とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part11

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匿名ユーザー

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 上条と美琴は第6学区に来ていた。
 学園都市の中でもアミューズメント施設に富むこの学区は、クリスマスという事もあり、カップルがあちこちにいる。
 噂やら何やらが先行してしまい、付き合いが長いように思える上条達であるが、実際は成立して間もない出来たてカップルである。
 さっき空港を出るときは腕を組んで、なんてしていたが、電車に乗るときに恥ずかしくなり、今では隣り合って歩いているのみである。
 上条はあまり気にしていないようではあるが、美琴はチラチラと上条の右手を見ては俯きを繰り返している。
(ううっ……腕を組みたいけど、なんか恥ずかしいし。せめて手を繋ぐくらいは……)
 一度羞恥心を自覚してしまった美琴は、妙に意識してしまい行動に移せない。
 上条が積極的に来てくれたら話は早いのだが、その素振りも見せない。
 第7学区とは違い、カップルだらけなのだから周りの目も気にしなくていいとは思うのだが。
(まったく、こういうところまで気が回ってくれたら完璧なのに)
「…い……と………した…」
(思い切って抱きついてみる?いやいや、なんか恥ずかしいし……でも、さっきは普通に行けたわよね)
「…い…こと……ど……した」
(あー、もうっ!ちょっとぐらい気にしなさいよ!周り見てたら分かんでしょうが)
「おい、美琴!そんな顔してどうした?」
「っんにゃ!?」
 美琴は我に帰る。いつの間にか立ち止まっており、半歩前で上条が心配そうな顔をしていた。
「おー、やっと戻ってきたか。大丈夫かよ?怖い顔でぼーっとしてよ」
「あ、うん。ごめん………考え事してた」
 気つけでもするように、美琴は両頬を叩く。パチンッといい音が鳴った。
「ったく、そんなにぼーっとしてると躓きそうだよな、危ないよな、うん」
「アンタ、何を言ってんのっ!?」
 上条は1人で納得したかのようにうんうんと頷くと、美琴の左手を握りしめる。
「こうやって手繋いどけば危なくないだろ。漏電もしないしな。我ながらいい案ですよ」
 そういうと上条は美琴の手を引いて歩き始める。突然、手を取られて半分『ふにゃー』状態であった美琴は慌てたようについて行く。
「ちょ、ちょっと、当麻?」
「ほらほら、美琴さん、クリスマスプレゼントを探しに行きますよ」
 美琴はどこか白々しい上条の横顔を見る。心なしか頬が赤い気がする。
「……アンタ、手繋ぎたかっただけでしょ?」
「ははははは、何を言ってるんですか?俺はお前が危なっかしいから繋いだだけで、そんなやましい気持ちなんてないのですわよ?」
 上条はワザとらしい口調で言い訳する。美琴の顔を見ようともせず、定まらない焦点をあちこちに向けていた。
(そう。あくまでそういうのね。それなら……)
 私にも考えがあるわ、と、美琴は上条から目を逸らす。
「……………そう、よね。私と何か手を繋いでも嬉しくないわよね」
 目を伏せてよわよわしい声を意識する。言葉の最後に繋いだ左手をぎゅっと握りしめるのも忘れない。
「いやいや、美琴さん!冗談でせうよ?上条さんは美琴と手を繋ぎたくて仕方が無かったのですよ?」
 あたふたと慌てる上条が視界の端に映る。美琴は必死に笑いを我慢するが、だんだんと肩が震えてくる。
 上条は反応のおかしい美琴に不幸センサーが反応するのを感じる。
(あれ、もしかして……俺は謀られました?)
