とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part02

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匿名ユーザー

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 最初、目が覚めた時はわけがわからなかった。
 学校にいたはずが、気づいたら好きな人の隣で眠っていたのだから、驚かないわけがない。
 さらに今いる場所が未来とかいう超急展開なものだから、混乱する一方だ。
 だが、悪い事ばかりではない。

(でもまあ……コイツが一緒だからいいんだけどさ。 久しぶりに2人きりだし……)

 自然に頬が緩む。
 ここがどんな場所であれど、上条と一緒にいられるのはやはり嬉しい。
 それにこう一緒に事件に巻き込まれるということは、彼の力になれる。
 それが一番嬉しかった。

 だからこそ、さっきの『彼女とかいるんじゃないか』という言葉にはむかついた。 
 隣でそんなことを言われては、自分は恋愛対象ではないと言われているようなものだ。
 鈍感だから仕方が無いと言えば仕方無いが、いい加減気持ちに気づいてほしい。

 そんなわけで、嬉しいような、腹立たしいような気持ちのまま、2人は5年後の学園都市を本格的に散策していた。
 先ほどは公園内から少し眺める程度だったが、今回はがっつり街中へ進出した美琴と上条は、5年後の町並みを前に驚きの声を挙げていた。

「はー……こりゃすげーな」
「ほんと……私たちの学園都市もかなり技術は発展してると思ってたけど、ここは別格ね……」

 5年という月日は、思ったよりも学園都市に発展を齎していた。
 携帯、自販機、街中の装飾、人々のファッションなど、ありとあらゆる物が5年前の学園都市と比べかなり進化しているため目移りしまくりだ。
 そんな街中を見ているうちに、上条は我慢ができなくなったらしい。

「…………なあ、いろいろ見て回ったらダメかな? 俺店の中とかも見てみたいんだけど……」

 上条は目を輝かせ、こちらを見ている。
 まだ許可もしていないのにすでに探索する気満々だ。
 しかし、美琴はそれを許さない。

「ダメ、5年後の私たちを捜す事が本来の目的でしょ? 忘れてるんじゃないでしょうね?」
「忘れてないって、だから俺たちを捜しながらいろいろ見て回ろうぜ。 それならいいだろ?」
「何言ってるのよ。 それだと見る事に集中しちゃって5年後の私たちを探せなくなるっつーの。 ていうか5年経ったら同じ物見れるでしょーが」
「…………夢の無い事言うなよ……」

 上条、敗戦。
 結局最初の予定通り、5年後の自分たちを捜すため町の中を適当にぶらつくことになった。
 だが一言で『町』と言っても、ここは天下の学園都市。
 超広い。 
 都市全体を歩いて探しまわるなんて無理に決まっている。

 そこで美琴が考えた作戦は『第7学区から出ないで5年後の自分たちを捜す』ということだった。
 その理由は簡単、5年後の自分たちも5年前に同じ経験をしているのなら、美琴と上条がどこにいるのかわかるだろうから、向こうから会いにきてくれる可能性があるからだ。
 美琴のこの考えに上条も賛同し、第7学区内で5年後の自分たちを探しまわったが、

「…………いないな……」
「そうね……」



 一向に見つからない。
 町へ出てから約2時間、第7学区のありとあらゆるところを歩き回ったが、見つける事はできず、日も暮れ始め気温も下がってきた。

 このままでは埒があかない、歩き疲れたこともあって美琴の提案で街中のベンチで少し休息をとることにした。
 座ると同時に、2人は大きなため息をつく。

「マズいわね……もっと簡単に見つかるかと思ってけど……ちょっと楽観視しすぎたかな……」
「はぁ……このまま見つからなかったら、2人仲良く野宿ってか? 冬場に野宿なんて自殺行為だぜ……」
「野宿……絶対探し出さないとダメね、ほんとに寒くなってきたし……」

 とは言っても、暗くなればさらに探しにくくなる。
 姿が見えづらくなるだけでなく、5年後の自分たちに家へ帰えってしまえば、それでアウトだ。
 本格的に焦り始めた時、上条がぽつりと呟いた。

「なあ御坂…………思ったんだけどさ、ひょっとして、俺はもうここにいないじゃないか?」

 『ここにはいない』、それは美琴が考えたくなかったことだ。

「…………そうよね……年齢的に私たちは大学生なんだから第5学区にいる可能性もあるのよねー……」

 今いる第7学区は中高生がメインの区域。
 大学は第5学区に集中しているのだから、5年後の自分たちはそちらで生活している可能性もあるのだ。
 『第7学区から出ない』という自分の考えは失敗だったのか、美琴は自分自身に落胆した。 

