小ネタ フォークダンスを踊り踊られ
この状況は一体何なんだろうか。
「お嬢ちゃん。これから俺とフォークダンスしないかにゃー?」
「あ、えっと」
上条の目の前には、土御門に絡まれている美琴という、奇妙な構図が出来上がっている。
今回の大覇星祭では上条と美琴は同じ紅組であったし、魔術師の侵略とか木原の野望とか学園都市の壊滅を目論む復讐者とかもいない、健全で平和的な能力者の祭典であった。
そして今、何故土御門が美琴に絡んでいるかと言うと、ナイトパレードで一緒に踊る相手がいないところをたまたま見かけたからだ。本当に見知らぬ人間であったのなら土御門がここまでする理由はなかったのであろうが、上条と知り合いであったのが最大の理由だろう。
ちなみに青髪ピアスはそこらでナンパ中。今のところ全戦全敗である。
土御門の誘いに、美琴としては珍しくなあなあで済まそうとしている。自分の知り合いだからあまり気分を悪くさせたくないのだろうか、などと上条は考える。
(そんなの気にしないでさっさと断われよ)
上条は、自分でもわからないがそんな思いが頭をよぎった。
そんな上条に気づいて、土御門はニヤニヤととても意地悪そうに言う。
「おやぁカミやん。そんな顔して、ははーん。もしかしてこの娘に気が有るのかにゃー?」
「……そんなわけないだろ。それに美琴も、断る気が無いんだったらさっさと行けばいいだろ」
そんなとこ微塵も思っていなかった。だけども今まで感じた事のない気持ちに襲われてつい口にだしてしまった。
「そうね。アンタは私と踊る気は無いし、私も嫌だなんて思ってない。私、お誘いありがとうございます。先に行ってますから」
とても怒りながら美琴は、フォークダンスを踊っている男女の中へと入って行った。
「いいのか?カミやん」
「お前が誘ったんだろ。早く行けよ」
「じゃあお言葉に甘えて――――うおっ!」
ズデン!と何も落ちてない地面にわざとらしく、大げさに転げこんだ。
「うおー転んだ拍子に足をくじいてそのショックで屋台の食いものがアタッて痛くてどうしようもないにゃあ!」
「…………何やってんだよお前」
どこからどうみても演技。それも本当に演技だとわかるように。
(何を考えてんだ?)
「あーこれじゃあダンス踊れないにゃー。カミやん」
「何だよ」
「これじゃああの娘に悪いから、カミやん代わりに行ってくれないかにゃー」
「は?何でだよ」
「行くよな?」
殺気を放ちながら「どんちゅ?」と問いかける土御門に、
「い、いえすあいでゅー」
としか言えなかった。
(あーもう!!)
土御門は本当に何を考えているのかわからない。
一体何の目的で自分と美琴を誘導しているのか。
「ア、アンタ」
上条は美琴を見つけると、何も言わずに美琴の腕を掴むと、中央の男女の中に混じっていく。
フォークダンス自体がわからないわけではないが、どうしても手足が固まって思うように動かない。
流れている曲は1年前美琴と踊ったのと同じであった。
曲が中盤まで流れた頃、口を開いたのは美琴であった。
「本当は、アンタに止めてほしかった」
「え?」
「本当はアンタと踊りたくて、ずっと探してて、でもアンタ、私が絡まれてるのにまったく止めてくれなかったからムキになって、ごめん」
美琴の告白に、上条の心は晴れた。
「俺も、美琴が土御門の誘いをちゃんと断らないからいらいらしてた。ごめん」
「ううん。ねえ、せっかくなんだし、もっと楽しみましょうよ」
「そうだな」
手足が軽くなったのがわかった。
美琴と踊るのが楽しいと、心から感じられるからだ。
そんな2人を遠くから見守るもう一組の男女。
「いやー上手く行きましたね」
黒髪の少女は微笑ましい顔で。
「禁書目録には悪いけど、カミやんには幸せになってもらいたいからにゃー」
目的は違う。
考えてる事も違う。
けれども2人は共通してある物を持っている。
ビデオカメラだ。