とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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ケロヨンとピョン子の、ほんのりデート




物の価値というのは、人によって変化する。
どう見てもガラクタとしか思えないオモチャでも、
コレクターにしてみれば何十万をはたいてでも欲しい…なんて事はざらにある。

そんなコレクターがここにも一人。
ご存知の方も多いと思われるが、御坂美琴は「ゲコ太」と呼ばれている
カエルのゆるキャラにご執心である。
つい先日も、ゲームセンター限定のゲコ太ぬいぐるみ欲しさに、
UFOキャッチャーで自分の超能力【チートわざ】を使い、同じぬいぐるみを3匹ゲットしたばかりだ。
これには流石の白井もドン引きであった。

そんな彼女はラブリーミトンの公式サイトの会員に登録しており、
新商品の情報は、随時携帯メールに送信されるようになっている。
そして今日も美琴のケータイには、ゲコ太グッズの新たな宣伝広告が送られて来た。
美琴はラブリーミトンからの着信だと分かるや否や、0.2秒でメールを開いた。
ちなみに次元の早撃ちは0.3秒である。どんだけだよ。

広告内容は、今日からオープンするという、シルバーアクセサリー専門店の記事だった。
その店でオープンセールが行われる訳なのだが、その中に、

「っ! ケ…ケロヨンとピョン子のペアネックレス…
 しかも20セット限定(売り切れ次第終了)ですって!? …ゴクリッ…!」

があるらしい。…が、生唾を飲む程の事ではない。
だがこちらのネックレス、どうやらお買い求めのお客様にはある条件があるらしい。
察しの良い方も悪い方も、この後の展開がおおよそ予想が出来るだろう。

「で、でも……カップル限定…かぁ……」

でしょうね。
美琴はこの展開に、いつぞやのペア契約の一件を思い出す。
そして未だに渡せていない、ハワイで購入したペアリングの事も。
こんな事を頼めるのは、『あの馬鹿』しかいない。
他に男友達がいないという理由もあるが、それ以前に『あの馬鹿』以外の男と、
ウソでも恋人のフリなどしたくはない…と無意識に脳が命令を出しているのかも知れない。

ツンデレな彼女だが、その内訳はツン7割:デレ3割とツンが勝ち越しており、
こういった事を頼むのは苦手な性格である。相手が『あの馬鹿』なら尚更だ。
しかし今は迷っている時間はない。
なにしろネックレスは、20セット限定(売り切れ次第終了)なのだから。
…心配しなくても、大人向けなシルバーアクセ専門店で、
こんな子供っぽい商品を買う客は中々いないと思うが、ゲコラーの美琴はそうは思っていないらしい。

店の場所は第22学区であり、今美琴がいる第7学区のすぐ隣だ。
当然、『あの馬鹿』の通う学校とも近い。
美琴は無意識に全速力で駆け出していた。『あの馬鹿』を誘い出す【ゆうかいする】その為に。



一方その頃、近くでそんな事が行われているなど夢にも思わない、暢気な少年が一人。
本日は実に晴れやかな気分だった。
上条にしては珍しく、今日は小萌先生の補習も目立った不幸もなく
(とは言っても「弁当を忘れる」、「何も無い所で転ぶ」程度のこまごました不幸はあったが)
平和そのもの(?)であった。

「ほな、またなー」
「さいならだぜい」
「おう、じゃあまた明日」

学友と挨拶を交わし、帰宅の途に就こうとする上条。
今日は時間にも余裕がある事だし、ゆっくりとスーパーで買い物ができそうだ。
…などと一瞬でも思ったのだが、校門から一歩足を出した瞬間、
彼のお買い物計画は無残にも泡と消える事となる。
そして今日一日大した不幸が無かったのも、今から起こるであろう不幸イベントの為に、
不幸力を温存していたのだと、よく分からないルール設定で納得する。

上条が「じゃあまた明日」と口に出した直後、彼はすでに土御門と青髪の目の前にはいなかった。
瞬間、『何か』が上条を掻っ攫い、そして風と共に消えたのである。
しかしながらその『何か』、一瞬だけだったが、『常盤台中学の制服を着た女の子』のようにも見えた。
一体どんな状況なのかも分からないし、そもそも目の錯覚かも知れない。
だが普段の上条を良く知る二人は、こんな証拠不十分な状況でも一つの確信をする。
そしてその確信は、二人が明日の予定を立てるには十分な物であった。

