終章その後 のっぴきならない悲鳴の後で
第七学区にある、とある病院。
その一室に入院している、とある少年の見舞いにやってきた美琴だったが、
イ 「大体、最初からとうまがちゃんと説明していれば、
こんな大怪我する必要もなかったかも知れないんだよガブガブガブ!!!」
上 「痛い! 痛いよインデックスさん!?
つか、説明する暇も無かったし、聞く耳も持たなかっただろ!!!
あと上条さん今、絶対安静で、しかも自分じゃ動けない状態なんですけど、
頭とか普通に噛り付くのはさすがにどうなんでしょうかそこんとこ!!!」
オ 「お、おい! それよりもこの猫をなんとかしろ!
完全に私をオモチャか何かだと勘違いして…ぎゃああああっ!!? 変なとこ噛むなっ!!!」
ス 「うみゃ~ん!」
この状況に困惑していた。
全身包帯と点滴や輸血のチューブと電極のコードでがんじがらめになりながら
ベッドに横たわる「あの馬鹿」と、
動けないのをいい事にその馬鹿の頭を容赦なくかぶりつく「あのシスター」。
その傍らには、そのシスターが連れていた「三毛猫」が、
「グレムリンのボス」によく似た、喋って動くお人形を口でくわえてプラプラさせている。
おそらく学園都市の最先端技術が詰め込まれたオモチャなのだろう。
その人形は『まるで本当に生きているかのように』、自然に動いていたのだ。
美 「え…? な、何これ…?」
病室に入り固まる美琴。
瞬間、抵抗する事すらできずシスターにひたすらかじられ続けていたあの馬鹿こと上条が、
バッチリ美琴と目が合い、即座に助けを求めてきた。
上 「み、御坂さん! ちょ、助けてお願い! 上条さんの頭皮がピンチなの!」
「美琴」と上条がその名前を口にした事で、シスターことインデックスは、
不機嫌な態度を更に不機嫌にさせながら、病室の入り口に目を向ける。
するとそこにいる短髪…の持っているお見舞い用のフルーツ詰め合わせが目に入る。
反射的に、インデックスの機嫌が急上昇する。助かったようだ。
美 「で、結局あの後、何をどうしてた訳?」
とりあえずフルーツをインデックスに渡し、ベッドの近くにあったパイプ椅子に腰掛ける美琴。
インデックスはバスケットの上の果物を貪っており、
どうやら上条への見舞い品は上条の口に入る事はないらしい。上条は不幸だとは思いつつも、
どの道、今の状態では何も食べられないし、と自分で自分を納得させる。
美 「アンタへの殺害依頼も取り下げられたし、大統領もあんな演説してたから、
とりあえず丸く収まったみたいだけど、あの女は…オティヌスはどうなったの?
