パスタ専門店での恥ずかしいやり取りを思い出しながら、上条と美琴は再び専門店街をブラブラしている。
プレゼントを選ぶにあたって、どうせならお揃いにしようぜ、とあいなったのである。
「お揃いはいいけど、さすがにゲコ太は勘弁な」
「な、また馬鹿にしてんでしょ!」
美琴は上条を睨みつける。右手を繋いでいるので電撃は心配なさそうだ。
「もうお揃いのストラップ付けてんだから、他のにしような?」
「…………わ、わかったわよ」
不満気ながらもどうやら納得してくれたようで、上条は胸を撫で下ろす。
美琴色に染まっているとはいえ、身の回り全てがゲコ太になるのは勘弁したい。
「そこまでゲコ太がいいなら別にお揃いじゃなくてもいいじゃねぇか?巨大ゲコ太ぬいぐるみとかさ」
お前の部屋のクマぐらいのやつ、と付け足す。美琴の寮に飛び込んだ時に巨大なクマのぬいぐるみと遭遇したのだ。
美琴は一瞬考えた後、ぶんぶん!と首を振る。
「い……いや!アンタとお揃いであることに意味があんの!」
「はははっ、一瞬悩んだじゃねぇか」
美琴はむっと唇を尖らせる。電撃の一つでも浴びせてやりたいところだが、右手でしっかりと握られている。
「巨大ゲコ太は誕生日にでももらうことにするわ」
「15歳で巨大ゲコ太ね……」
上条が見守るような目で見ていると、美琴は眉をキッと吊り上げると空いている右手で握りこぶしを作る。
「なんなら、今日2つくれてもいいんだけど?」
「そうなった場合は、来年まで上条さんごとお世話になることになりますよ?」
上条は苦笑いを浮かべて、降参の意を示す。流石に2つもプレゼントを送ったら財布どころか口座まで空になる。
一般の人から見ればそんな大げさな、と言われかねないが、上条は貧乏学生である。
それに学園都市では嗜好品をはじめ『勉学に必要ないもの』は税率が高い。必然的に財布へのダメージも大きくなるのだ。
やめてくれ、と訴える上条をよそに、美琴は悩ましげに顎に手をやっていた。
「み、美琴?」
「ん、ゴメン。真剣に悩んじゃったわ」
「はい?」
パタパタと手を振って謝る美琴。いやにニコニコと笑顔なのが気になる。
(な、なんといいましたか?)
上条は目を点にしている。
「いやー、アンタを年末まで世話するのも面白いかなぁと思って。もちろん、泊まり込みで」
「ふっざけんなぁ!お前、そもそも寮はどうすんだよ?」
上条が慌てて拒否しているが、美琴はどこ吹く風だ。
「いや、ね。実は寮には今日から年明けまで実家に帰るって申請してるのよ」
「………はぁ?」
「今日は当麻の部屋に泊って、明日から実家に帰ろうと思ってたんだけど……当麻の部屋で年明けってのも悪くないわね」
ふふん、と自慢げな顔をする美琴。上条は美琴に流れを持っていかれつつあるのを自覚する。
「それじゃ、美鈴さんどうするんだよ?」
「そんなもん電話したら『じゃぁ、学園都市で年越しにしようか?』なんてことになるに決まってるでしょ」
(か、完璧だっ!?)
美琴の死角のないプランに妙な汗が流れる。
(考えろ!なにか、打開策はっ!?)
「ま、待て待て。そう、俺も実家に帰るんだぜ?お嬢様は、人の親の予定まで崩す気でせうか?」
上条はニヤリと口元を歪めると、自分の勝ちを確信する。強引な美琴ではあるが、さすがにそこまではしてこないだろう、と。
「あ………そうよね。うーん」
「ま、諦めろって。さっさとプレゼント選んじまおうぜ」
上条は知らない。母親同士が素晴らしく仲が良く、この手の話題が大好物であることを。
プレゼントを選ぶにあたって、どうせならお揃いにしようぜ、とあいなったのである。
「お揃いはいいけど、さすがにゲコ太は勘弁な」
「な、また馬鹿にしてんでしょ!」
美琴は上条を睨みつける。右手を繋いでいるので電撃は心配なさそうだ。
「もうお揃いのストラップ付けてんだから、他のにしような?」
「…………わ、わかったわよ」
不満気ながらもどうやら納得してくれたようで、上条は胸を撫で下ろす。
美琴色に染まっているとはいえ、身の回り全てがゲコ太になるのは勘弁したい。
「そこまでゲコ太がいいなら別にお揃いじゃなくてもいいじゃねぇか?巨大ゲコ太ぬいぐるみとかさ」
お前の部屋のクマぐらいのやつ、と付け足す。美琴の寮に飛び込んだ時に巨大なクマのぬいぐるみと遭遇したのだ。
美琴は一瞬考えた後、ぶんぶん!と首を振る。
「い……いや!アンタとお揃いであることに意味があんの!」
「はははっ、一瞬悩んだじゃねぇか」
美琴はむっと唇を尖らせる。電撃の一つでも浴びせてやりたいところだが、右手でしっかりと握られている。
「巨大ゲコ太は誕生日にでももらうことにするわ」
「15歳で巨大ゲコ太ね……」
上条が見守るような目で見ていると、美琴は眉をキッと吊り上げると空いている右手で握りこぶしを作る。
「なんなら、今日2つくれてもいいんだけど?」
「そうなった場合は、来年まで上条さんごとお世話になることになりますよ?」
上条は苦笑いを浮かべて、降参の意を示す。流石に2つもプレゼントを送ったら財布どころか口座まで空になる。
一般の人から見ればそんな大げさな、と言われかねないが、上条は貧乏学生である。
それに学園都市では嗜好品をはじめ『勉学に必要ないもの』は税率が高い。必然的に財布へのダメージも大きくなるのだ。
やめてくれ、と訴える上条をよそに、美琴は悩ましげに顎に手をやっていた。
「み、美琴?」
「ん、ゴメン。真剣に悩んじゃったわ」
「はい?」
パタパタと手を振って謝る美琴。いやにニコニコと笑顔なのが気になる。
(な、なんといいましたか?)
