とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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来年も隣で




『いいけど?』

『ほ、ホントか!!?』

『来年は2人じゃなくてみんなで来よっか!!』

『……』

『どしたの?』

『……鈍感』

『アンタにだけは言われたくない!!』


常盤台の超電磁砲こと、わたくし上条美弦は現在学園都市の外れ、第10学区にいる。
同行者は、ま……母上条麻琴だ。

私が、12月の夜になぜこんなとろにいるのか。
つまりは、ここに用事があったのだ。
目的地はとある老人ホーム。
祖父、上条当麻の見舞いである。

祖父との思い出は、小学校低学年まで遡る。
祖母上条美琴と近場の桜がきれいな公園に、何度も連れて行ってもらった。
かくれんぼや鬼ごっこで遊んでもらったりもした。

その祖父は現在わたしのことはもちろん、まm……母のこともわからない。
認知症だ。
最近急激に症状が進行し、介護してくれる人がいないと生活できないと両親は判断。
両親もかつての祖父母同様多忙なため、付きっきりになれない。
老人ホームにいれたのも、苦渋の決断だったみたいだ。

症状の進行が早くなった原因は、1つしか考えられない。

祖母、上条美琴の死だ。

祖母が世を去ったのは、去年の7月。
それまでピンピンしていた祖父は、急激に歳をとってしまった。
母が、祖父を老人ホームにいれる決断をしたのも、これが大きい。祖母の夢を叶えてあげたいと腫らした目で語っていた。
祖母の夢、筋ジストロフィーの治療法確立に一番近いのが母だからだ。
いま見ている患者を放り出すことができる人間でもない。

だからこうして機会があるごとに様子を見に来ている。
毎回別人の名で呼ばれる母に、息が止まりそうになるが、それでも母は止めるつもりがないらしい。

さて、長くなったが、
今わたしは外にいる。
理由は、

「ホント、どこいっちゃったんだか……」

祖父の脱走である。

介護の人は、目を覚ました祖父が、

『傷は……ふさがっている……早くフロイラインを助けに行かねーとっ!!』

と言っていたのを聞いている。
あの常盤台をモデルとした脱走監視体制をくぐり抜けて逃げ出したらしい。
是非教えを乞いたいものだ。

「おいおい、女の子が1人でなにしてんだよ?」

「この辺りは物騒だぜ? 俺たちがボディーガードしてやるよ」

「 制服はコスプレ? 似合ってるよ~」

(あー、そっか、ここ第10学区だっけ?)

周りを囲みだしたスキルアウトにため息が出る。
第7学区の連中なら、私の教育のおかげで、
もうこんなバカなことしないのに。

そんなときだった……。

「どーもー、ツレがお世話になりましたー」

あれ?
あれれ?

「お祖父ちゃん、なにしてんの?」

この年になっても曲がってない腰、
傷だらけの腕、
真っ白になったトレードマークのツンツン頭。
間違いない。

「……この上条さんのどこをどう見たらジジイになるんでせう?」

「「「どっからどー見てもだよ」」」

「なんだよー、どう見ても同じくらいじゃんよー」

無理がある。

「あー、お前のじいさん?」

「そ、そう」

「ホントここら辺物騒だから、大通りまで送ってやるよ」

なぜか不良に大通りまで案内された。
礼をいって別れたら、急に祖父が手をつないできた。

「……なに?」

「いやいや、ビリビリ中学生よ、こうしとかないとお前迷子になるじゃん」

「なんねーし!! っつーかなんでアンタもそのあだ名知ってんじゃいジジイ!!」

「相変わらず口がわるいなぁ。もう少しおしとやかになってみなよ美琴」

「……みこと?」

みこと…美こと……美琴…

あ、祖母だ。


それからしばらく散歩した。
いや、せざるおえなかった。

「この鉄橋、そろそろがたがきてるな。あのときお前が暴れたせいじゃないの?」

「……」

「……おーい、美琴?」

「え? あ、うん、そうね」

「なんか変だぞ? 大丈夫か?」

「あはは……」

困った。
話に聞いていたが、本当に手を繋ぐだけで能力使えなくなった。
ん? 違う違う電気を流そうとしたんでなくて、能力でメール打とうとしたの。
たまたま携帯が電池切れだった。
この不幸も遠くは祖父譲りらしい。
勘弁してほしいもんだ。
母よ、心配してるだろう。
誘拐犯はアンタの親だ、諦めな。

「ようやく着いたな」

「へ?」

ふと気づいた。
ここは、

「あの……公園?」




ベンチが冷たい。
葉1つない桜が余計にひしひしと寒さを感じさせる。

「今までいろいろあったなぁ」

左隣に座る祖父が、ゆっくりと語りだした。
未だに、わたしはどうすればいいかわからない。

「美弦が小さい頃はここでよく遊んだなぁ。歳なんだから無理をするなとお前は言ったけど、美琴のほうがはしゃいでいただろ?」

「麻琴が結婚した夜もここで花を見ながら2人で花見をしたな。最初はうれしいと言って飲んでたのに、最後は結局どっちも寂しいと言って泣いちゃったよな」

「最初に麻琴がアイツを連れてきたときもここにピクニックに来たこともあったなぁ。アイツ、もうガチガチに固まってて不安になったけど、お前がオレの方が緊張していたなんていうから、ちょっとしたケンカになったよな。まったく、短気すぎるだろ」

祖父の言葉が止まる気配はない。

「毎年ここで花見したよな。大きくなった麻琴は嫌がってたけど、無理やりつれてきてた。そういえばプロポーズもここだったよな。インデックスや白井たちみんなで花見をしたときだった」

