とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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責任の取り方



「くそっ! まだ諦めねえか!」
「待てオラァ!」

上条当麻は夜の街を走っていた。
大量の不良達と共に。
いつもなら既に諦めていても良さそうな距離を走っているのに、不良達は一向に諦める気配を見せない。
それどころか、追ってくる数が増えるばかりだった。
何故、追ってくるのか。
その理由を上条は知っていた。
時折、後ろの不良達が叫んでいたからだ。

プルルルル

走っている最中にポケットの中の携帯が鳴る。
だが、上条は出るつもりはない。
かけている相手はなんとなく予想がついていたからだ。
もう、これで十回以上かかってきていた。
悪いなと思いつつも、上条は走る速度をさらに上げて、路地裏の角を曲がる。
だが、そこで。

(まずい……っ!?)

昨日雨が降ったせいでぬかるんでいた地面に足をとられて、上条は盛大に転んだ。
後ろからは多数の足音が聞こえる。
追いつかれるのも時間の問題だった。
上条はすぐに起き上がって走り出す。
いや、走り出そうとした。

「オラァァア!!」

ガスッ!!
待ち伏せしていたらしい不良の一人が鉄パイプをもって殴ったのだった。

上条当麻の意識は、そこで途絶えた。





―――――時は少し遡る。

初春飾利はジャッジメントの仕事でネット上の掲示板の見回りをしていた。
たまに、掲示板に様々な情報が書かれる場合があるからだ。
そして、たまたま初春は発見する。

「……これはっ!?」

初春は掲示板の書き込みを見てすぐにある人物へ連絡をとる。

『なーにー? 初春ー?』
「大丈夫ですか? 佐天さんっ?」
『何言ってんのさー初春ー。大丈夫も何も私は今家だよ? 心配されるようなことしたっけ?』
「はぁー。無事なんですね? 良かったー」
『だから何なのさ?』
「いえ。無事ならいいんです。えっと、何があったのかは後で説明しますから、とにかく今日は外に出ないでくださいね? それでは」
『えっ!? ちょ、ちょっと初は―――』

初春はもう一度安堵のため息を吐く。
すぐに気をとりなおして携帯を操作して、とある人物に電話をかける。

『初春さん? どうかした?』
「えっと、御坂さんの知り合いにレベル0の知り合いっています?」
『え? ……ぅ、うん。まあ、いるにはいるけど』

少し恥ずかしそうな反応が気になったが、無視した。

「本当ですかっ!? そ、それだとまずいです! 早く連絡しないと!!」
『ちょ、ちょっと初春さん!? 何かあったの?』
「え、ええっと。実は―――――」
『うんうん。なるほど。わかったわ。じゃあ、こっちから連絡してみる』
「あ、はい。わかりました。……御坂さんも気をつけてくださいね?」
『大丈夫よ。ついさっきもやっつけたし』
「えええっ!?」
『それじゃ、切るわね』
「え、ちょ、ちょっと御坂さ―――」

ブツッという音と共に、連絡が途絶える。
初春はため息を吐いて、再び掲示板を見た。





御坂美琴は走っていた。
別に、不良に追われているわけではない。
不良が相手なら逃げる必要なんてない。
今は、人を探していた。
レベル0のアイツを。

(なんでさっきから電話してるのに出ないのよ……!!)

電話をかけた相手は、未だに出る事なく着信音を鳴らし続けるだけだ。
途中でこちらが諦めて、もう一度かける。その繰り返しだった。
あまりにも出ないアイツに腹が立ってくる。
と、同時に、嫌な予感が頭をよぎった。
だけど、その予感はあまりにもたやすく想像できた。

(アイツ……まさか? ………バッカじゃないの!? なんであの馬鹿は……! あーもう! 会ったら承知しないわよ!!?)