上条は目を点にしている。
「いやー、アンタを年末まで世話するのも面白いかなぁと思って。もちろん、泊まり込みで」
「ふっざけんなぁ!お前、そもそも寮はどうすんだよ?」
上条が慌てて拒否しているが、美琴はどこ吹く風だ。
「いや、ね。実は寮には今日から年明けまで実家に帰るって申請してるのよ」
「………はぁ?」
「今日は当麻の部屋に泊って、明日から実家に帰ろうと思ってたんだけど……当麻の部屋で年明けってのも悪くないわね」
ふふん、と自慢げな顔をする美琴。上条は美琴に流れを持っていかれつつあるのを自覚する。
「それじゃ、美鈴さんどうするんだよ?」
「そんなもん電話したら『じゃぁ、学園都市で年越しにしようか?』なんてことになるに決まってるでしょ」
(か、完璧だっ!?)
美琴の死角のないプランに妙な汗が流れる。
(考えろ!なにか、打開策はっ!?)
「ま、待て待て。そう、俺も実家に帰るんだぜ?お嬢様は、人の親の予定まで崩す気でせうか?」
上条はニヤリと口元を歪めると、自分の勝ちを確信する。強引な美琴ではあるが、さすがにそこまではしてこないだろう、と。
「あ………そうよね。うーん」
「ま、諦めろって。さっさとプレゼント選んじまおうぜ」
上条は知らない。母親同士が素晴らしく仲が良く、この手の話題が大好物であることを。
上条は美琴の後についてアクセサリーショップや雑貨屋などを転々としている。
美琴としては上条に選んで欲しいのだが、『俺はセンスねぇから美琴が決めろよ』とバッサリと切られてしまった。
その言葉を悔やむくらい恥ずかしいものを選んでやろうかとも思ったが、自爆を覚悟しきれない。
(婚約指輪とか言ってやろうかしら)
美琴はちらりとジュエリーショップに目をやる。大学生くらいのカップルが甘い空間を広げていた。
こういう店の店員さんは大変だろうな、と斜め上の感想を持ったところで、上条が隣にいない事に気づく。
「当麻?」
美琴が周りを見回すと、上条は興味深そうに商品の棚を見ていた。
「何見てんの?」
「あぁ、これなんかどうだ?」
上条の見ている棚には革製のブレスレットが並んでいた。細い2本の紐状革を編みあわせており、いくつかカラーバリエーションもあるようだ
「お前、能力的に金属だと危ねぇだろ?これだと問題ないと思うんだが……」
「危ないっていうほど問題はないけど……金属じゃない方がいいか、な」
美琴は上条が自分を気にしてくれたことに喜びながら、商品棚を見る。
「ねぇ、これ手作り出来んじゃないの?」
美琴は商品の隣のポップを指差す。それぞれの色を自由に組み合わせることでオリジナリティを出せるらしい。
ポップによると店の奥で制作することが出来るらしく、上条と美琴は連れだって店の奥に入って行く。
「いらっしゃいませ。レザーブレス作りでしょうか?」
店員の案内に従い、2人は椅子にかける。簡単に作り方の説明を受けると、隣の棚に案内された。
棚には様々な色の革紐が並んでおり、ここから2本とるらしい。
「んー、難しいな………何色にしよう」
「そんなに難しく考えなくてもいいわよ。そうね、アンタが私のを、私がアンタのを作るってことでいいわよね?」
「まぁ、プレゼントだからな……その代わり、俺のセンスには期待すんなよ?」
「大切なのは心よ。しっかり愛情込めてくれたらそれでいいの」
美琴はそこまで言うと、恥ずかしいのを隠すかのようにいそいそと革紐を選び始めた。
(さて、俺は何にするかね)
上条は横目で美琴を盗み見る。鼻歌まで歌いながら楽しげにアレコレと手にとっては返しを繰り返している。
(美琴に似合う色ね……)
上条は目の前にあった茶色い革紐をとる。美琴の髪に良く似たものだ。
「一つはコレだろ……」
もう一個だな、と上条は呟き、棚を見回す。恐ろしいくらいのカラーバリエーションがあることに驚愕しつつ、頭を悩ます。
(お、これなんかいいんじゃねぇか)
上条は目に飛び込んできた革紐を取ると、手元の茶色と並べてみる。あまり良い組み合わせではなさそうだ。
(ううん……でも、アイツのイメージっつったらこれだよなぁ)
茶色と、少しだけ青みがかった白。ビリビリをイメージしました、なんて言ったら怒られるだろうか、と上条は思う。
かといって、無難な他の色ってのも面白くない。ゲコ太カラーが頭によぎったが、上条は慌てて追い出した。
「コレでいっか」
上条はそう呟き、美琴に目をやる。まだ悩んでいた。
上条は優柔不断なお嬢様を放置し、先に制作に取り掛かる。
その後、手伝ってくれた店員にフラグを立てそうになり、選び終わった美琴が機嫌を損ねることになった。
美琴としては上条に選んで欲しいのだが、『俺はセンスねぇから美琴が決めろよ』とバッサリと切られてしまった。
その言葉を悔やむくらい恥ずかしいものを選んでやろうかとも思ったが、自爆を覚悟しきれない。
(婚約指輪とか言ってやろうかしら)
美琴はちらりとジュエリーショップに目をやる。大学生くらいのカップルが甘い空間を広げていた。
こういう店の店員さんは大変だろうな、と斜め上の感想を持ったところで、上条が隣にいない事に気づく。
「当麻?」
美琴が周りを見回すと、上条は興味深そうに商品の棚を見ていた。
「何見てんの?」
「あぁ、これなんかどうだ?」
上条の見ている棚には革製のブレスレットが並んでいた。細い2本の紐状革を編みあわせており、いくつかカラーバリエーションもあるようだ
