小ネタ 勘違いと恥ずかしさ
夕暮れの帰り道、いつもの自販機の前を通るところで、上条はジュースを飲んでいる美琴を見つけた。
上条は遠くからおーいと手を上げて声をかけると、美琴はびくりと飛び上がり持っていたジュースの缶を落としそうになった。
「よっ。今日もここにいるのか?」
「そ、そうよ。ここは私が通る通学路だもん。当然じゃない」
「通学路って、常盤台の通学路はここを通らないだろう」
「う、うるさい! そんなことはどうだっていいでしょう!」
まさか毎日上条に会うために通学路を離れてここを通るとは言えるわけはなかった。
それにすら気づかない上条はまあいいかとそれ以上は追求せず、それじゃあと背を向けてその場を去ろうとした。
「ってどこ行くのよアンタ!」
美琴の去ろうとする上条の背中に雷撃の槍を放った。上条は反射的にそれを右手で防ぐと、やっぱり不幸かと言ってため息をついて振り返った。
「あのな、何度も言うけど俺じゃなかったらどうするんだよ?」
「アンタだからやってるのよ。じゃなきゃこんな力使わないわよ」
「あ、そっ。それでなんか用があるのか?」
「用ってアンタが先に声をかけてきたんじゃない」
「俺はお前を見たから声をかけただけだから別に用なんてないぜ。御坂もないなら上条さんは今すぐにスーパーに行きたいんですけど」
「待ちなさい! 用なら今作るわよ」
というと美琴は腕を組んで考え始めた。
なんで考えてるんだと相変わらず美琴の想いに気づいていない上条は、美琴よりもスーパーの特売を気にしていた。時間はまだあるが道の途中で不幸な目にあう可能性が十分にあった上条からすれば早く済ませて欲しいものであったが、そんなことを知らない美琴は必死に考え続けていた。
「うーーーーーーーーん。うーーーーーーーーーーん」
「もしもーし。何もないんなら行きたいんですけど」
「あーもう黙ってなさいって! 用、用よね! だったらアンタが何か話す話題を見つけなさい」
「はぁ!? なんで俺が話す話題なんかを探さねえといけねえんだよ」
「いいから何か話す! それが終わったらスーパーでもどこだって行ってもいいから!!」
そういうならと上条は適当に思いついた話題を振ることにした。だがいざ振ろうと思うとデルタフォースの一員たちと不幸な話題しか思いつかなかった。
簡単な話題を見つけることって意外と難しいなと思った上条は、考え方を変えてちょっと面倒な話題を考えて見ると昨日読んだマンガから一つの話題を思いついた。それは女の子の美琴にはジャストな話題であったので、上条は迷わずにその話題を振ってみた。
「御坂って好きな人、いるか?」
「ふぇっ? ふぇぇぇーーー!!??」
上条が振った話題の元ネタは昨日読んだマンガ雑誌の読みきりにあったラブコメマンガから。その中の最初の場面で主人公がヒロインに質問されていた内容がぱっと浮かんだのそれを振ってみたのだ。
そんなことも知らない美琴は、恋愛方面に興味がなさそうな上条が自分にこの話題はを振るということは何かあると、上条とは別の方向へと考えを及ばせていた。
(これは言うべき?! というよりもこれってアイツが私に興味があるから言ったこと?! それとも別の女の子の件で?!)
(適当に振ってみたけど、意外と考えてるな。なんだ? 俺の言いづらい名前なのか??)
(でもこれはチャンス!! 告白の機会がなかったしここで私が頷けばそのまま言えかも!?)
(もしかしたら、訊いちゃいけないことだったか? 御坂も中学生とは言え女の子だし男の俺には言いにくいよな??)
「あ、あの……えっと……あ、ぅ……んん」
(これはやばいんじゃないか!? 言った後で黙っておきなさいって脅されるんじゃないでせうか?!)
質問をしてしまった話題に危機感を感じ始める上条と言うことも頷くことも躊躇してしまう美琴。お互いの考えはまったく別のものであり、互いに自分のことでいっぱいだった。
(言え! というよりも頷くだけでいいんだ!?)
(上条さんはまた厄介なことになっているのではなくて!!?? 自分の身が危ない気がしますのは何故でせうか!!??)
上条はと言うとこのまま逃げるべきかおかしな話題を振ったことに土下座して謝ろうか迷っていた。対する美琴はというと頷けばそこから話題は発展するので頷けと自分に念じて必死になっていた。
そして、必死になっていた二人の視線は戸惑うあまり様々な場所に彷徨い、最後には互いの視線が絡み合った。
「「………………」」
しばらく放心状態になる二人であった。その最中、放心状態であった美琴の手から持っていた缶がからんと音を立てて落ちた。
それが合図となって上条はスーパーの方向へ、美琴は常盤台の女子寮の方向へと走り去ってしまった。
「変な話題を振ってごめんなさーーーーーい!!!」
「そんな恥ずかしいこと、言えるわけあるかーーーーー!!!」
そして上条の不幸な一日と美琴の想いを伝えられなかった一日は今日も平和に過ぎていった。