とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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survival dAnce



今日は二月十二日の朝だった、そのはずだ。

健全なる男子高校生・上条当麻にとって日ごろの朝のルーティーンはこうである。
目覚めたら、まずは寝ぼけ眼を擦りつつベッドから起床。
そしてトレードマークであるツンツン頭をガシガシと掻いてから洗面所で顔を洗い、意識をしゃきっとさせる。
後は食事や着替えを簡単に済まし、遅刻しない程度の時間に学校へと向かう。
いたって普通の、他の寮に住む一般学生とそれほど変わらないものだ。
ちなみに上条の寮の同居人だった銀髪シスター・インデックスは、現在所用でイギリスに帰還中である。
普段はインデックスの根城であるベッドを上条が使えているのは、そのためだ。
(そもそも冬の時期にバスタブなんかで寝ようものなら凍死しかねないというのもあるが)

しかしその日の朝、目覚めた上条の視界に飛び込んできたのはそんな当たり前の日常ではなかった。


オーシャンブルー。


その目の前に広がる光景を一言で表現するなら、上条にはこれしか思いつかなかった。
ぬけるような青空、どこまでも続く白い砂浜、そして透き通った美しい海のグラデーション。
下手な旅行代理店が書いた南国リゾートの紹介文のようだが、まさにそんな景色が上条の視界を支配していた。

「あは、あはははは………。これ、夢だよな? いけねいけね、早く現実に戻らねえと…」

海に近い砂浜の上に座っている上条は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、頬をつねったり、頭を自分の拳でぶん殴ってみたりといわゆるテンプレ的な「夢から覚める方法」を色々と試してみた。
しかし、目の前の光景は一向に変化がない。
定期的に聞こえるザザーンという波の音が、上条にこれは現実なんだよと囁きかけているようだ。
なんだよこれってやっぱり夢じゃねえのかちょっと待ってくれ俺確か昨日は普通に自分のベッドで寝てたよな一体どこでどんな謎フラグを立てたらこんなワケのわからないことになるんだつうかなんで枕と毛布だけはしっかりこの場にあるんだよ、とこれまでにも散々ワケのわからない体験をしてきている上条ですら頭が混乱していく。
そして次の瞬間、上条の混乱状態は加速する。

「う、うーん…………。ムニャムニャ」

どこかで聞き覚えのある声だ。上条は冷や汗をかきながらふと自分の右後方に視点を移すと、先ほどのオーシャンブルーとは比べ物にならないぐらいの衝撃が全身を走った。


そこにいたモノ。それは、緑のパステル色彩にゲコ太柄のパジャマを身に纏い、少し大きめの枕を愛おしそうに抱きながら砂浜の上で寝ている天下無敵のビリビリ中学生・御坂美琴だった。
体勢は横向きで、腰の上にはちょうど身体とクロスするような形で毛布が掛かっている。

「い! ちょっ、うぇっ? な、なんで御坂がいるんだ? というかコイツどんな格好で寝てんだよ本当に常盤台のお嬢様なんですかそのセンスは?」
上条は美琴の「可愛いもの好き」という意外な一面を、きるぐまーというファンキーな熊のぬいぐるみを持っていること、そしてゲコ太というどう考えても可愛く見えないカエルマスコットが好きだということ以外はあまり知らない。
そのため、普段のイメージとはあまりにかけ離れたお子様趣味全開なパジャマを見て、今が異常な状況にあることすら忘れて思わずツッコんでしまったのだった。
するとそのツッコミに反応したのか、美琴は体をわずかに揺らし、もそもそとゆっくりではあるが起床モードに突入する。
上条にとってこれはマズイ。ただでさえ今は頭がパニくってるというのに、これで美琴が起きようものならどうなってしまうことかもう予想もつかない。
上条は両腕を組み、美琴が起きないようにと普段信じてもいない神様に対し必死で祈りを捧げた。
しかし現実は、常日頃からいわれてる通り残酷なものである。
「ふわぁぁ」という小さく震えた声と共に、白雪姫ならぬ電撃姫が眠りから目覚める。


むくりと体を起こした美琴にとっても、目の前に広がるこの光景は正に非日常以外の何物でもなかった。
何せ昨日は常盤台の寮にいたはずなのに、目覚めてみればいきなり南国パラダイスである。
これってまだ夢なんだろうか? そう思った美琴は、自らの考えを確信させる存在がすぐそばにいることに気付く。上条当麻だ。
濃い緑色(正確には萌葱色)のトレーナーに、黒を基調に白のラインが入ったトレーニングパンツという服装のその少年は、この状況をどう説明すればよいのかと焦りに染まった表情で美琴を見つめている。
でもまだ半寝ぼけ状態の美琴は、その表情までには気付かない。

