とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

23-071

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匿名ユーザー

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(無題)3

(無題)2 の続編です。



16時から21時。
俺達がマクロナルハンバーガーに滞在していた時間だ。
正確に言えば『俺が青髪と土御門に精神的折檻を受けていた時間』だ。

現在時刻は21時過ぎ。
事の発端は、約5時間半前に遡る。

15時20分。
科学の最先端である学園都市に似つかわしくない、チープで古風なチャイムが鳴る。
誰も聞いていないであろう古典の授業が終わった。
誰も聞いていないであろうホームルームも勢いそのままに有耶無耶なまま終わり、
ダルそうな顔をした生徒が、三々五々各々担当の掃除エリアへ向う。

階段エリアを担当していた俺は、踊り場の真ん中で交通整理を行う腕振りロボットの如く
ただただぼんやりと無気力に箒を振るっていた。
目の前の塵芥に意識を向けている余裕など、俺には毛程も無かったからである。

頭の中は、御坂とのデートのこと……

ではなく、向こう1週間の食費のことで一杯だったのだ。
このままでは生死に関わりかねないのだ。
俺の脳は普段全く活動していない分を挽回するかの如く、『樹形図の設計者』並みにフル稼働していた。

(今、全財産は6612円ある。次の奨学金の振込はあと11日後だ。日割りにしておよそ601円。米がまだまだ残っているから主食は大丈夫として……問題はインデックスの分だ。今晩インデックスは小萌先生と豪華絢爛焼き肉セットらしいから一食分浮く。でもそのツケが怖い。一度美味いもんを食って舌の肥えたインデックスは危険過ぎる。厄介だ。非常に厄介だ。向こう一週間は『もやしでかさ増しするのは卑怯すぎるんだよ!』『1グラム1円のアメリカ産豚肉でお茶を濁そうったってそうはいかないんだよ!』『この菓子パン半額だった?なんかぱさぱさしてるかも』『また一玉28円の中華そば?たまには【ス○王プレミアム・なすとモッツァレラのミートソース】が食べたいんだよ!』のオンパレードだ。ちくしょう、初めてうちに来た時は腐りかけの焼きそばパンで満足してたってのに。ま、おいしいって言ってもらえりゃ、それだけで満足なんだけどな。ってそんな悠長な事を言ってる場合じゃねえ。どう考えたって振込日までもつ気がしねえ。青髪んとこのパン屋からパンの耳をわけてもらったとしても無理だ。ってかこんな状況じゃ御坂とのデートが心配になってくるな……こうなったら『財政非常事態宣言』を発令して母さんにカンパしてもらうか……)



ぶつぶつと呟きながら沈思していると、背後から
「カミやーん!」
という叫び声と共に、屈強なプロップをもなぎ倒すだろう、凄まじいタックルが襲いかかってきた。

危うく池田屋事件を忠実に再現するところだったが、寸でのところで堪える。
振り返るまでもなく分かりきっていたが、やはり青髪と土御門だった。
殺人未遂犯は満面の笑みをたたえながら、にこやかに告げた。

「学校終わったらマクロナルハンバーガーで祝賀会でもしようぜい!」
「祝賀会って言うよりむしろ『卒業祝い』やね!お金のことは心配せんでもええよ!」
「だぜい!こういう時ぐらいはぱーっと奢ってやるから気にするにゃー!」

その笑みには、陰謀や奸計めいた邪な感情は含まれていないように見えた。
御坂とデートすることになった俺を、真剣に祝おうとしている様に見えた。

確かに見えた。
確かに見えたのだが。

結論から言わせて頂くと、見えただけだった。

『祝賀会兼卒業(何を卒業するかは推して知るべし)祝い』の誘いを受け、
「ああ。持つべきものは良き親友だな」
などと、ガラにも無いことを考えていた。

またしても俺は、青髪と土御門の本来の性質を見失っていたのだ。
こいつらは『デルタフォース(他一名のことは触れないで頂きたい)』と呼ばれる、別格のバカなのだ。
バカの双璧を成す2人が『まともに俺のことを祝う』など、ありえるはずもない愚鈍な発想だった。

