ラブラブドッキリ大作戦!! 中編
ついに迎えたクリスマスイヴ当日。
この日も気温は低いながらもよく晴れ、大雪のためドッキリやパーティが急遽中止なんてこともなさそうである。
「ついに今日の夜…か。雪降らないかな…」
クリスマスイヴともあって騒がしい街中で美琴はぽつりとつぶやいた。
この日のために1週間念入りに準備を重ねてきた。
自分の寮で上条にごちそうするための料理を何度も練習し、黒子や初春や佐天といった昔からの友人たちに手伝ってもらい半蔵に借りた部屋の飾り付けをして、それらが上条にバレないよう細心の注意を払ってきた。
そして今日は最後、残すドッキリの準備はクリスマスツリーの飾り付けと料理の下準備を残すだけだ。
しかし黒子ら友人達にはこの1週間かなり長い時間手伝ってもらっていたので、朝から呼ぶのは悪いと思い今日は午後から来て、と言ってある。
とはいえ午後だけでは終わるとは限らないため今日は別の友人達5名に手伝ってもらうことになっており、今はそのメンバーと共にマンションへ向かっている途中だった。
その友人5人とは…
「う~ん、でもこの空の様子じゃどホワイトクリスマスにはなりそうにもないわね。」
まず1人目、左隣を歩く美琴の言葉に反応したのは上条のクラスメイトである、吹寄制理。
2年時も3年時も上条と同じクラスだったのだが、受かった大学は上条より数ランク上らしい。
また美琴と上条が付き合い始めたころに『吹寄も上条のことを好きだったのでは?』という噂が広がったが、後に吹寄から直接『応援するわ』と言われ今ではよき相談相手となっていた。
そんな吹寄の右隣を歩いているのは
「まあ超いいじゃないですか。雪が積もったら積もったでいろいろ大変ですし。」
『アイテム』の一員である絹旗最愛。
かつては暗部として活躍していた絹旗もこの2年で普通に過ごすことが多くなり、友人もかなり増えていた。
が、2年経ってもB級映画好きは相変わらずで友人たちに話し始めると止まらないところが困りどころだ。
すると絹旗の後ろ歩いていた髪の長い少女が言う。
「でも去年は雪が積もったからみんなで遊べた。私としては降ってほしい。」
絹旗に反論したのは上条のクラスメイトその2、姫神愛沙。
吹寄と同じく姫神も2、3年両方上条と同じクラスで、吹寄と同じ大学への進学を決めていた。
また姫神が上条のことを好きだったことは美琴も知っており、今では美琴と上条の仲を応援してくれる1人となっている。
姫神の隣を歩くのは美琴に似た少女。
「ミサカも降ってほしいかなー。そのほうがいたずらとかいろいろ面白いことできるから☆」
などと悪巧みするのは『妹達』の末妹の番外個体。
他のメンバーと違い外見など2年経っても特に変わりはない。
また今でも黄泉川のマンションに一方通行や打ち止めと共に暮らしている。
そして最後の1人は白い修道服を着たこの人。
「私ももちろん降ってほしいんだよ!!シロップさえ持ってこればただでかき氷食べ放題だからねっ!」
と、食欲全快な発言をしたのはイギリス清教所属の大食いシスターで上条の元同居人、インデックス。
2年経ったことで少し大人びた彼女だが、大食いのところなど性格は特に変わっていない。
美琴と上条が付き合い始めたことで上条との同居生活に終止符を打ったのだが、それ以降も学園都市に住み続け現在も姫神と同居しており、吹寄や姫神と同様に美琴の良き友人だ。
以上個性的な?5人の友人(一人は身内)に美琴を加えた6名が上条にドッキリを仕掛けるマンションの一室へと向かっていた。
本当は今日まで打ち止めのパーティの準備がある予定だったのだが昨日までに終わったため、急遽ドッキリの準備を手伝ってくれるようになったのだ。
現在の時刻は午前10時、一般人からすれば可愛い子揃いのため美琴はたちは注目を浴びていたが気にも留めず、今は『雪に降ってほしいかどうか』という話題でわいわいと騒いでいた。
「やっぱみんな降ってほしいわよね。まあインデックスはちょっとおかしいけど…」
「な、なんでなのかな!?雪が降ったらシロップをかけてかき氷みたいに食べたいと思うのは当然だと思うんだよ!」
