……。お前さん、本当にかみやんなのか……」
「――上条さんはやっぱり上条さんなんですよって、上条さんは言ってみる……」
「いっぺんその右手でてめぇの頭、ぶちのめしてみるといいぜ……」
「わかってるさ。自覚はある……」
「――それぐらいにしておこうぜい」
「――俺にだってなんとしても守りたいものがあるんだ。
あっちでインデックスを守り、こっちで美琴を守る。
で、俺の居場所は美琴が守ってくれるはずだ。
だからお前はその脚本を書くのが仕事だ」
「俺1人にマスターピースを書かせるなんてのは無茶だぜい」
「ならばインデックスと美琴、そして彼女らの周りの世界を守るために、俺が出来ることを教えてくれ。
俺はインデックスが自ら覚悟していったその矜持を貶めるつもりは無い。
だからこそ、俺があいつらと一緒に戦うにはどうすればいいか教えてくれ」
「使える駒は多いに越したことは無いが、大丈夫なのかにゃ……」
そんな都合のいいことが起こるって奴らが思っているなら、俺はその幻想をぶち壊してやろうかと思うんだがどうだ……」
「……」
「どうした?そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔しやがって」
「かみやん……。お前さん、本当にかみやんなのか……」
「――上条さんはやっぱり上条さんなんですよって、上条さんは言ってみる……」
「いっぺんその右手でてめぇの頭、ぶちのめしてみるといいぜ……」
「わかってるさ。自覚はある……」
「――それぐらいにしておこうぜい」
「――俺にだってなんとしても守りたいものがあるんだ。
あっちでインデックスを守り、こっちで美琴を守る。
で、俺の居場所は美琴が守ってくれるはずだ。
だからお前はその脚本を書くのが仕事だ」
「俺1人にマスターピースを書かせるなんてのは無茶だぜい」
「ならばインデックスと美琴、そして彼女らの周りの世界を守るために、俺が出来ることを教えてくれ。
俺はインデックスが自ら覚悟していったその矜持を貶めるつもりは無い。
だからこそ、俺があいつらと一緒に戦うにはどうすればいいか教えてくれ」
「使える駒は多いに越したことは無いが、大丈夫なのかにゃ……」
上条はぶっちゃけた。
「俺が惚れた女は、俺と一緒に戦える女なんだ」
「――ったく可愛げのねえ惚気だぜい……
ま、お前さんの要望はわかった。なんとかやってみるにゃ」
ま、お前さんの要望はわかった。なんとかやってみるにゃ」
――当麻から突然メールが来た。
――話があるから、迎えをよこす、と。
――話があるから、迎えをよこす、と。
いつもと違うその雰囲気に、疑問と違和感と、そして不安を抱えながら、美琴はその待ち合せ場所に急いでやってきた。
「御坂美琴、ですね……」
どこから現れたのか、美琴は1人の女性から声をかけられた。
「!……はい、そうですが」
セクシーという言葉も不充分に思えるほど、奇抜なウエスタンスタイルに長い髪、劣等感、敗北感を抱くしかないその胸の塊……。
片手にやたら長い刀を持ち、所作に隙が無い。
片手にやたら長い刀を持ち、所作に隙が無い。
「神裂火織といいます」
「――天草式の方ですね……」
「――天草式の方ですね……」
美琴がそう答えると、その女性は驚いたようだった。
「インデックスさんから色々聞いていましたから……」
「ご存知……なのですか……」
「ご存知……なのですか……」
彼女は意外という顔をした。
――何事も最初が肝心。
――おそらく恋敵であろう彼女には特に……。
――おそらく恋敵であろう彼女には特に……。
「はい。当麻にはこれまで何も言ってませんが、彼女からは色々聞きました。
だからある程度の事情は分かります。
貴女が私を迎えに来たということは、多分魔術側の事件でしょう。
そして当麻が行かねばならない事情が出来た……ということですね」
「――どうやら私達は、貴女を見くびっていたようですね……」
「そう言われるのは光栄です。
でも私は神裂さんほどには強くないですよ」
だからある程度の事情は分かります。
貴女が私を迎えに来たということは、多分魔術側の事件でしょう。
そして当麻が行かねばならない事情が出来た……ということですね」
「――どうやら私達は、貴女を見くびっていたようですね……」
「そう言われるのは光栄です。
でも私は神裂さんほどには強くないですよ」
そう言って美琴は、恋敵に目一杯余裕の笑顔を見せた。
――どうかな?
――まずは出鼻をくじいた、といったところかな。
――多分当麻はこれも予想していたのよね。
――私達の絆を見せてやれってね。
――それに、私だってあの胸には負けたくない……
――まずは出鼻をくじいた、といったところかな。
――多分当麻はこれも予想していたのよね。
――私達の絆を見せてやれってね。
――それに、私だってあの胸には負けたくない……
神裂が美琴の顔から目をそらした。
「なら、行きましょうか……」
――勝った!