「ふふ、そうか……そうよね、これって夢よね。だって現実ならそもそもこの馬鹿が私の目の前にいるわけないし」
「あのー、御坂さん落ち着いて。信じられないかもしれないけど、まずは俺の――――」
「いっつも、いっつも私のことスルーしてくれちゃってさー。せめて夢の中ぐらい、私の好きにさせてもらうんだからねー…」
寝ぼけてるせいか少し伸ばし気味の語尾と共に取った美琴の行動は、上条の想像を遥かに絶するとんでもないものだった。


すりすり。すりすり。

美琴は両腕を上条の首の後ろに回し、まるでお気に入りのぬいぐるみを愛でるように自分の右頬を上条の右頬に擦りつけ始めたのである。それも、とても幸せそうな表情で。

(う、うぉ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

すりすり。すりすり。

いくらフラグ体質で多少のラッキースケベイベントには耐性のある上条といえど、ここまで過激な直接行動を受けた記憶はあまりない。
美琴のマシュマロのように柔らかい頬が上条の頬を刺激するたびに、そして美琴の髪から香るトリートメントの甘い匂いが上条の脳を直撃するたびに、理性が「震えるぞハート!! 萌え尽きるほどヒート!!」と言わんばかりにとんでもない勢いで溶けていく。
このままでは、この南国リゾート(?)の中心でアイを叫んだけものになってしまうのは確定である。
(そうだ、こんな時は素数を数えて落ち着くんだ…素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……俺に勇気を与えてくれる―――――はず)
上条は以前土御門に貸してもらったとある漫画の台詞を思い出し、何とか冷静さを取り戻そうと努める。
(2…3 5…7… 落ち着くんだ… 11…13…17)
本当に素数を数えることで理性をセーブできるのかは上条自身にもわからなかったが、とにかく必死なせいか、少しづつ今の攻撃にも耐性がついてきた。
よしこれで後は御坂を正気に戻すだけと、上条は「中学生に手を出したスゴイ人」の汚名を受けずに済みそうなことに心の中でガッツポーズを取る。
だが美琴の行動は、そんな上条の幻想をぶち壊す。


ぐりぐり。ぐりぐり。

攻撃第2弾開始ー!とばかりに、今度はおでこを上条のおでこにグリグリと押し付け始めた。
しかも相変わらず両手は上条の首の後ろに回したままだ。遠くから見るとキスしてるようにしか見えない。
事実、美琴と上条の唇は何度もニアミスする。
少なくとも記憶喪失後はファーストキス未体験の純情少年上条当麻にとって、これは先ほどとは別の意味でキツイ。
何しろほんの少しその気になればキス可能な上、逆に相手からされる可能性もあるわけで、まるで拷問である。
(おおおおおおおおおおお!!!!! ちょ、御坂さんまさかの第2形態ですか! この分だとあと最低2回は変身を残してるんじゃなかろうか……ってそんなこと考えてる場合じゃないだろ上条当麻! 御坂とキスだなんてそんな―――いやでも嫌かと言われれば決して嫌じゃないような気持ちも心の隅っこにほんの少し存在するような…ほっぺもスゴイ柔らかかったし……って何考えてんだ俺ーーーー!)
美琴のオラオラばりの波状ラッシュによって自分の中に急激に芽生えつつある邪な気持ちを何とか振り払ってもう一度素数を数え直そうかとする上条だったが、ふと美琴が動きをピタリと止めた。
上条は、これで攻撃終了か!良かった…と少し寂しいような気もしつつほっと一安心する。
だが、それは砂糖菓子に生クリームを塗りたくって、トドメにメープルシロップをぶっかけるぐらい実に、実に甘ったるい考えだった。
そんな上条をあざけ笑うように、美琴の攻撃は第3形態に突入する。


ぎゅっ。

シンプルイズベストは世の中の真理である。先ほどまでの行動が変化球、酒でいえば水割りやソーダ割りのような代物なら、今回の行動は混じりっけなしの濃度100%ストレート。
つまり簡単に一言でいえば、抱擁である。

