『若者とファッションの街』――渋谷。
普段は他人の網膜に爪を立てるように着飾る者たちで賑わう繁華街であるが、今は歩く者も少ない。
連日SNSで拡散される“殺人鬼”たちの饗宴、その残滓が凄惨なものであったからだ。
闇夜に羽を伸ばす者は無く、皆家で静かに夕食をとる。
今夜も、その筈だった。
「ひいぃぃぃひっひっひっ、わぁ~たしのカワイ~いクルマちゃんでぇぇぇぇ!フみゴコチをタシかめてサしアげましょうねぇぇぇえッ!」
丸眼鏡に白衣の男が、渋谷スクランブル交差点を爆走する。悲鳴を上げ、逃げ惑う人々を小石でも踏みつける感覚で轢き殺していた。
彼の忌み名は“轢死学者”。愛車のキーを差し込む事で何でも「車」に変える異能で持って、人間の踏み心地を確かめる稀代の探究者である。
「ゲキョキョキョキョ!俺の殺人的デスカレーを喰らえ!喰らって死ね!」
悪魔的運転技術を華麗に躱しつつ、皿に盛られたカレーライスを両手に構えるのは“残虐カレー”。殺人的インドからの使者は、空気さえ焦がす
カプサイシンの暴力を投げ付けていく。ターゲットは白衣の男だけではない。近くに居た2人の女も巻き添えに、半日煮込まれた牛すじカレーを投擲した!
「…関係ないわよ」
「ハハハハハ!気が合うねぇ!」
だが、自販機とカレーに挟まれた女たちが、死ぬ事はなかった。
ストリートファッションとピアスで着飾る女を、自販機は何故か轢き殺せずに“すり抜けて”しまう。そして黒いセーラー服に身を包む少女も、包丁で
灼熱の災禍を“両断”していた。
回避動作の直後、ピアス女は自分の頭部目掛けて飛来する包丁を、得物である鋏の一閃で振り払う。数メートルの距離を置いて飛び退いた先で、
黒セーラーが嗤っていた。
――2人の名は浦見 栞と西条 なつみ。
否、東京を震え上がらせる殺人鬼の一角、“ウラハラシザーズ”と“ラブ・ファントム”と呼ばれる鬼女である。
「なぁ君たち!1つ提案があるのだが!」
「ひいいひっひっ、クルマはキュウにトまれないのですよ~」
「ゲキョキョキョキョ!命乞いならお品書きに無いでヤンス!」
「……どうでもいい。“あのコ”だけ渡してくれる?」
「“その”事なんだけどね!」
4人の視線が、一斉に同じ方向を向く。そこには、大勢の人間が右往左往する交差点で死闘をちょっと離れた位置から伺っていた女、
“悪徳警官代理”稚切 バドーが居た!
「へ?あ、おげええええええええええっ!」
びちゃびちゃ!
尋常ならざる殺人鬼たちの殺意を受けて、バドーは夕食のカレーうどんを盛大に吐き戻す。うどんがベンチコートの裾を汚すと同時に、彼女の頭に
殺人鬼たちの「記憶」が流れ込んだ……それは感覚となって、今まさに目の前で起きているかのように再現される。
尻に伝わる、人の骨をばきばきと折る感触。激辛カレーを食べた女子高生の顔が真っ赤になり、炸裂する直前の目玉が飛び出した顔。
何か柔らかいものをジョキリと切断する音。血と生肉の味。
収まらない吐き気が胃液を押し上げる。再び嘔吐。喉に走る焼け付くような痛み。あぁ、何でこんな事に。ただバドーは、今日の寝床を求めて
渋谷をぷらぷらしていただけなのに!
――――カカカ、気ニスルナ。ソイツラモ、皆殺シニシテシマエバ良インダ。
…バドーは胸を押さえる。押さえてどうにか出来る物でもないが、そうするしかない。流れ込む残酷な記憶と共に、ぢくぢくと心を刺す言葉が続く。
バドーの抱えた闇。復讐の念、殺人ガガンボの意思だ。
「まぁ、何だ。早い者勝ちという事でどうかな?」
「私は話を聞きたいだけよ。その後って訳には行かないの?」
どうみても哀れなバドーだが、殺人鬼たちが諦める様子はない。無慈悲にも、少女の肢体を裂く喜びを、この場の殆どが知っているからだ。
“ラブ・ファントム”が細長いコードレス掃除機を抱えた。“轢死学者”はいつの間にか購入したコーヒーの空き缶を投げ捨て、“残虐カレー”は殺人ナンを取り出す。
唯一敵対的でないらしい“ウラハラシザーズ”も、溜息混じりに鋏を構えた。
「これはどちらかがシぬまでオわりませんなぁぁ! まぁオわるのはおヌシのホウですギャッ」
「カレエエエカレエエエ美味しいカレエエぇえッ!?」
だが、引き裂かれたのは彼らの方であった。突如、飛び込んできたモンスターバイクが、自販機ごと“轢死学者”と“残虐カレー”を跳ね飛ばしたのだ!
