とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

22-111

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匿名ユーザー

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(無題)




愛には恐れがない。完全な愛は恐れを取り除く。なぜなら恐れには苦しみがあるからである。恐れる者はその愛が完全でないのである。
――『ヨハネの第一の手紙・第四章十八節』

わたしは、新しい戒めをあなたがたに与える、互に愛し合いなさい。
――『ヨハネによる福音書・第十三章三十四節』



年の瀬も押し迫って来る12月。
俺と青髪は教室の片隅で頭を抱えてうんうんと唸りながら『その日』について煩悶していた。



俺には去年の『その日』にまつわるエピソード記憶が無かったが、
『その日』に行われる各種イベントの概要については把握していた。

『イルミネーション』という魔術的装飾が施された街頭の下を、
『カノジョ』などと呼称される未知なる生物の手を引きながら闊歩し、
『プレゼントコウカン』と呼ばれる契約儀式を行い、
『クチズケ』で相手の唇から魂を吸い取る、恐るべき暗黒魔術なのである。
その昔17世紀ヨーロッパにて偶然発見されたというこの魔術は……

もうやめよう。
虚しくなってきた。
要するに『その日』は『一年で最も男と女の距離が縮まる日』……これでもまどろっこしい。
簡潔に述べると『日本中が恋人達の為に最高のシチュエーションを用意する日』なのだ。

あるものにとっての『その日』は、心踊らせながら待ちわびる『聖なる一日』に見え、
あるものにとっての『その日』は、上記の通り、鬱々暗澹たる『暗黒の一日』にも見える。

因みに俺は『その日』についての話をしていても、ちっとも心踊らない上に、何故だか無性に泣きたくなってくる。
さらに、原因不明の頭痛、腹痛、動悸、息切れ、めまい、悪寒、嘔気、その他諸症状に襲われることから、
記憶を失う前の俺も『その日』にロクなことが無かったという事実は自明の理であった。

『その日』が『聖なる一日』となるよう、『暗黒の一日』とならぬよう、
誰しもが粉骨砕身東奔西走し、躍起になってオトコ磨きに勤しむ。

最早手遅れだというのに。



しかしである。

不肖、上条当麻は
『誰でもいいからペアになって!』
等という、下劣かつお目出度い発想の元、
『手当たり次第に周囲の女性にアタックをしかける』
という、神経衰弱の序盤の如き男のプライドを一切合切放棄する様な無粋なマネはしない。

『自分が一緒にいたいと思える人』
そして、
『相手も自分と一緒にいたいと言ってくれる人』
そんな人と一緒にすごしたい。

この条件が俺の絶対防衛圏(デッドライン)だった。
男としてのプライド、意地、執念、矜持、理想、そして尊厳。
これらの要素によって、俺の決意はオリハルコンの如き堅固さを獲得したのである。
俺の決意は揺るぎなかった。

……のだが。

悲しいかな、俺も男である以前に『人間』だった。
決意やプライド等を一瞬にして蹂躙し、亡きものにしてしまうものが俺の中に存在していた。

『欲望』である。

周囲のいたるところで発芽する朝顔のようにポコポコとカップルが乱立し、
コンセントとプラグの関係のように、男と女がくっついたり離れたりしている様を見ていると、
全身がどうしようもなくムズムズとし、今直ぐ窓ガラスを割って
「アイキャンフラーイ!」
と、叫びながら飛び出したくなる衝動にかられる。

カップルが手を繋ぎながら歩いている姿を見ていると、
「えんがちょ!」
と、チョップして繋ぎ合う手を叩き落としたくなる衝動にかられる。

そんな衝動にかられてしまう自分自身が情けなくて、また悲しくなる。
哀愁と孤独のスパイラルである。

「誰でもいいからお相手して……」

その言葉が喉まで出かかっていたが、涙と共に無理矢理ぐいっと飲み込んだ。
オリハルコン級の硬度を誇っていた俺の堅固な意思も、今や砂上の楼閣に等しい。
俺は辛くも男のプライドを死守した、いや、死守せざるを得なかったのである。