「いや当然じゃないでしょ。さすがのミサカでもその考えはないわ……あ、今度降ったら第一位に食わせてやろ☆」
「ていうか降ってほしくない私は超小数派ですか…そういえば御坂はなんで降ってほしいのですか?」
と、ここでこの話題の元となる発言をした美琴に絹旗が質問をしてきた。
「え…そ、そりゃ姫神さんが言ったようにみんなで遊べるからよ。」
本音を隠すのために話し始める時ほんの少し言葉に詰まってしまった。
『本音』、美琴が雪に降ってほしい理由はもちろん上条とロマンティックなひとときを過ごしたいからである。
そのことを素直に言ってからかわれても別にいいのだが、今この場には番外個体がいる。
悪意の固まりである彼女に知られると誇張に誇張を重ねられありとあらゆる人に言いふらされること間違いない。
(よ、よし…感づかれてないっぽいわね。)
うまくごまかせたかと思ったのだが、やはり番外個体はそこまで甘くなかった。
「ふーんそうなんだー。ミサカてっきり雪が降ることにでお義兄様といい雰囲気になっていちゃいちゃエロエロなことしたいからかと思ってたんだけど☆」
「ッ!!?」
番外個体による痛恨の一撃。
いちゃいちゃまではよくてもエロエロには対応していない美琴はわかりやすく反応してしまった。
「ち、違うわよ!?そんなこと思ってないんだから!!ってなんでみんな『絶対その通りだろ』みたいな雰囲気になってるんですか!?」
姫神たちが年上のため敬語で反論するも、周りの友人達は笑みを浮かべながら『うわ~そんなこと考えてたんだ~』みたいなかんじで見られてしまっている。
美琴は『違う違う~!』と言いながら可愛らしく反論するも、顔が赤くなっていることをさらにからかわれてしまった。
上条と付き合い始めてからはこういったようにからかわれることが多い美琴だった。
◇ ◇ ◇
美琴いじりが加熱しているうちに半蔵の隠れがであるマンション前に到着。
それほど長い距離ではなかったはずだがいじられ続けた美琴にはかなり長い道のりに感じられ、飾り付けを行う前にかなり疲れていた。
「もうヤダ…みんな私のことからかいすぎよ…」
「だってお姉様ってからかいがいがあるからしょうがない。」
「しょうがないんだよ。」
「しょうがないわね。」
「超しょうがないですね。」
「うん。しょうがない。」
美琴は涙目になった。
そんな美琴をさらにからかったりなだめたりしながら6人はエレベーターを使い、借りている部屋がある7階へ上がったのだが
「ん…?」
と、ここで美琴はあることに気がついた。
おかしい。
部屋の中から気配がする。
「御坂さん。どうかした?」
すぐ隣を歩いていた姫神は美琴の異変に気づいたらしい。
心配そうな様子で美琴を見ていた。
「いや……半蔵さんから借りてる部屋に誰かいるみたい。4…いや5人ね。半蔵さんは今日用事があるって言ってからいないはずだし、黒子たちもまだ来てないはずなんだけど…」
部屋の中に誰かいるというのは美琴の能力でわかる。
間違いなく室内には5人いるのだ。
今までの陽気な空気が一変し不穏な空気が漂う中、絹旗が
「浜面も今日は滝壺と出かけるって言ってましたしあの2人ではないですね。」
「上条たち3バカでもないわね。この時間はまだ補習を受けているから。」
今度は吹寄が腕を組みながらそう言った。
3バカとは上条、土御門元春、青髪ピアスのこと、またこの3人が補習を受けているということは担任である小萌の可能性も消える。
ひょっとしたら魔術サイドの人間ではないか、と美琴は閃いたがインデックスによりその線は否定される。
「ステイルや神裂でもないんだよ。今学園都市に来ている魔術師はいないみたいだし新手の魔術師ってこともなさそうかも。」
「魔術師でもない…じゃあ一体誰が中に…」
「『妹達』でもないね。ミサカネットワークによると今は上位個体は今夜のパーティに備えて昼寝してるし下位個体はみんな病院にいるからさ。」
これで『妹達』の可能性も無し、身近な人の可能性が次々消滅し謎は深まるばかりだ。
「まずカギを持ってるのって私と半蔵さんだけだから他の人は入れないはずなんだけど……」
