とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

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匿名ユーザー

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 再び時間は戻る。
 美琴と上条が5年後上条を追いかけ始めてから、約10分後。 
 2人は今、5年後上条が住んでいるマンションの一室の前に立っていた。

「ここが5年後の俺が住んでる部屋か…………御坂、もう大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫よ」

 そう言った後に、美琴は大きく深呼吸を繰り返す。
 何度も何度も、深い深呼吸だ。
 しかし、自分の中では爆音で音楽を聴いているように心音が鳴り響き、感じている緊張は過去最大級。
 とてもじゃないが平常心に戻るなんてムリな話だ。

(とうとう来ちゃった…………どうかな……5年後の私……ほんとに付き合えてるかな……)

 と、こんな感じで緊張しまくっていたため、道中5年後上条に声をかけられないまま、部屋の前まできてしまったのだ。
 もちろん上条も5年後の自分に声をかけようと何度か試みたのだが、その度に美琴がビビって上条を引き止めてしまったため結果は同じだった。
 上条が『もう大丈夫か?』と言ったのはこのためである。

 気持ちを落ち着かせるため深呼吸を続けていた美琴は、一度目の前のドアを見つめる。
 この先に今回の事件の全てのカギを握っている5年後上条がいるのだが、美琴には一つ気がかりなことがあった。

(…………想像してたより小さいわね、このマンション……さすがに一緒には暮らしてない……?)

 このマンション、外から見た感じ多分1LDKだ。
 自分の妄想ではもっと豪華で華やかなマンションに住んでいる予定だったため、やや不安に気持ちが傾く。

(…………ま、まああれよ、きっと親が許してくれなかったとかそんな理由のはず……うん)

 勝手に納得した美琴は勝手にうなずき、生まれた不安をかき消そうとし、改めてドアを見つめる。
 ここに入れば全てがわかる。
 5年前に帰る方法も、今の自分の近況も、だ。
 これが最後、そう決めて美琴はもう一度大きく一つ深呼吸をした。

「…………ごめん、おまたせ。 もうほんとに大丈夫」
「よし、じゃあ…………インターホン押すぞ?」
「………………うん」

 美琴は覚悟を決めた。
 この扉の先にどのような運命が待ち受けていようと、全て受け入れると。

(大丈夫……大丈夫? きっとコイツとは仲良くやってるはず……よね?)

 美琴は祈る思いで、ドアを見続ける。
 そして上条がインターホンを押そうと腕を伸ばした時だった。

「「ッ!?」」

 ガチャリ、という音がしたかと思うと、突然目の前のドアが開いた。
 それはとてもゆっくり、普通に開ける何倍もの時間をかけて、そのドアは開ききった。
 だが美琴も上条も一切ドアには触れていない。
 上条はインターホンを押そうとしていたし、美琴はその後ろで祈っていたのだから、触れることは不可能だ。
 ということは、もうわかりきったことだが、中にいる人物がドアを開けたということ。

「…………」



 そう、5年後上条だ。
 先ほど外で見かけた時と同じ格好のままの彼は、不思議な物を見ているような様子でこちらを見ている。
 5年後上条とのあまりに突然過ぎる出合いに、美琴も上条も思わずたじろぐ。

(な、なんで突然…………まだ心の準備ができてないわよ……こっちのタイミングに合わせてでてきなさいよ!!)

 さっきの覚悟はどこへいってしまったのか、美琴は視線を落とし、心の中で5年後上条に理不尽ないいがかりをつける。
 とは言えついに会えた、会ってしまった、これでもう後戻りはできない。

 だがしかし、聞きたい事がたくさんあるはずなのに、言葉が出てこない。
 帰る方法や、なぜここに来る事になったのか、そして自分の近況も。
 なのに極度の緊張のためか、体が、口が、全く動かない。

 そして訪れる沈黙。
 突然のことで、美琴も上条は何も言葉を発せなかったのだが、5年後上条はにっこりと笑って

「――ようこそいらっしゃいませ、5年前のお二人さん」

 慣れた様子でそう言った。
 まるでお店で店員に迎えられるような対応。
 そんな5年後上条を見て、ちょっぴりときめいてしまったのは内緒だ。
 そんな感じで美琴が惚けているうちに、上条がようやく口を開き、一つ目の質問をぶつける。

