第4章 英国にて
10. 「Index-Librorum-Prohibitorum」
『キャロライン=ザ・インデックス=ハノーヴァー』、それが少女の新たな聖職者名になった。
それまで『禁書目録(Index-Librorum-Prohibitorum)』と呼ばれていた彼女は、現在イギリス清教の最有力者の1人である。
今はここ、ブリタニア教区の最大司祭(Ark=Priest)という重要な地位にある。
彼女は間もなく主教(bishop)に昇任し、やがては空位久しいイギリス清教代表たる最大主教(Ark=bishop)に就任するだろうと言われている。
その脳内に10万3千冊の魔道書を納めた彼女は、その知識でもって魔神にも匹敵する実力を持ち、そこに並び立つ者は、今の清教内にはいない。
それまで『禁書目録(Index-Librorum-Prohibitorum)』と呼ばれていた彼女は、現在イギリス清教の最有力者の1人である。
今はここ、ブリタニア教区の最大司祭(Ark=Priest)という重要な地位にある。
彼女は間もなく主教(bishop)に昇任し、やがては空位久しいイギリス清教代表たる最大主教(Ark=bishop)に就任するだろうと言われている。
その脳内に10万3千冊の魔道書を納めた彼女は、その知識でもって魔神にも匹敵する実力を持ち、そこに並び立つ者は、今の清教内にはいない。
――インデックスはとうまのことが大好きだったんだよ。
――約束したよな?例え地獄の底でも、お前を……
――約束したよな?例え地獄の底でも、お前を……
「とうま……」
銀髪の少女は、自らの呟きに我に返り、あわてて周りを見渡した。
幸いここ、聖ジョージ大聖堂の祭壇前には誰もおらず、それを耳にしたものはいない。
祈りの時間にもかかわらず、不謹慎にもかつての想い人のことを思い出すなど、聖職者としてまだまだだなと思った。
ほっとすると同時に、彼女は自分の未練に思わず自虐の笑みを浮かべていた。
幸いここ、聖ジョージ大聖堂の祭壇前には誰もおらず、それを耳にしたものはいない。
祈りの時間にもかかわらず、不謹慎にもかつての想い人のことを思い出すなど、聖職者としてまだまだだなと思った。
ほっとすると同時に、彼女は自分の未練に思わず自虐の笑みを浮かべていた。
――神はこんな私に試練をお与えくだされたのかも。
――きっと私の願いをお聞き届けくださるために、進むべき道を指し示されたんだよ。
――きっと私の願いをお聞き届けくださるために、進むべき道を指し示されたんだよ。
彼女は祭壇に向かい、十字を切って立ち上がった。
正面の十字架を見つめながら、かつて、暮らしていたあの辛くとも楽しかった日々を思い出していた。
正面の十字架を見つめながら、かつて、暮らしていたあの辛くとも楽しかった日々を思い出していた。
同僚であるはずの魔術師から追われ、間断なき緊張と逃亡を繰り返していた地獄のような日常。
そして出会った少年と、彼によってその地獄の底から救われ、彼の仲間達と送った楽しかった日々。
自分を救うために、犠牲となって、失わせてしまった少年の大切な記憶。
自分を護るために、犠牲となって、戦いつづけて傷だらけの少年の身体。
それにもかかわらず、自分を好きだと、愛していると、ずっと一緒にいて欲しいと願った彼を。
そして出会った少年と、彼によってその地獄の底から救われ、彼の仲間達と送った楽しかった日々。
自分を救うために、犠牲となって、失わせてしまった少年の大切な記憶。
自分を護るために、犠牲となって、戦いつづけて傷だらけの少年の身体。
それにもかかわらず、自分を好きだと、愛していると、ずっと一緒にいて欲しいと願った彼を。
「でもやっぱり、私ととうまは歩む道が違うんだよ……」
――これだけは、とうまがなんと言おうと絶対に譲れない。
――たとえとうまが全てを捨てて、私の元へ来ると言っても、私はとうまを絶対に拒まねばならない。
――たとえとうまが全てを捨てて、私の元へ来ると言っても、私はとうまを絶対に拒まねばならない。
「とうまは、上条当麻だけのものじゃないんだよ……。
インデックスだけのものじゃないんだよ……。
やっぱりとうまは不幸なんだね。
でもそんなとうまが好きだった私も、やっぱり不幸なのかも……」
インデックスだけのものじゃないんだよ……。
やっぱりとうまは不幸なんだね。
でもそんなとうまが好きだった私も、やっぱり不幸なのかも……」
インデックスは、想い人の向こうに、神の子が見えた気がした。
――マグダラのマリアは、私か、みことか……。
――いずれにしても、私達が『罪深い女』であることには変わりは無いのかも。
