とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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上条家+α緊急会議 1




もう今年も残すところあと僅か。平和になったであろう学園都市では学生が人口のほとんどを占めるため帰省するかどうかが必然的に話題になる。


12月29日、本当なら冬休みに入っている時期だが制服姿で歩く男女の2人。
その2人組みにも当然その話題があがる。


「御坂は実家に帰るのか?」
「うん、私は明日、30日に」
「へえ、俺は大晦日にしてしまったんだよな~」
「してしまったんじゃないでしょ?本当は補修が元旦もある予定だったくせに」
「うぐ・・・」
「ま、こうやってアンタも実家に帰れるのは美琴センセーのおかげだから。その辺忘れるんじゃないわよ?」


ハワイでの一件以来関係がちょっと接近してきた上条当麻と御坂美琴。
世界のあちこちを回って学校の出席日数が全く足りない上条の補修の課題を手伝ってあげ、「他の女子より一歩リード」作戦を
敢行した美琴だったが当の本人にはやはり気付いている様子はない。
ならば!と思い切って居候のシスターもいる上条の寮に上がりこんで付きっきりで放課後は勉強&晩御飯の世話もしてあげたが
これも効果はさほどナシ。(シスターには思惑がバレてしまったが)


「じゃあ、俺こっちだから」
「う、うん・・・」


帰り道での分かれ道。上条はヒラヒラと右手を振って去ろうとする。
美琴はその後ろ姿を見て怖くなった。(またいなくなる、私がなんとかしなくちゃ!)心の奥からそう聞こえてくる。


「ね、ねえ!!!」
「んぁ?」

美琴のほぼ叫んだような声に素っ頓狂な声を出して振り返った上条。

「どうした?」
「あ、あの・・・えと・・・」

呼び止めたのは良いものの、何を話せばいいかわからない。間違ってここで告白はしてはいけないと考えてやっと出した言葉は


「ま・・・またね?」

精一杯考えて言えた結果がこれだ。(もっと言いたいことあるでしょ私のバカー!!)と内心で叫ぶ美琴だが上条はニコリと笑って

「ああ、また明日な」

そう言い残して美琴の視界から消えていった。

「ば、バカじゃないの!?明日私帰るって言ったじゃない!!人の話ちゃんと聞け!!」

もういない後姿に叫んでも上条に聞こえているかはわからない。

「ったくもう・・・あの馬鹿」


ただ、今の2人は当たり前のように「また明日」と言うくらい毎日顔を合わせていた。



12月30日

「もしもしお母さん?今駅に着いたけど?」
『もう駐車場に停めてあるから大丈夫よん』

母親が乗っている車を探し、無事に合流できた美琴。

「おかえり、あら?ちょっと成長したかしら?」
「どこを見て言ってくれますかねこの母親は」

娘の胸あたりをまじまじと見てニヤニヤしてくる母親の御坂美鈴。「まだ私のほうがしばらくモテるかな」と娘に聞こえない程度に呟き車を発車させた。


「あ~、今年は色々ありすぎたわ」
「そうね、気になるあの子とハワイにも行けたし♪」
「ぬぐっ!!何でそれを・・・」
「知らないとでも思った?これでも私は美琴ちゃんのママだから。常盤台の寮から連絡が入って来てるのよ?「日本にいません」って」
「あぁ、思い出したくもない・・・寮に戻ってからの地獄を」
「帰ってこられないかと思ったわよ?でもこうやって元気な姿を見られてママ安心♪」


学園都市に戻ってからの美琴も散々だった。常盤台からは厳しいお叱りと罰を受け、ルームメイトの白井黒子からは尋問され、
友人の初春飾利からはハワイの監視カメラを有効に活用して行動を確認され、佐天涙子からは「この人、誰で何がどうなんですか!?服の袖掴んでますよ御坂さん!!」
とハワイで一緒にいたツンツン頭の少年を追及された。
それでもなんとか逃げ切り、上条の補修を手伝ったり、食事を作ってあげたりしていた自分を正直褒めてもらいたい。


「それで?指輪はあげたの?」
「ちょっと!?それこそほんの一部の人間しか知らない情報ですけど!?」
「んふふ、美鈴さんネットワークをナメてはいけないわよ?でもその表情だとまだあげてないのか・・・自分の娘なのにちょっと残念」
「あぅ・・・」


