とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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千切れたストラップ




一端覧祭の終わりと同時に、上条当麻から課題の手伝いを頼まれた。

彼から頼られるのは、やはり嬉しい。課題や買い物の頭数であったとしてもだ。
そして何より彼と二人並んで歩いて帰る道は、私を堪らなく幸せな気持ちにしてくれる。

待ち合わせの時間まで後十分。
彼のことだ。きっと遅れて来るに違いない。
大慌てで走って来て、即座に土下座をする彼と帯電している私。
そして彼が「不幸だ」と言う姿が容易に浮かぶ。

彼への想いに気付いた私としてはその言葉をもう、彼に言わせたくないのだ。
だからと言って何が彼の幸せなのかと聞かれると解らないのだが。

しかし、帯電している私の姿は彼にとって不幸だと解っているのだ。
よし!帯電はしない。走ってくるのだからジュースでも買って待ってよう。


数分後、やはり彼は遅れてきた。
額から汗を流し、肩で呼吸する姿から急いで来てくれたのだと実感する。

「すみません御坂様。担任にしごかれてました。平にご容赦を!」
と即座に土下座に移ろうとする彼を慌てて止める

「ちょ、土下座はいいから立ちなさいよ。」

「御坂様、怒ってないのでせうか?」

「怒ってないけど、まだ様付けで呼ぶなら怒るわよ?
 っと、はいこれ。走ってきたんでしょ?
 飲んで一息つきなさいよ」
 
「…御坂、ありがとな」
そう言う彼の笑顔は本当にズルい。
私のちっぽけな自制心は簡単に屈服しそうになる。

「ぉ、おお礼を言うにはまだ早いんじゃない?
 ほら早く行くわよ」

「おい、一息つくんじゃないのかよ!」
 
 素直な彼に対して私はまだ素直になれないのだ。


彼が私の左隣を歩いている。

「こっちがお前の定位置」という言葉の意味は分からないが、
二人並んで歩く。それだけで満足している私に彼は気付いている…わけないか。

「なぁ御坂。このストラップ外していいか?」

「…なんでよ?」

彼が唐突に言った言葉は、私の足を止めるのに覿面だった。

「いやな、クラスの連中に見つかって笑われたんだよ。そんな趣味があったのかってな」

「…別にそれくらいなら良いじゃない」

「それだけなら良かったんだけどな。
 クラスに彼女とペア契約してる奴が居てな、そいつに見つかったんだよ」
「そいつがペア契約してるなら彼女が居るんだろ?
 とか大声で言ったせいでクラス中から質問攻めされちまってな」

「ば、罰ゲームなんだから我慢しなさいよ!」

「へいへい、分かりましたよ。
 …勘違いされても知らねぇぞ」
そう言ってどこか不貞腐れた彼は一人先に歩き出す。
先行く彼から映える影に置いてかれないよう私は急いで追いかけた。


上条当麻を乗せた要塞が墜落した日。
たとえどれほどの洗車をまとめて相手にするほどの力でも、
核ミサイルの発射すら阻止するほどの力であっても。
たった一人の少年を、救い出すには足りなかったのだ。


御坂美琴にとってそのストラップは特別なものである。

彼は罰ゲームと思ってるだろうが、私にとってあれはデートだった。
あの時交わしたペア契約がなければ、『自分だけの現実』を粉砕するほどの
圧倒的な感情の正体に気付けなかったと思う。

彼が記憶喪失だという事を知った時は冷や汗が全身から出た。
記憶の有る無しでは揺るがない彼の芯に触れた。
そしてロシア。断ち切られた磁力は彼が居なくなるという事を決定付けさせた。


一人の少年を救えなかったショックも消えぬまま
ロシアの小さな漁港で拾った紐の千切れたお揃いの片割れは
彼女を絶望に追い込むには充分だった。

意気消沈の底から、焦燥感が湧き出してきた時には
学園都市の闇に近付こうと思った事もある。
彼の生死について情報が欲しかった。
そんな矢先に彼は帰ってきたのだ。
…べろんべろんに酔っ払った千鳥足で。

