とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part6

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―――とある公園



「悪い美琴!待ったか?」

ツンツン頭の少年がベンチに向かって駆け寄ってくる。
いや、正確に言えば、そのベンチに腰掛ける少女に向かって、である。

「ううん、私も今来たところよ」

美琴と呼ばれた少女は、すっと立ち上がり少年に微笑みを向ける。
それは決して社交辞令では見せない、心からの特別な想いを込めた笑顔だ。
しかし、返した言葉にはやや偽りがあった。
彼女は30分以上前からそこで少年を待っていたのだ。
決して彼が定刻に遅れたわけではない。
美琴には、それよりもずっとずっと早く、待ち合わせ場所にいたい気持ちがあったのだ。

つまる話―――

抜けるような青空。
暑すぎない陽気。
緩やかな風。
今日は、格好のデート日和なのだ。



「じゃあ、早速行きますか?」

ウニ頭の少年―上条当麻―が美琴の手をとって歩き出す。

「え?え?当麻!?」
「どうした?」
「あ、あの…手…」

美琴は、普段とは異なる上条の積極的な態度に、顔を赤らめる。
さり気ない行為だったが、彼が外で自分から手をとるなど初めてのことだ。

「あ、あぁ…この間は寂しい想いさせちゃったからな…。落ち着いて二人で出かけるのも久し振りだし。…嫌か?」

上条も決して平常心での行いではない。
積極的にモーションをかけつつも、美琴の顔から目を逸らしており、さらにそこからは明らかに照れが見て取れる。

「嫌じゃない!あ、あのね、当麻…」
「うん?」
「………好き、だよ」

正真正銘、自分のことだけを考えてくれた上条の行為に、美琴は幸福感で満たされた。
自分の正直な想いをまっすぐ伝えるのは、やっぱりまだ恥ずかしい。
だけど、どうしたって今の気持ちを言葉にしたかった。
そんな強い意志のこもった言葉に、上条の胸も喜びに溢れる。

「俺もだよ、美琴。大好きだ」

上条の手が美琴の頭をなでる。
その優しくて、暖かい、自分よりちょっとだけ大きい手から、美琴は深い愛情を感じる。
そして、いつの間にか急接近して、いつの間にか両想いだったと知ったあの頃を思い出しながら上条の胸に自分の身を預けた。
周りには誰もいないが、屋外で抱き合う形となることに上条は焦りを覚える。

「み、美琴?」
「ちょっとだけ…」

ぽかぽか陽気よりも暖かな熱で、二人が繋がる。

「ねぇ」
「何だ?」
「安心するの」

上条は返事の代わりに、美琴の頭に手を回し、ぽすっ、と彼女を抱き寄せた。

(ちょっとくらい、いいか…)

5分ほどして、ありがと、と美琴が言うまで、二人の抱擁は続いた。
美琴の表情がなんだかスッキリしているのを見て、きっと彼女の中で何か引っ掛かっていたものがあったのだろうと上条は推測した。
深く追及はしない。
つい先日、自分たちは離れ合っていた時期があったし、その間に美琴は自分の後輩や妹と大切な話を交わした。
今それらのピースがカチリとはまり合ったのではないかな、と思う。



「当麻、あのね…私、誘いたい人がいるの」

ぎゅータイムの後、さぁ行こうかという時に美琴が言い出した。
美琴がそんな提案をするのは珍しい。
二人きりの時間をとても大切にしている彼女だ、言うからには深い理由があるのだろう。

「美琴がいいなら、俺は構わないぞ」
「うん、ありがと」

そう言うと美琴は、空に向けて人差し指を向けた。

「何してんだ、美琴?」

意外すぎる彼女の行動に、まさか落下型ヒロインが実在したのか、なんて考えが一瞬よぎったが、指差す先の上空にはそんな影はない。
はてな、と首をかしげる上条は、続く美琴の言葉でさらに疑問符を増やす。