「え、あ、えーと……お、俺、だよな?」
「当たり前だろ? 正真正銘、どこからどうみても俺はお前、『上条当麻』だ」
「あ、ああ……ですよね……」

 上条の当たり前すぎる質問に答える五年後上条。
 と、同時に彼は上条をジロジロと、頭の先からつま先までまんべんなく見回していく。

「いやー、それにしても5年前の俺ってこんな感じだったっけ? もうちょっと大人っぽくなかった?」
「何言ってんのよ、そんなもんでしょ?」

 その声は突然聞こえてきた。
 美琴は一体どこから、と思ったが答えはすぐにわかった。
 5年後上条の背後からだ。
 今まで彼にばかり注目していたため気がつかなかったが、誰かいる。
 5年後上条で隠れ姿は見えないのだが、美琴はその声に聞き覚えがあった。

(い、今の声は…………まさか……)

 美琴の鼓動が一瞬のうちに加速する。
 血液が体中を駆け巡り、大気中の酸素を欲し始める。
 だが、美琴は呼吸をすることさえ忘れる勢いで、今の声を脳内で繰り返し再生し、間違いがないかを確かめる。

 そうしている間にもその声の主は、部屋の奥から上条の後ろへと歩み寄ってくる。
 肩くらいまである茶髪でエプロンをしたその姿は、今までにずっと見てきた姿。
 そう、それは――

「わ、私…………?」

 美琴は自信無さげに尋ねかけた。
 5年後上条の後ろにいたのは、19歳になったと思われる自分、つまりは御坂美琴。
 外見は上条以上に変化が見られ、特に自分には無いものが胸にはあった。
 だが、そんなナイスバストを気にしている場合ではない。
 何度も何度も彼女の顔を見直すのだが、間違いなく自分だ。

(ほ、ほ、ほんとに私……? …………ってことは、私がいるってことは! コイツと付き合ってる……ってこと……?)



 胸がじんわりと温かくなった。
 信じられないようなことだが、これは夢ではない。
 紛れも無い5年後の現実なのだ。

――ヤバい、超嬉しい

 もう顔のにやにやが治まってくれない。
 そして上条も突然の5年後美琴の登場に驚いたようで、目を白黒させていた。

「え……マ、マジで御坂か!? ……なんか5年でだいぶ変わってるな…………」

 彼の視線が5年後の自分の胸にいっているような気がするのは気のせいだろうか。
 いや多分気のせいじゃない。
 今は最高潮にテンションが上がっているためいいが、普段なら即電撃ものだ。
 だが、そのテンションを下げるような言葉が、5年後美琴から飛び出した。

「ちょっとちょっと、私御坂じゃないわよ?」
「「え?」」

 美琴は思わず固まった。
 急激に血の気が引いた気がする。

 『御坂じゃない』

 その言葉はそれほどの威力を持っていた。
 “御坂じゃない”ということはつまり、美琴でも、『妹達』でもないということ。
 自分に姉妹がいるなんて話は生まれて14年間一度も聞いた事がないので、その線は無い。
 にもかかわらず、今5年後上条の後ろには、自分を5歳ほど成長させた女性が確かに立っている。

 もはやわけがわかない。
 この女性は自分ではないのか、違うのならば一体誰なのか、もしかしてクローンの計画が再開されたのか。
 混乱する美琴だったが、彼女を見ていたその時あるものが目に入った。

「……ん? …………え……そ、それは……」

 『それ』を見た瞬間、頭が真っ白になった。
 『それ』は『そこ』にあるはずがない物、というか『そこ』に『それ』があってはヤバい、いやヤバくはないが異常だ。
 上条はまだ気づいていないようだが、美琴はもう『それ』に釘付けになっていた。

(…………ちょっと待って、ちょっと待ってよ……そんなことあるわけ…………あるわけ……………でも、もしありえたとしたら……)

 “ありえない、なんてことはありえない”
 有名なホムンクルスが言った言葉であるが、それが今の状況にぴったりだ。
 この目の前ある光景全てから、美琴は改めて推測する。
 『5年後上条と一緒にいる』、『御坂じゃない』、『とある物』、これらより導き出される答えはただ一つ。
 全く持って信じられないが、それしか思いつかない美琴はおそるおそる自分の答えを口にする。

