とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある高校生の平和な非日常




マズイ。非常にマズイ。

学校に向かって歩きながら、上条当麻はぶつぶつとうわごとのように同じ言葉を呟いていた。

ああ、くそっ!俺はなんであんな夢を?

眉間に皺を寄せ、時折頭を抱えたりしながら上条は校門を通り過ぎ、昇降口をくぐり、下駄箱で靴を履き替えて教室へと向かう。

そして教室へ入ると真っ直ぐに自分の席へと向かい、鞄の持ち手を机の横のフックにかけて椅子に腰掛けると机の上に突っ伏した。

「うー、だーっ」

「何、朝から奇声を発しているのよ?貴様は」

おでこで長い黒髪で巨乳なクラスメイトの吹寄制理があきれた声で言う。

「いきなりそんなこと言われてもなあ。普通、クラスメイトに朝一でかける言葉って『おはよう』とかじゃねえ?」

「貴様が普通じゃないんだから仕方ないじゃない」

「ひどっ!確かに上条さんは不幸ですけれども、普通じゃないって酷くねえか?」

「そういう意味じゃなくて、今日の上条はいつもと違うってこと」

「うん。おはよう。普通じゃない上条君」

横から長い黒髪の少女が会話に加わってきた。何気に酷いことを言っているような気がする。

「おはよう姫神。だけど、一言多くね?」

「吹寄さんも言ったけど。いつもと違う上条君が悪い」

「…………そんな違う?」

ふたりの同級生に上条が尋ねると、ふたりはほぼ同時に『うん』と言って首を縦に振った。

嫌な汗が背中をつーっと滑り落ちていく。

「上条さんは寝不足なだけですよー」

「嘘」

「嘘ね」

「即否定!?」

完璧とはいかなくてもそこそこ通じるだろうと思っていた言い訳をばっさりと切り捨てられて、上条はがっくりと肩を落とす。

「さあ上条、さっさと白状して楽になりなさい」

「いやいやいや、吹寄さん。上条さんにもプライバシーってものが―――」

「却下」

「横暴だ!」

「貴様を心配してやってるのに何よその言い方は?」

「……誰も話を聞いてくれとは言ってないだろ」

溜息混じりに上条は言う。

「何よ、相談があるなら聞いてあげるわよ?」

「だから、お前に相談するようなもんじゃないんだよ」

「それってあたしが頼りにならないってこと?」

「そうじゃなくて、お前や姫神に相談するようなことじゃないんだって」

これじゃあ堂々巡りだ。案の定、吹寄は納得がいかないといった表情で上条を見ている。

「……あー、その、つまりだな」

ポリポリと頭を掻きながら上条は言う。

「例えばお前が誰かと夢の中でキスをしたとして、そのことを俺に相談するか?」

「するかバカッッ!!」

再び即否定する吹寄をジト目で見ながら、上条は大きく溜息をついた。

「お前が俺に聞こうとしているのは、そういうことなんだけど?」

「………それってつまり、上条は誰かと夢の中でキスをしたってこと?」

「…………………………………さて、一限目はなんだったかな」

「上条君。ごまかすの無理」

「いやそこは何も聞かなかったことにしてくれるっていうのがクラスメイトってもんじゃね?ってか聞かなかったことにしてください。お願いします」

その場に美しい形で土下座をする上条。だがその行動は今回においては全くの逆効果となってしまった。

土下座をする上条を見て、青髪ピアスを筆頭にクラスメイト達がぞろぞろと彼の周りに集まってきて好き放題言い始める。

「カミやん、何悪いことしたん?」

「吹寄に土下座してるってことは、もしかしてあの爆乳に顔でも突っ込んだか?」

「いやいや、姫神に抱きついたのかもしれん」

「どっちにしてもこれは、アレだな」

「ああ、間違いない。裁判だ」

「不幸だああああああ!!」



―――

「………酷い目にあった」

放課後の補習を終え、薄暗くなり始めた道を自分の部屋のある学生寮目指して歩きながら、上条当麻は呟いた。

クラスメイトの追求は朝のHR前、昼休み、放課後の補習前と実に執拗であったが、なんとか逃れることに成功した。

うん。よく耐え切った。俺。

頬を何かが伝って落ちていったような気がしたが気のせいだろう。

それにしても―――。

指先で自分の唇に触れ、顔が熱くなるのを自覚する。

―――やけにリアルってか、柔らかかったよな。夢なのに。

夢の中の少女の唇の感触を思い出し、上条は唾を飲み込んで小さく喉を鳴らした。

嫌―――ではなかった。

「………やっべーな」

ぼそっと呟く。

「…なにがやばいのよ?」

「んー。いや、顔合わせ辛いなーって思ってたりするわけで」

「誰と?」

「御坂と」

「ふぅん。ちょろっと詳しく聞かせてもらおうかしら?」

「……………………………あれ?」

ギギギと油が回っていない機械の歯車のような音を立てそうなくらい不自然な動きで上条が後ろを振り返ると、そこには常盤台中学の制服に身を包んだ茶色い髪の少女―御坂美琴―が、お世辞にもお行儀がいいとは言えない格好―右手をプリーツスカートのポケットに突っ込み、左手は鞄を持ち肩に担いでいる―で上条を見ていた。