「お前、能力的に金属だと危ねぇだろ?これだと問題ないと思うんだが……」
「危ないっていうほど問題はないけど……金属じゃない方がいいか、な」
美琴は上条が自分を気にしてくれたことに喜びながら、商品棚を見る。
「ねぇ、これ手作り出来んじゃないの?」
美琴は商品の隣のポップを指差す。それぞれの色を自由に組み合わせることでオリジナリティを出せるらしい。
ポップによると店の奥で制作することが出来るらしく、上条と美琴は連れだって店の奥に入って行く。
「いらっしゃいませ。レザーブレス作りでしょうか?」
店員の案内に従い、2人は椅子にかける。簡単に作り方の説明を受けると、隣の棚に案内された。
棚には様々な色の革紐が並んでおり、ここから2本とるらしい。
「んー、難しいな………何色にしよう」
「そんなに難しく考えなくてもいいわよ。そうね、アンタが私のを、私がアンタのを作るってことでいいわよね?」
「まぁ、プレゼントだからな……その代わり、俺のセンスには期待すんなよ?」
「大切なのは心よ。しっかり愛情込めてくれたらそれでいいの」
美琴はそこまで言うと、恥ずかしいのを隠すかのようにいそいそと革紐を選び始めた。
(さて、俺は何にするかね)
上条は横目で美琴を盗み見る。鼻歌まで歌いながら楽しげにアレコレと手にとっては返しを繰り返している。
(美琴に似合う色ね……)
上条は目の前にあった茶色い革紐をとる。美琴の髪に良く似たものだ。
「一つはコレだろ……」
もう一個だな、と上条は呟き、棚を見回す。恐ろしいくらいのカラーバリエーションがあることに驚愕しつつ、頭を悩ます。
(お、これなんかいいんじゃねぇか)
上条は目に飛び込んできた革紐を取ると、手元の茶色と並べてみる。あまり良い組み合わせではなさそうだ。
(ううん……でも、アイツのイメージっつったらこれだよなぁ)
茶色と、少しだけ青みがかった白。ビリビリをイメージしました、なんて言ったら怒られるだろうか、と上条は思う。
かといって、無難な他の色ってのも面白くない。ゲコ太カラーが頭によぎったが、上条は慌てて追い出した。
「コレでいっか」
上条はそう呟き、美琴に目をやる。まだ悩んでいた。
上条は優柔不断なお嬢様を放置し、先に制作に取り掛かる。
その後、手伝ってくれた店員にフラグを立てそうになり、選び終わった美琴が機嫌を損ねることになった。
「そろそろ行きますか」
上条は美琴の手を引くと、デパートを後にする。手間取ったレザーブレスもなんとか形にし、今は互いの腕に巻かれている。
因みに、上条の腕に巻かれているのはオレンジと淡めの黒のバンドである。どこぞの野球チームみたいなカラーリングであるが、上条は気にしない事にした。
外はすっかり暗くなっており、街中に施されたイルミネーションが瞬いている。
「ねぇ、当麻。何処に行くの?」
「着いてからのお楽しみ、って言いたいところだが、まぁ良いか。水族館ですのよ」
上条はポケットから折りたたまれたチラシを取り出す。空港に置いてあったものだ。
「なんか、夜間開園ってのがやってるらしくてな」
「ふーん。なかなか面白そうじゃないの」
美琴は上条からチラシを受け取ると、軽く目を通す。
「へぇ、こっから割と近いのね?」
「まぁ、ここに行きたかったから第6学区にしたんですけどね」
俺もそれなりに考えてるんですよ。上条は少しだけ恥ずかしそうに笑う。
「ふぅん。なかなかやるじゃないの。誉めてあげるわ」
口とは裏腹に、美琴は上条の右腕にぎゅっと抱きつく。おわっ、と上条が言うが気にしない。
そんな甘い空間を展開しながら歩いていると、目的の水族館に到着していた。
「さ、着きましたよ姫。チケット買うから、ちょっと離れてくれ」
「いーや。一緒に行けばいいでしょ?」
えへへへへ。美琴の緩みきった顔に、上条は溜息をつきつつもそのまま受付へと向かう。
水族館はその維持費などの問題から割と入場料が高かったりするのだが、夕方以降入場なので少しは安くなる。
そんなチケット代について、俺が出す、私が、いやいや自分のは自分で、今夜の宿台と思えばいいわ、なんてやり取りを経て、結局は美琴が出すことになった。
(年下の彼女にデート代を奢られるなんて……)
俺はヒモですかヒモなんですねヒモなんだよ、と自分の現状に落胆し、年明けからバイトでもすっか、と割と真剣に考えるのだった。
「この御恩は忘れませんよ」
「そのうち財布も一緒になるんだから気にしないの」
美琴は上条にチケットを渡す。心なしか挙動不審である。
「なんか、今恐ろしい事を聞いたような気がしたんでせうが?」
「だぁぁぁぁぁっ!!気にしなくていいの!ほら行くわよ」
美琴は顔を真っ赤にして上条の手を引くと、強引に入場していく。チケットをスタッフに渡し、ゲートをくぐった。
広めのフロントには大きな水槽があり、様々な魚達が泳いでいる。
「なぁ、美琴。さっきのはやっぱりプロポ………」
「あぁ、もう!うるさいうるさい!!そういうのは男がやるもんでしょうが!」
美琴はポカポカと上条の胸を叩く。その顔はゆでダコのようになっており、お湯でも沸きそうな勢いだ。
「美琴………」
上条は両手を美琴の肩に置くと、真剣な顔でその目を見つめる。
「え……」
(な、そんな……男がやるものって言ったけど……こんな所で?)
