とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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お見舞い日和




 空に雲一つない快晴のとある日、学園都市の第7学区にある病院の一室はやけに騒がしかった。
 いつも通りにいつもの不幸な少年が入院した……わけではない。
 この日いつも上条が入院する個室のベッドに上条の姿は無く、代わりに茶髪の可愛らしい女の子が上半身を起こした状態で、友人たちに囲まれていた。

「御坂さん!本当に大丈夫なんですか!?」

 と、病室にもかかわらず大声を出すのは、初春飾利だ。
 そして初春が言葉をかける先にいるのは、頭に包帯を巻いた御坂美琴だった。
 そう、この日病室にいるのは美琴なのだ。
 心配した初春の迫力に少し驚きながらも、美琴は軽く笑って言う。

「だ、大丈夫よ。そんな心配しなくても明日には退院できるから。」

 その言葉通り、美琴は決して病気になったわけでも、重傷を負ったわけでもない。
 にもかかわらず病院にいる、ということは当然理由がある。

「お姉様…子どもを助けようとするのはいいですが、自分の身のことも考えてくださいまし。今回は軽い脳震盪で済んだからよかったものの、万が一お姉様が重大なお怪我を負ってしまったら、わたくしはどうしていいものか…」

 と、言ったのは初春と同じく病室に駆けつけていた、白井黒子だ。
 今、彼女が言ったことがまさしく美琴が入院することになった理由である。

 この日のお昼ごろに風紀委員の仕事を終えた黒子、初春、そして佐天と遊ぶ約束をしていたため、待ち合わせ場所へ向かう途中に事件は起きた。
 歩道橋の階段から落ちてきた子どもを見て、慌てて受け止めたところまではよかった。
 しかし以外と子どもの体重が重かったことと、勢いがついていたことで受け止めた拍子に後ろ向けに倒れ、後頭部を打ち気絶してしまったのだ。
 そして病院に搬送され、美琴が気絶している間に軽い脳震盪と判断され、今に至るわけである。
 ちなみに美琴が気絶していた時間は1時間半ほどだ。

 ものすごく心配そうにしている黒子に対し、美琴は心配させないように笑顔で言う。

「だって能力使おうにも間に合いそうになかったし、子どもが助かったんだからいいじゃない。」
「まあそうなのですが…」

 口ではそう言うものの、黒子はなんだか納得がいかないようだ。

「でもほんとにびっくりしましたよ。1時間経っても待ち合わせ場所に来ないからどうしたんだろう、と思ってたらまさか病院に運ばれてたなんて…」

 そう言うのは友人の一人である、佐天涙子だ。
 黒子、初春とともに駆けつけた佐天は、今でこそ落ち着いているものの、美琴が病院に運ばれたと聞いた時には、震えが止まらなかったらしい。
 
「私自身気絶するなんてびっくりよ。でも誰から聞いたの?私が病院に運ばれたって。」
「それなら舞夏さんに聞きました。なんでも救急車に乗せられる御坂さんをたまたま見たらしくて、他の人にも連絡してましたよ。」
「え…他の人?」
「ええ。婚后さんとか固法先輩とか、多分他にも結構多くの人に電話やメールで連絡してました。だから今からもっと多くの人が来ると思います。」

 佐天の言う通りだった。
 この後、お見舞いに来てくれたのは婚后、固法、『妹達』や寮監、舞夏はもちろん、警備員の黄泉川や鉄装。
 美琴を慕う常盤台の生徒。
 結構慌てながら駆けつけた、海原(エツァリ)。
 さらには打ち止め、一方通行、番外個体などが、次々と美琴のお見舞いにやってきた。
 どうやら美琴の知らないところで、舞夏によってどんどん話が広がっているらしい。

 特に大きな怪我でもないにもかかわらず、お見舞いには身内や多くの友達が来てくれた。
 それが美琴はとても嬉しかった。
 しかし、最もお見舞いにきてほしい人物はこの病室に現れていない。
 
「はぁ……アイツは来てくれない、か。」
 
 日も暮れ友人達も全員返った後のこと。美琴はちょっぴり寂しそうにつぶやいた。
 『アイツ』とはもちろん上条当麻のこと。 
 病院に運ばれた、ということがみんなに広まっていると聞いてからは、いつお見舞いにきてくれるだろうと思いドキドキして待っていた。 
 しかし、もう6時半だというのに一向に来てくれない。
 美琴が病院に運ばれた、ということは舞夏→土御門→上条といった順番で連絡がいっているのことは間違いないのだ。
 病院に運ばれたことを知っているはずなのに来てくれない、時間が経つことに美琴の胸は締め付けられていった。