「そういえばそうか。じゃあお姉様と半蔵以外は入れないってことだから舞夏とかが来てる可能性はなさそうだし…まさか結標?」
「結標ってあのテレポーターよね。テレポートを使って他の人を連れ込んでいるって可能性がないとは言い切れないわね。」
吹寄は相変わらず腕を組みながらそう言った。
だが結標が中にいると決まったわけではなく、中にいる人が誰なのかは全くわからない。
「とりあえずドアが開いているかどうかだけ超確かめましょうか。」
「そうね。あ、吹寄さんたちは下がってください。」
予想外の状況のためいつ戦闘が開始されてもいいように非戦闘員である吹寄、姫神、インデックスを後ろに下がらせ絹旗がドアが開いているかを確かめる。
「…開いてますね。超どうしますか?このまま乗り込みます?」
「う~ん…早く準備したいから突入しようかな……でもせっかく飾り付けしてあるんだから荒らしたくないのよね…」
部屋に乗り込んで戦闘にでもなればせっかくの飾り付けがめちゃくちゃになることは間違いなく、この1週間の苦労が水の泡だ。
ここは大事をとって引くべきか、それとも一刻も早くこの問題を解決するため特攻すべきか、ドアの目の前で真剣に悩んでいると
「大丈夫でしょ。ミサカと絹旗とお姉様がいればどんなやつがいようとも秒殺できるって。ってなわけでミサカ、行っきまーす!!」
「あ!ちょっと待って!!」
「待ったな~い☆」
番外個体は美琴を無視してドアを勢いよく開け、血気盛んに室内に突入。
「あのバカ!油断しすぎなのよ!!絹旗、インデックスたち見てて!!」
「え、あ、超ちょっと!」
『超ちょっと』ってどんな日本語だ、とか今は気にしている場合ではない。
中で乱闘騒ぎをされては困るという考えよりも、万が一番外個体の身に何か起こってはいけないと思いが美琴の中で先行し、躊躇無く室内へと飛び込んで行った。
靴を履いたまま入ってすぐの短い通路を走り抜け、リビングとダイニングキッチンが一緒になった13畳ほどの広い部屋へと駆け込む。
(番外個体に何起こって無ければいいけど―――――)
美琴の思考はそこで中断した。美琴に異変が起きたわけではない。
入った室内で見たのが衝撃的な光景だったからだ。
「だァーからそれはそこじゃねェって言ってンだろうが!!さっきから何度も言わせンじゃねェよ!!!」
「えー…もうこの際どこでもいいじゃない。一方通行、細かい男は嫌われるわよぉ?それになんだか飽きてきたしぃ。」
「食蜂!!飽きてきたとはなんだ!!!こういう時こそ根性で乗り切るのことが根性だろ!!」
「おい軍覇、あんたもわけのわかんないこと言ってないで手を動かせっての。あ、垣根。私てっぺん届かないからアンタ能力で飛んでつけてきて。」
「待て待て麦野、てっぺんに飾る星は普通最後じゃないか?その前に周りの飾り付けをだな…」
と、いったようにレベル5のみなさんがわいわい騒ぎながら、天井に届きそうなほど巨大なクリスマスツリーの飾り付けを行っていた。
平和そのものだ。
「…………」
予想の斜め上を行く展開に黙りこむ美琴。
先に突入して行った番外個体はというと、一方通行が飾り付けをしているところを見て大爆笑、床を転げ回っていた。抱腹絶倒と言うやつだ。
しかし美琴は全く笑えない。
「これどういうメンバーよ…」
美琴は誰にも聞こえないようなくらいの大きさの声でつぶやいた。
一方通行、垣根帝督、麦野沈利、食蜂操祈、削板軍覇、下手すれば一国の軍隊を壊滅させることができるような恐ろしいメンバーが、どうしてここでクリスマスツリーの飾り付けをしているか検討もつかない。
と、今の美琴の言葉がレベル5たちに聞こえたらしく5人は一斉に美琴のほうを見た。
「え?あ、御坂さんじゃな~い♪上条さんへのドッキリ作戦は上手く進んでるのぉ?」
そんなことを言いながら美琴に近づいてきたのは5人の中で明らかに飾り付けに飽きていた食蜂。
彼女は2年経ったことでプロポーションがさらに強化されており、今でも美琴は食蜂が少し苦手だった。
「ま、まあおかげさまで今のところは順調だけどさ、なんでアンタ達がここにいるのよ!!ていうかカギかかってたはずでしょ!?」
「カギなら私の能力で大家さんを操って開けさせたけどぉ?」