「……明日はカミやんの命日かにゃー」
「……せやね。クラス全員でシバき倒さな」

明日の上条は、確実に不幸な一日になりそうだ。



上条が引きずられて連れて来られたのは、第22学区だった。

「って、おかしいおかしい! 何か展開早すぎないか!?」
「うるさい! ちょっと黙って! お願いだから、少し気持ちの整理をさせて!」
「あれ、デジャヴ!? 前にもこんな事あったよね!?」

上条の目の前には、自分の腕を引っ張りながらここまで走ってきた張本人、
美琴が頭を抱えながら真っ赤になった顔をブンブンと振り回していた。
美琴は勢いに任せて上条と腕まで繋いで、店の前まで連れてきた訳だが、
いざとなるとやはり、恥ずかしくなってしまったようだ。難儀な性格である。
先程の行動も(彼女としては)かなり大胆だったようで、アドレナリンの分泌量が平常時となった今、
自己嫌悪モードに突入したのだ。もう一度言うが、難儀な性格である。

「はぁ……つーか美琴、何故にワタクシがこんな目に遭わなきゃならんのか、
 その辺の事を説明してはいただけませんかね?」

上条も慣れたもので、美琴がテンパっているのを察して、溜息混じりで冷静に聞き出す。
美琴も「うっ…」と口ごもった後、「実は―――」と今回の件を説明し始めた。



「…ふ~ん……要はそのゲ…ゲコ太だっけか?」
「ケロヨンとピョン子! ゲコ太はケロヨンの隣に住んでるおじさんでしょ!?」

そこは別にどうでもいい、と思わずにはいられない上条である。

「…まぁとにかく、そのネックレスが欲しいから、一緒に店入ってくれって事な?
 ったく…言ってくれれば普通に協力すんのに」
「だっ! だだだだって! そ、それってつまり……こ、こここ…恋…人…に…ごにょごにょ……」

後半、小声で何を言っているのか聞き取れなかったが、言わんとしている事は何となく理解した。
そして理解した上で上条は言う。

「いや、そんな今更…海原ん時とかペア契約とか、今まで散々恋人のフリしてきたじゃねーか
 それに20セット限定なんだろ? こんな所でグズグズしてたら、売り切れちまうかも知れないぞ?」

冷静に理論で諭す上条に対して、美琴は感情で対抗する。

「だっ、だだだ、だからって慣れる訳ないでしょ!? てかアンタは何で平然としてられんのよ!
 アンタにとって私との…こ…いび……と…………のフリはそんなどうでもいい事な訳!?」

無理やり連れて来ておいて、無茶苦茶な事を言う美琴である。
上条とて本当は舞い上がりたい所だ。
ニセモノとは言え、モテない自分(?)にコイビトができるのだから。
しかし肝心の彼女役がこの体たらくでは、冷静にならざるを得ないのである。
上条は再び溜息を吐いた後、今度は上条が美琴の腕を引っ張り、店に入る。

「わっ! ちょ、ちょっと!?」
「何かもう色々メンドクサイから、とっとと買い物済ませちまおう」

デート慣れしていない二人による、実にデートらしくないデートが開始された。



店に入った上条は、まずそのお値段に圧倒される事となる。
純銀で出来た商品達は当然ながらお高く、殆どの値札にはゼロが4つ以上表示されている。
シルバーアクセサリーと言えど本来なら安い物もある筈なのだが、どうも置いてなさそうだ。
店内を見回すと本日開店という事もあってか、意外と賑わってはいるが、
お客は霧ヶ丘女学院や長点上機学園など、エリート校の制服を着ている者が目立つ。
どうやらここは、庶民とは縁遠い場所らしい。思わず上条は、「うへぁ…」と声を漏らす。

