とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part7

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「さぁて、これよこれ!これが目当てで来たんだから!」

プリクラを撮り、上条達はあるゲームの筐体の前に立っている。
そこには―――

「大乱闘ストリートファイターズスピリッツ?」

何やら物々しいようで中身のない名前が書いてあった。
画面の中でキャラクター達が素早く動き回り、さらにビシィ!バシィ!という音が聞こえてくる。
物騒なタイトルよろしく、一般的に『格ゲー』と呼ばれるジャンルのものらしい。
しかし、その筐体に描かれているキャラクター達は、そのタイトルに反して人畜無害を絵に描いたようなおとなしいイラストだ。
そして緑色。

「って、またゲコ太かよ!」
「何よ!悪い!?」
「いや、別に上条さんは不満があるわけではないのですがね…」

上条はゲームのタイトルとキャラクターとのあまりのギャップに、どうツッコミを入れていいか迷う。
その迷いを表しているかのように、新作のはずのこの筐体の周りにはほとんど人がいない。

「なぁ、御坂妹。これって製作会社的には採算とれんのか?やりたがるヤツがそんな沢山いるとも思えないし…」
「いや、恐らくこれは、ここにのみ設置された、言わばお姉様専用機…!とミサカはピキーンと脳内に電波を走らせながら予測を立てます」

なるほどな、と上条は呟く。
1回100円のゲームが採算をとるのに1台あたり100回分の収入が必要だとして、それはイコール100人に来てもらわねばならない、というわけではない。
極端な話、1人でも100回プレイしてくれる人がいれば良い。
そしてこの少女は…もしかしたら…やりかねない。

「ねぇねぇ当麻、早速やりましょうよ!お金は私が出すからさ!私ピョン子使おっかな~」
「強引だなぁ…。ま、いっか。伝説の遊び人、Mr.青ピより伝授された格ゲー戦闘術を見せてやるぜ!」

シュピーンという電子音と共に画面が切り替わる。
キャラ選択を終え、恋人同士二人の戦いが始まった―――!



「な…一応ゲコ太って主人公キャラだよな…?」
「ふふーん、ゲコ太達への愛でアンタが私に勝とうなど、1000年早いのよ!」
「いや、そこは競ってないけどな…」

画面には『88コンボ!』という文字と『1P パーフェクト』という文字が映し出されている。
この1Pとは、もちろん美琴のことである。
初戦で思いっきり敗れた上条は同じゲコ太を使って再戦を申し込み続けた。
主役キャラであるゲコ太ならば、ある程度のバランスがとれたオールマイティキャラであり、慣れれば一定以上の成果を上げることができると踏んだのだ。
しかし、二人の差は近付くどころか上条がボロボロにされるばっかりだった。
試合数も2桁を超えようとする今のバトルでも、美琴の操る『野生ノ本能ヲ取リ戻シタ黒ゲコ太』なるキャラに終始翻弄され続け、ついに一撃も入れることなくKOされてしまった。

「ちくしょー、せめて1回くらいは勝たせてくれたって良いじゃないか」
「甘いわよ当麻、勝負は非情なの。ライオンだって狩りのときウサギ相手でも全力を出すと言うわ」
「いや、なんかスケールがでかい話になってないか!?っていうかライオンの棲む所にウサギって棲息してるのか?」

ムキになって再挑戦をしまくっていた上条であったが、完封負けにより集中力を完全に切らしてしまった。
瞬きも忘れていたらしく、目の疲れを感じる。
ふーっと息をついたところで、自分の真横にすっと動く影を感じた。

「ん?おぅ、御坂妹か。すまん、なんだか放っておいちゃったな…」

筐体のイスから立ち上がり、伸びをする。
一点を見つめ続けるというのは、目だけではなく背中にも負担がかかるようだ。
そんな上条を見ながら、今度は御坂妹が筐体の前に腰を下ろした。

「あれ、お前、ゲームとかできるのか?」
「いえ、ミサカは見るのも初めてです。…しかし、あなたの敵討ちをします、とミサカはお姉様へ挑戦状を叩き付けます」

少女はビシィッと人差し指を姉に向けた。
意外な行動に美琴は一瞬ぽかんとするが、すぐにニヤリとした笑みを返す。

「良い度胸じゃない!悪いけど妹だからって勝負事に手は抜かないわよ!」
「望む所です。負けて吠え面かくなよ、とミサカは最近テレビで覚えた言葉を使ってみます…!」

奇しくも選んだキャラクターは同じ。
画面の中で、外で、同じ容姿の二人が戦いを始める。
戦いの火蓋は、レディー、ファイトという電子音声によって切って落とされた―――!



