とあるファミレスで
昼下がり、少年と少女は街の中を歩いていた。
少年の名は上条当麻。幻想殺しという右手を持つ圧倒的不幸体質の高校生だ。
彼の隣には手を繋ぎ、楽しそうに歩く少女の姿がある。超電磁砲の御坂美琴だ。
二人は今日の夕飯の材料を買う為に外に出てきたのだが、今は何を作るか話しているようだ。
「んで?今日は何が食べたいのかしら?美琴様に言ってみなさい」
「そうだなー美琴の作るものなら何でもいいぞ」
「・・・なんとも作り甲斐のない台詞よね、ちょっとは真面目に考えろ!」
「そうだなー美琴の料理は美味しいから本当に何が出てきてもいいんだが・・・」
「美味しいって言ってくれるのは嬉しいけど、リクエストくれたほうが作る側としては更にモチベーションが上がるのよ」
「わーったよ、スーパーに付くまでに考えとくからそれまで待ってくれ、さっき昼飯食ったばかりで食べたいものが浮ばん」
「ったく、しょーがないわねー寛大な美琴様に感謝しなさい・・・っと?」
「美琴?どうした?」
美琴が急に立ち止まり横を向く、すると小さい塊のようなものが美琴に飛び込んできた。
電磁波の反射によって誰が接近してきたかは分かっていた美琴だが、
いきなり飛び込まれると予想してなかった為、僅かに体勢が崩れる。
だが、当麻がしっかりと支えてくれた為、倒れるような事はなかった。
そしてぶつかってきた物体に目をやるとそこには小さな子供が抱きついて頬ずりしていた。打ち止めだ
「お姉さまだーって、ミサカはミサカは抱きついてみたり!わーい」
「って、今はデート中だった?ってミサカはミサカは小首を傾げてみる!」
いきなり抱きついてきた打ち止めは美琴の隣で歩いていた当麻の存在に気付いたらしくそんなことを口にした。
「え?デートって言うか、買い物の途中かな。ちょろっと夕飯の材料を買いにね。
そういう打ち止めはここで何してたの?一方通行は一緒じゃないの?」
「あの人はあそこにいるよって、ミサカはミサカは指差してみたり」
打ち止めが指差した方向に目をやる。するとそこには学園都市の第一位、一方通行が立っていたのだが、どうも様子がおかしい。
いつも白い肌が今はより一層白く見える。というかオーラがない、ただ立ってるだけにも見えた。
「ねえ?どうしたのあいt・・!!」
美琴は打ち止めのほうを見るとそのポケットから顔を覗かせているあるものに気がついた。ゲコ太とピョン子の人形だ。
「ちょっとそれ見せて!つーかどこで手に入れたの!?」
「わわ!お姉さま!?いきなりどうしたのってミサカはミサカはお姉さまの豹変っぷりに驚いてみる!」
「いいから!見せて!いや!見せなさい!早く!」
「こら美琴、打ち止めがビックリしてるだろ。そのカエルが好きなのは分かるがちょっとは落ち着け」
「カエルじゃない!ゲ・コ・太!アンタ何回教えたら覚えんのよ!」
「うお!?いきなり何すんだよ!あぶねぇだろうが!しかも名前がアンタに戻ってるし!」
ゲコ太をカエルと言われて怒る美琴。雷撃の槍を数発放つが、全てかき消される。
付き合い始めてそこそこ経つが、怒ると呼び名が『アンタ』に戻ってしまうのは昔の名残だろうか
ある程度雷撃の槍を放ち終えると落ち着いてきたのか打ち止めのほうに向き直る。
「んで?結局それはどこで手に入れたの?教えてほしいんだけど」
「えっと、あっちにあるファミレスだよってミサカはミサカは指を差して説明してみる」
「当麻、行くわよ」
