とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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4月19日 PM 20:22

今日の天気は生憎の雨だ。温暖前線に伴う長くしとしとと降り続く雨だった。
午後になって降り始め、一向に止まないまま夜を迎えてしまった。もちろん天気予報で言っていたのだが・・・

「もー・・・なんで忘れないように玄関に置いたのに堂々と忘れるのかしらねぇ・・・」

忘れないようにと玄関に置くと逆にいつもどおりに出て行ってしまうパターンだった。きっと視界に入ってもなんの意識もしなかったのだろう。
御坂美琴は傘を片手に夜の住宅街を走る。折り畳み傘を忘れたツンツン頭の恋人をバス停まで迎えに行くためである。
光源が道路を照らす街頭のみなので、走っている範囲はほとんど見えない。美琴は前髪から少量の電気を放電しながらバス停に向かった。


同日 PM 20:36

料金を払い、バスから降りるとバッグを頭に乗せただけでは防げないくらいの雨が降っていた。威力は弱くても長時間降り続いたせいであちこちに水たまりがある。
「(せっかく美琴が傘を置いてくれたのに忘れるなんて・・・不幸だ)」
落ち込みながら、この雨の中ダッシュで帰るしかないと思い上着を脱ぎ始めた。しかし、それは聞き覚えのある声が聞こえた時点でやめてしまう。

「当麻―!!」

「み、美琴・・・ッ!?」

放電しながらバシャバシャと水音をたててやってきたのは上条の恋人、御坂美琴だった。傍までやってくると、ふー、と息を整えて乱れた髪を直す。
彼女は次忘れても持ってこないんだから、と言うと持っていた傘を手渡した。

「ありがとな、美琴。おかげでびしょ濡れにならずにすみましたよー」

「ったく・・・濡れたらクリーニングに出さないといけないってこと考えなさいよね」

「肝に免じておきます。でもメールもしてないのにわざわざ来てくれるなんて、上条さん感激です」

「あっ、いやその・・・だからアンタが濡れるとスーツをクリーニングに出さなきゃだし部屋が汚れて掃除しなきゃでいろいろ面倒だから・・・その」

「そんなに目を逸らさなくても・・・ほら、冷えるからさっさと帰ろうぜ」

外に出ると素直になれないことが多くなる彼女の隣を歩き、2人は家路についた。


同日 PM 20:42

上条当麻は現在会社員として職を持っているが、彼は今も右手に宿る幻想殺しという謎の力を魔術サイドで有効に活用されていた。
こんな風に言うと若干詐欺のように聞こえるが、実際は人助けのようなものだった。つまり、魔術や呪いなどで苦しんでいる人を解放することだった。
もちろん日本ではない。呼ばれるのは、「外」からだった。
しかし1カ月に何度も行くことはできないので、約半年に1度のペースで「外」に行っていた。

彼は昨日、土御門元春に告げられた。また「外」の人助け―――いや、今回は手助けに行って欲しいと。
もちろん、迷うことなく了解した。その後に一方通行と土御門も同行することや場所と日時の詳細、7泊9日だということを聞かされた。
ただ、1つだけ問題があった。美琴のことである。
ここ最近出張が続いているので1カ月中半分は1人にさせてしまっていた。だからこそ――――また「外」に行くとは言いづらいのだ。
彼女はどんな反応をするだろうか。
悲しい顔は見たくないが、決まったからには言うしかないと決め、上条は話を切り出した。

