佐天の日常は美琴の異常
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(うおおおおおお!!? 夢とは言え、俺は美琴になんちゅう事をっ!!!
あ、あのまま起きなかったら…最後までヤッちまってたって事なのかっ!!?
うわあもう、明日からどんな顔して美琴に会えばいいんだよ~~~っ!!!)
上条さん、布団の中で悶える。
「やっぱり最近の御坂さん、様子がおかしいと思うんだよね」
『確かにそうですよね…何と言うか、毎日頭から煙出してますし』
佐天は自分の部屋で、スナック菓子を摘みながら初春と電話している。
トークテーマは、『最近の御坂さん』についてだ。
ここ数日の美琴は、誰がどう見ても足が地に着いていない。常にフワッフワした状態である。
『基本的に』しっかり者の彼女からは、あまり想像できないが、事実である。
「あたしの勘だけど…多分上条さんと『何か』あったと思うんだよね。
…多分? ううん、絶対そうだよ!」
『また佐天さんはそうやって……適当にこじつけて、話を「そっち」に持っていくのは悪い癖ですよ?』
「こじつけじゃないよ! だって『あの』御坂さんが『あんな風』になるなんて、他に理由がある!?」
そう。先程、「『基本的に』しっかり者」と説明したが、
『基本的に』、という事は勿論『例外』もあるのだ。
それが上条である。
既に十分すぎる程お気づきかと思われるが、美琴は上条に惚れている。
しかし彼女は好きな相手に素直になれない性格であり、
しかも初恋という事もあって対応もままならない。
結果、上条を目の前にした時彼女は、
「べ、別にアンタに会いたいとか、全然思ってないから!」とツンツンするか、
「はにゃっ!? な、ななな、何でアンタがこんな所にいんのよ!?」とテンパるかのどちらかである。
『う~ん…でも仮にそうだったとして、お二人の間に何があったんですかね?』
「そこなんだよねぇ……あの二人がいきなり進展するとは考えにく……あっ」
そこで佐天は思い出した。
「…ねぇ初春。御坂さんがおかしくなったのって、あたしがあのアロマオイルを渡してからじゃない?」
『ああ、例の未来が見えるっていう……言われてみれば、あの日の翌日からですね……』
佐天がニヤリと笑う。何かに閃いたようだ。
「って事はさ! 御坂さん、いい夢が見られたんじゃないかな!
例えば上条さんと結婚してて、しかも二人の間には子供もいた! っていう夢とか!」
恐るべき閃き力である。
『え、えええぇ!!? そんな都合よくいきますかね!?
し、しし、しかもお子さんがご一緒って事はつまりぬふぇ~~~~~』
「それぐらいの事がないと、『あんな』御坂さんにはならないって!」
『た、確かにそうかも知れませんが、そもそもあのアロマオイルは確実に効果が出る物なんですか!?』
白井もそうだったが、初春もそのアロマオイルの信憑性を疑っている様子だ。
何しろそのオイルを持って来たのは『この』佐天なのだから。…と、以前にも言った気がする。
「その辺は心配ないよ。あたしも使ってみたもん。しかもちゃんと未来見れたし」
『えっ!? ど、どんな!?』
まぁ、こんな面白グッズを自分で試さない佐天ではないだろう。はたして佐天の見た未来とは?
「まぁ未来って言っても来週の事だけどね。
あたしが初春のスカートをめくったら勢い余って破けちゃって、
初春がパンツ丸出しになってうずくまるっていう夢を―――」
『もし来週それと同じ事したら、私一生佐天さんと口ききませんからねっ!!!』
佐天が言い終わる前に、初春が食い気味に釘を刺した。
何が恐ろしいって、それが佐天の望みであり、尚且つ有り得る未来だという事だ。
ともあれ、信憑性は高い(?)ようだ。
そんなこんながあり、今日も佐天はあのアロマの香りに包まれつつ眠りに就く。
(あたしも御坂さんの未来が見てみたいなぁ…絶対そこで、上条さんと何かあったんだよ!)