「ふ、不幸だ……」
 上条が肩を落とした瞬間、美琴は笑いを我慢できずに吹き出した。
「っははっ、ほんと、ごめんっ………」
 上条は握った手を離そうとするが、美琴はぎゅっと握りしめて抵抗する。
「ねぇ、当麻」
「なんだよ?」
 上条はどことなく落ち込んでいるようにも見える。
(ちょっとやり過ぎたかな)
「あ、ありがとね……手、繋いでくれて」
 美琴はにっこりと微笑んで上条を見る。上条は照れたように顔を赤くし、顔を背けた。
「いいから、行くぞ」
「うん」





 上条と美琴はとあるデパートの専門店街を歩いていた。
 さっきまでとは異なり、しっかりと手を繋いでいる。指を絡めたいわゆる、恋人繋ぎというやつだ。
 とはいっても、お互いに意識しすぎて歩き方がぎこちないくらいの初々しさを放っており、周りの熟練カップルからは暖かい目で見られていたりする。
 もちろん、美琴は常盤台の制服であるので何かしらの注目を浴びているのだが。
「なぁ、美琴。とりあえず、お前の服買おうぜ?」
「なんでよ?」
「さすがに、常盤台の制服じゃ色々と目立ちすぎるって。せめて上着だけでもよ」
 チェックのプリーツスカートはともかく、上着のブレザーだけでも変えてやれば注目度も減るであろう、というのが上条の案だ。
「うーん。そうね……どうせなら当麻が選んでよ」
「俺が?やめとけ、センスねぇぞ」
「そんなに卑屈にならなくても……まぁいいわ。意見だけでも言ってもらうから」
「それくらいなら出来るかな…」
 じゃぁ行くわよ、と言って、美琴は上条の手を引っ張る。
「おい、そんなに急がなくても店は逃げねぇぞ?」
「分かってるわよ」
 美琴としては、手を繋いであっちこっち彼氏を引っ張り回してみたいのだが、上条にその想いは通じないらしい。
 その旨を伝えても『意味がわからん』と一蹴されそうだし、そもそも伝えるのが恥ずかしい。
 美琴は目についた店に飛び込むと、上着になりそうなものを探し出す。
「ねぇ、これなんてどうかな?」
 美琴が取り出したのはえらく可愛らしいパステルなパーカーだった。
「うーん。似合うとは思うが……そのスカートには合わなくねぇか?」
 上条は常盤台のチェックスカートにパステルパーカーを着た美琴を想像する。
(うーん。なくは、ないかぁ?)
 むむむ、と眉をひそめてしまう。
 美琴としては上条に喜んでもらうことが一番であるため、しぶしぶパーカーを棚に戻す。
「そうねぇ………これは?」
 美琴はモコモコとした白いジャケットをとり、自分に当てて上条に見せる。
「なかなか良いんじゃねぇの?」
 上条はそのジャケットを一瞥すると、感想を告げる。汚れがついたらとれなそうなのが気になる。
「アンタ、適当に答えてない?」
「真面目に答えてるよ」
 美琴は感動の薄い上条に眉をひそめる。
「そこまで白いと汚れが取れにくそうだな、って思ったんだよ」
「そのくらい私の能力で遊離させればなんとかなるわよ。そうじゃなくて、もうちょっと参考になる意見とか気の利いたこと言えないわけ?」
「って言われてもな……」
 上条は逡巡する。思っていることを言うのは恥ずかしいが、言わなければ納得しなさそうだ。
「あー、にしてもお前の能力ってそんな事も出来んの?便利で良いよな」
「話逸らすんじゃないわよ。……はぁ、もういい。これ買ってくるから、アンタは店の前で待ってなさい」
 美琴は不機嫌な顔のまま踵を返し、レジに進んで行った。上条は頭を掻きながら店の前に出る。
(あーあ、やっちまったか)
 上条は店の外まで来ると柱にもたれかかる。
 ちゃんと言っとくか―――
 気恥かしいが背に腹は代えられない。美琴に楽しんでもらうのが一番なのだから。





「お待たせ」
 店から美琴が出てくる。買ったばかりの白いジャケットを着ている。制服のブレザーは手に持っている袋に入れてあるようだ。
「…………」
「何よ?」
「いや…………」
(なんてこった。こりゃぁ)
 想像以上だ。白いジャケットが美琴の肌や茶色い髪を映えさせていた。
 目の前の美琴は怪訝な顔で上条を見ている。このままでは直にビリビリと帯電しだすだろう。
