とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある二人の暗部生活




第1章 アイツとアホ毛


大覇星祭三日目

少年の失踪を知ってから一週間後、学園都市は街全体を挙げての大規模な体育祭・大覇星祭が開催されていた。
年に一回学園都市が外部に公開される祭だけあって多くの人々で溢れ返り、凄まじい熱気が街全体を覆いつくしている。
そんな活気に溢れる学園都市の中を美琴は自分の応援に来てくれている両親と合流するために人混みを搔き分けて歩いていく。
ようやく待ち合わせ場所のレストランに辿り着いた美琴は6人掛けのテーブル席に母の美鈴と珍しく日本に帰ってきている父の旅掛が座っているのを見つける。
テーブル席には両親の他に中年の男性と若い女性が座っており、どうやら相席しているようだった。

「美琴ちゃん、こっちこっち!!」

美鈴が美琴の存在に気付いたようで、席を立ちあがり美琴に対して大きく手招きする。
美琴はテーブルに向かうと手招きした母の隣に座った。

「美琴ちゃん、お疲れ様!!
 でも何だか調子があまりよくないみたいだったわね」

美鈴は美琴に対して心配するように言った。
美琴は少年が失踪したと聞いてからイマイチ何事にも身が入っていなかった。
年に一回の大きな祭である大覇星祭に関しても自分だけが楽しんでいいのかという気持ちが強く本気になりきれなかったのだ。

「一緒にお嬢さんの競技を拝見させてもらいましたけど、あれで調子が悪いとは流石レベル5ともなると違いますな。
 ウチの当麻も体力はありますから、普通の体育祭なら活躍出来るんでしょうが…」

「えっ?」

両親と相席する男性から美琴にとって聞き逃せない言葉が出てきた。
当麻、別に珍しい名前ではないが目の前に座る男性が纏う雰囲気は知り合いの少年を連想させるものがあった。

「あら、紹介がまだだったわね。
 こちらは上条刀夜さんに詩菜さん、先日近所に越してらしていらっしゃったの」

「はじめまして、上条刀夜です。
 美鈴さんに似て綺麗なお嬢さんだ、将来は美鈴さんに似て美人に…」

「刀夜さん?」

「か、母さん、今のは素直に感想を言っただけで他意は…」

目の前の男性と女性は少年の両親に違いなかった。
少年の母親が異様ともいえるほど若々しいことに衝撃を受けるが、それ以上に美琴の中に動揺が広がる。
このタイミングで少年の両親に会うことになるとは思ってもみなかったからだ。

「それで美琴ちゃん、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「な、何?」

「上条さんのところも学園都市に男の子のお子さんがいるんだけど連絡がつかないらしいのよ。
 名前は上条当麻君っていうんだけど、何か心当たりない?」

少年の両親は期待を込めた目で美琴のことを見つめている。
しかし少年が行方不明だと正直に告げるわけにもいかず、美琴は言い淀んでしまう。

「アイ…上条さんとは知り合いなんですけど、私もここ数週間は顔を見てないんです。
 すみません、お力になれなくて…」

嘘は言っていない。
もしかしたら少年が何かに巻き込まれている可能性がある以上、下手に話すのは危険だと美琴は判断した。
しかし美琴の気遣いを打ち砕くように今まで黙っていた旅掛が口を開いた。

「美琴ちゃん、俺達を気遣っているのかもしれないが上条さんは少なくても上条君に何が起こっているか知る権利がある。
 それに刀夜さんは非常に頭の回る人物だ、隠していてもいずれ真相に辿り着くだろう。
 いや、もしかしたらすでに見当は付いているのかもしれないが…」