別の紐を通した其れを渡す。気付かれないよう小さく笑った。
彼のことだ。きっとまたどこかに行く。その日はそう遠くない。

第22学区で言った言葉に偽りはない。能力がなくなってもそう思う。
意味をなさないのだ。レベル5とか超電磁砲の異名は。
第3位の力は彼にとって、かつて呼ばれた「ビリビリ」程度のものでしかなくとも。

彼を1人にしたくない、彼に居てほしい。愚直な願いだとしても。


だから再び付けてくれた片割れを再び自分が手にしたら、
また彼が居なくなるのではないかと私は考えてしまうのだ。



何だか嫌な気配がした。
少し遅れて聞こえてきた声に制裁方法が確定する。

「おっ姉さぁまぁぁぁん」
瞬間に身構え、能力を開放する。よし!当たった!

「御坂…白井は大丈夫なのか?」

「アンタと同じくらい黒子も電撃浴びてるから大丈夫でしょ
 まぁ…いつものことだしね」
「というか、これからが大変かも…」

こっちに向かって来る2人はニヤニヤしている。
これから良くない事が起こるのは明らかだ。
彼の姿はもう見られている。聞かれる事も分かった。
彼に帰ってもらっても意味を成さないだろう。


明日は休日のはずだが補習の有無を聞かなければ。
状況がよく分かってない様子の彼に矢継ぎ早に告げる。

「来週まで出された課題の量と明日、補習は?」

「ん?補習がない代わりに課題が説明できないくらいの量です。
 つか御坂。あの娘たち知り合いなら帰ろうか?
 課題はなんとかするし」

「あの娘たちが用あるのは私達だと思うのよね。
 明日、明後日で課題片付けるから予定空けときなさい
 1人じゃ無理だから頼ったんでしょ?
 だから、ごめん今日はちょっと巻き込まれて」

「お前が素直に頼むのもレアだしな。
 仕方ねぇ、巻き込まれてやるよ」

「ああありが「御坂さ~ん」と」

 ドモっている間に来てしまったようだ。

「初春さん、佐天さん久しぶり
 …で、どこに行けばいいかしら?」 

「じゃあ、いつものファミレスにしましょう。
 あ、柵川中学の佐天涙子です。
 御坂さんの言う”あのバカさん”ですよね?」

「柵川中学の初春飾利です。
 白井さんの言う”類人猿さん”ですよね?」
 
 話が早くて助かります。と言わんばかりの笑顔で自己紹介をする2人。
 しかし、“あのバカ”に“類人猿”て言わなくてもいいのに。
 

「あ、どうも上条当麻です。
 あのバカに、類人猿か。不幸だ。」

「じゃあ行きましょうか」

「ほら白井さん、御坂さんに置いてかれますよー。」

「お姉さま!お待ちくださいお姉さま!」


ファミレスに向かう道中の会話は全く耳に入らなかった。
「不幸だ」と言う彼の言葉が頭の中を支配していたからだ。


ファミレスに着いた途端に予想通り質問責めが始まった。
 出会った経緯や借り物競争など、当たり障りのないコメントを返す。
 当然、妹達や言えないことは伏せて。

「悪い、電話だ」
 と言って携帯を取り出し、彼が席を立つ。
 携帯にぶら下がっていても、ゲコ太はやはり可愛い。
 そんな呑気な事を思ったのもつかの間
 
「上条さんもゲコ太好きなんですか?」
 その言葉と同時に、初春さんの視線が歩いてく彼の手に握られた携帯を捕える。
 空中に紐で吊るされてるようなゲコ太に目が行く。
 ヤバい、気付かれた。

「そ、そうみた「ペア契約のストラップですわよ」
 黒子からの横槍が入るのは予想してたけど、黒子め。
 どう言おうか考えている中、彼が戻ってきた。
 席に着いた途端に佐天さんがニヤついた笑を浮かべ問いかける。