 上条は美琴をそっと抱き寄せる。美琴が目を丸くしているのが視界の端に映る。
「わりぃ、想像以上に似合ってたから……なんも言えなかった」
「っ!?」
 上条の言葉に美琴は抵抗していた力を弱める。
「さっきは怒らせちまって悪かったな」
「ば、別にいいわよ。アンタに期待したのが間違いだった」
「お前は何来たって似合うからさ。上条さんとしては意見も何も、全部可愛いんですよ」
「な、何をっ、言ってのよ………」
「多分、なにも着てなくてもっっ!?」
「だぁぁぁぁぁぁっ!!」
 上条は真下からの正確なアッパーを顎にくらい、後ろに倒れていく。
 普通ならそのまま床に倒れて終わり、になるはずであった。しかし、上条はさっきまで柱にもたれていた。
 そこから身体を離し、美琴を抱きしめていたときにアッパーをもらった。
 ということは、上条の倒れる先にあるものは屈強なコンクリートの塊である。
「ご、がぁっ!?」
 ごん、という鈍い音がし、上条の身体が床に転がる。美琴はその一連の流れを見ていることしかできず、気づいたころには上条が床に伸びていた。
「とっ、当麻!!」
 反応はない。美琴は上条の横に屈みこみ、頭を確認する。外傷はなく、血も出ていないようだ。
「当麻、当麻!!」
 傷が無いとは言え、頭に受けたダメージは中に伝わっている。見た目だけでは本当の意味で大丈夫かなんて分からない。
「と、うま?」
 上条は答えない。美琴の頭に最悪の事態が過る。息はしているようなので死んではいないようだが。
「当麻!起きてよ、当麻!」
 美琴の目に涙が浮かぶ。周りのカップル達が興味深そうな目線を投げては通過していく。助けてくれそうな人はいない。
「……………うっ」
 上条の苦しそうに呻くと、ゆっくり起き上がろうとする。
「当麻!」
 美琴はそんな上条の身体を支える。上条は朦朧とする意識を立て直すべく、周りを見る。
「ここ、は?………何してんだっけ、俺」
 上条の言葉に、美琴は愕然とする。
(ちょっと、また、忘れちゃったって言うの?)
「……えっと、美琴?何で、泣いてんの?っつーか、俺はなんでこんな床でダウンしてたんでせうか?」
 上条は顔をブンブンと横に振ると、この世の終わりのような顔をしている美琴を覗き込む。
「おぼえ、てるの?私の顔、分かる?」
「な、何を言ってるんでせうか?自分の好きな人の顔を忘れるほど罪作りな人間じゃないですよ?」
 本当にポカンとしている上条を見て、美琴は自らの早とちりに気付く。さっきとは違った意味の涙が頬を伝う。
「良かった。ほんと、よかった………ごめんね、当麻」
「うわ!?なんなんですか?美琴?」
 上条さんは把握できてませんことよ、と叫んでみるが、美琴はごめんなさいを連呼しながら泣きじゃくる。
「なんか心配かけたみたいで、ごめんな。美琴」
 上条は泣きじゃくる美琴を優しく抱きしめると、耳元で呟いた。





 なんとか落ち着いた美琴は、上条の右腕に抱きついている。その目の周りはまだ赤くなっているが、表情は幸せそうに崩れている。
「えへへへ」
 絶望の底から引き揚げられた分、美琴のテンションは限界突破、レベル6まで到達している。
「おい、美琴?お前、そんなキャラだったっけか?」
「えへへへ~♪こんなのも私なの。当麻は……こういうの嫌い?」
 美琴は彼女を知る人間が見たら卒倒するような顔で上条に問いかける。
 上条の腕に寄りかかりながら見上げる形になるので、必然的に上目遣いになる。
「むしろ大好物です。デレた美琴たんもえー」
「ちょっと、棒読みはあんまりでしょ!」
 そういいつつも、上条はすっかり美琴色に染まってしまった自分の心に呆れる。
(そんな顔で言われちまったら否定なんて出来るかよ)
 かといって、本心をさらけ出すには気が引ける。そんな照れ隠しで棒読みしてみた。
 美琴は頬を膨らませているが、上条としては譲れなかった。
(レベル0の上条さんでも少しくらいカッコつけたいのですよ)
 上条は小さく息を吐き、美琴を見る。屈託のない笑顔がそこにあった。
「美琴、昼飯でも食おうぜ?てか、もう15時だし……」