「あのさ…話があるんだけど、聞いてくれないか?」

「ん、別れ話以外なら聞くわよー」

雨の降る闇夜には似つかわしくない彼女のテンションを、急激に下げてしまうかもしれないと思いつつ話し始める。

「そんなんじゃねえよ。実はさ、また「外」に行くことになったんだ」

そこまで言うと、ドサッと何かが落ちる音がした。

それは、美琴が持っていた傘を地面に落とす音だった。



「う、うわッ!お前何やってんだよ!?」

突然傘を落としてしまった彼女の行動に驚き、あわてて傘を拾いあげ中に入れる。

「濡れたら風邪引く「外…、ま…た1人・・・・?」ぞ…ってえ?」

さっきと全く違う震えるような口調。雨に濡れた髪が一房滴となって頬を伝う。

「また…行くの?危ない場所に?その間は…また1人?」

「美琴、落ち着けって。詳しいことは家で話すから…」

「や、だ・・・嫌・・・ッ!!」

心理不安定な状況になったのか、美琴は見えないものから逃げるようにどこかへ走り去ってしまう。

「えッ…!?な、何がどうなって…み、美琴!?」

「きゃあッ!?」

50メートルの地点で水たまりに足を滑らせたのか、バランスを崩して転んでしまった。
走り去ってから転ぶまでを茫然と眺めていた上条は未だに?のまま転んだ彼女の側にやってくると、「いきなりどうしたんだよ」と声をかけて手を差し出した。

「うぅ…痛い」

「うわぁッ!!血出てんじゃねえか!!ったく道路で転ぶから…」

とっさに着いた両手と右足の膝小僧あたりに真っ赤な血が出ていた。皮が向けていて痛々しかった。

「ほら、早く帰って消毒するぞ。積もる話もあるんだから」

上条は美琴の前にかがむと、乗れよ、と言った。片方の手で2本の傘とバッグを持っているその姿は性格がそのまま出ているようだった。

「い、いいの…?汚れるよ?」

「当たり前だろ。ほら、早く帰ろうぜ」

彼女はゆっくりと上条に体重を掛けると、腕を肩に回して首に顔をうずめた。


同日 PM 20:49

「ただいまー」

電気とテレビがつけっぱなしの我が家に着くと、玄関の段差に美琴を降ろす。おんぶしたせいで自分もびしょ濡れだがどうせクリーニング行きなので気にしない。
傘を傘立てに戻して靴を脱ぐと、2人は部屋に入った。
上条はバッグを置いて上着をハンガーに掛けると、すっかり落ち込んでしまった美琴に声を掛ける。

「風呂、入ってこいよ。傷口に染みるかもだけど、あとで手当てしてやるから…」

「そうする・・・」

消えそうな声でそう告げると寝巻を取りに2階へ行った。


同日 PM 21:01

美琴が風呂に入っている間、上条は自室で部屋着に着替えていた。

「(やっぱり、きついよな…。こんな広い家で1人きりが続くのは精神面的な問題もあるだろうし。ホント、迷惑ばっかり掛けてるよな)」

テレビと電気がつけっぱなしだった状態から怖かったか寂しかったかを判断した上条は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
そこで1人で生活(もちろんメールや電話はするし大学には行くが)しているのを想像すると、心が痛むようだった。
上条自身も寂しいがやはり美琴の方が心細いだろう。

「(何か、方法があればなぁ・・・)」

一緒についていく、なんて方法は無理だし、1人の時は誰か友人の家にでも泊めてもらうというのも迷惑だ。
ようするに、1人じゃなければ――――

「あッ―――・・・」

ここで、とある考えを思いついた。いいのか悪いのかは彼女の気持ち次第になってしまうけれど―――。



同日 PM 21:27

風呂から上がり、タオルで髪を拭いていた美琴は、怪我の手当てをするために応急セットを持って椅子に座った。
改めてじっくり見ると、バカなことをしたなと感じてしまう。いきなりあんなことを告げられて感情のコントロールが利かなくなってしまったのだ。
溜息をつきながら応急セットから消毒液とガーゼ、包帯を取り出す。ティッシュに消毒液を軽く含ませ右の手の平にあてると、一瞬だけ強い痛みが走る。