『とある掲示板の書き込みにあったんですが、超電磁砲に怨みをもつ、過去御坂さんにやられた不良達が、よく御坂さんの近くにいるレベル0を使っておびき寄せようとしてるみたいです。……それには開始予定時刻まで書いてあって、既に過ぎてます。あ、ちなみに佐天さんには白井さんが向かうので大丈夫だと思いますけど……』
初春の言葉を思い出す。
それはつまり、レベル0のアイツが狙われているということ。
その事実を再確認して、御坂美琴は走る速度をさらに上げる。
別に、行き先がわかっているわけではないので、この行動自体に意味はない。
意味はないのだが、走らずにはいられなかった。

(初春さんからの連絡は……ない、か)

そう思った時、携帯が鳴った。
美琴はすぐに足を止めると電話に出る。

『場所がわかりました!』
「初春さんナイス! それで場所は!?」
『―――の―――です』
「わかった。ありがとう!」

美琴は電話を切ると再び走り出した。
今度は目的地がわかっている。
美琴は先程よりさらに速度を上げて、その場所へと向かう。





「オラァ! 起きろコラァ!」

ドスッ!

上条は腹を蹴られた痛みで目を覚ます。
どこかの建物の中。
周りには不良たち2、30人程度。
逃げ場は、ない。
瞬時にそこまで状況を把握する。
だが、何もできない。

「ハハハッ!  こいつがなんで超電磁砲とよくいるのかは知らねえが、これで餌はゲットできたな」
「そうだな。散々逃げてくれやがって。捕まえるのに苦労したぜ。このクソがっ」
「がっ……!」

上条は蹴られて吹っ飛ばされ、誰かの足元へと転がった。
見上げると不良が嫌な笑みを浮かべて立っている。
その真意を理解する前に、上条の胸は踏み付けられた。

「ぁ、が……!」
「呼び寄せる前にコイツを痛め付けといた方がいいんじゃねえか? その方が超電磁砲も脅しやすいだろ」
「ハハッ。そうだな。いっちょ殺っとくか?」

その言葉のあと、上条は立ち上がることもできずに殴られ、蹴られるという、リンチが始まった。



上条にとっては、何時間も経ったように思った時。

バァアン!!

という音と共に建物の入口が開け放たれた。
不良達が動揺しているのがわかる。
ただ、月の光が異常に眩しく感じられて、誰が来たのかわからない。
だけど、誰が来たかは予想がついた。
気づいたら、上条は言っていた。

「み、さか……?」





御坂美琴は目的地にたどり着いた。
そこは、古びた廃工場。
ここに連れられていくのを初春は発見したらしい。

(大丈夫……よね? アイツ……)

迷っていても仕方がないと思って、御坂美琴は廃工場の扉を思い切り開け放った。
バァアン!

「………ッ!!?」

御坂美琴は絶句した。
上条がボロボロの状態で倒れながらこちらを向いていたから。
視線は上条に向いたまま離れない。離せられない。

「ど、どうやってここがわかった!? まだわかるはずが……」
「み、さか……?」
「それにしても、本当に来やがったよ! 一体コイツとどういう関係なんだぁ!? ギャハハハハ!!」

最も弱々しい声にも関わらず、上条の声は美琴に届いていた。
不良達の言葉なんて聞こえていなかった。
上条は聞こえていると思っているのか、それとも思っていないのか。どちらかは定かではないが、上条は言う。

「みさ…か………逃げ…ろ」
「ッ!!??」

美琴は上条の発言に唖然とする。
こんな時だというのに、美琴の身を案じる上条に美琴はすぐに腹が立った。
だけど、上条は気づいていないのか、言葉を続ける。

「コイツ……らの、狙……いは、お前…だ。だから―――ぅぐっ!?」
「うざってぇんだよ! クソが!!」
「ッ!!!!」

上条の言葉を遮るように放たれた蹴りが上条の腹に入る。
それを見た瞬間、美琴の中で何かが完全にキレる音がした。
不良の一人が鉄パイプを持って上条の頭の近くに立ち、大きく振りかぶった状態で止まる。

