とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part10

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集


第4章 英国にて


10. 「Index-Librorum-Prohibitorum」


 『キャロライン=ザ・インデックス=ハノーヴァー』、それが少女の新たな聖職者名になった。
 それまで『禁書目録(Index-Librorum-Prohibitorum)』と呼ばれていた彼女は、現在イギリス清教の最有力者の1人である。
 今はここ、ブリタニア教区の最大司祭(Ark=Priest)という重要な地位にある。
 彼女は間もなく主教(bishop)に昇任し、やがては空位久しいイギリス清教代表たる最大主教(Ark=bishop)に就任するだろうと言われている。
 その脳内に10万3千冊の魔道書を納めた彼女は、その知識でもって魔神にも匹敵する実力を持ち、そこに並び立つ者は、今の清教内にはいない。

――インデックスはとうまのことが大好きだったんだよ。
――約束したよな?例え地獄の底でも、お前を……

 「とうま……」

 銀髪の少女は、自らの呟きに我に返り、あわてて周りを見渡した。
 幸いここ、聖ジョージ大聖堂の祭壇前には誰もおらず、それを耳にしたものはいない。
 祈りの時間にもかかわらず、不謹慎にもかつての想い人のことを思い出すなど、聖職者としてまだまだだなと思った。
 ほっとすると同時に、彼女は自分の未練に思わず自虐の笑みを浮かべていた。

――神はこんな私に試練をお与えくだされたのかも。
――きっと私の願いをお聞き届けくださるために、進むべき道を指し示されたんだよ。

 彼女は祭壇に向かい、十字を切って立ち上がった。
 正面の十字架を見つめながら、かつて、暮らしていたあの辛くとも楽しかった日々を思い出していた。

 同僚であるはずの魔術師から追われ、間断なき緊張と逃亡を繰り返していた地獄のような日常。
 そして出会った少年と、彼によってその地獄の底から救われ、彼の仲間達と送った楽しかった日々。
 自分を救うために、犠牲となって、失わせてしまった少年の大切な記憶。
 自分を護るために、犠牲となって、戦いつづけて傷だらけの少年の身体。
 それにもかかわらず、自分を好きだと、愛していると、ずっと一緒にいて欲しいと願った彼を。

 「でもやっぱり、私ととうまは歩む道が違うんだよ……」

――これだけは、とうまがなんと言おうと絶対に譲れない。
――たとえとうまが全てを捨てて、私の元へ来ると言っても、私はとうまを絶対に拒まねばならない。

「とうまは、上条当麻だけのものじゃないんだよ……。
インデックスだけのものじゃないんだよ……。
やっぱりとうまは不幸なんだね。
でもそんなとうまが好きだった私も、やっぱり不幸なのかも……」

 インデックスは、想い人の向こうに、神の子が見えた気がした。

――マグダラのマリアは、私か、みことか……。
――いずれにしても、私達が『罪深い女』であることには変わりは無いのかも。

「みことはとうまと、うまくいってるのかな……」


 御坂美琴。
 彼女はインデックスにとっても、大切な人であった。
 仲間であり、友人であり、姉妹のようであり、家族のようでもあり、そしてなによりも恋敵であった。
 インデックスが上条当麻宅の居候であった頃、美琴は上条の家庭教師として、よく彼の部屋を訪れていた。
 それだけでなく、彼とインデックスのために料理を作ったり、家事の出来ないインデックスの代わりに上条を手伝ったりした。
 特に彼女が中学を卒業して高校へ進み、それまでの寮生活での門限など、煩わしい規則から開放されてからは、3人で楽しく夜を明かしたことさえあった。
 上条自身は全くといっていい程意識していなかったが、美琴の気持ちが、上条に向いているのを、インデックスにはよく分かっていた。
 そしてそれが決して報われないことを、美琴自身が承知していることも。
 上条がいない時、彼女達はよく話をした。
 過去のこと、科学のこと、魔術のこと、そしてお互いの闇のこと。
 科学と魔術と、立場は違えど、お互いが背負いきれぬほどの闇を抱えていることを。
 だがインデックスと美琴の間にある、決定的な違い。
 インデックスには、その背負うものを支えてくれる仲間がいた。
 例えそれがかつて、自分を追っていた同僚たちだとしても。
 今のインデックスには、上条が作ってくれた、多くの味方がいた。
 だが美琴が背負う、インデックス自身にも馴染み深い『妹達(シスターズ)』には、味方となる仲間が少ない。
 美琴の背負う闇を支えることが出来るのは、上条当麻と一方通行の2人しかいないことに、インデックスは気付いていた。
 だが一方通行が背負う闇が、美琴のそれと同じである以上、美琴をその闇から光の世界へ導き出せるのは、上条当麻ただ1人であることを。

――私がとうまを選んでしまうと、みことを救えるものはいなくなるのかも。
――私にとってみことも大切な人なんだよ。
――とうまがみことを選んでいれば、私もそれほど不幸じゃなくなるのかも。
――私には常に神様が居られるけれど、みことのそばには誰もいないんだよ。
――なのにみことは、とうまを支えようとがんばってるんだよ。
――それに比べて私は……