 が、しかし、上条の考えは美琴の考えの斜め上をいくものだった。

「いや、御坂。 俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな」

 彼にしては珍しく、少しもったいぶった言い方だった。
 それに気づいた美琴は素直に疑問をぶつける。

「そういうことじゃない? じゃあどういうこと?」
「だから…………正直言いづらいんだけど……この5年の間に……」

 上条は一度言葉を切った。
 どうにも話すのをためらっているようだが、美琴としては聞かないわけにはいかない。
 数秒の沈黙、話すべきかそうでないか、かなり考え抜いた上で上条はこう言った。

「俺が…………死んだ可能性もあるんじゃないか?」
「――――え?」



 美琴の心臓が、ドクンと鳴った。
 思わず目を見開き、目の前の上条を見つめる。
 一体、彼は何を言い出したのか。

「だって考えてみろよ。 科学サイドとも魔術サイドともあれだけ戦ってきたんだ。 海に沈んだ時はマジで死んだと思ったし、考えたくはないけど今後の戦いで、やられちまった、って」
「え………ちょ、ちょっと止めてよ……」

 美琴は自分の声が震えていることがわかった。
 そんな話聞きたくない。
 だが、上条は真剣な表情で話を続ける。

「ありえない話じゃないだろ? 5年でいろいろ変わっているってのはこの町を見りゃわかることだ」
「そうだけど! ……5年で変わってはいるけど、アンタが死んでるなんて……そんなこと……」
「それにさ、俺たちが未来へ来たのには理由があるんじゃないか?」
「理由?」
「ああ。 俺の場合なら、俺が死んだって未来を変えるって言う理由がさ」
「未来を……変える…………?」

 上条はかなり考えているようだった。
 それなりに理論的であったことが、美琴の恐怖心を煽る。

(コイツが……死んでる? そ、そんなこと……あるわけ――)


「ん?」
「どうした御坂? あっちに何か……」

 美琴と上条が座っている席から数メートル離れた別のベンチに、見慣れた姿があった。
 特徴的なツンツン頭で、上条によく似ているような……

「…………俺じゃん!!」

 上条が思わず叫んだ。
 そこに座っていたのは、21歳になった5年後の上条当麻。
 外見からしてどう見ても上条であることに間違いなく、見るからに元気そうだ。

「………………普通に生きてたわね」
「………ごめん、結構マジでごめん」
「なんだっけ? 『俺達が未来に来た意味』とか言ってなかったっけ?」
「すいません忘れてください御坂様ごめんなさいすみませんでした」
「ったく……それにしても、5年後のアンタって……」

 コートを羽織り、片手に缶コーヒーを持つその姿は、5年間でそこそこの変化を遂げていた。
 見た感じ身長は今より高く、ヒゲもはえており、顔もかなり大人びたように見える。
 そして何より、

(うわ……何あれかっこいい……ヒゲも似合ってるし……)



 確実に美琴のハートを射抜いていた。
 普段とは違う渋さを持ち合わせた上条から目が離せない。
 顔を重点的に、彼の全身を眺めていると、

「おーい御坂ー」
「はっ!? え、な、何?」
「聞いてなかったのかよ……だからさ、どうする? 声かけるか?」
「え、えーと、ここで話しかけると変に注目浴びるかもしれないから、もう少し様子見ましょ。 幸いこっちには気づいてないみたいだし」
「あー……確かにそうだな」

 空が暗くなってきているとはいえ、周囲にはまだまだ人はいる。
 そんなところで同じような顔が2人並んで注目を浴びることは避けたい。
 と、いうわけで5年後上条が動くことを待っている時のことだった。

「なあ御坂、ありがとな」

 それまでしばらく黙っていた上条の口からお礼の言葉が飛び出した。
 あまりに突然だったため、美琴は目を白黒させる。

「……え、ええ!? 何が……?」
「今日一日さ、俺1人だったら5年後の自分に会うとか思いつかなかったかもしれないし、絶対大変なことになってたんじゃないかと思ってさ。 ほんとに御坂がいて助かったよ」
「い、いや、私別にそんなに大したことしてないし……」
「そんなことねぇって、俺はすっげぇ助かったんだから」

 そういう上条に微笑みかけられ、美琴は赤面し上条から視線を外す。
 こうもストレートにお礼を言われるとなんだか恥ずかしい。
 しかもその相手が上条なのだから尚更だ。
 だが何より、彼の力になれたことが嬉しくて仕方なかった。
 顔が赤い事がバレていないだろうか、なんてことを思うと同時に、美琴はちょっとした手応えを感じていた。

(でも…………こ、これはひょっとしていい感じ……? てことは、5年後にはもうちょっと親密に関係になってたりするの……かな?)

