とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

19-856

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匿名ユーザー

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ラブラブドッキリ大作戦!! 後編




 現在の時刻は午後11時半、上条が部屋に到着してからすでに4時間以上が経過しており、その間美琴は至福の時間を味わっていた。
 この4時間は常盤台の授業で習ったイタリア料理のフルコースを上条に振るまい、お互い食べさせ合ったりしたりして2人きりで過ごす初めてのクリスマスを楽しんだ。

 美琴の手作りイタリアフルコースを食べ終えた2人はここ数日間会えなかった鬱憤を晴らすかのようにいちゃついていた。
 ソファに2人で座り、美琴は上条の右腕に両腕を絡めて密着していた。

 こうして2人で過ごしたり料理を振る舞うことは普段と変わらない。
 今もここ数日間会えなかった間に起きた出来事を話しているくらいだ。
 だが『クリスマスイヴ』という一年にたった一度のイベントが美琴と上条の雰囲気を最高までもり立てていた。 
 室内飾られた大きなツリー、流れるクリスマスのメロディ、美琴のサンタ姿、恋人同士の2人とってはたまらないシュチュエーションだ。

 そんなクリスマスな雰囲気全開な空間で2人が寄り添い合って話をすること約1時間。
 
「あ、そうだ。当麻にプレゼントがあるの。」

 ちょうど会話が途切れたため美琴がそう切り出した。
 美琴の言葉を聞いた上条は少し以外、といった様子だった。

「プレゼント?ドッキリと料理だけじゃないのか?」
「うん。やっぱり形に残る物を渡したくて。えーと、ちょっと待っててね。」

 そう言って美琴は惜しみながら上条から離れ、室内にある収納扉の前へとダッシュで移動。
 そして扉を開け、その中からきれいに包装された一つの箱を取り出し、その箱を両手で大事そうに持ち上条の元へと素早く戻る。
 立ち上がってから上条の元へ戻るまでわずか10秒、美琴はとにかく今は上条から離れたくなかった。
 美琴はソファに座り直し、もう一つのクリスマスプレゼントを上条へ手渡す。
 
「はい!これが私からのクリスマスプレゼント!でも今回は手作りじゃないのよね…」
「手作りとかそんな気にするなって。美琴がくれるならなんでも嬉しいんだからさっ!じゃあ早速中身を拝見しようかな。」

 上条は本当に嬉しそうに鼻歌を歌いながら素早く包装を解き、箱を開けた。
 その中身とは―――――

「これは…カバン?」

 美琴が上条へのプレゼントととして選んだのはベージュ色の肩掛けカバン。上条は疑問系だったが誰がどう見てもカバンだ。
 一週間前上条の部屋に泊まった時、3年間使い続けたため穴が開くほどボロボロになったカバンが目に入ったことでこれをプレゼントしようと思いついた。
 そして3日前、空いている時間にデパートへ足を運び買ってきたわけだ。

「今使ってるカバンはもうボロボロだし、来年からは大学生になるんだから新しいカバンが必要かなー、と思って。……どう?」


 と、尋ねるも目を輝かせカバンに視線が固定されている上条を見れば喜んでいることは明白だ。

「ありがとな美琴!大切にするよ。でもこれ高かったんじゃないか?」
「そんなことないわよ。ていうか大切にするのはいいけどちゃんと使ってよね?」

 美琴が『ちゃんと使ってよね?』と言うのには理由がある。
 以前上条に服をプレゼントしたときも今日と同じように喜んでくれたのだが、もったいないとか言って使ってくれなかったことがあったのだ。
 だから美琴は上条に念を押したのだが、上条は特に気にした様子も見せず笑いながら言う。

「それくらいわかってるって。使わないわけないだろ?で、もちろんだけど俺からもプレゼントがあるんだ。」
「ッ!」

 上条からのクリスマスプレゼント、これは美琴も予想していた。
 過去のクリスマスや誕生日や記念日に上条がプレゼントをくれなかったことはないので今回も何かくれるのでは?と予想するのは当然。
 内心『キター!!』とか思っている。
 美琴にとって上条からもらったものはどんなのもので宝物なので、密かにだが今回は何をくれるのか楽しみにしてたのも事実だ。
 まあ『どんなもの』と言っても限度はあるのだが…