バイクはそのままドリフトし、効率よく2体の殺人鬼を磨り潰していく。跨るのは、巨体に傷跡の目立つ怪物…東京郊外で少し話題の殺人鬼、“新人類”こと
黒房 清十郎である!
「ヒヤッハアアアアアア!異世界転生サセテヤルゼエエエエエッ!!」
奇声に応じてバイク後方の荷台が開き、中から大量のカレーライスが発射される。何と奇妙な事に、そのカレーが直撃した人間は爆発し、木端微塵に
四散していくではないか!更に、飛び散った血飛沫に混じるカレーが、燃焼作用を持って二次被害を広げていく。交差点は一気に火の海と化した。
「きゃあああああ!」
バドーが爆発の衝撃でどこかへ吹っ飛ばされる。その体を、交差点の一角から伸びた細長い毛のような物が絡めとると、抵抗も出来ずに
引っ張り込まれていった。
「あー!こら、逃がしたじゃないか!悪い子!」
“ラブ・ファントム”が怒鳴る。しかし火の勢いは強く、ダイソンの吸引力でも太刀打ち出来そうもなかったので、仕方なく諦めてハチ公前広場の
ラーメン屋台に並んだ。
パニックに陥った群衆の波に、“ウラハラシザーズ”は飲まれかけていた。
「あのコには聞きたい事があったんだけど…まぁいいか。縁があれば、間に合うだろうしね」
だが手にした鋏をチョキチョキと開閉すると、彼女は押し寄せる群衆の波を問題なく通り抜けていく。
火と、絶叫と、カレーによって混乱する渋谷。その様子を見た“新人類”は満足気に笑うと、バイクから飛び降り「おげえええ」と嘔吐した。悲鳴。
仁王立ちするその姿は、黒いセーラー服に包まれている。表情は恐ろし気に装うが、ちょっとだけ自信が見えていた。
(さぁ、どうだ!“よくカレーとかお裾分けしてくれるちょっとドジっ子な幼馴染”をコンセプトにした、新世代のマーダーだぞ!これは新しい!)
近くにいた渋谷の原住民たちは、その顔を恐怖に歪め、絶望も露わに叫んだ。
「ひ、ひぃぃぃッ!またセーラー服の殺人鬼だあああああ!」
「3人目のカレー魔人が出たぞぉぉぉ!気を付けろぉぉぉ!」
「こいつもゲロかよぉぉぉ!」
…え?
巨体の殺人鬼が見渡す。そして理解した。—―――あぁ、渋谷は、男が来る遥か以前から、地獄となっていたのだ。
吹き荒れる強風、立ち込める霧、降りしきるバター。空中には人間が吊り上げられ、羽の生えた餃子が人々の口に飛び込んでいく。
交差点の路上では、手に凶器を持つ者共がそうではない者たちに襲い掛かっていた。包丁、のこぎり、釘バット。日本刀で斬りつけられた女子高生が、
制服を残して木端微塵に吹き飛んだ。銃声がいくつも鳴り響く。
踊るバレリーナに蹴られた男性が破裂する。突然顔色を紫に変え、もがき、倒れる中年の女。充満する血と、吐瀉物の臭い。そそり立つ公衆便所。
大学生のカップルが突然老人となり、戸惑っている内に脳天をかち割られる。ラーメンの屋台には行列が並ぶ。
人間以外も恐怖の源だった――濃い霧の中に、異形の影が蠢いている。首のない甲冑の騎士、三つ首の犬、彷徨うゾンビ、翼のある人型。猿に似た野人が、
何故か水着姿の子供を顔からばりばりと食べている。
路地裏でサラリーマンをレイプしているのは、普段は深海に生息する筈のグロテスクな触手生物であった。そのすぐ隣を、頭部の燃えたメイド服姿の女が
金属バットを抱えて走り去る。
悪夢のような光景。人間ならざる者の所業。最早明白であった、今この場には「居る」――夥しい数の魔人が、夥しい数の殺人鬼が!
少女が、雑踏の中で歌っている。混沌の中にあって、それに気付く者は少ない。
Clap, Clap, Clap. 拍手の用意をして下さい。
Flap, Flap, Flap. 心を自由に、どこまでも自由に。
Crack, Crack, Crack. 壊れてしまってもいいでしょう?
Slap, Slap, Slap. 両手を叩いて踊りましょう!
