とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

467

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

誕生日と贈り物と秘めた想いと込められた意味と




本日は5月2日。郵便貯金創業記念日であり、
野茂英雄が大リーグで初登板した日であり、レオナルド・ダ・ヴィンチの命日であり、

「はぁ…重いわ……」

そして御坂美琴の誕生日である。
美琴は両手に大量のプレゼントが入った紙袋をいくつも持ちながら、
よったらよったらと歩いている。
今日は、クリスマスとバレンタインに続く、美琴にとっての3大憂鬱日の一角なのだ。
後輩達から慕われるのが嬉しくない訳ではない。
しかし慕われすぎるのも考え物で、このように一人の許容量を超えるプレゼントを貰ってしまうのは、
嬉しさも一周回って困るのである。
その上、白井の様に美琴へ尊敬や敬愛以上の気持ちを込める者も多い為、とても重いのだ。
物理的にも、精神的にも。
更に美琴が持って帰った量は、正に持って帰れる量だけに留めており、それ以外は郵送してある。
つまり、寮に帰ればこの数倍から数十倍のプレゼントが贈られているという事だ。

そんな訳で美琴は、どんよりとした気持ちのまま常盤台中学学生寮【わがや】へとたどり着く。
するとその時だ。

「だ、だから俺は怪しい者じゃないですって!」
「怪しい奴は大体そう言うがな」
「えっと……じゃ、じゃあ美琴か白井…208号室に繋げてもらえないですか!?」
「……何故その二人が208号室なのだと知っている…?」
「だからっ! 俺はその二人と知り合いなんですって!
 それに前に一度だけ、部屋の中にも入っ………あ」
「ほう…? 君は女子寮の中に入った事があると…?」
「いやあのそれは…ああ、もう! 不幸だっ!」

寮の玄関先から、寮監と誰かが口論している声が聞こえてきた。
その誰かは、本人が言ったように美琴や白井とは知り合いだったのである。

「ア、アアアアンタ!!? 何やってんのよ、こんな所でっ!」
「うおおお、美琴! 悪い、ちょっと、この寮監【おねえさん】に説明してあげてくださいっ!」
「っ! お、お姉さん…か…」

お姉さん呼ばわりされた寮監は、露骨に態度を軟化させて、ほんのり頬も赤くさせる。
美琴は「ああ、なるほど。普段もこうやってフラグを立ててんのかこの野郎!」と、
露骨にイライラし始めた。

「知らないわよアンタなんかっ!」
「えええええええ!!!?」

不機嫌になった美琴は、そっぽ向いて今の彼が一番困るであろう言葉を言い放つ。
ここで美琴に知らん顔されてしまったら、寮監が警備員に通報してバッドエンドである。

「いやいやいや、ほら上条さんですよ!?
 ミコっちゃんが大好きな人でお馴染みの、あの上条さんですよ!?」
「だだだ誰が誰を大好…だってのよっ!!?」

笑いを取って美琴の態度も軟化させようとした上条(と名乗る少年)だったが、
それはある意味では逆効果で、ある意味では抜群の効果だった。
美琴は瞬時に顔を真っ赤にさせてしまう。

「こほん! それで御坂。この少年…上条と言ったか。本当に御坂の知り合いなのか?」
「えっ? えーっと…まぁ、そんな感じです。はい」

これ以上引っ張ってもどうしようもないので、ここは潔く認める。
寮監は上条と美琴を交互に見比べ、ふと何かを思い出す。

「……そう言えば、彼の顔には見覚えがあるな。
 確か去年の夏休み最終日に、御坂と逢引をした―――」
「わーわーわーっ!!! そ、その事はいいですからっ!!!」

あの日の事を思い出すと、『その後の出来事』も芋づる式に思い出してしまう為、
寮監の言葉を遮る美琴。別に嫌な思い出がある訳ではないのだが、
思い出すだけで「ふにゃー」してしまいそうになるからだ。

「…ふん。まぁ、いい。だが男性を女子寮に入れる訳にはいかないから、
 用事があるのならばこの場で済ませてもらおう」
「あ、はい。それで充分です」

ホッとする上条。しかし。

「それと御坂。その少年が一度だけ寮内に進入したというのはどういう事か…
 後で白井共々、じっくりと話を聞かせてもらうからな」
「私その話、知らないんですけど!!?」

あの時、美琴は部屋にいなかったのだが、巻き添えを食らってしまうようだ。
白井【ルームメイト】の罪と罰は、美琴も連帯責任なのである。不幸な事に。

最後に寮監は美琴へ理不尽な釘を刺し、寮内へと帰って行った。


 ◇


「…で? 結局アンタは何しに来た訳?」

部屋に戻ったら寮監からの面倒な尋問が待っていると思うと頭が痛いが、
それはそれとして、今は上条【こっち】を片付けなければなるまい。
美琴は若干肩を落としながらも、上条に問いかける。

「ん? あ、ああ。それなんだけどさ」

すると上条は、近くに隠してあった一束の花束を取り出した。
上条に花束。そのミスマッチすぎる姿に、美琴の頭上には「???」と浮かび上がる。

「えっと…それ何?」
「いや、何って…誕生日プレゼント」

あまりにも当たり前のように、アッサリと答える。
誕生日プレゼント…という事はつまり。

「え…あっ、えええ!!? わわ、わた、私にっ!!?」
「…他に誰にあげるんだよ」
「あ、ああ……そ、そ、そうなんだ………あり…がと……」

まさか上条から誕生日を祝ってもらえるとは思ってもいなかった美琴は、
心の準備が間に合わずにギクシャクしてしまう。体温も絶賛上昇中だ。

「これって…ラ、ライラック……よね…?」
「ああ。ネットで調べたら、5月2日の誕生花だって書いてあったからな。
 ……意外と高かったから花『束』って言うには少ないけど…」