「は?どこに?てか一方通行本当どうした?さっきから一言も喋ってないぞ?」
「ファミレスに決まってんでしょ!一方通行ならほっといても大丈夫でしょ、第一位なんだし」
「理由になってねぇよ!それに買い物はどうすんだよ、その為にわざわざここまで来たのに」
「買い物なんて後で済ませればいいでしょ!なんでもいいからさっさと行くわよ!」
そう言うと美琴はまだ文句を言っている当麻の腕を掴み、強引にファミレスの方向へと引きずっていこうとする。
「痛ぇって!分かったから無理やり引っ張んなって!」
あまりの力に驚いた当麻はとりあえず腕を開放してもらい、捕まれた腕をさすっている。
(どんな力で掴んでんだよ・・・)と思いつつ、こうなってしまってはもはや当麻に美琴を止める術はなく諦めて従うことにした。
「打ち止め、悪いな。こうなった美琴は手が付けられないんだ、また今度会った時ゆっくり話でもしようぜ」
「うん!楽しみにしてるね!ってミサカはミサカは笑顔で答えてみる!」
「当麻ー!さっさとしなさいって言ってんでしょうがーー」
「はいはい、今行きますからビリビリしないでください・・・」
「またねーってミサカはミサカは手を振りながら見送ってみたりー」
もうゲコ太しか見えていないであろう美琴は別れの挨拶をしていた当麻に電撃を放つ、
その全てをかき消した当麻はどうしたもんかと思いつつ美琴に付いて行く。
「三下ァ・・・・頑張れよ・・・・」
「!?」
すれ違い様、消え入りそうな声で当麻に呟いた一方通行を振り返る。声を掛けようとしたが、美琴が阻止した為、それは叶わなかった。
当麻はもう一度振り返ると、まだ手を振っている打ち止めと、憔悴しきった一方通行に手を振ってその場を後にした。
(それにしても、本当にどうしたんだアイツ?それに何だ?頑張れって・・・)
ファミレスに向かう途中、当麻は一方通行の言葉を思い出し考え事をしていた。
遺言のように紡がれた言葉、表情の消えた顔。今までそんな顔を見たことがなかった当麻は何か重大な事件があったのかと思い心配になる。
しかし、対照的に打ち止めは嬉しくて堪らないといった顔をしていた事を思うと事件性は低そうだ。
となると、何があったのかまったく予想が付かないので、考えることを諦め隣を見る。
そこには目を輝かせ、少しだけ頬を染めている美琴が楽しそうに歩いている。
先ほどまで目的地一直線だった美琴は落ち着いたのか、歩くペースは元に戻り、いつものように手を繋いでいる。
「なあ、美琴」
「なに?当麻」
「そんなに欲しいのか?その・・・ゲコ太」
「当たり前でしょ、好きなんだから。」
「まあそれはいいけど、行く前にちゃんと打ち止めにお礼くらい言うべきだろ?折角教えてくれたのに」
「それは・・・ゴメン・・・」
当麻は美琴がいくらゲコ太が欲しいといっても、情報をくれた打ち止めに何も言わずに行動したことに不満を持っていた。
なので、落ち着いたのを見計らって注意をする。注意された美琴は少ししょんぼりして謝ってきたが、謝るべき相手はここにはいない。
(反省してるみたいだし、今回はこんなところか。あーでもまたゲコ太絡んだら駄目だろうなー)
っと心の中で思いつつ美琴の方に視線を戻し
「今から戻っても居ないだろうし、今度会った時にきちんとお礼を言うんだぞ」
「うん、分かった」
「よしよし、美琴はいいこだなー」
「ちょ・・っと!子ども扱いしなにゃいで・・・よ!」
