とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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切れた糸を繋いで 3 番外編



待ち望んでいた彼女との初デートの日だというのに、上条当麻の表情は冴えなかった。
彼は今、デートの待ち合わせ場所に向かっている。
待ち合わせの時間は14時であり、現在は10時、明らかに早すぎるのだがこれにはわけがあった。

一つは、彼が自分が「不幸」だということをよく知っていること。
急いでいるときに限って、不良に襲われている女の子を発見してしまったり、
野良犬の尻尾を踏んでしまって追いかけられたりする。
そのため数時間の余裕を持って出発しても全く安心できない。

「はあ……予想していたこととはいえ、今日ばっかりはさすがにこたえるな……」

そしていつも通りの不幸な出来事をにより、すでに1時間も無駄に費やしている。
これ以上何も起きませんように。そう願っている彼の目の前で、女の子が不良に絡まれていた。

その後、もろもろの出来事によりたっぷりと1時間かけ、上条は待ち合わせ場所にたどり着いた。
そして、時間を確認して、待ち合わせに遅れなかったことに安堵する。

「なんだよ、まだ3時間もあるじゃねーか」

さすがに早すぎたかと思い、どこか別に場所で時間をつぶそうかと一瞬考える。
しかし、そのまま日ごろの経験から予測すると、そのまま帰ってこれなくなる可能性が高い。
やはりこの場所で待っているのが最善だろう。

「まあ、たまにはじっと待つってのも悪くないか……」

あと3時間で、彼女と会うことができる。そう思うだけで上条の心は不思議なほどに晴れやかになっていった。

「早く御坂こねーかなー」

ベンチに腰掛けながら、上条はこれからのことを想像していた。
出発時間が早すぎた最大の理由。彼は、デートが楽しみのあまり、いてもたってもいられなくなっていたのだ。

常盤台中学の制服をきた少女が上機嫌で歩いている。
彼女、御坂美琴は念願叶って上条当麻の恋人になることができた。
そして今日は待ちに待った(正式な、という意味での)初デートの日である。
彼女は期待を膨らませつつ、待ち合わせ場所の公園へと歩いていた。

公園にたどり着いたのは、待ち合わせより1時間も早かったのだが、上条は既に来ていた。

(え、アイツもう来てるんだ……)

遅刻をされた罰ゲームのときとの違いに、美琴は軽く感動すら覚えた。
思わず彼に駆け寄ろうとしたところで、ふと考え込む。

(あれ、どうやって話しかけたらいいかわからなくなってきた……
 やっぱり、こ、恋人なんだし、あの時みたいに「待ったー?」ってやるのがいいのかな……)

足を止めて考えこんでいると、上条が美琴を見つけて声をかけてくる。

「お、おう御坂……もう来たのか」

上条の様子はどことなくぎこちない。
しかし、美琴の方はそれ以上だった。完全に体が固まってしまっている。

「う、うん……」

(な、なんなのよこれ。アイツの声聞いただけでなんでこんなに緊張してるのよ私。
 コイツが彼氏になったからっていっても、いままで通りにすればいいだけなのに……
 ああ、彼氏かあ……コイツが、彼氏……)

「ふにゃー」
「いきなりかあぁぁぁ!」

上条は悲鳴を上げるとともに、盛大に電気を漏らし始めた彼女の元に突撃した。

漏電により意識を失っていた美琴が目を覚ましたとき、視界いっぱいに上条の顔が広がっていた。
心配そうに美琴を見つめる上条と視線がぶつかる。

「わわっ」
「お、落ち着け」

上条の静止によって少しだけ落ち着いた美琴は、冷静に状況を把握しようとする。
どうやら自分はどこかで横になっているようだ。周囲には公園の景色が見えるので、
おそらく公園のベンチに寝かされたのだろう。そして頭の下に枕の様なものがあり、すぐ近くに上条がいる。
これらのことが指し示す事態は……

(膝枕されてる……)