「上条さん!御坂さんと付き合ってるんですか?」
 その話は今はマズい。
 私の言葉より早く、彼が言葉を発した。

「はぁ、またその話か。な、分かったろ御坂?やっぱ勘違いされただろ?
 俺は良いとしても、お前は学園都市のレベル5なんだしさ。
 こんな勘違いで良い男逃すのも馬鹿らしいだろ?」

 …聞きたくない。

「ほら、ストラップ返すから、っておい御坂!」
 
 …受け取りたくない。
 
 堪らず席を立ち私は逃げるように駆け出した。



流れ出る涙も気にせず、俯きトボトボ歩く。

「御坂さーん」
 振り返ると初春さんと佐天さんが追いかけてきている。

「ごめん、ちょっと体調悪くてさ。勝手で悪いけど先に帰るね。ホントごめん」

「御坂さん、ごめんなさい」

「私たち調子に乗ってました。本当にごめんなさい」

「佐天さんたちが謝ることないじゃない」
 逃げたのは私自身の弱さだ。この娘たちは悪くない。

「それでも私たちの言葉のせいじゃないですか。だから、ごめんなさい」
 このままでは堂々巡りだ。それならいっそのこと暴露しよう。
 近い日に、彼のストラップを受け取るのも目に見えている。
 

「…私ね、アイツが好きだったのよね。『自分だけの現実』が制御出来ないくらい」

「初めて会った時はビリビリ呼ばわりでムカつく奴だったんだけどね。
 超電磁砲て呼ばれてる私を、ビリビリ程度でしか認識してなかったのよね」

「レベル5とか超電磁砲、御坂様とか呼ばれてたから、いま思えば新鮮だった。」
「勿論、初春さんや佐天さん、黒子にも感謝してる。ホントありがと」
 
「けど、みんなにも言えないことがあってさ、信頼してるのに頼れなくて、
 誰も巻き込みたくなくて死ぬしかないと思った事もあった。」

 2人の反応を伺う。死ぬしかないという言葉に驚いているようだ。
 もうあとは、掻い摘むだけにしておこう。

「と話せば長くなっちゃうし危ない話もあるからさ、ぇっと、
 私は超電磁砲でもレベル5でもなく、
 御坂美琴として接してくれるアイツが好きだったみたいなのよね。
 あははは、はい、おしまい!よし帰ろう」

 捲し立てる発言のあと自分の言葉を思い返さないうちに走る。
  
 少し遅れて2人の足音が聞こえてくる。

 そういえば黒子はどうしたんだろうか?



俺は今、ファミレスの一席で身を小さく震えている。
自称御坂の露払いこと白井黒子の様子がおかしいのだ。
俺の知ってる白井なら本来、この場面で怒り狂うはずなのだが
ティーカップに入った紅茶を上品に嗜んでいる様はお嬢様を認識させた。

「上条さん落ち着きなさいな」

「ぇーっと、白井さん?あなた様は本物でせうか?」

なんとも間抜けな質問だが、白井は答えるつもりはないらしい。
御坂はいきなりどこかに行くし、あの2人は追いかけるし状況がわからない。
どうしたもんかと、返そうと思ったストラップを左手で弄んでいる時だった。

「上条さん教えて頂きたい事がありますの」
  
何を教えて欲しいのか分からないが、御坂絡みというのは理解できた。
そして同時に、9月15日を思い返す。
突然やってきた御坂妹に話を聞き、御坂と協力し白井を助けた日のはずだ。
そこまで思い出した所で白井の言葉を待つ。

