学園都市の惚れ薬 1 前編
「うう~寒っ!」
11月下旬、この日はかなり寒い日だった。
時刻は5時前、もう空は暗くなり始めている。
あまりの寒さに震えながら美琴が早く寮へ戻ろうと急いでいると元気のよい2人組に呼び止められた。
「「み~さ~か~さん!!」」
声をかけてきたのは美琴の友人である初春と佐天。
この日のテンションはなぜかかなり高い。
「な、何2人とも?なんかテンション高くない?というかなんでここに?」
美琴は嫌な予感がした。
この2人がこういうテンションの時はろくなことを聞いてきた覚えがない。
「いや~御坂さんに聞きたいことがありましてね!御坂さん昨日の放課後にツンツン頭の男の人と一緒にいましたよね!」
「もしかして彼氏ですか!?」
「かれっ!?」
彼氏という単語を聞いた瞬間美琴は顔を真っ赤にする。
そんな美琴を2人はにやにやしながら見ている。
「ち、違うわよ!!アイツが彼氏なわけないでしょ!!」
必死で否定するが声が裏返ってしまった。
それを見た2人はさらにニヤニヤしながら美琴を見ている。
昨日の美琴は普段自分たちには見せない表情をしていた。
それにとても楽しそうだったし彼氏ではなくとも好意はある、と2人は思ったのだ。
だからわざわざ美琴に会いに来たんだしあわよくばその人との関係についての話を聞いたりしようとしたわけだ。
「あ、あの、言っとくけどほんとに彼氏じゃないからね!!」
「じゃああの人のこと好きなんですか?」
「そ、そそそそそそそそそそんなわけないじゃい!アイツはサイッテーなやつなんだから!」
美琴の動揺っぷりは怪しいことこの上ない。
が、2人は美琴の言った“サイテー”という単語に反応した。
「最低?そんなひどい人なんですか!?」
「昨日見た限りではそうは思えませんけど……」
美琴は昨日の“いつ”見てたの激しく聞きたかったがとりあえずスルーすることにした。
「本当に最低よ!ひっどい女たらしなんだから!何かと理由をつけて女といるのよ。いつも別の女の子とね。それでいて私のことは無視するし。
他には平気で人に暴力振るったりもするわね。その上学校の成績も良くないし…挙げ出したらきりがないわ。」
次々と上条の悪いところ誇張して挙げていく。
美琴の言う上条の“暴力”とは上条のクラスメイトとの軽いじゃれ合いの喧嘩を誇張しまくったことだ。
それを聞いた2人は完全に美琴の言ったことを完全に信じた。
「うわ~確かに最低ですねその人。そんな人と関わらないほうがいいですよ!」
「それとも何か弱みでもにぎられてつきまとわれてるんですか!?」
「え!?」
美琴としては彼氏だと思われないため、あとは2人にフラグが立たないために上条の悪口を言ったのだが少し言い過ぎた。
自分では最低と言っておきながらも他人に上条が最低と思われるのは嫌だった。
なんかむちゃくちゃだ。
誤解を解くため慌てて弁解しようとするが
「弱みをにぎられてるとかそんなことないわよ!?そ、それにいいとこもあるのよ。その…すっごく優しいし…困った時は助けてくれるし……」
と、今度は上条のいいところを挙げているうちに乙女モードに突入。
指をもじもじさせながら顔を赤くしてうつむいてしまう。
そんな美琴を見た2人は心配になってきた。
(この反応見てはっきりわかったけど御坂さんて絶対あの人のこと好きだよね、……でもなんだか怪しくない?)
(私もそう思います。支部へ行って少し調べてみましょうか!)
今の美琴の話を聞けば上条のことを怪しいと感じるのも無理はない。
「わかりました。じゃあ私たちはこれから少し用事があるので失礼します!」
「え、ああじゃあね2人とも。」
こうして初春と佐天は美琴と別れ風紀委員の支部へと向かった。
◇ ◇ ◇
支部に着いて2人はすぐにパソコンで上条のデータを探し始めた。
最初は名前もわからなかったため名前から調べ、ようやく細かなデータにたどり着こうというところだ。
「え~と……あ!ありましたよ!」
画面には『上条当麻』のデータが映し出されている。
「高校1年生みたいですよ、レベルは……え!?レベル0!?」
「嘘!!あの御坂さんと仲良くしてる人がレベル0って……」
「でも御坂さん“成績が悪い”って言ってましたよね……そうするとスキルアウトなんですかね、暴力奮うとも言ってましたし。」
「でも御坂さんスキルアウトとか大嫌いだよね。てか他に何か情報ないの?」
その後もいろいろ調べてみたが上条について深く知ることはできなかった。
「これは御坂さんにもっと詳しく聞くかこの人本人に話聞かないとわかんないか。」
「う~ん…なぜかわからないですけどこの人の情報って少ないんですよね……まあ今日のところは帰りましょう。」
上条について情報が少ないのは統括理事会が裏で手をまわしているためだ。
数々の事件に関わりプランの中心である上条の情報が表に出過ぎては困るため制限してあるのだ。
外に出ると日は完全に暮れ真っ暗になっていた。
夢中になって調べていたため帰る時刻がかなり遅くなってしまったようだ。
2人は少し急ぎめに帰り始めた、がそれが仇となった。
急いでいるあまり近道をして細い道を通ろうとしたとき佐天が人にぶつかってしまった。
しかも運悪くぶつかったのは柄の悪いスキルアウト。
「おい…いてぇじゃねえか……」
「ん~…おいおいよく見たら可愛いじゃねぇの!」
「俺らと一緒に遊んでくれたら許してやるよ。」
そう言ったスキルアウト達に瞬時に囲まれてしまった。
全員では10人以上おり2人の腕力ではこの囲いから抜け出すことはできない。
(や、やばっ!そうだ初春、風紀委員の腕章は!?)