結論から言うと、美琴は全く手加減しなかった。
初手こそ小手調べだと言わんばかりに威力の低い遠距離攻撃を仕掛けたが、妹の操るキャラクターがそれを軽やかに躱し、その動きのままに反撃を試みると、真剣な顔をしてレバーやボタンをガチャガチャと素早く操作した。
その操作に合わせて、画面内のキャラはフェイントを織り交ぜた圧倒的な攻めを見せる。
地上をダッシュしたかと思えば、すかさず跳び上がって空中から蹴りを放ち、防がれれば、それが目的だと言うかのように投げ動作に入った。
それを見て上条は、自分が手加減されていたのだと気が付く。
それくらい今の美琴は本気なのだ。
しかし、

「―――、なんで!?」

美琴の凄まじい猛攻は、御坂妹の操るキャラクターに全くクリーンヒットしていない。
ある時は防がれ、ある時は捌かれ、ある時は躱され、さらには、カウンターまで受けた。
常に次の思考を読まれている気がする。
徐々に追い込まれていく美琴は、逆転の一手として複雑なコマンドを入力した。
必殺奥義と呼ばれるダメージの大きい特殊コマンドだ。
瞬間、ゲーム画面が暗転し、美琴の操るキャラが光に包まれる。
そしてその光を収束させるようにして相手に放出、叩き付けた。

「いっけぇぇぇぇ!」
「―――!」

思わず声を上げる美琴に対し、御坂妹は静かに素早くレバーとボタンを操作した。
それに応じて中のキャラクターも光に包まれる。
放たれた光線は、美琴側のキャラの必殺奥義とぶつかりあい、相殺された。

「なっ!?」

驚きを隠せない美琴だったが、クールビューティたる御坂妹はそれを見逃さない。
一瞬で懐に潜り込み、連打を叩き込んだ。
美琴側の体力ゲージが一気に減り、それがゼロになると、妹側の画面に『YOU WIN』という文字が表示された。
試合終了である。



「アンタ…本当に初めてなの?」

真剣試合の後、ジュースを片手に美琴が尋ねた。
上条と同様に目に疲労を感じるらしく、冷えた缶を目に軽く当てたりしている。

「先ほども言った通り、見るのも初めてですよ、このミサカは、とミサカは含みのある言い方をします」
「ん?『この』ミサカ?」

不思議な表現に首をかしげる上条。
対して美琴は、心当たりがあるのか険しい表情を浮かべた。

「はい、ミサカはネットワークによって様々な経験値を共有できるのです。実はこのゲームも隠しエンディングまで行った他のミサカがいて…」
「やっぱりね…そんなことかと思ったわよ!インチキじゃない!」

妹の言葉を遮り、美琴は興奮した声を上げた。
だが、妹の表情は冷静さを失わない。

「大人気ないですよお姉様、手加減ナシと言ったのはお姉様じゃありませんか、とミサカは胸を張りつつ、そうですよねと同意を求めます」

御坂妹は反論しながら、上条のへと顔を向けた。
正直、二人のやり取りに着いていけていない上条は、うーん…と呟きを漏らす。

「まぁ…ズルいとかはよく分かんねぇけど、美琴に勝つなんてすごいな」
「ありがとうございます、とミサカはさりげなく腕にむぎゅっと抱き付きます」

全然さりげなくない突然の御坂妹のアタックに、恋人たちはお互いに固まった。
二人とも顔が赤いが、恐らくそれが意味する感情は異なる。
そして、怒りの感情を込めた一人が口を開く。

「何やってんのアンタ!?と、当麻は私の…こ、こ、こいび…」
「お姉様は失恋と言いませんでしたから」

恥ずかしいセリフを言い切れない美琴の言葉を遮り、妹は自分の行いの正当性をさらりと主張してのけた。
瞬間、美琴は先日の公園でのやり取りを思い出す。
確かに美琴は、妹の『これが失恋か』という問いに何も言葉を返すことが出来なかった。
が、だからといって、目の前の行為は許し難い。

「あ、アンタにはさっき携帯とプリクラあげたじゃない!あのときの感謝の気持ちは何だったのよ!?」
「ふふふ、別に頼んだわけじゃありません、あのときはあのとき、今は今、とミサカは口喧嘩の常套句を口にします」
「こ…この恩知らずがー!」