美琴の顔が一瞬にして真っ赤に染まる。

「御坂、大丈夫か?」

上条が心配そうに聞いてくる。

「う、うん。大丈夫……ちょっと、緊張しちゃったみたい……」
「はは、緊張してるのは俺も同じだよ。何せ人生初のこ、恋人とのデートだからな」
「あ……」

そう、今日はデートの日だった。名残惜しいが、いつまでも膝枕をされているわけにもいかない。
美琴はそう思って体を起こした。

「あ、あはは。いきなりごめんね」
「き、気にすんなって。こんなのも2回目だし、慣れてきたから」
「う……こんなのに慣れられるってのも悲しいわね……」

「「……」」

会話が途切れてしまった。美琴が上条の表情を見ると、目をそらして頬をかいていた。
どうやらコイツも少しは緊張しているらしい。
無言の空間に堪えられずに、何か話題になるものがないかと探す。

「そ、そういえば、アンタ、ここにくるの早かったじゃない、いつごろからいたの?」
「あんまり覚えてねえけど、2時間くらい前かな」

上条の答えは予想を超えたものだった

「に、2時間!? いくらなんでも早すぎるわよ!」
「早めに出とかないと、だいたい道の途中で何か妨害が入るからなぁ……」

遠い目をする上条。その様子がおかしくて、美琴は吹き出してしまう。

「わ、笑うなよ。俺だって遅刻しないように必死だったんだぜ」
「ぷくく……ごめん。なんかアンタらしいなって思っちゃって」
「否定できないのが辛い……」

笑うと同時に、体が軽くなるのを美琴は感じていた。
結局、恋人同士になったといってもコイツは変わっていない。
当たり前のことだけれども、それを実感することで安心できた。

「ところで、いきなりで悪いんだが……軽く昼飯でいいか?
 ずっとここにいたから腹減っちまった」

美琴は一瞬キョトンとして。

「あはは、そりゃそうよね。ずっとここにいたら昼ご飯どころじゃないもんね。
 じゃあ行きましょ。おいしいお店を紹介してあげる」

満面の笑顔を作り、上条の手を取って歩き出した。

昼食の後、二人はショッピングセンターに来ていた。
この場所は前に携帯電話のペア契約を結んだ場所でもあり、美琴はその当時のことを思い出していた。

「そういえば、前にアンタここで妹にネックレスを買ってたわよね」

そう言って、美琴は少し不機嫌そうな顔をした。

「あー、そういやそんなこともあったなあ」
「私の罰ゲームの最中だったのに」
「あー……悪ぃな。今にして思えば無神経だった」
「本当に悪いと思ってる?」
「ああ」
「じゃ、じゃあさ……」

美琴は少しためらった後

「お詫びってことで、私にも何か買って欲しいかなぁ……なんて、ダメ?」

不安げな表情を浮かべて、少し上目遣いになりながら上条を見つめる。

(ぐはっ、その表情は反則だろ……)

美琴のおねだりに一発で撃沈する上条。

「あ、ああ。俺に買えるものだったら、いいぞ」
「ホント?」
「ああ」
「ありがと。えへへ」

美琴は満面の笑みを浮かべる。
上条は美琴を見ながら、この顔が見られるなら今月はもう米と塩だけでいいや……、などと恐ろしいことを考えていた。

「それで、何が欲しいんだ?」
「うーん、と、当麻が選んでくれたものなら、何だっていいかな」
「そんなこと言ってると、かなり安めのものになっちまうぞ?」
「値段の問題じゃないのよ、当麻が選んでくれたものがいいの」

そう言われて、上条は考え込んだ。
安いものでなおかつ美琴を喜ばせることができれば、今月の食費は無事に済むかもしれない。
しかしあまりにも安すぎても彼氏として格好がつかない。上手い具合にいいラインを探る必要がある。

少しばかり計算をした結果、まずプレゼントの予算が決まった。二千円までなら今月をしのげる。
これで何を買おうかと、周囲を物色すると、アクセサリー売り場が目に留まった。

(そういえば、御坂妹はあのとき指輪を欲しがってたような……
 姉妹なんだし好みも似てるって可能性もあるよな、シンプルなやつなら値段的にも問題ないな、よし)

「御坂、あのへんの指輪とかどうだ?」
「ゆ、指輪!?」
「……あれ、嫌だったか?」
「嫌じゃない!」

思いっきり叫んでしまったことに気付いて赤くなる美琴。
上条は美琴の勢いに一瞬驚いていたが、すぐに気を取り直し、指輪を選び始めた。

「綺麗な装飾とかがあるやつはちょっと値段的に厳しいから……
 こんなのとかどうかな。御坂、ちょっとサイズ測りたいから指貸してくれ」

美琴は嬉しさと恥ずかしさのあまり、何も言うことができず、おずおずと左手を上条に差し出した。
すると、上条は手に取った指輪を美琴の薬指にはめた。

(く、薬指にって! これってつまり……)