少女が、雑踏の中で歌っている。……笑顔で。混沌の中にあって、それに気付く者は少ない。
始まりは、未成熟な少女の“エゴ”だった。
そのエゴの為に無数の命が消費される狂気。長い長い夜が今始まる。
参加者総数1313名、内殺人鬼143体。
キラキラダンゲロス第1夜―『渋谷蟲毒事変』―
街は今、DANGEROUS。
道玄坂から文化村通りへと抜ける道の途中で、何人もの人間が倒れている。
中には悲鳴をあげ、転がりまわっている者も居た。その顔に、皮は無かった。
――――“カオハギ”が、徘徊しているからだ。
うろうろと歩き回る、身長5メートルの巨体。右手には鉈、左には皮なめし用のナイフ。
コレクションした顔の皮はジャケットの表を飾り、今も生きているかのようにまぶたや口をぱくぱくと動かしている。
“カオハギ”が、茶髪の男を追いかける。元陸上部の男はかなり足が速いが、それでも“カオハギ”の方がずっと速い。
追いつかれる。そう思った時、目の前に簡易トイレが現れた。
「ひえええっ!」
たまらず飛び込む男。外からどかどかと叩く音がするが、トイレはびくともしない。そうだ、このトイレのメーカーには覚えがある、対魔人用の頑丈なトイレで
有名な、そう確かト……しかし、嫌に臭いな。後何で渋谷の真ん中にトイレが…?
そこまで考えたところで、男は自分が悪臭放つ洞窟めいた場所に居る事に気付いた。慌ててスマホの画面で周囲を照らすが、見えるのは延々と続く、内臓のような壁のみ。
そこは、殺人鬼“公衆便女”が張り巡らせた罠。男はこれから、死ぬまで彼女の広大な大腸の中を彷徨うのだ。そして最後は糞と成り果てて死ぬ――――
その頃、外では“カオハギ”の動きがぴたりと止まった。ビルとビルの隙間で、何かが動いた気がする。果たしてその隙間には、大学生と思しき3人の男女が、互いに身を寄せ合って隠れていた。
3人は、化け物がこちらに気付かず通り過ぎてくれる事を必死で願う。
だが突如、不運にも交差点で爆発が起きた。その明かりに照らされ、恐怖におびえた3つの顔が、“カオハギ”の視界に入ってしまった。
“カオハギ”は、その全ての顔でにやりと笑うと、鉈を持ち直す。あぁ、とても良い表情を見つけた。
「きゃはははは!クライマックスだ!」
華美な衣装に身を包んだ“爆殺俳優”が、声を張り上げる。両手の拳銃を乱射し、停めてあったバイクや軽自動車に当たると不自然な爆発を引き起こした。
持ち主らしい男性とその友人が、火だるまになる。
「もう我慢できねぇ!」
その近くで、“爆殺俳優”のはしゃぎぶりを見た消防服姿の“ファイヤーマン”が、堪え切れずに地面をどかりと蹴る。すると地面から炎が噴き出し、
“ファイヤーマン”の意のままに動き始めた。
次々に車が爆発していく。広がる火炎。爆音。自らの爆発で天高く吹き飛んだ鉄の塊が、近くにいた若者を押しつぶす。その車に向けて、ダメ押しの炎が
噴射された。
「サイッコーだね!もう、最高!」「そうっスねぇ!マジで!」
空になったマガジンを捨て、新しい弾を込める。炎が空を舞い、次々と人間を舐めとっていく。一瞬の目配せの後、意気投合した雰囲気を醸し出した2人は、
次の獲物を求めて交差点の中央へと躍り出る。
大騒ぎの渋谷から離れようした人々は、霧の向こうに絶望を見た。
それは生気なく歩く、死体の群れ。うつろな目で手を伸ばし、近くに居る人間の首を絞めている。その数は多く、そして増えていた。元から居ただろう
死体に加え、つい今しがた殺されたカレーまみれの死体も起き上がってきたのだ。
ゾンビが、渋谷を取り囲んでいた。
パンクファッションの女が、ゾンビに捕まれる。手に持つハンドバッグで応戦するが、痛みを感じない彼らに通じる筈もない。少しずつ、じりじりと、距離を
詰められていた。
群れを率いる“ゾンビ・ヘッド”が号令をかける。その声を皮切りに、地鳴りと腐臭が押し寄せた。
轟音。絶叫。悲鳴。怒号。
十数メートル先に見える交差点では丁度、若い男が殺人鬼に捕まり、体を粘土のようにいじられている。
現実とは思えない光景をただ茫然と見ながら、バドーは交差点北西のQFRONT1階、スターバックスの店内その冷たい床の上で、上下逆さまに転がっていた。