ピクピクと青筋を浮かべた美琴の周囲の空気から、バチバチという破裂音が聞こえてくる。

「きゃー、こわいお姉様がいじめるー、たすけてー、とミサカはどさくさに紛れて隙だらけのボディーに抱き付いてみます」

御坂妹は完全な棒読みでまくし立てながら、相変わらず固まりっ放しの上条の胸にぎゅーっとしがみついた。
エスカレートする妹の行為に、美琴は唖然として口をパクパクさせる。
あまりのショックに雷撃のコントロールを失い、ビリビリが空気中に霧散した。

「あ、あ、あーっ!!アンタ何やってんの!?…って、当麻も何か言いなさいよ!」
「う…まぁまぁ、姉妹仲良くな」

固まり続けていた上条は、この争いを何とか鎮めようとするが、歯切れの悪い物言いに、美琴のボルテージはさらに上昇する。

「な…何よそれ、バカ当麻!………あーもう、それじゃあ…!」

怒りに興奮し、顔を上気させた美琴は、妹の反対側から自分の恋人の胸に腕を回し、思いっきり抱き締めた。
いつもより強く。
上条に自分の僅かばかりの膨らみを押し付けるように。
もちろん上条もそれに気付き、一気に顔を赤らめて体を硬直させる。

「な、何をなさってるんですか、美琴サン!?」
「べ、別に良いじゃない!私たちは、こ、恋人同士なんだから!」

妹に対抗して上条にアプローチをかけるが、恥ずかしさから早口になるのを押さえられない。
と、美琴は妹の表情が僅かだが確実に変化したのに気付いた。
寂しそうで、悲しそうで、羨ましそうな顔。

(―――!)

それで美琴はある考えに至る。
目の前にいる妹は、先ほどから『失恋とは言わなかった』とか、『お姉様が怖い』とか、何かと理由を付けて上条に近付いている。
それはつまり、彼女なりの『言い訳』なのではないだろうか。
自分は特別な存在ではないから、上条には御坂美琴という恋人がいるから、そんな理由に対抗するための口実。
恋人である自分にはある程度自然にできる行為、それが妹には特別な理由なしには出来ない。

(何がさりげなく、よ…)

同じDNAのらせんを持つ身である。
自分の考えが大きく外れているとは思わなかった。
つまり、逆の立場ならきっとそうしていたかもしれない、ということだ。

(何がどさくさに紛れて、よ…)

自分の胸の中で、何かが形になっていく。
苛立ちのようで、深い愛情のような、大きな気持ち。

(いい加減に『その自分自身』の想いを受け入れなさい…!)

深い呼吸を一つ、決心はついた。
美琴は目の前の妹を見やり、自分たちが抱き付いている上条をまっすぐに見つめる。

「ねぇ、当麻、さっき姉妹仲良くしろって言ったでしょ」
「お、おう」

二人の少女から抱き付かれるという状況にカチカチになっていた上条だったが、なんとか返事をする。

「あのね…わ、私もこの子も、姉妹仲良く…アンタのことが好きなのよ」

途切れながらも、美琴は力強く言い放った。
その言葉に上条だけでなく、御坂妹もビクッと反応した。

「お姉、様…?」

恐らく自分の姉は、今まで自分が必要以上に上条に近付くことをあまり快く思っていなかった。
なのに、今、彼女は自分が伝えたくとも秘め続けてきた想いを口にしてしまった。
確かに現実として美琴と上条は恋人同士である。
だが、今の一言で、お姉様は第三者であった自分を一気にライバルの座にまで引き揚げてしまったことになる。

「どうして…、とミサカは生じた疑問を口にします」
「私だって、自分の想いがいつまでも一方通行なのはツラいってよく知ってるもの…だけど…当麻は私のものなんだからね!アンタにだって渡さないから!」

真剣な目。
もう美琴は自分のことを対等なライバルだと見ている。
それが嬉しくて…一瞬だけ微笑みを浮かべられた気がする。

「宣戦布告として受け入れましょう、とミサカは現在の戦況が芳しくないことを理解しながらその闘志を燃やします」

だから、胸を張って堂々と姉の目を見返した。
あらゆる感謝、畏敬の念、それら全てをすっ飛ばして、今自分は彼女と真正面から向き合っている。

「あの…俺の立場は…」

ダブルの愛の告白を受けて嬉しさ半分、困惑半分の上条であるが、状況が特殊すぎてどんな顔をしていいか分からない。
そもそも、二人の少女が自分を抱き締めながらライバル宣言をする状況なんて、どんな恋のハウツー本にも載っていまい。
そんな上条へ、早速姉妹のライバル対決の火の粉がふりかかってきた。