何も知らない俺は、ウキウキ気分でマクロナルハンバーガーへ向かっていった。

そこで地獄の様な5時間を過ごすとも知らずに。



「カノジョのことは何と呼んでるんですか?」
「カノジョには何と呼ばれているのですか?」
「カノジョとのなれ初めは?」
「カノジョのどこに惹かれたんですか?」
「カノジョと普段どこへ行かれるのですか?」
「カノジョはレベル5とのことですが、価値観の相違等はないのですか?」
「カノジョとの最高の思い出は?」
「カノジョを一言で言い表すとしたら何ですか?」
「カノジョを動物に例えたら何ですか?」
「カノジョになして欲しいところはありますか?」
「カノジョとはぶっちゃけヤっちゃったんですか?」
「式はいつですか?」
「お子さんのご予定は?」
「お子さんのお名前は?」

………………
………


質疑応答という名を模した言葉のアクセラレータが、際限なく続く。
土御門は『とりあえず面白そうだから』という理由で、
青髪は『カミやんがボクより先に大人の階段登るなんて、断固認めへんからね!』という身勝手な理由で。

黙っていたら、早く喋れと言われ、
反論すれば、口答えするなと言われ、
帰ろうとすれば、キツいボディブローを浴びせられ、
反撃しようとすれば、2人がかりで取り押さえられる。

そこには黙秘権どころか『基本的人権の尊重』という、日本国憲法の大原則すら存在しなかった。
地獄の果ては、まだまだ見えない。
というか、地獄に果てがあるのかすら分からなかった。



治外法権の地獄絵図は、21時に差し掛かる頃ようやく終焉を迎えた。
マクロナルハンバーガーを出た頃には夜の帳が下りていて、空はすっかり真っ暗になっていた。

「いやー!身体の底から冷えるにゃー!」
「一人もんのボクは身も心もキンキンに冷えきってますわ……」

バカ2人の気が済むまでコッテリと絞られた俺は、バカ2人の跡をげんなりしながらついていった。
肌を刺すように凍える夜風を浴びながら、夜の冬場独特のひっそりとした街並みを歩く。
人通りもまばらな街並みと、肌にまとわりつく夜風とが相まって、心細く感じてしまう。
しかし、煌々と光輝くイルミネーションのおかげで、不思議と孤独感は感じられなかった。

(イルミネーションって、いいもんだな……)

そう心の中で呟いたが、口に出してしまうと再び恐ろしい洗礼を浴びせられるので自重した。
もっとも『御坂とのデート』というイベントが無ければ、このイルミネーションの光も、
ナウ○カの巨神兵が放つプロトンビームの如き破壊力で、俺の心を無慈悲に粉砕していただろう。

(俺、御坂とデートするのか……)

ぼんやりとイルミネーションを眺めながら、俺は改めて御坂とのデートについて考えてみた。

誘ってみた時はムキになっていたし、青髪との賭けもあった。
そして何より淋しさ、勢い、焦りがあった。

十把一絡げに言ってしまうと
『クリスマスに一人は淋しいので、駄目元で言ってみたらOKを貰っていた』
に尽きるだろう。

「自分の都合で女の子を弄ぶのか、お前には血も涙もないのか」

と罵る方もおられるだろう。
無理も無い、ごもっともな話だ。
でも、俺には分からないのだ。
御坂が、そして何より、俺自身が。



御坂のことは『好き』か『嫌い』かで言えば、勿論『好き』だ。
しかし、その『好き』は『女性として好き』なのかと尋ねられると、素直にイエスとは言えない。
そこには一言では言い表せない、複雑に入り組んだ『いろいろ』があるのだ。

勿論、御坂は人間的にも女性的にも非常に魅力的なヤツだとは思う。

さっぱりした茶色のショートヘアー。
きりっと開かれた鋭くも優しい瞳。
ぷっくりと膨らんだ薄い桜色の唇。
すらりと伸びた健康的な長い脚。

間違いなく十人中九人が(残る一人は同性愛者か余程の偏屈者)、好感を持つであろうその美貌。
しかし、その美貌にも『黙っていれば、大人しくしていれば』という前置詞が付く。

さっぱりした茶色のショートヘアーを、歌舞伎役者のように振り乱し、
きりっと開かれた瞳は、獲物を追う肉食獣の如く見開かれ、
薄い桜色の唇からは、世にも醜い罵詈雑言がまき散らされ、
健康的な長い足をフル活動させ、猛然と追いかけて来る。

つまり、
『何もしていないのに喧嘩を売られる→追いかけられる→ビリビリされる』
の関係が長過ぎて、今更色っぽい雰囲気になどなれないのだ。
向かい合って3秒後には、即公開スパーリングが開始されるトムとジェリーもビックリの蜜月な関係だ。
そんな関係では『アイラビュー』や『アイニージュー』といった類いの睦言をつぶやけるハズもない。