佐天の言葉に初春ははっと気づき腕を見る……が
(ああー!!さっき支部に置いてきちゃいました!!)
まさに絶対絶命、この状況ではどうやっても逃げ出すことはできない。
しかしこの町にはこういう時に都合よく現れるヒーローがいるのだ。
「お~こんなとこにいたのか!どうも連れがお世話になりました~。」
お決まりのセリフで登場したのはもちろん上条当麻。
上条としてはこのまま2人を連れ出すつもりだったのだがそうはいかなかった。
「おい……テメェ人の出会いを横取り……って上条さん!?」
「え……ほんとだ!上条さん!!上条さんじゃないっすか!」
「チィース!!おいオメーらも挨拶しろや!!」
そしてその場にいた12人のスキルアウトに挨拶される上条。
初春と佐天はその様子をポカンと見ていた。
そして挨拶された上条も困惑した様子だった。
「え~と?……誰でせうか?」
「自分たち半蔵さんのとこのもんです!!」
「上条さんの数々の武勇伝は半蔵さんや浜面さんから聞いてます!!」
それを聞いた上条は何かを思い出した。
「あ~確か前の食事会の時に見かけたような……」
食事会、というのは以前半蔵企画で行われたスキルアウトの飲み会のことである。
上条は“新入生”の一件でフレメアを助けたこともあり声をかけられ(無理矢理)参加した(させられた)のだ。
その際酔った浜面が上条の武勇伝を話しスキルアウト達に尊敬されるようになったというわけだ。
「つーかお前ら何強引なナンパしてんだよ。こういうことは半蔵が禁止してたはずだろ?」
「あ、いや半蔵さんがよっぱらいながら『俺が愛穂さんに出会ったようにお前らにも衝撃的な出会いが待っている』って言ってたもんで……」
「いや衝撃的な出会いってこういうナンパとは違うだろ!!」
このあとも上条たちは何か話していたがそんなこんなでスキルアウトは去っていった。
その一部始終を見ていた2人は
(さ、佐天さん!この人御坂さんと一緒にいた人ですよ!)
(やっぱりスキルアウトのボスだったんだ!ちょっと怖いけど……これはチャンスだよ!)
(止めに入ってきたとこ見るとそこまで悪い人じゃなさそうですし……そうですね、話を聞きましょう!)
上条を思いっきりスキルアウトのボスと勘違いしていた。
半蔵という名前は聞こえていたが目の前のやりとりを見て勘違いしたのだ。
「もうあんなのにからまれるなよ?それじゃ俺はこのへん「「待ってください!!」」で…?」
2人としては少し怖かったが好奇心がまさり上条を呼び止める。
「あの…助けてくれたお礼にお茶でもどうですか?」
「ああ別にいいよそんなの。俺の知り合いだったわけだし……」
「じゃああそこにあるファミレスにでも行きましょうか!」
「え、いや、ちょっと、聞いてる?」
2人は強引に上条を連れてファミレスへと入っていた。
◇ ◇ ◇
ここはファミレスの中、3人は料理を注文して世間話をしていた。
「―――ってことがあってさ~。」
「あはははっ!上条さんって面白いですね!」
話し始めた当初は上条をスキルアウトのボスと勘違いしてるので警戒心むき出しだったが徐々に打ち解けていった。
一応言っておくがフラグは立っていない。
と、ここで注文したものが届いたので一旦話は途切れる。
(今話したかんじじゃ全然悪い人じゃないよね。てかめっちゃいい人じゃん。)
(ですよね~……とても御坂さんの言うようなかんじはありませんね。でもまだわかりませんよ。
こうやっていつも女の人を口説いてるのかもしれませんし。)
初春と佐天は上条を目の前に作戦会議を始めていた。
佐天は上条のことを信用したが初春はまだ疑っている。
(さて!そろそろ御坂さんとの関係について聞く!?馴れ初めとかどう思ってるとかさ!)
(そうですね!それじゃ作戦通り慎重に質問していきましょう。)
初春の作戦は自分達が美琴の知り合いだと明かさずに質問を進める、というものだ。
知り合いだということを隠すのはそうしたほうが美琴との関係を上条が話しやすいと考えたからだ。
初春は深呼吸してから上条へと視線を移す。
「そういえば上条さん……昨日常盤台の女の人と一緒にいませんでした?」
「え!?な、なんでそれ知ってんの?」
上条は明らかに動揺した。
それがどういう意味の動揺かはわからないが何かありそうだ。
「やっぱりあれは上条さんだったんですね!」
「偶然見てましてね、……それであの人とはどういう関け「あれ?上条じゃねーか。」い…」
初春の言葉を遮断し上条に話しかけて来たのは茶髪の不良みたいな男。
側にはジャージ姿の女の子もいる。
「ん?浜面……と滝壺か。お前らとこうして会うなんて珍しいな。」
「確かにな。つーかお前はまた女といるのかよ。」
「「!?」」
浜面の発言に激しく反応する初春と佐天。
(き、聞いた!?また女といるのかって言ったよ!!)
(聞きましたよ!!やっぱり御坂さんの言うことは本当だったんですね!)
