はーじまーるよー。
皆さんお久しぶりぶりざえもん!一番早アルティエです。
いよいよ第一夜ですよ!
いえーい!楽しんでますか?楽しんでますよね!
なんたって皆さんは死なないんですからね!
こっちは楽しめるかボケー!って感じですよ。
今夜私は人を殺すか、さもないと殺されてしまうんです。
え?前置きはいいから早くしろって?
知るか!私にだって心の準備というものがあるんだ!
スーーーーーーーーハーーーーーーーーーー!
はい、話を進めましょう。
私は今、路地裏で人を待っています。
今回の戦場ですね。
さてここで皆さんにクイズです。
私が今いるこの路地裏は、東京のどの辺でしょう?
分かります?
分かった方には3アルポイントをプレゼント!
って言っても分かりませんよね?
そうです。戦場は『路地裏』、具体的な地名は指定されていませんでした。
これ、ポイントですよ!
はい、私、wikkiのTOPにある運営ツイッターに対戦相手が表示されてから、関係ありそうなページを読みまくりました。
まさに死に物狂いですよ、それはもう。
そして気付いてしまったのです!この戦場の必勝法に!
まず、朔也君ですが、秋葉原に住んでいます。とっても分かりやすいよね!
一方で樹のお嬢ちゃんは・・・この子個人情報少なすぎなんですが・・・かろうじて近所の街が「東京の中心部ではない」とあります。
そして、秋葉原は東京の中心部です。
もうお気づきですかね?
そうです。私は、二人のうちどちらに先に会うかを(多分)選べてしまうのです!
要するに都心の路地裏に行って朔也君に会うか、郊外の路地裏に行ってお嬢ちゃんに会うかということですね。
そして私が選んだのは・・・
「うーん、魔人さんだったらこういう、人目につかないところにいるのかなぁ?」
ビンゴォ!
確率すり抜けがちょっと怖かったですがそんなこともなく、お目当てを引き当てました。
お嬢ちゃんはなにやら不思議な理論を展開しているようですね。
最近の夜は人が出歩かないんだから人目も何も無いでしょうに!
それよりなぜ私がお嬢ちゃんの方を選んだかですが、それはwikkiを見れば分かるでしょう。
『ゲーム内の大会で規定されている勝利条件は以下の通りとなります。
- 対戦相手全ての死亡のみ(不死身キャラはこの限りではない)』
『試合の結果として、必ず「自分のキャラクターが勝利する」内容のSSを作成してください。』
ここです!
つまり『この話』が私の作者のものなら、私は少なくとも戦闘力を残したまま生き延びるわけです!
だってそうしないと第二夜に行けないですしね。
だったら、お嬢ちゃんの『プロポーズ』を受けても私は生き延びる。それも戦闘に使える樹の能力を手に入れた上で!
なんか洗脳効果がついてそうなのが若干不安ですが背に腹は代えられません。
私はこのキラダンを最後まで生き延びたいんです!
「あっ!そこのあなた、魔人さんですかー?」
「フッ、魔人ですかと聞かれて魔人ですと答える魔人がどこにいる・・・と言いたいところだが、イエスと答えさせてもらおう」
「よかったです!あの、早速なんですが、私の家族になってくれませんか?」
早速すぎるわ!
ノリで「まずはお友達から」とか言いそうになりましたがそんな暇はないですね。決着は今夜中です。
それに早くしないと、朔也君もいつかは確実にやってくるのですから。
「ええ、喜んで!」
満面の笑み(マスクしてるけど)で返したら、彼女のほうもにっこり笑ってくれました。
あやうく恋に堕ちるところでしたが、これから殺す女です。自分に言い聞かせるのです。
三次女は糞。三次女は糞。
呪文を唱えながら待っていると、彼女の体から生えた蔓が、私の口に種を運びます。
おいそこはキスじゃねーのかよ!
プロローグの警官と俺と何が違うんだよ!
顔か?顔なのか?(マスクしてるけど)
やっぱり三次女は糞!
あまりの対応の差に私はガクッと膝から・・・いや、ちげー!これ!
そうです。どうしようもないのであまり考えないようにしてたのですが、『この話』が他作者のものなら私はどうあがいても死ぬのです。
つまり、このガクッは力を吸われて立てなくなってるってわけですね。
まあドンパチやってヒイコラいって死ぬよりはよっぽど楽なんじゃないでしょうか。
でも、やっぱり怖いものは怖い!
「お嬢ちゃん・・・手を握って・・・」
そう言ったら、キスは嫌でも、手は握ってくれました。
あったかい、いや、熱い、いや、私が冷たくなっているのでしょうか。
ただほんのちょっと恐怖は和らぎました。
あ、総入れ歯!じゃない、そういえば!
一人何もしないうちから脱落するんですから、このSSの評価は低いはず!
