とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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海原光貴の偽物。
夏休みに上条と戦い止められたのを見ていた。
当然、あの会話も。

「私を助けくれたことはありがとう。でも何で今更アンタが」
「ただの仕事ですよ」
「仕事って・・・・・・」
「それよりも、貴女は・・・っ」

ナイフが『偽物』目掛けて飛んでくるが、『偽物』が石のナイフを掲げるだけでまたもや分解された。

「そんな悠長におしゃべりして、敵が待ってくれるわけないじゃんかー」
「結標さん!」

彼の呼びかけと同時に美琴の背後に気配が1つ現れた。

「久しぶりね、超電磁砲」
「結標淡希!?」

かつて『残骸』を巡って対立した彼女が、今度は美琴を助けようというのだ。

「今は争う気はないわ。それに借りを作る気もないし、ただの仕事よ。ただ貴女をあの少年の所へ運ぶだけ」

美琴としては信用できない。が、あの馬鹿のこともある。今は力を借りるしかない。
最後に美琴は『偽物』に言葉をかける。

「・・・・・・アンタ、名前は?」
「自分は・・・・・・海原光貴ですよ」
「ありがとう。海原さん」

そう言い残して、結標と共に、美琴の姿は消えた。






一方通行が表の駆動鎧を殲滅したのだろう。
男の額から汗が流れ始めている。

「運が良かったな、幻想殺し」

しかし銃口は依然、上条を向いている。

「だが、ここから逃げるまでの人質にはなってもらうぞ」

男は一歩、また一歩と上条に近づいていく。
素直に従うつもりはさらさら無い。
上条は一か八かの賭けに出た。

「うおおぉ!!」

上条は銃口から体をそらしながら男に詰め寄る。
男の手を掴み、自分から離すようにしながら男の引き金を握る指を無理やり押させる。
バン!バン!と拳銃に装填されていた6発の銃弾を打ち尽くさせた。

「くっ、この!」

男に手を振り払われ、弾の無くなった拳銃で頭を殴られた。
怯んだ上条は腹に肘打ちをされそのまま蹴り飛ばされてしまった。
井の中の物を吐き出しそうになるが我慢する。
頭も痛く、妙に熱く感じる。その部分を触った左手を見ると、指が赤くなっている。

「手間取らせやがって」

男は腰からギラリと光る物が出てくる。
目に映ったナイフの刃先は、確かに上条に向けられている。
けれども、そこで男の動きは止まった。
カツン、カツンと地面を叩く音がゆっくりと、男の背後から近づいてきた。
その音が終わる。男が振り向き終わる前に、何かが男を吹き飛ばし、壁に叩きつけられた。
男を吹き飛ばしたのは、白い髪に赤い目をした上条とも顔なじみの少年だった。
「・・・・・・一方通行」

一方通行は首のチョーカーのスイッチを切り、怪訝な顔をしながら上条を見る。

「誰だ?お前」
「ぅ・・・・・・この、化け物が!」

男は意識は手放してはいなかった。
一方通行へ向けられた手から炎が飛び出る。

「一方通行!」

上条は一方通行の前に出て、右手で炎を打ち消す。
一方通行はチョーカーのスイッチを入れ直し、地面を蹴り上げ一気に男との距離を縮め、一方通行の手が男の首筋に触れただけで男は顔を地面に付け、辺りは静かになった。