うろたえる美琴をよそに、サイズがあっていることに満足する上条。

「お、ピッタリだな。御坂、これでいいか?」

美琴は顔を真っ赤にしながら、黙って小さく頷くことしかできなかった。

「ね、ねえ」

店を出た後、美琴は上条に尋ねた。

「どうして指輪を選んだの?」
「ああ、それは……」

前に御坂妹が欲しそうにしてたから。という言葉を上条は途中で飲み込んだ。
言ってしまえばおそらくはいい結果にはならない気がしたからだった。

「それは……なんとなく、御坂が喜んでくれるんじゃないかと思ったからかな」

嘘は言っていないと自分に言い聞かせる上条だが、後ろめたいものがあったのか、視線を美琴からそらしていた。
しかし、美琴は上条のそんな様子には気付かず、左手の薬指にはめている指輪を愛おしそうに眺めていた。

「うん、すっごい嬉しい……ずっと、ずっと大切にするからね」
「そんなに喜んでもらえたなら、上条さんも食費を切り詰めた甲斐がありましたよ」

なんとなく気恥ずかしくなって、軽口を叩く上条。

「へー、たったの二千円でそこまで変わるんだ。ちょっと信じられないわね」
「貧乏学生をなめんなよー」

お互いに冗談を言って、笑いあう。そこにはもはや、デート当初のぎこちなさは存在しなかった。

その後、二人はファミレスで夕食を済ませた後、展望台へと足を向けた。
上条いわく、今日の本番はここだから期待していろ、とのこと。
展望台は、高さ300メートルの場所に作られており、学園都市の全景が見渡すことができるようになっていた。
この時点で日はすっかり落ちており、外には幻想的な夜景が作られていた。

「綺麗ね……」
「あ、ああ。そうだな……」

微妙に歯切れの悪い上条の答え方に疑問を持つ美琴

「どうかしたの?」

少しの間を置いたあと、上条は何かを決心し口を開く。

「お、お前の方が綺麗だよ」

一瞬、キョトンとしていた美琴だったが、すぐに顔が赤く染まる。

「ば、馬鹿。そういうことはもっと自然に言わないとダメなのよ」

美琴はそう言って顔を背けたが、内心ではかなり嬉しいようで口元は緩んでいた。

「なんつーか、こういうやりとりはお約束だー、ってわかってても、やっぱり言うのは恥ずかしいもんだな」
「でも、無理して言われても、う、嬉しくなんかないわよ?」
「そうか、その割にはにやけてるように見えるけど」
「き、気のせいよ!」

意地をはる美琴に苦笑する上条。

「悪ぃな。次からはもっと自然に言うから。ああそうだ、ずっと立ってたから疲れただろ? あそこに座ろうぜ」

二人は近くの椅子に腰を下ろす。
そこで、上条は美琴がチラチラと、ある方向を見つめていることに気付いた。

「どうした御坂?」

美琴の視線の先を追うと、そこにはカップルがいた。
そして、その女性の方が男性の膝の上に乗って抱き合っていた。

「御坂……お前まさか」
「な、何でもないわよ!」
「あれがやりたいんじゃないのか?」
「ち、ちが……あんな恥ずかしいこと、できるわけ無い……」

美琴はだんだん小声になっていき、うつむいてしまう。

「しょうがねえな、よっと」
「きゃっ」

上条はいったん美琴を抱え、上条から見て横を向くような体制にして膝の上に乗せた。
そして右手を使い、背中を支えるように腕を回して抱きしめた。

「俺がやりたかったということで」

顔を若干赤く染め、目をそらしながら言う上条。

「あ、アンタ、急に積極的になったわね」
「御坂はこういうの嫌か?」
「う……べ、別に、嫌じゃ……ないわよ……」

美琴はそう言って、上条に身を預けた。
二人とも緊張していたため体が固くなっていたが、
しばらくすると落ち着いてきて自然な状態に戻っていた。

「ちなみに御坂、夜景もいいんだけど、ここはもっといいものが見れるぞ」
「へえ、何が見れるの?」
「それは見てのお楽しみだ。お、もうそろそろかな」

上条が時間を確認していると、急に展望台の中が暗くなった。
ただし展望台内の灯りが消えたのではなく、外側、つまり学園都市が発する光が消えていた。
そして、二人の頭上には満点の星空が輝いていた。

