上琴の勉強会
12月 学園都市
最近の上条は疲れていた。
新しい学年への進級が近づいてくるにつれ上条の補習の量は増えていき
冬休みを目前に迎えた今では、平日の放課後はもちろん休日も補習に充てられている。
上条としては、こんな日々は当然嫌だったが、不幸体質だから仕方ないかと諦めている節もあった。
「はあ、やっと補習から解放された…って言ってもまだ出された課題やんなきゃいけないけどな。」
現在午後6時ーー
補習を終え、帰路に就く上条はスーパーの安売りの時間を逃してしまい、今日の夕食はどうしようかなどと考えていたが
ふと周りを見ると、いつもの自動販売機の前まで来ていた。
上条は喉が渇いていたのか、自販機の前まで歩いて行き、飲み物を選別している。
飲みたいものが決まったようで、小銭を財布から出して入れようとする彼だったが
「ちょっと、アンタ!」
と後ろから声をかけられたためにその行為は中断された。
上条が後ろを振り向くとそこには、常盤台中学の冬服を着た御坂美琴が立っていた。
「なんだ、御坂か…」
「なんだとは何よ!せっかく人が声掛けてやってんのに!」
「はあ、悪いけど御坂。上条さんは疲れてるんです。だからまた今度な。」
その言い方にムカついて電撃を飛ばしてしまいそうになる美琴だったが、ふと彼の顔を見るとほんとに顔色がよくなかったので
戦闘意欲を削がれてしまった。
「確かに、顔色もよくないわね。まさかまた厄介事に巻き込まれてるんじゃないわよね?」
「いや、別にそんな大事じゃねえ。ここ最近、補習ばっかで疲れがたまってるんだ。」
そう、別に危険な目に遭ってるってわけじゃないのねと安堵する美琴だったが、
でもそれはそれで結構ヤバいんじゃないと思い彼に聞いてみた。
「ねえ、アンタ。それってこのままだと2年生に進級できないってことじゃないの?」
すると上条はダラダラーっと汗を流し、急に頭を抱えて唸り始めてしまった。
「うう、どうせ上条さんは馬鹿ですよ!そんなことを中学生に指摘されるなんて…ああ、もう駄目だー。」
「ちょ、こんなところで頭抱えないでよ!恥ずかしいでしょ!たっく…アンタのことだからどうせ人助けとかしまくって、
そのせいで出席日数がたりないんでしょ?」
「悪かったな!どうせ上条さんは進級できずにもう一度一年生やり直しですよ!ああー絶望だー。」
さらに自ら深みにハマってゆく上条。当然周囲からは変な目で見られている。
美琴としては、拗ねている上条がかわいかったので、もう少し見ていてもよかったのだが
せっかく上条が勉強のことで困っているのだから、私が教えてあげれば、コイツに合法的に近づけるじゃない!と考え顔を若干赤くしながらも
「まったく、だらしないわね。その、しょ、しょうがないから、わ、私が、その、ア、ア、アンタの勉強見てあげてもいいわよ?」
「は?なんでそうなるんだ。上条さんも中学生に勉強見てもらうほどダメ人間じゃない…ぞ?っておい御坂ビリビリするなおい!うわっ!」
上条が返答し終える前に、電撃を飛ばし、それを右手で弾く上条。
二人の間ではもう慣れた…いや、上条からしたら慣れてしまったやり取りである。
「いいから!この私が勉強見てやるって言ってんだから、素直にはいっていいなさい!」ビリビリー
「ちょ、ビリビリするな!分かったから、はあ。ええと、勉強を見ていただけますか、美琴様。」
「ん、よろしい。最初からそういえばいいのよ。」
んで、いつどこでにするー?などと、もろもろのことを話し、決まったときにはすでに完全下校時刻に近かったので
その日はそれで、ということで上条と美琴は自らの寮へと向かった。
常盤台学生寮208号室にて美琴は上条との約束を取り付けた、明日の土曜の勉強会(上条の)についてあれやこれやと考えを巡らせていた。
美琴は早い方がいいと思ったので、明日の午後1時にいつものファミレスで行うことにした。
(とりあえず、約束は取り付けられた。でもあいつのことだから何が起こるか分からないわよね。
明日はアイツと一日いられるからって気を抜かないようしないと!)