勘違いは上条の知らないところで深まるばかり。
これも不幸のせいなのだろうか。
「ほんと、相変わらずだねかみじょう君は。」
「滝壺まで!?誤解招くからマジでそういうこと言うなって!!」
「そうムキになんなって!冗談だよ冗談!それじゃ俺たちはもう行くけど彼女には見られないようにしろよ!」
「「――――――――――!!?」」
浜面の発言に上条の“女たらし”疑惑について考えていたことは吹き飛んだ。
そして浜面と滝壺が去り静かになったところで佐天がおそるおそる口を開く。
「あ、あの~……上条さん、彼女いるんですか?」
「え?ああいるけど?」
この日一番の衝撃。再び2人は作戦タイムに入る。
(ヤバいよ初春!御坂さん失恋したことになっちゃうじゃん!!)
(待ってください佐天さん!まだ付き合いが浅いかもしれませんしもう少し探ってみましょう!)
何やらあわただしい2人を上条は不思議そうに見ていた。
「それで……その彼女さんはどんな人なんですか?」
「え?なんでそんなこと聞くんでせう?」
「「いいから答えてください!!」」
「はい……」
上条は2人の迫力に押し負けた。
どうやら上条は押しに弱いようだ。
「どんな人……ね。何かあるとすぐ噛み付いてくるかな。」
「噛み付いて……ですか?」
「ああ。俺が他の女子とでも話そうものならすぐ嫉妬して噛み付いてくるね。」
まあそこが可愛いんだけど、と上条は付け足す。
「じゃあなんて名前なんですか?学校はどこですか?学年は?」
「あ~……ちょっと名前と学校名は言えない。学年は……年齢的には中学3年だな。」
「年齢的には?」
「あ、いや気にしないでくれ。」
ふむふむ、と初春はメモをとっている。
役割としては佐天が質問、初春がメモといったかんじだ。
「じゃあ普段はどんな格好してますか?」
「服装か?服はわけありでいつも同じ服を着てるんだよ。」
「いつもですか?」
「あ、でもデートの時はたまにだけど私服着てるかな。こないだの服は可愛かった…あ、いやなんでもない。」
「へ、へぇ~………」
上条の発言に焦る2人。
(やば……結構ラブラブじゃん!御坂さんが勝てそうなとこってある?)
(えと……あ!料理とかどうですか、御坂さんは料理かなり上手でしたよ!)
意味があるかはわからないがとりあえず上条の彼女に美琴が勝てそうなことを聞いてみる。
「その人料理はどうなんですか?できますか?」
「料理?そいつ料理は全然できなかったんだよ。料理するたび台所がえらいことになってたな……
だから2人で飯食べる時は俺が作るかどっか食べに行くかだったんだ。」
上条の言葉はすべて過去形。
過去形、ということは今は違うということだ。
「で、今はだな、プロ顔負けの美味しさだぞ!すぐに上達したんだ。あまりに急に美味くなったもんだから上達した理由聞いたら、
その、なんだ、俺に美味い料理食べさせたいからだって……」
そう話す上条はとても嬉しそうだ。
そんな様子を見ているとだんだん御坂さんでは太刀打ちできないのでは、と思えてきてしまう。
「あの、その人は賢いんですか?」
「う~ん……常識はないけど記憶力はいいし賢いぞ。」
「なるほどなるほど……」
そこそこ話し喉が渇いてきたため上条はジュースを口に含む。
「そ、それじゃその人のこと愛してますか!!」
「!?ゴフ、ごほごほ!!」
佐天の急な質問に上条は飲んでいたジュースが気管支に入りむせてしまった。
涙目になりながら呼吸を整え、前を見ると真剣な顔をした2人が上条を見つめていた。
「え、え~と?」
「どうなんですか!!はっきりしてください!」
「答えなきゃダメ?」
「「ダメです!!」」
上条はやはり押しに弱かった。
不幸だ、とつぶやき頭をばりばりと掻いた後恥ずかしそうに話し始める。
「まあ……愛してるよ。俺の一生で愛するのはアイツだけだ。これは断言できる。」
(マジですか……)
2人は心の中でそうつぶやいた。
これでは美琴に勝ち目はない。
「す、すごい決意ですね……」
「そんなにその人のこと愛してるんですか!?」
「ああ愛してる。俺にはもうアイツがいないとダメだ、ってくらいな。その証拠に……」
証拠と聞き初春と佐天はプリクラでも見せてくれるのかと思った。
しかし上条の答えは予想をはるかに上回っていた。
「……実は俺の寮で一緒に暮らしてるんだ。」
「「え――――――」」
その後もいろいろと3人は話した。
そして聞けば聞くほど上条は彼女のことを愛していると言うことばかりがわかった。
そして1時間くらいファミレスに滞在したあと3人は帰ることにした。
上条と別れた2人はため息をつく。
「まさか……同棲までしてるとはね……」
「あんなに愛し合ってるとなると……残念ながら御坂さんの付け入る隙はなさそうですね……」
「……彼女さんに惚れ薬とか飲まされてたりして。」
「!……惚れ薬……」
惚れ薬、佐天が冗談で言ったことを初春は本気になって考え始める。
ここは外の世界より2、30年科学が進んだ学園都市、惚れ薬が開発されていてもおかしくはない。
もし上条の彼女が惚れ薬を手に入れたなら?
そして上条がなんらかの方法でそれを飲まされ今の彼女と付き合っているとしたら?