「あ、誤魔化したわね?」
「いやぁ、上条さんはお腹がペコペコでしてよ」
「はいはい。じゃぁ、何食べよっかなぁ」
 美琴はデパートの案内板を見つけると、パタパタと駆けて行った。
 上条はその背中を見送りながら、ゆっくりと美琴に続く。
「あ、イタリアンとかどう?」
 美琴の指差す先にはカフェみたいなパスタ専門店が紹介されている。
「俺は食べれりゃなんでもいいけどな」
 上条は胃のあたりを擦りながら腹ペコですよと、暗に『出来ればガッツリ腹が膨れるものを』と主張してみる。
「じゃぁ、アンタはコンビニ弁当ね」
「すいませんでした」
「分かればよろしい。デートなんだからちょっとくらい気にしなさいよ」
 上条は場所を確認すると、美琴の手を取り件のパスタ店を目指す。
「俺はパスタとか良く分かんねぇぞ?」
「そんな気にしなくてもいいわよ。フランス料理のフルコース食べるわけじゃないんだし」
 テーブルマナーくらいなら教えてあげるわ、と美琴は続ける。
「それにカフェみたいなお店でしょ?生麺使ってるみたいだから味に期待はしてるけど、そんなに肩肘張っていくようなとこじゃないわよ」
「上条さんは外食なんて殆どしないのでわかりません」
 外食するにしてもファミレスくらいだしな、と言い、上条は美琴と繋いだ手に少しだけ力を込める。
「洒落た店に行くのが緊張なんじゃなくて、お前と一緒に行くから緊張すんだよ」
 美琴が見上げると、上条は少しだけ頬を染めていた。恐らく照れているんだろう。自分の顔にも血が昇るのを感じる。
(まったく、人を照れさせることに関してはレベル5なんだから)
 美琴はいちいち恥ずかしいセリフを吐いては胸をキュンキュンさせてくる上条に想いを馳せる。
(むしろこれがコイツの能力なんじゃないの?『悶絶呪文(ラブレター)』レベル5……なんつって)
 美琴は自分のネーミングセンスのなさに、吹き出してしまう。もう少しなんとかならなかったのか。
「あ、吹き出すことねぇだろ?確かに恥ずかしい事言ってるけどよ」
 上条はそんな美琴を見て勘違いしたらしく、少し機嫌を損ねたようだ。恥ずかしげにしながらも、ムスっとしている。
「違う違う。アンタのすぐに恥ずかしい事言う癖は能力なんじゃないかって思うとなんだか可笑しくてね?」
「はぁ………あんまり使える能力じゃねぇぞ、それ」
 上条は少し悲しそうに呟く。想像というより、ネタでしかに話なのに気にするか、と美琴は思ってしまう。
 そんな事でヘコんでしまう上条の事を可愛いと思えるのも惚れてしまった弱みだろうか。
「立派にレベル5だと思うわよ?学園都市第3位を言葉だけで悶絶させるんだもの」
 美琴は可笑しそうにクスクスと笑う。上条はどこか腑に落ちていないような顔で鼻の頭を掻いている。
「なんだ?『悶絶呪文』レベル5とか言い出すんじゃねぇだろうな?」
「っ!!」
 げほっけほっ、美琴はむせたように咳払いをし、すこし涙目になりながら上条を見る。
 キョトンとしたまま頭の周りに?をいっぱい飛ばしたマヌケな顔があった。
「な、なんだよ?」
「ううん。なんでもない」
 美琴はにっこりと笑うと上条の手を優しく握る。それに応えるかのように握り返してくれる上条の優しさが嬉しかった。
(絶対に、離さないんだから)
 自分の居場所を確認するように、美琴はもう一度、左手に力を込めた。





 上条は非常に困っていた。デート中に『補習ですよ―』なんて電話が来たわけではない。
 ましてや、美琴を怒らせて困っているわけでもなければ、某シスターさんが帰ってきたわけでもない。
 上条は眉間に皺を寄せ、目の前にあるメニュー表と睨めっこしている。
「さっぱりわからん」
 上条にとってのパスタとは、ナポリタンとかミートソースとかだ。ちょっとお洒落にいってペペロンチーノである。
 それがどうだ、目の前のメニューには良く分からないカタカナがいっぱい並んでいる。
 ほうれん草のクリームスパゲティとかならまだ分かるが……
「なんなんだ……フェットチーネ?リングイネ?」
(意味分かんねぇ……ファルファッレ?神裂の魔法名がそんなんじゃなかったか?)