 そんなわけで何をくれるのだろうかと思いわくわくしながら待っていると、上条は自分の上着の右ポケットから小さな箱を取り出した。

「美琴、これを受け取ってくれ。」
「うん!ありがとっ!」

 笑顔でお礼を言ってから包装された縦横高さ4センチほどの小さな正方形の箱を上条から受け取りマジマジと見つめる。
 このように中身のわからない形で渡された時は中身を予想するのも一つの楽しみだ。
 そして上条はそんな美琴を見て楽しんでいるのだが、そんなことを知らない美琴は真剣に中身を考える。

(何かしらね…箱のサイズからしてネックレスとかアクセサリー類かな?でも良い夫婦の日にブレスレットもらったのよね。ていうと…宝石とか…宝石!!!)

 中身を予想するうちにたどり着いた一つの答え、『宝石』。
 美琴はそこから一つの物を連想する。

(ま、まままままさかクリスマスイヴってことで指輪を渡してプロポーズとか!?…いやいやそれはないって……でも…でもひょっとして…)

 それはないと自分自身に言い聞かせるのだが、心の底では期待してしまう。
 さらに頭の中はフル回転していたも『プロポーズ』という言葉が浮かび上がったせいで体がフリーズしてしまっていた。
 ちなみに美琴は現在16歳、法的には結婚できる年齢だ。


「美琴?開けないのか?」
「ッ!!」

 箱を両手の平に乗せたまましばらくフリーズしていたため、気づかないうちに上条が心配そうに顔を覗き込んできていた。
 驚いたせいで箱を落っことしそうになるもなんとか手のひらの上に止めることに成功、美琴は

「あ、ご、ごめん!い、いい今開け、開けるから!!」
「だ、大丈夫か?声裏返ってし震えてるぞ?」

 実際は声だけでなく手も震えていた。
 美琴は心配している上条に大丈夫の合図として無言で小さくうなずき、震える手で箱のリボンをほどいた。
 この時点で心臓がありえない早さで動いている気がするので(本当に早くなっている)一度深呼吸をして落ち着こうとするも全く落ち着くことができない。
 心臓のドキドキがヤバい状態のままふたに手をかけその状態で再び停止する。
 上条がくれる物なのなのだから中身が何でも嬉しい、それを再確認しゆっくりと開けた。

「これって……」

 美琴の目に映った箱の中身は光り輝く1つの指輪―――――ではなく

「…カギ……?」

 見間違いなどではない、箱に入っていたのは赤いリボンがついている1つのカギ。 
 確かに光り輝いてはいるが指輪と全く違う。

「えーと………」

 美琴としては上条からもらえるものはなんでも嬉しいのだが、さすがにこれはどういうことなのかよくわからない。
 なぜプレゼントがカギなのか、一体どこの部屋のカギなのか、それとも部屋のカギではなく何か別の物のカギでそっちが本命なのか。
 いろいろな思惑が頭の中を駆け巡ったもののこれといった答えは導かれなかった。
 かと思いきや、数秒かかって美琴は思い出し、とぎれとぎれに上条に尋ねた。

「あの、これってまさか、部屋のカギ…?」

 『部屋のカギ』、というのは上条の寮の部屋のカギのこと。
 美琴は宝物のように大切にしていたのだが、1週間前どこかで合鍵をなくしてしまっていて今は持っていないのだ。
 無くしてしまった日に上条が“新しく作ってくる”と言ってはいたがまだ受け取っていないため今渡されたカギが上条の部屋の合鍵である可能性は高い。
 返答を待つ美琴に上条から告げられた言葉は

「ああそうだぞ。クリスマスのプレゼントにはもってこいだと思ってさ。」

 と、上条は得意げに言う。
 これで確定した、上条からのプレゼントは『上条の部屋のカギ』だと。
 だが美琴は素直に喜ぶことができなかった。
 予想外のプレゼントに美琴は戸惑いの色を隠そうとしたのだが、美琴大好きの上条に隠し通せるわけがなかった。