「ク~リスマスが今年もやってくる……」

机に両肘を付けて頭を抱えながら、絶望的な形相をして歌う青髪。
マントルの底から捻り出したような重低音の歌声には
『楽しみ、希望、幸せ』
といったポジティブな要素は1ピコグラム程も含まれておらず、
『絶望、憂鬱、不幸』
といったネガティブ要素が、歌声に重厚さと凄みを与えていた。

「悲しかった、出来事を、消し去るように……」

俺は絶望的な気分を少しでも紛らわせればと思い、続けて歌った。
だが、歌い終わった直後、耐え難い寂寥感が俺に襲いかかってきた。
リストラを食らった四十代後半の中間管理職のように、頭を抱えながらうなり声を上げる。

「クリスマスが悲しかった出来事を消し去る……だと?モテない男にとっちゃクリスマスそのものが悲劇の象徴じゃねえか……」

そんな俺の様子が気に食わないのか、青髪はじっとりとした目つきをして、ぽつりと皮肉をこぼした。
窓際でニヤニヤと様子を見ていた土御門も、囃し立てるように横槍を入れる。

「そんなん言うたかてカミやんはいっつも御坂さんと一緒におるやん。こないだかて仲良う追いかけっこしとったし」
「そうだぜい。夏休みには『ごめーん!待ったー?』ってやってたしにゃー」
「アイツはそんなんじゃねーよ」

と、にべもなく返答したが、確かに青髪の言う通りだった。
最近御坂がちょっかいをかけて来ることが多いのだ。

『ひょっとして、ひょっとするのか?』
と、妄想暴走機関車を見切り発車させてしまいそうになったこともあった。
しかし、一緒にいるといっても、決して仲が良いというわけではなかった。
ましてや、男女の関係に発展する兆しなど皆目なかった。

毎日毎日、飽きもせずに
『勝負よ!』
と、がなり立てて来て、夜が明けるまで延々と追いかけられるだけ。
そんな奴が自分を好いてくれる訳がない。

むしろ、電撃と共に罵声を浴びせかけてくる様子から察するに、
『ひょっとして、俺、相当嫌われてる?』
と勘ぐる程、ぎすぎすした関係になってしまっていた。
御坂に嫌われるようなことをした覚えはないつもりなのだが。
……あるかもしれないが。



兎に角、こいつらにアレやコレやと話をすると、ナニをされるか分かったもんじゃない。
経験と勘、そして不幸センサーがビンビンと反応している。
ここは上手く左に受け流したいところだ。

「あれはアイツが一方的に付きまとってくるだけだっつーの」

そう言った瞬間、場の空気が、凍り付いた。

青髪はわなわなと唇を震わせ、オーパーツでも発見したかのような、驚愕の表情を浮かべていた。
一方の土御門は、窓の外を眺めながら、やれやれと言った表情でため息をつく。
やがて、我に返った青髪は、無言のまま土御門の傍に寄り、わざとらしい仕草で耳打ちをする。

「ちょっと~聞きはりました~土御門は~ん?レベル5の美少女に『一方的に付きまとわれる』んやて~?」
「カミやんは全世界中にファンクラブがあるぐらいモテモテだからにゃー。我ら一般人には到底辿り着けない領域だぜい」
「お前ら……挨拶代わりに電流食らって、口を開けば罵詈雑言が飛んで来て、一晩中追いかけまわされたら普通『ありえない』って思うだろ?」

俺は自信をもってそう答えた。
『通常の感性』の持ち主ならば、命に関わるような電流をぶちかます奴が、よもや自分を好いているなどと想像するはずもない。
しかし、俺は間違えていたのだ。

「挨拶代わりの電流……だと?」

致命的なミスを犯していた。

「口を開けば罵詈雑言……だと?」

根本的なことを忘れていた。

「一晩中追いかけられる……だと?」





こいつらに『普通の感性』など、あるハズも無かった。





「「我々の業界ではご褒美です!」」

ジョーダン・ルーデスとジョン・ペトルーシの超絶ユニゾンプレイのような、一寸違わぬユニゾンボイスが教室中に轟いた。



「ボクの長年の恋愛心理学研究(ギャルゲープレイ)によるとやね。これは所謂一つのアレやね」
「ああ、アレですたい。まさか今時そんな純粋培養されたようなツン……おっと!口に出すのも憚られるにゃー」
「せやで。こればっかりはカミやんが気付かな意味ないからなあ」
「ああ。でも、気付いた時がカミやんの貞操の終焉か……」
「お赤飯炊いとかんとアカンね」
「おめでとう!カミやん!安らかに死ね!」
「おめでとう!カミやん!可及的速やかに死ね!」