それが事実なら上条の惚れっぷりにも納得できる。
初春はどんどん深く考えていく。
「え、いや、初春!?冗談だからね冗談!そんなことあるわけないじゃん!」
「いや……ありえないとは言い切れませんよ。そう言えばそんな噂を聞いたような……」
「はぁ……ったくもう……う~い~は~る~!!」
マジモードに入ってしまったためとりあえずスカートをめくって元に戻す。
初春からはなにやら抗議を受けたがスルーしておいた。
「そういや金髪の人の彼女発言ですっかり忘れてたけど上条さんってスキルアウトのボスだよ。本当に悪い人ならこれでよかったんじゃないの?
彼女さんにあれだけ惚れてるとこ見ると女たらしってことはないかもしれないけどさ。」
「……そうかもしれませんね。そう思いましょう!」
何かひっかかるが今日はもう遅い。
また今度調べればいいと思い2人は今度こそ家へと帰っていった。
学園都市の惚れ薬 2 後編
◇ ◇ ◇
初春と佐天が上条と会って数日後の休日、2人は遊ぶために第7学区とは別の学区へ来ていた。
今日常盤台中学は学校で模試があるらしく美琴と黒子はいない。
この数日間2人は上条の彼女や惚れ薬についていろいろと調べていた。
しかし毎回毎回上条は違う女の子と一緒におり誰が彼女か全くわからなかったし惚れ薬についても何の情報も得られなかった。
そして毎回違う女の子といるということで惚れ薬が効いていても上条は女好きだと確信したのだった。
本当は偶然女の子といるところばかり見られていただけでこれも勘違いなのだが……
「さ~て!このところは上条さんのことばかり調べてたから今日は思いっきり遊ぼっか!!」
「じゃあ早速パフェ食べに……あれは……上条さん?」
「ほんとだ、ってまーた女の子と一緒にいるし……」
少し離れたところに仲良さそうに女の子と並んで歩く上条の姿があった。
隣にいるのはこの数日調べたときにも見かけた修道服を着た髪の毛の長い少女、風貌から外国人であることがわかる。
初春と佐天は休日にまで一緒にいるということはもしやあの子が彼女なのか、と思った。
すると上条が2人に気づいたようで声をかけてきた。
「あ!えーと……初春さんと佐天さんだっけ?」
「ど、どうも久しぶりです、この間はありがとうございました。」
2人は少し距離をおいて話す。
「とうま?この女の子達はなんなの?」
「「!?」」
『とうま』、これは上条のファーストネームでありそれを呼ぶということはつまり……
(と、とうまですって!この女の子上条さんのこと下の名前で呼びましたよ!)
(これは……ようやく彼女が誰かわかったね!!)
2人は若干の達成感を覚える。
そして上条は修道服の少女の質問に答える。
「ああ、こないだ知り合ったんだよ。え~と……先週の月曜日だったかな?」
「月曜日……帰ってくるのが遅かった日だね。」
「その後ファミレスに行ってたからな。」
「ファミレス……とうま、私がおなかをすかせていたときにとうまは女の子とご飯を食べていたっていうの?」
修道服を着た少女は歯をガチガチと鳴らせ始めた。
上条の顔が青くなっていく。
「あ、あのインデックスさん!?なんでそんなに機嫌が悪くなってるんでせうか!?」
「ずるいんだよとうまは!!」
そう言ったインデックスに思いっきり噛みつかれた。
(うわ!すごいねこの子……)
(上条さんの言ってた『すぐに噛み付く』ってこういうことだったんですね。)
(じゃあ『いつも同じ服を着てる』ってのは宗教的な意味だったんだ。)
しばらく噛み付いていたが気がすんだのか上条からはなれる。
「そうだとうま、私はもう行くね。」
「ああ……楽しんでこいよ……」
上条はだいぶHPを削られたようでぐったりしている。
そんな上条とは対照的にインデックスは元気よく走り去って行った。
「あ、あれ?あの人どこ行くんですか?」
「なんでも今から友達と遊びに行くらしいんだよ。」
「上条さんはこれからどうするんですか?」
「ああ、俺はここで人を待ってるんだけど……俺も今から遊びに行くからさ。」
「へ~……あ!その人かっこいいですか!?」
「え、いや女なんだけど……」
「「え!?」」
2人は不信に思った、彼女がいるのに女の子と遊ぶ?
それはおかしいのではないかと。
浮気したことになるしその女の子を弄んだことになるのではないかと。
と、そこへ……
「ごめ~ん!待った~?」
そんな王道的な言葉とともに1人の少女が現れた。
今度はどんな女の子かと思い、声のする方向を見たのだが……
「「え……ええええええええええええええ!!?」」
初春と佐天は全力で驚いた。
理由は簡単、現れたのは学校で模試を受けているはずの御坂美琴だったからだ。
「へ?う、初春さんに佐天さん!?」なんでここに!!?」
「それはこっちのセリフですよ!」
「どうしてここにいるんですか!?」
「そ、そりゃ……その……」
美琴は上条をほうをチラッと見ると顔を赤くした。
「まさか……!?」
「上条さん!今日遊ぶ約束をしてる人って……御坂さんのことですか?」
「ああ、そうだけど?」
その言葉に初春と佐天はキレた。
「上条さん……上条さんってやっぱり最低な人だったんですね。」
「御坂さん、こんな人と2度と会っちゃダメです!さあ行きますよ!」
そして佐天が美琴の手を引っ張ってその場から走って離れる。
あまりに急なことに上条は呆然とその場に立ち尽くしていた。
◇ ◇ ◇
ここは先ほどの場所から少し離れた小さな公園。
そこに息を切らした美琴、佐天、初春の姿があった。
美琴は困惑しており初春と佐天の怒りは全く治まっていない。
「ね、ねえ一体どういうことなの!?」
すると息も調ったのか混乱した様子の美琴が尋ねてきた。
「御坂さんこないだ上条さんのこと最低な人って言ってましたよね、」
「あの人は外国人の彼女がいるんですよ!それなのにいつもいろんな女の子と一緒にいて……あげくの果てには御坂さんまで……」
そんな話をしていると上条が大慌てで走ってきた。
「ちょ、ちょっと…なんでいきなり?」
息を切らしてわけがわからないという表情をしている。
そんな上条に2人が突っかかろうとすると……
「ちょっとアンタ!どういうことなの!?」
美琴が上条を怒鳴りつけた。
初春と佐天は少し驚いたが美琴が怒ることは当然だと思った。
「2人から聞いたわよ、彼女がいるって!アンタ私以外にも彼女がいたのね!!」
初春と佐天は停止する。
…………私以外にも?