「……美琴?ひょっとして嬉しくなかったのか?」
「う、ううん!すっごく嬉しい!ありがとね!」

 と、口ではお礼を言うものの正直納得いかない。
 せっかくのクリスマスプレゼントにこれはないだろう、というのが美琴の本音だ。
 しかし文句など言えるわけがない、口にすることができるわけないのだ。

(…そうよね…当麻は補習で忙しかったんだし、補習をすることになった原因も私なんだから仕方ないわよね…)

 美琴は自分自身にそう言い聞かせるのだが、箱を開ける前の期待が大き過ぎたためやはり落胆も大きい。
 
 すると上条は急に立ち上がり、窓の前へと移動をした。

「…どうしたの?」
「なあ美琴、ちょっとこっちに来てくれ。」

 一体何なのだろうか、美琴はそんな疑問を持ちながらソファから立ち上がり、窓の前に立ち手招きをする上条の元へと歩み寄った。
 するとズボンのポケットに両手を入れたままの上条が突然美琴に言った。


「美琴、お前今結構がっかりしてるだろ。はっきりとわかるぞ。」
「ッ!!?そ、そんなことないわよ!!プレゼントすっごい嬉しいんだから!!」
「ウソはいいよ。それに前にも言っただろ?美琴のことはなんでもわかるって。大方想像してたプレゼントと違ったからがっかりしてるんだろ?」
「あぅ…」

 本当に全て見破られていた。
 大方というより完全に上条の言う通り、美琴は上条への申し訳なさから一時言葉を失ってしまった。

「そう落ち込むなよ。まあとりあえずだな、外の景色でも見ながらもっと話でもしようぜ。」
「え?でもこの部屋からの景色はそんなに良くないわよ?まあ夜だから多少のイルミネーションは見えるとは思うけどさ。」

 美琴の言う通りこの部屋の景色は良くない、だからカーテンを引いてあるのだ。
 もし景色がよければカーテン全開で上条と夜景を楽しんでいただろう。
 だが上条は美琴の忠告を聞かなかった。
 
「ま、いいじゃん。よっと。」

 そう言って上条は目の前にカーテンに手をかけ、勢い良く横へ引いた。
 しかし外は真っ暗なため外の景色など見えるわけがなく、窓には美琴と上条が映っているだけだ。向かいの味気ないビルさえも見づらいくらいだ。

「うわー外が全く見えねーな。想像以上に真っ暗だ。」
「ね?言ったでしょ?下の方は明るいけどここは7階だからイルミネーションも見え…な…?」

 そこまで話したところで美琴の言葉が濁った。別に美琴や上条に異変が起きたわけではない。
 敵襲があったわけでもないし、友人達が部屋に入ってきたわけでもない。
 では一体なぜ美琴の言葉は濁ったのか、理由は簡単。

 変わったのだ、目の前の光景が。

「わ…何これすっごい大きなクリスマスツリー…」

 数秒前まで窓の外に見えていたのは暗黒の世界だったはずだが今は全く違う世界が広がっている。
 向かいに建っている味気ない鉄筋コンクリート造りのビルはイルミネーションによって全長15メートルはあるだろうかという巨大なクリスマスツリーへと変貌を遂げているのだ。
 緑が樅の木を表し、赤、オレンジ、青、などの光が飾りとなり、てっぺんには星が黄金に光り輝いている。
 またツリーは下のほうの部分が横に広がっているので、隣の店にまでイルミネーションは広がっている。つまりそれくらい巨大なのだ。
 そんなツリーを前にした美琴は沈んでいた気分がウソのように元に戻っていた。

「わぁ…きれい…ねぇこれってどこかのお店のイルミネーションなのかな。」
「ん……それはだな、ほら文字が出てきただろ?読めばわかるよ。」
「文字…あ、ほんとだ。」

 話している間にクリスマスツリー中央にイルミネーションによって英語で文字が浮かび上がっていた。
 美琴は上条に言われた通りにその文字を読み上げてみる。
 
「えと…“Merry Christmas Mikotho (メリークリスマス 美琴)”………え?」

 美琴は自分の目を疑った。
 見間違いだろうか、いや見間違いに決まっている、自分の名前が書かれているなんてありえないことだ。
 
 美琴はもう一度イルミネーションでできた文字を読み返してみるが

「見間違いじゃない…何…これ?ど、どういうこと?」


 全く状況がつかめない美琴は隣の上条に説明を求めた。
 すると上条はにっこり笑って

「何って、俺からのプレゼントさ。」
「プレゼント…?え?え?だからどういうことなの?『俺からの』ってことは当麻が準備したってこと?でもこの部屋のことはさっき知ったはずなのにどうやってこの部屋に合わせて準備を…?」