「御坂じゃないってことは………………上条……?」

 この意味がわかるだろうか。

 わかる人にはわかるだろうが、上条は全く理解できていないようで、『…………いやいや御坂、お前は一体何言ってんだ? 上条さんは意味がわかりませんことよ』と言いたいような顔でこちらを見ていた。
 そりゃいきなり『御坂じゃなくて上条』なんて言えば10人が10人そんな感じの反応を見せるだろうし、言った本人の美琴だってまだ自分の言った答えを信じれていない。
 戸惑う美琴と上条、そんな2人に5年後美琴が歩み寄ってきたかと思うと5年後上条の隣で足を止め、サラリと正解を言った。

「そうよ」
「え?」
「だからその通り、私は『御坂』じゃなくて『上条』よ」
「え」

 美琴に続き上条も固まった。
 5年後美琴のほうを向いて、そのままピクリとも動かない。
 美琴は5年後の自分の左手薬指付近を指差した。

「じゃ、じゃ、じゃあ、『それ』、っていうか、その指輪は……本物?」

 てその指輪を指す指、というか腕全体が震える。
 指輪を指摘された5年後美琴はというと、嬉しそうに左手を顔の前へと挙げる。

「ああこれ? もちろん本物の結婚指輪よ、いいでしょ」
「結婚……指輪…………?」
「ああ、俺たち今年の春に結婚したんだよ。 いや、まだ数ヶ月しか経ってないのに『御坂』って響き懐かしいな」
「2人共もうわかったでしょ? 私の名前は『上条美琴』で、私たちは夫婦ってことよ♪」
「…………ふ、ふ、ふ……夫婦…………?」

 これ以上の情報処理はもう不可能。
 『夫婦』というワードを聞いた美琴の脳はオーバーヒートを起こし、それはとてもとても幸せそうに気絶してしまったのは、言わずともわかるだろう――




 その部屋は美琴が予想した通り、1LDKの造りだった。
 ドアを開けて入るとまず廊下があり、右側にトイレと洗面所(浴室)が、左側には寝室に使っているという5.5畳の洋室へと繋がる扉がある。
 そして廊下を抜けると、そこにはベランダ付きで約14畳のLDKが広がっていた。
 座り心地のよさそうな2人用のソファ、その正面には40インチほどの大きなテレビ、食事に使っているのであろうテーブルとその側にイスが4つ、その他家具も充実していて、そこそこ良い暮らしをしているようだ。
 美琴はこれを『小さい部屋』と思ったようだが、上条からしてみればこの暮らしは十分過ぎる。

 そしてその室内にいるのは、4人の男女。
 世界を救ったヒーローが2人と、最強の電撃娘が2人(1人はソファにて気絶中)だ。
 5年後の自分たちがキッチンで何かしている間、ヒーローの片方は、イスに座り頭を抱えていた。

(マ、マジで……俺5年後には御坂と結婚してんのか…………)

 上条にとって、これは予想外中の予想外だった。

 ぶっちゃけた話、5年後に彼女ができてる自信はあった。
 美琴にふざけて『彼女できてるんじゃね?』とか言った後、街中で5年という月日がどれだけ変化をもたらすかを見て、5年あれば自分にも出会いくらいあると思っていた。

 ところが、だ。
 蓋を開けてみれば、彼女を飛び越して『妻』となっていたのはとても身近にいた人物。
 そんなことなど。今の上条と美琴の関係からして考えられないようなことなのだから、そりゃビビる。

 だが問題はそこじゃない。
 いや、もちろん『美琴が将来の嫁』ということも大問題だが、今はそれ以上の問題がある。

(……御坂すっげーショック受けてたよな……『妻』って聞いて気絶するし…………)

 心の傷とか負ったらどうしよ、などと上条は呟く。
 つまり、彼女の心情のほうが上条にとっては問題だった。

 現在美琴は絶賛気絶中。
 部屋に置いてあるソファーの上で気持ち良さそうに眠っているが、すぐに起きて現状を認識するだろう。
 その時彼女が受けるさらなるショックは計り知れないのではないだろうか、と上条は考えた。

 もちろんその考えは大はずれだが。

 そんなこんなで、美琴へどうやって対応しようか悩む上条だったが、幸いまだ時間はある。
 彼女が起きてくるまでに、なんとか
 『できるだけ長く眠っていてほしい』と願う上条だったが、その願いは叶わなかった。

「ん?」

 足音が聞こえたのでふと顔を上げると、キッチンにいた5年後美琴がソファの美琴の元へ歩み寄って行った。
 かと思うと、気絶している彼女肩を掴み、思い切り前後に揺さぶり始めた。

