とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある乙女の菓子聖戦



「つ、作ってしまった……」
常盤台中学の調理実習室を許可を貰い、一人で借り切っていた御坂美琴は
目の前の物を見つめながら呟いた。
なぜ借り切っていたのか、それは目の前のチョコレートを作成するために他ならない。
つまり、目の前にあるものとは完全無欠の手作りチョコレート。
「うう、こんなのあげられるわけ無いじゃない。」
百歩、いや、一万歩くらい譲ってただの手作りチョコならばいい。
しかし目の前にあるのはチョコはある特殊な形していた。
これを使うのはとても勇気がいる、というか
「使えるかーっ!」
思わず握り締め、壁にぶつけようと振りかぶる、が出来ない。
「ううっ、これは無し、これは無し……」
舞夏に買ってと頼まれた漫画など読むのではなかった。
そうすればこんな悪乗り以外の何者でもないチョコを作ることなんて無かったのに。
後悔しつつ、とりあえずもう一つ普通の手作りチョコレートを作り始める、
がそこで
「おねーさま!まあまあまあおねーさま!」
黒子が乱入してきた。
とっさに目の前にある例のチョコを隠す。
まさに電光の動きだった。。
そのため、黒子はその動作には気づかなかった。
まあ目の前には湯煎中のチョコレートがあり、そっちを凝視していたせいもあるだろうが。
「おねえさまったら、わたくしの為に手作りチョコを作るためにこのような……ああ、黒子は感激ですの。」
「……」
感涙の涙を滝のように流す黒子を見てどうしようかと思案する。
というか、とりあえずチョコをあげれば明日の邪魔はされないのではないか?と考え、
「まあ、楽しみにしていなさい。」
「!く、黒子は、黒子はもう!」
失神した。とりあえず放置。
「さあ。ちゃんとつくろう!」

翌日、バレンタインデー。
休日のまだ朝早くだというのに学園都市は男女で溢れ返っていた。
何せここは学生の街。つまりバレンタインデーの商品の格好のターゲットなのだ。
よって、メーカーの威信をかけたようなさまざまなチョコがいたるところで売っている。
それを買い求める女の子。期待に胸を膨らませている男の子。
甘いひと時とつらい現実が交差する街の中に
ものすごいげっそりとした美琴がいた。

「何で失敗するの……」
あの後、チョコを作ってみたものの、なぜか成功したのは一つ。
それは黒子に上げないと何をされるかわからない。
(うう、材料もうちょっとかっとけばよかった)
美琴はお菓子はあまり作らないが、やろうと思えばつくることくらいできる。
実際、最初のチョコは一発で成功したのだ。
だから材料をあまり買わなかった。
しかし、結果は見ての通り、最初の一つ以外ぜんぜん成功しなかった。
(うう、やっぱりこれしかないの……?)
ポケットの中の物に軽く触れる。
(いや、やっぱりむりっ!)
とりあえずデパ地下にいってそこそこ高いチョコレートを買う。
「ラッピングはどういたしましょう?」
笑顔で店員が聞いてきた。どうも本命用ラッピングというものがあるらしい。
御坂美琴は見た目は可愛らしい女子中学生だ。
その中学生がこの高級なチョコを買うということは本命だろう、と予想したらしく
大量のハートマークが印刷されているラッピングを用意してきた。
その真ん中にはひときわ大きなハートマークがあり、そこにLOVEという印字がされている。
「……いえ、普通ので……」
レベル5だってひよる時はある。

一度寮に戻り、着替えをする。
気合を入れて私服を着る。今日はバレンタインデー。乙女の決戦の日なのだ。
あの寮監ですら私服で出かける生徒を見てみぬ振りしていた。
可愛らしい服、では無くがんばって大人っぽい服を着た。
自分の趣味は自分でもわかっているのでお店の人にいろいろ質問しながらそろえた一式だ。
鏡に自分を映すと
(うん、大丈夫)
後は、アイツに渡すだけだ。
黒子にはあの手作りチョコを上げて
「手作りはこれだけよ」
と言ったら失神した。これは好都合だ。
携帯を取り出し、アイツの電話番号を画面に表示する。
(コールボタンが押せない……)
深呼吸を3回する。
根性を決めて押す。
お嬢様っぽいしぐさで携帯を当てる。
1コール、2コール、3コール……
コール音が続くたび、心臓の音が大きくなる。
ぷっと短くコール音が切れた。
「!えっと、アンタ!」
「現在、電話に出ることが出来ません。」
機会音声が聞こえた。とりあえず一回携帯を壁に向かって投げつけた。