と、そこまで考え、一旦風呂に入ることにした。いつまでも考えていても埒が明かないと思ったからだ。
美琴はルームメイトの白井黒子に声をかける。
「黒子ー、先お風呂もらうわよ~。」
「どうぞですのよ~、お姉さま。しかし先ほどから何を考えていたんですの?
ずいぶん唸っていましたが…はっ!もしや私との濃厚な一夜を想像しーーぶぼへ!」
白井は途中で美琴に殴られ、地に伏せられてしまった。
「たっく、あんたはどうしてそんなことが思いつくのかしらねえ。」
「じょ、冗談ですのよ、お姉さま…」
(まあ、なんにしても明日はいい一日になるよう、がんばろ!)
同時刻ーー
上条もまた、今日は手抜きだったんだよ!まだ食べ足りないんだよー、という居候のシスターの言葉を聞き流し明日のことを考えていた。
(しっかし、御坂のやつ勉強見てくれるって言ってたけど、意外とおせっかい焼きだよなー。ま、でも助かるのは事実だしあいつには感謝しねーとな。)
「それにしても明日は午前中は補修だし、午後も勉強。ほんとに勉強漬けだな、はあ~。よしこういう時は早めに寝るのが一番だ!ささ、寝よう寝よう。」
伸びをし、風呂場へと向かう上条。
しかし、この上条、不幸体質である、そう簡単に思いどおりには行かない。
「一人でブツブツなにいってるのかな?とうま。私はまだ食べ足りないって言ってるんだよ!なにか食べたいんだよ!」
「ええー?勘弁してくれ、インデックス。上条さんはもう寝たいんです。ってちょっと待ってその構えは…う!があああああ!」
問答無用で頭を噛みつかれる上条。
「ふ、不幸だ…」
結局その日、上条はコンビニに食べ物を買いに行かされ眠りにつけたのは1時を過ぎていた。
日付は変わって、土曜日ーーー
現在正午、約束の時間まではまだ一時間ある。しかし、美琴はすでにファミレスの前まで来ていた。
「す、少し早く来すぎたかしら。」
少しどころではないだろう。
しょうがないので、先に入ろうかとも考えたが、それでは上条が来たときに困ってしまうと思ったので止めた。
(補習中なので連絡をタイミングがつかめない。)
そしてこちらは上条。ようやく、補習が終わったようである。
「はい、今日はここまでですよー。また明日も頑張りましょう。分かりましたか?上条ちゃん。」
「はいよー。」
校門を出たところで時間を確認すると時間はまだ正午少し過ぎだ。
まだ、約束まではかなり時間があるが、一回寮に戻るのも手間なのでファミレスへと向かうことにした。
上条がファミレスに着いたのは、結局1時ちょっと前になってしまった。
持ち前の不幸体質によるせいか、道を聞かれ案内し、ハンカチを落としたお姉さんを追いかけ、
謎の敵に追われている少女を逃がしていたら、こんな時間になってしまったのだ。
「よっ、御坂。」
「ちゃ、ちゃんと時間に間に合ったのね。」
若干、頬を赤らめている美琴。
「そりゃ、今日は俺が勉強見てもらうんだ、遅れられねえよ。つかとりあえず中入ろうぜ?」
「そ、そうね。立ち話もあれだしね。」
ファミレス内にてーーーー
「…だからね、この手の問題はこの公式さえ覚えとけば、あとは型に当てはめるだけで…」
「そうか。なら…答えはこれで合ってるか?」
「どれ?…へえ、やればできるじゃない。合ってる合ってる。」
着々と問題を解いていく上条に、横からアドバイスする美琴。
上条も今日はやる気なのか、割とスムーズに進んでいき時間は過ぎていく。
2時間後ーーー
「ふう、私ちょっと飲み物取ってくるから、この問題やっといて。」
「ん、わかった…」
そう言って、ドリンクバーのおかわりを取りに行く美琴。
(なんか、随分まじめね、今日のアイツ…浮かれてた自分が情けないわ…はぁ。)
溜息をつきながら席へと戻ると、上条は問題が解けた様子だった。