――へへーん、負けるもんですかってね。
――こちらだっていつでも覚悟は出来てるわよ!
――へへーん、負けるもんですかってね。
――こちらだっていつでも覚悟は出来てるわよ!
「――危険ですからしっかりつかまってください……」
彼女は美琴を抱きかかえるや、いきなり飛び上がった。
「ひっ!?」
神裂はビルの屋上から屋上へ、跳ねるように渡っていく。
声にならない悲鳴をあげた美琴は、目を見張ったまま彼女にしがみつくしかなかった。
神裂がにやりとしているように思えた。
声にならない悲鳴をあげた美琴は、目を見張ったまま彼女にしがみつくしかなかった。
神裂がにやりとしているように思えた。
――間違いなくさっきの仕返し……ね。
――これはやられたわ……。
――力の差を見せ付けてやるってことね。
――ここは素直に負けを認めるしかないわね……。
――これはやられたわ……。
――力の差を見せ付けてやるってことね。
――ここは素直に負けを認めるしかないわね……。
世界に20人程しかいない聖人相手では、いかに超能力者とはいえ、いささか分が悪い。
美琴と神裂、2人の女の戦いはここまで1勝1敗。
美琴と神裂、2人の女の戦いはここまで1勝1敗。
「だいたい内容はわかったわ……」
美琴が腕を組み、難しそうな顔をしている。
土御門も何か考えている様子だ。
神裂は哨戒のため席を外している。
土御門も何か考えている様子だ。
神裂は哨戒のため席を外している。
「魔術側の方はそう難しくは無いわね。時間が必要なだけで。
せいぜい2、3年といったところかしら。
油断さえしなければどうってことはないわね。
問題はこちら側……。どうやって学園都市の上に入り込むか……。
今回のコレを間接アプローチとして利用するのがいいわね。
イギリスでの実績と対魔術戦争の功績を使って、穏健派理事の旗下に入るのが一番かな。
それと、これまで学園の闇の中にいた人たちとコンタクト取れないかな。
そういった舞台裏の情報なら少しでも欲しいわ。
この際、表だろうが裏だろうが、人死にさえ出なければ、なんだって使うつもりでないとね。
こちらの人脈を利用して、当麻を理事会メンバーに送り込むのが最終目標だわね。
上条勢力の旗揚げ公演の筋書きとしては、こんなところでどうかしら?」
せいぜい2、3年といったところかしら。
油断さえしなければどうってことはないわね。
問題はこちら側……。どうやって学園都市の上に入り込むか……。
今回のコレを間接アプローチとして利用するのがいいわね。
イギリスでの実績と対魔術戦争の功績を使って、穏健派理事の旗下に入るのが一番かな。
それと、これまで学園の闇の中にいた人たちとコンタクト取れないかな。
そういった舞台裏の情報なら少しでも欲しいわ。
この際、表だろうが裏だろうが、人死にさえ出なければ、なんだって使うつもりでないとね。
こちらの人脈を利用して、当麻を理事会メンバーに送り込むのが最終目標だわね。
上条勢力の旗揚げ公演の筋書きとしては、こんなところでどうかしら?」
――学園都市ってのは、高校生にリデル=ハートまで教えてるのか?
元暗部の男はあきれたように言った。
「かみやん……、お前さん、なんつう女狐をひっ捕まえたんだにゃ……」
上条はまんざらでもない顔をしている。
「どうだ、うらやましいだろ」
「けっ……せいぜい背中から刺されんように気をつけるんだぜい」
「美琴の裏拳(Backhand Blow)はちっとばっか響くんだぜ」
「けっ……せいぜい背中から刺されんように気をつけるんだぜい」
「美琴の裏拳(Backhand Blow)はちっとばっか響くんだぜ」
美琴はあきれたように笑いながら、2人の掛け合いを見ていた。
「――バカ……」
――バカな男供は捨て置いて、私は女の戦いに出向こうかな……。
そう呟くと、外へ出て、周囲を見渡す。
そこに感じた不自然と言うか、違和感。
街外れとはいえ、夕方近くの通りにあるはずの人影が無い。
周囲のどこにも、人も、車も、動きはおろか気配すらなくなっている。
電磁波レーダーの出力を上げてみたが、反応が無い。
正確には、反応はあるのだが、誰も近寄ってこないのだ。
そこに感じた不自然と言うか、違和感。
街外れとはいえ、夕方近くの通りにあるはずの人影が無い。
周囲のどこにも、人も、車も、動きはおろか気配すらなくなっている。
電磁波レーダーの出力を上げてみたが、反応が無い。
正確には、反応はあるのだが、誰も近寄ってこないのだ。
――これが人払いの術式……
インデックスに聞いた、初歩的な魔術の1つ。
背筋をぞわりと逆撫でるものがある。
背筋をぞわりと逆撫でるものがある。
――これが初歩的ならば、高度な魔術とは一体……
改めて美琴はこれから待ち受けているだろう戦いに恐怖を感じた。
やがて意を決したように、建物の横の路地でその名を呼んだ。
やがて意を決したように、建物の横の路地でその名を呼んだ。
「神裂さん、いらっしゃる?」
すぐ横に気配が現れる。
「御坂美琴、呼びましたか?」
――さぁ、ヒロインの戦いをはじめましょうか。
「神裂さんにお願いがあるのですが……」
「なんでしょう。私に出来ることなら……」
「私に、魔術師と戦わせて欲しいのです」
「え……?今なんと……」
「なんでしょう。私に出来ることなら……」
「私に、魔術師と戦わせて欲しいのです」
「え……?今なんと……」
神裂の顔が険しくなる。
美琴はあわてて言葉を変えた。
美琴はあわてて言葉を変えた。
「いや、実戦に、ではなくて、どなたか手合わせをお願いできる人を紹介して欲しいのですが。
今回、対魔術師用に、私にも護衛をつけることを考えているでしょう?