 上条は、天草式の面々が聞けば武装して襲ってきそうなくらい恐ろしい事を考えてしまう。それくらい難解ものだった。
 上条はメニューから目を離し、美琴を盗み見る。楽しそうに『あれもいいなぁ、これもいいなぁ』と言っている。
(こうなったら、美琴に選んでもらうか)
 我ながらいい案じゃねぇか、と心の中で自賛し、パタンとメニューを閉じる。
「美琴、迷ってんなら2つ選べ」
「……私はインデックスじゃないわよ?1つで十分なんだけど」
 美琴は上条に『何言ってんのよ』と言った顔を向けてくる。心が折れそうだった。
「んなこと分かってる。お前が2つ選んで、どっちかを俺が食うってことだ。そうすりゃ2品食べれるだろ?」
 本当はメニューが分からないからなのであるが、バレてはいけない。どんなに小さくチンケなものでも、上条にだってプライドはある。
「……でも、アンタは好みとかないの?」
「美琴さんが食べたいものなら何でも食べたいです」
 主体性ないわね、と言いながらも美琴は嬉しそうだった。上条としては少しだけ後ろめたい気分だったが、何も言わないし言えない。
「決まったか?店員さん呼ぶぞ?」
「あ、うん」
「すいませーん」
 上条は右手を上げると、待ってたかのようにウェイターがやってきてメニューを確認していく。
 美琴はウェイターにカタカナの多い噛みそうな名前のパスタを告げている。
 なんの苦もなく読めてしまうあたり言いなれてるのかもしれない、と上条は改めて美琴がお嬢様であることを意識する。
「美琴、一個聞いていいか?」
「何個でも聞きなさい。美琴センセーが教えてあげるわ」
 ふふん、という表情を作り、美琴は胸を突き出す。美鈴くらいがすれば目線のやり場に困ることになるだろうが、美琴のそれはまだ慎ましやかだ。
「生麺ってどういうこった?」
「なんだ、そこ?てっきり、パスタの種類が分からないのかと思ってたけど」
 美琴は意外そうな顔で笑っている。上条としては痛いところを突かれて、表情に出さないようにするのに必死だったりする。、
「この店で麺を打ってるのよ。デュラムのセモリナ粉100%が売りらしいわね」
「デュラムノセモリナコ?」
 霊装の名前みたいだな、とまたもやカタカナに圧倒される。美琴はそんな上条に『だめだ、こいつ』といった目を向ける。
「デュラム小麦を使ったセモリナ粉っていうので打ったのが『パスタ』って言われるらしいの。まぁ、強力粉でも打てるんだけどね」
「普通の強力粉でパスタができるんでせうか?今度やってみるかな」
 上条はへぇーっと、感心した声を出すと、本当に打つ気なのか麺棒がねぇなとか道具はなんだとかブツブツ言っている。
「ま、上手く出来たら私にも食べさせてよ」
「上手くいかなくても食べさせてやるよ」
 そんな風にじゃれあっていると、ウェイターが2枚の皿を持ってきた。
「こちらご注文の品となりますね」
 そういうと美琴の前には和風カペッリーニを、上条の前にはトマトクリームのファルファッレを置いて行った。
「これがファルファッレですか」
 ファルファッレとは蝶のようなリボン型のショートパスタだ。ナスがゴロゴロと入っており、トマトクリームの良い匂いが食欲を刺激する。
(まさか本当に神裂の魔法名を食う事になるとは……)
 上条は『七天七刀』を構えた神裂がパスタをばら撒く姿を想像し、危うく吹き出しそうになった。
(これ以上考えたら神裂に会うたびに吹き出しかねん!)