「…ん、こうか?お、なんか分かってきた。よしあと少し…出来た!」
「よっと…どれどれ見せて。」
美琴は飲み物を机に置いて上条の隣に座り、問題を確認しようとする。
「すごい、出来てるじゃん。じゃあ、ちょっと休憩しよっか。ずっとやってても疲れちゃうしね。」
「そうだな。でも、これもすべて御坂さんのおかげですよ。…ほんと今日はありがとな。」
「い、いや別に…これくらいお礼なんていらないわよ…」
急に上条に礼を言われ、口ごもってしまった美琴。
「でも、実際かなり助かったぜ?もう、中学生中学生なんて馬鹿にしてられないな、はは。」
「あ、当たり前でしょ!…たっく、いい加減その中学生だからどうのこうのって言い方はやめてほしいわね。私は常にアンタと対等でいたいのよ。」
「まあ、その辺は上条さんにもいろいろあるわけだけど…そうだな。今回も、勉強見てもらってる訳だし。
これからは出来るだけそういう発言には気をつけるよ。」
実際に上条は、美琴のことを対等と見ており、中学生云々の発言は本気で馬鹿にしてたりするわけではない。
ちょっと前までは、なりふり構わず電撃を飛ばしてくるわがままな奴だと思っていたが、最近の美琴はロシアの時を始め、
様々な場面で上条を助け、上条からしても恩を感じている。
なので、美琴がそういう発言を気にしているというなら、気をつけようーーなどと思ったわけだ。
その後、昔の話などで盛り上がり20分くらい休憩時間は続いた。
「ん、まあ、話し込んでもアレだし、そろそろ勉強再開しよっか。」
「そうだ。よし、今日中に月曜までの課題を全部終わらせてやる!」
「そうそう、その息よ~。」
そうして、また勉強タイムが始まった。
美琴はずっと横で見ていたが、実はさっきの会話の時からーーいや、ずっと前から聞きたいことがあった。
(コイツ…最近は私のこと少しはまともに扱ってくれるようになったけど、ほんとどう思ってんだろ、私のこと…)
上条の記憶喪失を知ると共に、自分の上条へ抱く思いを自覚した美琴。
その思いを抱いている相手が、自分と同じ思いを抱いているのか気になるということは至極当然のことであろう。
しかし、それを聞くとなると、また別問題だ。だからこそ美琴は聞くに聞けない状況にいる。
そんな恋愛に関しては奥手な美琴だったが、今日に限っては
(けど、今日なら、なんかいい雰囲気だしいける気がする。これはいくべきよね、いやいくしかない!)
「あの、さ…」
「ん?なんか違うところあったか?」
「いや、勉強のことじゃないんだけどさ…ちょっとアンタに聞きたいことがあるんだけど。」
「ん、なんだ?」
美琴はためらいがちに、それでも勇気を振り絞って上条を見た。
そして…
「えっと、その、なんていうかアンタは私のことどう思ってんのかな?ってさ…」
(き、聞いちゃった!もうどーとでもなれ!)
上条は黙っていた。だが、やがて口を開いた。
「それは…ん~、一番気が許せて、頼れる女友達ってとこかな?」
「そ、そう。そりゃどうも」
美琴は上条のからの返答に複雑な気持ちだった。
一番気が許せて頼れる、と言われたのはこの上なく嬉しいが、女友達ーーいや、友達という部分がひっかかった。
(やっぱ、こっちからもっと攻めてかなきゃだめなのかなあ、う~ん)
などと美琴は考えていたが
「逆にお前はどう思ってんだよ。俺のこと。」
「え!?あ、そ、それは…その」
「まあ、どうせ喧嘩友達くらいな感覚なんだろうけどよ、、。」
上条にそんなことを言われ美琴はついカッとなってしまい言ってしまった。
「そ、そんな訳ないじゃない!私はアンタのことがどうしようもないくらいに好きなのに!ーッて!!!」
(…終わった…私…終わった。もうだめ、コイツの顔見れないよ!)