「ねぇ、当麻、前に病院で手作りクッキーが欲しいって言ってたわよね?今度、美味しいクッキー焼くから、ピクニックデートしましょ!私たち恋人同士だもの♪」

抱き締める腕を決して緩めずに、上条を振り向かせる美琴。

「それでは私は怪我や疲労の多いあなたに、能力を使ったビリビリマッサージをプレゼントしましょう、とミサカは積極的にも濃厚な身体接触を目論みます」

対する御坂妹はクールな口調の中に、僅かばかりの恥じらいを含ませる。
本の少し上気する頬が目を引く。
上条はドキッと心臓が高鳴るを感じたが、今の御坂妹の発言には美琴も敏感に反応した。

「は!?身体…接触…って…ちょ、ちょっとアンタ何言って…」
「お姉様、恋愛とは引いた者の負けなのです、とミサカは先日週刊誌から得た知識をひけらかします」
「え…そ、そうなの…?でも…う…じゃ、じゃあ…」

妹の一歩進んだ(?)恋愛知識に、もじもじする美琴。
真っ赤な顔は、自分の中で羞恥心と戦っていることの表れか。
しかし、その争いにも決着がついたらしく、うるうるした瞳で上目遣い気味に上条を見る。

「と、当麻?あのね…わ、私が当麻を気持ち良くしてあげる…」

「「ぶっ!?」」

突然のトンデモ発言に、上条と御坂妹はシンクロして噴き出す。
妹は、これがオリジナルの攻撃力というわけですか…、なんてゴニョゴニョと呟き、上条は全く言葉を失い、真っ赤な顔で口をあんぐりと開いている。

(お、おお、おおおお落ち着け俺!今のはアレだ、言い方はアレだけど、御坂妹のビリビリマッサージに対抗しただけで、他意はない…はずだ!いや、他意があっても全然構わな…って何想像してるんだ、相手はまだ中学生だぞ!でも美琴の目、吸い込まれそうに綺麗だ…じゃなくて!ってゆーかレベル5のビリビリマッサージって俺死ぬんじゃね?)

一瞬で走馬灯のように様々な妄想が自分の中を駆け抜け、その幻想たちを何とか押さえて平常心を取り戻そうとする。
と、目の前の少女たちの変化に気が付いた。
何やら、二人がこちらを見てる。
自分の顔を見ているというか、顔の一部を凝視しているような―――

ぽたっ

上条の右手に赤い点が現れた。
出所は、自分の顔の真ん中あたり。
つまり、鼻血が垂れているのである。
―――と、そこで彼女たちのジトーっとした眼差しの意味するものに気が付く。

「い、いやですね、これはその、別に美琴さんに対して劣情を抱いたとかいうわけではなく、だからといって美琴さんの魅力が不足しているなんて言うわけもなく、何て言いますか、ワタクシの想像力がちょっとだけ豊かだったというか…」
「「不潔…(とミサカは男は狼なのよ、なんて言い古されたフレーズを口にします)」」

しどろもどろで言い訳を口にする上条を、見事なシンクロ率を誇るダブル御坂は、たった一言で真っ二つに切り捨てる。

「………ふ、不幸だ…」

息ぴったりな姉妹の精神攻撃を受けて、なんとか吐き出したセリフは、クラスメイトの耳に入れば大乱闘間違いなしの、お決まりのものであった。



―――とある病院の前


「今日は楽しかったわよ!付き合ってくれてありがとね」

美琴は目の前にいる妹に笑顔を向けた。
日は傾き始め、夕陽が病院の白い壁をオレンジに染めている。
視線の先には、ライバルである御坂妹。
自分の隣りには、恋人である上条当麻。
これが今の自分と妹の差なのかもしれない。
そのことで優越感に浸るつもりはないが、それでも、自分は幸せ者なんだと再確認する。

「お姉様、今日はありがとうございました、とミサカは新しい繋がりに感謝します」

今日プレゼントしたばかりの携帯電話を手にして、妹は大切そうに胸に当てる。
電池カバーの中では3人が笑顔を浮かべている。
妹がその胸に抱き締めているのは誰なのだろうか。
特定の誰かのような気がするし、3人みんなのような気もする。
別に答えが欲しいわけじゃない。
ただ、これからもずっと、上条だけじゃなくて妹も一緒にいたいな、そう思った。
今度はセブンスミストで二人で服を選ぶのもいいかもしれない。
ちょっとお茶でもしながら、女の子の会話を楽しむのもいい。

だから、

「またね」

さよならでも、ばいばいでもない、未来に続く言葉と共に、今日の楽しかった一日を締めくくる。
手を振り返す妹も、いつもより優しい笑顔な気がした。





とある少女のういういdays6―つづく―


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