ニヤニヤと生暖かい目線を送りつけて来る二人。
その眼力には、目が合った者全てを妊娠させるようないやらしい妖気がこもっていた。

「待て待て待て待て!お前らはアイツを見てないからそんなこと言えるんだ!直接会って話せば分かる!」
「断言したる。御坂さんは確実に『ホ』の字や」
「『ホ』の字って……とにかくアイツに限って絶対ありえねえ!」
「それがありえんねやて!『クリスマス一緒に遊ばねえか?』って言うてみい。確実にOK貰えるで」
「にゃー。何なら今日の昼飯代かけてやってもいいぜい」
「せやね。もしOK貰われへんかったら、ボクの卑猥玩具(パンドラグッズ)全部あげてもええよ」

その時、俺はどうかしていたのだろう。
バカ2人に乗せられてムキになってしまったのか。
はたまた、淋しさのあまり精神を支える箍が崩壊してしまったのか。
そのどちらかが原因なのか、両方が原因なのか、どちらでもないのか。
果たして俺には分からない。
しかし、気付いた時には携帯電話を手にしており、

「あ、もしもし?今電話して大丈夫か?あのな……」

十二月二十四日、御坂とデートすることになっていた。



白井さんから緊急強制招集がかかった。
例によって例の如く、ファミリーレストラン『Joseph’s』に集合した、いつもの四人組。
メンバーは『いつもの』四人組だったけど、その様子が『いつも』とは異なっていた。

まず第一に白井さん。
(変態だけど)綺麗に整っている顔を真っ青にし、瞳孔をがっつりと開ききって、

「しんじられませんわしんじたくありませんわしんじませんわしんじるわけがありませんわおねえさまおねえさまおねえさま……」

と、ぶつぶつ囈言を呟いている。
その病的な、いや、確実に精神を病んでいるその表情を見ていると、少し心配になってくるが、
まあ、この人は基本的にぶっ飛んでいるからほっといておこう。

問題は御坂さんである。
いつも私達を纏めてくれる、お姉さん的存在の御坂さん。
時々子供っぽい仕草を見せるが、それすらも人間味があって魅力的に思う。
一時期精神的に不安定な時期があったが、今ではもうすっかり元気になったみたいだ。

でも、そんな御坂さんが、壊れた。

「でへへへへへへへぐへへへへへへへへ……」

恍惚の表情を浮かべながら、にやにやと笑い続けているのだ。
大丈夫ですかと、呼びかけても、曖昧模糊な返事しか返って来ず、ますます私を心配させた。

これは異常事態だった。
初見の人が見れば、十人中十人『白井さんの方がヤバい』と判断し、その内八人が救急車を呼ぶと思う。
でも、内情を知る私にとっては『御坂さんの方がヤバい』と断言出来る。
御坂さんがここまでぶっ飛んだ姿を、未だかつて見た事がなかったからだ。
とにかく、御坂さんの様子が心配だった。

そして、白井さんは変態だからどうでもいい。



『Joseph’s』は大勢の客で溢れ返っていた。
その大半は私達と同年代の女子中高校生ばかりで、店内はキャイキャイした黄色い声が渦巻いていた。
女三人寄れば『姦しい』になるけれど、女五十人集まったら果たして何て呼べばいいのだろうか。
とにかく、店内は会話するのもままならない程の騒音だった。

そんな雑音を一閃する大音声が轟いた。

「由々しき事態ですわ!」

鬼気迫る表情をしながら、テーブルを叩き、非常事態宣言を発令する白井さん。
背後の席に座っていた女子高生が、びくっとして振り向いた。
白井さんは、まわりから突き刺さる痛々しい目線なんかちっとも気にも留めずに話し続ける。