「こんな俺だけど……って美琴?」
「ふ、にゃぁぁ」
「み、美琴ぉぉぉぉぉ!!」
ばたんきゅー、と倒れてくる美琴を抱え、上条は端の椅子まで抱えて行くことになった。
当然、フロア中の注目を集めることになる。
さらには、その中にいた2人組の少女が『あれ、御坂さんと上条さんじゃない?』『ですよね、これはチェックです』と言っていた。
上条は美琴の手を引くと、デパートを後にする。手間取ったレザーブレスもなんとか形にし、今は互いの腕に巻かれている。
因みに、上条の腕に巻かれているのはオレンジと淡めの黒のバンドである。どこぞの野球チームみたいなカラーリングであるが、上条は気にしない事にした。
外はすっかり暗くなっており、街中に施されたイルミネーションが瞬いている。
「ねぇ、当麻。何処に行くの?」
「着いてからのお楽しみ、って言いたいところだが、まぁ良いか。水族館ですのよ」
上条はポケットから折りたたまれたチラシを取り出す。空港に置いてあったものだ。
「なんか、夜間開園ってのがやってるらしくてな」
「ふーん。なかなか面白そうじゃないの」
美琴は上条からチラシを受け取ると、軽く目を通す。
「へぇ、こっから割と近いのね?」
「まぁ、ここに行きたかったから第6学区にしたんですけどね」
俺もそれなりに考えてるんですよ。上条は少しだけ恥ずかしそうに笑う。
「ふぅん。なかなかやるじゃないの。誉めてあげるわ」
口とは裏腹に、美琴は上条の右腕にぎゅっと抱きつく。おわっ、と上条が言うが気にしない。
そんな甘い空間を展開しながら歩いていると、目的の水族館に到着していた。
「さ、着きましたよ姫。チケット買うから、ちょっと離れてくれ」
「いーや。一緒に行けばいいでしょ?」
えへへへへ。美琴の緩みきった顔に、上条は溜息をつきつつもそのまま受付へと向かう。
水族館はその維持費などの問題から割と入場料が高かったりするのだが、夕方以降入場なので少しは安くなる。
そんなチケット代について、俺が出す、私が、いやいや自分のは自分で、今夜の宿台と思えばいいわ、なんてやり取りを経て、結局は美琴が出すことになった。
(年下の彼女にデート代を奢られるなんて……)
俺はヒモですかヒモなんですねヒモなんだよ、と自分の現状に落胆し、年明けからバイトでもすっか、と割と真剣に考えるのだった。
「この御恩は忘れませんよ」
「そのうち財布も一緒になるんだから気にしないの」
美琴は上条にチケットを渡す。心なしか挙動不審である。
「なんか、今恐ろしい事を聞いたような気がしたんでせうが?」
「だぁぁぁぁぁっ!!気にしなくていいの!ほら行くわよ」
美琴は顔を真っ赤にして上条の手を引くと、強引に入場していく。チケットをスタッフに渡し、ゲートをくぐった。
広めのフロントには大きな水槽があり、様々な魚達が泳いでいる。
「なぁ、美琴。さっきのはやっぱりプロポ………」
「あぁ、もう!うるさいうるさい!!そういうのは男がやるもんでしょうが!」
美琴はポカポカと上条の胸を叩く。その顔はゆでダコのようになっており、お湯でも沸きそうな勢いだ。
「美琴………」
上条は両手を美琴の肩に置くと、真剣な顔でその目を見つめる。
「え……」
(な、そんな……男がやるものって言ったけど……こんな所で?)
