とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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未来の日常は上琴の異常

前回 はこちら。



その日の夜、上条は薄暗い風呂場の中で、
浴槽に敷いた布団の上であぐらをかきながら考え事をしていた。
自分がみたあの夢、美琴の態度、今朝母親から送られて来たメール。

そして今の上条が抱える、このモヤモヤした気持ち。

何か答えが見えそうで見えてこない気持ち悪い感覚に、上条は頭をガシガシ掻きながら、
シャンプーラックに置きっぱなしにしておいたアロマオイルの小瓶を見つめる。
おそらく、上条の悩みの元凶を。

(…やっぱり、もう一度使ってみるべきか…? いやでも……)

もう一度同じ夢が見られるかは分からないし、何より、

(もう一回、年上美琴に迫られたらどうすりゃいいんだよ……
 前回は未遂で終わったけど、今回も都合よくそうなるなんて保障は無いんだし……
 夢の中とはいえ、もし美琴に『そんな事』しちまったら、もうまともに美琴の顔なんか見れねーぞ!?
 かと言って、『アレ』を食らって理性を保てる自信も無いし……はぁ…)

見てる方としては、「つべこべ言わずにとっとと『アレ』を食らって『そんな事』しちまえよ」、
と思わなくもないが、そこはやはり当人としては悩む所なのだ。
ちなみにだが、美琴は未遂で終わらずに最後までヤっちまっている。勿論、夢の中で。

しかし、考えた所で解決の糸口は見つかりそうにない。やはり使う他にないだろう。
上条は再びあの夢を見るべく、あの夜のようにビンの中のオイルを小皿に移した。
以前、上条の幻想殺しでオイルの効力を破壊してしまったが、
それはあくまでもその時に使っていた分だけであって、小瓶本体に入っているオイルは無事である。

(本当に…これでいいのか? この選択は間違ってないのか?)

そんな事を考えつつ、布団を被る上条。
自分でも知らない内に、「もう一度アダルト美琴に会いたい」と思っている事に、
彼自身、気づいていないのだった。

 ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘

その日の夜、美琴は部屋の中で、ベッドの上で正座しながら考え事をしていた。
自分が見たあの夢、上条や佐天も同じ夢を見た事、今朝母親から送られて来たメール。

そして夢の中で体験した『とんでもない出来事』の記憶。

あの出来事のせいで、ここ数日、上条と顔を合わすだけでふにゃりかけていた。
美琴は宮棚に置きっぱなしにしておいたアロマオイルの小瓶を見つめる。
おそらく、美琴の悩みの元凶を。

(も…もう一回くらい使ってみようかしら…?)

ゴクリ、と生唾を飲み込みオイルの小瓶に手を伸ばす。すると、

「……お姉様…? まさかまたそのオイルをお使いになるおつもりではありませんわよね…?」
「にゃわわわわわっ!!!」

邪魔が入った。
美琴から直接聞いた訳では無いが、その様子から美琴が『あの夢』を見た事は一目瞭然である。
そして白井もまた、このアロマオイルで『あの夢』を見ている。
白井はもう二度と『あの夢』を見る気は無いが、同時に、美琴にも『あの夢』を見せる訳にはいかない。

「そ、そそ、そんな訳ないでしょっ!!? た、ただ、まだオイルが残ってるから、
 このまま捨てるのもちょ~っと勿体無いかな~って思っただけで……」
「それはお使いになりたいと自白しているような物ですのっ!
 ええい、こんな危険な物、わたくしの風紀委員権限で没収させてもらいます!」
「えっ!? あ、ちょ、ちょっと黒子!」

強引に奪われた。
しかし美琴は慌てずに、一枚のハンカチを取り出した。
実はこのハンカチには、『こんなこともあろうかと』オイルと染み込ませていたのだ。
美琴はそのハンカチを枕の下に敷いて、布団を被った。

(べ、別にアレよね。たまたまオイルが染み込んだハンカチが、
 たまたま枕の下に挟まっちゃうなんて、よくある事よね!
 そ、それでたまたまあの夢を見ちゃってもただの事故なんだし……
 わ、わわ、私が見たい訳じゃなくても、そうなっちゃったら仕方ないわよねっ!)

