とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある科学の執行部員

改訂版 はこちら。



第2章(1)


夢を見ていた。

まだ幼い少年と、男にも女にも子供にも老人にも聖人にも囚人にも見える『人間』が

何か喋っているのが遠くに見える。

『人間』は言った、少年には誰かを守ることが出来る力があると…

少年は喜んだ、不幸を撒き散らす『疫病神』である自分に出来ることがあることを…

そこから少年の戦いの日々は始まったのだった。



「上条ちゃん、もう授業は終わったのですよ!!」

上条が目を覚ますと、そこは学校の教室だった。
どうやら授業中に眠りこけてしまったらしい。
目の前には悲しそうな顔をして担任の小萌が仁王立ちしている。

「最近は上条ちゃんも授業態度が真面目になって嬉しいと思ってたのに、
 今日は授業の最初から夢にダイブされて先生は悲しいのです」

「す、すみません」

それは昨日の深夜から今日の朝方に掛けて、
魔術師と盛大なサバイバルゲームを行っていたからなのだが、
まさか本当のことを言うわけにはいかなかった。

「これからは気をつけるのですよ」

「本当にすみませんでした!!」

小萌はそれだけ言うと教室から出て行った。
クラスメイトに笑われて恥ずかしい思いをする中、
昼休みになったのでカバンから弁当を取り出す。
すると友人の二人がおこぼれにあずかるべく、上条のところに寄ってきた。

「カミやーん、僕にも御坂ちゃんの愛妻弁当一口くれへん?」

「本気でそんな戯言がまかり通ると思ってるなら、その幻想をぶち殺す!!」

勝手に弁当を開けようとした青髪ピアスを殴り飛ばすと、
いつもはその隙を狙って弁当を狙ってくる土御門に標準を合わせる。
しかし予想に反して土御門が弁当を狙ってくることはなかった。

「今日は舞夏特製の弁当があるからいいんだにゃー」

土御門の言葉にショックを受けた青髪ピアスは一人でトボトボと購買部に向かう。
そして後に残された上条と土御門は弁当を箸で突きながら会話を始めた。

「昨日はご苦労様だったんだにゃー」

「まあ仕事だからな」

「そんなカミやんにバッドニュースぜよ。
 今日も放課後から仕事に出て貰うことになるんだにゃー」

「…放課後って、急がなくていいのか?」

「今日はイギリス清教との共同任務ぜよ。
 相手が到着しないことには始められないんだにゃー」

「それで仕事の内容は?」

「…『法の書』は知ってるよな?」

「ウチのボスが書いたっていう魔道書だろ?
 天使の術式や、十字教の終わりを告げるっていわくつきの…
 まあ、あの野郎が言ってることだからどこまで本当かは分からないけど」

「その通りだ。
 そしてどうやらローマ正教に『法の書』を解読できる人間が現れたらしい」

「『法の書』を兵器利用されないために、その人物を保護するってとこか?」

「ああ、それでその解読できる人物…オルソラ=アクィナスを
 イギリス清教に引き渡すまでが今回の仕事だ」

「ってことは海外出張か?」

「いや、それがオルソラは日本にある十字教の団体に拉致されたみたいでな」

「ソイツらも『法の書』が目当てで?」

「それが『法の書』自体は無事だから狙いが分からない。
 取り合えず当面の目的はローマ正教より先に『天草式十字凄教』から
 オルソラを救出するのが行動の指針となる」

「分かった」

「そして今回から美琴ちん…超電磁砲も作戦に参加することになる」

「…」

その言葉を聞いたと途端に上条の表情が苦痛に歪む。

「いつか、この日が来ることは分かってただろう?
 流石に一週間でカリキュラムをこなすとは俺も思っていなかったが…」

「分かってるとは思うが…」

「分かってる、美琴ちんを前線に出す出さないを決めるのはカミやんの自由だ。
 ただ俺は別件で動かなきゃならないから、最低限の自衛は必要になるぞ」

「ああ」

「…話は以上だにゃー。
 まあ、あんまり気負わずに普段通り任務をこなしてくれれば問題ないぜよ」

上条と土御門の仕事の話が終わると、ちょうど青髪ピアスが購買から帰ってきた。
手に何も持ってないところを見ると、どうやら激しい争奪戦に破れたらしい。
気の毒に思いながらも上条は美琴が作ってくれた弁当を掻き込むのだった。






放課後になり、上条と美琴は学園都市外の道を歩いていた。
夕方とはいえ気温はまだ十分に高い。
にも拘らず二人の手はしっかりと握られている。
上条と寄り添って嬉しそうな美琴とは対照的に、上条の顔は何処か不安げだ。
上条が知る限り魔術師は何処か性格が破綻している者が多い。
そのような連中に美琴を会わせるのすら上条は躊躇われた。