「アイツとはただの友達だし、来なくてもおかしくないわよね……それに来てくれなくても別になんとも…」

 そんなことはない。
 本当は今すぐにでも、短い時間でいいから会いにきてほしい。
 だが面会可能時間は残り30分、上条が来る気配はない。

「私のことなんて、どうでもいいのかな……もういいや。少し、寝よ…」

 美琴は諦めた。
 どれだけ待っても、絶対に上条は来てくれない。
 きっと『御坂だから大丈夫だろ。』とか思っているのだろう。
 美琴はふて寝をしようと、目を閉じた―――

「御坂ー、起きてるかー?」
「ッッッ!!??!?」

 ガラッ!と、病室のドアが開く音と共に聞こえてきたのは、よ~く聞き覚え音ある声。
 足音と共に、美琴が横になっているベッドの側に歩いてきたのはツンツン頭の少年、上条当麻だった。
 ついに来てくれた。
 もう面会可能時間は残り30分も無いが、それでも美琴は嬉しくて仕方が無かった。
 しかし――― 
 
「…………」
「あれ…寝てるのか…」

 美琴は狸寝入りを使った。
 すーすーとわざとらしく寝息をたて、いかにも寝てますよアピールをする。

(なんでこのタイミングで来るのよ!心の準備ができてないじゃない…もっと早く来なさいよ!)

 美琴は心の中で叫んだ。
 当然その叫びが上条に届くことはなく、おーい御坂ー?とか小声が聞こえてくる。
 その後にギシッと音がしたことから、ベッドの側に置いてあったイスに座ったのだろう。
 美琴は悩む。
 
(うぅ……話したい…でも今から起きるのもなんだか気まずいような…どうしよ……)

 すぐ隣に上条がいる。
 だが、いるとわかりながら、なかなか起きる決心がつかなかった。
 そんなこんなで病室に沈黙が続くこと10分。

(う~ん…やっぱり起きよう!)

 悩んだ結果、上条を話したいという想いが強くなった美琴は起きることを決心した。
 しかし『病室で2人きり』、なんてシュチュエーションは緊張するに決まっている。
 このまま起きては緊張のあまり、会話にならなさそうなので、美琴は脳内でシュミレーションを繰り返す。

(起きたらすぐに『来てくれてありがとう』って言わなきゃ。後、『別に来てほしくなんかなかったんだからね!』は絶対に言っちゃダメよね。)

 とにかく素直に、絶対に上条に不快感を与えないように注意しなければならない。
 ある程度何を話すかは決まったので、後は上条に起きていたことを感づかれないよう、上手いこと目を覚ます演技をしなければならない。
 『う~ん…あれ?アンタいたの?』という感じで起きようと思い、少し目を開けたところで

「御坂さーん、夕飯の前に一度検査しますので移動を……あら?」

 絶妙なタイミングで看護士が部屋に入ってきた。
 美琴は開きかけていた目を閉じ、慌てて眠っているふりを再開する。
 
(な、なんでこのタイミングで入ってくるのよ…それに検査ってコイツと話せないじゃない…)

 結局、ここでも起きるタイミングを逃した美琴は、狸寝入りを続けることとなってしまった。
 頼むから今は出て行ってくれ、と願いつつ寝たふりを続けていると

「あ、こんにちは。昼間はどうも。」

 などと上条が言い出した。
 『昼間はどうも』、美琴にはこの言葉がどういう経緯で出てくるのか、全くわからない。
 美琴は眠ったふりをしたまま、上条と看護士の会話を聞くことにした。


「こんにちは。えーと、御坂さんは…」
「あー…今寝てるみたいですね。検査ってことは起こしますか?」
「いえもう少し後でも大丈夫ですから。……そういえば上条さんってお昼に御坂さんが運ばれてきた時、一番にお見舞いにきてましたけど、ずっといるんですか?」
「ッ!!?」

 看護士の言葉に美琴の体がピクッ!と動いた。

(え……もしかして、今まで来てくれなかったんじゃなくて、1番に来てくれてたの…?)