「わたくしが知りたいのは8月21日の事ですの。」

「寮に来てお姉さまのぬいぐるみを引きずり出したあと何をしてましたの?
 翌日、入院されるほどの何かに巻き込まれたようですが?」
 
「悪い、言えない。」
 予想外の質問に息を呑む。
 8月21日を思い返す。実験を止めた日のはずだ。
 あれは一つの地獄だ。話せるわけがない。

「では、上条さんの見てきたお姉様を教えてください。
 言えない事情もあるようですし詳しく話せとは言いませんわ」
  
 しつこく来るかと思ったがこれなら答えやすい。
 が、白井がきれないかが不安だ。

「俺の見てきた御坂ねぇ…白井怒るなよ?」

「怒りませんから早くして下さいな。お姉様を追わねばならないのですから。」
  
「ビリビリ、自分勝手、わがまま、短気」
 白井の反応を伺う。何やらプルプル震えてるのが怖いが
 先を促すように睨みつけてくる。
  
「不器用な奴、お人好し、世話好き、こんなところだな」
 白井の反応を待つ。これからどうなるのだろうか?
 冷や汗が全身から吹き出す。

「わたくしの見てきたお姉様とは、…やはり違いますのね」
 白井の小さく呟いた言葉が聞こえた。
 喜んでいるような、悲しんでいるような声色だった。



「上条さん、あの時言った約束は今も守れてるとお思いですの?」
 
 突然、白井に問いかけられる。
 素直に頷いた瞬間、コップに入ってた水をかけられた。
 何しやがる!と言おうと顔を上げた目には、落胆した白井の顔が映る。

「頭は冷えました?」
 怒気を含んだ声に背筋が勝手に伸びる。
 白井は続ける。

「上条さんが学園都市から居なくなってからの
 憔悴したお姉様を知らずによく肯定出来ましたわね?」
 
上条当麻は思う。仕方ないじゃないかと。
墜落するベツレヘムの星。半径40キロを超える大質量の直撃。
見過ごせるはずがなかったのだ。上条当麻という人間は。

助けに来た御坂美琴の手を拒み、彼女の磁力を断ち切ったのは右手。
幻想殺し。
あの磁力と一緒に、彼女の幻想を殺したのか?
8月21日。不意に御坂美琴の言った言葉を思い出す。

『それでも私は、きっとアンタに生きて欲しいんだと思う』

あの言葉が異質だったのだ。不幸少年の上条当麻にとって。
   
第22学区での言葉も、深夜の鉄橋での言葉も、ハワイでの言葉も
純粋に感謝している。
しかし、ここまで言ってくれる理由がやはり彼には分からないのだ。

白井黒子はやりすぎたかと後悔の念に駆られている。
先程から喋らなくなった上条当麻に何を話せばいいか分からない。
しかし、と同時に思いかえすのはあの日からの御坂美琴の姿だ。

突如、学園都市から消え、帰ってきたと思ったら日に日に憔悴していく姿は
思い返すだけで痛々しいものだった。
   
上条当麻の帰還と同時に嘘のように回復する御坂美琴の姿に
御坂美琴の世界にとって上条当麻という存在の大きさを理解した。
 
結果として結標淡希の言った8月21日の真意は分からなかったが、
あの日から上条当麻という存在は特別になったのだと思う。
ならばと、白井黒子は言葉を発する。
  
「輪の中心に立つ事はできても輪の中に混ざる事はできない。
 …上条さんにしか話した事がありませんが、覚えてますの?」
   
上条当麻は黙って頷く。
   
「そんなお姉様にとって重要なのは、自分を対等に見てくれる存在。
 第3位の超電磁砲を“ビリビリ”呼ばわりする上条さんのような人が
 お姉様にとって一番特別ですの。
 上条さんにとってお姉様はどういう存在ですの?」
   