「当麻、大丈夫よ。
 私だって『執行部』のカリキュラムは一応こなしたんだから」

「美琴が強いことは知ってるよ。
 でもそれとは別に大事な人を危険な目に遭わせたくないって思うのは普通だろ?」

「あ、ありがとう」//

美琴は上条に大事な人と言われて頬を染めながら返事をする。
上条はそんな美琴を見て、美琴の手を握る手に力を込める。

「分かってるとは思うけど、しばらくは美琴は前線に立たなくていい。
 俺の仕事を見て少しずつ『執行部』がどういうもんか覚えていってくれ」

「…うん」

美琴は少し不満げだったが、これが上条の最大限の譲歩だった。
例え何があろうとも、美琴を戦場に立たせる気はなかった。
やがて薄明座と呼ばれる廃劇場に着くと二人は建物の中に足を踏み入れる。
潰れてから三週間も経っていないからか、建物には傷んだような場所は見当たらない。
内装の調度品が片付けられているためガランとしていて、
掃除もしていないのでそこかしこにホコりが積もっているが、
まだ廃嘘という感じはしなかった。
ここがイギリス清教との待ち合わせの場所だった。
そして建物内の薄夕闇に落ちる舞台の上にその二人はいた。

「やあ、待っていたよ」

神父の格好をしているものの、その男の風貌は異色だった。
香水臭くて、肩まである髪が真っ赤に染まってて、両手には銀の指輪が付いてて、
右目の下にバーコードの刺青が入ってて、煙草くわえ耳にはピアスが大量についている。
美琴は男を見た瞬間に少し怯んだ様子だった。
それに対し上条は物怖じした様子も無く、自らの名前を告げる。

「学園都市から派遣された上条当麻だ。
 そしてこっちが…」

「み、御坂美琴です、よろしく…」

二人が名乗るとステイルは興味深そうに上条のことを眺めた。

「ステイル=マグヌスだ。
 君の事は聞いているよ、ローマ正教の刺客を次々と撃破してると…
 先日のシェリー=クロムウェルの件は世話になったね」

「いや」

ステイルの言葉に上条は短く答える。
するとステイルの横にいた少女が自己紹介を始めた。

「私の名前はインデックスなんだよ、よろしくね」

長い銀髪と緑色の瞳を持つ少女はステイルと違って、
本物のシスターという印象を与える者だった。
金刺繍の真白い修道服は何処かティーカップを思わせるものがある。

「それじゃあ早速仕事の話に入ろうか…」

ステイルはそう言うと、煙草の煙を噴出すのだった。



「今回、僕達イギリス清教は表立って動くことが出来ない。
 下手に動いてローマ正教と激突することになるなんて事態は避けたいからね」

「分かってる、要は俺がオルソラ=アクィナスを偶然保護して、
 偶然イギリス清教に引き渡したって体を取ればいいんだろ?」

「話が早くて助かるよ、僕達が出来るのはあくまで後方支援だけだ。
 すまないが戦闘になった場合は君達に一存することになる」

「構わないさ、今までずっとそうやって来たんだ。
 ただ美琴は今回が初仕事で、今回は様子見に徹することになってるから、
 一緒に行動して何かあった時は協力して自衛に当たって欲しい」

次々と流れるように取り決めがされていく中、美琴は上条の言葉に声を荒げた。

「ちょっと待ってよ!!
 今の話だと今回は当麻一人だけで敵と戦うってことよね!?
 そんな危険なこと…」

しかし上条は美琴に諭すように言った。

「今回は色々な事情からそうせざる得ないんだ。
 それに初見で美琴が魔術師との戦闘を行うのは危険すぎる。
 さっきも言っただろう、今日は魔術師との戦いがどんなものか見極めろって」

「それはそうだけど…」

「それで天草式の居場所は分かってるのか?」

「ああ、それについては大丈夫だ。
 草の者が天草式の居場所を特定している。
 ただ午前0:00前に決着をつけないといけないみたいだ」

「どういうことだ?」

すると今まで黙っていたインデックスが口を開いた。

「天草式には有体に言って長距離を移動するための手段があるんだよ。
 その移動ポイントの『渦』は使える時間が決まっていて、
 それが午前0:00ってわけ」

「なるほど移動されるまでに片を付けなくちゃいけないってわけか」

「そういうことなんだよ」

上条はしばらく考え込むと何か決意したように言った。

「それじゃあ、オルソラ=アクィナスを連れて来るから、
 さっさと天草式の居場所を教えてくれ」

「…分かった、よろしく頼むよ」

上条はステイルから地図を受け取ると、薄明座の外に向かって歩き出す。
しかし美琴は立ち去ろうとする上条の服の裾を掴んで離さなかった。

「大丈夫、すぐに片を付けて帰ってくる」

「必ず帰ってきてね」

「ああ」

上条は美琴のことを優しく抱きしめ、微笑むと外に向かって走り出す。
美琴はその背中を見送るのだった。









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