 思わず期待が膨らむ。
 今まで上条に散々期待を裏切られてきた美琴だが、なんだか今回はいける気がする。
 そしてこの時、美琴の脳内に上条のあの言葉が蘇った。

『いや、21ってことは俺成人してるんだぜ? てことは、ひょっとして上手くいってりゃ彼女とかいるんじゃね』

 最初に聞いた時は心底いらついたし悲しかった言葉。
 だが、捉え方では美琴に取って夢のような言葉。
 それはつまりこういうことだ。

(……………ひょっとして……ひょっとするとだけど……私がコイツの彼女って可能性は………………あ、あるんじゃない?)

 寒いはずなのに、少し体が熱くなってきた気がする。
 さっきは怒りで体が熱くなったりしたが、今回は嬉し恥ずかしさで気持ちが高ぶる。
 未来効果かなんだかわからないが、今日上条とな仲がかなり進展した気がする。
 薔薇色の未来が待っているかもしれない、その考えが浮かんだからか、美琴の妄想はさらに膨らむ。

(もし付き合ってたら……大学生ってことは同棲してるかも? い、いやそれはさすがにないかな…………で、ででででも、もしかしてありえたとしたらやっぱり大きいマンションとか? コイツはお金無いけど私が全部出してたら可能よね、うん)

 豪華なマンションで上条と2人きりの生活、それが現実ならばきっと薔薇色の毎日を送っているに違いない。
 毎朝上条のお弁当を作って、一緒にご飯を食べて、休日は一緒にどこかへ出かけて、夜は仲良くテレビを見たりして、そして寝る時も一緒。
 まさに薔薇色人生、そんなことになったら幸せ過ぎて死にそうである。

「えへへへへへ…………」
「み、御坂? 大丈夫か?」
「へ…………私またおかしかった……?」
「おかしいっていうかさっきからボーッとしてること多いけど……風邪とかじゃないだろうな……」
「か、風邪じゃないから大丈夫よ!!…………って、ほら! アンタが立ち上がったわよ! 追いかけましょ!!」

 美琴の言う通り、5年後上条はこちらに気づく事無く、どこかへ歩き始めてしまっていた。
 こうして美琴は多少の不安と大きな期待を胸に、上条とともに5年後上条を追いかける――



 ♢ ♢ ♢


 時間は少し遡る。
 美琴と上条が5年後の学園都市を散策している時間帯、5年後の上条当麻は町を歩いていた。
 ただヒマだから散歩をしているわけではない、彼には予定があった。
 『5年前の自分と美琴に発見される』、という超がつくほど特殊な予定が。
 冷たい風の吹く中、冷えないようコートのポケットに手をつっこみ、5年前の記憶を頼りに一人目的地へと足を進める。

「そうか……もうあれから5年経つんだよな…………」

 5年。
 言葉にするととても短いが、この5年は格別に濃く、長い時間を過ごした気がする。
 なんて物思いに深けながら歩いていると、あっという間に目的地であるベンチへと辿り着いた。

「ここだったよな、5年前に来た5年後で5年後の俺が座ってたベンチって」

 このベンチこそ、5年前の自分たちを出会うキーポイントだ。
 それにしても『5年前に来た5年後で5年後の俺』、なんともわかりづらい表現である。

「さて、まだ時間があるな……ま、座って待ってりゃいいか」

 5年前の自分は今、学園都市の中を美琴と共に歩いているころだろう。
 ということは、2人に見つけられるまでまだ数十分時間がある。
 そんなわけで座って待ってみるのだが、見事にすることがない。

「ヒマ……だな…………」

 携帯電話をいじろうにも、不幸な事に電池切れ。
 早く来てくれ俺、とか独り言を言い空を見上げていると、5年後上条はふとあることを思い出した。

「そうだ、俺を見つけた時コーヒー飲んでたっけ」 

 美琴が見つけた自分は確かにコーヒーを飲んでいた。
 多分そこらへんの自販機で買ったものだろうが、喉も乾いているしちょうど良い。
 5年後上条は立ち上がり、近くの自販機へと向かう。
 そして5年前のこの場面をはっきりと思い出したためか、呟くように言う。

「御坂、か…………懐かしいな……」







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