理由が分かった気がする。簡単な話だった。
上条当麻にとって御坂美琴は 

「――――。」
  
満足げに白井黒子は微笑みながら言う。

「これはお姉様の露払いでも、ルームメイトでも後輩でもなく、
 御坂美琴の1人の友人としての願いです。
 お姉様とお姉様の世界を守ってくださいな」
  
「ああ、約束だ。
 今度こそ御坂美琴と彼女の周りの世界を守る」

「ならお姉様を――――――――」



「さて、そのストラップ預かりますわね」
 白井黒子は上条当麻の左手からストラップを奪うと瞬く間に消えた。
   
空間移動は便利だなーと呆けたのも束の間。
1人テーブル席に取り残された上条当麻の左手に5人分の伝票が握られていた。


2人と別れ寮に着いた私は堪らずベッドに飛び込んだ。
さっき言った自分の言葉の反動が抑えられない。
好きではなく、好きだった。
たった3文字言葉を付けるだけで過去のものに出来る言葉とは裏腹に
私の感情は過去にしたくないと抵抗をする。
   
布団をギュッと掴む。紡いだ言葉が胸を指す。視界が滲む。
素直な本心を告げる事も出来ず、自ら終わらせてしまった自分が情けない。
私はこんなに弱かったのだ。私はまだ好きなのだ。
『自分だけの現実』で制御出来ない、あの時とは真逆の感情が胸を圧迫する。
瞼に溜まった涙が流れた時には、嗚咽が漏れた。

   
シャワーの音で目を覚ます。黒子が帰ってきたのだろう。
ベッドの片隅に追いやられた携帯で時間を見る。
1時間ほど眠ってたみたいだ。
布団から出た所でバスタオルで身を包んだ黒子と目が合う。
気まずさから私はシャワー室に逃げ込んだ。

シャワーを浴び、パジャマに着替えた所で黒子から
見覚えのあるゲコ太ストラップが差し出される。
途端に彼が居なくなった喪失感に襲われる。
届かなかった手、断ち切られた磁力、千切れたストラップ。
あの瞬間がフラッシュバックする。
動悸が早くなる私を他所に、黒子が口を開く。

「所詮、類人猿は類人猿という事ですわね」
いつもの鈴のような声ではなく馬鹿にしたような声で。
私などお構いなしに黒子は続ける。

「さ、お姉様も目が覚めたでしょう?
 あんな類人猿のことなど早急に忘れて下さいな」
   
忘れられるわけない。忘れていいわけない。
   
「あのような類人猿がお姉様の世界に居ていいはずがありませんの」
   
もう無理だ。気付いた時には叫んでいた。
今までにないくらい怒っている私に対し、微笑を浮かべる黒子に腹が立つ。 
  
「いくらアンタでもそれ以上、アイツを悪く言うならただじゃおかないわよ!」
  
「その様子ならもう大丈夫ですわね。
 さて、早く準備しませんと、お姉様も着替えてくださいな?
 今日はお泊まり会ですのよ」

黒子が発した言葉の意味が分からない。
     
「黒子?ちょっと意味が分かんないんだけど?」

「分からなくて良いんですの。
 お姉様は上条さんが好きだと思ってさえいれば良いんですの。
 さあ、お姉様行きますわよ。…不純行為は許しませんわよ」
 
私のことなどお構いなしに黒子は荷物を持ち私を連れ空間移動した。



「えーと、どういうことでせう?」
上条当麻は困惑している。家計を脅かすシスターが「クロコ達とご飯に行くんだよ」
と意気揚々と語っている。黒子って白井か?と考えている所に呼び鈴が鳴る
    
