とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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暖かい春の日には。




4月8日 AM 6:00

小鳥がチュン・・・と鳴き始めるこの時間帯に、寝室に置いてある目覚ましが朝を告げる。
ピピピ、という機械音を眠そうな瞼で止めたのは美琴だった。
彼女は時計に表示された曜日を見て日曜日だと気づくと、もう一度眠ろうとして布団にもぐりこんだ。
しかし、目を閉じると不意に後頭部を撫でられた。

「おはよ、美琴」

そう言ったのは、隣で眠っていた上条だった。
「ん・・・おはよ」
小さな欠伸をしながら美琴は布団を肩まで掛けなおすと、再度目を閉じて夢の世界へ旅立とうとしたが、
「おーい・・・せっかくの日曜日に寝るのかー」
と、気になる一言を言われ、嫌そうに顔を上げた。

「どういう意味よ・・・」

「ほら、いつもは速攻で起きて急いで飯食って出てくけど、今日は何もないから時間があるだろ?だからその分ゆっくりできるなーなんて」

「ふーん・・・・それじゃあおやすみ」

なんだか嬉しそうな上条に対してぼんやりとした美琴は睡魔に負けて眠ろうとした。

「えぇ・・・それはちょっと冷たいんじゃ・・・まぁいいか」

ふぅ、と溜息をつくと上条は彼女のおくれ毛を耳にかけた。隠れていた小さな耳が出ると、ゆっくりと美琴に近づく。
ここで美琴は、彼の不思議な行動から今からやろうとしてることにようやく気付いた。
「(耳を噛もうとしてる・・・・!?)」

人1倍耳が弱い美琴にとってこれは大ピンチである。眠気もふっとび、すぐに彼女はバタバタと暴れて抵抗した。
「や、やめなさいっ!!変態!スケベ!!バカ当麻!」

「わわっ!や、やめろって」

よけようとした上条は頭を後ろの方に動かした。しかし、それが不幸を呼んだのだろう。

美琴の指の先端―――つまり彼女の爪が上条の頬を思いっきり引っ掻いた。

「ッ・・・!!」

痛そうな声をあげ、顔をしかめて「っいてて・・・」と言いながらボフっと枕に倒れこんだ。
「きゃッ・・・ご、ごめん!大丈夫!?」
驚きながらも申し訳なさそうにした美琴が頬を撫でる。
「本当にごめんね・・・引っ掻くつもりはなかったのに爪が当たっちゃって」
少し赤く腫れた頬を謝りながら撫でる彼女を見て、上条はあることを思いついた。

「気にすんなって。だけど美琴にはお仕置きしないとな・・・」

台詞の前半は優しいのに後半でいきなり黒くなった上条はニヤリと笑うと、「?」の顔をする美琴の右手を掴むと、

人差し指と中指を、パクリと口の中に入れた。

「――――ッッッ!?」

「引っ掻いた指はこの2本だったよな?」

もはやパニック状態で声すら出せない美琴をからかうようにして甘噛みを始めた。噛むといっても先の方だけだが。
一通り噛むと、今度は舐める。細い指の震えがだんだんと小さくなったころ、ようやく彼女の右手を解放する。
顔を赤くした美琴はさっと手を戻すと、

「やッ・・・い、いきなりなんてことすんのよこのド変態ッ!!人の指舐めて何が楽しいのよ!?」

「まぁそうピリピリするなって。なんなら今度は全部やってみるか?」

「~ッッ!!アンタの脳は一体何でできてるわけ!?っていうか手洗ってくる!!」
ダッシュで洗面所に行こうとする彼女だが、後ろからくるりと回された上条の腕に拘束されてしまう。

「それじゃあお仕置きにならないだろ?」

「うっ・・・は、離してよ」

むぎゅーっと抱きしめられ、ほとんど身動きがとれなくなっていた。まぁ、それが彼の狙いなのだが。



今離したら逃げるからダメー。それに・・・」

上条はぐいっと頭を美琴の方に近づけると、

「はむっ」

「っな!?ひ、ひゃああッ!!」

「ひゃっきはへきなかったひな(さっきはできなかったしな)」
さっきやろうとしていたこと―――つまり耳噛みを実行した。
弱点を甘噛みされてやぁーッ!!とわめく彼女の横で上条ははむはむと噛みながら耳は意外とやわらかいことに気がついた。