「い、一体何が…?」
「大丈夫か、バドー。」
バドーのすぐ隣に男が屈んでいる。こちらを心配そうに見つめる顔その正体を、バドーの『象撫』が伝えてきた。
警視庁公安部所属かつ頭髪の薄い股揚 春津だ
――――意識迷彩は既に施されている。
「……えぇ、大丈夫ですよ。股揚さん。一体、何が起きたんですか?」
「思いつく限り最悪のケースが、だよ。殺人鬼共が、何考えてんだか知らんが乱痴気パーティーを開きやがった。もう部下が1人やられている。
見ての通りの大パニックだ。」
股揚が顔をしかめる。……警視庁は3日前、闇のSNSを通じてとある文言が張り出されているのを発見した。
『一週間後、渋谷スクランブル交差点にて。勇気ある“殺人鬼”の皆さん、是非ご検討下さい。』
これ賛同するコメントに警戒した公安部は、腕利きの“魔人”刑事である股揚に対し、事態の把握と対処をするよう命じたのだ。だが、懸念は想定以上の
規模で発生したらしい。部下、というのは、この真っ赤に染まった死体の事だろうか。
「ここから少し離れましょう。まずは、事態を俯瞰して観るべきです。」
「何言ってるんだバドー、もたもたなんざしてられん。急いで交差点に行くぞ。」
「えぇ……?」
あわよくば逃げたい。露骨に嫌そうな顔をしたバドーに、股揚は溜息を吐いた。耳元まで顔を近づけると、ひそひそと小声で話しかける。
「なぁ、バドー。あいつら全員捕まえたら、懸賞金総額いくらになると思う?」
「はあ。」
「少なくとも13億だ。俺はその倍はあるとみている。」
「…はぁ。」
「全くもってクソ喰らえだ、畜生。いいかバドー、市民の命が最優先なんだ。1体でも多くの殺人鬼を捕らえなければならん。億単位で賞金
かけられとるような、んな危険人物の集まりを放っておけるかよ?」
そう言って、股揚は両手に拳銃を構えた。腰にもまだ収めてある。恐らく公式の装備ではあるまい……暑苦しい。だが、強く燃える彼の心は、
焚火のような熱を伴ってバドーの正義感をチロリと撫でた。
(正直、戦闘なんかしたくない。殺し合いなんてまっぴらですけどねぇ……)
店内を見回す。怯えた感情の波が押し寄せる。この場には、一般人も隠れているらしい。子連れの姿も見受けられた。
――――カカカ、流サレヤスイ年頃ダナァ。ホレタカ?
――――丁度イイぜ、殺セ!ドウセ殺人鬼ドモハ皆殺シナンダ!カカカカカッ!
胸を叩く。五月蠅いガガンボ、鎮まれ。バドーは表情に出さないよう、静かに毒づいた。
と、股揚が店の入り口に顔を向ける。そこには2人の人間が立っている。制服と思わしきブレザーを着た少年と、金髪の美青年。股揚が声を上げた。
「おい、危ないぞ。早くこっちに入りなさい!」
「…ふっ。警察か。丁度いい。」
学生姿の男が突然手をかざす。咄嗟に股揚が銃口を向けるが、そのまま地面に叩きつけられるようにして倒れた。不穏な空気にどよめく店内。
金髪の美青年が歩を進める。青年の両目は閉じられており、柔らかな睫毛がはためいていたく…否。バドーには分かった。はためいているのが睫毛でなく、
眼孔から飛び出す虫の頭だと!
美青年の双眸から伸びた、細長い蛆にも似た虫が、ブッという音と共にごま粒のような物を巻き散らす。それは手近にいた中年の夫婦に当たり、その皮膚表面を
喰い破った。
「はぁっはっはっはっ!いっつも偉そうにしやがって、むかつくんだよ警察はよぉ!」
「ぐ、ぐぐうう…!」
股揚が起き上がろうとするが、体に重りを乗せられたように動かない。ごま粒のような何かを受けた中年の夫婦は、増え続ける大量の羽虫に覆われながら、
みるみる内にその体積を減らしていった。
学生服の男、“警官殺し”。能力は公的な身分を示す物体に超重力をかける『クライオモイ』。
金髪の美青年、“日没の貴公子”。能力は即時孵化・高速成長・無性生殖する肉食の羽虫を産む『パラサイトアイランド』。
……ここから出るには、「あれら」を退治しなければならない。バドーが股揚をかばうように立つ。
――イケ!前哨戦ダ!コロセ!餓鬼デモ容赦スルナ!