  
「あれ、初春さんに佐天さんだっけか?
 どうしたんだ?つか、どうして寮の場所を?」

「どーも!寮の場所は風紀委員の初春が職権乱用しました!
 えっと、あなたがインデックスさん?」

「ちょっと佐天さん!あ、こんばんわ。
 白井さんからインデックスさんの迎えを頼まれて来ました」
   
「私がインデックスなんだよ!さっそく行くんだよ!」

「あー、やっぱ白井だったか。
 とは言ってもな、貧乏学生の上条さんには金があまりないんですよ」
 
インデックスがムッとした顔を浮かべる。   

「お金はいらないみたいですよ?白井さんが無料食事券持ってるみたいですし。
 あとインデックスさんは私の家でみんなで泊まるので課題頑張ってくださいね」

良い娘たちだなーと思っている上条とは裏腹に
彼女たちはこれからの彼らを思うとニヤついて仕方がない。    

「そいうことならいいか。
 インデックス、あまり食い過ぎるなよ?あと3人にあまり迷惑かけるなよ?」
   
「とうまはいちいちうるさいかも。さあ、早く行くんだよ!」
   
「失礼します」と言って玄関が締められる。
 晩飯どうするかなと冷蔵庫の前で考えている彼の頭上に
 突如現れたバッグが後頭部を直撃する。
    
 仰向けになった上条当麻は上半身を起こし、あぐらをかく。
 腕を組み、目を閉じ状況整理をするも分からない。
 とりあえずバッグを調べてみるかと、目を開けると
 あぐらを組んだ足の上に座り、首に手をかけている見覚えのある少女が映る。
 顔は真っ赤でキュッと口を閉じ、目には微かに涙が滲み震えている。
 
 余計に状況が分からない。もう一度、目を閉じる。
 えーっと、これはお姫様だっこをしてるのか?
 いや見間違いだよな?そう見間違いだ!ハッ!そうだ幻想だ。
 再び目を開ける。そして高らかと叫ぶ。

「…その幻想を「ふにゃー」御坂!電気!漏れてる!漏れてるから!」



 意識を取り戻した私は彼に叱られている。
 気がついたら彼にお姫様抱っこをされてたのだから
 漏電しても仕方がないじゃないかと私は密かに思う。

「右手が間に合ったから良かったけど、次からは気をつけろよ」
 次という言葉に嬉しくなる私は現金だ。
 さっきまで自分の言葉に泣いていたくせに。我ながら都合がいいなと思う。
   
「あ、白井にありがとなって伝えといてくれ」
 突然の言葉に意味が分からない様子の私に詳しく説明をする。
 つまり黒子たちは今あのシスターを連れ食事中で、その後佐天さんの家に泊まる。
   
 そして黒子に持たされたこのバッグ。
 ああ、お前のかなんて言う彼の言葉を尻目に中身を確認する。
 そして黒子はお泊まり会と言いつつ、ここに空間移動させた。
 それはつまり、ここに泊まれと?そんな馬鹿な。

「さて、御坂も佐天さんの家に泊まるんだよな? 送ってやるから案内してくれ」
   
「わ、私は…ここに泊まる…」
 最後の方は聞こえるか分からないくらい小さいも音にしかならなかった。
 よく聞こえなかったのか、へ?と言う彼に近づきシャツの裾を掴む。
 これが最後のわがままになるのなら。

「だ、だから、その、アンタの家に、泊まりたいんだけど…だめ、かな?」

「ダメじゃない」
 気付いた時にはそう答えていた。即答だった
   
   
 課題が捗らない。いや、確かに進んではいるのだが意識は別のところにある。
 課題よりも優先すべき事がある。それを正しく理解しても上条当麻は動けない。
 何をどう伝えれば良いのか分からないのだ。
 しかしと、プリントの上を走ってたペンが止まる。
 どうしたの?と問いかける御坂美琴と目が合い妙な緊張感に襲われる。
 彼が彼女に言えたのは「め、飯、食いに行こうぜ」
 ただ一言であった。
   