両腕を上条の腰に回した美琴が、強い力で上条を自らの元に引き寄せる。
上条は、美琴の思っていたよりも華奢な身体、先ほども嫌というほど味わった女性特有の肌の柔らかさ、そして確かに当たっている控えめな胸の幸せな感触を、全身で骨の髄まで感じた。
心なしかトクントクンという美琴のリズミカルな心臓音まで聞こえるような気がする。
謎の幸せ脳内物質が上条の中で大量生産され、等価交換とばかりになけなしの理性が大量消費されていく。
(何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ??? そうかやっぱりこれって夢なんだなそうだよなそうでなきゃこの泣く子も黙る不幸体質の上条さんがこんな幸せ体験アンビリバボーな感覚に陥るわけないよな――って御坂さん当たってます!当たってますから!まさかあててんのよとか言うつもりじゃないだろうなでもそれにしては当ててるものは随分と小ぶりでいやもう考えてることがごめんなさいでごめんなさいでとにかくごめんなさいー!)
この時点で既にKO寸前の上条だったが、無慈悲な神はさらなる追い討ちをツンツン頭の少年に対して下す。
上条にやってきたもの。それは最終地獄ジュデッカだった。


すりすり。ぐりぐり。すりすり。ぐりぐり。

美琴は上条を抱き締めながらも、再び自らの頬を上条の頬に擦りつける。そして時折、おでことおでこをグリグリする動作をミックスさせてきた。
これまでに行われた全ての攻撃が、まさかの美しいコンビネーションを見せる。

(―――――――――――――――――――――――――――――――――チーン)

夢なんだから何してもいいんだもんねーと言わんばかりの美琴の大胆極まりない行動は、死神の鎌のように上条の思考判断能力を完全に掠め取った。


「もうやめて! とっくに上条さんのライフはゼロよ!」
そんな声がどこからか聞こえてそうなぐらい、上条は真っ白に燃え尽きていた。正確には0なのはHPというよりはMPの方だが。
もう冷静とか平常心とか素数とかどうでもいい。とにかく今はこの誘惑に溺れていたい。というより誘惑の段階から一歩も二歩も先に進んでしまいたい。
そう思った上条は、もっと美琴を全身で感じようと空っぽの頭から本能だけで身体を動かし、反撃とばかりに美琴の腰に両腕を回して優しく包み込もうとする。
しかし力をセーブするコントロールなど今の上条にあるはずはなく、思い切り強く抱き締めてしまう。
「あっ……………」
強く抱き締められた美琴は、驚きもあってか思わず少し苦しそうな声をあげた。
美琴の心臓の鼓動が、先ほどより速くビートを刻んでいく。
その声、そして鼓動音が、上条の失われた理性への蘇生呪文となる。
(ハッ、お、俺、何考えてたんだ! 相手は御坂だぞ、中学生だぞ! 夢だろうが何だろうが手ぇ出していいわけねえだろうが!)
本能だけで動いている獣からギリギリ人間にクラスチェンジした上条は自分がやろうとしていたことに驚愕し、美琴の腰から慌てて手を離す。
しかし美琴の攻撃は相変わらず終わりを見せない。それどころか上条の先ほどの行動で、さらにヒートアップしてるようにも思える。
このままでは再度MP0(エムゼロ)になるのも時間の問題である。
こうなったらもう今の桃色どころかR-18に突入しかねないこの空間を破壊しないことには上条に明日はない。
上条は最後の力を振り絞り、この桃色展開、そして美琴が抱いている「これ夢だよね」という幻想をぶち壊す。

「御坂ーーーー!!! これ多分現実だから!!! お願いだから上条さんを某条例で前科1犯にするのは勘弁して下さい!!!!!!」
上条の心からの絶叫に、今度こそ美琴の動きが完全に止まった。


「………………………………………………………………え?」
「いや、だからさ、あの、これ、多分、その、現実…………だと思うんですけど」
「え…………って、え、え、えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!」
上条からあまりにショッキングな事実を聞かされた美琴は、慌てて上条の腰から手を離し、同時に上条を思いっきり突き飛ばした。上条の身体が1メートル後方にダイブする。
「ぐはっ! お前、痛てーじゃねえか! 何なんですかそのいきなりこっちに近寄んないで的な行動は? そもそもお前から抱きついてきたんじゃねーか」
「あ……あ……あの……そ、その………こ………これは違くて……………その………………夢だと…………だって……………」
美琴は瞬間湯沸かし器のように顔を一瞬で紅潮させて、しどろもどろになりながら必死で弁解しようとする。
しかし美琴の行動は、夢だと思っていたではとてもじゃないが済まされないレベルの代物だ。
そもそもじゃあ何で夢の中だからってあんなことしたんだ?と上条に問われればもう試合終了である。
先ほどまでとは立場逆転で、今度は美琴の理性が急激な勢いでショートし始める。もう目の玉はグルグル状態だ。
賢明な読者なら、ここまで至った美琴がどうなってしまうかはもうご存知だろう。

「ふ、ふ」
「ふ?」
「ふ、ふにゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「う、うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」

雷嵐でも来たかのような激しい電撃音と共に、二人の絶叫がこの南国の地に響き渡った。


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