「ほらいつまで気絶してんのよ! いい加減起きなさい!!」
「ちょ!!」

 上条が止めようとする間もなかった。
 ガクガクと激しく揺さぶられた美琴は、当然目を覚ます。

「ふぁ……はれ……?」

 5年後美琴がぱっと手を離すと、美琴は頭をくらくらさせたまま右手でごしごしと目をこする。
 起きた、起きてしまった。せっかく時間があると思っていたのに。
 上条が唖然としながらその状況を見ていると、美琴はは上半身を起こした。
 そんな5年前の自分の姿を見た5年後美琴は『よし』と呟いた後、上条に対して、



「ごめんね~私のせいで時間取っちゃって。 じゃ、もうちょっと待っててね」

 そう言ってバッチリウインクを決めた5年後美琴はキッチンへ行ってしまった。
 『私のせいで』というのは、5年前の、つまり14歳美琴を意味しているのだろうが、上条としてももっと時間がほしかったため、『なぜ起こす』という気持ちが強い。
 ともあれ、リビングに残された上条は、(キッチンに5年後の自分たちの姿が見えてはいるが)寝起き美琴と2人きり。
 まだ美琴への対応策はまとまっていないが、とりあえず声をかけてみる。

「あ、あの……御坂…………だ、大丈夫か?」
「んー……?? ここは…………あ……そうだ……未来、だっけ」

 美琴は完全に覚醒したらしい。
 むくりと上半身を起こした彼女と、ばっちり目が合った。

(…………もう、電撃食らう覚悟を決めるしかないか……)

 上条は小さな声で『不幸だー』と呟いた。
 しかし、この後の展開はまったまた予想外。
 きょろきょろと室内を見回し、キッチンに5年後の2人の後ろ姿を目にした美琴は

「わ、私たち、結婚したみたいね…………えへへ……」
「……あれ? 怒ってないの……か? 『なんでアンタが私と結婚してんのよー』みたいなこと言ってくるかと思ってたんだけど……」
「え、いや、あの…………別に……ね、そんなことは……」

 美琴は頬を紅く染め、上条から目をそらした。
 そのちょっぴり可愛い反応に、上条は困惑する。

(え? 何この反応。 予想と違うんですけど…………御坂は俺と結婚することが嫌じゃないのか? なんかむしろ喜んでるような気がするのは…………気のせいに決まってるよな)

 誰か彼に常識というものを教えてやってほしい。
 普通なら、その態度を見れば美琴の気持ちくらいすぐわかるものだが、さすが鈍感王子といったところだいろうか。
 で、予想では即電撃だと思い、未だに右手を美琴の方向へ身構えたままの上条の前にコーヒーが置かれた。

「おまたせ、コーヒー入ったぞ。 熱いから気をつけろよな」
「お、おう……ありがとな…………」
「ほら、“私”も早くこっち来なさいよ。 私たちに聞きたい事あるんでしょ?」
「あ、うん……」

 5年後美琴の呼びかけに美琴はソファから降り、上条が座っている隣のイスへと座った。
 の、だが、なぜか距離ができる限り距離を取ろうとしているようで、机の一番端まで移動して行った。
 それを見た上条は考える。

(?? 怒ってはないみたいだけど…………ひょっとして避けられてる? やっぱりイヤだった、っていうか嫌われた……? それはさすがにキツいな…………)

 『御坂に嫌われた』という間違った考えに、ちょっとショックを受ける上条だった。

 その一方、5年後上条と5年後美琴の間は『0』。
 美琴が上条の左腕に抱きつく形で、ぴったりくっついている。
 どうやら5年後の2人はこれが『当然』のことのようで、5年後上条は5年後美琴の頭を優しくなでながら、

「で、5年前の俺。 まず何から聞きたい?」
「あ、ああ、えーとな……」

 5年後の2人には、聞きたい事はもちろん山ほどある。
 多過ぎて困るレベルだ。
 目の前の2人のラブラブっぷりについても聞いてみたかったが、とりあえずは根本的なことを選び上条は質問する。

「じゃあまずここは5年後……ていうか俺が21歳の時代でいいんだよな?」
「ああ、その通りだ。俺は21歳、美琴は19歳ってことだな」
「だよな……なのに結婚してんのか……? その年齢だとまだ結婚しないで付き合ってるのだ一般的だと思うんだけど」
「一般的にはな。 でも俺は美琴が高校を卒業すると同時にプロポーズしたからさ」