「ハハハッ。こいつをどうにかされたくなかったら動くんじゃ―――――」

不良が言い切る前に、不良のすぐ横を閃光が走る。
その一瞬後。
ズドォオオン!!!という轟音が聞こえた。
だが、轟音が聞こえる頃には不良たちはその余波で吹っ飛んでいた。
上条に最も近かった鉄パイプを持った不良は吹っ飛んだ後そのまま気絶していた。
無事だった不良の何人かは背後にできた穴を見て呆然とする。

「は?」

不良は何が起きたのか理解ができていない。
ただ、誰かが言った。

「レールガン……」
「はは、は。あれ、が?」

不良達は呆然とした状態で突っ立っていた。
もう、戦意なんて削ぎ落とされていた。
もしかしたら、気絶していた方がまだよかったかもしれない。
そんな中、美事はポツリと呟くように言った。
いつになく激しい電撃を身に纏って。

「……私を、本気で怒らせた馬鹿はアンタ達が初めてよ。……ちょーっと制御を失敗して死んじゃっても文句は言わないでね」
「は? っま、待ってくれよ! こ、これは軽い冗談だって! す、すぐに返すから!! や、やめてくれぇ!」

不良の内の誰かが命ごいをし始める。
それを見た他の仲間も各々何かを言いはじめた。
だが、そんな言葉はすでに美琴には届いてはいない。
先程よりもさらに電撃は激しさを増して。

「冗談……? 冗談でアンタ達はコイツをこんなにボロボロにしたんだ……。へえ。……死ぬ覚悟はもうできた?」

そんな中、不良の一人が銃を取り出して震えながら上条へと向ける。

「……こっ、これが見えねえのか! す、すこしでも動いたら―――」

言い切る前に、再び閃光が走る。
一瞬後、先程と全く同じ音が鳴り響き、廃工場に更なる穴を作り出す。
当然のように、銃をもった不良は吹っ飛んで気絶していた。
それを見た不良達は半狂乱に陥って、脚を震わせながら武器を持って美琴に襲い掛かってきた。

「う、うわあああああ!!??」

美琴は一切躊躇無く能力を発動させる。
上条には絶対に当たらないように配慮をして。


―――――廃工場はその日一瞬だけまばゆい光に包まれた。










上条当麻は目を覚ました。
真っ白な天井が最初に目に映る。
それを見て理解した。
ああ、またか。と。

その場所は上条の予想通り、いつもの病院のいつもの病室だった。
上条の身体には包帯が所々巻かれている。
その包帯をみて、昨日の事を思い出す。

(散々痛め付けられたなぁ……。そういえば御坂はっ!? 無事なのか!?)

上条は一瞬にして全てを思い出すと、美琴の安否を確かめようとベッドから上体を起こす。

(……あれ?)

そこで、気づく。
上条の右手に何かが触れていることに。
上条は恐る恐る右手の方を向く。
すると、御坂美琴が上条の右手を握りしめながら眠りこけていた。

(無事だったのか。…よかった)

上条は美琴が無事だとわかるとホッと胸を撫で下ろす。
そして、また右手に目を向けて、どうしようかと考える。

(…起こすのも悪いし。このままにしておくか)