「はいい!?何言ってるんだ!?誤解だって美琴!!」
…………美琴?
「御坂さん今『私以外にも彼女がいる』……って言いました?」
「え……言ったけど?」
「あの上条さん……御坂さんのこと名前で呼びました?」
「ああ呼んだぞ。ってそうか2人は知らないのか。こないだ言ってた彼女って美琴のことなんだよ。」
「「―――――――!」」
初春と佐天は仲良く絶句する。
そんな2人を前に美琴は上条に対し攻撃体制にはいる。
「それでアンタ、彼女のことは本当なわけ?それになんで2人と知り合いになったの?とりあえず問答無用で超電磁砲1発いっときましょうか。」
若干帯電しており明らかに不機嫌になっている。
手には超電磁砲用のコインを握りしめている。
それを見た上条はため息をついてから美琴の頭に右手をのせる。
「ちょ、ちょっといきなり何すんのよ!」
「そう怒るなって、お前以外に彼女がいるわけないだろ?なでなでしてやるから少し落ち着きなさい。」
そう言って上条は美琴の頭をなで始める。
それを見た2人は
(うわーあの御坂さん相手になでなでって……)
(上条さん真っ黒こげにされますよねこれ……それにあの程度で御坂さんの機嫌が治るわけ……)
そう思ったが……
「……ま、まあその……もっとなでてくれたら……話くらい聞いてあげるわよ……」
治った。
初春と佐天は正直目の前の光景が信じられなかった。
「そ、そういや上条さんが御坂さんの彼氏って……本当なんですか?」
「御坂さんは上条さんのこと彼氏じゃないって言ってましたけど……?」
初春の言葉に上条は驚き美琴を撫でている手が止まる。
さらには少し震えているような……?
「み、美琴……俺たち付き合ってるんじゃなかったのか……?」
「い、いや付き合ってるわよ!」
上条が割とマジで焦っている様子だったので美琴も焦って言い返す。
「じゃあなんであんな嘘ついたんですか?」
「う……そりゃ…恥ずかしかったから……」
「とりあえずここで話すのもなんですからどこか店に入りましょうよ!」
佐天の提案に3人は賛成し近くの喫茶店に移動することにした。
◇ ◇ ◇
喫茶店に移動した4人は上条&美琴、初春&佐天という組み合わせで向かい合って座っている。
ちなみに美琴は先ほど上条になでてもらったためそこそこご機嫌だ。
だが……
(こ、この2人にデレデレしてるとこを見られるわけには……)
という理由でツンデレのツンの割合が強く自分から話そうしない。
さらに初春と佐天も上条を『最低』呼ばわりした気まずさからなかなか話しだせない。
そんな状況で上条も気まずくなってきたので
「あの~……1つ聞きたいんだけどさ、2人は美琴とは知り合いなわけ?」
とりあえず気になっていることを質問してみた。
「あ、はい!!歳は1つ下ですけど……」
「もう知り合って1年以上経ちますね。あー……それでですね……」
初春と佐天は1度顔を見合わせてから
「「上条さん!!すいませんでした!!」」
全力で謝った。
「勝手に勘違いして最低なんて言っちゃって……本当にすいませんでした!!」
「ああ別に気にしなくていいよ、まあちょっと驚いたけど……」
「す、すいませんでした……そ、それで2人は本当に恋人同士……なんですね?」
「ああそうだ。……で、いいなんだよな、美琴?」
「当たり前でしょ……」
先ほどの影響か上条が不安そうに尋ねる上条に対して美琴はため息まじりに答えた。
「私もいろいろ聞きたいことあるんだけどさ……その…コイツとはいつ知り合ったの?」
「え~とですね、初めて御坂さんに上条さんのことを聞いた日ですね。」
そして上条に助けられて知りあったこともすべて説明した。
「なるほど……ね。」
「じゃあ御坂さん達はいつから付き合ってるんですか?」
「8月21日からよ。」
今度は美琴が答える。
それも間髪いれずに。
「よくそんなすぐに答えられましたね、日にちまでも。」
「そりゃね、あの日は……大事な日だから……」
8月21日、この日美琴は上条当麻によってあの悪夢のような実験から救われた。
しかしそれはもう1年以上も前の話。
今はあの実験からも第3次世界大戦からも1年以上経っているのだ。
美琴は中学3年生、上条は出席日数が足りなかったため高校1年生をやり直している。
昨年の11月に上条がロシアから帰ってきてから美琴は上条に積極的にアタックし続けた。
バレンタインは黒子や上条のクラスメイトの介入もあり告白は失敗したが美琴の積極性は功を成した。
そう、上条当麻はすっかり美琴のことを好きになっていたのだ。
とはいっても上条は恋愛ごとには知識は薄くなかなか告白はできない。
美琴は美琴で4月に入ってからは受験生ということで学校での勉強時間が長くなった。
さらに土日も忙しくなっためなかなか上条と会えずとても告白どころではなかった。
まあ今は受験など余裕ということがわかりで今日のように平気でデートをしているのだが。
そんななかなか会えない状況でもお互い空いている日に遊んだりしてゆっくりと距離を縮めていった。
そして運命の日、美琴を夏祭りに誘った上条はそこで告白したのだが偶然にもその日は8月21日だった。