上条が差し出したのは、紫色のライラックが数本刺さった花束だった。
美琴が両手いっぱいに抱えていたプレゼント…の入った紙袋に比べたら、
見た目が少々寂しいのは上条も自覚しているようで、「あははー…」と乾いた笑いをする。
しかし美琴は、その花束をギュッと、しかし優しく抱き締めて、

「…ううん……凄く…嬉しい…」

とライラックを愛おしそうに見つめる。
プレゼントで大切なのは、『何を貰うか』よりも『誰に貰うか』なのだ。
美琴の予想外の反応に、上条もドキッとしながら、

「そ、そうか…まぁ、気に入ってくれたんなら良かったけど……」

と呟いた。
だが上条からのサプライズは、これで終わりではなかった。
よく見ると花束の奥底に、何かキラリと光る物がある。
不思議に思った美琴は、何気なく手を伸ばしてみた。すると、

「……え…? こ、れ……エメ…ラルド…?」

花束の中から出てきたのは、エメラルドがはめ込まれたネックレスであった。

「お? 気がついた? エメラルドも5月の誕生石らしいから、丁度いいかなって。
 ただ結構高くてな~…つっても本物なんて買えないから、合成エメラルドだけど。
 それでも5000円くらいしてさ。上条さんのヘソクリ残金0円ですよ。
 おかげで花束に回す金もなくなっちゃってそれで―――」
「なっ、何でそんなに大切なお金を私なんかの為に使っちゃってんのよっ!!!」

美琴は嬉しさで零れ落ちそうになる涙を必死に堪え、頑張って上条を叱る。
出来るならば思いっきり抱き締めてあげたい、という気持ちを自ら抑えて。
しかし上条は呆気なく。

「まぁ、ヘソクリなんていざって時に使う為に取って置いてあるんだし、
 それに美琴には普段から世話になってるだろ?
 上条さんだって、例えささやかでもお返ししたくてな。それじゃダメか?」
「っ!!!」

胸の奥がキュンキュンする。
分かりきっていた事だが、美琴は今、改めて確信した。

自分は、上条【このバカ】の事が好きなのだと。


だが上条は、美琴がそんな事を想ってくれているなど知る由もなく、
数本しかない花束と合成のエメラルドをプレゼントしてしまった自分に、やや負い目を感じている。
喜んでくれてはいるが、美琴のようなお嬢様へのプレゼントとしては、どうなのだろうと。
しかし基本的に経済的な余裕の無い上条にとって、これ以上の品は用意できない。
そこで上条は提案する。

「な、なぁ! 美琴は俺にしてほしい事とか、何かないか!?
 ほら! いつかの罰ゲームん時みたいにさ!」

お金がないなら自分の体で支払えばいいのだ。…いや、エロい意味ではなく。
上条としては、「じゃあアイスか何か奢ってよ」くらいの物がくるだろうと軽く考えていた。
しかし今の美琴は、上条からの度重なるサプライズで頭がホワホワとしており、
恐らくは冷静は判断力が失われていたのだろう、こんな事を言ってきたのだ。

「じゃ、じゃあ……私が……キ…キス…してって言ったら……アンタ…してくれる…の…?」

下を俯きながら、普段の美琴ならば絶対に言わないであろう一言。
上条も一瞬頭の中が真っ白になり、「……え…?」と聞き返した。
だがその上条の反応でハッと我に返った美琴は、慌てて訂正する。

「あっ! あああああ、い、いい、今のはウソ! た、たたただの冗談よ冗談っ!
 わ、わ、わた、私がアンタにキっ!!! ……とかホ、ホントに言う訳ないじゃないっ!!!」
「あっ! あ、ああ! 冗談な! い、いやー、マジでビビりましたよっ!
 そ、そうだよな! 美琴が俺にキっ!!! ……とか言う訳ないもんなっ!!!」

お互いに顔を真っ赤にしたがら、「あははははー!」と無理矢理笑い合うが、
二人は心の中で、こんな事を思っていた。

(うわ~っ! 私のアホアホアホー! な、何その場の勢いで変な事口走ってんのよっ!
 コイツだってドン引きじゃない! 『まだ』そこまでの関係じゃないでしょうに!!!
 ……でも、もしあそこで冗談って言わなかったら…コイツはどうしたのかしら…)
(……な、何か分かんないけど、すっげードキドキした…)

上条が美琴に贈ったのは紫色のライラックと、エメラルドのネックレス。
紫のライラックの花言葉は、『愛の芽生え』と『初恋』
エメラルドの宝石言葉は、『幸福』、『希望』、『安定』
更にエメラルドには『愛のパワー』が宿っていると言われており、
『恋愛成就』や『夫婦円満』の効果があるとされている。
それらが事実かどうかなどは分からないが、偶然か必然か上条はライラックもエメラルドも、
これまで直接右手で触っていなかった。
花束は当然ながら周りの包装紙を握っていたし、ネックレスはケースに入っていた。
ネックレスを花束に隠した時も、右手に花束(の包装紙)を握っていた為に、
ケースから出してそれを花束の奥に入れるまで、全て左手で行ったのだ。

さて、美琴の誕生花と誕生石だからと、上条が選んだ紫色のライラックとエメラルド。
果たして上条が美琴にドキドキしてしまったのは、一体どんな意味があったのだろうか。











ウィキ募集バナー