「その前に大喧嘩して、もう別れる寸前までになったとき、親父に無言で殴られて、惨めで辛くて泣きそうになって、ここに座ってたら、おんなじようにお義母さんにビンタされたお前が隣に無言で座った。今だからいうけど、結婚を決意したのはそのときなんだ」

もうこれ以上はいけない。
これは、この人と、上条美琴との思い出だ。
わたしが立ち入ってはいけない。

「デートは必ずここを通った。まぁ、ここが告白の場所だし、いいんだけど、お前最初告白とは気づかなく「待って!!!!」……??」

祖父の手を強く引っ張る。
遊んでもらってた当時は自分の手の3倍はある手だった。
だから、あまりに細くなった祖父の手に、動揺した。

「じいちゃん!! わたしは孫の美弦なの!!」

拒否しようとした。
祖父のためにも、祖父が愛したあの女性のためにも、自分がここにいてはいけないと思った。
だから止めた。
でも、そんなことは無意味だった。

祖父が、その細い手で、そっとわたしの手を包んだ。
その当時よりしわくちゃになった顔に笑みが浮かべ、ゆっくりと祖父の口が動いた。

「大丈夫。わかってるよ……。付き合わせて悪かった。……美弦、ありがとう」

驚いて顔をあげる。
ニカッと笑う祖父の顔があった。

思い出した。

この顔が大好きだった。じいちゃんと呼ぶとこの顔をしてくれた。
隣には優しくほほえむばあちゃんがいた。
2人のことが好きで好きでしかたなかった。

その祖父は、笑みを浮かべながらわたしから目をそらし、ベンチの正面、桜の木の下に視線を移した。
だから叫んだ。じいちゃんと何度も呼んだ。もっともっとあの笑顔を見たかったから。
もっともっと。

でも、わたしの声は、もうじいちゃんに届いていなかった。


上条当麻は目を開いた。
トレードマークの黒いツンツン頭が風でゆれる。
暖かい光がベンチを照らした。
パーカーの上に着た制服に、桜が数枚舞い落ちる。
にこやかに笑みを浮かべる彼に、声がかけられた。

「遅い!!!」

目の前にいたのは1人の少女。
特徴的なベージュのブレザーを着て、
紺色のチェックのミニスカートはためかせる。短パン装備で色気はゼロ。
桜が舞うなか、シャンパンゴールドの短い髪が輝いていた。

素直に、キレイだと思った。
しかし、しゃくなので口には絶対出してやらない。

「遅くはありません。まだ約束まで数ヵ月ありますよ? 相変わらず美琴先生はせっかちさんですね」

「レディを待たせてなに言ってんのよ!!」

「はいはい、待たせて悪かったよ」

「わかればいいのよ。…………もっと遅く来てもよかったけど?」

その言葉を聞き、立上がり、近づいた上で抱き締めた。
付き合い始めた当時なら、どたばたと暴れただろうが、そんなのは70年前に解決済みだ。

「……ムリ。もう寂しさの限界です。それに、美琴も寂しいだろうと思ってな」

「……うん、寂しかった」

抱き締め返してくれる嫁を見て、
改めて素直になったなぁと感心する。
ついでに、自分も素直になったもんだと自画自賛。
ここで抱き締めタイムは終了。
そろそろ時間だ。

「さ、行こうか」

「ホントにいいの?」

「なんだ? オレと一緒は嫌なのか?」

「いや、麻琴や美弦が寂しがるなぁ、と思って」

「そんぐらい我慢しなさい」

「ひっどーい」

「で、美琴」

「ん?」

「――――」


タクシーが止まった瞬間、釣りも受け取らず麻琴は飛び出した。
しかし公園に入り、その光景を目にすると、一切の動きを止めた。

目的の2人は公園の端、ベンチに座っていた。

「 …………じ、い……ちゃん。……じいちゃ、ん……」

顔をぐちゃぐちゃに歪ませ、美弦は嗚咽をあげながら、弱々しく父の右手を揺らしている。

そして父、上条当麻は、
座ったままの姿勢で、目を閉じて、静かに微笑んでいた。
ちらほらと舞い散る雪が、まるで桜の花びらのようだった。

















『そ、そんな言い方じゃわかるわけないでしょ!!』

『そんな言い方!!? 少女趣味のお前のために、こっ恥ずかしいセリフをわざわざ選んでやったんだぞ!!』

『わ、わたしが悪いっての!!?』

『あーもー!! 返事はどうなんだよ!!?』

『へ、返事……ふ』

『ふにゃー禁止!!』

『ぁ、ぁぅ…………。ら、来年だけじゃいや。再来年もその先もずっとじゃなきゃイヤ』

『そ、それではプロポーズになっちゃいません??』

『できないっていうの!!?』

『お、オレはいい、けど……いいの?』

『あ、改めてそれはそれでしてよね。あと、毎回ここにくるたびにそのセリフをいうこと!!』

『そ、それはハードルが『できないっていうの!!?』できるよやりますよ!! ホント少女趣味なんだから……』

『そ、それでは早速お願いします』

『今日からなの!!?』

『できないってい『わかったよやるよ!!!』よろしい。返事わかってんだからいいじゃない』

『ったく、わがままだなぁ。あー、緊張する。スー、ハー、スー、ハ『ぶぶふぉっ!!』……笑うなよ』

『だって、アンタの顔があまりにも真赤なんだもん!!』

『お前がいうなよもー。……よしっ!! 美琴!!』

『あはは……はいっ!!』







『来年もオレの隣で桜を見てください!!』










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