「ん~?そうね~、釣り?」

楽しそうに軽やかに言うと、美琴は指先から細く細く雷撃を打ち上げた。



2、3分ほど続けていただろうか、タタタ…と軽い足音と共に少女が現れた。

「お姉様の波長を感じて参りましたが、何か事件でしょうか、とミサカは状況をよく把握できずに困惑します」

走ってきたのか、はぁはぁと軽く肩で呼吸をする彼女は、美琴と同じ服装で、胸には小さなハートのネックレスが揺れている。
以前常備していた暗視ゴーグルは、最近はほとんど見ることがない。

「ね♪釣れたでしょ」
「お前な…」

自慢げに胸を張る美琴に、上条はため息をつく。
緊急事態かと思い駆け付けてくれた御坂妹が不憫である。



「…とりあえず緊急性はないということは分かりました、とミサカは不満を飲み込む大人な対応をします」
「あはは、ごめんね、そんなに急がせるつもりは無かったんだ」

御坂妹は、明らかに不機嫌ですよーというオーラを発していた。
相変わらず表情はほとんど変わらないが、それでも眉が少しだけ吊り上がってる気がする。

「でもさ、これって私たちだけの特別な繋がりじゃない。こういうの、なんだか嬉しくない?」
「なるほど、物は言い様、考え様ですね、とミサカは上手く誤魔化された気がします」
「でしょ!だからたまにはこういうの、良くない?」
「………なんだか雑用のあるたびに呼び出される気がする、とミサカは予測を立てます」
「大丈夫よ、そういうときは当麻に頼むから」
「おいっ、本人の了解はナシですか!?」

二人のやりとりを見ていた上条は、突然の奴隷宣言に異を唱える。

「それでお姉様、何か御用があったのでは、とミサカは流れをぶった切って問い掛けます」
「あれ、またですか?また上条さんはスルーってやつですか!?」
「あぁ、実はね、アンタと一緒に行きたい所があるのよ」
「お姉様と一緒に、ですか、とミサカは期待に胸を膨らませます…まぁ、オリジナル同様に無い胸ですが」
「―――!?アンタ、何言ってんの!!」
「あの…俺のことは…」
「事実を述べたまでですが、とミサカは実はここ2週間で特定部位が育ちつつあるという驚愕の事実を表明します」
「ウソ!?そ、そんな…妹に越されるなんてイヤ!!」
「あ、あの………はぁ…俺、一応主人公なんだよな」

不幸だ、とお決まりのセリフを呟き、しょげる上条であるが、姉妹は突如始まった超重要な言い争いのため、全く意に介さないでいた。



―――とあるゲームセンター

「さすが第六学区のゲームセンターにある最新型の超立体3Dプリクラ。3人が浮かび上がって見えますね、とミサカは突然の場面転換にも分かりやすい説明をする『出来る女』をアピールします」
「アンタ、誰に話してるの?」
「ちょっとしたファンサービスです、とミサカは似合わないウィンクを飛ばします」

御坂妹の謎セリフの通り、上条たち3人組は第六学区のゲームセンターに来ていた。
もともと、今日はゲーセンに来て新しく入荷されたばかりのゲームで遊ぼうという約束をしていたのだが、目的のゲームよりも先にプリクラを撮ろうと美琴が言い出した。

「…アンタの言うことは時々よく分からないわ…。でも、このプリクラはすごいでしょ!この間佐天さんに聞いたんだけど、結構話題になってるみたいよ」

言いながら、美琴は印刷されたプリクラを手に取り、備え付けのハサミでチョキチョキと切り始めた。
ちなみに、プリクラのフレームイラストはもちろんゲコ太である。(有無を言わさず美琴が決めた)