ガガンボの声が頭に響く。バドーは息を一つ吐くと、覚悟を決めてコートの内から金槌を取り出した。
“ミスト・レディ”が忍び寄る。
1メートル先も見えない濃霧の中で、彼女だけは道に迷うこともなく。
他に徘徊する殺人鬼たちだけを上手く躱しながら。
スタンガンを手に、端正な顔を崩さずに歩く。
「こっちよ!こっちに車があるわ!乗って!」
叫ぶ。十数秒も待てば、黒い影がいくつも近づいてくる。どれも悲鳴をあげ、助けを求め、先走る感謝の意を口にする。
それを聞いた彼女の顔が、端正な顔立ちのまま、ひどく醜い笑みを浮かべた。
「あ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛!や゛あ゛!や゛あ゛!」
ピンクのパーカーを着た中学生くらいの少女が、手足を振り回しながら泣き叫んでいる。衣服にプリントされているのは、かつて渋谷近辺に
縄張りを持っていたチーム、「渋谷ブレイブス」のロゴだった。渋谷ブレイブスはメンバーの証として刃物を携帯するのだが、彼女が
愛用していたのは小さなカッターナイフ。それは今、“ラブ・ファントム”の指先でくるくると弄ばれていた。
暴れる少女を、5人の男たちが抑え込んでいる。そして一心不乱に貪っている。生きたままの少女を、歯でつつき、咀嚼し、しゃぶっていた。
その隣で、やっと屋台に座った”ラブ・ファントム”の前へ豚骨チャーシュー麺少なめが登場した。
「旨い!う~ん絶品だ。やはり大盛りで食べたかったなぁ~」
「や゛べで!や゛べで!ゆ゛る゛じでっ」
「いけまへんなぁお客はん。若いんでしょう?もっと食べなはれや。」
「ははは。」
「ゆ゛る゛ったっ!たすけっ」
「ダイエットせんでもえぇでしょうに。うちで使ってる豚はね、草食って育ってますさかい。お客さんはもう、草食ってんのと同じどす。」
「あ゛」
「いい事を言うねぇ店主。いや、本当にいい事を言う。」
――――2週間前。食人鬼の裏コミュニティで獲物を物色していた彼女は、意外とファッション食人鬼が多い事に悶々としていた。こんな罪深くない
連中を食べたら、こっちまで浄化されてしまいそうだ。そんな事を考えている時に、ふと思い付いたのだ。
「そうだよ…狩猟だけが方法ではない。文明の発展と共に、農業や牧畜をしてきたのが人間じゃあないか!」
そう。食べたいのならば、牛や豚と同様に、最も罪深い人間を育てるのも「あり」ではないか?と。
それからの行動は早かった。魔人を何人か捕まえて拷問し、下拵えが済んだところで彼女の能力――あらゆる特性を2倍にする『バイ・クイーン』をかけた。
「食欲」と「消化機能」を強化された奴隷たちは、丸10日の絶食を経て、空腹の食人鬼と化したのだ。とっても苦労した。
“ラブ・ファントム”が男たちに発破をかける。
「さあ食べなさい!もっともっと食べるんだ!君たちの腹には、常人の倍は入るはずだからね!美味しいだろう、そうだろう!?」
肉を口中に頬張りながら、一斉に頷く男たち。その体はどこも傷だらけで、中には顔の半分以上を噛み千切られている者もいた。拷問による恐怖で思考は停止し、
しかし止められない食欲に突き動かされて、ヒトだった少女の血肉を胃に収めていく。倫理観などとっくに麻痺しているのだろう。
だが、彼らに安寧は訪れない。詰まる所、彼らも家畜に過ぎないからだ。
“ラブ・ファントム”の表情は晴れやかだった。美味しく肥え太る、罪深き羊を眺めて。
「ごちそうさま!これ、1000円からで。」
「はい、お釣り。500万円!」
安い!“ラブ・ファントム”は大満足で暖簾をくぐった。
男たちが慌ててその後に続く。屋台の前には、乱暴に噛み千切られた無残な肉が残される。
それはしばらくの間ふるえていたが、やがて夜露と同じだけ冷たくなった。
ハチ公前広場のド真ん中に、堂々とラーメン屋台が営業している。5人掛けの長椅子に7人座り、両端の客など尻半分が浮いていた。
殺人鬼が居並ぶ者の頭を殴りつけているが、屋台の明かりから視線を逸らす者は1人もいない。一緒に並ぶ者たちをかばう事も、
安否を気遣う事もしたかったが、それも出来ぬままにラーメンの濃厚な香りを嗅いでいるのだ。
ラーメン屋「極楽」は、日本屈指の旨さと安さを誇る名店である。連日の殺人事件による戒厳令が敷かれているにも関わらず、
渋谷に人が集まっている理由がそれなのだ。
故に、あだ名が“共犯者”。それは鬼の住む洞穴に獲物を誘い込む、誘蛾灯に他ならない。
ジグザグの剃り込みを入れた“ポルノコレクター殺し”が、その鉄拳で眼鏡をかけた頭を粉砕する。たった今殺害されたのは希望崎学園に
赴任したばかりの若い教師で、黒いボンテージファッションに身を包んでいた。
右手にはやたらでかいいぼ付きバイブを把持しており、直前まで交わしていた生徒とのメールは下品極まりなく、パンツを要求する内容で
埋め尽くされている。財布を開けば、中には淫らな近親相姦乱交パーティーを映し出したスナップ写真が堂々と収めてあるのが見えるだろう。
……これぞ死者を辱める魔人、“ポルノコレクター殺し”の悪意。殺した相手の遺品を、全て卑猥なブツに改変する能力。
赴任にあたり新調したスーツも、子供の頃キャンプで愛用した懐中電灯も、渋谷に取り残された生徒を気遣うメールも、最愛の家族との写真で
さえも、容赦はない。
見通しの良くない濃霧の中。幾本もの糸が交差する世界で、“ウラハラシザーズ”は自分の前に立ち塞がる青年をぎろりと睨みつけた。
「ぐふふ、君はここまでだよ鋏っ子ちゃん。ここから先は行かせないぜ、俺が、俺の能力がな、ぐふふふふ。」
界隈では“天吊り”と呼ばれている殺人鬼は、そう言って気持ち悪く笑った。その手には何も持っていないように思える。だが“シザーズ”は
『因果嘲』により、青年の両手に硬く食い込んだ複数の「糸」が、不可視の何かに絡みついているのを視認していた。……「糸」の付く位置と
手の構えからして、おそらく細長い紐のような何か。
「たーのしーたーのしーサァカスの時間だよー!」
全く抑揚の無い声で、それでも表情だけは楽しげなピエロがジャグリングをしている。投げているのは5・6歳くらいの女児だろうか。目に涙を浮かべているが、
体は硬直しぴくりとも動かせないようだ。
「ゲバミーの!な・ま・ストリート・キルのコーナー!イエー!」
茶髪の今どき女子高生らしい“Kill Tuber”が、宙に浮いたデコまみれのスマホ相手に話しかけている。だがケバい化粧の顔は常にこちらを向き、
手には使い込まれたキャラ物のナイフが握られていた。
「ふん、武器の性能試験には少々物足りない様子だが?」
高級スーツに宝石類をジャラジャラと身に纏った“死の商人”が嗤う。大型のアタッシュケースを持ち、ケースの持ち手と右手首とが手錠で繋がれていた。
左手には拳銃を構えている。
いずれも劣らぬ手練れ。首都近郊で暴挙を重ねる、極悪非道の殺人鬼である。
「関」
だが。
「係」
ちょきん。
「ない」
ちょきちょきちょきちょきちょきちょきちょきちょきちょきちょき
「わ」
ちょきん!