そのまま放っておくことにして、上条は再びベットに身を沈める。
すると、右手の感触が動き始めた。
美琴が起きたようだ。

「ぅん………。ここは……?」
「起きたか?」
「へ? なんでアンタがここにっ!?」
「なんでって………。そもそもここは病院だぞ?」
「?」

美琴は状況を理解できていないのか、首を傾げる。
少しして、思い出したらしい美琴はすぐに心配そうな顔をして。

「あ、アンタ、怪我は大丈夫なの?」
「ん? おう。おかげさまでな」
「そっか……。よかった……」

心底ホッとしたような表情をみせる美琴をみて、上条は心配させちゃったかと反省する。
上条は朧げの記憶をはっきりさせるため、質問することにした。

「そういえばあの時、助けてくれたのは御坂なんだよな?」
「そうそうアンタ! アンタには言わなきゃいけないことが沢山あんのよ!!」

美琴は未だに手を握ったままだ。

「アンタ、なんで電話にでないのよ!? なんで何も言わないのよ!?」
「あ~………巻き込みたくなかったから」
「ま、巻き込みたくないって……元々私の問題でしょうが! 何アンタは勝手に一人で解決しようとしてんのよ!! それに、解決するならちゃんと解決しなさいよ。あんなボロボロになって、私が来なかったらどうするつもりだったのよ!?」
「……ごめん」
「ごめんじゃ済まないわよ……馬鹿」
「……ホントにごめん」
「私は…ホントに、ホントに心配したんだからね?」
「……悪かった」

上条は心の底から反省した。
美琴が涙目になっていたからだ。

「ッ!!!!」
「うおっ!? み、御坂……?」

突然美琴は上条に抱き着いた。
上条は突然の事に慌てるが、服が僅かに濡れて冷たいと感じたことで理解する。
耐え切れなくなって泣いてしまったようだ。
上条はどうしようかと少し悩んだ後、美琴の頭を抱くように右手をおいた。
それに少し驚いた美琴だったが、抵抗はしない。
しばらくその状態のまま時が流れる。
美琴はようやく上条の胸から離れると、ポツリと言った。

「アンタは、あんな状況でも私を心配なんてするし………。馬鹿」
「ははは。上条さんは馬鹿なのが売りなんですよ」
「……何よそれ。全くもってダメじゃない」
「そうですなー。全くもってダメですな」

二人は少しだけ笑った。
少しだけ空気が和む。
だが、すぐに美琴は真剣で、心配そうな顔になって。

「アンタは私みたいな能力者相手だと強いけど、不良が相手だと何もできないんだから、ヤバイと感じたら私を頼りなさいよ」
「……わかった」
「…ホントにわかってる? 今度似たようなことがあった時に頼ってこなかったら本気で怒るわよ?」
「わかってるって」

多分、同じことがあっても頼らない気がする。
美琴はそう直感していた。
だから、念には念を押して。

「アンタに頼ってもらえないと、私は自信をなくすんだからね。私はアンタに頼られないほど信頼も力もないのか。って」
「……わかった」

最初の「わかった」よりも、少し強めの言葉だった。
それを聞いて、ちゃんとわかってくれたと美琴は判断する。
少し息を吐いて、美琴はそばの籠からナイフと林檎を取り出した。
それを見て上条はうろたえる。

「え? み、美琴さん?」
「……何よ」
「できるんでせう?」
「バカにしないでよね。これくらいできるわよ」

そういうと、美琴は林檎の皮を剥きはじめる。
その手つきに危ういところはなかった。
少しその様子に見とれていると、美琴が視線に気づいたのか、少し照れと不機嫌が混じったような顔になる。

「……何よ?」
「い、いや、御坂もそういうことはできるんだなぁって」
「アンタ、私をどういうキャラだと思ってたのよ?」
「え、えっと不器用で怒りっぽくて泣き虫?」
「ほぅ、アンタは私をそういう風に見ていたと」

美琴の髪から電撃がバチバチいいはじめたのを見て上条は慌てる。

「わわっ! こ、ここは病院で俺は患者ですのことよーっ!? だ、だからビリビリをしまってくれるとこっちとしてはとてもありがたいのですがーっ!?」
「……でも、意外と当たってるかもね」
「…へ?」

あっさり電撃をしまった美琴に上条は驚く。
美琴は手を休める事なく、続ける。

「怒りっぽくて、泣き虫で、不器用なところはとことん不器用」
(特に、素直になれない所なんかはね)

「御坂?」

いつもと少し違う美琴の様子に上条は少し戸惑いを覚える。
美琴はそんな上条をジト目で見て。

「……アンタには泣き顔見せちゃったし」
「ぇ……その、それはなんていうか、すいませんでした」
「なんで謝るのよ」
「いや、女の子の泣き顔を見てしまった身としては、なんとなく謝った方がいいのかなと」
「……そうね、今まで誰にも見せたことない泣き顔をアンタに見られちゃったもんね。何か責任とってもらおうかしら」
「せっ…!? 責任!?」
(女の子が責任という言葉を使うととてつもなく不穏な響きがぁー!? しかも今回は本当に不穏な意味のような気がーっ!?)