 それが本当なら、上条はものすごく心配してくれていたということだ。
 だが、もし1番に来ていたなら、目が覚めるまでなんで待っていてくれなかったのだろうか。
 美琴にそんな疑問が生じたとき、上条が看護婦に言う。

「いや、今来たところですよ。昼に来たときはお見舞いに何も持って来なかったから、買いに行ってたんですよ。」
「あ、そうだったんですか。」
「ええ。本当は買ってすぐに戻ってきたかったんですけど、ちょっといろいろ事件に巻き込まれて…それで遅くなっちゃったんですよ。」

 どうやら彼の不幸体質が、遅くなった原因らしい。
 その後も少し会話を交わしていると、看護士が笑顔で上条に言った。

「でも本当に御坂さんって幸せですね!」
「え?どういうことですか?」
「だってこんな優しい彼氏さんがいるんですもん。絶対幸せですよ!」
「「ッッッ!!??!?」」

 美琴は盛大に驚いた。
 ガタッ!とイスの音がしたことから、上条も驚いているのだろう。

(か、かかかかかか彼氏!!?コイツが私の彼氏って……ていうことは、私たちって、恋人同士に見えるのかな……)

 美琴は看護士に、上条とカップルだと思われたことが嬉しくて仕方なかった。
 寝ている振りをしているにもかかわらず、無意識ににやけてしまう。
 上条はどんな反応をしてくれるのだろうと思い、ドキドキが治まらない。
 さすがに『はい、そうなんです』とは言ってくれないだろうが、何かを期待してしまう。

 美琴は築かれない程度にうっすらと目を開け、場の様子を見守る。
 すると上条は慌てながら看護士に言った。

「い、いや違います!御坂が俺の彼女って、全然全く違いますから!」
「ふふっ。そんな恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ?あ、先生には検査はもう少し後にするよう言っておきますので、ごゆっくり。」 

 声の後にドアが開閉する音が聞こえたので、恐らく看護士は病室から去っていったのだろう。
 病室内でまた上条と2人きりということになったのだが、上条に『彼女』ということを完全否定された美琴は、結構落ち込んでいた。

(私が彼女ってことをそんなに否定しなくても…やっぱり私なんか恋愛対象にならないのかな……彼女じゃ、嫌なのかな…)

 そんなに期待をしていなかったと言えども、やはり好きな人にきっぱり否定されたことは、つらい。
 振られたような感覚に陥った美琴からは、生気が失われたようだった。
 そんなことなど知る余地もない上条が一言。

「はぁ……彼女、か。御坂が本当に彼女だったらいいんだけどな……」
「え」
「え?」

 生気復活。
 突然の上条の一言に、思わず声が出てしまった。
 美琴は瞬時に目をつぶり狸寝入りを再開したが、当然上条には怪しまれている。

「今、御坂の声が聞こえたような…ひょっとして……聞かれてたか…?」
「…………」
「いやでも寝てる…よな?」
「……すー…すー…」
「よし寝てる。」

 上条は単純だった。
 あーバレなくてよかったー、とか言いながら、イスをギシギシ鳴らし座り直しているようだ。
 美琴は引き続き寝ているふりをして、外見上は平静を装うも内心は

(い、いいいいいいいいいいいい今の聞き間違いじゃないわよね!?コイツ絶対に、『御坂が彼女だったらどれだけいいことか』って言ったわよね!?ってことは……両想い!?)

 だとすれば嬉しさのあまり昇天する。
 しかし相手は鈍感中の鈍感であり、フラグ建築士と言われる上条だ。
 自分の思い過ごしかもしれないと思い、少しだけ目を開けて上条の様子を確認してみるのだが

「ッ!!!」

 美琴の目に映ったのは、上条の顔。
 驚きのあまりすぐに目を閉じたが、美琴と上条の顔は10センチも離れていないだろう。


(か、顔近っ!!コイツ何考えてんのよ…)

 上条の考えていることがわからない。
 『御坂が彼女だったらいいのにな』発言もそうだが、一体何がしたいのだろうか。
 美琴がそんなことを考えていると、

「あれ?今動いた…?」
「!!……すー…すー…」
「…気のせいか…2人きりだしいろいろと話したいんだけどな……寝てるなら仕方ないか…」

 はぁー、と、静かな病室に上条のため息が聞こえる。 

(私と本気で話したがってる?これは期待しても…いいのかな…?)
 
 もしかしたら、本当に上条と両想いなのかもしれない。
 美琴が淡い期待を抱き始めていると

「…………美琴。」
「ッッッッッッ!!??!?」

 病室に聞こえた上条の小さな声。
 美琴は激しく動揺した。

(い、今、私のこと、下の名前で……うあ…ヤバいって…それは反則でしょ…)

 上条に下の名前を呼ばれる。
 それだけで卒倒するくらい嬉しく、もう平常心を保つのが難しくなってきた。
 もう起きていることがバレたんじゃないか、そう思ったとき

(……ん?これは…?)

 美琴は頭部を何かにさわられているのを感じていた。
 この感触は―――

(な、なでられてる!?これはひょっとしてなでられてるの!?)
 
