とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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夫婦の日常は白井の異常

前回 のあらすじ。


「それでですね、御坂さん。あのアロマオイルで御坂さんの未来を見たんですが―――」
「……ふにゃー」
「って、早いですよー!!! まだ何も言って無いじゃないですかー!!!」

「ふにゃー」が早い。





レトロでいい雰囲気の小さな喫茶店。
丸テーブルを挟んでガッチガチになりながら相対しているのは、上条と美琴の二人である。
そしてその様子を遠くの席から覗き込んでいるのは、

「……お二人とも、全然動きがありませんね」
「初々しいって事なんじゃないかな!?」
「…わたくしは認めませんわよ……あんな類人猿などっ!」

初春、佐天、白井の三名だ。

この会談【おみあい】は、実は佐天がセッティングした物だ。
(まぁ、セッティングというよりも、二人をだまくらかしてここに呼びつけた訳だが)
すったもんだあってギクシャクしてしまった二人を、何とかして修復させようという企てだ。
…もっとも、半分は面白がっているだけなのだろうが。

「けど本当なんですか? その…み、未来で御坂さんと上条さんが、ご、ご結婚されてたって言うのは?」
「本当だって! しかも子供までいたんだから! 麻琴ちゃん、ちっちゃくて可愛かったな~」
「あー! あー! あー! わたくしには何も聞こえませんわー!!!
 それにそんなのは唯の夢ですの!!! 現実ではありませんのよー!!!」
「白井さん! 現実から目を背けちゃ駄目ですよ!?」
「だから現実ではないと言っておりますでしょうに!!!
 やはりあのアロマオイルは胡散臭いインチキグッズでしたのねっ!!!」
「インチキじゃないですよ!!! ちゃんと見れたんですから!!!」

当人達とは対称的に、ギャアギャアと騒ぐ三人組。
だが沈黙を続けていた上条がやっと口を開いた事で、三人は口を閉じ、上条の言葉に耳を傾ける。



「あ…あー、その、なんだ……み、美琴」
「あひゃっ!!? なな、何っ!!? 何かしらっ!!?」

美琴は挙動不審な反応を示す。

「実はこの前…へ、変な夢見ちまって、さ」
「ゆ、夢…?」
「ああ。その日は俺が疲れてるだろうからってインデックスがアロマオイルをくれたんだよ。
 で、その香りを嗅ぎながら寝たんだけど…
 後でネットで調べたら、それ予知夢が見られるっていうアロマだったみたいなんだよな」
「っ!!! へ、へぇ~…しょ、しょんにゃもにょがあるにょね~……」

美琴は慌てて目を逸らしてすっ呆ける。
「しょんにゃもにょがあるにょね~」ではないだろう。自分もそれと同じ物を、ガッツリと使ったくせに。

「それでまぁ…その夢の内容ってのが、さ…その……
 お…俺と美琴が……け…結婚してるっていう夢…だったもんで……」

恥ずかしそうに語る上条。
それを聞いた彼女達のリアクションは、 Σ(゚ロ゚;) である。
つまりそれは、『美琴同様』上条もそんな未来を望んだ、という事であり、
『二人して同じ夢を見た』という事は、その未来がかなり高い確率で現実になる事も意味している。
そこに気づいた美琴は、

「…………………………」
「…あれ? 美琴? 美琴さーん?」

「ふにゃー」する間も無く、気絶していた。



一方、そこから離れた席では初春と佐天がハイタッチしていたが、
白井一人だけが沈みきっている。

(…み…認めませんわ……認めませんわよわたくしはあああああ!!!!!
 お姉様と類人猿の結婚などっ!!!
 そんな未来【げんそう】はぶち殺してやりますのおおおおお!!!!!)