そんなたまたまがよくあってたまるものか。



それぞれの思惑はどうあれど、二人はこうして同時にアロマオイルを使い、眠りに就く。
そして『同時』に夢の世界へと旅立つのだった―――



上条が目を覚ますと、目の前には大人な姿の美琴がいた。ここが夢の中の世界なのだと理解する。
美琴が目を覚ますと、目の前には大人な姿の上条がいた。ここが夢の中の世界なのだと理解する。
しかし直後に、自分達が異常な状況にある事も理解する事となる。

相手の息遣いが異様に近く、顔はいつでもキスできるような距離だった。
そして触れ合う肌と肌。二人は同じ布団の中で、抱き合う形で眠っていたらしい。そして何より、

お互いに、服を着ていなかった。ついでに言うと下着の一枚すらも。

「「くぁダブリューせディーアールエフティージーワイふじこエルピー!!!!!」」

二人は同時に叫んだ。
言葉にならない叫びをわざわざ言葉にする程に頭をパニクらせながら。

「うおわあああああ!
 すみませんごめんなさい申し訳ありませんわざとじゃないんです許してください!!!」
「いいいいいいから! 謝んなくていいからちょっとあっち向いててよ馬鹿ああああ!!!」

即座に背中合わせになる二人。しかしお互いの反応に違和感を覚える。
上条からすれば、未来の美琴は素直に甘えてくる性格だった。
美琴からすれば、未来の上条は大人な余裕を醸し出していた。
この反応はまるで、『いつもと変わらない』感じがする。
その事に気づいた二人は、お互いに背を向けたまま確認を取る。

「な、なぁ…もしかしてあなたは、常盤台中学2年生の頃の美琴たんなのでせうか…?」
「…って事はやっぱり、アンタもその頃のまま…なのね?」

やはりそうらしい。
二人とも、見た目は大人頭脳は子供(まぁ子供と言える歳でもないが)の状態になっている。
しかしここは間違いなく未来の世界だ。
何故なら隣には麻琴が可愛い寝息を立てているし、リビングには例の動物園で買ったお土産類。
ゴミ箱には白井の買って来たどら焼きの空き箱や、夕食で食べた出前のピザ箱の残骸が入っている。
つまり今は、あの日曜日の翌日の朝という事になる。
なるほど、それならば今のこの状況にも納得だ。何故二人が裸で抱き合って同じ布団で寝ていたのか。

要するに、事後である。

上条は幻想殺しでキャンセルしてしまったが、
これは深夜から明け方にかけて、色々ヤっちまった後なのだ。
そして二人は、そのまま服も着ないで就寝したらしい。
不幸中の幸いなのは、『繋がったまま』眠っていなかった事だ。
何が繋がったままじゃなかったかは、各自ご想像にお任せする。
電車とかネットとか歴史とか絆とか、世の中には繋がる物なんていっぱいあるよね。

だがそれはそれ、これはこれだ。
ぶっちゃけ、お互いにガッツリ見てしまった。
しかも体は成長していても、心はいつもの美琴で、いつもの上条だ。
その事実が余計に、

(うわヤバイどうしよう! 何かすんごいドキドキしてんですけど俺の心臓!?
 つかやっぱ未来の美琴、体つきエロすぎるだろ! けど手ぇ出す訳にはいかねーし……
 何なのこれ、拷問!? 拷問ですか!?)
(うわうわうわ! 見られちゃった…見られちゃったし、私も見ちゃった!
 いや、前にも見た…って言うかそれ以上の事もしちゃったけど、
 中身がいつものコイツじゃ勝手が違うわよ~~~っ!)

二人をドギマギさせるのであった。



~朝の風景~


「いっただっきまーす!」
「い…いただきます…」
「いただきます……」

あの日の朝【きのう】と同じように、半分体が勝手に動くかのように美琴が作った朝食。
麻琴は勢いよく食べ始めるが、両親はどこか元気が無い。
本人達としては、まだお互いにドキドキしているせいなのだが、
そんな事を知らない麻琴は素直に疑問をぶつけてくる。

「? パパママ、どうしたの? お腹痛いの?」
「あっ、い、いやそういう訳じゃないんだ!」
「そ、そうそう! ママもパパも大丈夫だから! ねっ、パパ!?」
「も、勿論!」

と言いつつ、顔を見合わせて「かぁぁ…っ!」と赤面しあうパパとママ。
あまり大丈夫そうではないが、麻琴は両親の言葉をそのまま受け取る。

「そうなの? んー…ならいっか!」

本当に素直な子である。

 ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘

「いってきまーす!」
「はーい、いってらっしゃーい」
「気をつけてな」

数十分後、ランドセルを背負った麻琴がリビングから出て行き、ママとパパはそれを見送る。
本日は月曜日。当然、小学生は学校へと行かなければならない。
国民の三大義務、勤労・納税・教育の一つである。
だがここに、その義務の一つを放棄しようとしている人物が一人いる。

