かみ
上条は震える肩を抱きながら、学校からの帰路につく。
日々来る魔術師の襲撃、
上里のプレッシャー、
木原唯一の行動、
右腕のナゾ、
そして、
「こ、これほど、ダメージが蓄積されていたとは……」
単位不足、金銭の少なさ、オテォヌスをやさしく受け止めるクラスメート、あまりに姫神を蔑ろにする原作、グラマーじゃない生徒会長、
つまり、
「ストレスマッハで上条さんの髪上さんが退場さんしそうです」
先程の補修中に、
自分の頭がカツラだとばれる夢を見た。
もうガクブルである。
「いや! いやよぉぉぉぉおおおおお!! なんでこの年で育毛とか植毛とかのフレーズに敏感になんなきゃなんないのよぉぉぉぉおおおおお!!!!」
居候先の学校の生徒が隣を通りすぎるが、
なんにも感じずスルーする。
彼の絶叫も受け入れられるほど、これが日常に溶け込んでいるのだろう。
影響力は上里と同等である。
上条は壁に手をつき、
上里と戦ったときと同様のシリアス顔で、うめく。
現状は受け入れなければならない。
問題は1つずつ解決しなければならない。
「まずは、生徒会長をグラマラス天然お姉さんキャラに変更してもらわねば」
男子高校生の希望(幻想)を打ち砕いた罪は重い。
「いや、それより前にこの悩みを誰かに伝えよう。そうすれば、なにか解決策が見出だせるかもしれない!!」
グレムリン戦を乗り越え、
上条は周りに頼ることを習得した。
もっとよそで活用してほしいものである。
そんなとき、
このスレのもう1人の主人公を見つけた。
御坂美琴は虚ろな瞳で歩いていた。
あの日、力を欲し、道を踏み外しかけた。
それに後悔しつつも、触れてはならない領域に、踏み込んでしまった。
こんな自分を見て、
アイツは、どう、思うだろうか。
ユラユラと、亡者のように美琴は歩みを進めた。
以前の上条の学校方面に。
毎日の習慣が染み付いているのである。
シリアス中にいうことじゃないかもしれないが、我慢できなかったすまんね。
意識下でも無意識下でも上条でいっぱいな美琴の耳に、最も望んでいて、現在最も聞きたくない声が届いた。
「おーい、美琴ー」
ピクリ、と肩が飛び跳ねた。
恐怖が、心を蝕む。
もし、彼が自分を軽蔑したら?
一体、自分がどんな行動にでるのかもわからない。
逃げ出そうとした。
しかし、腕を掴まれる。
怯え、見上げた。
そこには、
「聞いてくれ、美琴……」
真剣な目をした上条。
まるで、自分が何を考えているかすべて把握しているような、
全てを飲み込みそうな目をしていた。
彼の口が動くのを、美琴は見つめることしかできなかった。
「オレの毛根を、どう思う?」
…………??
「オレの髪の毛、まだ頑張れているか?」
…………。
ダメだ。
この流れに飲まれてはいけない。
きっとヤツのペースに合わせたら、
新約2巻と同様、シリアスが宇宙の彼方にすっとんで行くだろう。
思い出せ!! あの絶望を!!
歪んだ記憶に形ができる。
あの恐怖が、鮮明に思い出される。
紫の僧衣。
地面から延びる土の手。
あの、しわがれ声。
『さてどうするね、上条当麻』
あ、そういえばアイツも髪なかったな。
『気づくのが早いか遅いか。儂は最初にそう言ったはずじゃぞ?』
「ばぶふぉ!!」
「笑うことないだろ!!」
ち、ちくしょう、
僧正の服装をした坊主頭の上条を想像してしまった。
笑いが止まらない。
「……あ、あの木乃伊くぷぷぷ……絶対許さない」
「え? なんで僧正が出たの?」
もう、ダメだ。
シリアスが僧正同様空の向こうに飛んでった。
いったん帰ってひとりにならないと、シリアスモードには突入できないだろう。
次の巻が出るまでには立て直さなければ。
その前に、このアホの件を片付ける。
「で、なによ?」
「最近ストレススーパーチャージ中でしてね、毛根が死滅しそうなんだよ」
「…………んー、確かにアニメの一時期よりは元気無いかも」
「あにm??? まぁ、なんとか髪を元気にする方法ないかなと思ってね」
「…………」
美琴は自分に言い聞かせる。
冷静になってはならない。
なんでこんな会話をしてるのか疑問をもつな!!
自分の悩みとヤツの悩みを比較してはならない!!
「……ねぇ、なんで泣きそうで怒ってるような顔してんの?」
「やかましい」
「すんません」
「はぁ…………で、髪が生える方法? 栄養不足を改善するしか「ムリ」だよねー」
まず貧乏なのに栄養うんぬんって……。
ん?