白井の、たった一人の戦いが始まる。



目を開けると、そこは白井の実家だった。

(…どうやら、もう夢の中に来ているみたいですわね……)

すでに状況を把握している白井は、慌てず冷静に行動を開始する。
ここは擬似未来。つまり、あのアロマオイルの効力だ。

白井は眠る前、佐天が美琴に渡した、あのアロマオイルを少しばかり拝借していた。
理由は勿論、美琴と上条が結婚しているという、『悪夢』を見る為だ。
話を聞いただけだが、佐天と上条、それとおそらく美琴も同じ夢を見た。
これは危険だ。
先程も言ったように、何人もの人間が同じ夢を見たという事は、それだけ現実味が増すという物である。
しかし白井はそれを認められない。認める訳にはいかない。
なのであえてその悪夢を見る事で二人が結婚するきっかけを探り出し、
現実に戻った後は、二人の結婚【バッドルート】にならないように妨害する、というつもりなのだ。
二人の結婚を妨害する為に、二人の結婚生活を覗かなければならないとは、何とも皮肉である。

だがここが本当に望み通りの夢とは限らない。
あのアロマは、あくまでも本人の望みに近い未来を見せる物であって、
見たい夢を思い通りに見る事はできないのだ。

白井はまず、ここがどんな未来なのかを確かめる為に自分の部屋の調べてみる。
するとクローゼットの中に、「お姉様との思い出」と分かり易く書かれたダンボールが置いてある。
白井は一切の躊躇いも無く、そのダンボールを開けた。

「ふ、おおおおおおああああああ!!!?」

思わず奇声を上げた。
それは出会ったばかり(白井からしたら約半年前だが)の頃からアラフォーになるまでの、
あらゆる美琴の写真が詰め込まれている。
宝の山だが、この写真を一枚も現実に持って帰れないのが口惜しい。まぁ、夢だしね。

「はうぅ…大人になってもお姉様はお美しいですの……」

恍惚の表情で写真を眺める白井。もう本来の目的を忘れたのだろうか。
だがその中にある一枚の写真を見た時、白井は残酷な現実に引き戻された。
夢なのに現実というのも妙な表現だが。

「……こ…れは………」

それは美琴がウエディングドレスを着た写真だった。隣には見覚えのあるツンツン頭。
どうやら運良く【うんわるく】、白井の望み通り、美琴と上条が結婚した未来に来られたようだ。
覚悟はしていたが、やはりかなりキッツイ。
何が一番キツイかって、そりゃもう二人の笑顔である。
幸せの絶頂みたいなその笑顔を見た瞬間、白井はその写真を破り捨てた。
…写真の半分【かみじょうがうつっているところ】だけ。

(ぬおおおああああ!!! そうですわ!!!
 わたくしはこんな未来をぶち壊す為に来たんですのよ!!!
 お姉様の性超…もとい成長にトキメいている場合ではありませんのっ!!!)

幸か不幸か、おかげで自分の使命を思い出した白井。
写真と一緒に入っていた年賀状から、未来【げんざい】の美琴の住所を調べ出す。
同時に、差出人の欄に「上条美琴」と記入されており再び落ち込みそうになったが、
何とか踏ん張り立ち上がる。全ては、崇高なる目的の為に。

(もう少しだけお待ちくださいな、お姉様。
 この黒子が…貴方の黒子が邪悪なる魔の手からお救いに参りますのっ!!!)

白井の気分はすっかり、プリンセスを助け出す為に魔界村へ挑むアーサーのそれになっていた。
しかし白井は気づいていなかった。魔界村の難易度の高さを。
プリンセスを救い出す為には、何十回とコンテニュー…つまりは死ななければ達成出来ないのである。
要約すると、だ。
「助けるったってお前、その為には二人がイチャイチャしてる所を延々と観察しなきゃなんないんだぞ。
 多分、胃に穴が開きまくると思うけど…本当に大丈夫か?」
という事である。



~上条家の外~


白井はとある一軒家の前で、その家の表札を睨みつけていた。
「上条」と記されたその下に、小さく「当麻」「美琴」「麻琴」と刻まれている。
一応の礼儀として持ってきた菓子折りの袋にも、思わず力が入る。

(仲良く家族全員の名前を入れておりますの…?
 ふ、ふふふ……無用心に家族構成を丸出しにして、空き巣にでも入られればいいんですのよっ!!!
 …ただし盗まれるのは類人猿の私物だけで)