 美琴が、自分の気持ちを押し殺してまで、ひたすら上条を支えようとしていることに感動すら覚えていた。

 聖職者であるはずの自分でさえ、これまで上条の優しさに甘え、その気持ちを利用して、ずるずるとここまで来てしまっているのに。
 ずるい。ずるい。
 私に出来ないことを平気な顔でやってしまうみことが、私は大嫌いで、そんな私を私は大嫌いで、それでも友達だと、仲間だといってくれるみことが大好きで。
 本当にずるい。
 なぜみことはそんなに強くなれるの?って聞いたことがある。
 「――私は強くなんか無いわよ」って言って、笑うなんてほんとうにずるい。
 そんなに笑顔でいられるなんて、私には出来ないのかもって言ったら、みことは言ったよね。

「私だっていつも笑ってるわけじゃないわ。
でもアイツの前では笑っていようって決めてるの。
私が泣いてたら、アイツは幸せにならない。
私が笑っていれば、アイツは幸せになれるのよ。
それに私には失うものなんて無いし、アイツさえいれば何も望むものはないの。
アイツの気持ちはアンタに向いてるんだから、アンタはそのままでアイツと居ればいいのよ」

 そんな風に言われたら、私はどうしようもない。
 私とみことでは、覚悟が違う。
 だからやっぱり、そんな自分が嫌いで、そんなみことが嫌いで、でもやっぱりみことのことは大好きで。

――「インデックスは、みことのことが大好きなんだよ」
――「ありがと、インデックス。私もインデックスのことが大好きよ」

 そう言って、みことは私の涙を拭ってくれたっけ。
 あの頃、私が泣けるのは、みことと一緒の時だけだったのかも。
 とうまの前で泣いちゃうと、とうまは心配そうな顔をするの。
 私はとうまにそんな顔をさせたくなくて、やっぱり無理をしてしまってたのかも。





「私は、とうまとみことのためにも、負けるわけにはいかないんだよ」

 私が選んだ道。
 とうまが不幸にならないように。
 みことが不幸にならないように。
 ひょうかも、あいさも、こもえも、くろこも、まいかも、くーるびゅーてぃーも、あくせられーたーも、らすとおーだーも、みんなみんな不幸にならないように。
 大好きな、大好きな、学園都市のみんなが不幸にならないように。
 私は魔術の世界で戦うことに決めた。
 とうまが戦わなくてもいいように。
 とうまが傷つかなくてもいいように。
 私の戦場はここだと決めた。
 私はイギリス清教の最大主教になる。
 魔術の世界を支配して、科学の世界との戦いを起こさない。
 私の力じゃ魔術師とは戦えない。
 でも私の力なら、魔術の世界を支配することができる。
 そのために仲間もいる。
 私は科学を知っている。
 私は魔術を知っている。
 だからこそ、私は魔術と科学の橋渡しが出来る。
 これは私にしか出来ないこと。
 とうまにもみことにも出来ないこと。
 私が受けたような悲劇を繰り返すわけには行かない。
 かつて、私の記憶が1年ごとに消されていたような悲劇。
 科学を知らない、知識が無いために、行われてきた悲劇。
 今もどこかで行われているかもしれない悲劇。
 神様はそのようなことは望まれないと分かっている。

「神様のためにも、私のためにも、みんなのためにも、インデックスは負けるわけにいかないんだよ」

 私がとうまを守る。
 私がみことを守る。
 私がみんなを守る。
 私には守るべきものがある。
 とうまが私を守ってくれたように、私もとうまを守ってみせる。

「私は神様と、とうまと、みんなを愛しているんだよ」

 愛することは、戦うことなんだね。
 とうまがいつも戦ってたのは、みんなを愛していたからなんだよね。
 私はそんなとうまをずっと見てきた。
 とうまの傍でずっと一緒に見てきた。
 何1つ失うことなく、誰1人欠かすことなく、全てこの手で救って帰るってことを。

――それに、私はとうまといっしょで記憶が無いんだよ。

 かつて記憶を消されていた頃、かつての私の傍にいた人たちのこと。
 私を救おうとして、涙を呑んだ人たち。
 その人たちの思いを私は背負っている。
 私の記憶の彼方の思いを、願いを、祈りを全て私は背負っていこうと決めている。
 だからこそ、私はここで戦うんだ。
 私がここで戦わなくて、誰がそれを守るのか。
 とうまなら、当然だというに違いない。
 みことなら私だって戦うわよって言うに決まってる。
 なら私だって戦える。
 私にだって戦える。

「私は戦う。神に誓って、私は必ず勝つ」

――その時、とうまは褒めてくれるかな。
――よくやったな、インデックスって、ほめてくれるかな。
――その大きな手で、優しく頭を撫ぜてくれるかな。
――みことは、ごはんたくさん食べさせてくれるかな。
――お腹空いてるんでしょって、大盛りごはんをお腹いっぱい。
――泣いてもいいわって、言ってくれるかな。
――家族みたいだねって。
――私が……
――守りたい……
――家族……

「神よ、私の家族が、幸せでありますように……」





「最大司祭……」

 私の背後から呼ぶ声がする。
 いつも私の傍に必ずいる赤毛の守護者。
 振り返った私は、彼の顔が険しくなっているのに気が付いた。

「どうしたの?ステイル。
そんな難しい顔ばかりしていると、眉間のしわがクセになるんだよ」

 いつもの軽口が彼の横を素通りしていく。
 彼の口から、その言葉を聞くとは、夢にも思っていなかった。

「か、上条当麻がここに来ています……」
「え……!?」

 先日、学園都市へ訪問した時に会場で会った、みことの顔を思い出した。
 とうまとはうまくやってる?って聞いたときに見た、みことの動揺した顔。

――背中を、冷たい汗が流れ落ちた……


ウィキ募集バナー