小ネタ 雛人形
もうすぐひな祭り。
腕の中の赤子のために、何時間も雛人形を選んでいる夫婦がいた。
『これなんかどうだ?』
『んー、お内裏様が縛られたうえで犬小屋の屋根に放置されそうじゃない?』
『え? そうか? じゃあこれは?』
『んー、新たな天地を望むかって感じ?』
『なにそれ?』
『そもそも女の子の祭りなんだから、わたしが選ぶ!! これなんかどう?』
『お雛様がお内裏様に噛みつきそう』
『これは?』
『お雛様美人だけど地味』
『じゃ、これは?』
『妖精さんかな?』
『これ』
『お雛様メイドじゃんか。お内裏様も胡散臭いし』
『これ……はお雛様小さくない?』
『それよりお内裏様が白すぎる。これはよ?』
『お内裏様がチンピラっぽいし、お雛様がぼけっとしてない?』
んー、と唸る旦那の耳に、
ガタタン、という音が耳に入った。
『あいっ!! おひにゃしゃっ!!』
音がした方をに手を伸ばす赤ちゃんに、
両親は揃って娘の視線を追う。
『……』
なにがおきたのかわからないが、
お内裏様が落ちて、三人官女につっこんでちた。
お雛様がものすっごいヤキモチやいてるように見える。
『……これにしよう』
お内裏様をもとの位置に戻しながら、
その男性は呟いた。
『お雛様ってのは、女の子の代わりに不幸を背負うんだろ?』
お内裏様と視線があったような気がした。
『このお内裏様なら、きっとあらゆる不幸からお雛様を守ってくれる。そんな気がするんだ』
『アンタにしちゃロマンチックじゃない』
『……とはいえ、お内裏様に任せっきりじゃなく、一緒に乗り越えようとするような子に育ってほしいもんだ』
旦那が指で愛娘の頬をつつく。
元気いっぱいの娘は、ぱぱ~と笑いながら父の指を追う。
そこまで高望みはしない。
この子が幸せであればと、
母はただただ願った。
『ママ!!』
ふと気づく。
視線の先にはあの雛人形。
携帯からあの赤子の声が聞こえる。
『もー、聞いてんの?』
「聞いてる聞いてる。何だって?」
『聞いてないじゃん!!』
予想通りの回答に、美鈴は笑みを隠せない。
「雛人形の選び方だっけ?」
そうそう!! という美琴のこえが、娘が元気であることを伝えてくれる。
さらに、
『あぅー、ぅ、ぁっ!!』
孫も元気なようだ。
『麻琴のためにもいいの選びたいんだけどさ、迷っちゃいそうで』
美鈴は目を細める。
雛人形は、娘がいなくなった今も、御坂家を彩っていた。
「……愛しの旦那さんと、娘連れてとりあえずいくつかお店を回ってごらん。きっと『これだっ!!』ってのがみつかるから」
『えー、そんなもん?』
『ぶー、まぁ、もっ!!』
「そんなもん、そんなもん。なに? 非科学的?」
『直感が頼りになるってのは、科学的に明らかになりつつあんのよ。じゃ今週末当麻とあっちこっち見て回ってみる』
しばらく会話し、電話を切った。
懐かしさを覚えるままに雛壇に向かう。
「娘を守ってくれて、ありがとね。今後もよろしくっ!!」
お内裏様を撫でたら、お雛様が当時と同様にヤキモチ妬いたような気がした。