あの悪夢から解放されてちょうど1年、美琴は最高の幸せを手に入れた。
ちなみに8月に付き合っておいてなぜ今までバレなかったのかというと……
8、9月は付き合い始めたばかりで恥ずかしくなかなか恋人らしいことはできなかった。
そしてやっと恋人生活になれてきたと思ったら上条が昨年と同じく事件に巻き込まれ10月のほとんどは海外に飛ばされてしまったのだ。
今回はさほど危険なことでははく、海外へ行く前に上条は美琴にちゃんと話を付けていたため美琴がついていくようなことはなかった。
そして上条が帰ってきた10月の終わり、それからの出来事を初春と佐天に見られたということだ。
「そう……だな。俺にとっても一番大事な日だな。なんたって美琴と付き合えた日だしな。」
「えへ、えへへ……って、そ、そうだ!!さっき言ってか外国人の彼女ってのはなんなの!?」
上条と美琴の間に桃色空間が広がりかけたがデレデレするわけにはいかないので慌てて話題を替えた。
「あ、そうですね、さっきの女の子は誰なんですか?仲良さそうでしたけど……」
「ああアイツはなインデックスっていってな……」
上条はインデックスのことを説明した。
なぜ学園都市に住むことになったのかや以前一緒に住んでいたこと、今は上条の先生の家に住んでいることなどだ。
「へ~そうだったんですか、てっきり上条さんの彼女だと思いましたよ。」
「あれ……?」
ここで佐天があることに気づく。
「でもさっきインデックスさんは上条さんに“帰ってくるのが遅かった”って言ってましたよね?」
「ああ……あの日は俺の寮に泊まってたからな。」
「ええ!?なんでですか!?」
「誤解しないでくれよ、思い出作りなんだ。」
『思い出作り』、というのはもうすぐイギリスに帰らなくてはならないからだ。
上条と美琴が付き合うこととなりイギリスに帰るという話もあったがインデックスは自ら学園都市に残ることを希望した。
そんなわけで今まで学園都市に残っていたインデックスだったがついに来週イギリスに帰ることとなった。
そのため思い出作りとして美琴の許可を得て2日ほど上条の家に泊まっていたのだ。
そしてインデックスは今日も思い出作りのためにこの学区に来ていた。
本当は姫神と結標と来る予定だったのだが寝坊したのでたまたま出会った上条と一緒にいたのだ。
ちなみに結標はすでに小萌先生のアパートとは別のところで暮らしている。
「と、まあそんなことだったんだよ。」
「まあ確かにインデックスとコイツは仲いいし勘違いしてもしょうがないかもね。」
「でも本当にびっくりしましたよ、2人が付き合ってるなんて。」
「そうか?なんでそんなに驚いてるんだ?」
「だって御坂さんあんなに上条さんの悪口言ってましたもん。」
その言葉に上条は再び固まった。
「あ、あれ?ちょっとどうしたのよ!」
美琴が声をかけるも動かない。
そして数秒間固まっていたがやがて上条はゆっくりと口を開く。
「……佐天さん?その……俺の悪口ってのは?」
「え~と……女たらしとか平気で暴力を奮うとか頭がよくないとかですね。」
なんとなく上条の顔色は少し悪い気がする。
「美琴……それほんとか?」
「い、いや確かにそう言ったけど……実際その通りじゃない。」
その言葉に上条は『ズーン』という擬音語が聞こえるくらい落ち込む。
「そうか……そうだったのか……美琴は俺のこと……そんなふうに思ってたんだな……」
「わあああ!!!ごめんウソウソ!嘘だから!!」
上条が想像を絶するくらい落ち込んだので慌てて弁解する。
そしてその悪口が誇張したものだと初春と佐天に説明し上条がスキルアウトだと勘違いされたこと、そして女たらしだということもすべて誤解を解いた。
しかし上条はまだ立ち直れていない。
そんな上条を見て初春と佐天は苦笑いするしかなかった。
「まあ上条さんがいい人ってわかったとこでいろいろと質問をさせていただきます!まずは……上条さん!」
「はい、なんでせうか?」
「この前いろいろと聞きましたけどあれは全部御坂さんのことだったんですね?」
「ああそうだけど?」
上条はまだ落ち込んでいるがちゃんと質問に答える。
「へぇ~御坂さんってすぐ嫉妬するんですね!!」
「!?ええと…それはどういうこと?」
「だって上条さんは“俺が他の女子と話すとすぐ嫉妬する”って言ってましたよ。」
「ちょ、アンタ何言ってるのよ!!」
「だって事実じゃねぇか!ちょっとしたことに噛み付いてくるし!」
「う……うるさーい!!アンタが悪ーい!!!!」
「うおお!!店内で電気を出すなー!!それになんで俺が悪いんだ!?」
「でも上条さんは嫉妬することも可愛いって言ってましたよ。あと私服姿も可愛いって。」
その言葉反応し美琴はぴたりと静止する。
「……それ…本当?」
「本当ですよ!」
「ああ本当だ。こないだの私服姿も最高だったぞ。」
「あ、アンタそういうことは……2人きりの時に……言いなさいよ……」
怒って顔が赤くなっていたのが嬉しくて赤くなる。
顔はというと少しにやけてしまっている。
「それからなんで学校名教えてくれなかったんですか?」
