イヤだ
「……いや、すまないね」
「気にしないで」
とある研究室は段ボールだらけだった。
そこにいるのは木山春生と御坂美琴。
ついに教員として働くことになった木山は、研究所の私物を新居に移動させていた。美琴たちはその手伝いである。
風紀委員の二人は後で合流。春上や絆理、佐天は新居の掃除をしているはずだ。
美琴としてはここよりも家でインデックスたちと遊びたかったのだが、半円の形をした上条の目にしぶしぶ出てきたのだった。
まあ、白井たちと遊ぶのも久しぶりだし、木山が教員になったのは本当にうれしいため、文句はまったくない。
いや文句が1つあった。
「しかし、暑いわね」
8月の夏真っ盛り。
でも埃対策で窓は全開。
電気は解約済みでエアコンは使えないのだった。
やってられないのである。
置いてあったクーラーボックスの中のコーラを1つ拝借するくらい許して欲しい。
蓋を開けて一気に口に注ぎ込む。
「っ!! まずっ!!!!!」
口の中で納豆ときな粉とブドウが大戦争している味がする。
いちごおでんのほうがまだましなのだった。
「な、なによこれ~~」
「ん?」
隣の部屋から段ボールを抱えて出てきた木山は、しかめっ面した美琴を見る。
ガシャン という音が響いた。
木山が段ボールを落とした音である。
中身は大丈夫か?
なんて美琴は考えるが、
木山の動揺した表情を見て?が頭上に浮かぶ。
しかし、次の木山の発言で、顔を木山以上に真っ青にするのだった。
「ま、まさか、それを飲んだのか!!?」
「成果なし……か」
上条宅で、携帯のメールを見て上条はぼやく。
インデックスを元に戻すために世界を走り回ってるステイルからの連絡だった。
今日も成果は無かったらしい。
とはいえ、実は上条はこのままでもいいような気がして来ていたのだった。
上条にとってみれば、そんなに状況は変わっていない。
十何年かすればインデックスもどうせもとに戻るし。
死ぬわけではないようだし。
「……ま、コイツ自身が望んでないかもしれないけどな」
ひょい とインデックスを高い高いする。
自分の幸せと、彼女の幸せが一緒とは限らない。
……ん? 自分の幸せ?
何かがひっかかったが、インデックスの声に意識がそれる。
「まぁ、まーま?」
「ん? ああ、ママはお友達と遊んでるぞ」
高い高いしていた腕を戻す。
「中学3年の夏休みは1度きりなんだ。友達と遊ぶのだってさぼっちゃいけないだろ」
上条も一緒にいたいという気持ちはわかるのだ。
しかし、今しかないこの夏を、きちんと満喫してほしい。
「15歳の夏が二度あるわけじゃないんだ。できることはやっておきなさいよー」
上条はここにはいない少女にやさしく、囁くのだった。
が、
その静寂は、ドアを思いっきり開ける音でぶち壊された。
駆け込んできたのは。
「大変!! 当麻!! わたし、このままだと赤ちゃんになっちゃう!!!」
なんか一回りちっこくなった美琴なのだった。
彼女はもう一度15の夏を経験する裏技を発見してきたらしい。
涙を浮かべる美琴と、
いびつな顔で固まる上条。
そしてそんな状況もきゃっきゃと楽しむインデックス。
上条の例の言葉がむなしく響いた。
イヤだ 2
ベランダで小鳥がさえずる。
夏はもうすぐ過ぎ去り、秋になるのだが、
日差しはまだ優しくない。
8月はだてではないのだった。
上条宅から声が響く。
「いやぁ、すまないすまない。まさか君が飲んでしまうことになるとはね」
はっはっはっはっはという笑い声の後に、ゴンッという鈍い音が響く。
小鳥は驚いて逃げてしまった。
「……年上にげんこつとは、なかなか教育がなってないね」
床に倒れ伏し、たんこぶができているのは、木山春生。
それを見下ろすはどす黒いオーラを纏った上条当麻。
その腰にしがみつき、暴力はだめー と叫ぶのは小学6年生くらいの御坂美琴。
その横で まーまっ とはしゃぐのはインデックスである。
「人様に迷惑をかけてはっはっはと笑うやつに教育云々は言われたくねーよ」
まったくである、しずしず、と起き上がる木山に、胡坐をかく上条。
毎回思うのだが、ソファーとかテーブルといすとかあるのに、
なぜこいつらはフローリングに直に座るのだろうか?