物分りのいい子にご褒美といった感じで空いてる左手を使って頭を撫でる。
美琴は急に頭を撫でてきた当麻に悪態をつこうとしたが、嬉しさと心地よさでまともに喋れていない。
顔は真っ赤に染まり、今にもふにゃー化してしまいそうな勢いだ。
それでも付き合い始めたころはよく気絶していたので、何とか耐えれるようになった今は物凄い進歩だろう。
(今右手離したら漏電すんのかなー、漏電さえなけりゃいいんだけど・・・)
っと考えながら当麻は撫で続ける。漏電がなくなって欲しい事には理由があった。
家電関係が壊れる事。急な不幸が降りかかってきた時、得意の右手、能力が使用できない事。
そして何より自分の決意が守れない事。それは付き合い始めた時に心に決め、初めて手を繋いだ時に口にした言葉。
「美琴は左側な、ほら右手出せって」
「え?でも右手で繋がないと感電するかもしれないよ?」
「いいから、これは俺の信頼の証みたいなもんだ、美琴の全ては俺が受け止めてやるから。」
「・・・・・・・・・・ふ」
「ふ?」
「ふにゃー」
「ぎゃーーーーーーー」
当麻の言葉を聞き、手を繋いだ瞬間美琴は漏電した。信頼の証とした左手に幻想殺しはない。
全てを受け止めるといって無防備な左手で手を繋いだ彼は、
その言葉によって嬉しさのあまり漏電した美琴の電撃を文字通り『受け止める』という結果に終わった。
(うーん、あんな大層な事言っておいてそれ以来右手で繋ぐってのは情けないよな・・・)
あの後、W気絶という端から見ればなんとも奇妙な状況から復帰した二人はお互いに謝罪を繰り返した後、
やっぱり右手で繋ぐという結論に至っていた。
そんなちょっと恥ずかしい過去を思い出て苦笑していたが、突如胸に何かが当たる感触がして現実に戻った。
すると、美琴が胸に顔を埋めていた。しかし力が入っていないようでそのまま倒れ掛かる。
咄嗟に美琴を支える当麻は気が付いた。
「・・・・・・・・・・」
「気絶してやがる・・・」
そう、当麻は過去を振り返りながらずっと美琴の頭を撫でていたのだ。いつもなら気絶する前に止めるのだが、
この時は美琴の状態に気付かなかったようだ。仕方がないので美琴を背負い目的地であるファミレスに向かう事にした。
暫くして、目的地のファミレスが目の前に来たときに背中の姫様がもぞもぞと動き出した。
「ん・・・・」
「お、目覚めたか?」
「あれ・・・?私・・・?」
「いきなり気絶したからびっくりしたぜ、ここまで運ぶの大変だったんだぞ?」
「運ぶ・・?・・!?ちょっと、降ろしてよ!」
「うわ!こら、暴れんなよ!ったく・・・ほらよ」
「っていうか気絶したのって当麻のせいだからね!そこんとこちゃんと分かってる!?
私がもうやばいからやめてって言ってるのに全然やめてくれなかったからじゃない!!」
「うぐ・・・それは、そのすまん」
「んで?当麻は私が気絶寸前にも関らず何を考えてたワケ?返答によっては・・・」
ごそごそとポケットからコインを取り出しそれを見せ付ける。
「わー!こんなところで超電磁砲なんて使おうとすんじゃねぇー!分かった、分かったからコインは仕舞ってー!?」
「はぁ・・・こんな白昼堂々、人の多い通りで超電磁砲なんか使うわけないでしょーが。
さ、洗いざらいはいてもらおうかしら、ここは目立つからとりあえず中に入りましょ。」
「はい・・・」
当麻は観念し、美琴の後に付いてファミレスへと入っていった。
