とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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口は幸せのもと?



目の前で泣いてる女の子がいる。それだけで十分じゃねぇのか。
上条は昔、自分が言ったことを思い出しながら、夜の街を駆ける。
事の発端は美琴の一言だった。
「たすけて」
その一言。
涙を流しながら放ったその言葉は、上条の脳裏に『あの事件』を思い起こさせた。
『レベル6シフト』
学園都市最強のレベル5による残酷極まりない悲惨な実験を。
もうすぐ明日になろうかという時に、突然寮まで押し掛けてきた美琴は、涙を流しながら上条の胸を掴み振り絞ったような声で「たすけて」と告げた。
それと共に手渡されるレポート。レポートに書かれているのは絶対座標、それに実験参加者の名前。
一方通行、検体番号10032号、そして、打ち止め。
2枚目には実験内容について説明が書かれていたようだが、途中で途切れている。
―――そこまでしかデータを得られなかったってことか―――
上条は走りながらポケットに入れたレポートを見る。
『一方通行と打ち止めのリンクを密接にするため、検体番号10032号を始め、その他参加者との戦闘をもって―――』
グシャリ。上条は右手でレポートを握りつぶす。その実験(げんそう)を殺すかのように。
上条は携帯を取り出すと、絶対座標を入力して地図をダウンロードする。
「よりによってこんな所かよ」
携帯の画面に表示された場所。それは上条の高校の体育館だ。
携帯をしまうと足に力を加えて速度を上げる。少しでも早くつかないと。手遅れになる前に。
夜遊びする学生の間を通り抜け、一直線に目的地を目指す。
だんだんと足が重くなってくるのを感じ、心臓は飛び出そうなくらい鼓動している。
少しでも多くの酸素を取り入れる為か、息も随分と上がってきた。
ふざけんなよ。
上条は下唇を噛む。脳裏に浮かぶのは打ち止めとじゃれていた一方通行。
「何があったんだよ、一方通行ァ」
答える者はいない。上条は見えてきた校門を一気にくぐり、体育館の前に立つ。
誰もいないはずの体育館から、煌々と光が漏れている。
こっから先は一方通行。戻ってこれないかもしれない。
右手をぐっと握りしめた。
俺は体育館の扉に手をかけ、一気に開け放ち叫ぶ。
「そこまでだ!一方通行ァァァァァッ!!」

「ど、どういうこと、だよ」
上条の目の前には必死に笑いを堪えている美琴と、口元をニヤリと歪めている御坂妹がいた。
「その様子だと、あなたは少しの疑いもなくここまで来られたようですね、とミサカはあなたの鈍さに呆れながら言います」
「いや、そこまで言っちゃ可哀想だって。美琴せんせーの素敵な演技力のおかげじゃないの」
そこまでいうと、美琴は腹を抱えて笑いだした。
現状が理解できずにぼけーっとしていると、横からなにかが飛びついてきた。
「わーい。ちゃんと助けに来てくれたよ、ってミサカはミサカは飛びついてみたり!」
「う、打ち止め?」
「うん。これで賭けはミサカとお姉様の勝ちだね、って喜んでみる!」
打ち止めは上条から飛び降りると、元気よく走りまわっている。
―――どういうことだ?―――
混乱する頭は役に立ちそうにないが、1つずつ整理してみる。
まず美琴は『演技力』とか言っていた。
御坂妹は『疑いもなく』とか言っていたし。
つまり、上条は騙された事になる。現状で何も起こっていない事を見るとそこは確実だろう。
「あのー、上条さんは現状を把握できないんですが……」
「まだ気づかねェのとは、さすがは三下ってとこですかァ?今日が何の日かくれェ分かってんだろうがよォ」
一方通行は不機嫌そうにそう言うと、まとわりついている打ち止めを静かにさせようとバタバタしていた。
「今日が………何の日か?」
上条はポケットにある携帯を開く。ディスプレイの右上には4/1と書かれている。
「お気づきになりましたか、とミサカは問いかけます」
「エエエエエ、エイプリルフール?」
「大正解!って、ミサカはミサカはドッキリ大成功の看板がないことを残念がってみたり!」
体育館の中を所狭しと駆けまわる打ち止めに翻弄され、一方通行は息も絶え絶えだ。
―――仲いいよな、こいつら―――
全然関係ない事を思えてしまうあたり、上条の頭は相当混乱しているのだろう。
「とりあえず、これは嘘なんですね?」
「そういうこったァ。にしてもまさか、本当に騙されやがるとはなァ」
ニヤニヤと笑う一方通行の隣で、上条はへたりこんだ。
「いや、よかった………上条さんは不幸じゃなかったですよ」
「騙されたのに怒ってないのですか、とミサカはあなたの思考がどうなっているのか理解できずに問いかけます」
「お前らが無事だったんならなんでもいいですよ」
上条はうだーっとその場に寝転ぶ。ホッとした途端に全身に疲労感を感じる。
「と、いうわけで、賭けは私と打ち止めの勝ちね。よかったわね、打ち止め」
「わーい。これであなたはミサカの言うことを聞かなきゃいけないんだよ、ってミサカはミサカは何をしようか迷ってみたり」
「賭けとは、どういうことでせうか?」
上条は場の空気の不穏さに只ならぬものを感じつつ、上半身だけ起こす。
「アンタが騙されるかどうかで賭けてたのよ。私と打ち止めは騙されるに、この子と一方通行は騙されないに」
「はぁ?それで……賞品はどうなんの?」
「賭けに勝ったら、誰か一人を1日言いなりにできるのよ。というわけでアンタ、明日は私の言うこと聞かなきゃいけないから」
美琴は上条の肩をポンポンと叩く。
「俺に拒否権は?」
「騙される方が悪いのよ。さって、どこ連れていってもらおうかなぁ♪」
美琴は上条の意見をバッサリと切り捨てる。因みに、騙されなかった場合は御坂妹の言いなりになることになっていたのだが。
上条はもう1度、床に転がった。