シュンとなりながら顔を赤くしていく美琴を見て美鈴はケラケラと笑った。


「さあ!久しぶりの我が家ですよ美琴ちゃん?」
「ただいま~・・・ってあれ?誰かいる?」

玄関に入るとリビングからテレビの音と誰かが電話している声が聞こえた。

「あっ、そうそう!お客さんが来てるのよ今!」
「お客に留守番させていたの?呆れた」
「美琴ちゃんに会いたがっていたのよ?」
「え?親戚のおじさん?」
「う~ん、美琴ちゃん次第で将来親族になるかもね~?」
「は?」


玄関でのやり取りが聞こえたのかリビングから足音が二つ聞こえてきた。

「お!久しぶりだね美琴さん。お邪魔してるよ」
「あらあら、相変わらず可愛いですね~」
「な、な・・・」


声にならない声を発してしまった美琴。見覚えのある男と女が出迎えてくれたが・・・

「帰ってきてすぐで悪いんだが美琴さん、ちょっと話があるんだけどいいかな?」



12月31日

「ふう、インデックスはステイルと神裂に任せてもらったしあとは帰るだけか」

荷物を抱えて、寮を出た上条当麻。ここ最近一人で外を歩くことなかったな~といつも隣を歩いていた美琴のことを思い出す。

(アイツ今頃美鈴さんと親父さんで楽しくやってんのかな~)

そんなことを考えながら電車に揺られ、実家近くの駅に着いた。

「もしもし父さん?今駅に着いたけど」
『ああ、今迎えが行っているからもう少し待っていてくれ』

迎えが来る?母親が来てくれるのか?徒歩だと少し遠いと聞いているしどっちにしろ記憶がないため一人では実家に帰れない。

記憶にない人が迎えに来てくれるのだけは遠慮願いたい。失礼だがそう祈って迎えを待つ。
5分もしないうちに駅に向って走ってくる人影が見えてきた。電車に乗り遅れそうな人か?と思ったがその人物は上条がよく知っている人物。
一瞬誰かわからなかったがそれはいつも制服姿なのに今は学園都市の外なので私服姿が原因。明らかに上条の方へ向って走って来ている。
やがてその人物は上条の目の前で立ち止まり、走ったせいか息を切らしている。


「み、御坂!?何でお前がここに!?」
「あ、アンタのお迎え・・・ぜえ」
「え?意味がわからないのですが・・・」
「アンタの親と私の親がびっくりするくらい仲良しでしかも超ご近所さんだったのよ!!だから私が来たの!!ぜえ・・・」
「あぁ、だから親父のヤツ意味わかんねえこと言ってたんだな」

わざわざ来てもらって悪かったなと苦笑する上条。だが美琴は一向に険しい表情を崩さない。
それに気付いた上条は少し焦り


「な、なんだよ?そんなに急いできたのか?」
「そうよ・・・急いだわよ、マズイわよ・・・ぜえ」
「ま、マズイ?何か変なものでも食ったか?」
「違う!!アンタのことよ・・・」
「お、俺が何かしましたっけ?」


散々してくれたけどね!と内心怒りが込み上げるが、少し落ち着いた美琴は大きな深呼吸をして息を整えた。そしてマズイ理由を上条に告げる。


「アンタが記憶喪失だってこと、親にバレてる」



突然の告白に上条の顔が真っ青になる。

「な、何で親父たちが!?」
「知らないわよ!昨日いきなりアンタのお父さんに「当麻が記憶喪失って本当かい?」って聞かれたんだから!!」
「お前なんて答えたんだ!?」
「嘘もつきたくなかったからひたすら黙っていたけど・・・あれは私もアンタの記憶喪失について何か知っていると判断されたわ確実に」
「マジかよ・・・」
「ゴメン!!私のせいで!!」


今にもなきそうな表情で美琴が頭を下げるが、上条は慌ててしまい

「何でお前が謝るんだよ!お前のせいじゃねえし仕方のないことじゃねえか!!」
「でも、でも!」
「大丈夫だって!インデックスも記憶喪失だってことちゃんと言ったらわかってくれたんだし親父たちもわかってくれるさ!」
「でも・・・」
「こうやって今は両親の顔も覚えている訳だし問題ないって!何かあったら全部俺の責任だし!」
「・・・・・・・・・・・・」
「御坂?」