 美琴の言う通りこの部屋で2人きりで過ごすということを上条は先ほどまで知らなかったのだから、向かいのビルに美琴に見せるためイルミネーションでツリーを作るなんてできるわけがない。
 だが上条は相変わらず笑っていた。
 
「ふっふっふ…それはだな…」

 先ほどとは違う笑みを見せ言葉を一旦そこで区切った。
 そして上条はポケットから少し大きめのクラッカーを取り出したかと思うと

「ドッキリ!!大成こ~う!!!」
「わっ!」

 その台詞とともに美琴に向けてクラッカーが発射された。
 中からは紙吹雪やカラーテープとともに『ドッキリ大成功!!』と書かれたテープも飛び出している。

「…………へ?ドッ…キリ…?」
「おう!!いやーよかった成功して!どうだ!?びっくりしたか!?ドッキリしたか!?」

 そんなことを言われても今の美琴には目の前で上条がはしゃいでいるということ以外全く状況を理解できない。
 とりあえず美琴は頭の中で今まで起きた物事や状況を一つひとつ整理してみる。

 ここは半蔵に借りているマンション
 上条に対してドッキリを成功させたはずだ
 プレゼントも渡した
 が、上条からのプレゼントは少し残念だった
 しかし今外の向かいのビルにはイルミネーションで作られた大きなクリスマスツリーが
 しかも自分の名前入り
 そして上条からクラッカーを鳴らされた

 以上のことから考えられることは―――――

「美琴たーん?上条さんとしてはそろそろ何か反応がほしいんですけど…」 

 美琴が固まり続けること約1分、最初ははしゃいでいた上条もあまりに美琴からの反応がないので心配そうに見つめていた。
 そして美琴は動き出す。

「………………ええええええええええええええええええええええええええッッッッッッッ!!??!?ド、ドドドッドドドッキリって一体どういうことよ!!!!!??」
「うおっ!!」

 頭の中で予想外過ぎる展開が起きていると認識したため思わず立ち上がり叫んでしまった。
 動揺してる感がハンパない上、若干電気が漏れている。
 こんな時は上条の右手の出番。

「うぉおおお電気はマズい!!お、おち、落ち着け美琴たん!!ちゃんと説明してあげるからっ!!」
「あぅ。」

 上条は瞬時に美琴の頭の上に右手を置い、とりあえず電気は治まった。
 そして上条に『まず座って深呼吸でもしなさい』と言われ即実行、5分かけて落ち着くことに成功した。
 
「落ち着いたか?」
「うん……でも、ど、ドッキリってどういうこと…?」
「そのままの意味さ。俺が美琴にドッキリを仕掛けたんだ。で、美琴がドッキリに引っかかったってわけ。」
「え?当麻が私に?でも私が当麻にドッキリを仕掛けたんだけど…」
「だからそれもドッキリの一部だって。」

 今美琴の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていた。
 全くわからない。
 一体今自分がどういう状況におかれているのだろうか、理解することができない。

「そ、その、当麻が私にドッキリを仕掛けたって言うならどこからがドッキリなの!?」
「全部。」
「ぜ、んぶ……?」


 想像を絶するような返答に美琴は次の言葉が出て来なかった。。
 しかし話さないことには何が起こっているのかを知ることができないので、とにかく思いついたことから質問してみることにした。
 
「で、でも部屋に入ってきたときすっごく驚いてたじゃない!」
「うん。だって何回も何十回も何百回も驚く練習したもん。」
「……えと、“驚く練習をしてた”ってことは私がドッキリ仕掛けようとしてること知ってたの…?」
「いやだからそれ今言ってたじゃん。それに知ってたっていうか俺が小萌先生に頼んだんだよ。“美琴に俺にドッキリを仕掛けるように言ってください”ってな。」
「え…」
「だから全部ってのはな、この1週間のこと全てさ。」