「で、美琴は何を飲んだんだ?」
「『ワカガエールZ』だ!!」
「名前を聞いたんじゃねえ!!」
ドヤ顔が腹立たしい。
「彼女が飲んだのは、若返る薬だ」
「そ、そんなものが!!?」
木山の表情に影が入る。
「……君たち、この場所がどこか忘れたのかい?
ここは……科学最先端の街、学園都市だ」
「……こんなところで無駄にシリアス顔すんな」
ちゃっかりBGMまで変わってた。
「そ、それで、なんでこんなもの作ったの?」
「……君に、暗部(三十路)に片足を突っ込んだ私の気持ちがわかってたまるか!!」
「暗部をバカにすんなよ。……副作用は?」
「ないよ。あのカエル顔の医者も手伝ってくれたからね。
本来薄めて使う物だから、効き目は大きく出たようだが」
「「なにやってんだよあの医者は!!!」」
「細胞の若返りは多くの医療に応用が効くらしいからね」
「「すんませんでした!!!!!」」
「あと、看護婦に飲ませたいとも言っていたな」
「「謝って損したよ!!!!」」
二人がハモるたびにインデックスが喜ぶのだった。
「で、いつ元に戻るの?」
沈黙が走る。
正しく (^▽^) という表情を一瞬した三人。
「「ふっざけんじゃねぇぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」」
そして上条と美琴は木山の胸倉をつかみ怒鳴った。
「ま、待ってくれ、あのカエル顔の医者なら知っているはずだ」
「「じゃあその滝のような汗を何とかしろよ!!」」
「私のランボルギーニに任せてくれ。1時間で戻ってくるよ」
そういってやつは出ていった。
「1時間かぁ」
しょぼくれる美琴。
「まあ、1時間に3つ若返るって感じなら、赤ちゃんにはならずに済むだろ」
「あ、頭をなでるな!!」
「いやー、小学生のみこっちゃんが可愛くてな」
「まべ!!??」
「あう? まぁま?」
赤くなる美琴、
ほんわかしている上条
ようやくママの様子がおかしいことに気づいたインデックス
こんなトラブルにまったく動じない上条家なのだった。
「ま、それじゃいつか制服がブカブカになるだろ。
インデックスの服ならちょうどいいのあると思うぞ」
そういってクローゼットに向かった上条に、てくてく着いていく美琴。
てちてちインデックスもハイハイで追いかける。
しかし、上条がクローゼットを開けたところで、
「お姉さま!!!!!!」
という声が ドガン というドアの音とは思えない音とともに響きわたる。
(白井!!?) (黒子!!?)
もし、今のレベル5ではない美琴が彼女の目に写ったら……?
((ま、マズイ!!!))
この点だけ、白井に対する信頼なんて皆無なのだった。
思考は0.1秒で済み、
上条はすぐ対策をとる。
「へ?」
「ふん!!」
美琴を全力でクローゼットに投げ込んだ。
こちらもズドンという凄い音が響く。
一瞬ビクついたインデックスは少しして
「だうー」
と口にした。
「なんですの今の音は!!!!?