空き巣も、わざわざレベル5のいるお家に入ったりはしないだろう。泥棒だって自分の命は大事だ。

白井は忌々しい気持ちを何とか押さえ込み、インターホンを押す。
すると中から、

「はーい!」

という可愛らしい少女の声。
ガチャリ、と玄関のドアが開き顔を出してきたのは、

「あっ! 白井お姉ちゃんだっ!!!」

美琴そっくりの女の子だった。
佐天の話と表札の名前から、この子が麻琴で間違いないだろう。
瞬間的に思わず抱き締めたい衝動に駆られる白井だが、その子の黒髪に目が行きピタッと止まる。
否が応でも、その子が愛しのお姉様と憎き類人猿との子供である事を思い知らされ、
何だか胃がキリキリし始めてきた。

白井は必死に笑顔を作る。

「お…お母様はおりますの?」
「うん、いるよー! ママー! 白井のお姉ちゃんが来たよー!」

麻琴が呼ぶと、奥からエプロンで手を拭きながら小走りでやってくる人妻の姿が。
美琴である。写真で見たように、大分、大人になっている。主に胸とかお尻とか、あとは胸とか。
思わず鼻血でも噴射しそうになるが、ここで変態成分を出してしまったら怪しまれるかも知れない。
ここはグッと我慢だ。

「あら黒子~!? ひっさしぶりじゃない! ああ、こんな格好でごめんね? ちょっと洗い物してたから」
「はうあっ!!? …コホン。お、お久しぶりですの、お姉様」

だがここで、

「おお~! 白井じゃねーか! どしたんだ急に?」

家主の登場である。
思わず脳みそに金属矢でもぶっ刺しそうになるが、ここで殺人でもしてしまったら終わりである。
ここはグッと我慢だ。

「あら、類j…上条さん。ちょっと近くまで用があったものでついでに。
 あっ、これはお土産ですの」
「いや~、悪いな。おっ? 麻琴、白井のお姉ちゃんがどら焼き買ってきてくれたぞ!」
「わーい! どっら焼き~!」
「まぁ~、ありがと黒子。さっ、とりあえず上がって上がって?」
「…お邪魔いたしますの」

こうして上条家に乗り込む事に成功した白井。
この幸せいっぱいな家庭をぶち壊すべく、彼女は作戦を実行する。

(ぜ~ったいに、こんな未来にはさせませんわよっ!!!)



~上条家の中~


現在白井は出された茶をすすりながら、当初の目的である「二人が結婚するきっかけ」を探るべく、
思い出話(白井からしたら未来の話)を聞いている最中だ。
しかしおかしい。口の中が甘ったるい。自分が買ってきたどら焼きには手をつけていない筈なのだが。

「そしたらパパったらその時、美琴と一緒に『い』たいってのを噛んじゃって、
 美琴と一緒に『し』たいって言っちゃったのよ~! もう私、顔が真っ赤になっちゃって!」
「ちょ、おま…それ言わないでって言ったじゃねーか!」
「パパ、大事な事は噛んじゃダメだよ~!
 …ていうかママ。ママはパパが、ママと何を一緒にしたいと思って真っ赤になったの?」
「いっ!? いや…それは、その……な…何だったかしらね!?」

ああ、そうか。話【これ】のせいで甘いのか。
白井は引きつりそうな顔を必死で笑顔に変え、「おほほほほほ」と愛想笑いを続けている。
正直はらわたが煮えくり返り、煮えすぎて液体が気体に変化しているような状態だが、やはり我慢だ。

と、ここで思い出話をしている美琴がチラリと時計を見る。午前9時半を回った所だ。

「あっ、大変! そろそろ出かける準備しなくちゃ!」
「ぐぬぬぬ…はっ! いけませんわ……こほん。…あら、お出かけですの?」
「うん、10時になったらみんなで動物園行くって約束してたもんだから…」
「あら、そうでしたの。お忙しい中、お邪魔して申し訳ありませんでしたの。
 ではわたくしはそろそろ、おいとまいたしますわ」

意外とアッサリ引く白井。それもその筈だ。
とりあえず必要な情報は手に入った。もうこの世界には用は無い。
大人なお姉様とお別れするのは心苦しいが、隣に類人猿【コイツ】がいては寛げない。
これ以上ラブラブ夫婦っぷりを見せつけられるのは地獄である。胃も限界が近い。