「それじゃ言い訳を聞かせてもらいましょうかね」
「当初の目的を忘れてないか?ほら、ゲコ太が欲しいんだろ?」
「話を逸らすな!ゲコ太は逃げないから後でいい!いいから吐け!」
「あれだけご執心だったのに!?」
「何?アンタは私に言えない様な事を考えてたワケ?彼女ほったらかして、ま、まさか別の女の事を・・・!?」
「だー!何でそうなるんだよ!?何でお前の頭は基本そっちに直結するんだ!?てかまた『アンタ』に戻ってるし!」
「アンタも『お前』に戻ってるじゃない!それに・・・」
そこまで言って美琴は押し黙った。
「・・・」
「・・・美琴?どうした?」
「・・・不安、なの・・・当麻がそんなことしないのは分かってる・・・でも!」
「当麻は私が目の前に居て、しかも気絶寸前にも関らず私よりその『考え事』を優先した、
それは私よりそっちのほうが大切だったって事じゃない!」
「美琴・・・」
「ごめん・・・ただの我侭なのは分かってるけど、私はいつでも当麻の一番でいたいの・・・」
そういうと美琴は俯いた。語尾も弱く、肩が僅かに震えている。もしかしたら少し泣いてるのかもしれない。
それを見た当麻は自分の過ちを自覚した。自分の一番大切な人を自分の手で悲しませている。
(本当に馬鹿だよな・・・俺)
とにかく美琴を安心させたい一心で、どの方法が一番効果的か考えた後行動を起こした。
「美琴、その、不安にさせてごめんな、そんな顔させるつもりじゃなかったんだけど、どうも上手くいかないな」
当麻は席を立ち、俯いている美琴の隣に座る。そして迷うことなくその頬にやさしく口付けをした。
美琴は自分がされた事に気が付き、顔を上げる。すると隣に居た当麻が素早く向かいの席に戻っていくところだった。
「な、なな、なな何やってんのよ!?こんなところで!?」
「何って、美琴が一番だって事を証明したんだが?言葉じゃ駄目そうだったから、行動でと思って」
「こ、行動でって、ここファミレスよ!?時と場所ってもんを少しは考えなさいよね・・・」
羞恥と喜びで真っ赤になって俯く美琴の語尾は弱々しい、当麻の方も少し赤くなっている。
「それよりも悪かったな、わざと話逸らそうとして。正直すげー恥ずかしかったから言いたくなかったんだが・・・
まさかこんなことになると思わなかったんだ、本当にごめん!!」
「う、うん・・・それで話してくれるの?」
美琴はさっきのキスの影響で少しぼーっとしているが、話は聞きたいようだ。
「ああ、実は初めて手を繋いだ時の事を思い出してな、いつか美琴の漏電すら受け止めてやろうって考えてたんだ」
「・・・本当、馬鹿よね」
「うぁぁぁぁーー!違うんですよ!決してあの電撃を浴び慣れればいいとか上条さんが実はMに目覚めてしまいそうとか
いや、既に受けとかもう口にしたくないし!!」
「違うわよ!私の事よ!なによ・・勝手に勘違いして、挙句昔の思い出に嫉妬するなんて・・・ばっかみたい!
当麻は私のこと一番に考えてくれてるのに、一人で突っ走って、勝手に自滅して・・・」
「そんな顔すんなよ。失敗したらそれを糧にして前に進めばいいんだからさ。美琴は美琴らしく、
してればいいと思うぜ?俺は良い所も悪い所も全部含めて美琴の事が好きなんだから。
それに前にも言っただろ?俺は美琴の全てを受け止めるってな」
「うん・・・ごめんね」
「ばーか、そこは笑顔で『ありがとう』だろ?」
「ありがとう・・・ねぇ、当麻」
「ん?」