……なにしてますの? 上条さん?」
慌てて飛び込んできた白井は、
立っては倒れ、立っては倒れを繰り返す変態の姿を見た。
「何って、受け身、の練習、だよ、また、いつ、誰に、ふっとば、されるか、わかんねぇ、からな」
「……なるほど」
納得されるのもそれはそれで悲しい。
「ふぅ、で、なんのようだ?」
「実は、木山先生がめでたく教員になられまして、その片付けを皆で手伝っていましたの。
ですが、木山先生もお姉さまもどこかに行ってしまっていまして」
初春たちは代わりに作業を続けています。
と、彼女は締めくくった。
予想以上に荷物が少なく、作業はすぐに終わるという。
「あー、さっき病院から電話があってな、実験品に誤って触れちまったから、先生に付き添ってもらって一応検査するんだと」
さすが記憶喪失を隠し続けた男。
見事なフォローだ。
「おかしいですわね、ここからお姉さまの気配は感じますのに……」
普通に怖い。
こんな厄介な時に限ってめんどうとは重なるものである。
「こんにちは、かみじょう、みさか」
「おっす!! 大将、いい酒が手に入ったからお裾分けに来たぜ!!」
間が悪いにも程がある。
「……未成年飲酒??」
「ち、違いますよ風紀委員様!!
父への贈り物の話でしてよ!!
ねぇ、あなたもそうでしょ浜面さん!!」
「え? えぇそうでがんすよ!!」
「なーんだ、そうですの、チッ」
「……舌打ちはなぜ?」
「そりゃ、あなたをしょっ引けませんもの、
いくら私でも大義名分は必要ですので」
「……そりゃまじめですこと」
傍観していた滝壺が瞬きを数回した後にようやく口を開いた。
「……そういえば、しらいはなんでここにいるの?」
「私は美琴お姉さまを探してここまで来たんですの。
でもここにはいないようでしたので、引き返すところです」
「え? でもみさかなら……」
ゆっくりクローゼットに視線を動かす滝壺。
(ヤバイ!!!!!)
AIMストーカーを前にして、上条は緊急対策を行った。
「あー!!! そういえば滝壺、この前郭から聞いたけど、
浜面のやつ無理やり道端で郭を脱がせたんだと!!!!!!!!」
ビッシィィィィイイイイイイイイイイイイイ!!!
と空気が固まる音がした。
「ちょ、大将!! 急に何言ってるんだよ!!
あれはアイツが勝手に脱ぎだ「はまづら……」!!!!!!!!!??」
浜面は言わずもがな、上条と白井もおびえる。
声には発せられなかったが3人には滝壺の口の動きだけで、
なぜか意味を理解できた。
ブ・チ・コ・ロ・シ・カ・ク・テ・イ・ネ
「い、いやだ~~~~!!!! た、大将てめぇおぼえてやが」
浜面は引きずられていった。
セリフの途中で閉められたドアが哀愁を感じさせる。
「……し、白井……」
「い、嫌ですの、私は死にたくありませんわ!!」
意外と風紀委員も冷たかった。
「……じゃ、じゃあもう用は済んだだろ?」
オレの顔なんて見たくないんじゃねーの?
と言ったら、
そうですわね。
と答えられた。
こだまでしょうか?
「……でも、お姉さまオーラはまだ消えてないですし……」
もう、ホントこいつなんなの!!?
そこで来客PARTⅡ!!
「お姉さま!! 遊びに来たよーー!! ってミサカはミサカは元気にドアを開けてみる!!」
「おねーたま!! で遊びに来たよ~!!」
(帰れ!!!!!!!!!)
とはいえないカミやんだった。
「「げっ、黒子(さん)」」
「あら? わる姉さまにロリ姉さま」
「……それ、定着させる気? ってミサカはミサカはちょっとした恐怖に震えてみる」
「……作者のセンスの無さがうかがえるね」
「そんなことより、さぁ!!! 私を抱きしめてくださいなぁ~~~~~!!」
そうして白井は飛びついた。
「あら? わる姉さまにしては薄い胸、ロリ姉さまにしては背が高いような……?」
様子をうかがいに来た真っ白な男に。
「あ、あなたは第一位さま!!!!!」
若干影が入った無表情で一方通行は白井にチョップを落とす。
「うっ」
能力を使ったのだろう。
一瞬で気を失った白井を一方通行は玄関から空に向かって
凄い勢いで投げたのだった。
「……どこに投げたの?」
「わかんねェ、嫌悪感が酷くてよ。学園都市から外までは飛んでねェと思うが」
「さいで」
まぁ、助かった。
「で? おねーたまはなんでこんなとこ入ってんの?」
助かってなかったぁぁぁぁぁぁあああああああ!!