「不幸だー。」
上条当麻は学校にいた。休みなのに。
「まあまあ、カミやんは今日は学校にいるほうがいいぜよ」
なぜか土御門と
「バレンタインに小萌せんせーに会えるなんてぼかー幸せやでー。」
青髪ピアスも一緒だ。
今日は補習なのだ。しかも3人だけ。
ほかに校内に生徒はいない。
「まあ、確かに今日はバレンタインデーだもんな。外にいていちゃつくカップルを見るくらいなら補習もありか。」
と、言ったところ青髪と土御門の友情ツープラトン、クロスボンバーが炸裂した。
「はいはーい、そこまでですよー」
小萌先生が入ってきた。手にはチョコレートが三つ。
「今日はバレンタインデーですからねー。補習がんばったらプレゼントしちゃいますよー。」
補習が始まる。
内容はすけすけみるみるだった。
ものすごいがんばった青髪が三つとも奪取していった。
小萌先生は泣きそうだった。

「だー、終わったー。」
補習が終わったころには夕方になっていた。
街には男がうろついていた。まだあきらめ切れていない野郎共だろうか。
「まあ、カミジョーさんには関係ないですけどねー。」
と、時間を確認しようと携帯を見ると
「……なんだこれ」
御坂美琴からの着信がものすごいことになっていた。

「なんででないのよ……」
ベットに寝転がりながら御坂美琴は落ち込んでいた。横には携帯電話が投げ出されていた。
お昼前から何度もコールしたのにアイツはぜんぜんでない。
また何かに巻き込まれているのか。それとも
「今日がバレンタインだから私からの電話に出れないの……?」
恋人達の日に自分以外の女の子と楽しそうにしているアイツが思い浮かび、目が潤む。
もう夕方だ、だめなのかな。
そのとき、電話が鳴った。
心臓が飛び出そうだった。ゆっくりと携帯に手を伸ばす。
着信は本当に心から待ちわびていた相手からだった。

「すまん、補習でさ。電話しまっちゃってたからぜんぜん気づかなかった。」
上条はとりあえず謝ってみた。あの数の着信だ。きっと大事な用事があったんだろう。
いまから雷のような音量で発せられるであろう美琴の罵声に耐える心構えをしていたのだが
電話から聞こえるのは嗚咽だった。
「!御坂、何かあったのか!」
一気に背筋が凍る。本当はあの電話は自分に助けを求める電話だったのではないか、
ものすごい後悔の念が体中を駆け巡る。
しかし、美琴の嗚咽はすぐに収まった。少し安堵したところで美琴からの声が聞こえた。
「ううん、なんでもない。ねえ、アンタ今暇?」
「ああ、暇だ。」
とりあえず答えた。まだ安心できない。だから
「そっちも暇なら今会おうぜ。場所は…」
「あ、場所はあの橋のそばがいい。ほら、私があの日アンタと会った」
向こうが場所をしてきた。あの橋、といわれてすぐ思いついたのは妹達を救うためにあったあの橋だ。
異論は無いのでOKし、
上条当麻は電話を切ると一目散にそこへと走り出した。

夜の帳が落ちた。
御坂美琴が橋に着くともう上条はそこにいた。あの日自分がいた場所に。
まるであの日の自分と上条の位置が入れ替わったようだった。
「御坂、どうしたんだよ。」
「心配した?」
ちょっと意地悪に声をかける。答えはすぐ帰ってきた。
「心配したに、決まってんだろ……あんなに電話かけてきてて、俺本当に取り返しのつかないことをしたんじゃないかって。」
アイツはそういうとうなだれていた。
あわてて取り繕う
「ち、違うの。ごめん。ちょっと……そう!あの時は漫画読んでてね!ちょっと感情移入しすぎちゃったって言うか!」
あはは、とごまかしてみる。
それを聞いて、アイツはちょっと安堵したようだった。
「で、なんでしょーか美琴先生。上条さんは今日は補習でくたくたですよ?。」
今度は軽口を聞いてくる。でも、その軽口のおかげで少しこちらも落ち着いた。
「ん、今日何の日だか……知ってるわよね?」
「煮干の日ですよね?」
雷撃を放つ。しっかりと打ち消された。
「バレンタインでしょ!ほんとにもう!」
といって、朝に買ったチョコレートを突き出す。
「えっと……これは?」
なんか心底おかしなものを見るような目でチョコレートを見つめるアイツがいた。
「だ、だからチョコレートよ!な、なんだかんだで世話になってるし!義理よ義理!」
自分で言って、しまったと思った。だけどアイツは
「ああ、なるほど。いや、義理でもうれしいぜ御坂。結局一個も貰ってないしな。」
意外な答えだ。
「へ?あ、ああそうなんだ。もてない男ってのは辛いわねー。」
実際、今日家に帰ると山ほどチョコがあったりするのだが、この時点では上条はそれを知らない。