 聖人の握力で頭蓋骨を粉砕されないためにも、上条は頭の中から必死で邪念を追い出そうとする。
 必死な顔をして悶えている上条を見て、美琴は上条の頭が少し……いや、物凄く心配になった。





 上条は目の前のパスタを『うめぇ!』と絶賛し続け、周りのお客さんの注目を集めていた。
「ちょっと、アンタもうちょっと静かにしなさいよ。せっかく、私が着替えたのに意味ないじゃない」
「しかしですね、これは美味しいですよ!ほら、美琴も食べてみろって」
 上条は蝶をフォークで2、3捕まえると、ほれ、といった調子で美琴の前に持っていく。
 美琴は完全に固まっている。顔を真っ赤にして、小刻みにぷるぷると震えてさえいる。
(は、はわわわわわ!?ここここれって、ああああれよね?)
 恋人なら誰もが羨むほどはいかないかもしれないが、少なくとも震えている電撃姫は憧れていたシチュエーションだ。
 むしろ、恋人になる前から念入りにイメージトレーニングもとい妄想を積み重ねていた状況なのだ。
 それでも、間抜けな顔で固まってしまっている美琴の前で、蝶がひらひらと舞う。上条は『あれ?』といった顔だ。
「御坂?」
「ななななな」
「あぁ、そうか……」
 上条は当てがはずれたかな、というような少しだけ不満そうな顔でフォークを下げた。
「ぁ………」
 美琴は小さく声を漏らすと、さっきと違った意味で固まってしまう。
(せ、せっかくのチャンスが……)
 上条はそんな美琴を見ることもなく、フォークにナスを突き刺している。
「ほい。ナスも食いてぇなら早く言えよな」
 上条は文句を言いながらも笑いながらフォークを差し出す。
 再び美琴の前で蝶が舞う。
「ぅぁ………」
 それでも美琴は動けなかった。さっきから慌てたり落胆したりと大忙しで、脳が現状を把握しきれていない。
「ほら、口開けろって。あーん」
「あ、あーん」
 美琴は口を開けると、上条の差し出すパスタを口に入れる。
「………なんでそのまま固まるんだよ」
 上条がフォークを引いても、美琴は一向に食べ進める気配が無い。
「まさかそのまま飲むんじゃねぇだろうな?しっかり噛めよ。はい、もぐもぐ」
「んぐもぐ」
「はい、ごっくん」
 んっ、と喉を鳴らして飲み込む。よくできました、と上条は美琴に笑いかける。
「な?美味いだろ?」
「…………んない」
「へ?」
「わかんないっ」
「へ?」
 上条の目が点になる。美琴は居心地悪そうにもじもじとしている。
「こ、こんな恥ずかしい事されたら、味なんかわかんない……」
 美琴はそのまま俯いてしまう。
(やべぇ……美琴が可愛い。いや、いっつも可愛いんですけど……)
 上条は美琴の恥じらう姿にハートを鷲掴みにされ、骨抜きにされている。
「だから……」
 美琴は赤くしたままの顔をあげて上条を見つめる。潤んだ瞳が上条の目を捕らえた。
「もう一回」
「お、おう」
 結局、最後まで仲睦まじく食べさせあう事になるのだった。

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