電磁波の関係でわかっちゃうのである。
こいつもやっかいだった。
このままでは美琴がこの性悪妹のおもちゃになってしまう。
しかも自分を巻き込む最悪の形で。
だから、上条は対策を打った。
「あー!! 今ふと一方通行が結標に抱きしめたいとかパンツ見せてくれてありがとうと言ったっていう話を思い出した!!!!!!!!」
ビッシィィィィイイイイイイイイイイイイイ!!!
と空気の固まる音がした。
「は? ハァアアアア!!!? 何いろいろすっぽ抜けた話をしてやが「……アナタ」「第一位」!!!!!?」
「帰ろう。アナタってミサカはミサカはうつろな瞳であなたに笑いかける」
「ギャハハ、どういうことなのか、教えてもらいたいんだけど?」
「ち、違ェ!! これには「代理演算OFF」!!!??」
「そうじゃないよね? 第一位」
「帰ろうって言ったんだよ? どう返事すればいいのかな? ってミサカはミサカはやさしく微笑んでみたり」
「……カっっっ、じィ、KO、まっ、ィり、まぁあ、SHI,ィだっっっ……ッ!!!???」
あわれ第一位は引きずられていく。
ドアが閉まる前に見えた彼の眼は、恐かった。
何はともあれ美琴を助けることには成功したのだった。
しかし、クローゼットを開けると、彼女は目を回していた。
あちゃー強く投げすぎたか?
とか思った上条はようやく気付く。
美琴はまた一回り小さくなっていた。
「あれ? 1時間とかもうたってね?」
灼熱の天気の中、木山は足元を見下ろしている。
自分の愛車のタイヤを、だ。
見事なパンクである。
「仕方ない。歩いて病院に行くしかな「はいはーいそこのあなた!!!」??」
振りかえるとそこにはモデルのような女性が立っていた。
知り合いではない木山は首をかしげるが、その瞬間手錠がはめられる。
「? ちょっとまってくれ、これはなんだい?」
「やったーーーー!!!」
「説明ではないね」
「これで、取り調べという名目で屋内に入れる~~!! もう、愛穂っちはホントまじめなんですから」
「なんで私が取り調べを受けなければいけないんだい?」
「猥褻物陳列罪ですっけ? それ女性も適用できたっけ?
まあ、路上で服脱ぎ出したら手錠はめられても仕方ないでしょ」
「しまったな、今急いでい……」
全ては夏の暑さが悪い。
イヤだ 3
あれから5時間がたった。
『もう!! めちゃくちゃ痛かったんだから!!』
結局、木山先生は戻ってこない。
『こうやってみると、あんたっておっきいわねー。
これがインデックスからのしてんなのよねー』
本当は自分が動けばいいのだ。
『だいとーぶよ。 きっとなんちょかなるから』
赤子になった彼女を抱えて病院に走ればいい。
『きやまてんてーやゲコ太てんてーがなんちょかしちぇくれりゅから』
しかし、それだと、木山先生と入れ違いになったり、
道中で魔術師に襲われる可能性がある。
『……らかりゃ、ちょんな、かなしそうなかお、しにゃいれ ……』
違う。
怖かったのだ。
あの凄腕の医者が、首をふるところを見たくなかったのだ。
夕日が差し込む室内。
インデックスは美琴と遊び疲れて眠っていた。
その隣。
赤子になった美琴がカエルのぬいぐるみで遊んでいる。
これ以上は小さくなるような気配はない。
しかし、戻る気配も全くなかった。
上条は膝をつき、美琴をそっと抱き上げる。
夕日が彼女の瞳を照らした。
「あー、とー、あう」
そして、座ったままの姿勢で、そのまま抱きしめる。
最初は優しく抱いていた。
「大丈夫だ」
しかし、少しずつ力が入る。
「大丈夫だぞ、美琴」
(……)
「12年なんて、すぐだ」
そんなに、状況も変わっていない。
「周りも最初は驚くだろうけど、すぐ迎え入れてくれるよ」