「そうだっ!!」
上条は勢いよく起き上がると、ゼェゼェと言っている一方通行の元に向かう。
「おい、一方通行!」
「なんだよ三下ァ?」
「俺はお前が好きだ!!」
「……………」
上条はこの上なく真剣な顔で一方通行を見る。白い顔に仄かに朱が入る。
「さ、三下ァ?」
「うるせぇ!俺の事は当麻って呼べ!一方通行!」
「と、とととととうま……」
「よし、それでよし!」
上条が腕を組んで振り返ると、御坂3姉妹は目を点にして固まっていた。
「アアアアンタ………」
「いやいやねーよ、とミサカはあなたの趣味に絶望します」
「あ、あの人もなんか照れる、ってミサカはミサカはまさかの事態に混乱してみたり!」
上条は思っていたよりも良いリアクションが帰ってきた事に満足する。
「三し…………当麻ァ、その言葉責任とれんだろうなァ?」
「は?おいおい、やめてくれよ。今日はエイプリルフールなんだろうが。上条さんにも復讐する権利はあると思うのですよ」
「よォォォォし、いい度胸だァ!!ぶち殺してやんよォォォッ!!」
なにやらブチ切れモードに突入した一方通行ではあるが、顔が赤いので迫力はない。
一方通行はチョーカーのスイッチに手をかけ、スイッチをいれる。
ゴウッ、とベクトル操作による旋風が体育館内に広が………らなかった。
「な、なんだァ!?」
「ミサカが使えなくしたんだよ、ってミサカはミサカは怒りながらあなたに体当たりしてみる!」
「ご、はァッ!?」
打ち止めは全速力のまま一方通行に飛びかかる。能力の止められた一方通行にそれを受けられるはずもなく、ゴロンゴロンと転げていく。
「よし、次だ!」
上条は美琴の前まで歩くと、その両肩に手をかける。
「はっはっは、これで能力は使えまい!」
「ア、アンタねぇっ……」
美琴はギリッと下唇を噛む。
―――この後来るセリフは全部ウソなのよ!動揺しては負け!―――
美琴は出来るだけ冷静を装う。両肩に手を置かれている上に、上条の顔が目の前にあるので、我慢することだけでもいっぱいいっぱいだ。
「美琴!!」
「はひっ!?」
「俺は、お前が…………」
美琴は自分の顔に血が昇るのを自覚し、目をキュッと閉じる。これ以上は上条の顔を見ていられない。
ピリリリリリリリ
「お前のことが、大好きだ!!付き合ってくれ!!」
「………」
「………」
「………な、なんだ今の音は?」
上条は音がした方向を見る。御坂妹が携帯を開いていた。
「ちょうど日付が変わったようですね、とミサカは4月2日になったことをお知らせします」
「そうか……もうウソはつけねぇな。おい御坂?ごめんな、やりすぎた」
「………ちょろっと、妹!聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか、とミサカはお姉様に協力の意志を示します」
上条の頭には再び?マークが飛び交う。後ろで『良いもの見たね、ってミサカは――』とか『ストレートな表現だなァ』とか聞こえてくる。
「そのアラームの方が早かったわよね?」
「はい。お姉様が告白を受けたのは日本時間で4月2日になった瞬間です、とミサカはネットワークによる演算の結果を提示します」
「だ、そうだけど?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、美琴は上条の顎を撫でる。
「……………み、み御坂?」
「アンタはまさか、嘘とか言わないわ・よ・ね?」
「ふ、ふ不幸だぁぁぁぁぁぁ!!」
その後、なんとか謝り倒してノーカンにしてもらったものの、本気を出した美琴に敵うはずもなく、1週間後に本当の告白することになるのだった。


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