 美琴はまだ頭が追いつかなかった。
 ドッキリと言われてもあまりにスケールが大き過ぎる。
 一体どこからがドッキリで何がドッキリでないのかもうわからない。

「ちょっと待って…全部ってそこから?ドッキリは当麻が考えたことだって言うの?」
「ああ。この二重ドッキリを思いついたのは2週間前だったかな?思いついた時はみんなの協力がいるから無理かと思ったんだけど。」
「そ、そうなんだ………あのさ、今みんなの協力って言った?ひょっとして補習の間みんなが当麻のドッキリを手伝ってたとか…?」
「えーとだな…まあそれも含めて説明するよ。とりあえずソファに座ろうぜ。」
「う、うん…」

 そしてソファに座り、上条は美琴にさらなる詳しい説明を始めた。

 まずこの1週間あったという補習がウソだったと言うこと。
 その補習があると言って美琴と会っていなかった間にイルミネーションのクリスマスツリーを作ったりとドッキリの準備を行っていたということ。
 そして美琴のドッキリを手伝ってくれていた友人達、黒子達昔からの友人、マンションを貸してくれた半蔵、吹寄や絹旗などの女友達、さらにはレベル5s達はみんな上条の指示で美琴を手伝っていたということ。
 またさっき部屋に入ってきたときドッキリを仕掛けてきた美琴超可愛いと思ったこと、以上上条は一つひとつ丁寧に話してくれた。
 
 上条から全ての真相を明かされた美琴は

「……やられたわ……準備初日の段階でドッキリを仕掛ける場所まで決まるなんて上手くいき過ぎてると思ってたけど…まさかみんなが当麻の指示で動いてたとは…準備してた時はこんなことが起きるなんて全然予想できなかったわ…」
 
 どうしてもっと不思議に思わなかったんだ、と言わんばかりに大きなため息をついた。
 反対に上条はしてやったりといった様子だ。

「いやほんとこの部屋の向かいで準備してるわけだからバレないか毎日ドキドキだったよ。」
「うぅ~……せっかく私のドッキリが成功したと思ってたのに…ていうかなんでわざわざ小萌先生に頼んでまで私にドッキリさせたの?普通にドッキリ仕掛ければよかったんじゃ…」
「だって二重ドッキリのほうがが面白いじゃん。」
「面白いって……でもこの部屋の飾り付けも私が作った料理も全部知ってたんでしょ?それじゃ私のプレゼントが半減してるような…」
「いや俺は美琴が準備を始めてからはこの部屋に入ってないし料理の内容も知らなかったぞ?」
「あ、そうなんだ…」


 上条が室内の飾り付けと今日の料理内容を知らなかったということがわかり一安心。
 ようやく気分が完全に落ちついた美琴はにっこり笑って

「あの…ありがとね。」
「ん、ああ。ていうかお礼を言ってもらえるとは…実は怒ってないかドキドキしてたんだよ。」
「怒るわけないじゃない。当麻は私のためにドッキリを考えてくれたんだから。まあさっきはプレゼントがカギだけかと思ってたけどツリーまで…最高のクリスマスプレゼントよ。」

 上条が自分のために頑張ってくれたことが本当に嬉しかった。
 いい雰囲気だしキスくらししてほしいな、と思って上条に寄り添ったのだが

「いや……カギとツリーだけじゃないんだよ。」

 などと言い出した。
 それを聞いた美琴は寄り添ったまま上条の顔を見る。

「だけじゃないって……まだ何かプレゼントがあるの?」
「ある…っていうかさ、美琴気づいてないだろ。」
「気づいてない?どういうこと?」

 上条の言っていることの意味がわからない。
 “気づいていない”ということはもうすでに上条が何かプレゼントを渡してくれている、もしくは室内に置いてあるということなのだろうが美琴にはそのプレゼントがどこにある何なのか全くわかならない。
 頭から煙が出るくらいもう一つのプレゼントが何なのか考えていると見かねた上条が

「やっぱりわからないよなー。絶対わからないようなプレゼントだもん。」
「わからないようなプレゼント……わざとわからなくしてるってこと?」
「その通り!!だから答えを教えてやるよ。」
「う、うん。あの、一応聞くけどこの部屋の中のどこかにある物なんでしょ?」
「いやこの部屋の中にある物っていうか……」