 間違いない。
 目をつぶっているため、上条がどんな表情や体勢なのかはわからない。
 だが確かに今、美琴は上条の右手により、頭を優しくなでられているのだ。

(あわわわ……ど、どうしようどうしようどうしよう!!!え、えと……起き…ちゃダメ!寝てるふりを続けなきゃ!!)

 美琴はこの幸せが終わらないように、必死で寝ているふりを続ける。
 もし起きていることがバレれば、上条はなでることをやめてしまうだろう。
 だから美琴は頑張った。
 心の中では心臓が破裂するくらいドキドキしながらも、外見は普通に寝ている人と全く同じに見えるよう、一定の呼吸を続けた。

「はぁ……やっぱり御坂は可愛いなぁ……」
「ッッッ!!!」

 呼吸が乱れた。
 なでられながら『可愛い』と言われる破壊力は抜群、美琴は今にも声を出してしまいそうだった。

(うわ、うわ、うわ……か、か、可愛いって、可愛いって言われちゃった!!も、もうこれ完全に両想いよね…コイツも私のこと、好きだったんだ…)

 嬉し過ぎる。
 『可愛い』と言われたことで、美琴は上条と両想いであることを確信し、嬉しさのあまり体を振るわせた。 
 だが上条はなでるのに夢中なのだろうか、美琴の異変には気づかなかったようだ。
 美琴は引き続き、なでられる感触を楽しむ。


(ああ……もう死んでもいいかも…) 

 なでられること5分、美琴は最上の幸福に包まれ、表情は完全に緩んでしまっていた。
 もうこのまま一生なで続けてくれればいいのに、と思った矢先、上条の右手が美琴の頭から離れた。

(あ……なんで止めちゃうのよ…)

 頭に残る上条の手の感触。
 5分間もなでてもらっておきながら、美琴は物足らないと感じていた。
 もっとなでてほしい、しかしこればかりは上条の意志なので、美琴にはどうすることもできない。

「もう7時前か…そろそろ帰らなきゃな…」
「!……」
「この時間なら誰にも邪魔されず、2人きりで会えると思ったのに残念だな…」
「………」

 美琴は思った。
 今日をこのまま終わらせたくない。
 上条は自分に想いを寄せてくれている。
 それを寝ているふりをして聞いてしまったのだから、自分は彼に想いを伝えなければ。
 それに今日を逃せば、事件に巻き込まれがちな彼だから、もう告白できるタイミングなんてないかもしれない。
 だから美琴は今度こそ、起きて上条と話そうと決心した。

(よ、よし……いくわよ!目を覚ま―――――)

 目を開けようとしたその刹那、美琴のほほに何か柔らかい物が触れた。
 その『何か』が触れたのはほんの一瞬、『何か』離れた時には美琴は目を開けていた。

 が、久しぶりに目を開けた美琴の目に映ったのは眩しい光、少し目がくらんだがすぐさま上半身を起こして室内を見渡すも、上条の姿はどこにもない。
 まるで今までの出来事が夢のように感じられたが、確かに上条がここにいたという証拠が3つあった。
 一つは上条が持ってきてくれたのであろう、大量のお見舞いの品。
 果物や花など、高そうな物も多い。

 もう一つはドアがたった今開閉した音。
 恐らくだが、上条は勢いよく病室から出て行ったのだろう。
 
 そして最後の一つの証拠というのが、美琴の頬にはっきりと残っている感触。
 この感触は間違いない。

「アイツ…私のほっぺにキ、キキ、キスして……」

 美琴の頬に触れたのは上条の唇だった。
 キスされたと確信した美琴の顔はみるみる赤く染まっていく。
 うまく呼吸ができない。
 体からは電気が漏れ始め、今にも漏電するかというところへ

「おねーさま~♪そろそろお食事の時間だと思いまして、わたくしが食べさてさしあげようと思いましてやってきましたわ~♪」

 と、言いながらテレポートを使い、部屋に姿を現せた黒子。
 美琴にご飯を食べさせるという素敵イベントに心躍らせ、ご機嫌の黒子だったが、すぐさま美琴の異変に気がついた。

「……あら?お、お姉さ―――」
「ふにゃー」
「ばばばばばばばばばばばばばばばッッッッッッッッッッッッ!!!???!?」

 美琴、漏電。黒子、感電。
 上条にキスされたという嬉しさやら、恥ずかしさやらが漏電の原因っぽい。
 側にテレポートしてきていた黒子は漏電を避けることもできず、モロに被害を受けてしまった。
 この日、感電による入院患者が1人増えたらしい。
 
 そして翌日。
 無事退院した茶髪の少女は、まず黒子に謝った。
 その後は真っ先にツンツン頭の少年の元へ向かい、学園都市に新たなカップルが誕生したという―――





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