「ああ、前に常盤台の彼女だって言ったらいろいろと騒がれたり調べられたりして美琴に迷惑がかかったから言わないようにしてるんだ。」
「御坂さんのこと考えて言わなかったんですか!御坂さん愛されてますね~!」
美琴の顔は先ほどからどんどん赤くなっていく。
「じゃあ『年齢的には』ってのはどういう意味だったんですか?」
「ああ、美琴は中学3年生なのに高校の問題まで簡単に解くくらい頭がいいから『年齢的には』って言ったんだ。」
こうやってややこし言い方をしたため勘違いを招いたのだが……
「あ!料理のことは?御坂さん料理上手じゃないですか!」
「え?料理は……美琴には悪いが最初はひどかったぞ。」
「う……」
実際には美琴は料理は上手い、しかし付き合い始めて最初は失敗の連続だった。
なぜなら料理中上条に見とれていたり幸せな妄想をしまくっていたためとてもじゃないが集中できなかった。
だがこのままではいつまで経っても上条に美味しい手料理を食べてもらうことはできないため、必死にその弱点を克服したのだ。
ちなみに見とれていて失敗したということは恥ずかしすぎて誰にも言っていない。
「あの時は……ちょっと不調だったのよ……」
「あれ?上条さんのために頑張ったんじゃないんですか?そうやって聞きましたけど?」
「あー言ってましたね。つまり上条さんのために不調脱出を頑張ったってことなんですか?」
3人の視線が美琴に集まる。
確信を突かれテンパった美琴はさらに真っ赤になりながら
「~~~~~っ!!!!べ、別にアンタのために頑張ったんじゃないんだからね!!」
まさにツンデレである。
そしてファミレスでの上条の『常識はないけど記憶力はあるし賢い』という言葉は
“すぐに電撃を使ってくるから”常識がない
“常盤台の生徒だから”記憶力はあるし賢い
ということである。
初春と佐天はこれも言おうかと思ったが『常識がない』という言葉に美琴がキレそうだったので止めておいた。
「で、1番気になっていたことを聞きますけど御坂さんって上条さんと住んでるんですか?」
「へ…………えええええええええ!?住んでないわよ!?2人とも私が常盤台の寮に住んでること知ってるでしょ!?」
「ですよねぇ……上条さん?こないだ言ってたことと違うんですけど?」
「え、いや、だって……」
そこで言葉を切り隣の美琴を見る。
「な、何よ。」
「毎週平均で5日も泊まってれば一緒に住んでるのと同じだろ。」
「……それは確かにそうですね……」
「……別に泊まるくらいいいじゃない…ダメなの?」
「是非とも泊まってください。」
かわいらしく尋ねてくる美琴に上条はそう答えるできなかった。
「あれ?じゃあなんで今日は別々に来たんですか?一緒に来ればよかったんじゃ?」
「え、ああ……昨日は美琴が泊まってなかったから……」
というのは立て前で本当は付き合っていることがバレないようにするためだ。
さらに言うと待ち合わせという恋人同士の雰囲気を味わいたいのだ。
それに実際には昨日美琴は上条の寮に泊まっていたのだが雰囲気を味わいたいなど恥ずかしくて言えなくて上条は嘘をついた。
そして黒子とはすでに話をつけており、今では美琴が上条の寮に泊まるときは手助けをしてくれる。
その話をつける時に死闘になったのは言うまでもない。
「でもいいな~御坂さん、こんなに愛してもらえてさ~。」
「ですよね!それにこないだ上条さんが言ってた……」
「ちょ、待った!!」
上条は慌てて2人の言うことを止めようとしたがすでに時遅し。
「『俺が一生で愛するのはアイツだけだ』でしたっけ?」
「あ~言ってた言ってた!」
バッチリ言ってしまった。
「あ、アンタそれって……」
「み、美琴、そのだな、あれだ!あれだよあれ!」
上条が焦りながらわけのわからないことを言っていると
「ちょっとトイレ!!」
美琴は急に立ち上がるとトイレに走って行った。
そんな美琴を見て上条はさらに焦りだす。
「やべ……怒らせたか……?」
怒らせたと思いやたらそわそわしている。
そんな上条を見た初春と佐天はため息をついた。
そりゃこれだけ鈍感ならため息もつきたくなるものだ。
「あの~……上条さん?御坂さん怒ってないと思いますよ?怒るわけないですし……」
「うん、あたしもそう思います。ていうか逆に喜んでるでしょ。」
「ほんとか!?今日はなんかいつもと違うし焦ったよ……」
上条の言った『いつもと違う』という言葉。
初春と佐天がこれに反応しないわけがない。
「上条さん……」
「ちょっと詳しく聞かせてもらいましょうか。」
◇ ◇ ◇
そして美琴はというと……
「一生で愛するのは私だけ……それってあれよね、もうけ、け、け、結婚も視野にいれてるってことよね……」
ちょっとぶっ飛んだことを考えていた。
ここのファミレスのトイレは1人用なので誰も入ってくる心配はない。
鏡に映る自分は顔を真っ赤にして思いっきりにやけきっていた。レベル5の面影はどこにもない。
「ちょ、これはヤバいわね……でも…嬉しすぎてどうしようもない……」
それから数分間はその状態が続いていたがなんとか落ち着きを取り戻し、鏡でおかしなところがないかチェックする。