 上条はそこで一旦区切った。
 美琴は『ていうか』何なんだろうと思い、上条をジーと見ていると

「プレゼントはな、この部屋なんだ。」
「………………は?」

 上条の言葉を聞いた美琴は自分の耳を疑った。
 今上条はなんと言ったのだろうか。
 さすがにそれはないだろうと思い頭の中で今上条が言った台詞を何度も繰り返す。
 
 数十回繰り返した。聞き間違いではない。
 確かに今上条の口から『この部屋』と発せられていた。

「えと………言ってる意味がわからないんだけど…」
「いやだからこの部屋が俺からのクリスマスプレゼント。」
「だからそれがよくわからないのよ。だってここは半蔵さんの隠れ家なんでしょ?それに私には自分で借りてるマンションがあるんだからここには住めないわよ。冗談はいいからほんとは何なの?」

 美琴は上条の言うことを冗談だと思い丁重にお断りした。
 きっぱり断られた上条は不満そうに言う。
 
「えー…住まないの……?」
「当たり前でしょ!!そんな悲しそうな顔しても人の部屋なんだから絶対にダメ!全く何考えてるんだか…」

 美琴はふいっと上条と正反対の方向を向いた。これは早く本当のことを言え、という思いからの行動だ。
 そんな美琴を見た上条は少し悲しげな声で言う。

「そうか…せっかく美琴と2人で住もうと思ってこの部屋用意したのに。」
「だからそんなこと言っても絶対に住まな…………え」


 美琴の首は180度回り上条の方を向いた。
 すると悲しそうな声とは反対に上条はものすごくニヤニヤしながらこちらを見ていた。
 美琴は聞き間違いかと思いキョドりながら尋ねる。

「ちょ、え…?い、いい今なんて?」
「いやだから美琴と2人でここに住もうと思ってこの部屋をプレゼントしようと思ってたのに……2人で住みたくないのか…上条さんショック。」

 と、上条は全くショックを受けてなさそうに言った。
 そんなことを言われれば美琴の脳内はパニックである。

「え、あ、よ、その、す、住みたくないわけないでしょ!?で、でででもここは半蔵さんから借りてる部屋だから勝手に住んでいいわけ……ってまさかこの部屋半蔵さんから買ったの!?」
「いや半蔵から買ったりしてないぞ。元から俺が借りてる部屋だし。」
「へ?」

 美琴がまぬけとも言える声を出した時だった。
 上条は再びポケットからクラッカーを取り出しかと思うと

「これぞドッキリ第2弾!!『一緒に暮らそうぜ大作戦』大成功!!」

 そう言うとともに先ほどと同じようにクラッカーの音が室内に鳴り響き、飛び出した紙吹雪などが美琴に降り掛かっていた。
 しばらく何が起こったのかわからなかったが、すぐ目の前でニコニコ笑っている上条を見て

「あ、あの……まさかとは思うけど…この部屋は当麻が借りてた部屋で一緒に住もうってこと…?それからさっきくれたカギもこの部屋のカギ…?」
「その通りさ!で、どう?住むだろ?住むよな?ていうか住まなきゃ泣くよ?」
「そ、そりゃ一緒にだったら住むけどさ!説明してくれる!?半蔵さんがここを紹介してくれたのよ?」
「だからこの部屋を借りてから俺が半蔵頼んだんだよ。『美琴にこのマンションの部屋をお前の隠れ家だって言って紹介してくれ。』ってな。」

 上条の言葉に美琴は再び混乱する。
 半蔵の隠れ家ではない?
 上条が元から借りていた部屋?
 急にそんなこと言われても信じられるわけがない。
 と、ここで美琴は最初に部屋に来た時のことを思い出した。

「で、でも最初この部屋に下見に来た時は浜面さんと滝壺さんがいたわよ!?」
「ああ、それも俺の指示な。」
「え…また!?」
「うん。ドッキリを成功させるために『半蔵の隠れ家』って印象を強くしなきゃダメだと思って浜面と滝壺に“部屋にいてくれ”って頼んだんだよ。あ、それから俺の部屋のカギ無くしたって言ってたけどさ。」
「な、何よ…」
「美琴のカバンからカギ盗ったの浜面なんだよね。もちろん俺の指示で。」
「はぁッ!!?」