「……ね。」
殆ど、自然に動いていた。敵に繋がる糸を切り裂く、それだけで四方を囲んでいた脅威は、唐突に視界から消え去った。切られたのは“シザーズ”自身との因果の
「糸」。彼女たちはもう、互いに決して関わり合う事はない。
ついでに“吊り天”と不可視の武器の縁も切ったので、もう二度と使えないだろう。能力だけが取り柄っぽいが、もう一度作り出せないなら悲惨である。
ついでにピエロと幼女の縁も切ったので、ピエロは己が人生である幼女たちを永久に失った。取り落とされた幼女がそのまま落ちていくのが見えたが、関係ない。
ついでに“Kill Tubet”と繋がっていたリスナーとの縁も切ったので、今頃彼女は発狂しているだろう。勿論スマホとの縁も切ってある。
“死の商人”は特に何も切るような縁がなかったのだが、小心者の彼はいきなり消えた敵と味方に動揺し狼狽えていた。
そして、彼ら4人に繋がっていた「糸」を切ったので、今頃彼らは、下へと叩きつけられている頃だろう。“シザーズ”は足元を見る。その足が踏みしめているのは、
張り巡らされた無数の「糸」――渋谷スクランブル交差点直上、150メートルの空中に立つ彼女は、眼下で明滅する赤い光を眺めた。渋谷の燃える炎だ。
空中からバドーを探せないかと思い、「糸」を手繰り、登ってきた……こんな所で、4人もの殺人鬼と出くわす筈がない。彼らが浮いていたのも、最初は“天吊り”の
せいかと思ったが、能力の縁を切ったところで何も起きなかった。明らかに、何者かの手引きがあると考えられる。
「全く、どうしてこうもややこしい事ばっかり起きるのよ…!」
“シザーズ”は虚空を仰ぎ、溜息をついた。バドー。兄を殺した仇、政財界にコネを持つ旧家の主と関係があるらしい女。曖昧だが、是非話を聞かなければならない。
だが、遠く光る渋谷のどこにいるのか、今は霧に隠れて分からなくなってしまった。
(……関係ないか。どこまでも、どこまでも追いかけていれば、いずれ辿り着くものね。)
鋏を持ち直す。瞳に宿るのは、哀愁とか諦念とは無縁の、燃え上がるような怒りのみだ。
そして彼女は「糸」を強く、強く踏みしめた。その弾力に従って、“ウラハラシザーズ”は更なる上空へと飛び上がっていく。
「う~ん、どれもあまり良くないなぁ…」
交差点東、JR線のガード手前で、作業着姿の男がぶつぶつと呟いている。手でのみの柄を摘まみ、ぷらぷらと振っている。濃霧が立ち込める真冬の渋谷では、
何故かこの近辺だけひどく霜が積もっていた。周囲では様々な人間が、様々な恰好で凍り付き、一種の氷像のようになっている。
べしゃり。そこに、何かが落ちた。
「お、なんかいいのがあるぞ!」
作業着男が、それが落ちてきたという事実を気にする事もなく、気軽に歩み寄った。落ちてきたのは、高そうなスーツを着た、ラガーマンめいた体格の男。
“死の商人”だ。頑丈さが取り柄の彼は、息も絶え絶えながら、何とか死なずに済んでいた。だが、この寒さで急速に体表面が凍り付き、動けなくない。
地面に貼りついた新たなる氷像を、左右前後からあれこれと吟味していた作業着男は、やがて真剣なまなざしでのみを突き立てた。ザクッ!“死の商人”の右目に刺さる。
まだ凍り切っていない目から、体液が迸った。
よく見れば、周囲の氷像はいくつか削られており、元の形とは程遠い形状になっていた。……作業着の男は、世間一般から“真冬の彫刻家”と呼ばれている。ザクリ。
また、のみが振るわれる。熟考しながら、またザクリ。
“死の商人”は、楽に死ねない運命だと知り、悪態をつこうとした。無理だった。
「そーれ、スパイクです!」
バレー選手のような恰好の“凹”が、手にした球を上に投げると、見事なスパイクを決める。
黒いボールは一直線に飛び、目の前にいた30代ぐらいの男に当たった。脳漿が飛び散り、傍らにいた妻と幼い息子の顔を朱に染める。
鉄球を、まるでバレーボールのように扱う魔人能力。鉄の硬度とバレーボールの弾力を同時に併せ持つその凶器を構えると、
“凹”は即座に残った母子へとキラー・パスを放った。母親は子供をかばい、鉄球の前に己が身を挺する。
だが、その瞬間息子は消え、母は驚きもつかの間に思考を手放した。