 すると5年後美琴は、後ろの棚の上に置かれていた2つの写真立てを手に取り、上条と美琴へ差し出した。



「ほら、これが結婚式の写真よ。 よく取れてるでしょ?」

 そこに映っていたのは、タキシードを着た上条の姿と、ウエディングドレスを身にまとった美琴の姿だった。
 上条が美琴をお姫様だっこし、2人は満面の笑みを見せている。
 そしてもう1枚はというと、式場内で永々の愛を誓い合っている瞬間、つまりキスしている写真だった。

「す、すっげー幸せそうだな……」
「もちろんよ! ほんとに幸せだったんだから。 ま、今でもその幸せは続いてるけどね」
「そりゃ上条さんは美琴を一生幸せにするって誓ったからな」

 えへへ、と笑う5年後の2人。
 実に微笑ましい。
 そんな2人と、結婚式の写真を見た美琴は小さく呟いた。

「いいなぁ……」
「へ? いいな? 御坂も結婚したいのか?」
「ええ!? …………それは……まあ、したい、かな…………」
「やっぱ女の子はそういうこと考えるんだなー。 でも大丈夫だって、将来的にはできるだろ。 世界には何億って人間がいるんだからさ…………って、御坂? なんか不機嫌になってない?」
「なってないわよ……このバカ…………」

 そういいながら、美琴は上条を睨みつける。
 ほんのわずかながら電気が宙を漂っているのも目に見えるし、誰がどう見ても不機嫌になっている。
 それを見た5年後上条は

「いや5年前の俺。 世界には何億の人がいるとか言ってるけど、将来美琴と結婚するの俺だぞ?」
「…………あ」

 5年後の自分のツッコミに上条は『俺は馬鹿か』と思った。

(そうじゃん…………目の前で俺結婚してるじゃん……ていうかこのままいくと俺も5年後には御坂と結婚することになるのか?)

 そう思い、ちらっと美琴に視線をやると、

「け、結婚……私とコイツが…………5年後には……」

 『結婚』という事実を再認識したのか、彼女はなんか様子がおかしかった。
 顔は最早当然のように赤く、どこか上の空のようだ。
 声を書けようかとしたのだが、その視線に気づかれたのか、ふいにこちらを見た美琴と目が合った瞬間に再び目をそらされた。

(……やっぱ避けられてんのか)

 と、まだまだ勘違いを続ける上条は一つため息を吐いてから、話を本題へ戻す。

「いやでもさ、21歳っていったらまだ大学生だろ? 働いてもないのに結婚なんてして大丈夫なのか?」
「大学? 俺、大学へは行ってないぞ」
「え……行ってないのか? まさか俺の事だから浪人中とか…………?」
「いやいや浪人とかしてねーから。 高校卒業してから働いてるんだよ」
「マジか!? 働いてんのか!? ……なら結婚してても……大丈夫なのか?



 働いているのならば、自分の力で生活しているということ。
 親や美琴に頼っていないということがわかり、少し安心した上条に5年後美琴は再び写真を手渡す。

「でね、今度はこれ見てくれない?」
「これ……何だ?」

 今度の写真に写っているのは、喫茶店のような建物の前でお揃いのエプロンをしている自分と美琴の姿だった。
 当然のごとく2人とも満面の笑みだ。

「喫茶『KAMIKOTO』……? ここで働いてんのか? それになんで御坂まで同じ格好して写ってんの?」
「あ、ひょっとして私はここでアルバイトしてるとか? 」

 上条と美琴が複数の質問を投げかけると、それに5年後美琴が答える。
 だが、答えといっても、それは彼が望んだような答えではなかった。

「アルバイト? 何言ってるのよ」

 ほんの少し顔を傾けた後、彼女は軽く微笑み

「これは私たちのお店よ。 2人で一緒に喫茶店をやってるのよ、名前でわからなかった?」
「「え」」

 上条は自分の耳を疑った。
 『私たちのお店』、『2人で一緒に喫茶店をやってる』という2つのとんでもワードが聞こえてきたきがするが、気のせいだろうか。
 そして上条と美琴はもう一度手元の写真を見てみる。

「……ま、まさか、この喫茶店の名前の『KAMIKOTO』って……」
「私たちの名前から……?」
「そうよ、上条当麻の『上』と上条美琴の『琴』をとったの。 ほんとは2人の名前からとって『MAKOTO』にしようかと思ったんだけど、当麻がこっちの方が語呂がいいっていうから」
「さいですか……」