その役目の方に、私との戦闘訓練をお願いしたいのですが、よろしいですか?」
「それがお望みなら、我々は一向に構いませんが」
「よかった。その方、こちらからリクエストしたいのですけど……」
「誰を……ご希望ですか」
「ええと、五和さん、ではいけませんか?」
今回、対魔術師用に、私にも護衛をつけることを考えているでしょう?
その役目の方に、私との戦闘訓練をお願いしたいのですが、よろしいですか?」
「それがお望みなら、我々は一向に構いませんが」
「よかった。その方、こちらからリクエストしたいのですけど……」
「誰を……ご希望ですか」
「ええと、五和さん、ではいけませんか?」
神裂の目が細くなった。
「五和……、ですか」
「はい。差し支えなければですが」
「はい。差し支えなければですが」
――御坂美琴、すべて承知か。
――上条当麻の立てたフラグをへし折るためか?それとも……。
――この女、ただのド素人ではないようだ。
――上条当麻がその手をとった女だけのことはある。
――上条当麻の立てたフラグをへし折るためか?それとも……。
――この女、ただのド素人ではないようだ。
――上条当麻がその手をとった女だけのことはある。
「構いません。お望みとあらば」
――五和の泣き顔が目に浮かぶようだな。
「ありがとうございます。
五和さんのこちらでの滞在については、出来る限りの便宜を図ろうと思います。
学園都市の一員として、IDも出せるようにしましょう。
もっとも、動くのは土御門さんですけどね」
「土御門元春には、私もさんざんな目にあっている。
少々苦労しても構わないと思うが」
五和さんのこちらでの滞在については、出来る限りの便宜を図ろうと思います。
学園都市の一員として、IDも出せるようにしましょう。
もっとも、動くのは土御門さんですけどね」
「土御門元春には、私もさんざんな目にあっている。
少々苦労しても構わないと思うが」
――そうですね、と笑っていた美琴が、笑顔を消した。
「もう1つ、これも個人的なお願いではあるのですが……」
その美琴の変化に、神裂に緊張が走った。
「神裂さんにしか、お願いできないことなんです」
「なんですか、御坂美琴……」
「なんですか、御坂美琴……」
「彼を……当麻をお願いします」
「―――ッ!」
神裂は、自分が動揺したことに気が付いた。
「私はイギリスへいけませんし、彼が向こうに言っている間は、一切連絡を取れません。
もし彼に何かあっても、私の手は届きません。
なので、彼を……、当麻を守ってください。
彼の夢と希望を守ってください。
貴女ならそれが果たせると思います。
私の代わりに、当麻をお願いします」
もし彼に何かあっても、私の手は届きません。
なので、彼を……、当麻を守ってください。
彼の夢と希望を守ってください。
貴女ならそれが果たせると思います。
私の代わりに、当麻をお願いします」
じっと目を見つめてくる美琴に、神裂は思った。
もう、何人たりとも、この2人の間に入り込むことは出来ないのだと。
彼女の覚悟の前には、聖人たる自分とて、もしかすると無力なのではないかと感じた。
もう、何人たりとも、この2人の間に入り込むことは出来ないのだと。
彼女の覚悟の前には、聖人たる自分とて、もしかすると無力なのではないかと感じた。
「わかりました。
私の魔法名にかけて、彼を、上条当麻を守ります。
そして、貴女のためにも……」
私の魔法名にかけて、彼を、上条当麻を守ります。
そして、貴女のためにも……」
神裂火織が、御坂美琴の『Backhand Blow』に破れた瞬間だった。