目があっただけで勝負を申し込まれ、何もしていないのに罵声と電撃が飛んで来る。
無論、俺はポケ○ンマスターになった覚えなどさらさらない。
よくもまあ飽きもせずに、毎日毎日喧嘩を吹っかけれるもんだ、とある意味感心もするが、
余程ストレスでも溜っているのだろうか、と御坂の心理状態を案じたりもする。
腹を割って悩みを聞いてやろうかと真剣に考えたこともある。

しかし、それが毎日毎晩続くと、時折御坂は俺のことを
『喋って歩くお気軽サンドバック』
程度にしか思っていないのではないか、と勘ぐってしまう時がある。
いくらなんでも襲いかかって来る理由が分からない。
繰り返し申し上げるが、『俺は御坂に何もしていない』ハズだ。

予々『中2女子の精神は非常に敏感で脆弱』という噂を伺ってはいたが、
ストレスの発散は無機物に向けて発散させて頂きたい。頼むから。
俺の肉体にも精神にも『限界』というものがある。



さて、読者の皆様。

ここまでの説明を鑑みて、
『御坂は俺のことを想ってくれている』
という結論に辿り着くことが出来るだろうか?

俺は否だと思う。

自分の想い人に対して、死に至るような電撃を放つ人間はまずいないはずだ。
「ツンデレなりの愛情表現だろ?かわいいじゃん」
と仰る方もおられるだろうが、10億ボルトの電圧で愛情表現をされても困る。
最早殺人未遂レベルと言っても過言ではない。

そして何より俺自身の不幸体質。
今回のデートに対するイメージも
『御坂なりのストレス解消か?』
『何かのドッキリじゃねえのか?』
『どうせいつも通り不幸なイベントに巻き込まれるんだろうな』
といった、ネガティブな方向へと向かってしまう。
俺が臆病者なだけかもしれないが、それを裏付けるだけの実績があるのだから質が悪い。
ポジティブに考えようにも、次々襲い来る不幸を味わううちに、どうにもマイナス思考になってしまう。
そして深く考えてれば考える程、ずぶずぶとネガティブの底なし沼へと浸かっていくのであった。

「はあ……一体どうすりゃいいんだ……」

誰に言うでもなく愚痴をこぼし、ぼんやりと夜空を眺める。
吸い込まれそうな夜空の中に見事なオリオン座が鎮座しており、周囲のイルミネーションに負けない輝きを放っている。
小さくも力強い輝きを放つ美しい星達を見ていると、何故か願いが叶うような気がしてきた。

いつの間にか『星に願いを』のフレーズを口ずさんでいた俺は、
(ベテルギウスでもリゲルでもベラトリックスでも何でもいいから、御坂の本当の気持ちを教えてくれ!)
と、無意識の内にお願いをしていた。

しかし、お願いした2秒後には、
(うわあああああああああああああ!キモチワリぃ!恥ずかしい!死ねる!ってかいっそ一思いに殺してくれ!)
と、全身がムズ痒くなるような感覚に陥っていた。

乙女なお願いをぶちかましてしまった俺は、悔恨の念にかられながら頭を抱えていた。
(自称)ハードボイルドでダンディな俺が、まさかこんなチャーミングで乙女な行動をとるとは。
クリスマスの恐ろしき魔力をひしひしと痛感させられてしまった。

これ以上クリスマスマジックの魔の手にかからぬよう気を引き締めようと決意した矢先、
聞き覚えのあるドスのきいた声と、恍惚に浸る変態ボイスが聞こえてきた。
思わず駆け寄ると、目の前には見慣れた光景が繰り広げられていた。

「さっきからずーっと思ってたんだけど、アンタはよっぽど私の不幸を望んでるみたいね?」
「滅相もございまあああ!!!私はお姉様の幸福だけをああああああ!!!!!!」
「ちっともそんな風には見えないんだけどぉ!?」
「ああああああ!!!!!!お姉様の愛が注がれてああああああああ!!!!!」

申し上げるまでもない。
変態淑女白井黒子、そして(俺の中で)時の人、御坂美琴だった。

これはお星様がお膳立てしてくれた絶好のチャンスなのだろうか。
はたまた再び地獄へと突き落とす、悪魔の審判なのだろうか。








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