懸命に説得するが美琴は下を向いて動かない。
と思っていたら

「いつもアンタは自分一人でどうにかしようとするじゃない!!誰かを、私を頼ろうって思わないの!!!?」
「っ!!・・・・」

いきなり美琴が吼えるように叫んだので思わず上条は威圧されて言葉に詰まる。周りの通行人の視線を感じる。


「み、御坂!周りに人がいるから!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・決めた」
「へ?」

突然顔をシャキっと上げた美琴の目には何かを覚悟した決意が見えた。


「何を?」
「アンタ、今から私が言うことを大体でいいから頭に入れて」
「だから何をするつもりだ?」
「親が自分の子供が記憶喪失って知ったら相当ショックを受けるわ。だから記憶喪失じゃないってことを見せるためにアンタには私との成り行きを覚えてもらう」
「は?・・・へ?」
「だ・か・ら!私が知ってる昔のアンタを教えるからいつから記憶がないのか教えろってこと!!そうしないといつからいつまで
話さないといけないかわからないじゃない!!」


美琴からの意見に賛同したくない上条は


「素直に記憶喪失ですって言う以外の方法はないのですか?」
「ない!ご両親を悲しませない方を最優先に決まってるじゃない!」
「不幸だ・・・わかったよ、口外だけは絶対にするなよ?」



「ただいま~・・・じゃない、お邪魔しま~す」

自分の両親は美琴の実家にいると聞いてソロソロと警戒するように入って行った上条。美琴は自分の家なのでブーツを脱いでドカドカと先に上がった。

「おかえり美琴ちゃん、当麻くんもいらっしゃい♪」
「は、はあ・・・」

ニッコリと美鈴が出迎えてくれたが

「早速だけど当麻くん、いきなりの修羅場かもね」
「・・・みたいですね。御坂、いや、美琴さんから聞いてます」
「あら、美琴って呼び捨てでいいのよ?それよりも美琴たんとか美琴にゃんとか言ってあげても喜ぶから」
「母さんうるさい!!」
「怒られちった。んじゃ、当麻くん頑張って!私は料理の支度があるから」


いそいそと美鈴はキッチンがあるだろうドアの中へ入っていった。
それを確認したかのようなタイミングで奥の部屋のほうから父親、上条刀夜が呼ぶ声が聞こえた。

「当麻、帰ってきたのか?」
「あ、ああ。ただいま」

意外と普通な調子の声だった。声のする部屋に入ると刀夜はソファに座ってテレビを見ていた。母親、上条詩菜は奥で美鈴の手伝いをしていた。

「おかえりなさい当麻さん」
「ただいま、母さん・・・」
「なんだか前よりたくましくなったように見えるな当麻」
「そ、そうかな・・・」

事実を知った上でいつものように接してくれているのだろうか。そう考えると胸が痛む。


「当麻、ちょっと話があるんだが・・・」


来た!!本能でわかる、何?と聞いた次には「お前、記憶喪失なんだって?」と飛んでくることが。
だがここで助け舟の登場。部屋着に着替えた美琴が入ってきた。


「ちょうどいい、美琴さんもちょっとこっちへ来てくれないか?」
「はいっ」


上条と美琴は刀夜に促され向かい側のソファに座らされた。上条はチラっと美琴のほうを見たが、それに気付いた美琴は目で
「さっき私が教えたことを言えばとにかく大丈夫!」とアイコンタクトを送ってきた・・・ような気がした。


「単刀直入に聞くが、お前、記憶喪失なんだって?」



やはり来たかこの言葉・・・構えていたとはいえやはり緊張が走る。再び隣にいる美琴に目をやると「まずは私に任せて」
というような合図をしてきた。


「伯父さん、何を言ってるんですか?コイツが・・・いや、当麻くんが記憶喪失なわけないですよ」


いやいやと手をパタパタと振って記憶喪失説をさらっと否定&嘘をついた美琴。嘘つきたくないと言っていたのはどこのどいつだ・・・


「だってコイ・・・当麻くんと初めて会った時から何も変わった所もないですしそんなことないですよ」
「ふむ。初めて会った時はいつでどんな時だったかい?」

ここで美琴は(ホラ、私が教えたように言いなさい!!)と目配せをしてきた。先ほど聞いた上条の知らない上条の過去。
う~んと美琴が話していたことを思い出しながらポツリポツリと話し出した。



「えっと~・・・ある日の夜に不良にナンパされていた俺を御坂が助けた?」


合っているかどうか確認の為美琴をチラ見したら・・・

頭を抱えていた。


(逆よバカ!そんな間違い方したらフォローの仕様がないじゃない!)
(ぬぁ!そうだ!!)