「こんな俺だけど……って美琴?」
「ふ、にゃぁぁ」
「み、美琴ぉぉぉぉぉ!!」
ばたんきゅー、と倒れてくる美琴を抱え、上条は端の椅子まで抱えて行くことになった。
当然、フロア中の注目を集めることになる。
さらには、その中にいた2人組の少女が『あれ、御坂さんと上条さんじゃない?』『ですよね、これはチェックです』と言っていた。
「あうううう」
美琴は両肩を落とし、うなだれている。
「お前、いい加減その『ふにゃー』ってのなんとかならねぇのかよ」
「ううっ」
あれから15分は経ったというのに、2人は入ってすぐの椅子に腰かけている。
「まぁ、『ふにゃー』の美琴も可愛いんだけどな。毎回、気絶されちゃ上条さんも大変ですよ」
「どさくさに紛れて何言ってんのよ……」
「さぁさぁ、行きますよー」
上条は無理矢理に美琴を立たせると、半ば引きずるくらいの勢いで順路を巡る。
美琴は少し抵抗したものの、細い順路にさしかかったあたりで大人しくなった。
「へぇ、水族館って普通の魚もいんのね」
「お前は水族館たるものを何だと思ってたんだ?」
上条は目の前のお嬢様が急に遠い人間になってしまったように感じた。
白い目で見られていることも気づかず、美琴は水槽にはりつくと『あれがサーモンね』とか言っている。
「サーモンて…………寿司じゃねぇんだぞ」
「まぁ、良いじゃない。分かればいいでしょ?」
そうですね。上条はゲッソリとした顔で答える。このお嬢様は意外にも抜けているらしい。
(いったいどんな教育してんだよ、常盤台は…)
ペルシャ絨毯の修繕とか使えるのか分からないテクばかり教えてるんじゃないだろうか、上条はこれから先の事を思うとぞっとするのだった。
「ねぇ、当麻。金魚はいないの?」
「………きんぎょでせうか?」
「うん。久しぶりに金魚すくいしたいなぁー、って思って……って、どうしたの?そんな恐ろしい顔で」
美琴は首を傾げている。上条はワザとらしく溜息をついている。
「水族館に金魚はいないと思いますよ?というか、熱帯魚すらそんなにいねぇだろ?」
「なんで?」
「お前は動物園で飼い犬をみて喜ぶ人間なのか?」
上条は頭を抱える。これからのためにも、上条の常識と美琴のそれを繋いでおくことが大切そうだ。
「………どういうこと?」
「普段見れねぇモンを見に来るんだろ?それと、水族館じゃ金魚すくいなんかやってねぇからな」
美琴は一瞬残念そうな顔をすると、次の水槽へと向かっていく。
(誤魔化す気かよ)
上条はそれを追いかけて、美琴が見ている水槽の前まで行く。
「あ、見て見てコイツ。当麻みたい」
「ん……って、そりゃウニじゃねぇか。せめてハリセンボンにして欲しかった」
「あはは。対して変わんないでしょ?」
「いやいや、ハリセンボンの方が愛くるしいというかですね……」
しょぼーん、肩を落とす上条。心なしか頭のツンツンにも元気が無い。
「あ、こっちはクラゲ……クラゲって、可愛いのね」
美琴はガラスを指先でコンコンと叩く。中のクラゲは、そんなことにもお構いなしにふわふわと漂っていた。
「もっとグロテスクなもんかと思ってたけど」
「まぁ、グロいやつもいるけどな」
上条は気を取り直して美琴と同じクラゲを見る。
(お前はのんきそうで良いよなぁ)
上条は目の前でふわふわしているクラゲを羨む。クラゲにはクラゲなりの悩みがあるかもしれないが。
「隣にこんな美少女がいるのに、なに1人で感傷に浸ってんのよ?」
「クラゲは悩みがなさそうでいいな、と思ってな。あと、自分で美少女って言うなよ」
すいませんねー、とでも言うように上条は美琴の頭をぽんぽんと叩く。
「ま、こうやって悩めるのも幸せなんですけどね」
上条は遠くを見つめるような目で別の水槽に視線を移す。
(彼女が可愛すぎて悩んでるなんて、上条さんは罰が当らないか心配ですよ)
美琴は怪訝そうな顔で覗き込むが、上条は反応しない。
「悩み事なら私が聞いてあげるけど?」
「まだ美琴たんには早いですよ。今はゆっくり1人で考えます」
美琴たん言うな、と膨れっ面の美琴は少しだけ力を込めて上条の背を叩く。
「痛い」
「私に言えないようなことなの?」
美琴は真剣な顔で上条を見る。隠そうとしてはいるが、美琴の顔からは少しだけ不安が見て取れる。
「別に外に出て行ったりとかじゃねぇし、ましてや他の女の子の話でもないから。そんな心配すんなよ」
「……………」
それでも美琴は納得できないような顔をしている。
上条はどこまで言うか少しだけ逡巡した後、美琴の頭を優しく撫でる。
「まぁ、そうだな………お前が高校卒業したくらいになったら聞かせてやるよ」
「……うん」
「だから、今は今を楽しもうぜ?」
そうね、美琴はそう言うと、にっこりと笑う。上条は美琴の頭から手を離すと、彼女の左手をとる。
(それまでに色々と準備しないとな。バイトの給料3ヶ月分じゃダメだよなぁ)
上条は秘めたる決意を心に刻むのだった。
美琴は両肩を落とし、うなだれている。
「お前、いい加減その『ふにゃー』ってのなんとかならねぇのかよ」
「ううっ」
あれから15分は経ったというのに、2人は入ってすぐの椅子に腰かけている。
「まぁ、『ふにゃー』の美琴も可愛いんだけどな。毎回、気絶されちゃ上条さんも大変ですよ」
「どさくさに紛れて何言ってんのよ……」
「さぁさぁ、行きますよー」
上条は無理矢理に美琴を立たせると、半ば引きずるくらいの勢いで順路を巡る。
美琴は少し抵抗したものの、細い順路にさしかかったあたりで大人しくなった。
「へぇ、水族館って普通の魚もいんのね」
「お前は水族館たるものを何だと思ってたんだ?」
上条は目の前のお嬢様が急に遠い人間になってしまったように感じた。