間違っても後輩2人にあんなふにゃふにゃな様子を見られるわけにはいかない。
そして席に戻ろうドアを開けると……何やら上条達の席が盛り上がっている。
仲良く話している3人を見て美琴は少しイラっとする。完全に普段の美琴に戻った。
「おお、おかえり……なんか怒ってない?」
「怒ってないわよ?それで何騒いでたの?」
口ではそう言っているが明らか不機嫌だ。
「いや~上条さんから御坂さんのこといろいろ聞いてたんですよ!」
「へ?」
「御坂さんって上条さんと2人きりの時は上条さんにデレデレなんですね!」
2人はにやにやしながら美琴を見ている。
美琴はしまったー!心の中で叫んだ。
どうやら上条がデレデレしている美琴について話してしまったようだ。
「そ、そんなことないわよ!?私は常盤台のエースなんだからデレデレしてるなんてありえないでしょ!!」
「嘘はいいですよ御坂さん!いつもは当麻、当麻って言って上条さんから離れないんでしょ?」
「それに上条さんが1日1回キスしてくれないと機嫌が悪くなるなんて相当ですね!」
「な、なななななんでそれを……じゃなくてそんなことはありえない……から」
最早完全にバレているのだが美琴は必死に否定する。
「じゃあこれはどういうことなんですか?」
そういって初春が美琴に見せたものは……
「え、えええええええ!?な、なんでそれを……!?」
上条と2人で撮ったプリクラだった。
そのプリクラでは上条と美琴はべったりくっついている。
「上条さんに見せてもらったに決まってるじゃないですか!ほらこれなんてキスしてますよね!」
「うあ……」
決定的証拠を見せられた美琴はもうどうしようもない。
顔を真っ赤にしてあうあうしている。
そのプリクラの通り上条と2人きりのときの美琴はデッレデレなのだ。
「でも今日はこのプリクラみたいな様子はありませんね。」
「そうなんだよな……なあ美琴、なんで今日はそんなにツンツンしてるんだ?さっきから名前で呼んでくれないし。」
「そ、それは……別にいいでしょ!!」
急に声を荒げる美琴に3人は驚く。
「何!?私がツンツンしてたらダメなの!?」
「ええ!?そんなことは……」
「そうわかったわ!アンタはデレデレしてる私しか好きじゃないのね!!」
恥ずかしさのあまり美琴は上条に対して怒ってしまい“ふんっ!”とそっぽを向いた。
(ああ~ちょっとプリクラまで見るのはやりすぎでしたかね……)
(御坂さん完全に怒っちゃったね……私たちにも原因あるし謝ろっか。)
そしてそっぽを向いている美琴に2人が謝ろうとすると
「好きだぞ。」
上条のストレートな発言に美琴はビクッと反応する。
「俺はどんな美琴でも大好きだ。」
「あえ!?えと、えと……う、嘘…よ…」
「うそじゃねぇ、ツンツンしてる美琴もデレデレしてる美琴も大好きだ。」
『大好きだ』と、言われただけでも美琴はツンツンモード崩壊寸前なのに
「あ、愛してるぞ、美琴。」
などと言われたのだから最早どうしようもない。
言った上条は上条で顔を真っ赤にしている。
「愛してる……えへ、えへ、えへへ……私もだよ…当麻……」
美琴、陥落!完全デレモードに突入。
つい先ほどと一転して満面の笑みを上条に見せる。
普段上条からあまり“好き”や“愛してる”などと言われていない美琴にとってこれには耐えることができなかった。
そしてなぜ今回上条が“好き”や“愛してる”を言葉にしたのかというと……
美琴に嘘ではあるが悪口や彼氏ではない、と言われさらに今日の美琴のいつもと違う態度から“このままでは美琴と別れることになるのでは!?”などと不安になったからだ。
今では美琴命となった上条にとって美琴と別れるということは死刑に等しい。
当然美琴に上条と別れるなどという考えはないのだが。
そして上条はというと満面の笑みを見せる美琴に完全に心を奪われ見惚れていた。
もはや上条の目には美琴しか映っていない。
そんな上条に美琴は気づき
「あれ?どうしたの当麻?もしかして私に見とれてたとか?」
「なな!?いや決してそんなことは……」
美琴としては冗談で言ったのだが図星だったため上条は動揺を隠せない。
「見とれてたの!?……えへへ~嬉しい!」
そう言うと美琴は上条の胴に抱きついた。もう初春と佐天がいることなど関係なしだ。
上条は驚いた様子だったがすぐに美琴の髪を優しくなで始めた。
2人ともものすごく幸せそうだがはたから見ればすごいバカップルである。
「うわ~……御坂さんデレデレ……あの御坂さんがこうなるとは……」
「てか御坂さんの笑顔って上条さんにすごい効果があるんだね……」
こうしてこの後初春と佐天は上条と美琴と別れた。
別れるとき、上条にべったりくっついて幸せそうな美琴がとても印象に残った。
そんなわけで初春と佐天の調査は終わりを迎えた。
今回わかったことは上条と美琴は想像以上に愛し合っていること、
それから上条の言葉は美琴に対して、美琴の笑顔は上条に対して惚れ薬的な効果があるということだった。
そして思ったことは
(御坂さんがすっごい羨ましいです……)
(あたし本気で彼氏ほしくなったかも……)