頭を抱えて唸りはじめた上条を見て美琴は悪戯っぽく笑う。

「あら? 何を想像してるのかしら?」
「ッ!? な、なんにも想像なんてしてません軍曹殿!!」
「じゃあ、そういうことにしてあげるわよ。……責任、何をしてもらおっかな~♪」

なんだか上機嫌になった美琴は鼻歌を歌いだしそうな勢いだ。
上条は美琴の言葉に一体何をされるんだと怯える。

「はい、林檎できたわよ」
「おお、サンキュな」

美琴が剥いた林檎を受け取ると上条はシャリシャリと音をたてながら食べる。
その様子を美琴は黙って見守っていた。
上条は食べ終えると一言。

「ん、美味い」
「当たり前よ。この美琴さんが剥いてあげたのよ? 美味くなかったら張っ倒してるわよ」
「それもう脅しじゃねえか」
「でも黒子だったら卒倒してるわよ?」
「あー……なんか納得」
「……それはどっちに?」
「ん? 白井の性格なら卒倒するだろ、林檎は普通に美味しいからな」
「ッ!? なっ……。つ、つまり私の林檎は美味しいってこと?」
「さっきから美味いって言ってるじゃねえか」

美琴の顔は見る見るうちに赤くなっていく。
褒められたことが嬉しかったのだ。
その様子を怪訝に思った上条は尋ねる。

「ど、どうした御坂?」
「………ぁりがと」
「へ?」

消え入りそうな声でお礼を言われた上条は何故言われたのかよくわからなかった。
だけどまあ、お礼にはちゃんと応えるべきかと思って、

「ど、どういたしまして…?」

美琴はそれには何も言わないで、次の林檎を取り出して剥きはじめる。
その間に上条は残りを食べておく。
残り一切れというところで上条は尋ねる。

「せ、責任って結局俺に何をさせるつもりなんだ?」
「え? えっとそれは……痛っ!」

美琴の意識が完全に逸れてしまったからか、美琴は親指を軽く切ってしまった。
美琴は林檎とナイフを籠に戻した後どうしようか考えていると、

「大丈夫か? ほれ、指かしてみろ」
「へ? え? ええぇぇぇえええ!!??」

唐突に上条は美琴の指を吸いはじめた。
当然美琴はパニックに陥る。
だけど指を抜くこともできず(正確にはしたくない)に美琴はされるがままになる。
その間、美琴の顔は真っ赤である。

「まあ、こんなもんか。後は一応診てもらっとけよ?」
「ぇ、ぅ、ぅん……」

指を気にしながらも、美琴は消え入りそうな声と共に頷く。
自分のしたことの重大さに気づいていない上条はそれをみてやっぱまだ痛いのかな?などと考えていた。
一応指の出血は止まっていた。

あの後上条が「俺のことはいいからとにかく診てきてもらえ」というので美琴はカエル顔の医者の所へいき、絆創膏を貼ってもらった。
病室に戻ってみると上条は自分で林檎を剥いて食べていた。

「アンタ、自分で剥いて食べるってどうなのよ……?」
「おお、戻ったか。怪我の方は大丈夫かー?」
「わ、私よりも酷い怪我の奴が心配するんじゃないわよっ!」

半ば照れ隠し、半ば本音で上条の頭をチョップした。
怪我のこともあるし、病院内ということで電撃やグーで殴るとかはやめておいた。

「わ、悪い。……林檎食べるか?」
「だからなんで怪我人がお見舞いに来た人に食べ物あげんのよ!?」
「痛っ、痛ぁ!?」

今度は強めのチョップを2回食らわせる。
さすがに痛かったのか、上条は頭を抑えながら反論する。

「け、怪我人にチョップすんな! 一応頭も蹴られたりしてんだからっ!」
「………………ぁ、ごめん……」
「……えっと、御坂さん? そこまで反省されるとこっちは反応に困るんですが……」