「な……!」
食蜂の能力『心理掌握(メンタルアウト)』、他人を自由に操ることができる能力であり、何の能力も持たないマンションの大家くらいなら操ることなど朝飯前だ。
ぶっちゃけ犯罪だが、犯罪とかを気にする食蜂らレベル5ではない。『へー犯罪なんだーうっかりしてたー』とか言ってことを終わらそうとするだろう。
「完全な犯罪じゃない!…ってそうだ、なんでここにいr」
「おせェンだよ来ンのが。もっと早く来れねェのか?」
美琴の言葉を遮ったのはクリスマスツリーの飾りを持った一方通行、お前に言われる筋合いは無いと美琴は言おうとしたのだが
「そうだぞ!!お前にはやる気と根性がないのか!!」
「せっかくこの私が手伝ってやってるってのに当の本人がこんなに遅いとはね…上条も大切に思われてないわねー。」
「なあこれってどこに飾るべきだ?やっぱり真ん中らへんのが全体のバランス的にいいか…」
なぜかわからないが口々に愚痴を言われてしまった。垣根以外に。
当然愚痴を言われる筋合いは一切無いので美琴も反論に出る。
「いや私は時間通りに来たんだけど!?ていうか私の質問に答えなさいよ!それから麦野!!世界で1番大切に思ってるから!!」
美琴は若干のろけながらもなぜここにいるのかと再度レベル5sを追求。
すると5人は少し間を開けた後美琴を見て
「「「「「暇だったからに決まって(ンだろ?)(るだろ?)(るじゃないの)(でしょぉ?)(るだろ!!!)」」」」」
美琴は思った。
暇だったからといって人を操作してまでカギを開けて部屋に侵入するな、と。
またこのままここに居座られても面倒なので『出て行け』と言おうとしたのだが
「おお!これは協力な助っ人なんだよ!!」
「そうね。レベル5が5人も追加で手伝ってくれるのだから。早く終わること間違いない。」
「ちょ…2人ともいつの間に…」
いつのまにか室内に入ってきていたインデックスと姫神がレベル5sを手伝う流れにしてしまっていた。
どうやら美琴が叫んでいる声が外まで聞こえていたらしく、安全だとわかったのでみんな入ってきていたようで、もう一方通行たちに帰れと言える雰囲気ではない。
そして結局美琴と5人の友人、レベル5の5人、そしてお昼過ぎからは黒子ら友人名も加わり総勢19人でクリスマスツリーの飾り付けをすることとなった。
◇ ◇ ◇
多くの友人に協力してもらうこと数時間、全ての準備が終わり遂にドッキリ大作戦決行の時がやってきた。
現在の時刻は7時15分、太陽は既に沈んでいるため外は真っ暗になっており、街中はこの日のために飾り付けされたイルミネーションで明るく彩られていた。
また特別な日を大切な人と過ごそうと考えている学生は多く、完全下校時刻をとっくに過ぎているにもかかわらず町はカップルで溢れている。
もちろん美琴もこの世で最も大切な人、上条当麻と一緒にイヴを過ごすために半蔵に借りたマンションの一室でソファに座り上条が来るまで待機している最中だ。
「当麻まだかな……それにしてもツリーの飾り付けにあんなに苦戦するとは……予想外だったわね…」
結局飾り付けと料理の下準備が終わったのは午後6時過ぎ、普通ならば3時くらいまでに終わってもおかしくないのだが、人数が多いことが災いしてかなり時間がかかってしまった。
まあメンバーがメンバーだったので仕方ないのだが…
そんなこんなでいろいろと大変だったが無事に準備は終わり、今朝この部屋に入ってきた時とは違う箇所がいくつかある。
みんなで飾り付けした大きなクリスマスツリー、台所には下準備を終えた料理、そして美琴の姿は私服姿から可愛いサンタの格好に変わっていた。
「は、恥ずかしい…これも予想外だったわね。まさか佐天さんがこんな服を用意してくるなんて…」
美琴がサンタの格好をしている原因は佐天だった。
当然最初は拒否したのだが、目を輝かせた番外個体と食蜂により強引に着せさせられたのだ。
じゃあ今は誰もいないのだから脱げばいいじゃないか、と思うかもしれないが今朝美琴が来てきた私服を友人達が持ていってしまったため着替えるに着替えられない状態だった。
「はぁ…なんでこうなったんだろ……それにしても結構緊張するわね……ほんとにバレてないのかな…」