白い目で見られていることも気づかず、美琴は水槽にはりつくと『あれがサーモンね』とか言っている。
「サーモンて…………寿司じゃねぇんだぞ」
「まぁ、良いじゃない。分かればいいでしょ?」
そうですね。上条はゲッソリとした顔で答える。このお嬢様は意外にも抜けているらしい。
(いったいどんな教育してんだよ、常盤台は…)
ペルシャ絨毯の修繕とか使えるのか分からないテクばかり教えてるんじゃないだろうか、上条はこれから先の事を思うとぞっとするのだった。
「ねぇ、当麻。金魚はいないの?」
「………きんぎょでせうか?」
「うん。久しぶりに金魚すくいしたいなぁー、って思って……って、どうしたの?そんな恐ろしい顔で」
美琴は首を傾げている。上条はワザとらしく溜息をついている。
「水族館に金魚はいないと思いますよ?というか、熱帯魚すらそんなにいねぇだろ?」
「なんで?」
「お前は動物園で飼い犬をみて喜ぶ人間なのか?」
上条は頭を抱える。これからのためにも、上条の常識と美琴のそれを繋いでおくことが大切そうだ。
「………どういうこと?」
「普段見れねぇモンを見に来るんだろ?それと、水族館じゃ金魚すくいなんかやってねぇからな」
美琴は一瞬残念そうな顔をすると、次の水槽へと向かっていく。
(誤魔化す気かよ)
上条はそれを追いかけて、美琴が見ている水槽の前まで行く。
「あ、見て見てコイツ。当麻みたい」
「ん……って、そりゃウニじゃねぇか。せめてハリセンボンにして欲しかった」
「あはは。対して変わんないでしょ?」
「いやいや、ハリセンボンの方が愛くるしいというかですね……」
しょぼーん、肩を落とす上条。心なしか頭のツンツンにも元気が無い。
「あ、こっちはクラゲ……クラゲって、可愛いのね」
美琴はガラスを指先でコンコンと叩く。中のクラゲは、そんなことにもお構いなしにふわふわと漂っていた。
「もっとグロテスクなもんかと思ってたけど」
「まぁ、グロいやつもいるけどな」
上条は気を取り直して美琴と同じクラゲを見る。
(お前はのんきそうで良いよなぁ)
上条は目の前でふわふわしているクラゲを羨む。クラゲにはクラゲなりの悩みがあるかもしれないが。
「隣にこんな美少女がいるのに、なに1人で感傷に浸ってんのよ?」
「クラゲは悩みがなさそうでいいな、と思ってな。あと、自分で美少女って言うなよ」
すいませんねー、とでも言うように上条は美琴の頭をぽんぽんと叩く。
「ま、こうやって悩めるのも幸せなんですけどね」
上条は遠くを見つめるような目で別の水槽に視線を移す。
(彼女が可愛すぎて悩んでるなんて、上条さんは罰が当らないか心配ですよ)
美琴は怪訝そうな顔で覗き込むが、上条は反応しない。
「悩み事なら私が聞いてあげるけど?」
「まだ美琴たんには早いですよ。今はゆっくり1人で考えます」
美琴たん言うな、と膨れっ面の美琴は少しだけ力を込めて上条の背を叩く。
「痛い」
「私に言えないようなことなの?」
美琴は真剣な顔で上条を見る。隠そうとしてはいるが、美琴の顔からは少しだけ不安が見て取れる。
「別に外に出て行ったりとかじゃねぇし、ましてや他の女の子の話でもないから。そんな心配すんなよ」
「……………」
それでも美琴は納得できないような顔をしている。
上条はどこまで言うか少しだけ逡巡した後、美琴の頭を優しく撫でる。
「まぁ、そうだな………お前が高校卒業したくらいになったら聞かせてやるよ」
「……うん」
「だから、今は今を楽しもうぜ?」
そうね、美琴はそう言うと、にっこりと笑う。上条は美琴の頭から手を離すと、彼女の左手をとる。
(それまでに色々と準備しないとな。バイトの給料3ヶ月分じゃダメだよなぁ)
上条は秘めたる決意を心に刻むのだった。
その後、上条たちは寝てるイルカに衝撃を受けたり、岩の隙間に潜む魚と美琴がにらめっこを始めたり、水族館を満喫し帰路に就いた。
入館者はカップルが多かったせいか、注目を集めることもなく『2人だけの現実』内での動くことができて、美琴は幸せいっぱいである。
もちろん、上条も幸せいっぱいではあるのだが、恋人となってから妙にくっついてくる美琴に圧倒されていたりもする。
「んーっ、面白かったわね」
「そうだな。お前が魚とにらめっこしてる時は置いて帰ってやろうかと思ったけどな」
やれやれ、と上条は外国人みたいなリアクションをして美琴を見ると、お約束のように恥じらっている。
「んなっ!?あれは……アイツが変な顔してきたからよっ」
「向こうは『なんだコイツ!?』って思ってただろうな」
「うっ、うるさいっ!!」
美琴の前髪からビリビリッと電撃が走る。上条はうわっ、と驚きながらもしっかりと右手で打ち消していた。
「なんだよ、ビリビリ卒業じゃねぇのか?」
「アンタが悪いんでしょうが!それに、どうせ打ち消しちゃうんだからいいでしょ」
「いやいやいや、そういう問題じゃないだろ」
分かってるわよ。そう言って口を尖らせて帯電しているお嬢様の頭に右手を置く。
「またそうやって子供扱いする」
「子供扱いじゃねぇよ。俺がやりたいからやってんだ」
「もうちょっと上手く誤魔化したり、気の利いた事でも言えないの?」
「上条さんはそんな器用じゃないですよ」
憎まれ口を叩きながらも僅かに口元を緩めてしまう。美琴は素直になりきれない自分に呆れる。
告白を契機にかなり素直になったとは思うが、それでもこんな風に上条を困らせてしまう。
(我ながら、嫌な奴よね)
上条はそんな素直になれない美琴も好きだったりするのだが、美琴は知る由もない。
「………ごめんね」
「ん、なんて?」
「いっつもビリビリして、ごめん」