「当麻、携帯貸して」
「ん?いいけど何するんだ?」
「プリクラと携帯って言えばこれでしょ!」

上条から携帯を受け取ると、電池カバーを取り、その裏にプリクラを貼り付けた。

「なんだか恥ずかしくないか?」
「これくらいみんなやってるわよ」

上条に携帯を返すと、美琴は自分の携帯にも同じようにプリクラを貼り付けた。
よしっ、と呟き、満足気な表情を浮かべる。
そしてもう一人の同行者の方へ顔を向けると、御坂妹は羨ましそうな寂しそうな目で、行為の一部始終を見ていた。

「何そんな顔してるのよ。アンタのだってちゃんとあるわよ」

その言葉を聞いて、御坂妹はさらに悲しそうな表情を浮かべる。

「ミサカは…携帯電話という物を所持していません、とミサカは悲しい事実を」
「んなこと分かってるわよ!」

妹の言葉を遮り、美琴は持っていた鞄から小さな箱を取り出す。

「だから、『アンタのもある』って言ってんの」

小さな箱を開けると、そこには薄いピンク色をした、シンプルな形状の携帯電話があった。
それを取り出し、自分たちと同様にプリクラを貼り、妹に手渡した。

「はい。これで私たちはいつも一緒よ」

優しく声をかける美琴に対して、御坂妹は訳が分からないと言わんばかりの真ん丸な目を向ける。

「どうして…?とミサカは生じた疑問をそのままお姉様にぶつけます」
「だってアンタ、携帯持ってないんでしょ。連絡とりたいときに不便じゃない」

当たり前のことだと言わんばかりの美琴。
決して悪い思いはしないのに、御坂妹は自分でも不思議と強情な態度をとってしまう。

「しかし、呼び出すだけならば先ほどの『釣り』で事が足りるのではありませんか、とミサカは追及します」
「まったく、アンタらしいわ。でもね…さっきは『私たちだけの特別な繋がり』って言ったけど、こういう『普通の繋がり』ってのも、やっぱり大切じゃない?」

どこまでも優しい声。
包まれるような暖かい目。
自分のお姉様は、どうしてこんなにも、自分のことを想ってくれるのだろう。

ぽたっ

気が付いたときには、雫がこぼれていた。
嬉しいとも、楽しいとも、なんだか違う、胸の奥がじんわりと熱くなる気持ちで満ちていく。
ここのところ、自分の中にある何かが自分の思惑を外れることが多い気がする。
あの少年のことを考えるときだって、心臓のあたりに異変が起きる。
そして今回の変化は、それとはまた異なる。

「ありがとうございます、とミサカは新しい感情に困惑しながら感謝の気持ちを伝えます」
「そんな特別なことはしてないわよ…アンタは、大切な…か、家族なんだから、これくらい当たり前でしょ」

姉が妹にハンカチを差し出す。
そんな光景を見て、家族っていいなぁ…なんて上条は思う。
思うと同時に、記憶はなくとも、そういった感情が無くなっていないことに安心感を覚える。

「ありがとうな、二人とも」

気付いたときには、感謝の気持ちを言葉にして二人の頭をなでていた。
家族の有り難みという、恐らくは普通の感情を思い出させてくれたことが上条は嬉しかったのだ。
頭をなでられた二人は、突然の少年の行為に顔を真っ赤にして俯く。
さすが姉妹、その動きはぴたりと揃っていた。
そしてお互いに同じ表情を浮かべていることに気付き、はっと思考を切り替える。

…なるほど。

…これが歩く自動フラグメイカー。

帯電する空気。

文字通り空気が変わったことに硬直する上条。

「あ、あれ、ここって感動的なシーンじゃありませんこと?ってゆーかダブルビリビリなんてしたら上条さんは防ぎきれない、ってゆーか周り電気製品ばっかり!壊したら弁償間違いなしですよ!最新型プリクラとか絶対高いし!ストップ!ストップ!ストォォォォォォップ!!」

制止の甲斐あってか、少女たちは雷撃を放つことはやめた。
しかし結局のところ、お姉様あれを使うわと、スーパーイナズマキックをお見舞いされるのは、彼の彼たる所以か。


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