それとアンタとオティヌスの間で何があったのか、全部ちゃんと説明して!」
美琴に詰め寄られ、後ずさりすらできない上条は、
上 「えっと…とりあえず顔が近いのですが」
と距離感にツッコむ。
気づけば美琴は上条の目と鼻の先まで顔を接近させており、その事を指摘されて慌てて引っ込む。
一気に顔を赤く染めながら。
が、美琴だって黙って攻められる訳ではない。こちらが赤面した事を追及させる前に、
美 「は、はは、話そらすんじゃないわよっ!///
きょ、今日という今日は、詳しく話してくれるまで帰んないからねっ!」
先手を打った。
まぁ、確かにいつまでもこのままという訳にもいかないだろう。
美琴はグレムリンとの戦いに大きく関係している。
なのでまずは、一番気になっているであろうオティヌスについて説明したのだが、
上 「オティヌスならほれ、そこでスフィンクスと戯れてるよ」
美 「………へ?」
それが更なる混乱を招く。
スフィンクスというのは、この三毛猫だ。そして戯れているのは、オティヌスそっくりのお人形。
全長15センチ程のその人形は、
ギャーギャーと喚きながらスフィンクスの顔面をポカスカと殴っている。
そしてスフィンクスは、そんな事を意に介さずに、口にくわえたまま『それ』をブンブン振り回した。
オ 「うわっ!? ちょ、やめっ! 目がっ、回っ…………うっぷ」
上条の言葉を鵜呑みにするならば、つまり、この猫に振り回されて吐き気を催している人形が、
美 「ホン…ト…に……オ…オティヌス…なの…?」
上 「うん、そう」
美 「だだ、だって! 何かちっちゃいわよっ!?」
上 「うん、何かちっこくなった」
美 「ちっこ………」
美琴の思考が停止する。
以前、同じくグレムリンの構成員だったサンドリヨンという少女も身体を小さくしていたが、
そんな比ではない。身長が15センチに縮むというのは、あまりにも突拍子がなさすぎる。
「小っちゃいって事は便利だね」、なんて言っている場合ではないのだ。
美琴は人差し指を額に当て、難しい顔をしながら整理する。
美 「あー、えー…ちょっと待って。マジで待って。んー……うん。ごめん、やっぱ訳が分かんない」
学園都市第三位の演算を使っても、分からない物は分からないのだ。
なのでとりあえず、自分の分かる所から情報を探り出す。
美 「えっと…じゃあ私と別れた後の事を、順番に説明してくれる?」
だがその時だ。この男はまたもや余計な一言を発するのである。
上 「御坂と別れた後…? ああ、御坂が俺を抱き締めた後の事か?」
その一言に、フルーツを食べ終えたインデックスと、
スフィンクスからなんとか逃げ出せたオティヌスが、一斉に上条を睨みつけた。
一方、美琴は再び顔を紅潮させる。
しかしそんな三人の変化に気づかないこの鈍感男は、普通に話を続ける。
上 「あの後はオティヌスと二人でフレデリシアって街に―――」
だが当然、スルーできる訳もなく、
イ 「ちょーっと待つんだよとうま…短髪に抱き締められたって何なのかな…?」
オ 「おい人間…私が戦車【あし】を探している間に、
キサマはそこの女とイチャついていたのというのか…?」
何故か不穏な空気が立ち込めたので、美琴も慌てて訂正する。
美 「イ、イイイ、イチャ、イチャつくとかそそそそんなんじゃないからっ!!!///
あ、あ、あれはそう! その馬鹿を気絶させる為に仕方なく……///」
が、それは彼女たちの火に油を注ぐ結果となった。
オ 「ほう! そうかそうか! キサマはこの男を気絶させた後、
あれやこれやと好き勝手したのかほうほう!!!」
美 「そ、そそそそこまでする訳ないでしょっ!!?///」
イ 「そ、そ、そんなの自慢にもなんないかも! 私だって、今回とうまに胸を触られちゃったんだよ!」
美 「んだとぉっ!!? …へ、へん! そんなの私だってあるもん!」
「あったっけ?」と首をかしげる、事件の中心人物でありながら現在は蚊帳の外にいる少年・上条当麻。
その出来事は上条的には、変装したトールだったと思っているので、記憶にございません状態なのだ。
だが一つ気になる事がある。
上 「……なぁ御坂。『そこまでする訳ない』って事は、多少は何かしたのか?
俺が目を覚ます前に」
ピシリ、と空気が凍りついた。
一瞬の静寂の後、何が起こったのかは説明するまでもないだろう。
一人の少女が「ふにゃー」し、二人の少女は大暴れして、一人の少年が不幸な目に遭っただけの事だ。
もはや、グレムリンやら滅んだ世界の事やら、説明しなくてはならない事の山積みを、
片付けられるような状況ではないのであった。
ちなみに、
『初めて勝てたけど……思ったよりも虚しいわね、これ』
と上条が耳にしてから、彼が目を覚ますまでの時間、果たして『何』が起こったのか。
それを知っているのは、当の本人の美琴だけなのである。