「パパ、何を言って!?」

すると前の席に座る刀夜の穏やかな表情が険しいものに変わる。
美琴はこの場にいる男性二人が急に得体のしれない何かに変わってしまったような錯覚を覚えた。

「母さん、悪いけど…」

「あらあら、刀夜さんったら。
 刀夜さんがその顔に変わる時だけは主従が逆転してしまいますね。
 美鈴さん、私達はお邪魔みたいですから少し席を離れましょうか?」

「でも、詩菜さん…」

「美鈴、いつかきちんと全て話す。
 だから今は詩菜さんの言う通りにしてくれ」

「…わかったわ」

美鈴と詩菜は席を立ちあがると三人を残しレストランの外に移動するのだった。



「ではお互いの知っている情報を確認しておこうか?」

旅掛がその場を仕切るように美琴と刀夜に提案する。
しかし美琴は目の前にいる大好きな父親が得体のしれない人物に思えて顔を強張らせていた。
すると刀夜がそんな美琴を諭すように言った。

「大丈夫、心配しなくていい。
 少なくても旅掛さんと私は美琴さんの味方だから」

「刀夜さん、それは父親である俺のセリフでしょう…」

少年を連想させる優しい笑顔と旅掛の普段通りの物言いに、美琴は父親達に対する緊張感が少し和らぐ。

「では私が知っている情報から話しましょうか。
 とは言っても、旅掛さんや美琴さんほど詳しい情報を知ってるとは思えませんが…
 私が知っているのは量産能力者計画と絶対能力進化、そして絶対能力進化の実験を当麻が止めたということくらいです。
 しかし量産能力者計画も絶対能力進化も知ったのはつい最近で、絶対能力進化の実験がすでに中止された後でした。
 すまないね美琴さん、もっと早く知っていれば何かしてあげられたかもしれないのに…」

「いえ、そんなことは…」

「流石ですね、刀夜さん。
 私も同じ情報をつい最近知ったばかりです。
 しかし実験に関わった子供の親が同時期に実験の情報を知ったとなると考えられるのは…」

「意図的に情報が流されたということですかね」

「ど、どういう意味ですか!?」

父親達の話に全く付いていけない美琴は訳が分からないといった様子で二人に尋ねる。

「裏の世界に俺達がいくら詳しいと言っても、外部の人間にそこまでの情報が流出するのは常識的に考えてありえない。
 もしこんな実験が行われていたことを知ったら外部からの非難は避けられないからね。
 まあ俺達が何かしようとしたら簡単に消すことが出来るという現われかもしれないが…」

「意図的に私達に情報を流していたとしたら、考えられるのは私達が接触してくるのを待っているんでしょうね」

「でも何のために学園都市の上層部がパパ達とコンタクトを?」

美琴がそう尋ねた時、三人の下に近づいてくる足音があった。
そしてようやく三人は店内の異変に気付く。
詩菜と美鈴がいた先ほどまでは客で溢れ返っていた店内に今は三人を除いて誰もいないのだ。
客だけでなく店員たちまで姿を消しているようだった。
そして三人の前に現れた足音の主は…

「何でアンタがここに!?」

美琴が探し求めていた少年…上条当麻その人だった。

「何でって、自分の親に会いに来ちゃ悪いかよ?
 それより何で父さんと御坂が一緒にいるんだ?」

「それはアンタのご両親がウチの実家の近くに越してきたらしくて、その縁で…
 それよりもアンタ、行方不明になったんじゃないの!?」

「俺が行方不明って何処からの情報だよ!?
 見ての通り上条さんはここにいますけど…」

「でもアンタが学校を辞めて、アンタのご両親もアンタと連絡がつかないって…」

「あー、連絡がつかなかったのは携帯が完全にぶっ壊れたからなんだ。
 メモリーも完全に消えちまって連絡手段がなかったんだよ。
 ということで父さん、これから新しい携帯の番号を送るから」

上条はそう言って自分のポケットから携帯を取り出す。
すると刀夜も何事もなかったかのように上条との番号の交換に応じた。

「当麻、数週間前に会ったばかりだが男の顔になったな。
 その顔は何か守るべきものが出来たか?」

「…まあそんなところかな?」

妙に自然な流れで場に馴染んで自分の父親と自己紹介している上条に美琴は苛立ちを覚えながらも、
この機を逃すと再び上条を見失ってしまいそうなので上条に食らいつくように美琴は言った。