「…あれ? そう言えばパパ、今日はお仕事お休みなの? いつもならあたしより早くお家出るのに」
「………へ?」

この家の大黒柱、上条当麻である。

「あ…ああ! うん、そうなんだ! 今日パパお仕事が無いんだな~! あはははははは!」
「え~? いいなぁ~」

ぶーぶー言いながら麻琴は家を出た。たった今パパが、大嘘を吐いたとは夢にも思わず。

「……アンタねぇ…」
「し、仕方ないだろ!? そもそも、この時代の俺がどこでどんな仕事してんのか知らねーもん!
 それに仮に職場に行ったとしても、
 これまでの経験【キャリア】がすっぽ抜けてる状態で仕事なんてできないし!」

で、取った行動が無断欠勤な訳だ。
確かに上条の言い分も一理あるし、それ以前にこの世界はあくまでも夢の中だ。
大事には至らないだろうとの結論を出し、美琴もそれを黙認する。

「…けど、これからどうしよっか? あのアロマの効果だから、この世界で眠れば元に戻れる…けど…」

美琴としては、もう一度この世界に来てみたくなってここにいる訳だが、
上条の中身が「いつものアイツ」であるという誤算によって生じたこの事態に、
「今すぐにでも帰れる」という選択肢を上条に与える。
本音を言えば、中身が「いつものアイツ」でも…いや、むしろ「いつものアイツ」だからこそ、
少しでも長くこの世界に留まりたいのだが、上条本人が困ってそうなので、そんな提案をしたのだ。
しかし、上条から帰ってきた言葉は―――

「んー…俺はもうちょっと、美琴と一緒にしたい…かな」

上条からの爆弾発言。
『一緒にしたい』という言葉で真っ先に思い出したのは、
あの日の深夜【きのうのよる】と今朝の出来事だ。美琴は瞬時に耳まで真っ赤にさせる。

「い、いいいい一緒にしたいとか何言ってんのよっ!!!
 そりゃ確かに今の私達は夫婦だし夢の中では一度経験してるけどその時とは状況が違うでしょ!!?
 でで、でもアンタがどうしてもってんなら私もやぶさかじゃないけどねっ!!?」
「ちょおおおお落ち着けええええ!!!
 い、今のは噛んだだけだ! 『い』たいと『し』たいを噛んだだけだ!
 『美琴と一緒にいたい』って言おうとして間違えただけだから!!!
 そりゃ俺だって出来る事なら美琴としたいなんて思わなくもないけど、
 それはほらアレがソレしてやっちゃ駄目じゃん!!?」

テンパりすぎて、とんでもない事を口走っている事にお互い気づいていないのだった。



~昼の風景~


上条と美琴は現在、家を出て街中をお散歩して【ブラついて】いる。
あのまま家の中にいると非常に気まずいから、という上条なりの配慮だったのだが、
朝の一連の『アレ』から気まずさが和らぐ訳も無く、

「……………」
「……………」

二人とも無言で歩いている。上条は美琴とは反対側に顔を背け、美琴は俯き地面を見ながら。
ただ共通点としては、二人とも顔を完熟トマトのように赤く染めているという事だ。

「ど…どこか入ろうか…?」

上条が勇気を出し、美琴に話しかける。対する美琴も一言。

「う…うん……」

会話終了。
しかしせっかくの上条の気遣いを無碍にするのも申し訳なく、今度は美琴が勇気を振り絞る。
美琴はそっと手を伸ばすと、

「っ! みみ、美琴さん!?」
「……………」

上条の右手を「きゅっ」と握った。その手は少し、震えていたようにも見えた。
美琴としては、これが会話のきっかけにでもなればと思っていたのだが、
やはり益々気まずくなるだけだった。それでもお互いに、手を離そうとはしなかったが。
二人とも反応はとても初々しく微笑ましいが、
見た目はアラフォーのベテラン夫婦【おじさんおばさん】である。

結局は、意味も無く一緒に歩くだけとなった。もっとも、それはそれで幸せなのかも知れないが。

 ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘

しばらく歩いていると、急に空が曇り出した。おそらく、上条の不幸体質が原因だろう。
雨もポツポツと降り始め、いよいよ本当にどこか店に入ろうと思った矢先、
いきなりどしゃ降った。所謂ゲリラ豪雨である。

「きゃっ!!!」
「うわ、やべっ!!?」

上条は反射的に、美琴の腕を引っ張り一番近くの店に入る。
しかしその直後、上条は死ぬほど後悔する事となる。
何故ならその店は、ピンクを基調とした外装に、無駄にカラフルな看板。そして店先の料金表。
ここはつまり、『ラブ』な事をする人達の為の『ホテル』である。