「妹達かわたしの友人にちょっかいでも出したのかしら?」

少女が右手を突っ込んでいるポケットの中から金属製の何かを擦り合わせているような音が聞こえてくる。

「やだなあ御坂さん。そんなことするわけ無いじゃないですか」

「じゃあなんでわたしと顔を合わせ辛いのよ?」

「上条さんのプライバシーに関わることなので、できれば遠慮してもらいたいんですが」

「却下よ」

「ですよね、そう言うと思いましたよ畜生」

軽く舌打ちする上条を見て、御坂美琴はポケットから右手を出し、親指で銀色のコインを軽く弾いて小さく微笑んだ。

「超電磁砲一発いっとく?」

「勘弁してください」

「じゃあアンタ何をしたか言いなさい」

睨んでくる美琴を見て、ぽろっと本音が口からこぼれる。

「…夢の中じゃ可愛かったのになあ。お前」

「…は?」

「……いやなんでもない、こっちの話」

アホか俺ええええええっっ!?

思いっきりテンパってしまった上条は、とりあえずギュゴッと凄い勢いで頭を動かして御坂美琴から視線を逸らす。

「え?夢?可愛かった?…え、えへ。…ど、ど、ど、ど、どんな夢見てるのよアンタ!!」

「だーっ!!夢くらいどんな夢見たっていいだろうが!!」

「ば、場合にもよるわよ!アンタの中でわたしが変だったりしたら、その、困るし!!」

夢でわたしのことを見てくれるなんて、もしかして脈あり!?

顔を真っ赤にしながら美琴はそんなことを考えてみたりする。左胸のポケットにはいつか渡せたらいいななんて思ってハワイで買ったタグリングを入れていたりするのは美琴だけが知っている秘密だ。

「変ってことはなかった…と思う。いや、変って言えば変か?あれ、でもあの時の御坂もあんな感じだったし…」

「あ、あ、あの時ってどの時よ!?」

「……鉄橋で膝枕してくれた時」

「このど馬鹿!!なんでそんな恥ずかしい場面なのよ!」

ぼろぼろと涙を零しながら膝枕をした上条の頭に触れていた記憶が美琴の顔を熱くさせる。幸い上条は目を閉じて考え込んでいたので、真っ赤になっている顔を見られずに済んだ。



「いや、でもさ、お前が素直だったのって、考えてみればあの時くらいじゃねえ?」

「そ、そんなことないでしょ!?」

「いや、御坂ってだいたいいつもツンツンしてるじゃねえかよ」

「アンタだってわたしのこと邪険に扱うじゃない!!」

「お前が攻撃的に接してくるからだろうが!!」

「最近は電撃も撃ってないし、普通に話しかけていると思うんだけど?」

上目遣いで上条を見て、美琴は反論する。その表情が夢の中の美琴と重なった。

「……あー。そうだな。うん。最近は普通に話しかけてくれているよな。悪い」

上条は謝りながら、気まずくなって視線を逸らす。

「ちょっと、なんで目を逸らすのよ?」

「…上目遣いは反則だ、御坂」

「なによそれ?」

「夢と重なるんだよ」

「だからなんなのよ?夢って」

「………言えない」

視線を逸らしたままの上条を見て、美琴は小さく溜息をついた。

「…わたし、アンタに嫌われてるんだ」

「いや、俺は別に御坂のこと嫌っていませんよ?」

「だってアンタ、目を合わせてくれないし」

「今、御坂と目を合わせたら流されちまいそうなんだけど?」

―――あれ?流されるって何に?

夢がどうとか、美琴が素直だったと言っていたことを思い出し、ひとつの可能性を見出した美琴は、少し躊躇ってから尋ねる。

「……………もしかしてアンタ、夢でわたしとキスでもしたの?」

「なっ!?」

ズザザザッと大きな音を立てて後ろに下がる上条。その顔は誰が見てもわかるほど真っ赤になっていた。

「……………………お前、読心能力もあったのかよ」

「そんなのないわよ」

「……………………何でわかったの?」

「『目を合わせられない』、目を合わせたら『流されそうになる』なんて言えば、そうかなって…」

「そ、そうか…」

「うん」

美琴は小さく頷いてから、俯いたままの少年に背を向けた。

少女が自分に背を向けたのに気付き、上条はゆっくりと顔を上げる。

「…あのさ」

美琴は上条に背を向けたまま、まるでわかっていたかのように、上条が顔を上げたタイミングで声をかける。

「アンタの夢の出来事も、わたしがどんなだったかも聞かない」

そこで一旦言葉を切り、美琴は身体を半分だけ上条の方へ向けて視線を向けた。

「さすがに、今日は無理だけど、さ」

視線を泳がせながらも、言葉を続ける。

「その、………してくれるの、…………待ってるから」

最後の方は蚊の鳴くような小さな声で言うと、そのままズババッと音を立てて踵を返し、学生寮の方へと走り去っていく。

「………………………………………………は?」

小さくなっていく少女の背中を呆然と見送りながら、上条は間の抜けた声を出す。

彼女は言った。『してくれるの(を)待ってる』と。

その言葉の意味することに思い至ったとき、上条当麻はこれ以上ないほどに顔を真っ赤にし、頭を抱えてその場に崩れ落ちるのであった。








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