「じゃあ学校を辞めた理由は何なのよ!?」

「実はいい就職先が決まってな、上条さんの成績じゃ二度と来ないような好条件だったから学校を辞めて就職することにしたんだ」

「就職が決まったって…
 何よ、心配してた自分が馬鹿みたい」

美琴は自分がしていた心配が徒労に終わったことを知り、ホッと胸を撫で下ろす。
しかし旅掛が次に発した言葉でその場の空気が一変する。



「君が就職した先は学園都市の暗部じゃないのかね?」

学園都市の暗部、美琴にも心当たりがたくさんあった。
絶対能力進化の実験などその最たるものだろう。
しかし上条がそういった仕事に就いたなど美琴は考えたくもなかった。
美琴は上条が否定するのを期待して見つめるが、上条から出てきた言葉は残酷なものだった。

「…暗部っていう言葉のことは良く分かりませんが、裏の仕事っていえばそうかもしれませんね」

美琴は目の前の少年が何を口にしたか理解できなかった。
命を懸けてまで学園都市の裏の実験を止めた少年が何の躊躇いもなく裏の仕事に就いたと言っている。
憧れた少年はもう何処にもいなかった。

パシィーン

美琴は立ち上がると上条の頬を思いっきり叩いた。
上条は何が起きたか分からないといった様子で美琴のことを見つめている。

「ちょっ御坂さん、いきなり何をするでせうか!?」

「よりによってアンタが、アンタが裏の仕事に就くなんて。
 なんで妹達の…私のヒーローが私達を裏切るような真似するのよ!!」

美琴は上条の襟袖を攫むと、女の子とは思えない力で上条のことを床に叩きつける。
突然の出来事に旅掛も刀夜も反応できないでいた。
そして美琴は上条の上に馬乗りになると上条の頬を何発も叩き始めた。

「御坂、ストップストップ!!」

「うるさい、アンタの目が覚めるまで止めるわけにはいかないわよ!!」

しかしそこに小さな乱入者が現れる。

「お姉様、ストーップ!!!」

美琴が声がした方向を振り向くと、そこには自分と瓜二つ…正確には幼い頃の自分と瓜二つの姿をした少女が立っていた。

「お姉様、ヒーローさんは何も変わってないミサカたちのヒーローのままだよ。
 それにしてもヒーローさんはあまりに言葉足らずかもってミサカはミサカはお姉様に倣ってヒーローさんの頬を叩いてみる」

「それじゃあ御坂とやってることが何一つ変わってねえじゃねえか!!」

突然現れた自分ソックリな小さな乱入者の言葉に美琴は我を取り戻して上条の上から立ち上がる。

「もしかして、あなたも私のクローンなの?」

「はじめまして、お姉様!!
 検体番号20001号…妹達の上位個体で通称打ち止めだよって、
 ミサカはミサカはやっと会えたお姉様に抱きつきながら自己紹介してみたり!!」

「えっと、よろしくね?」

美琴は抱きついてきた打ち止めの頭を撫でながら、打ち止めに尋ねる。

「それで打ち止めはコイツとどういう関係なの?」

「ヒーローさんはミサカにウィルスを流して妹達全員を支配しようとした科学者からミサカのことを助けてくれたの」

そんな話は初耳だった。
やはり上条は妹達を助けるために自分の知らないところで戦っていた。
にも関わらず美琴は考えなしで上条のことを叩いたことを後悔した。
病院で冥土帰しと上条が学園都市の上層部と妹達のために取引した可能性が高いことを話していたにも関わらず、
裏の仕事と聞き絶対能力進化のことを思い出しパニックに陥ってしまった。
よく見ると上条の体にはあちこちに包帯が巻かれており、怪我をしているのは一目瞭然だった。
それが何による怪我かは分からないが、恐らく上条のことだから誰かのために傷を負ったのだろう。
軽はずみな行動を取った自分に対して吐き気がするほど美琴は自己嫌悪に陥るのだった。



「ごめんなさい、私アンタのこと何も知らずに叩くような真似をして」

「いや俺の方こそ御坂が裏の仕事っていえばどう思うか少し考えればすぐ分かるのに、言葉足らずなことを言ってすまなかった」

自分が一方的に暴力を振るったにも関わらず暴力を振るった自分を気遣ってくれる上条の優しさに、
美琴は感謝すると共に不思議な感情が芽生える。
しかし今の美琴にはその感情の正体が何かは分からないのだった。