「・・・大好き!」
「んな!?」
不意打ちに言葉を詰まらせる当麻。満面の笑みを浮かべて放たれた美琴の言葉に打ち抜かれ、その顔を真っ赤にしていく。
口をパクパクさせていると、不意に『おおおおおおおおおおーーーー!!!』という声が聞こえ辺りを見渡す。
すると店内にいた数名の客から歓声が上がり拍手が沸き起こっている。『いいもん見せてもらった!』『よかったわねぇ』
などと聞こえる。それもその筈、二人の声が大きかった為、会話が駄々漏れだったのだ。
二人は何を言われているか全く理解できていない。恥ずかしさのあまり言葉が出ない。
当麻は恥ずかしさで真っ赤にした顔で周囲の客に頭を下げるが、客たちは気にしてないよといった感じで席に着いていく。
席に着いたのを見て当麻も席に着き視線を元に戻す。すると未だに固まっている美琴に気が付いた。
「おい、大丈夫か?」
「・・・・うぅーーー」
「俺だってすっげー恥ずかしいんだ、それにしてももう少しトーンを下げないとな・・・」
「・・・うん」
「んで、どーする?このまま何も注文しないで出るのは気が引けるが退散したほうがよくないか?この雰囲気は・・・正直きつい」
「それは私もだけど、ゲコ太だけは手に入れたいんだけど・・・」
「わーったよ、んじゃとっとと注文して退散するぞ」
「うん、っとメニュー、メニューっと」
「これね、・・・・えっ!!」
メニューを見て美琴が固まる。どうした?といった感じでメニューを横から見た当麻も凍りつく
そこにはこう書かれていた
期間限定お子様ランチ650円 男の子用『ゲコ太人形』女の子用『ピョン子人形』
「さ、帰るか」
「・・・っ!待ちなさい!・・・・・・注文するわよ・・・」
「はぁ!?何言ってんだ!?お子様ランチだぞ?これは大人が注文するもんじゃねーって!!」
「そうだけど!でも欲しいのよ!それに私は中学生よ!大丈夫・・・な筈・・・」
「アウトに決まってんだろうが!っていうか散々子ども扱いがどうのこうの言っておいてこれはないぞ!」
「分かってるわよそんなの!でも欲しいものは欲しいの!」
スイッチが入ってしまった美琴は顔を真っ赤にしたまま注文を強行しようとする、
対して当麻は何とか阻止しようとするが堂々巡りになってしまい話が進まないので渋々了承する。
まさか自分の彼女がここまで病的なゲコ太好きという事実に衝撃を受けた当麻は大きくため息をついた。
「はぁーー・・・分かったよ、じゃあ美琴は『お子様ランチ』な俺はドリンクバーでいいや・・・」
「なんか言い方が気に入らないけど、っていうか当麻もお子様ランチよ」
「はぁ!?なんでそうなるんだよ!?」
「ちゃんとメニュー見なさい、男の子用、女の子用があるんだから当麻も注文しないと手に入んないでしょうが」
「さも当然の様に言うな!それに俺は高校生だぞ!?それこそ問題だろうが!」
「うっさい!中学も高校も大差ないわよ!男なら覚悟を決めなさい!」
「そんな覚悟いらないから!そんなに恥をかきたいのかよ!俺はまだまともな人間でいたいんだよ!」
「大げさね、そもそもメニューには年齢制限なんて書いてないし、ここは学園都市なんだから学生=子供みたいなもんでしょ」
「俺は美琴の将来が激しく不安になりました・・・とにかく、俺はパスするからな」
流石にこれだけは譲れない、当麻は断固拒否といった感じでこの後に襲い掛かるであろう言葉という攻撃を迎撃しようと構える、が!