「お? 血流よくすりゃマシになんじゃね?」
「まぁ、なるかもしれないわね」
「じゃ、いこか」
上条が美琴の手を掴んだ。
「へ? ふぅぅぇっ?」/////
そのまましばらく歩く2人。
公園のベンチにたどり着いた。
「よし、それじゃあ…………ん?」
「……て、手ぇ、に、にぎに、ぎ…………」
「ん? あぁ、痛かったか?」
上条が手を離す。
美琴があっ、とか呟いた気がするが気のせいだろう。
「よし!! じゃあ頼んだぞ!! 美琴」
「はふぇ? …………コホン、な、なにを?」
「だからさ、そのビリビリ能力で頭皮マッサージをお願いしようと思いましてね」
テメェはlevel5をなんだと思ってるんだ。
ほら、美琴も流石に
「えええええええ!! あ、アンタの頭に触れっ!!? いいの!!?」
嬉しそうで何よりである。
「いいともー!! ってことで、頼んだぞ美琴ー」
ベンチの後ろにまわった美琴。
おずおずと上条の頭に手を伸ばす。
ウニの中に、いぬ耳の幻覚が見えた。
モフッ
(ふぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!)
先端はチクチクするが、奥はふわふわする上条の髪。
美琴さん、しあわせ。
「…………」
(ひゃぁぁぁぁぁああああああ!!)
「…………」
(むぴょぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!)
「…………??」
(みゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!)
「…………あの、美琴さん?」
「ふにゃぁぁ…………なによ?」
「いや、まだかな?」
あ、そうだそうだ、
電気マッサージだったっけ?
「あ、えっと……こ、こう?」
頭がピリピリしてきた。
「おー、気持ちえぇなー」
「そ、そう? えへへ」
嬉しそうな上条を見て、嬉しくなっちゃう美琴。
都合のいい女への道を、爆走中なのは自覚していたりする。
「でも、なんで急に髪を気にしだしたの?」
「急ってわけじゃないんだけど…………今日補修中に夢を見たんだよ」
「寝てやがるし」
「でさ、夢の中でお前とデートしてたんだよ」
は?
「は? え? ふぁ?」
「腕組んで買い物したり、パフェ食べさせあったり、ギュッと抱き締めたりしていたんだわさ」
「はぇ? へ? ぴゃ?」
「そんなときに、急にインデックスが出てきたんすよ」
「ぱゃ? で、でー…………ト? ふぉ?」(←聞いてない)
「アイツ出てきた瞬間『とうまは相変わらずとうまなんだね!! 成敗なんだようがー』といってオレの頭に噛みつこうとしたんさ」
「むゅ? う、ううう腕……腕く……ん……」(←まったく聞いてない)
「でもアイツ噛みついたはずなのにそのまま地面に落ちたんだよ」
「食べさせあうって…………ま、まさか、アーン…………ふぉぉおお!!」(←全然聞いてない)
「よく見たらアイツなんかくわえてんの。恐ろしいことにカツラだったんさ」
「ギュッ…………だき、し……ギュッ……」(←一切聞いていない)
「恐る恐る頭に手を伸ばすと、横はフサフサ、上はない!波平スタイルになっていたのだよ!!」
「ふ……ふ…………」(←すでに意識なし)
「絶望に震えるオレの横で、テメェは爆笑してやがんの。夢の中とはいえ……ふ? まて、頭がなんか痛い。待って!! 今のこの体勢でそいつはいけない!!いけな「ふにゃーーーーーーーーーー!!」
(…………お姉さま……)
ベッドの上に横たわっているのは、白井黒子。
(あの時…………いえ、あの時よりお姉さまの表情が暗い……)
外の闇と、部屋の明かりには大きな差があった。
(……黒子では、ダメですの?)
脳裏に浮かぶのは、あのツンツン頭。
自分が遠く及ばないという事実は、身を切るように辛い。
しかし、
(あなたが、あなたしかお姉さまに、笑顔を戻せないのなら…………)
そんな時、部屋の扉が開いた。
「!!! お姉さ…………ま…………?」
なんかフニャフニャしてやがる。
「あ、アイ……ツと……う、腕をく、んで…………アー……ン、までして!! ギュッて、ギュッて~~~~!!」
そのままベッドに飛び込む憧れの人。
ふにゃーといいながら気絶した。
白井は体感で30分固まったのち、大声で吠えた。
「ああああぁぁぁぁの類人猿!! 他にやりようはなかったんかぁぁぁぁぁぁぁぁい!! ですの」
一方、上条家では晩餐が行われていた。
「で、とうまが黒焦げな理由はわかったんだよ」
「なんで不機嫌なん?」
「お、お前ら!! なんでスルーしてんだ!! 待て!! 助けろ!! いや、ごめんなさい!! 助けてください!! なんでもしますから!!」
「どうして急に髪のことを気にしだしたのかな?」
「急ってわけじゃないんだけど…………今日補修中に夢を見たんだよ」
「寝てるし」
「待って、い、いや、だぁ…………うぅ、や、やめて…………グスッ…………あっ、やだやだ…………あ」
「でさ、夢の中で美琴とデートしてたんガブリ