「やッ・・・痛っ!強く噛むなっ離れろバカッ!」

彼女の抵抗が激しくなったところでいったん引き上げた。
離れた時に美琴の顔を見ると、顔を真っ赤にして少々泣き顔になっていた。ちょっとやりすぎたかな、と上条は思う。
そっと腕を解くと、猛ダッシュで洗面所に駆け込んで行った。
「やべ・・・怒らせちまったかな」


暖かい春の日には。 2




同日 AM 6:17

しばらくすると寝室のドアをバン!と開けて前髪から弱めの電気をパチパチ出しながら美琴がやってきた。
顔を洗ってきたのか、周りの髪が少し濡れていた。彼女は怒り気味でドカドカとベッドの上に乗ると、前髪以外は布団に潜り込んだ。
・・・前髪からは、電気を出したままで。

「痛ッ!!痛いです美琴さんッ!!ビリビリよりパチパチの方が静電気みたいでいだだだだッ!!」

前髪から放たれるまさに静電気のようなものは上条の頭あたりを直撃している。

「アンタには魔法の右手があるじゃない」

布団から顔を出した美琴にそう言われて慌ててそれを打ち消す。一瞬にしてなくなった電気に安堵の息を漏らす。
互いに何も話さぬまま数秒間、ゆっくりと時間が流れる。そして上条が口を開いた。

「ごめん・・・やりすぎた。そんなに嫌だったと思わなくて」

そっと手を伸ばし、彼女の髪を梳く。濡れていた部分が体温で温かくなっていた。
美琴は黙ったままくるりと寝返りを打つと、上条と向き合う。

「あんなに嫌だって叫んでたのに」

「ごめん。我慢できなかった」

「・・・我慢、してたの?」

「答えないとだめでせうか?」

「当り前でしょ!朝起きていきなり耳噛まれたこっちの身にもなってよねっ!」

むー!っと威嚇しながら人差し指をぐいっと突き出す。可愛らしい威嚇をされた上条は梳いていた手を離すと、ぼそりと答えた。

「・・・してました」

「ということは前からやりたかった、と?」

「ハイ・・・」

今までスキンシップはキスが限度だったのだが、突然の行動に正直驚いていた。しかも彼は大胆な人というわけでもない。
理由がある、と美琴は悟る。ふぅ、と溜息をついて怒りを落ち着かせた。

「なーんでいきなりこんな行動に出たのか知りたいんだけど?」

「うっ・・・それは」

「なに戸惑ってんのよ。そんなに言いたくないような理由でもあるのかしらー?」

「・・・・からっ」

「む?」

「み、美琴が!可愛くてしょうがなかったからだよッ!!そ、その・・・最近忙しくて家にも帰れねえ日が続くし・・・
 帰っても遅いからもう寝てるし・・・つ、つまり寂しかったんだよ俺はッ」

時間がない。最近出張の多い上条は事実、家に帰れない日が続いていた。もちろんメールか電話で連絡は取っているがやはり寂しさがこみ上げてきたのだろう。
家に帰るのは日付が変わる時間帯。部屋は真っ暗でおかえりの一言さえも聞けない。ラップに包まれたご飯をレンジで温めて1人で食事をする。
それがすでに日常と化している時点で実は寂しいどころかそれ以上になっていた。
理由を知った美琴は怒りが自然と消えていて、「か、かわッ!?」と小さな悲鳴を上げていた。
そんな彼女が今日はとても愛しく思えて無意識に強く抱きしめてしまう。

「やっ・・・なんか苦し・・・は、離して」

「ずっと―――――――こうできるのを待ってた・・・」

抱きしめたのも久々な気がした。温かい体温とふんわりと香るシャンプーの香り。全てが懐かしくて、今までの我慢が解放されたような感覚だった。
しばらくその感覚に浸っていると、上条の気持ちをやっと理解した美琴が口を開いた。
「寂しかった・・・のよね。ごめんね、気付かなかった」

「いいよ。今――――幸せだから」

「今日は日曜日で時間もあるからゆっくり休んでね」

上条はあぁ、と頷くと彼女と唇を重ねた。離れる際にピクッと美琴が震えた。

「どうかしたか?」

「あ、いや・・・また噛まれるのかと思って」

「ほほう」

「何ニヤニヤしてんのよッ!ってちょっバカ―――」

美琴の甘い声と共に、彼女の首元に上条が優しく噛みついた。先ほどよりは抵抗しなくなった彼女が茶色の瞳を潤ませる。

今までの分を取り返すように、甘い時間を過ごした、暖かい春の日の朝。

~Fin~






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