「わあ……」
「詳しいことはわからないけどさ、一定の時刻にだけ、空中に浮いてる機械が、下からの光を全部遮るようにしてるらしいんだ。
 あと他にもいろいろとやってるみたいだけど、細かいことはわかんねえや」
「そうなんだ……」
「綺麗な空だな」
「うん……」

美琴はずっと星空に見入っていた。
上条は星空と美琴を交互に見ていた。

「前にさ」

先に沈黙を破ったのは上条だった。

「俺の看病をしてくれてたとき、お前の小さいときの話をしてただろ。
 超能力者になったら、空一面の星空が作れるかもしれないって思ってたって」
「あ、覚えてたんだ」
「ああ、だから、綺麗な星空が見れたらお前が喜ぶんじゃないかって思ってさ」

「……うん、嬉しい」

美琴は上条に身を預けながら言葉を続ける。

「こんなに綺麗な星空が見れたのも嬉しいけど」

視線を下ろし、上条を見つめながら。

「でも、当麻と一緒にこうやっていられることが一番嬉しい」
「御坂……」
「ねえ」
「ん」
「私のこと、「美琴」って呼んで欲しいな……
 ずっと、当麻のこと「当麻」って呼びたかったし、当麻には「美琴」って呼んで欲しかったの。
 私達、恋人でしょ、だから……」
「わ、わかった」

上条は一度深呼吸をし、美琴の瞳を真っ直ぐに見つめながら、彼女の名前を呼んだ。

「美琴」

上条が美琴の名前を呼んだ途端、美琴は顔を真っ赤にして、上条の胸に頭を押し付けた。

「それじゃ星が見えねえぞ?」
「いいの……今は、こうしていたい……」

上条は何も言わず、美琴の頭を撫でた。

「ふにゅ……」
「たまに猫みたいな声出すよな、お前」
「知らないわよ……そんなの……」

美琴はそのまま上条に身を預けていたが、やがて頭を上げ、上条をじっと見つめた。
上条は黙って美琴を抱きしめる腕の力を強めた。

「当麻、好き。大好き」
「俺も、好きだよ。美琴」

美琴はそっと目を閉じる。
上条の右手が美琴の肩をそっと掴む。2人の距離が近づいていく。

「ずっと、一緒にいような」

そして二人は唇が軽く触れ合う程度の、優しいキスを交わした。

帰り道、二人は手をつないで歩いていた。
美琴の寮の門限まであまり余裕は無いのだが、少しでも一緒にいられる時間を長くしたいためか、
二人の歩くペースはとてもゆったりとしていた。

「当麻、今日はありがとう。とっても楽しかった」
「喜んでいただけたなら上条さんも光栄ですよ。これで、前の借りは少しは返せたかな」
「告白のときのこと? 今はこうやって一緒にいれるんだから、あんなの気にしなくていいのに」
「あんな情けない告白の受け方して、気にしないほうが無理だっての。
 俺たちがこうしていれるのも、全部美琴が頑張ってくれたからだしな。」
「こうやって一緒にいてくれるだけで、私は幸せよ?」
「俺だってそうだよ。でもそれだけじゃ納得できないんだよ。
 ま、これからは上条さんが全力でもっともっと幸せになれるようにしてやるからな。期待して待ってろ」
「ふふっ、じゃあすっごい期待しとくね」

美琴がふと空を見上げると、流れ星が見えた。

「あ、流れ星」
「ん、どこだ?」
「もう消えちゃった」
「そっか、残念だな」
「当麻は何か願い事あった?」
「んー、そうだな。ずっと美琴と一緒にいれますように、かな」
「じゃあ大丈夫ね、それは私が願っておいたから」
「そっか」
「そうよ」

二人して笑いあう。
そうして、二人はゆっくりと、同じ道を歩いていった。
これからは、もう離れることは無いようにと願いながら。

END

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