「ありがたく受け取るぜ。サンキューな。御坂。」
「デパ地下でなんか高そうなチョコレート選んできたから、そこそこ美味しいんじゃないかしら?後で感想聞かせなさいよ。」
いつかのやり取りと似たようなやりとりだ。だから上条はこういった。
「む、バレンタインデーのチョコレートなら手作りがベストですなー。」
「……アンタ、私にどんなキャラ期待してるのよ。」
「いやいや、あえて不器用なキャラが不器用なりにがんばってみたボロボロチョコレートってのがね。わかんねーかな?」
笑みを浮かべながら言ってみた。美琴はきっとどんなキャラを期待してるのよ!って言いながら雷撃を放ってくると思っていた
しかし、その幻想は木っ端微塵に打ち砕かれた。
「……手作り、ほしい……?」
顔が真っ赤の美琴を見てむしろ上条は顔が真っ青になった。

(……どうしよう)
例のチョコレートを使うのか?決心がつかない。
(でもっ!)
覚悟をきめた。

「えっと……御坂さん?」
真っ赤になったまま動かない美琴に恐る恐る声をかける。
「返品絶対不可。」
美琴がぼそっと呟いた。
もしかして、本当にボロボロなのだろうか。だから出したくなかっただけ?
「ああ、もちろん返品なんてしねーよ。お前が作ってくれたんだろ?ならどんなのでも俺は嬉しいよ。」
といったのだが、美琴は続けてきた。
「差し出したら、絶対に受け取ること。」
どんだけボロボロなんだよ、と正直ちょっと笑いをこらえながら
「ああ、もちろん受け取る。男に二言は無いぜ!」
胸をたたきながら答える。
「……絶対よ……」
と、美琴は呟くと深呼吸を始めた。

御坂美琴はポケットに手を突っ込んだ。
最初につくったチョコレート。それがポケット入っている。
それは小さな筒の形をしている。
意を決し、それを手に取った。

(美琴は何をするつもりなんだ?)
ポケットに手を突っ込んで小さな丸い筒を取り出した。
(リップクリーム?)
筒を開けると、暗いのでよくわからないが色のついている棒が見えた。
口紅?と思うと御坂はそれを唇に塗り始めた。
「御坂、何で口紅なんて……」
美琴は聞こえていないように、口紅をまだ塗っている。
そして、塗り終えたようで、こういった

「は、ハッピーバレンタイン……」

目を瞑り、唇を差し出してきた。

さっきの口紅はチョコレートだったのだ。

(え?え?えー!!!!!!!!!!!?)
上条当麻は目の前の出来事に硬直した。
自分はさっきどんなものでも嬉しいといった。
差し出したらもちろん受け取ると答えた。
つまり、受け取らなければならない。このチョコを
指で唇をつついて受け取りました!とかやったらたぶん殺される。
(てか、指で唇をつつくのだって十分恥ずかしい!)
美琴がうっすらと目をあけた気がした。
早くして、といっているようだ。
その美琴の顔はもう真っ赤だ。チョコが溶けそうなくらいだ。
「……」
覚悟を決めた。
上条当麻は御坂美琴を抱き寄せて
唇でチョコレートを受け取った。

そのまま、時間がたった。
どのくらいかはわからない。
どちらが先に唇を離したのかもわからない。
夜の静寂が二人を包んでいた。

先に口を開いたのは上条当麻だった。
「えっと……御坂さん。さすがに今のは……」
というと、美琴はうなずいて
「うん、本命チョコレート……」
いつもの元気な御坂美琴からはちょっと想像できないようなか細い声だった。
また静寂。今度は美琴が口を開いた。
「ねえ……返事は?」
若干目が潤んでる。そして答えた。
「あのチョコを受け取った時点でわかるだろっ!」
そういうが早いか、上条当麻は全力で走って逃げた。

御坂美琴は走って逃げる上条当麻を追いかけなかった。
受け取った時点、つまり
「OKでいいのかな」
人生で一番勇気を振り絞った気がする。あの日ここで死のうと覚悟したあのときよりも振り絞った気がした。
だから追いかけなかった。明日からは探す必要もない。
(う、嬉しい!)
一人感動に浸っていると視界から消えようとしているアイツが大声で叫んだ。
「来月、おぼえておけっ!」
というとまた走りだし、夜の闇へと消えた。
「楽しみにしててやるっ!」
そう叫び返した。

二人は夜の闇の中でもわかるくらい顔が真っ赤だった。
そして、お互いの顔が見えないところで笑っていた。


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