全ての準備は万端だが唯一バレていないかだけが気になる。
友人達が上条に話すことはないと思っていたが、今になって食蜂辺りが話してしまっていそうで怖い。
万が一バラしてしまっていたら超電磁砲ぶっ放す、とか考えていると美琴の携帯が鳴った。
「ん?…あ、妹だ。」
携帯を手に取ってみて見ると画面に表示されていた名前は『ミサカ妹』、彼女は今打ち止めのパーティへ出席しているはずだ。
多分上条が向こうの会場を出発したという連絡だろうと思い、美琴は通話ボタンを押し携帯電話を耳に当てる。
『もしもしお姉様ですか?今こちらのの会場からお義兄様が出発しましたよ。何事もなければ後13分46秒後にそちらに到着する見込みです、とミサカはお義兄様の行動について説明します。』
電話の向こうのミサカ妹はいつも通りの口調で、美琴の予想通り上条が出発したという連絡だった。
2年経ちかなり表情豊かになったがミサカ妹だが、電話越しだとあまり変化はわからない。
そんなミサカ妹からの電話なのだが、今の台詞の中に気になる単語あった。
「何事もなければ……だ、大丈夫かな…不幸体質で何か変なことが起こったりしないといいんだけど…」
そう、美琴が今になり急に心配になったのは上条の不幸体質。
ここに来るまでに何か不幸な出来事が起こらないとは言えない、というか高確率で何か悪いことが起こる。
しかし上条を迎えに行ってはせっかくのドッキリ大作戦が台無しになってしまうためどうするべきか考えていると電話の向こうのミサカ妹が
『大丈夫です、とミサカははっきりきっぱりと言い切ります。』
「はっきりきっぱりって……なんでそこまで言い切れるのよ。当麻の不幸体質を考えると何かが起こってもおかしくないと思うんだけど…」
「護衛がついているからです。お義兄様に気づかれないようにメルヘンと番外個体がこっそりついていきましたから、とミサカは大丈夫と言い切れる理由を説明します。
「護衛にあの2人って……」
逆に不安だったがそれは口にしない。してはいけない気がする。
「わ、わかったわ。教えてくれてありがとね。」
『いえいえお、お礼など必要ありません。お礼を言うくらいならお義兄様をミサカに譲ってください、とミサk』
「ふざけんな。」
『冗談ですよ。そこまで本気でキレなくても…まあ何はともあれ成功することを祈っています。それでは失礼したします、とミサカは応援することでお姉様の機嫌を治そうと考えつつ電話を切ります。』
「あ!ちょっと……って切れた。まったくあの子は…」
電話が切れたことにより再び室内は静かになり、後15分ということもあって美琴はさらにそわそわし始めた。
「あとだいたい15分で到着か…よし!もう1回確認しとこっと!!」
すでに何十回と確認をしているのだが、美琴は再度室内の確認を行った。
その後すぐに確認を終え、ソファではなく入り口のすぐ前でドキドキしながら上条の到着を待つこと約15分、ついにその時はやってきた。
ガチャ、っと入り口の扉が音をたてドアノブが少しだけ回った。
「ッ!!き、来た…」
部屋の鍵は空いているのですぐに扉は開くことは間違いない。
この時点で美琴の緊張はMAXに達していた。
本当に成功するのか、上条は喜んでくれるのだろうか、怒ったりしないだろうか、ていうか入ってくるのは本当に上条なのだろうか、直前になって不安が大きく膨らんだが上条はもうドアの前にいる。
不安を振り払う間もなく、扉が開くと同時に美琴は手に持っていた3つのクラッカーの紐を引いた。
「メ、メリークリスマスっ!!」
「ッ!!?」
クラッカーはパァン!!と大きな音を立て、中からは色とりどりの紐や紙ふぶきが飛び出し、部屋に入ってきた一人の少年に思い切りかかった。
入ってきた少年は間違いなく上条、さすがにここで空気を読まず別の人が入ってきたりはしなかった。
そして上条の反応は…
「な、なんだ敵しゅ…ってみ、美琴ー!?なんでここに!?ここって半蔵の隠れ家なんじゃ…?ってその格好可愛いなー!!何ココ天国?」
上条は相当驚いたようで思ったことを次々声に出していた。