――いずれにしても、私達が『罪深い女』であることには変わりは無いのかも。
「みことはとうまと、うまくいってるのかな……」
御坂美琴。
彼女はインデックスにとっても、大切な人であった。
仲間であり、友人であり、姉妹のようであり、家族のようでもあり、そしてなによりも恋敵であった。
インデックスが上条当麻宅の居候であった頃、美琴は上条の家庭教師として、よく彼の部屋を訪れていた。
それだけでなく、彼とインデックスのために料理を作ったり、家事の出来ないインデックスの代わりに上条を手伝ったりした。
特に彼女が中学を卒業して高校へ進み、それまでの寮生活での門限など、煩わしい規則から開放されてからは、3人で楽しく夜を明かしたことさえあった。
上条自身は全くといっていい程意識していなかったが、美琴の気持ちが、上条に向いているのを、インデックスにはよく分かっていた。
そしてそれが決して報われないことを、美琴自身が承知していることも。
上条がいない時、彼女達はよく話をした。
過去のこと、科学のこと、魔術のこと、そしてお互いの闇のこと。
科学と魔術と、立場は違えど、お互いが背負いきれぬほどの闇を抱えていることを。
だがインデックスと美琴の間にある、決定的な違い。
インデックスには、その背負うものを支えてくれる仲間がいた。
例えそれがかつて、自分を追っていた同僚たちだとしても。
今のインデックスには、上条が作ってくれた、多くの味方がいた。
だが美琴が背負う、インデックス自身にも馴染み深い『妹達(シスターズ)』には、味方となる仲間が少ない。
美琴の背負う闇を支えることが出来るのは、上条当麻と一方通行の2人しかいないことに、インデックスは気付いていた。
だが一方通行が背負う闇が、美琴のそれと同じである以上、美琴をその闇から光の世界へ導き出せるのは、上条当麻ただ1人であることを。
彼女はインデックスにとっても、大切な人であった。
仲間であり、友人であり、姉妹のようであり、家族のようでもあり、そしてなによりも恋敵であった。
インデックスが上条当麻宅の居候であった頃、美琴は上条の家庭教師として、よく彼の部屋を訪れていた。
それだけでなく、彼とインデックスのために料理を作ったり、家事の出来ないインデックスの代わりに上条を手伝ったりした。
特に彼女が中学を卒業して高校へ進み、それまでの寮生活での門限など、煩わしい規則から開放されてからは、3人で楽しく夜を明かしたことさえあった。
上条自身は全くといっていい程意識していなかったが、美琴の気持ちが、上条に向いているのを、インデックスにはよく分かっていた。
そしてそれが決して報われないことを、美琴自身が承知していることも。
上条がいない時、彼女達はよく話をした。
過去のこと、科学のこと、魔術のこと、そしてお互いの闇のこと。
科学と魔術と、立場は違えど、お互いが背負いきれぬほどの闇を抱えていることを。
だがインデックスと美琴の間にある、決定的な違い。
インデックスには、その背負うものを支えてくれる仲間がいた。
例えそれがかつて、自分を追っていた同僚たちだとしても。
今のインデックスには、上条が作ってくれた、多くの味方がいた。
だが美琴が背負う、インデックス自身にも馴染み深い『妹達(シスターズ)』には、味方となる仲間が少ない。
美琴の背負う闇を支えることが出来るのは、上条当麻と一方通行の2人しかいないことに、インデックスは気付いていた。
だが一方通行が背負う闇が、美琴のそれと同じである以上、美琴をその闇から光の世界へ導き出せるのは、上条当麻ただ1人であることを。
――私がとうまを選んでしまうと、みことを救えるものはいなくなるのかも。
――私にとってみことも大切な人なんだよ。
――とうまがみことを選んでいれば、私もそれほど不幸じゃなくなるのかも。
――私には常に神様が居られるけれど、みことのそばには誰もいないんだよ。
――なのにみことは、とうまを支えようとがんばってるんだよ。
――それに比べて私は……
――私にとってみことも大切な人なんだよ。
――とうまがみことを選んでいれば、私もそれほど不幸じゃなくなるのかも。
――私には常に神様が居られるけれど、みことのそばには誰もいないんだよ。
――なのにみことは、とうまを支えようとがんばってるんだよ。
――それに比べて私は……
美琴が、自分の気持ちを押し殺してまで、ひたすら上条を支えようとしていることに感動すら覚えていた。
聖職者であるはずの自分でさえ、これまで上条の優しさに甘え、その気持ちを利用して、ずるずるとここまで来てしまっているのに。
ずるい。ずるい。