しおらしい美琴もアリだな、と不謹慎なことを考えながら、上条は隣でしゅんとしている美琴の手をとった。
「ビリビリしないに越したことはないけどな」
「……うん」
「素直になりきれない美琴たんも、上条さんは好きなんでせうよ?」
上条は出来るだけ優しく笑いかける。美琴は顔を俯けていて表情は分からない。
「ってことはさ……たまにはビリビリしてもいいってこと?」
「たまにならいいぜ?しっかり受けてやるよ」
「じゃぁ、早速……そんな恥ずかしいセリフをこんなとこで言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
美琴の前髪からもう1度雷撃の槍が飛ぶ。右手で何とか打ち消すと、現状を把握しきれてない上条は美琴の様子をうかがう。
さっきよりも強めに帯電している。怒ってるのか、恥ずかしがってるのかはよく分からない。
「ど、どうした?」
「まわり、見てみなさいよ」
言われたとおりに周りを見る。微笑ましげに2人を見守る人たちで溢れていた。
「たぁまぁにぃなぁらぁ………良いのよね、ビリビリしてもぉっ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
一方的な電撃キャッチボールを求めてくる美琴から、上条は一目散に逃げる。右手で消せるといってもやっぱり怖い。
「待てやコラァァァッ!!」
「待てと言われて待つかぁぁぁぁぁぁっ」
上条は全力で駆け、美琴はそれを全力で追う。久しく見られなかった追いかけっこが繰り広げられる。
「あぁ、もうっ!」
上条は例の口癖を叫ぼうとした寸でのところで、喉元まで来た言葉を飲み込む。
(不幸じゃ、ねぇよな)
上条は口元を緩める。恐らくは追いかけてくる美琴も同じ表情をしているだろう。
「あぁ、もう!どうにでもなれぇぇっ!!」
結局は一晩中追いかけっこを繰り広げるのだった。
入館者はカップルが多かったせいか、注目を集めることもなく『2人だけの現実』内での動くことができて、美琴は幸せいっぱいである。
もちろん、上条も幸せいっぱいではあるのだが、恋人となってから妙にくっついてくる美琴に圧倒されていたりもする。
「んーっ、面白かったわね」
「そうだな。お前が魚とにらめっこしてる時は置いて帰ってやろうかと思ったけどな」
やれやれ、と上条は外国人みたいなリアクションをして美琴を見ると、お約束のように恥じらっている。
「んなっ!?あれは……アイツが変な顔してきたからよっ」
「向こうは『なんだコイツ!?』って思ってただろうな」
「うっ、うるさいっ!!」
美琴の前髪からビリビリッと電撃が走る。上条はうわっ、と驚きながらもしっかりと右手で打ち消していた。
「なんだよ、ビリビリ卒業じゃねぇのか?」
「アンタが悪いんでしょうが!それに、どうせ打ち消しちゃうんだからいいでしょ」
「いやいやいや、そういう問題じゃないだろ」
分かってるわよ。そう言って口を尖らせて帯電しているお嬢様の頭に右手を置く。
「またそうやって子供扱いする」
「子供扱いじゃねぇよ。俺がやりたいからやってんだ」
「もうちょっと上手く誤魔化したり、気の利いた事でも言えないの?」
「上条さんはそんな器用じゃないですよ」
憎まれ口を叩きながらも僅かに口元を緩めてしまう。美琴は素直になりきれない自分に呆れる。
告白を契機にかなり素直になったとは思うが、それでもこんな風に上条を困らせてしまう。
(我ながら、嫌な奴よね)
上条はそんな素直になれない美琴も好きだったりするのだが、美琴は知る由もない。
「………ごめんね」
「ん、なんて?」
「いっつもビリビリして、ごめん」
しおらしい美琴もアリだな、と不謹慎なことを考えながら、上条は隣でしゅんとしている美琴の手をとった。
「ビリビリしないに越したことはないけどな」
「……うん」
「素直になりきれない美琴たんも、上条さんは好きなんでせうよ?」
上条は出来るだけ優しく笑いかける。美琴は顔を俯けていて表情は分からない。
「ってことはさ……たまにはビリビリしてもいいってこと?」
「たまにならいいぜ?しっかり受けてやるよ」
「じゃぁ、早速……そんな恥ずかしいセリフをこんなとこで言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
美琴の前髪からもう1度雷撃の槍が飛ぶ。右手で何とか打ち消すと、現状を把握しきれてない上条は美琴の様子をうかがう。
さっきよりも強めに帯電している。怒ってるのか、恥ずかしがってるのかはよく分からない。
「ど、どうした?」
「まわり、見てみなさいよ」
言われたとおりに周りを見る。微笑ましげに2人を見守る人たちで溢れていた。
「たぁまぁにぃなぁらぁ………良いのよね、ビリビリしてもぉっ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
一方的な電撃キャッチボールを求めてくる美琴から、上条は一目散に逃げる。右手で消せるといってもやっぱり怖い。
「待てやコラァァァッ!!」
「待てと言われて待つかぁぁぁぁぁぁっ」
上条は全力で駆け、美琴はそれを全力で追う。久しく見られなかった追いかけっこが繰り広げられる。
「あぁ、もうっ!」
上条は例の口癖を叫ぼうとした寸でのところで、喉元まで来た言葉を飲み込む。
(不幸じゃ、ねぇよな)
上条は口元を緩める。恐らくは追いかけてくる美琴も同じ表情をしているだろう。
「あぁ、もう!どうにでもなれぇぇっ!!」
結局は一晩中追いかけっこを繰り広げるのだった。
「おめでとうございます」
もう何度めだろうか。テンプレ気味のセリフで応対し、適当なところで会場入りを勧める。