「あの子は・・・持ってた・・・」
その言葉を聞いてハッとする。そうだ、確かに打ち止めは二つとも持っていた。っという事はお子様ランチを注文したはずだ。
「一方通行はあの子のために心を削たのに、当麻は私のためにそこまではしてくれないの・・・グス・・・」
普通に考えれば美琴の演技だということは分かるはずだが、今の当麻には見抜けない。
なぜなら、先ほどの勇者の言葉を思い出していたからだ。
『三下ァ・・・・頑張れよ・・・・』
当麻は戦慄した、打ち止めを笑顔にするために恥を捨て、己のプライドを捨てまでお子様ランチを注文したであろう彼に。
同時に悔しかった、自分の美琴に対する想いが彼が打ち止めを思う気持ちに負けた事に。
『三下ァ・・・テメェの想いはその程度だったンかよォ』
幻聴が聞える。
『今のテメェにゃ届きゃしねェよォ』
『負け犬のテメェは愉快に無様に地面に這いつくばってろよォ!』
実際のところそんな言葉は言ってないのだが、あまりの衝撃に混乱している当麻の心を揺さぶる。
そして思う、一方通行が頑張れといったのはどういうことなのか?すると今度は少し違った幻聴が聞えた。
『三下ァ!テメェの想いはその程度じゃねえ筈だろォが!さっさと立ち上がって敗者復活戦といこうぜェ!』
きっと彼なりに背中を押してくれているのだろう。そう考えた当麻は意を決して顔を上げる。
するとそこには不安そうに見つめてくる美琴がいた。その目にはうっすらと涙が溜まっていた。
「ねぇ・・・当麻・・・」
「・・・ダメ、かな?」
「ダメじゃない!」
即答だった、一方通行の幻聴で既に覚悟は出来ていたがそこに上目遣いの最終兵器投入。
無条件降伏しようとして扉を開けた瞬間に超電磁砲を打ち込まれたような状態だ。
「本当!?やったー!んじゃ早速っと♪」
美琴は当麻にばれない様に目薬を仕舞うと、満面の笑みで呼びボタンを押した。すると店員が注文を取りに来た。
店員はニコニコしていたが、営業スマイルかと思い特に気にしなかった。
「ご注文をお伺いしまーす」
「え、えっと・・・お子様ランチを二つ・・・」
美琴は廃人になりかけてる当麻の替わりごにょごにょしながらも注文をする
「以上でよろしいですか?ではご注文を確認させていただきます、お子様ランチが二つ、以上でよろしいでしょうか?」
「あ、はい(えっ?あっさり注文を受け付けた!?)」
店員のあまりにも普通すぎる対応に拍子抜けした美琴は思わず尋ねた。
「あの・・・こういうのって普通年齢制限とあるんじゃないですか?」
「ああ、この期間は特に制限とかは御座いませんよ、元々店長が『子煩悩なお父さんたちに根性を見せてもらう』
とか言って独断でやり始めたことですから」
「はぁ・・・」
「最近では隠れゲコ太ファンが彼氏を連れて来て注文っていう姿もみかけるんですよー
これには流石の店長も悪い事をしたかな、って言ってましたけど結局『男共に覚悟を見せて貰おう』ってなっちゃいまして」
「そうなんですか・・・」
げっそりする美琴だったが店員は更に続ける。
「貴方たちのさっきの会話は店長にも聞えてたみたいで厨房で泣いてましたよ。それで今やたら張り切ってます。」
「はい?張り切るって何を?」
「それは後のお楽しみです♪では少々お待ちください」
「何だったの?今の・・・それよりも厨房まで届く声って・・・どれだけ大声出してたのよ私ら」
「んで?当麻はいつになったら戻ってくるわけ?おーい」
目の前で手をひらひらさせるが反応がない。なにやら「幻想だ」「ぶち壊して」などとぶつぶつと呟いているが
一人で待ってるのは退屈なので軽く電撃を浴びせて強制的に連れ戻す。
「ハッ!俺は一体何をしていたんだ!?」
「はいはい、愉快に現実逃避してないで、注文は済ませといたから会話でもして待ちましょう」
「うぅ・・・上条さんは超えてはいけない壁を越えてしまったのですね・・・・」
「大げさね、さっき店員に聞いたけど結構いるみたいだから安心なさい」
「そういう問題じゃない!それにこういうのは今回で勘弁してくれ、心臓に悪いから」
「なによー当麻は私の全てを受け入れてくれるんでしょ?当麻にだけだからね、こんな我侭言うの」
「・・・ったく、おまえにゃ敵わねーよ」
「えへへ~、完全勝利!」
Vサインをし、高らかに勝利宣言をした美琴の顔は心から幸せそうだった。
その後、泣きながらサービス満点のお子様ランチを運んできた店長に驚き、
その大量に盛られたものを見て当麻は青ざめるのだった。