私に出来ないことを平気な顔でやってしまうみことが、私は大嫌いで、そんな私を私は大嫌いで、それでも友達だと、仲間だといってくれるみことが大好きで。
本当にずるい。
なぜみことはそんなに強くなれるの?って聞いたことがある。
「――私は強くなんか無いわよ」って言って、笑うなんてほんとうにずるい。
そんなに笑顔でいられるなんて、私には出来ないのかもって言ったら、みことは言ったよね。
ずるい。ずるい。
私に出来ないことを平気な顔でやってしまうみことが、私は大嫌いで、そんな私を私は大嫌いで、それでも友達だと、仲間だといってくれるみことが大好きで。
本当にずるい。
なぜみことはそんなに強くなれるの?って聞いたことがある。
「――私は強くなんか無いわよ」って言って、笑うなんてほんとうにずるい。
そんなに笑顔でいられるなんて、私には出来ないのかもって言ったら、みことは言ったよね。
「私だっていつも笑ってるわけじゃないわ。
でもアイツの前では笑っていようって決めてるの。
私が泣いてたら、アイツは幸せにならない。
私が笑っていれば、アイツは幸せになれるのよ。
それに私には失うものなんて無いし、アイツさえいれば何も望むものはないの。
アイツの気持ちはアンタに向いてるんだから、アンタはそのままでアイツと居ればいいのよ」
でもアイツの前では笑っていようって決めてるの。
私が泣いてたら、アイツは幸せにならない。
私が笑っていれば、アイツは幸せになれるのよ。
それに私には失うものなんて無いし、アイツさえいれば何も望むものはないの。
アイツの気持ちはアンタに向いてるんだから、アンタはそのままでアイツと居ればいいのよ」
そんな風に言われたら、私はどうしようもない。
私とみことでは、覚悟が違う。
だからやっぱり、そんな自分が嫌いで、そんなみことが嫌いで、でもやっぱりみことのことは大好きで。
私とみことでは、覚悟が違う。
だからやっぱり、そんな自分が嫌いで、そんなみことが嫌いで、でもやっぱりみことのことは大好きで。
――「インデックスは、みことのことが大好きなんだよ」
――「ありがと、インデックス。私もインデックスのことが大好きよ」
――「ありがと、インデックス。私もインデックスのことが大好きよ」
そう言って、みことは私の涙を拭ってくれたっけ。
あの頃、私が泣けるのは、みことと一緒の時だけだったのかも。
とうまの前で泣いちゃうと、とうまは心配そうな顔をするの。
私はとうまにそんな顔をさせたくなくて、やっぱり無理をしてしまってたのかも。
あの頃、私が泣けるのは、みことと一緒の時だけだったのかも。
とうまの前で泣いちゃうと、とうまは心配そうな顔をするの。
私はとうまにそんな顔をさせたくなくて、やっぱり無理をしてしまってたのかも。
「私は、とうまとみことのためにも、負けるわけにはいかないんだよ」
私が選んだ道。
とうまが不幸にならないように。
みことが不幸にならないように。
ひょうかも、あいさも、こもえも、くろこも、まいかも、くーるびゅーてぃーも、あくせられーたーも、らすとおーだーも、みんなみんな不幸にならないように。
大好きな、大好きな、学園都市のみんなが不幸にならないように。
私は魔術の世界で戦うことに決めた。
とうまが戦わなくてもいいように。
とうまが傷つかなくてもいいように。
私の戦場はここだと決めた。
私はイギリス清教の最大主教になる。
魔術の世界を支配して、科学の世界との戦いを起こさない。
私の力じゃ魔術師とは戦えない。
でも私の力なら、魔術の世界を支配することができる。
そのために仲間もいる。
私は科学を知っている。
私は魔術を知っている。
だからこそ、私は魔術と科学の橋渡しが出来る。
これは私にしか出来ないこと。
とうまにもみことにも出来ないこと。
私が受けたような悲劇を繰り返すわけには行かない。
かつて、私の記憶が1年ごとに消されていたような悲劇。
科学を知らない、知識が無いために、行われてきた悲劇。
今もどこかで行われているかもしれない悲劇。
神様はそのようなことは望まれないと分かっている。
とうまが不幸にならないように。
みことが不幸にならないように。
ひょうかも、あいさも、こもえも、くろこも、まいかも、くーるびゅーてぃーも、あくせられーたーも、らすとおーだーも、みんなみんな不幸にならないように。
大好きな、大好きな、学園都市のみんなが不幸にならないように。
私は魔術の世界で戦うことに決めた。
とうまが戦わなくてもいいように。
とうまが傷つかなくてもいいように。
私の戦場はここだと決めた。
私はイギリス清教の最大主教になる。
魔術の世界を支配して、科学の世界との戦いを起こさない。