急にしおらしくなってしまった美琴に戸惑ってしまう。迂闊にもその様子に可愛いと思ってしまうまでに。
試しに剥いた林檎を差し出してみるが、美琴はそれを受け取ると普通に食べはじめてしまった。

(え? あ、あれー? 美琴さんさっき言ってたことと行動がもう違いますよー!? お、俺はこういう時どうすればーっ!!??)

「……………おいしい」
「そ、そーかそーか。それはよかったなー。上条さんはうれしいです」
(だ、だからもう一体なにがどうなってんのーっ!? た、確かに頭は蹴られたりはしたけれど全然今は影響0なわけで気にする必要はないんだけど……なんとなく今の状態の御坂をもう少し見ていたいっていうか―――って俺は一体何を考えてるんだ! と、とにかくなにか話題を振らねば!!)

「そ、そーだ。結局責任って俺に何をさせるつもりだったんだ?」
「……え? うええええ!?」

あ、地雷踏んじゃったみたいですよ奥さん!などと心の中で叫んでみるがもう遅い。
美琴は混乱しているのか顔が真っ赤になりかけの状態で俯いてなにか呟いているが、聞こえない。

「み、御坂さーん? 大丈夫ですかー?」

美琴の顔の前で手をヒラヒラさせてみるが、反応がない。
どうしたものかと考えていると、美琴が顔を上げて睨みつけるように見つめてきた。

「め、めめめめめ、目を瞑りなさい!」
「は、はい!? い、いきなり何なん」
「い・い・か・ら!!」

強く言われて素直に従う上条。一体何をされるのかと冷や冷やしながら待つが、しばらく経っても一向に何も起きない。
目を開けてしまおうかと思ったが、バレると殺されそうな気がしたのでやめておいた。

「あ、あのー? 御さ―――ッ!!??」

唇が何かに塞がれた。2秒もしない内にソレは離れるが、回線がショートしてしまったように何をされたのかさっぱり理解できない。
終わった後も目を開けることも忘れて、そのままボケーっと呆けていた。もし今目を開けていたら顔を真っ赤にした御坂美琴を見ることができただろう。

「……なっ、何も言わないってどういうことよっ!!??」
「………………………………え? え? えええええええええっ!!!??? みっ、み、みみみ御坂さん!!?? い、今アナタは一体何を!!?? ナニをしたんでせうか!!??」

ようやくショートした回線を直して帰ってきた上条は目を開き、それでも混乱した頭の状態のまま美琴に訊ねる。
対する美琴はようやく返ってきた反応の中に含まれていた言葉で自分が何をしたのか思い出し、少し収まりかけていた顔を再び真っ赤にさせて俯いた。

「……な、何って…………………キ、キス」
「……な、なにゆえいきなりこのようなことをしたのでございますでありますでせうか」

既に上条は言語機能がおかしくなっている。再びショートしそうな状態である。
美琴は上条を直視できずに、俯いたままポツリと言う。

「…………責任」
「……………………へ?」
「私の泣き顔をみた責任」
「……………………え?」
(い、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!! それはおかしいんじゃないんでございませんでせうかー!? 責任と評して唇を奪うっていうのは何かがおかしいんじゃないんでせうか!!?? っというか―――――)

上条はもう何がなにやら意味が分からず混乱の極みに達して、再び頭はショートした。
なんだかもう、不良達にボコボコにされるのよりもダメージが大きい気がする。違う意味で。

「わ、わわわ私、か、帰るからっ!」

美琴はそう言うと立ち上がって足早に病室を去っていった。
その場には、頭が混乱しすぎて何も考えられなくなった少年がポツンと残るだけだった。





終わっとけ。


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