「え?えーっと…///」
「お願い、何も聞かないで!うう…///」
「わ、分かった。落ち着くま、.落ち着くまで待っててやるから。」
正直、上条も冗談か否かわ分からないが(美琴の態度でだいたいわかるが)
美琴の方は今にも倒れてしまいそうだったので
上条はどうにかして落ち着かせようと思ってとっさに美琴の手を握った。
「ふぇ!?」
「あ、いや、なんとなくこうした方が落ち着くかと思って…嫌だったか?」
「う、ううん!ありがと…///」
実際に上条に手を握られて、最初は戸惑った美琴だが少しすると手の暖かさが直接伝わってきて、かなり落ち着いてきた。
数分間そうしていたところ、上条はさすがに恥ずかしくなったのかもう耐えられませんとばかりに口を開いた。
「み、御坂、そろそろ落ち着いたか?」
「…うん。」
『…』
お互い気まずくて会話が続かない。
そんな中、先に沈黙を破ったのは、上条だった。
「さっきのは、冗談じゃ…ないんだよな。」
なにも言わず俯いたまま頬を赤く染めて頷く美琴。
「…そっか。まさかお前にそんな風に思われてたなんてなー、上条さん驚きですよ。」
「……で、返事は?(はあ、どうせ無理って言われるんだろうなあ。私みたいなガキじゃ…)」
「その、正直今まで御坂のことをそういう対象として見たことがなくて、突然のことでまだ気持ちの整理がついていないんだが…」
美琴は上条の言葉を聞きながら更に俯いていく。
「…でも、御坂は俺なんかのためにすごい尽くしてくれるし、よくよく考えたらこんないい女に告白されて断る男はいないというか…」
え?っと美琴は顔をあげる。
「そ、それって、交際OKってこと?」
「ああ。つーかこちらこそお願いしますって感じだよ。御坂はたしかに中学生でまだまだガキだけど…少なくとも俺にとってはすごい頼れる奴で、
少しわがままな所もあるけど、優しくて面倒見のいい奴で…顔も並以上だし、むしろ俺なんかでいいのか?」
「私には!…私には、アンタしかいないのよ。アンタ以外なんてありえない。」
美琴はここぞ、とばかりに強調して言う。
「そんなふうに思っててくれたのか。ありがとな御坂。ここまで言われたらもう上条さんは御坂さんががすごい愛しく思えてきましたよ。」
「なッ!///」
美琴はみるみるうちに赤くなっていき、同時に顔の緩みが治まらなくなっていた。
(な、なにこの幸せな状況!?夢?夢なのか?夢なら覚めないでー!)
「おーい、御坂?大丈夫か?かなり顔が赤いけど…」
「だ、大丈夫大丈夫。ふー、落ち着くのよ私。こんなうまくいく訳がない。これはきっと夢よ。」
「おい…御坂、たっく…夢じゃないぞ?ほれ」
そういって上条は座ったまま美琴を優しく抱きしめた。
美琴は少し腕の中で動いたが、やがておとなしく上条の二本の腕に抱かれた。
「…幸せ。」
「はは。もう、今日は勉強なんかできないな。…今から俺んちでも来てゆっくりしてくか?」
「うん…行く。」
こうして二人はめでたく結ばれ、二人はファミレスを後にした。
ちなみに昼間っからファミレスで抱き合ったりしていたわけなので、当然周りからは注目の的であった。
これが後日彼らの交際がばれる原因になるとは、二人は思ってもいないだろう。
おわり