と考えながら。
果たして佐天は、一体どんな夢を見る事ができるのだろうか。
目を覚ますと、そこは動物園だった。
佐天は園内にある飲食店のテーブルに、突っ伏す形で眠っていた。
訳の分からない状況にクエスチョンマークを飛び回らせるが、
すぐにあのアロマの効果だと理解する。という事はここは―――
(ここって未来? しかも今度は来週とかじゃなくてもっと先みたいだね。
うん、確かに背も伸びてるみたいだし、10年は経ってる…のかな?
でもだとしたらこの状況って何?
一人で動物園に来てテーブルで寝てるとか、将来のあたしが少し心配になってきたよ……)
こんな未来を望んだ覚えは無いのだが、と佐天は首をかしげる。
しかし直後、彼女は「ああ、なるほど。そういう事か」と納得する事となる。
何故なら店の中に、
「パパー、お腹空いたー!」
「よっし! 麻琴が食べたい物、何でも頼んでもいいぞー!」
「アナタ大丈夫なの? まだお給料日前なのに…」
と三人の親子連れが入ってきたからだ。佐天はその親子を見た瞬間に確信した。
パパとママの声に聞き覚えがあり、その顔も面影が残っている。
間にいる子供(父親の台詞から、名前は「麻琴」と言うらしい)も、
明らかにその二人の遺伝子を受け継いでおり、非常に可愛らしい。
その光景を目の当たりにした佐天は、笑いを堪えられず思わずニヤニヤしていた。何故なら、
(こ…これもう完全に御坂さんと上条さんの幸せ家族計画じゃないですかーっ!!!)
美琴のとんでもない未来を見てしまったから。つまりここは、佐天本人の望んだ未来ではなく、
「御坂さんの未来が見てみたい」という佐天の願いが反映された未来なのだ。
更にここが、将来的に可能性がある未来だという事も嬉しい情報である。
その事を考えると、もうニヤニヤが止まらない佐天なのだった。
妙な視線を感じたのか、麻琴がこちらに振り向く。
気づかれたようだ。別に隠れていたつもりもないが。
「あー! 佐天お姉ちゃんだ!」
「えっ!? あっ、佐天さん!?」
「おわっ!? ホントだ…どうも、お久しぶりです」
「どうもー、こんにちはー! ひょっとして、あたしお邪魔ですか?」
慌てず騒がず、佐天は自然に切り返す。こういう時の彼女の順応力はとても高い。
「佐天さんも来てたのね! やーもう、久しぶりー! 元気だった!?」
「元気元気! 御坂さんも元気そうで何よりです! 麻琴ちゃんもこんなに大きくなって!」
小さい頃の麻琴など見た事もない筈なのだが、この佐天さん、怖いものなしにグイグイ来る。
まぁ、何があっても所詮夢だから、と割り切っているのかも知れない。
「それに『相変わらず』上条さんともラブラブみたいで…っと、今は御坂さんも上条さんでしたっけ♪」
「やだ、御坂でいいわよ!」
カラカラと笑う美琴だが、明らかに嬉しそうだ。
「あっ、そうだ! 良かったら一緒に食べませんか!? あたしの席、丁度4人掛けですし!」
「えっ、でもご迷惑になるんじゃあ…」
「お気になさらないでくださいよ上条さん! あたしも皆さんと食べた方が楽しいですし!