 とても嬉しそうに話す5年後美琴と、それを笑顔で見ている5年後上条と、顔が引きつる上条。

(5年後の俺たちってどんだけラブラブなんだよ……一緒に経営って…………ていうかこれはさすがに御坂も嫌なんじゃ――)

「わぁ…………これが私たちのお店……」
「ありゃ……?」

 また上条の予想は外れた。
 美琴は嫌がるどころか、目を輝かせて写真に見入っていた。
 “食い入るように見る”とはこういうことを言うのだろう。
 しかし、上条は彼女の目の輝きには気づかない。

(これも嫌じゃないのか? ……ていうか喜んでる? いやまあ怒っていないならいいか)

 ほっとした上条は、机の上に置かれていたコーヒーカップを手に取り、一口飲んだ。 
 何気なく飲んだ一口であったが、上条はその味に驚愕する。



「…………このコーヒー美味くね? 5年後ってコーヒーまで進化してんの? 普通じゃない美味さなんだけど」
「え、どれどれ…………わっ! ほんとに美味しいわね。 インスタントじゃないわよね?」
「もちろんインスタントじゃないわよ。 このコーヒーは当麻が作ったんだから」
「え……これを!? 冗談抜きですげー美味いんだけど……マジで俺が?」
「大マジよ。 お店でもすっごい好評なんだから」
「これを店で出してるのか…………これだけ美味けりゃ客も入るだろ」

 それほどコーヒーは美味しかった。
 今まで飲んできたコーヒーの中ではダントツだ。
 上条と美琴の反応に、5年後上条は少し恥ずかしそうな様子を見せながら

「高校出て2年間は武者修行してたからな、味にはそこそこ自信あるぜ。 だからお客さんは結構来てくれるけどなぁ……俺は心配なんだよ……」
「心配? 何がだ?」

 コーヒーの味は問題ない。
 ということは飽きられること、とかなのか。
 と、思いきや、5年後上条の答えはまたまた予想外の物だった。

「男の客だよ!」
「…………は?」
「は? じゃねぇって!! だって美琴は超可愛いじゃん! 美琴目当てで来る客なんて山ほどいるんだぞ!? 上条さんは日々心配ですよ……客の野郎共が俺の美琴に手を出さないかってことが……」

 冗談だろ?
 と、声に出そうかと思ったが、上条は止めておいた。
 目の前で本気の様子で悩む彼に『冗談』などという言葉をかけることはできなかった。
 そんなわけで眉間にしわを寄せリアルに心配する5年後上条に、5年後美琴が言った。

「何言ってるのよ。 当麻目当ての女の子だっていっぱい来るじゃない。 私たちが夫婦だってことはお客さんも知ってるはずなのに、毎日メールアドレス交換してくださいって言われたり、何十通もラブレターもらったり、ストレートに好きですって言われたりしてるし…………そっちの方が心配よ」
「…………確かに最近やたらモテる気がするけど、全部断ってるだろ? 上条さんは美琴しか愛さないから心配しなくてもだいじょーぶ」
「……ほんとに? よくお店の中でも女の子に抱きつかれたりしてるじゃない……」
「あ、あれは不可抗力だって!! 毎回言ってるだろ? この指輪に誓って、上条さんは浮気なんてしませんことよ?」

 そう言った5年後上条は、5年後美琴の頭を優しくなでる。

 フラグ体質で女子を引き寄せる上条、看板娘として男子を呼び込む美琴。
 この2人が経営する喫茶『KAMIKOTO』が毎日長い行列を作るほどの超人気なのは、容易に想像できるだろう。
 そして5年後上条は知らない。
 女子中高生は“わざと”つまずいたりして、抱きついてきていることを。

 そんで。
 このままではいつまで経っても真相が知れそうもないので、上条がため息まじりに言う。

「あのー……いちゃついてるとこ悪いんだけどさ、そろそろ5年前に帰る方法教えてくれないか? 時間も時間だし俺腹減ったんだよ」
「お腹減った? じゃあご飯にしましょ♪」
「え、いや帰る方法を……」
「よーし、じゃあ俺も手伝うよ」
「人の話聞けよ……上条さん泣くぞ……」

 今の自分からでは考えられない2人の仲の良さに、若干、いや普通にうんざりする。
 しかし、この後5年後の自分たちのラブラブっぷりを目の当たりにすることになる――







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