「おああああっ!!! ちちち、違うんだ美琴!!!
 ここ、これはただ雨宿りしようとしてそれで入ったらたまたまここで、
 だから…その……『そういう事』じゃないからっ!!!」
「わわわ、分かってるからっ!!! 『そういう事』じゃない事くらい分かってるからっ!!!
 『そういう事』して『そういう事』が『そういう事』になっちゃうなんて思ってないからっ!!!」

こちらとしては『そういう事』になった方が面白いのだが、今の二人には無理なようだ。
結局ホテルには入った二人だったが、特に何をする訳でもなく、
ひたすらベッドの上で正座するだけなのであった。
これがもし、中身も未来の二人だったら、きっと『そういう事』をしていただろう。



~夜の風景~


「う゛あ゛ー!」とおっさん臭い声を出しながら、上条は湯船に浸かる。
今日一日の疲れをお湯に溶かすように。
湯気と混ざるような溜息を吐くと、上条は今日という日を振り返った。

(…何か今日、やたらとドキドキするようなイベントが多かったな……
 けど今までもこういう不幸【ハプニング】はあったのに、何で美琴が相手だとこんなに―――)

上条が何か大切な事に気づきかけたその時、風呂場に乱入者がやってくる。
ガチャリとドアが開く音がしたので、当然、麻琴が入ってくるのだと思っていた。
いや、確かに麻琴はいたのだが、その他にもう一人。

「っ!!!? な、ななななな何でアンタが入ってんのよっ!!?」
「み、み、美琴こそ何してんの!!? つーか俺が先に入ってたんだけど!!?」

美琴だった。
幸いにもバスタオルで大事な部分は隠れていたが、本日二度目のラッキースケベイベントである。

「美琴センセー、何か今日はっちゃけすぎではありませんこと!!?」
「だ、だだだだって! 麻琴ちゃんが一緒に入りたいって言うから…
 てかアンタが入ってるなんて思わなかったし!!!」
「だってー! たまには三人で入りたかったんだもん!」

どうやら麻琴がちょっとしたドッキリを仕掛けたらしい。ある意味GJである。

 ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘

背中合わせで湯船に浸かるパパとママ。麻琴は二人の間にちょこんと座っている。

「……ねぇ、何でパパとママ、どっちも後ろ向いてるの?」
「い、いやその…な…何でかな~?」
「ホ、ホホホ、ホント何でなんでしょうね!?」

入浴剤を使っていないお湯は当たり前だが透明で、正面を向いたら『色んなモノが見えてしまう』。
故に背中合わせにならざるを得ないのだ。例えお互いに『色んなモノを見てみたくとも』。

そんな状態になるくらいなら、片方がとっとと風呂上がればいいじゃん、と言いたくなるだろう。
勿論上条も、美琴達が入ってきた瞬間にそう考えた。そして出ようとした。
しかし麻琴のしゅんとする顔を見ると、そう簡単に出る訳にはいかなくなるのだ。
麻琴は純粋に、パパやママと一緒にお風呂に入りたいだけなのだから。
結果、今現在こんな状況にあるのだった。

「そ、そろそろ体でも洗おうかな!?」

だがこの空気に耐え切れず、上条は洗い場に出る。
美琴もそれを見ないようにはしているが、実は横目でチラチラ見たり見なかったり。
が、ここで更に麻琴が面白イベントを発案してきた。

「じゃああたしとママが洗ってあげる!」

瞬間、美琴はザブンと湯面に顔をぶっ込み、上条は手にしたシャワーヘッドを頭に落っことした。

「なななな何を言っているのかな麻琴!!? パ、パパは自分の体くらい自分で洗えますぞ!?」
「そそそそうよ麻琴ちゃん!!! てか、何でママまで!!?」
「だって…やりたいんだもん……」

再びしゅんとする麻琴。上条も美琴も、やはりこの顔には弱い。
何だかんだ言っても、そこは麻琴の親なのだろう。

美琴は『あくまでも仕方なく』上条の体を洗う為に浴槽を出る。
別に内心では嬉しいやら恥ずかしいやら思っている訳では無い。
…と、本人は言い張るだろうから、生暖かい目で見守ってあげてほしい。