 美琴は思わず劈くような大声を出した。
 隣の部屋に聞こえるのではないかというほどの大きな音量の声だったが上条は特に気にせず説明を続ける。
 
「美琴がこの部屋を夢中で下見してる間にカバンからこっそりと盗っといてって頼んだんだ。」
「な、なんでそんなことさせたのよ!!私がどれだけ困ったか知ってるの!?」
「ごめんごめん。だって美琴が俺の補習が終わるまで意地でも会わないみたいな雰囲気だったからさ、カギを盗っておけば無くしたって言うために俺に会いに来るだろうと思って。」

 あっはっは、と笑う上条。
 美琴は怒るに怒れなかった。
 
「そ、それだけのために……」
「いや一応カギをプレゼントした時すぐにこの部屋がプレゼントって気づかれないようにする効果もあったんだけどな。」

 言われてみれば。
 確かに美琴はプレゼントされたカギを上条の部屋のカギだと完璧に勘違いしていた。
 美琴は『結構うまいこと考えているんだ』、と少し関心していたが一つ気がかりなことがあった。

「ていうか私がカギを無くしたことをメールで連絡したらどうするつもりだったのよ。浜面さんにカギを盗らせた意味なくない?」
「それはそのとき考える予定だった。………一応聞くけど怒ってる?」
「………まあ私に会うためだったんだから許してあげるわ。」

 カギを盗ませた理由が『困った美琴の顔を見るため』とかだったら怒りの電撃が炸裂していただろう。 
 と、ここで美琴は『カギ』の話題から一つ思い出した。

「そうだ!カギって言えば私もう持ってるんだけど!」
「え?」
「ちょっと待ってよね…えーと…」

 美琴は側に置いてあったカバンから半蔵より渡されていたこの部屋のカギを取り出し、これが証拠だと言わんばかりに上条に見せつける。

「ほら!半蔵さんからもう渡されてるんだけど!これってドッキリ失敗じゃない?詰めが甘いわよん♪」


 美琴はしてやったりといったように言った。
 ここまで完全に上条のドッキリに引っかかっていたので一矢報いることがなんだか嬉しかった。
 だがそんな喜びもつかの間。
 
「ああ、それならもう使えないぞ。」

 上条はさらっとそう言った。
 この発言によって美琴の勝ち誇りタイム終了、再び質問する側になった。

「え?な、なんで?」
「昨日のうちに俺が新しいカギに変えといたから。だからさっきプレゼントしたカギでしかこの部屋は開かないんだよ。残念だったな美琴!」
「う、ウソ…でも今朝はちゃんと入れたわよ!?」
「いや今朝はカギ使って入ってないだろ。だってあいつらがここにいたんだし。」
「あいつら………あ。」

 美琴は今朝のことを思い出した。
 上条が言う『あいつら』とは美琴を除くレベル5達のことであり、確かに今朝は一方通行、垣根帝督、麦野沈利、食蜂操祈、削板軍覇、といった人格破綻し…もとい個性豊かなメンバーが美琴をお出迎えしてくれていた。

「そ、そうだった……あの、まさかそれって…」
「もちろんあいつらがこの部屋にいたのは俺の指示。個性の濃いメンバーをあらかじめ部屋にいさせることで美琴の注意をカギから遠ざけようって考えさ。現にカギ穴が変わってるなんて全く気がつかなかっただろ?」

 上条の言う通り、今朝は全く気づかなかったし友人達が帰った後もカギをかけていなかったので今日一日美琴がカギを触ることがなく、気づくきっかけがなかった。
 さらに上条は得意げに説明を続ける。

「当然番外個体が勝手に部屋に飛び込んで行ったのも俺の指示な。そうでもしなきゃ美琴が中に入らなかったり、アンチスキルとか呼ばれる可能性もあったからな……って美琴たん?なんか不機嫌に
なってない?」