“凹”から離れた位置で、サッカー選手のような男が男児を抱えている。その異名は、“赤ちゃんサッカー”といった。
……彼は今、日課のリフティングを行おうとしている。
「ネ゛エ゛エエエエエエッ!かれぇぇぇ作リ過ギチャッタノオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ‼‼」
交差点北側・井ノ頭通りにほど近い路上で、何とも言えない化け物が奇声を上げて暴れている。逃げ惑う人々の中でも一目で分かる異様。
身長3メートル、全身無数の拷問跡、セーラー服・黒ストッキング・革靴のコラボ。そしてカレーの入ったでかい鍋。
「ば、化け物だぁぁぁッ!こっちにも化け物がいるぞおおおおッ!」
「カレー!またカレー!」
「最近の女子高生はどうなっとるんじゃ!」
「がれ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッがれ゛ッ作゛リ゛過゛ギッがれ゛ッ」
時々おたまでカレーを撒けば、恐るべきスコヴィル値が群衆の体表面を焼き焦がす。人々を恐慌に陥れている今が旬の殺人鬼、“新人類”だ。勇敢な若者が
金属バットで殴りかかったが、体には傷一つ付かない。逆にカレー混じりのゲロを吹きかけ、眼球を焼き潰す。爆散。見事な手際である。
(個性…個性…っ!)
…だが、当の本人は余裕が無かった。暴虐なる手捌きは止まらずとも、明らかに集中を欠いている。と、露出の多いカウガールが民衆から飛び出し、
巨体の怪物へとColt Single Action Armyを向けた。彼女の名は“早撃ちデイジー”、自らも殺人鬼のクセに「こいつまじヤベェ」と思い、
らしくもなく正義の味方っぽく立ち上がった28歳処女である。
“デイジー”の放つ5発の銃弾が、“新人類”の頭部に直撃した。傷跡で引き攣り笑顔にも見える顔に、5発の弾痕が穿たれる。
しかし、“新人類”は止まらなかった。ダメージはある。そこら辺をこう、気合で耐えたのだ。
(個性!個性!個性!個性!個性!ボクの個性!個性!個性!“彼”の様な個性!個性!刃裏鬱怒!マーダー!ボクだけの個性ッ!)
“デイジー”の露出した腹部にラリアットが直撃し、背骨と肋骨が砕け散る。カウガールの体は大きくくの字に曲がり、その口と肛門から
赤い吐瀉物と糞便が噴き出した。そのまま地面に投げ出された女の股を開き、思い切り左右に引っ張る。ごきり、と両足の股関節が砕け、びきびきと裂けた。
肛門から手をぐりぐりと差し込み、腸を掴んでずるりと引き出す。
(個性い゛い゛い゛い゛――ッ!個゛性゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛――ッ!!)
家族連れらしい5人の男女が逃げていく。「ここまでくれば大丈夫だ」などと声を上げながら狭い路地裏へと入っていった。確かに、“新人類”では
入れそうもない――普通なら。
“新人類”は路地裏へと直進する。広い肩幅が、両脇の壁にぶつかった――ずぶり。両肩が壁と重なる。そしてそのまま、沈み込んでいく。『マーダー・エントリー』。
壁や障害物を通り抜ける異能によって、まるで壁など存在しないかの如く、巨体は家族連れへと追いついた。すぐに1人を捕まえ、頭を握り潰す。粉々の頭骨と
潰れた脳漿、かろうじてぶら下がる眼球を逃げる者へ投げつけると、皆一様に腰を抜かした。
2人目、腹を拳で貫く。3人目、壁に叩きつける。4人目、小さかったので蹴り飛ばす。最後の1人。ラッピングされた包みを抱える老紳士が悲鳴を上げ、命乞いをする。
「どうやったら個性って身に付くんだろう?」
最後の1人は時間をかけて殺した。顔の皮を剥ぎ、頭をカレー鍋に漬け込む。息が出来る程度に、すぐ死なない様に。だが、きっとこの殺し方も、プロの間ではありきたり
なのだろう。刃裏鬱怒には自分と同じ体格に優れたマーダーも多いに違いない。そもそも、『マーダー・エントリー』自体、彼ら彼女らの間では基礎的な技術だと聞く。
『やっぱり、才能あると思うのよネ、あたし。』
思い出したその言葉に、思わず瞳が潤む。
(“彼”は期待してくれているのに……ボク、もしかして、マーダーに向いてない…?)