麻琴ちゃんもあたしと一緒に食べたいよねー!?」
「うん! 食べたーい!」
ここぞとばかりに上条家を自分のテリトリー内に引き込み、
二人の馴れ初めやら何やらを、根掘り葉掘り聞き出そうとする佐天。
今の彼女は無敵である。
~まずは~
結局、佐天に強引に引き込まれ、上条家は佐天と同じテーブルに着かされている。
佐天はさっそく聞き出した。
「今日は何されてたんですか? …って、動物園にいるんだから、動物見てたに決まってますよね」
「うん、でもすごく可愛かったの! コアラの親子とかね」
「あ、コアラ見たんですか」
「うん、そうだよ! あとね! 象さんとね、パンダさんとね、トラさんとね、お猿さん!」
「へぇ~、いっぱい見たんだねぇ~」
「いっぱい見た!」
麻琴ちゃんはとても素直でいい子のようだ。
「…けど、コアラ見てる時に麻琴とマm…美琴が抱きついてきてさ。大変だったよ」
上条のその言葉に、ピンとアンテナを立てる佐天。面白そうな話が聞けそうだ。
「あら、いつもみたいに『ママ』って呼んだら?」
「いや、さすがに恥ずかしいだろ! 人様の前で『ママ』とか!」
未来の上条が普段は美琴の事を『ママ』と呼んでいる事実に、佐天は心の中でくす玉を割る。
「それで、何が大変だったんですか!?」
「あ…いや、その……」
「それは…ねぇ……」
佐天の問いに、思わず赤くなる上条と美琴。
『何が』大変だったかと聞かれれば、『ナニが』大変だったのだが、そんな事を佐天は知らない。
~次は~
それぞれ注文した料理が到着し、
佐天達は食事をしながら昔話(佐天にとっては最近の出来事)に花を咲かせていた。
「そしたら御坂さん、上条さんの前で『ふにゃー』ってしちゃって!」
「あ…あったわねー。そんな事も……」
「ママ、今でも『ふにゃー』ってするよねパパ?」
「まぁ、たまにだけどな」
「今でも? へー、そうなんですかー♪」
「ま、麻琴ちゃん! しーっ! アナタも、そんな事言わなくていいのっ!」
佐天はもう、楽しくて仕方が無い。
この空気なら大丈夫そうなので、佐天は二人の馴れ初めについて聞いてみた。
「…ところで、お二人っていつから付き合ってるんでしたっけ?」
だが佐天のその問いに、二人は目をパチクリさせる。
「いつ…って、佐天さん覚えてないの?」
「……へ?」
瞬間的に、佐天は「しまった!」と思った。どうやら不自然な質問だったらしい。
「私が中学3年生に上がったばかりの頃、佐天さんが仲を取り持ってくれたんじゃない」
「そうそう。そんで付き合い始めたその日を『お二人のお付き合い記念日にしましょう!』
とか言って、一番張り切ってたじゃねーか」
「あ、ああああたしがっ!!?」
さすがの佐天もビックリである。今から約半年後、勿論どうやったのかは知らないが、
どうやら自分がキューピッド役を行うらしい。責任重大である。
「あ、ああ、そう言えばそうでしたね! あはははは!」
その場では佐天は誤魔化すしかなく、とりあえず乾いた笑いでお茶を濁した。
~最後に~
食事も終わり、そろそろ店を出る空気となる。
出来る事ならこのまま上条家について行きたい佐天だが、
夢とはいえ、これ以上美琴の邪魔をするのは気が引ける。
なのでここでお別れしよう、と佐天は決意した。
だが席を立つ時、これだけは聞いておこうと決めていた。
「御坂さん、上条さん。お二人は今、幸せですか?」
二人の答えは―――
「勿論だよ。愛する妻と愛しい娘。これで『不幸だー』なんて言ったら、バチが当たるさ」
「私も幸せ。毎日大騒ぎだけど、毎日が楽しいもの。この人と麻琴ちゃんがいてくれるだけで、ね」
「あたしも! あたしもパパとママと一緒で楽しいよー!」
それを聞いた佐天は、
「そうですか! なら何も言う事はありません♪」
と一言だけ言うと、そのままニッコリと笑った。
翌日。
あれから上条家と別れた佐天は、そのまま飲食店のテーブルに再び突っ伏し、そして寝た。
一刻も早く夢から目覚め、その夢の内容を美琴に報告…という名のイジりをする為だ。
そんな訳で現在、美琴は佐天にいつものファミレスへと呼び出されていた。
「それでですね、御坂さん。あのアロマオイルで御坂さんの未来を見たんですが―――」
「……ふにゃー」
「って、早いですよー!!! まだ何も言って無いじゃないですかー!!!」
だが美琴は、佐天の話を聞く前に「ふにゃー」した。だって美琴自身、未来の夢を見たから。
佐天は心の中で、
(あ~もう! どうせ将来結婚するんだから、恥ずかしがらずに告白すればいいのに!)
と思った。
約半年後、それと全く同じ事を上条に言い、それがきっかけで二人が付き合い始めるなど、
この時はまだ知らないのだが。