 上条の目の先にはいつの間にか顔を下に落としている美琴がいた。
 そんな美琴はどこか寂しげに言う。
 
「…だって……もう何がほんとで何がドッキリなのかわかんないんだもん…」

 もう美琴は上条のことを信じられなくなってきていた。
 と、言っても怒っているわけではない。
 ここまで素晴らしいくらい完璧に上条の作戦に引っかかっためただ拗ねているだけである。
 だが上条にとって美琴に拗ねられることは大問題だ。


「あー…ちょっとややこしくしすぎたか…まあとにかくだ、一緒に暮らしてくれるか?」
「一緒に暮らしてくれるかって……どうせそれもドッキリなんでしょ?もう引っかからない「美琴」わ…」

 美琴の言葉が上条によって遮られた。
 今度は一体何を言い出すんだろうと思いながらもとりあえず顔を上げ、上条を見てみる。
 そんな美琴に対し上条はこの日1番の笑顔を見せながら言う。

「一緒に暮らそう、な?」

 短い言葉、だが美琴にはそれだけで十分だった。
 上条の笑顔を見ればその言葉を信じることができる。
 
「……うん…ありがと…」

 美琴はお礼を言って上条に抱きついた。
 最高にロマンティックな雰囲気の中美琴の顔はどんどん緩んでいく。
 上条はそんな美琴を見れたことが嬉しかったらしい。

「おお、ようやく喜んでくれたみたいだな。さっきから喜ぶ仕草が全くなかったからちょっと焦ってたんだよ。」
「ご、ごめん。いろいろあったから中々実感が湧かなくて……でもこんな広い部屋で2人で暮らせるなんて夢みたい…準備してる時にはこうなるとは思ってもなかったからすっごい嬉しい。」

 その言葉に偽り無く、美琴は心の底から嬉しかった。
 自分のために大きなツリーを用意して部屋までプレゼントしてくれるたことで上条からの愛をひしひしと感じていた。
 上条は顔を赤く染めて言う。

「…そりゃ将来的には、その、なんだ、結婚してここで一緒に暮らしていこうみたいな…」
「ッ!!!そ、そ、そうなんだ……そんなこと考えてたんだ……えへへへへへへへ…」
「ま、まあな。だから将来を見据えて家具も全部用意したんだぞ?」
「え…この部屋の家具は郭ちゃんが……ってそれもウソなのね、ベッドも当麻が?」
「もちろん!家具は俺が完璧にそろえたから今からでもここで暮らせるぞ。」
「うん!もちろん今から住みたい!………それと、さ。私としては…結婚も今すぐにでもいいんだけど…?」

 美琴は今すぐにでもプロポーズしてくれ、と言わんばかりに上条に抱きついたまま上目遣いでそう言った。
 だが上条から返ってきたのは予想外の台詞。

「何言ってるんだよ。俺も結婚したいけど法的にまだ結婚できないだろ?ほら、美琴はまだ16歳なんだから18歳になるまで待ちなさい。」
「いや、私は16歳だから結婚できるわよ。」
「は?だから16歳じゃ結婚は無理だろ?」
「………まさかとは思うけど…女の子は16歳から結婚できるって知らない?」
「え……マジ?」
「マジよ。」

 衝撃の事実を知った上条は隣で地蔵のように固まってしまった。なんだからショックを受けているように見える。
 美琴は一旦上条から離れ、なんて言葉をかけてあげよう、と迷っていたが上条は以外と早く復活した。

「………女子も18歳だと思ってた…………美琴。」
「わっ!な、何?」

 美琴は上条に両肩を掴まれた。少し痛いくらいの力の強さだ。
 そして上条は真顔で言う。

「愛してる、結婚しよう。」

 ここでまさかのプロポーズ。
 明らかに計画性の無い唐突なプロポーズの上、当然指輪もない。
 だが上条の表情は真剣そのもの。茶化すわけにはいかない。

「あ、あの…えと…………うん。す、末永くよろしくお願いします…えへへへへ…」

 そして時刻が深夜12時を回り日付が変わる時、外に大きなツリーが見える前で美琴は上条と誓いのキスをかわした。
 初のクリスマスイヴには上条の二重ドッキリ作戦に本格同棲というプレゼント、さらに唐突なプロポーズととびきり幸せな思い出を作ることができた。
 こうして聖夜は過ぎていく。
 だが愛し合う2人の夜はまだこれからである―――――







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