(…………)
電撃がないぶん平和かもしれん。
「逆に美鈴さんなら喜ぶかもな。
私も若返った気がするとか言ってさ」
ワガママに振り回されずに済むし、
(……………………)
「白井は怖いなー」
部屋はゲコ太に埋めつくされずにすむ。
(…………………………………………)
「リアル源氏物語とか言ったりしてな」
あ、家事は分担できなくなるのか。
(……………………………………………………………………………………イヤだ)
「……もう、いっそ、二人とも、オレが育てようか?」
買い物の荷物も1人で持たなくてはいけない。
(…………………………………………イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ)
「…………インデックスと同じように、パパなんて、呼んだりしてさ」
二人で料理することもない。
(……………………イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ)
「……………………将来、パパと、結婚、する、なんて言って」
一緒にインデックスを心配したり、
(…………イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ)
「…………………………………………オレが、守る、から、大丈」
この前のように、ともにインデックスの成長を喜ぶことはできない。
(イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ)
「……………………………………………………………………………………イヤだ」
「……美琴とこれから、一緒に同じ道を、歩けない、なんて……」
そんなの、
「イヤだ。イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
そして
ポンッ と美琴は元に戻った。
上条は、目に涙を浮かべたまま、パチクリと瞬きする。
美琴も、自分の顎を上条の肩に乗せた状態で、パチクリと瞬きする。
美琴は正座した上条の膝の上に、またがるように座っていた。
そして、元に戻る前に、上条が美琴に何をしていたかというと、
抱きしめていたのである。
更に着ていた服は、おむつと赤ちゃん用の、着脱が簡単な押してはめるタイプのボタンの奴。
つまり、大きくなるときに、簡単に脱げてしまい、
今、美琴ちゃんは丸裸なのだった。
しばらく、二人は状況が飲み込めてなかった。
しかし、少しずつ顔色を変えていく。
「なに、してんのよ!!! アンタ!!!!」
「ちょっと!! 不可抗力なのわかってるザマショ!!?」
「動くな!! ぜ、全部見る気か!!!」
「とはいっても胸部にそのなんかやわらかーな感触がありまして、そっちは放置でヨロシイザマス!!?」
「……いっそ、死ぬ?」
「こっわ!!!!!!!!」
「二人とも!!! 遅くなって済まない!! あの薬は6時間しか効果がないことがわかっ……わ、わるい、お楽しみの最中とは思わなかったから、それでは、私は帰るよ」
「っおーーーーい!!なに誤解……ってなんでアンタも下着姿なんだよ!!」
「動くなって言ってんでしょこのドスケベぇぇえええええ!!!」
「へべけろっ」
インデックスがべそをかきだす10秒前。
学園都市の壁の前に影がうごめく。
「ようやく、戻って来たな」
「にゃ~」
「つい、この間来たばっかりなのに、懐かしささえ感じるぜ」
その言葉を聞き、オティヌスの表情に、笑みが浮かんだ。
猫の上でドヤ顔する元ボスをほほえましく眺めるトールに対し、
ちょっと珍しいものを見た気分に浸って、
今回のお話は終わらせていただく。
おまけ!!