目の前の刀夜に聞こえないように、気付かれないようにコソコソやりとりをする2人だが刀夜からはもう胡散臭くて仕方がない。

「当麻、通っていた中学校の名前覚えているか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


美琴ですら知らない上条の過去。誰がどう見てもチェックメイトだ。


(ほら、何でもいいから言いなさいよ!言わないとこれこそ詰まれて終わりよ!!)
(え~っと・・・う~んと・・・)

何か妙案がないか。世界を救った英雄はここでも逆転できるのか。


「・・・・・常盤台中学」

奥で聞き耳を立てていた美鈴がたまらず噴き出した瞬間だった。



「はぁ・・・当麻」

少し呆れたような表情をしていた刀夜はあのな、と切り出し、

「もうお前がどうして記憶喪失になったかの情報は大体耳に入っているんだ。お前のお世話になっているお医者さんに聞いたら記憶喪失だと認められた。
父さんや母さんは超能力や魔術だのよくわからんがどこまで行ってもお前のことが心配なんだよ」


切実な言葉だった。目の前にいる父親は悲しい目をしていた。


「テレビを付けたらロシアからの中継で何故かお前が写っているし、戦争が終わった途端にお前の記憶喪失のことも知った。
これで心配しない親がいない訳ないだろう?」
「あ、あぁ・・・」
「父さんたちもすぐに気付かなかったことを反省している。でも親を頼らなければこれから誰を頼るんだ!?人間一人では生きていけないんだぞ!?」
「・・・・」
「父さんは一人で生きていけないから母さんを頼っている。きっと母さんも同じだ。お前は世界中を救ったそうだが
救うだけじゃダメだ。お互い助け合わないと何も始まらないぞ!!」


上条の記憶の中では始めての父親からの説教。自然と目から熱いものが込み上げてくる。


「でも、お前なりに頑張ったんだよな?父さんたちに心配させないように気をつけて・・・」
「あぁ、正直怖かったよ・・・」
「でもな?親元を離れて暮らしている自分の子供を心配しない日なんてないんだぞ?記憶を失おうが性格が180度変わろうがこれからもお前は父さんたちの息子だということには変わりない!」
「ありがとう・・・父さん」


ポロポロと涙をこぼす上条。一番の重荷が消え去った瞬間だった。美琴も上条の涙につられてもらい泣きしており、
奥では美鈴と詩菜が優しい眼差しを向けていた。


「よし!!湿っぽい話はこれで終わり!!楽しい年越しにしようじゃないか!!」

パン!と刀夜が手を叩いて立ち上がった。


「ゴメンな父さん。散々心配させて。なんだよ、御坂の心配とかも全部無駄だったじゃねえか」

グイっと涙を拭いて笑顔を見せた上条は刀夜に謝罪をする。

「なぁに、それが親の務めだよ。それより当麻と美琴さん、もう一つ気になったんだが・・・」
「ん?」
「何でしょうか?」


「2人は付き合っているのかな?」



「「はい?」」

突然の質問にハモって同じ返答をした2人。

「ん?違うのか?」

刀夜が不思議そうに2人を見比べる。


「さっきだってコソコソ父さんの前で何か話し合っていたじゃないか」
「いや!あれは俺の記憶喪失を隠そうと話し合っていただけであって決してそんな不純性行為など!!」
「そうなのか?てっきり付き合っていることを隠そうと話し合っていたと思ったんだがなぁ」
「違う違う!俺と御坂じゃつり合わないって!なぁミサk・・・」


同意の意見を求めようと隣にいる美琴を見たのが間違いだった。下を俯いて顔がよく見えないが耳がとてつもなく赤い。刀夜の言葉に完全に動揺してフリーズしていることに上条は気付いた。


奥では美鈴が「行け美琴ちゃん!!このくらいの既成事実ならOKよ!」と言えば詩菜は「あらあら、若いって素敵ですね」
と2人とも上条の耳に聞こえるくらいのトーンでゲキを飛ばしていた。


さすがにこのシチュエーションでは鈍感大王上条も多少意識してしまう。これは色々とマズイと。


「なんか御坂のヤツ暖房が効きすぎてのぼせたみたいだから外の空気を吸わせに行ってくるよ。あはははは」


刀夜に苦笑いを浮かべながら上条は美琴の背中を押して廊下へ消えていった。


「惜しい!!あともう少しだったのに!!」
「あらあら、当麻さんも罪な人ですね」
「それにしても当麻くん、美琴ちゃんの扱い慣れてるじゃな~い♪」
「あらあら、どこの誰に似たのでしょうね」


2人がいなくなって主婦2人はキャーキャー盛り上がっているが一人取り残された刀夜は先ほどの2人を見てこう思った。

「ふむ。子供は風の子だしな。こたつでミカン食べるよりも外で遊ぶのが良いのだろう」


父親は鈍感大王の息子を遥かに凌駕していた。






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