「いいい言っとくけど、これは『あくまでも仕方なく』だから!!!
 ま、麻琴ちゃんの為であってアンタの為じゃないからね!?
 べ、べべべ、別に内心
 『やーんもう、恥ずかしいけどちょっとラッキー! てか、夢が一つ叶っちゃった♪ 夢の中だけに』
 とか思ってないんだから勘違いすんじゃないわよっ!!?」
「お!? お、おう…」

…生暖かい目でね。
しかしここで、美琴はある異変に気づく。洗い場にボディタオルもボディスポンジも無い。
昨日(の夢)の時はあった筈だが…これではどうやって体を洗えばいいのか。

「…? 麻琴ちゃん、体洗うヤツ知らない?」
「え、何言ってんの? 昨日テレビで『体を洗う時は手でやった方がいい』っていうのを聞いて、
 ママが全部捨てちゃったんじゃない」
「………へ?」



麻琴から衝撃の一言。
正直、昨日(の夢)はそれ所ではなかったので、テレビの内容など全く覚えていない。
辛うじて、何かバラエティ番組を見ていたような気はするが。
だが今はそんな事を思い出している場合ではない。

「手えええええぇぇぇ!!!?
 そそそそそれってつまり私がコイツの体を直接洗わなきゃなんないって事おおおおおっ!!?」
「何ですとおおおおおおお!!!?」

美琴の大声に、上条も思わずつられる。
しかし麻琴はそんなパパとママに、不思議そうに首をかしげる。

「…? 駄目なの?」

夫婦なのだから駄目という事もないかも知れないが、
その絵面は完全に、『そういうお店』の『そういうプレイ』である。
だがそんな事はまだ知らない、心の綺麗な麻琴ちゃんは、更に無意識な大胆発言を繰り出してくる。

「しょうがないな~。じゃあ大きくて洗うのが大変な背中はあたしがやるから、ママは前をお願い」

前。つまり前半身。
そこを洗うには、どうやっても向かい合わなければならない。一糸纏わぬ姿のままで。

「「できるかああああああああっ!!!!!」」

二人は麻琴に向かって同時に叫んだ。
が、その時だ。上条の不幸スキルはそれで終わらなかった。
叫んだ時、上条は背中にいる麻琴の方へと首を向けた。
だがそこには当然、麻琴だけでなく美琴もいるのだ。もう一度言うが、一糸纏わぬ姿のままの、だ。

「っ!!!」

美琴は声にならない叫びを上げ、とっさに大事な部分を隠す。、

「なっ! 悪―――」

「悪い」、と言うその前に、上条はその場ですっ転ぶ。
無理な体勢になった上に、運悪く石鹸を踏んでしまったのだ。

さて、『この状況』で『あの上条』がすっ転ぶという事がどういう意味なのか、皆さんはよくご存知だろう。
ご期待通りだ。

上条は『何故か』美琴を巻き込む形で転倒していた。
最後にもう一度だけ言うが、二人とも一糸纏わぬ姿のままである。

「「っっっ!!!!!!!????」」

くんずほぐれつな二人が目にしたのは、お互いの『大事な部分』であった。
お互いのどの部分を見たのかは、各自ご想像にお任せする。
頭とか顔とか腕とか脚とか、人体には大事な部分なんていっぱいあるよね。

瞬間、美琴はついに限界を迎え「ふにゃー」する。
密着状態だった上条も、幻想を殺す間もなく漏電が直撃し、二人は仲良く気絶するのであった。



翌朝。
夢の中で気絶した美琴は、現実世界で眠りから覚める。

「…………………………」
「…? どうなされましたのお姉様? お目覚めしてからずっとポケーっとしていらっしゃいますが……」

美琴は言う。

「……黒子…私アイツにお嫁に貰ってもらう……あ…あんな事されたんだから、当然の権利よね…?」

白井には、美琴の身に何が起こったのかは分からない(とは言っても、想像するのは容易いが)。
しかしその言葉を聞き、より一層上条に対する殺意を深めるのであった。

 ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘

同時刻、とある高校の学生寮でも上条が目を覚ましていた。
鼻血をポタポタ垂らしながら起き上がった上条が真っ先に思った事は、

(……せ、責任…取んなきゃ…だよな……)

であった。


















ちなみに。
それから大分月日が流れたある日の朝。

「…ねぇ、アナタ。今日って『麻琴ちゃんを動物園に連れて行く日』じゃない?」
「あれ…今日が『あの日』なのか? じゃあ麻琴を起こさなきゃな」
「そ・の・ま・え・に!」
「はいはい分かってますよ。おはようのチュウしてくれってんでしょ?
 ったく、ホントにママはチュウ大好きなんだから……」

こうして今日も、とある家族の日常が始まる。









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