「なぁ美琴…本当にここでゲコ…いやケロヨンか。を買え………あれ? 美琴?」

話しかけた上条だったが、美琴からの返事はない。代わりに顔を真っ赤にしながら俯いている。
見ると、まだ腕を掴んだままだったようだ。

「ああ、悪い。痛かったか?」

と、相変わらず「そこじゃねーだろ」とツッコミたくなるような、見当違いな優しさを見せる上条。
美琴も美琴で、腕を離されて微妙に残念そうな表情を作る。
その時だ。



「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

と、店員が話しかけてきた。

「あ…えと……あの、その………」

普段の社交性が高いミコっちゃんはどこへやら。
モジモジしながら口ごもる『彼女』を見兼ねて、『彼氏』がやれやれとばかりに助け舟を出す。

「あー…すみません。俺たち付き合ってるんですけど、
 カップル限定のカエルのペアネックレスってまだありますか?」
「あ、はい。ございますよ」
「ぶっふぉおい!」

余りにも自然に、しかも呆気なく『付き合ってる』宣言をする上条に、
美琴は思わず、そして盛大に吹き出した。
店員はそんな美琴の様子を、微笑ましそうに「くすっ」と笑いつつ、
例のペアネックレスをガラスケースから取り出した。

「こちらでよろしかったでしょうか?」
「あー、はい。これです………たっ!!!」

「たっけぇ(高ぇ)!!!」と口から出かかった言葉を、上条はすんでの所で呑み込む。
二つ1セットで、お値段29,800円。
このシンプルなデザインの、どこにこんなお金がかかっているのかと、
小一時間程問い詰めたいものである。やはりブランド力だろうか。
上条は学校を出た所で無理やり連れて来させられた為、こんな高額商品を買う金など無い。
この状況で年下の女の子に支払わせるのは、男として非常にかっこ悪いが、
無い物は無いので、仕方なく美琴にバトンタッチする。
美琴も元から上条に支払わせるつもりも無かったので、普通にカードを財布から取り出す。
埋まらない貧富の差に、泣きたくなる上条であった。



ともあれ、こうして無事(上条は若干、心に傷を負ったが)ネックレスを手に入れた美琴。
その表情は見事なホクホク顔をしており、
目は新しいオモチャを買ってもらった子供のようにキラキラさせている。
かなり喜んでいるようで、上条も恋人のフリをした甲斐があるというものだ。

「…良かったな。買えて」
「うん! アンタのおかげよ! ありがとう~♪」

心底嬉しそうにネックレスを見つめる美琴。
するとこのネックレスに、あるギミックが隠されていた事に気づく。

「…あれ? このケロヨンとピョン子、二つ横に並べると手を繋げられるようになってる」

実はこのペアネックレス、ケロヨンの右手とピョン子の左手が接合できるようになっている。
ペアアクセサリーならではのギミックだ。
恋人限定で売られていた事からも、「この二匹のカエルのように、手でも繋いで末永く爆発しろ」
的な意味合いでも込められているのだろう。
そこに気づいた美琴は、ケロヨンのネックレスを取り外し、

「……はい、これ。…きょ、今日のお礼に、ケロヨンの方はアンタにあげるわ」

と上条に手渡す。

「…え、でも……お前、これ欲しかったんだろ? つーか俺が持ってても―――」
「い、いいから! お礼なんだから素直に受け取りなさいよ!」

正直ケロヨンとやらに興味は無いのだが、せっかくのご好意だ。
ここは受け取っておく事にしよう。14,900円相当のカエルのネックレスを。

「じゃあ、まぁ…ありがたく」
「た…大切にしなさいよね……」

言いながら、ぷいっとそっぽ向く美琴。
一瞬顔が赤くなっているように感じたのは、夕日に照らされているせいだろうか。

「…ん? 夕日…?
 ってヤバっ! もう完全下校時刻じゃねーか! 美琴、走るぞ!」
「おわぁ! ちょ、ちょっと待っ!」

急いで駅へと向かう上条。その右手には、しっかりと美琴の左手が握られている。
まるで、どこかのケロヨンとピョン子のように。

物の価値というのは、人によって変化する。
慌てていた上条にとっては何でもない時間だったかも知れないが、
美琴にとってこの日の下校は、一生忘れられない思い出になったのだった。









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