話し続けるっていうよりも、選挙の街頭演説に近かったけど。



「今日皆さんをお呼びしたのは他でもありません!お姉様の件について、そして、ヒゲブラザーズが大ブームになったわけでもポルトガルの植民地にわけでもないのに世間が赤と緑に彩られ、いたるところにピカピカのイルミネーションが取り付けられ、赤い服を着た白ひげ爺が跳梁跋扈し、街中には胸焼けしそうな程の激甘な空気が充満し、カップル達が屋外のベンチでイヤホンのケーブルの如く絡まり合い、男と女が付き合ったり突き合ったり組んず解れつの運動会を夜な夜な繰り広げる『あの日』のことですの。突然ですが、佐天さん。貴女ご予定はありまして?ありませんの?あらそう。初春は……失礼。貴女の様な年中頭がお花畑の人間には無縁のお話でしたわね。さて、実はこの私白井黒子には予定が御座いますの。お相手は勿論、御坂美琴お姉様ですわ。が!しかし!だがしかし!お姉様は黒子が予定していた、めくるめく愛と官能の一夜を袖にしようと言うのです!それに飽き足らず!他の人間とデデデッデデッッッッデデデデデデデデデートすると申しておられます!しかも!その相手はよりにもよってあの類人猿!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!なんという忿懣!なんという懊悩!なんという苦衷!なんという屈辱!何故私がこのような仕打ちを甘受せねばならぬのですか!?黒子の純粋無垢な愛情は報われないのですか!?これは神が与えたもうた試煉なのですか!?それとも前世より続く業苦なのですか!?嗚呼!あれもそれもこれもどれも全て憎き類人猿のせい!許すまじ!決して許すまじ!断固として許すまじ!私は立ち上がりますわ!毅然と!奮然と!憤然と!バスティーユ牢獄を襲撃したパリ市民のように!奴隷解放を決意したリンカーンのように!『皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ』と船員を鼓舞し、大国ロシアのバルチック艦隊を打ち破った東郷平八郎のように!今こそ立ち上がる時なのです!嗚呼、神よ!どうかこの私白井黒子めに祝福を!幸福を!そして成功を!願わくばお姉様のアガペーを!」




騒がしかったはずの客席が、水を打ったかのように静まり返っていた。
白井さんは、いつのまにかソファの上に立ち上がり、大演説を繰り広げていた。
唖然たる面持ちのまま、私はその演説に聞き入っていた。
ちっとも理解できなかったけど。

と、そんな事を言っている場合じゃない。
一刻も早く、この変態、もとい、白井さんをなんとかしなきゃいけないのだ。
ソファから変態を引きずり下ろし、正気に戻そうと(そもそもこの人に正気というものがあるのか不明だけど)懸命に呼びかける。

「白井さん!ストップです!やめて下さい!迷惑です!他のお客さんが見てます!」
「それは僥倖ですわ!私がいかにお姉様を想い、慕い、敬い、そして愛しているかを全世界に流布するチャンスではありませんか!そもそも『愛』というものは目には見えぬもの。形として残らぬもの。では、それを伝える、表現するにはどうすればよいか。簡単ですわ!『ただひたすら愛を叫ぶ』のです!田代神ではありませんが、ミニにタコが出来るまで愛を叫び続けるのです!そうすればやがて……………」



駄目だこいつ…
早くなんとかしないと…

いつもならば御坂さんの電撃で即、叩きつぶされているはずなのに。
今日はその御坂さんの様子がおかしかったので、白井さんの暴走に拍車がかかったんだろう。
ブレーキの効かない、いや、そもそもブレーキの存在しない白井さんを止められる人は、もはや誰もいなかった。

藁をも掴む思いで、初春にも救援信号を送ってみる。

「ほら、初春も!コンビなんだから何とか言ってよ!」
「ん~チョコレートバナナパフェが気になるんですけど、昨日チョコレートケーキを食べたしなぁ……」



駄目だこいつも…
早くなんとかしないと…

こうなっては仕方が無い。
この変態を黙らせる、唯一にして絶対の方法、御坂さんに助けを求めるしかない。
……今の状況がちょっと心配だけど。

「あの~御坂さん……白井さん何とかして欲しいんですけど……」
「デュフフコポォwwwwwwwwオウフドプフォwwwwwwwwフォカヌポウwwwwwwwwww」

もうどうにでもな~れ☆









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