はたと、気がつく。
いったいどうしたのか、記憶が混乱している。
1つずつ記憶を整理するとしよう。
とりあえず、昨日は長身の侍女に酷い目にあわされ、
今日は朝からあの天使を探していたはずだ。
そうだ。その時急に頭頂部に衝撃がはしったのだ。
何かが落ちてきて頭に当たったのだろう。
そこで意識を失っていたようだ。
「憤然。なんなのだ」
茂みの中でアウレオルスは上半身だけ起き上がる。
「???」
すると、目の前、つまり足の上には少女が横たわっていた。
頭をわしづかみにするなんて優しくない形で持ち上げる。
彼女の目は渦になっている。
あごに手を添えてめぐらせる思考。
このツインテール、どっかで見たような気が?
その思考は、
「……ふ、婦女暴行!!?」
という声に遮られる。
声の方に顔を向けると、眼鏡をかけたおどおどした感じの警備員がこちらを見ていた。
彼女が言った言葉の意味を考えながら目を回した少女の顔を見る。
あ、誤解だ。
「!!!! 愕然!! 違う!! コイツが空から降ってきて、偶然、私の頭にぶつかり、先ほどまで私も気絶していたのだ!!!」
「空からって……ウソが下手すぎる。連行します」
「驚然!! 誤解だーーーーーーー!!!」
「ん? 確か、アウレオルス先生、だったかな?」
「唖然。そういうあなたは新任の木山先生」
「……変態大集合ですな、綴里っち」
「黄泉川せんせえええええい!! 早く電話にでてくださああああああああい!!」
おまけ!!
「ったく、もう少し穏便にできねーのかてめーは!!!!」
洗い物をする上条の左頬には鮮やかな紅葉があった。
もうすぐ秋だね。
「うっさい!! 当麻が悪いんでしょ!!」
一方、美琴はインデックスに添い寝していた。
あの後、あまりのやかましさに起きたインデックスが号泣。
急いで上条があやし、
美琴は服を持って脱衣所に駆け込む。
木山先生は通りがかった黄泉川先生に再び説教されたのだった。
上条の文句はブツブツと続く。
「まったく、その短気なとこをもう少し直せばさぁ……」
なんだというのだ。
「???」
とにかく、悔しいことに、彼女が作った夕飯はうまかった。
「…………美琴」
「なによ? まだなんか文句があんの?」
「いや……元に戻ってくれて、良かった」
「ふぎゃ!!??」
不意討ちの笑顔だった。
美琴の顔が上条の頬にある手形と同じ色に染まる。
言葉は無く。ただ見つめ合う二人。
そうして上条家に広がったピンク色の空間は、
ドカァァァアアアアン
というドアの吹き飛ぶ音で霧散した。
上条が驚くと同時に、彼の左右の肩にポンッと手が置かれる。
「やぁ、大将、遺言の準備はできてるかい?」
ゾッと背筋が震える声だった。
「三下ァ、オレはイロイロてめェに感謝してんだよ。
冥土の土産に恩返しをさせてくれるよなァ」
地獄の底から響くような声だった。
「み、美琴さん……ヘルプ!!」
「う、う……ん?」
起き上がり、片手を挙げて、二人の悪鬼に声をかけようとした美琴が、ふと動きを止めた。
あれ?
アイツおもいっきりクローゼットに自分を投げたんではなかったか?
自分の裸を見た挙げ句、木山先生の下着姿を見て、鼻の下を伸ばしてなかったか??
いや、それでも彼は自分のために動いてくれたのだ。
自分のことを思っての行動なのだ。
だから、少女は静かに微笑み、
「逝ってらっしゃい」
と死刑宣告を告げた。
「ちょ!!? 美琴!! なんで!!? い、嫌だ、死にたくない!!ふ、不幸だああああああぁぁぁぁぁ」
少しずつ声が遠のいていく。
ため息を吐く美琴は、彼の情けない顔をみて、少しせいせいした。
そして、ふと記憶の片隅にある、彼の別の表情を思い出す。
「……………………」
あんな表情をするなんて思えない。
自分の記憶の誤りかもしれない。
でも
「……当麻のあんな顔、もう見たくないな」
彼女はぽつりと、インデックスの頭を撫でながら呟くのだった。