「すまない、上条君。
 学園都市と取引した可能性を疑って、君が学園都市の暗部に落ちたと思い込んでしまった。
 娘の分まで俺を殴ってくれ」

旅掛もそう言って上条に深く頭を下げる。

「頭をあげてください。
 俺が人に話せないような仕事をしてるのは確かですし…
 それよりも打ち止め、よりによって御坂の親父さんがいる所に出てきちまうなんて…
 御坂は御坂で普通に自分のクローンだなんて言っちまうし、大丈夫なのかよ?」

動揺する上条の肩に手を置きながら刀夜は言った。

「大丈夫だ、私も旅掛さんもある程度の事情は知っている。
 ただ当麻、お前の仕事はそんな怪我をするほど危険なのか?
 だとしたら親として賛成することは出来ないんだが…」

「…海で会った時に言ったよな、俺の不幸は幸せなんだって。
 今俺がしている仕事は確かに客観的に見れば幸せとは言い難い仕事だと思う。
 でも確かに俺にとっての幸せには繋がってるから心配しないでくれ」

「そうか、なら父さんから言うことは何もない。
 ただ私は当麻の父親だ、お前に何かあったら例え世界を相手にだって戦う覚悟がある。
 だから何かあった時は迷わず私を頼れ、いいな?」

「ああ」

刀夜の言葉に上条は強く頷くのだった。

「でも裏の仕事って具体的に何をしてるわけ?」

美琴の言葉に上条ではなく打ち止めが答える。

「それはね、学園都市に侵入する悪い人達を追い払う仕事だよ」

「悪い人を追い払うって、それは警備員か風紀委員の仕事なんじゃ…」

「警備委員や風紀委員じゃ対処しきれない、例えば9月1日のテロを起こしたまじゅ…」

「打ち止め!!」

打ち止めが言おうとした言葉を上条が遮る。

「その話はしない約束だろ?」

「ごめんなさい」

打ち止めが上条に謝る姿を見ていた美琴は自分だけが除け者にされたようであまり面白くない。

「ちょっと、打ち止めには言えて私には内緒なわけ?」

「それはヒーローさんがお姉様のことがす…」

「打ち止めさーん!!
 まだ小さいから口が軽いのは分かるけど、それ以上言ったら流石に上条さんも黙っていませんよ!!」

美琴はわけが分からないと行った様子で首を傾げている。

「とにかく上条さんは警備員みたいな職に就いたってことだ。
 確かに危険がないとは言い切れない仕事だが、特に御坂さんが気にするようなことじゃないから気にするな」

「何かイマイチ納得できないけど、取り敢えず今は深く聞かないでおくわ。
 でも私もアンタには返しても返しきれないくらい恩があるし、アンタの力になりたいとも思ってる。
 だから何かあった時は私のことも頼ってよ、アンタは一人ってわけじゃないんだからさ」

「サンキューな、御坂。
 俺はお前がそう言ってくれるだけで…」

上条は何か言い掛けたが、それ以上を口にすることはなかった。

「それじゃあ、俺はもう行くな。
 いつまでも店をこの状態にはしておけないし…」

「やっぱりアンタが店をこの状態にしたの?
 でもどうやって…」

「まあ色々裏技を使っただけさ。
 というわけで俺はもう大覇星祭には出ないから父さん達も気にせず帰って構わないぞ。
 御坂も残りの種目頑張ってな」

上条はそう言ってラストオーダーを連れてレストランから出ると、そのまま足早に立ち去ってしまった。
本当は美琴は上条ともっと話したいことがあったのだが、
いざ上条に会うとホッとしてしまい色々と肝心なことを聞くのを忘れてしまっていた。
しかし上条が学園都市にいることと思ったよりも悪い状況でなかったことに安心する。
ただ旅掛だけは上条が去った後も難しい表情をしていた。
そして美琴が上条がどんな世界に足を置いているか知るのは、数日後のことだった。









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