目の前でおろおろと慌てる上条を見た美琴からは不安が一気に吹き飛び、にっこり笑って上条に抱きついた。
「お、おい美琴!これどうなってんだ!?」
「えへへ~ドッキリ大成功~♪」
「……へ?ドッキリ…?」
数秒前まで『怒られないか』などと考えていたが、ほぼ1週間ぶりの上条を目の前にした美琴は抱きつかずにはいられなかった。
というより怒られてもいいから久しぶりの上条に抱きつきたかった。
1週間ぶりの上条を堪能すべく、美琴が上条の胸に顔を埋めていると
「あの美琴サン?…これってどういうことなんでせうか?ていうかその格好はヤバいだろ…」
未だ状況が全く掴めていないらしい上条がちょっと変わった口調で質問してきた。
その質問に答えるため美琴は上条に抱きついたまま顔を上げた。
「あのね、ドッキリっていうのはね…」
美琴は上条にこの1週間のドッキリに関する出来事を全てを明かした。
小萌先生が2人で過ごすドッキリを発案したこと、半蔵がこのマンションを貸してくれたこと、友人が協力してくれたこと、など全てだ。
ちなみにさすがに説明が長くなったので、説明している途中に一旦美琴は上条から離れていた。
そして説明を受けた上条はというと怒ってはいないがなんとも微妙な表情をしていた。
「マジか…じゃあ半蔵が忘れ物を取りに行ってくれって俺に言ってきたのはこのためだったのか。全然気づかなかった…」
「よかった気づいてなくて♪でもほんとにみんなすっごい協力してくれたんだから。」
「そっか…みんなにお礼言わないといけないな。それにしてもクリスマスイヴに美琴と2人きりで過ごせるなんて……夢みたいだ。ありがとな、美琴。」
上条はお礼を言うとともに美琴に笑顔を見せ、頭を優しくなでてくれた。
この行動により上条が全く怒ってない上かなり喜んでくれているとわかったことで美琴の心の端に残っていた不安が完全に消え去った。
「えへへへへ…じゃあほら、早く入って入って♪」
「わっ、待てって。今靴脱ぐからさ。」
美琴は上条の右手を引き、クリスマスツリーが飾られている部屋へ上条を案内する。
まあ案内と言っても3㍍ほどの短い通路を進めばすぐに部屋に到着できる。
そして美琴が1週間近くかけて準備した室内を見た上条は
「おー、広いしすげー飾り付けだな。それに家具もそろってるのか。」
「でしょ?家具は最近郭ちゃんが持ってきたみたいで部屋を借りたときから置いてあったのよ。」
「そうなのか。じゃあこっちの部屋は?」
「あ!そっちは…」
この部屋は2LDKのためダイニングキッチンとリビング以外に2部屋が存在するのだが、そちらは使用しないつもりだったので飾り付けはしていない。
そのためその2部屋は見せないつもりだったのだが、そんなことを知らない上条はおかまい無しに右側の壁にある2つの扉のうち片方を開けた。
「ここは…寝室か?」
「そ、そうみたいなのよ…まあ最初は特に何もない殺風景な部屋だったんだけど一昨日の朝来たらベッド置いてあったのよ。」
ベッド、それはこの部屋を借りた当初は無かった家具。
しかし今は『美琴と上条2人で仲良く寝ろ』、と言わんばかりに豪華なダブルベッドが部屋に置かれている。
先ほどの飾り付けの際にベッドを見ながら笑っていた番外個体や食蜂辺りが怪しいが、正確に誰が持ってきたのかはわからない。
改めて“いったい誰が持ってきたんだろう”、と考えていると隣の上条が
「なんだ美琴。一緒に寝たいのか?」
「ッッッ!!?」
完全な不意打ちだった。
ここまで美琴ペースで話が進んでいたため、上条からの反撃ともとれる台詞に素早く対応ができない。
自分では見えないが絶対顔が赤くなっている。
「い、いきなり何言ってるのよ!!」
「だってずっとベッド見てるんだもん。で、どうなの?」
「そ、そりゃ一緒に寝たくないって言ったらウソになるかもしれないけど……って、この話はもういいからさ!ご飯にしない?お腹空いてるでしょ?」
強引に話題を晩ご飯へと変更、すると上条は腹を軽く押さえ
「そうだな、今日は夜たくさん食べようと思って昼ご飯も少なめだったし結構腹減ってるかな。もしかして晩飯も用意してくれてるのか?」
「もちろんよ!今日はすごい料理を用意してあるんだからっ♪」