「うっ、痛……」

思わずあげてしまった声は意外と大きかったのか、2階にいた上条が「どうしたー?」と言いながら階段を下りてきた。
すかさず何でもない、と言いそうになるが上条は傷の手当てをしてくれると言っていたので直前で目を逸らす。

「傷、痛むよな。ほら、俺がやるよ」

「あ、ありがと……」

持っていた消毒液を渡すと、上条は美琴の右手を取る。血は止まっているが皮がない。少々グロい状態だった。
傷に合うサイズのテープガーゼを見つけると、ぺたりと貼る。それだけではすぐに取れそうなので軽く包帯も巻いた。
右手が終わると、次は左手。同じように消毒してからガーゼを貼る。……ここまで2人は一言も会話をしていなかった。
何から話せばいいのか、あるいはどう切り出せばいいのかと混乱したまま時がたってしまう。
しかしそんな沈黙を破ったのは上条だった。

「あのさ……さっきのこと、なんだけど」

「「外」にいくって話でしょ?はっきり言うけどね、私は反対よ」

「だよな…。いつも1人にさせてるもんな」

左手の包帯を巻き終わり、テープで留めると右足の手当てに移る。

「私は当麻と「同居」してるのに…なんでいつも1人で生活しなきゃいけないのよ…これじゃ付き合う前と変わらないじゃない…」

「悪い…ホント、ごめん」

「もうその言葉何回も聞いたから言わないで…ねぇ、お願いだからもう行かないで。当麻だってただいまって言いたいでしょ?」

美琴はそのまま彼をぎゅっと抱きしめた。今までの寂しさをひっくるめるように。
しかし上条は、彼女の要望には応えられなかった。抱きしめられていた腕を離すと、今度は包帯で巻かれた彼女の右手を自分の右手で包む。

「俺だってずっとこの家にいたい―――でも、この右手で他の人の運命を変えられるって、何かすごいって思わないか?
 今、美琴の右手を握るだけで第三位が普通の女の子になるっていうのと同じでさ。」

「だから俺にできること…いや、この右手でできることがあるなら」

「役目は果たさなきゃならないんだと思う」

ここまで言われた美琴は、もう何も言えなくなっていた。しかし、まだ「行っていいよ」とは言えなかった。
包まれた手を離し、両手で彼の頬をむぎゅーっと抓る。

「バカ…」

「あだだだッ!!手当てしたのは俺なのにッ!!」

その後縦や横に十分伸ばしたあと、美琴はやっと手を離す。上条は1.5倍に膨らんだ自分の頬を嘆きながらマッサージしている。

「美琴、1つだけ1人にならなくても済む方法があるぞ」

「え!?ホントッ!?」

「まぁ、美琴の許可というか決断というか…が必要だけどな」

「何よ?早く言いなさいよ」

上条はすっと立ち上がると、少しだけ恥ずかしそうにして「笑うなよ」と念を押す。
そして――――……

「子供、作らないか?」

その瞬間、美琴の表情が驚愕に変わる。
「こ、子供…ッ!?わ、私と当麻のッ!?」

「あぁ。そしたらうちの会社は育児を理由にして出張も大分減るし、帰宅時間も早くなるしな。
 親父たちも早く孫の顔見たいって言ってたし」

「あ――…わッ」

「だから美琴の許可とかが必要って言ったんだよ。美琴が嫌なら先延ばしでも―――」

「やッ!!」

「え?嫌だ?」

「違うわよバカっ!!先延ばしするのが嫌なのッ!!」

「と、いうことは……」

2人して顔が赤くなる。子供を産む=・・・ということを今更考えてしまったのか、苦笑いさえできない状態だ。
かといってこのまま沈黙を続けても何も始まらない。

「まぁ、俺がいない間に考えておけよ。美琴次第なんだし」

「うん……」


2人の子供はどんな子になるだろうか。男の子か、女の子か。もしかすると男女の双子かもしれない。
しかし、いつか2人が今よりも幸せな家庭を築いていることは間違いないだろう。

Fin








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