どうすればいいのか分からず、殺しの腕を止めた黒房は、途方に暮れて泣いた。その横顔に、衝撃が走る。視界が揺れる。
「ねぇ~皆知ってるぅ?人間の体ってさぁ、35兆個の細胞で出来ているんだよ~」
地味な顔立ちの女が、そんな豆知識を大声で吹聴する。周囲は、まるで自殺カルトのように、自分の体を殴ったり、全身を掻きむしったり、壁に体を打ち付ける者で溢れていた。
車を持つ者が、その衝動を抑えながら、優先的に他の人からひき潰す事を提案すると、喝采が起きた。
「い、いやぁぁ!つ、つぶつぶコワイ!あなた、つぶつぶ!怖い!」
「お前!ひっ!つぶつぶ!助けてくれ!うわああああああ!」
長年連れ添ったらしい老夫婦が、互いの体を杖で叩き合っている。やがて杖を近くにあった石に持ち替え、かつて愛し合っていた2人は、互いを1つにまとめようと
殺し合った。“ミンチメーカー”とあだ名される女は、ゲラゲラとその光景を見て嗤っている
「ぎゃああああああああああっ!」
クマの着ぐるみを着た”三毛別”の頭に、よりリアルなクマが噛み付いている。着ぐるみから飛び出した鋼鉄の爪でその体表面を引っ掻くも、逆にクマの爪で腕ごと
圧し折られてしまった。これこそが、北海道のマタギたちに“三本指”と恐れられる生きた伝説、偽物など及びもつかないヒグマのパワー!
「うふふふふ!あはははは!」
血塗れの制服を着た少女が、交差点の真ん中で笑っている。
囲むのは4人の殺人鬼。“亜流ジャック・ザ・リッパー”、“ジャック・ザ・リッパーNEO”、“聖ジャック・ザ・リッパー”、“ジャック・ザ・バターリッパー”。
それぞれが手に持つ刃物はいずれも鋭利で、その手腕は剣の達人と見紛うばかり。
普通ならば少女は、周囲に散らばるぶつ切りと同じ姿になっているだろう。だがそうはならず、4人の手練れを相手に、くるくるとワルツを踊り続けていた。
「ありゅりゅりゅりゅ!先にこいつを殺した奴が、本物のジャックだ!」
「ネオネオネオ!俺のカマキリ拳法で八つ裂きにしてくれるわ!」
「ひ~じりじりじり!ミーも後1人でレベルアップ!がんばるデス!」
「ばたばたたた、必殺バターぬり剣!真剣白刃取りできるものなら、してみるがいい!」
「あぁ…そうなのね!水筒に入れた塩水を刃に変えることで、いたぶりたいのね!私の足を素手で削ぎ落して、その感触を味わいたいのね!そろそろ『ひのきのぼう』が
『はやぶさのけん』に変わるからちょっと嬉しいのね!真剣白刃取りした相手がすっごい滑る剣にびっくりする顔と、その後かち割れる頭が見たいのね!」
妙にテンションの高い4体と1人が、否5体の殺人鬼が、永劫続くのではと思える長い時間を踊る。
だが、どんな曲にもいつか終わりが来る。特に今宵の“ガールズトーク”は、お話したい相手が多すぎて、少し早口気味なのだ。
ワルツの終わり、少女は優雅に一礼する。慣れた手つきでショルダーバッグを開けると、H&K MP7を取り出して……
渋谷駅南口。濃霧のせいで黒く見えるが、地面には広大な血溜まりが出来ていた。その中心に、白い毛皮のコートを着た女が倒れている。傍らには立つ痩せた男は、
日本刀を背負い直すと、大きくあくびをした。
「あぁ~、他人の頭蓋骨でレモンサワーが飲みてぇなぁ~」
「…のん気ですのね…さっさと殺されてはいかが?」
緩い雰囲気の“髑髏サワー”に、倒れ伏す“飲血夫人”は苦笑した。顔色は悪いが、まだ余裕はありそうだ。
「いいや。俺はガキを殺さねぇ主義なんだよ。器にするには小さいからな。」
「あら、私が年下に見えまして?」
「腹ん中だよ、あんたのね。俺の『キラースキルレーダー』は、相手の能力が分かるだけじゃねぇんだぜ。」
その言葉に、“飲血夫人”が目を丸くする。やがて瞳に涙が滲むと、ぽろぽろと溢し始めた。腹をさする。まだ大きくなどないが、それでも大事そうに腹をさすり続けた。
「も、もう駄目かと思ったのに…効いたんだわ…!い、いっぱい飲んだのよ…!あぁ、私の子供!」
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