私の力じゃ魔術師とは戦えない。
でも私の力なら、魔術の世界を支配することができる。
そのために仲間もいる。
私は科学を知っている。
私は魔術を知っている。
だからこそ、私は魔術と科学の橋渡しが出来る。
これは私にしか出来ないこと。
とうまにもみことにも出来ないこと。
私が受けたような悲劇を繰り返すわけには行かない。
かつて、私の記憶が1年ごとに消されていたような悲劇。
科学を知らない、知識が無いために、行われてきた悲劇。
今もどこかで行われているかもしれない悲劇。
神様はそのようなことは望まれないと分かっている。
「神様のためにも、私のためにも、みんなのためにも、インデックスは負けるわけにいかないんだよ」
私がとうまを守る。
私がみことを守る。
私がみんなを守る。
私には守るべきものがある。
とうまが私を守ってくれたように、私もとうまを守ってみせる。
私がみことを守る。
私がみんなを守る。
私には守るべきものがある。
とうまが私を守ってくれたように、私もとうまを守ってみせる。
「私は神様と、とうまと、みんなを愛しているんだよ」
愛することは、戦うことなんだね。
とうまがいつも戦ってたのは、みんなを愛していたからなんだよね。
私はそんなとうまをずっと見てきた。
とうまの傍でずっと一緒に見てきた。
何1つ失うことなく、誰1人欠かすことなく、全てこの手で救って帰るってことを。
とうまがいつも戦ってたのは、みんなを愛していたからなんだよね。
私はそんなとうまをずっと見てきた。
とうまの傍でずっと一緒に見てきた。
何1つ失うことなく、誰1人欠かすことなく、全てこの手で救って帰るってことを。
――それに、私はとうまといっしょで記憶が無いんだよ。
かつて記憶を消されていた頃、かつての私の傍にいた人たちのこと。
私を救おうとして、涙を呑んだ人たち。
その人たちの思いを私は背負っている。
私の記憶の彼方の思いを、願いを、祈りを全て私は背負っていこうと決めている。
だからこそ、私はここで戦うんだ。
私がここで戦わなくて、誰がそれを守るのか。
とうまなら、当然だというに違いない。
みことなら私だって戦うわよって言うに決まってる。
なら私だって戦える。
私にだって戦える。
私を救おうとして、涙を呑んだ人たち。
その人たちの思いを私は背負っている。
私の記憶の彼方の思いを、願いを、祈りを全て私は背負っていこうと決めている。
だからこそ、私はここで戦うんだ。
私がここで戦わなくて、誰がそれを守るのか。
とうまなら、当然だというに違いない。
みことなら私だって戦うわよって言うに決まってる。
なら私だって戦える。
私にだって戦える。
「私は戦う。神に誓って、私は必ず勝つ」
――その時、とうまは褒めてくれるかな。
――よくやったな、インデックスって、ほめてくれるかな。
――その大きな手で、優しく頭を撫ぜてくれるかな。
――みことは、ごはんたくさん食べさせてくれるかな。
――お腹空いてるんでしょって、大盛りごはんをお腹いっぱい。
――泣いてもいいわって、言ってくれるかな。
――家族みたいだねって。
――私が……
――守りたい……
――家族……
――よくやったな、インデックスって、ほめてくれるかな。
――その大きな手で、優しく頭を撫ぜてくれるかな。
――みことは、ごはんたくさん食べさせてくれるかな。
――お腹空いてるんでしょって、大盛りごはんをお腹いっぱい。
――泣いてもいいわって、言ってくれるかな。
――家族みたいだねって。
――私が……
――守りたい……
――家族……
「神よ、私の家族が、幸せでありますように……」
「最大司祭……」
私の背後から呼ぶ声がする。
いつも私の傍に必ずいる赤毛の守護者。
振り返った私は、彼の顔が険しくなっているのに気が付いた。
いつも私の傍に必ずいる赤毛の守護者。
振り返った私は、彼の顔が険しくなっているのに気が付いた。
「どうしたの?ステイル。
そんな難しい顔ばかりしていると、眉間のしわがクセになるんだよ」
そんな難しい顔ばかりしていると、眉間のしわがクセになるんだよ」
いつもの軽口が彼の横を素通りしていく。
彼の口から、その言葉を聞くとは、夢にも思っていなかった。
彼の口から、その言葉を聞くとは、夢にも思っていなかった。
「か、上条当麻がここに来ています……」
「え……!?」
「え……!?」
先日、学園都市へ訪問した時に会場で会った、みことの顔を思い出した。
とうまとはうまくやってる?って聞いたときに見た、みことの動揺した顔。
とうまとはうまくやってる?って聞いたときに見た、みことの動揺した顔。
――背中を、冷たい汗が流れ落ちた……