「殺した・・・・・・のか?」
「気絶させただけだ。組織の実態や目的を、あらざらい吐いてもらうからなァ」

そんなことより、と一方通行は上条を見る。
少しばかり、口元をにやけさせながら。

「何でそンな格好をしてンだ?」




理由を話したら一方通行に盛大に笑われた。
落ち込んでいる上条のことなど気にせずに一方通行男を引きずりながら上条を連れて表に出る。
そこには土御門がいた。

「カミやん!・・・・・・じゃない?さっきの携帯に出た娘か」
「あー、土御門。上条は俺だ」
「は?」

土御門が疑問に思うのも仕方がない。
上条はマフラーの中の変声期を取り出し、もう一度声を出す。

「こんな格好してたのも全部、お前のせいだからな」
「学舎の園からずっと?」
「ずっとだよ」
「ぷっ、くく、ふはは!」
「お前にだけは笑われたくないわ!」

上条の言うことなど無視して土御門は笑い続ける。
それにつられたのか一方通行は必死に笑いを堪えている。

「連れてきてあげたわよ。土御門」

空間移動系の能力者だろう。
美琴も一緒に現れた。
それも見て一方通行も土御門も瞬時に笑うことを止めた。
土御門は行って変わって、真剣な表情になる。

「ご苦労だったな結標」
「まったく、今回限りにしてもらいたいものね」

会話をしている2人から、上条は美琴へ目を向ける。
美琴もこちらを見て、目が合った。

「アンタ、怪我してるじゃない」
「お前だって怪我してるだろ」
「ただの切り傷よ」

お互いの怪我を見て、何も言葉は出ず、会話はそこで途切れてしまった。
2、3分の沈黙を破ったのは土御門だ。

「海原から連絡が入った。あっちも魔術師を拘束したそうだ。後始末は俺がやるぜい。お前らは帰っていい」

その言葉を聞き、結標と一方通行はそれぞれ帰っていった。
土御門も、すまなかたぜい、とそれだけ言って歩き出した。
残ったのは上条と美琴の2人だけだ。

「ねえ、そのまま帰るわけにもいかないでしょ?ホテルの部屋借りてそこで着替えましょ」




美琴が買ってきた包帯を巻いてもらってから着替える為の服を選び、美琴につられるままにビジネスホテルの一室に来た。
洗面所で常盤台の制服を脱ぎ、買ってきた服を着る。
やっと上条当麻の姿に戻れた。
けれども、洗面所のドアを開ける気分にはなれなかった。

どうしても思い出すのだ。美琴の頬の傷を。
土御門は言っていた。標的は上条と美琴だと。
もしも、もしも。

(もしも、俺が御坂と会ってなければ)

美琴が上条と共に戦うことはなかっただろう。
美琴が、死にかけることはなかっただろう。
美琴が、あの時怪我をすることはなかっただろう。

(これ以上は、もうダメだ)

そう思うと、とても胸が苦しくなった。
ドアノブに掛けた手が動かなくなる。
美琴と顔を合わせるのが怖くなる。
ありがとう、とそれだけ言って去ればいいのに、その次の言葉が頭に浮かんでしまう。
それがどれだけ美琴を、自分を傷つけることかわかっているのに。





着替えるにしては時間がかかり過ぎてる。
シャワーを浴びてる様子でもない。
どうせあの馬鹿のことだ。たとえちょっとした切り傷でも自分のせいだと自分を責めているのか。
誰よりも傷ついて死にかけて、気にする必要はないのに誰よりも責任を感じ1人で何でも背負おうとする。
それがあの馬鹿だ。いつだって美琴は、ついて行くことに精一杯だ。
何分か待って、洗面所からあの馬鹿は出てきた。
トレードマークでもあるツンツン頭ではないが、女装をしてた時よりは断然男らしい。
が、いつもの上条ではない。
時折見せる信念を持った目も、誰にでも接する時の優しい目もない。
ただひたすらに、悲しそうだった。

「御坂。今までありがとうな」

いきなりそんなことを言われ美琴は戸惑った。

「何言ってんのよアンタ」
「でもこれ以上俺と関わるとお前が不幸になっちまう。それだけは、絶対に嫌なんだ」

上条は美琴から背を向け、部屋から出ようとする。

「もう俺達が会うのもこれが最後だ」
(やめて、そんなこと)
「御坂。お前と学舎の園を歩けて楽しかったよ。体には気をつけろよ」
(お願い、待っ・・・!)

声を出せなかった。上条はそのまま部屋から出ていってしまう。
美琴はただ、その場で立ち尽くすことしかできなかった。


この時、何かを言えれば。
この時、あの馬鹿を止めることさえできれば。
あんなに悲しい思いはしなかったはずだと、美琴は後悔した。









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