肩のこる着なれない服に身を包み、大きな扉の前で相方を待っている。
「ここまで、色々あったなぁ」
脳裏に蘇る様々な記憶。
あれだけ色んな事があった魔術やら能力者との死線も今は遠い過去のようだ。
全てにカタがついてからの平和でドタバタしていた日常の方が長く感じるくらいに。
「ほんっと、色々あったよ」
怒涛のように告白された人生最大のモテ期もあったし、同居人との別れもあった。
豊胸の手伝いをしろなんて言われた事もあったし、2人して後輩に尋問されたりもした。
卒業できるように強化合宿と称したスパルタ講習もあれば、何をすることもなくぼーっと過ごす日々もあった。
大覇星祭でガチンコ勝負もしたし、一端覧祭でのドタバタもあった。
辛い事も嬉しい事も、イライラすることもぼーっとすることも。全てが重なった上に『今』がある。
いつだったかは『しあわせになれればなんでもいいです』とか書いたこともあったが、今は十分に幸せだ。
「まったく、お釣りを払ってもいいくらいだ」
ガラにもなく神様とやら感謝したくもなる。特に裕福なわけでもないが、なんでもない日常が幸せだ。
「お待たせ」
廊下の方から純白のドレスを纏った恋人が出てくる。いや、恋人だった人が。
扉の向こうには今まで関わった色んな人が待っているだろう。
主義も思想も生まれも身分も異なった人たちではあるが、みんなが自分たちの幸せを祝いに来てくれたのだろう。
そう思うと、自然に笑みがこぼれた。
「じゃぁ、いくか」
「うん」
彼女は右手に腕を絡ませると、満面の笑みを浮かべていた。
扉が開き、赤い絨毯の敷かれた一本の道が目の前に伸びる。特に合図することもなく、2人はその道を歩く。
普通はこのように2人で歩く道ではない。
『君らは小さいころから自分で選んで育ってきたんだからな。君ら2人で歩くべきだろう』
そう言ったのは、彼女の父だったか。出番を奪ってしまい申し訳なく思う一方で、自分を認めてくれた事を喜んだ記憶がある。
少し周りを見てみると、元クラスメイト達や魔術関連の人間。本当にたくさんの人がいた。
隣の彼女は後輩に小さく手を振っている。
唯一の気がかりと言えば、共通の『家族』である銀髪の女の子がいない事。なにやら外せない用があるらしい。
前を向くと、祭壇の前に人の背中が見えた。
(今日の神父さん………あれ?)
男にしては小さな肩幅。それに、どこか見たことのある背中。隣の彼女を見ると目があった。
どうやら同じことを考えていたらしい。少し驚いた顔をしている。
「私は敬虔なる修道女です。だから2人の門出を思いっきりお祝いしてあげるんだよ」
シスターが振り返る。フードと共に長い銀髪が舞った。
「おめでとう、とうま、みこと」
「ありがとう、インデックス」
会場に溢れんばかりの拍手が起こった。
もう何度めだろうか。テンプレ気味のセリフで応対し、適当なところで会場入りを勧める。
肩のこる着なれない服に身を包み、大きな扉の前で相方を待っている。
「ここまで、色々あったなぁ」
脳裏に蘇る様々な記憶。
あれだけ色んな事があった魔術やら能力者との死線も今は遠い過去のようだ。
全てにカタがついてからの平和でドタバタしていた日常の方が長く感じるくらいに。
「ほんっと、色々あったよ」
怒涛のように告白された人生最大のモテ期もあったし、同居人との別れもあった。
豊胸の手伝いをしろなんて言われた事もあったし、2人して後輩に尋問されたりもした。
卒業できるように強化合宿と称したスパルタ講習もあれば、何をすることもなくぼーっと過ごす日々もあった。
大覇星祭でガチンコ勝負もしたし、一端覧祭でのドタバタもあった。
辛い事も嬉しい事も、イライラすることもぼーっとすることも。全てが重なった上に『今』がある。
いつだったかは『しあわせになれればなんでもいいです』とか書いたこともあったが、今は十分に幸せだ。
「まったく、お釣りを払ってもいいくらいだ」
ガラにもなく神様とやら感謝したくもなる。特に裕福なわけでもないが、なんでもない日常が幸せだ。
「お待たせ」
廊下の方から純白のドレスを纏った恋人が出てくる。いや、恋人だった人が。
扉の向こうには今まで関わった色んな人が待っているだろう。
主義も思想も生まれも身分も異なった人たちではあるが、みんなが自分たちの幸せを祝いに来てくれたのだろう。
そう思うと、自然に笑みがこぼれた。
「じゃぁ、いくか」
「うん」
彼女は右手に腕を絡ませると、満面の笑みを浮かべていた。
扉が開き、赤い絨毯の敷かれた一本の道が目の前に伸びる。特に合図することもなく、2人はその道を歩く。
普通はこのように2人で歩く道ではない。
『君らは小さいころから自分で選んで育ってきたんだからな。君ら2人で歩くべきだろう』
そう言ったのは、彼女の父だったか。出番を奪ってしまい申し訳なく思う一方で、自分を認めてくれた事を喜んだ記憶がある。
少し周りを見てみると、元クラスメイト達や魔術関連の人間。本当にたくさんの人がいた。
隣の彼女は後輩に小さく手を振っている。
唯一の気がかりと言えば、共通の『家族』である銀髪の女の子がいない事。なにやら外せない用があるらしい。
前を向くと、祭壇の前に人の背中が見えた。
(今日の神父さん………あれ?)
男にしては小さな肩幅。それに、どこか見たことのある背中。隣の彼女を見ると目があった。
どうやら同じことを考えていたらしい。少し驚いた顔をしている。
「私は敬虔なる修道女です。だから2人の門出を思いっきりお祝いしてあげるんだよ」
シスターが振り返る。フードと共に長い銀髪が舞った。
「おめでとう、とうま、みこと」
「ありがとう、インデックス」
会場に溢れんばかりの拍手が起こった。