 先ほどのドモった恥ずかしさを抱えたまま歩く。
 右隣を歩く彼女は普段とは対照的に口数が少ない。
   
「なぁ御坂。学園都市の自販機って商品の実地テストみたいなもんなんだろ?」

「あー、そうね。大学やら研究所が作ってるみたいだけど。それがどうしたの?」

「いや、あの時呑まれた2千円どこに行ったんだろなーと」 
   
「くっく、あははははは!その話はダメ、あっはっはっは!」

 呑まれた2千円札は悲しい出来事だが、
 今日ようやく見られた彼女の笑顔に比べると本当に些細なものだった。



「くっく、で?いきなりどうしたのよ昔の話をして?」

「いや、いまでこそこうして2人出歩いてるけどな、
 あの日が初めてなんだぜ?今の上条当麻がお前と歩いたのは」

「そっか、そういえばそうだったわね」

「絶対笑わないとか言ったくせに笑うし、自販機に電流流すし
 あの日からずっとお前に振り回されっぱなしだ」
 
「それは…悪かったわね。もう振り回さないから」

「けどな、別に嫌じゃなかったぞ?
 お前と一緒に歩くのは心地良いと思った」

「ちょっとアンタいきなり何言い出すのよ!」

  
「よしビリビリ!あの鉄橋まで競争な。
 負けた奴は何でも言うことを聞く罰ゲームな」

「ビリビリ言うな!負けたらちゃんと言うこと聞きなさいよ!」


「だーっ!負けた。アンタの体力おかしいわよ」

「先代の上条さんを追い回してくれたお嬢様のおかげだろうな
 まぁ覚えてないけど。追い回してそうじゃん御坂。」

「う、ううるさい!さっさと罰ゲーム言いなさいよ!」

「いや、その前にやらないといけないことがあんだよ」
   
「何よ?」
「御坂、ただいま。遅くなって悪かった」
  
「…っ。遅すぎるわよ…バカ!」
 溢れ出る涙も気にせず、ただ彼の体を抱きしめた。
 またいつかどこかに行ってしまうのだとしても。
 今だけはどこにも行ってしまわぬように、力いっぱい。

「助けに来てくれてありがとな。俺はずっとお前に救われてたんだな」
 上条当麻を救えなかったという幻想に囚われている彼女を抱き寄せる。
 多くの幻想を砕いて来た彼の右手で。



「さて、罰ゲームだけどな」
 上条当麻は抱きついたままの御坂美琴に告げる。
   
「あのお揃いのストラップをつけさせてくれ」

「…また勘違いされるわよ?」
 御坂美琴は顔を上げずに告げる。

「バーカ。勘違いされてくれっていってんだよ!」

 御坂美琴はハッと顔を上げる。と同時に上条当麻はそっぽ向く。
「…それってさ、どういう意味よ?」

「俺が不幸体質なのは知ってるだろ?ガキの頃なんか酷かったらしくてな。
 俺と居ると不幸になるって俺自身が一番刷り込んでたんだよな。」

「けどな白井と話してる内に悟ったんだよ。
 一方通行と戦った時にお前が俺に言った言葉覚えてるか?」
   
「それでも私は、きっとアンタに生きてて欲しいんだと思う。だったかしら?」
 何故か確信があった。そしてその言葉はあの時より強くそう思っている。

「記憶を失う前の俺はどうか思い出せないけどな、
 記憶を失った俺にとって初めて言われた言葉なんだよ」
   
 生きてて欲しい。
  
「そう思ってくれるお前が隣に居てくれたら俺は幸せになれるんだよ!
 だから御坂、俺が囚われている不幸な幻想を壊してくれ」

 御坂美琴は涙を拭うと、赤面している上条当麻の近くに歩き出す。
 携帯を奪いお揃いの片割れを着けたところで、
 左手薬指に冷たい違和感を感じる。
 鍵付きロッカーに締まってあるはずのそれは
 当然のように彼女の薬指に填められている。
 その片割れも右掌の上に空間移動したように現れる。

 御坂美琴は小さな声で、ありがと。と告げると
 上条当麻の左手薬指に填める。
   
「これもお揃いだからね」と耳打ちし、彼の右手を掴む。

「私もアンタが隣に居てくれたら幸せなの!
 不幸なんて言わせるもんか!何度だって言ってやるわよ!
 アンタと私は、同じ道を進んでる。これまでも、これからも」

「御坂、俺はお前が好きだ」
「私も、アンタが大好…!」
   
 月明かりの射す鉄橋で、最後の一言が音になる前に2つの影が1つの影になる
 有るべき場所に戻ったゲコ太の髭が微かに綻んだ事を2人は知らない。


おしまい








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