「悪いな白井。せっかく来てくれたのにバタバタしてて」
「…いえ、連絡もせずに訪問したのはこちらですから。どうぞお気遣いなく」

と上条に対しても大人な対応をする白井だが、
心の中では文字に起こせないような罵詈雑言で上条を罵っている。

帰ってとっとと寝よう(この世界で眠ると、現実世界で起きられる)と白井が立ち上がる。
だがここで、

「え~!? 白井お姉ちゃん帰っちゃうの~!?」

麻琴が寂しそうに白井の裾を掴んだ。
未来の自分の立ち位置がどんな物なのかは知らないが、とりあえず麻琴には懐かれているらしい。
少し悩んだ白井だが、憎いのは上条であって、麻琴【このこ】には罪は無い。
白井は再び座り、麻琴の頭を撫でる。

「…では、パパとママのお出かけの準備が終わるまで、わたくしと遊びましょうか」
「ホント!? やったー!」
「いいの黒子!?」
「ええ、それくらいなら」

急に優しくなる白井に驚いたかも知れないが、白井は基本的に、敵対する者以外には優しい。
もっとも、その敵対する者の最たるものが上条なので、ややこしくなってはいるが。

「ありがと黒子! 助かるわ!」
「ホント…悪いな。今度、改めてお礼させてくれ」
「いえ…大した事はしておりませんので」

「どの道もうすぐ、この世界ともお別れだし」と白井は心の中で呟いていた。



~上条家の中の仲~


現在、時計は9時50分を過ぎている。
あれから麻琴と、ずっとテレビゲームで対戦
(ここは10年以上先の未来だが、科学技術は学園都市が20年先を行っている為、
 白井にとっては普段とあまり変わらないくらいの技術力で作られた『最新』ゲームである)
していた白井だが、ふと美琴達の様子が気になった。

(…あれからお姉様、一度も顔を出しませんわね……
 日帰りの動物園に、そんな入念な準備が必要ですの…?)

一度疑念が生じると、人は確かめずにはいられない生き物だ。
白井はゲームのストップボタンを押す。

「? どうしたの?」
「あ、いえ…お手洗いに行きたいもので……」
「トイレはねー! 右だよ!」
「ありがとうございますですの」

最もベタな理由をつけて、リビングを離れる。
だが勿論、トイレに行く為に席を立った訳ではない。美琴達の様子を探る為だ。

(…何ですの? この妙な胸騒ぎは……)

嫌な予感を抱えつつ、美琴達を探す白井。この後彼女の胸騒ぎは、ものっそい的中をする事となる。

寝室…らしき部屋から声がする。嫌な予感MAXだ。
白井はその部屋のドアをそっと開け、隙間から中の様子を覗く。するとそこには―――

「ん…はぉ……んっぷ…ぇあっ! んくちゅ、ちゃぶっ、は、あっ! アナタっ!」
「み…こと! んじゅぷっ、はぁ、はぁ! んっぶっ、じゅぶちゅく、美琴……美琴ぉっ!」

激しくディープなキスをしているベテラン夫婦の姿。
いや、これはもはやキスではない。かなり古い言い方で申し訳ないが、AではなくBである。
どうやら麻琴の面倒を白井が見ている今、邪魔の入らないこの時間に、
ここぞとばかりに愛し合っているらしい。
というか、お出かけ前に何をしているのだ、このバカップル夫婦は。準備はどうした。

この光景を見た瞬間、白井は血を吐いて気絶した。
胃が限界を迎えたのだ。夢だけど。




その後、現実世界で目を覚ました白井だったが、
『あの時』のショックで必要な情報は全てぶっ飛んでしまった。
しかしもう一度あの夢を見ようとは思わない。もしあの夢をもう一度見るのなら、死んだ方がマシである。
なので白井は結婚のきっかけを妨害する作戦を諦め、いつも通りに、

「うおるぁあああああ!!! 待ちやがれこんの類人猿があああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
「何々、何でせうっ!!? 何で俺、白井に命狙われてんの!? ちくしょう、不幸だーっ!!!」

上条を追い掛け回すのであった。ただしいつもより、殺意は5割り増しだが。



たがこの約半年後、白井はもう一度あの夢の世界に行かなかった事を後悔する事となる。
何故なら結局、二人の仲を裂く事に失敗したからだ。
そして失敗した、という事はつまり―――










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