あとは、『私の作者』の、私が、うまく――
「東京を、荒らす者は、お前か!」
上空から声がする。
里実がアルティエを倒したことに反応し、朔也、いや、平将門がやってきたのだ。将門はメイド服のスカートをはためかせながら、軽やかに着地する。里実の前に三人、後ろに四人。計七人に分かれた将門は一斉に襲ってくる。
「ひゃあっ!」
里実には戦闘経験など無い。しかし宿主の危機を察知した“樹”の反応は素早かった。将門の得物であるナイフから身を守るべく、硬い樹皮で里実を覆う。蔓を伸ばし、将門達を縛り上げる。
「あなたたちが、殺人鬼……さん?」
「否、それは貴様であろう! 我は東京の守護者なり」
「?」
里実が首をかしげているうちに、将門の一人がナイフで蔓を断ってしまう。この“樹”の蔓は、蔓とはいえワイヤーのように切れにくいはずなのに。
「天誅!」
将門は踊るように跳び上がり、ナイフを逆手に振り上げる。将門の迫力に押された里実は後ずさろうとしたが――
「きゃっ!」
――足から地面に根が張っていたため、尻餅をついてしまう。しかし、それこそが“樹”の狙い。振り下ろされたナイフは、里実の額を少しかすっただけに終わる。もしモタモタしていたらザックリいかれてただろう。
とはいえ気が緩んだのも事実。残り六人の拘束が解かれる。里実は慌て、ビルの壁沿いまで走る。背後が壁なら、少なくとも背中から討たれることはない。
「もう後は無いぞ」
迫る将門達。里実は抵抗として浴びせんばかりの種鉄砲を放つ。これらは一粒一粒が当たれば必殺級、銃弾ほどの威力を持つ。しかし将門達には当たらない。避けているのではない。ナイフで弾いている!
「いざ、潔く果てい!」
里実はもはや無駄な弾を撒くことをやめた。持てる生命力の全てを防御に回す。
「ん」
あのような技を持つ男にどれだけ対抗できるかは分からない。ひょっとすると、あっという間に切断されてしまうかもしれない。
「な」
それに、耐えたところでどうやって逃げようというのだろうか。相手は七人、数の利もある。
「わ」
いっそのこと、何も抵抗しない方が楽に逝けるのかもしれない。そんな考えが浮かぶも吟味する暇は無く、彼らがそれぞれにナイフを構える。
「け」
そして、抜ける隙間の無い攻撃が、里実を襲おう、としたとき。
「あるかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」
将門の一人が、背後から飛んできた包丁によって倒れた。
一人分空いた隙間から、里実は向かいの電灯に蔓を巻きつけ、それを縮める。すると里実の体は電灯に引っ張られる。緊急脱出だ。
「他の俺がやってくれる? 知るか!!! 全っ然“実感”が沸かねえ!!!!!!」
里実の側には、豚のマスクを被った大柄の男が、鬼気迫る雰囲気で立っていた。
「正史じゃない俺は潔く死ねってか??? 冗談じゃねえ!!!!! 俺は俺だけだ!!!!!! 俺しかいねえ!!!!!!!!!!」
里実は呆気に取られていたが、すぐにハッとなった。そうだ、彼は“樹”に適合したのだ。これが運命の人。
「あなた、お名前は?」
まだ肩で息をしていた彼に向かって、里実はおずおずと問いかけた。
「あ……ハッハッハ! 私は一番早アルティエ……ってなんで今聞く!?」
「だって、最初から聞くと、なんか悲しくなっちゃうから……」
一瞬だけ暗い顔を見せた里実だったが、すぐに明るさを取り戻す。
「私は森本里実です。末永いお付き合いをお願いします」
「……」
今夜で今生の別れとなることを知っているアルティエは言葉に詰まった。
「そんなことより、今はここを乗り切ってからだぜ、お嬢ちゃん」
ごまかしから出たアルティエの言葉に、里実はこくり、とうなずき、蔓で包丁を回収する。
「アルティエさんは」
「アルでいいアルよ。なんつって」
「……アルさんは、“樹”のコントロールに慣れていませんよね。私が、サポートします!」
里実がそう言うと、蔓が一斉に伸びて、ビルとビルの間に網目のように張り巡らされる。巨大な立体迷路だ。
「マジかよ……」
プロローグからうすうす感じていたが、能力スペックが高すぎる。彼女が自分を“家族”と認識していてよかった。アルティエはそんな情けないことを考えながら将門に向かっていく。あっちも大概ヤバすぎるが。
「貴様、我の邪魔をするか。ならば同罪ぞ」
将門の凄みにたじろぐ。こちとら一般人だぞ! 相手の姿が女装メイドなのがまだ救い……なんてことは全然無い。むしろ余計に怖い。黒装束。
「アルさぁん! 乗ってください!」
「うおっ!」
目の前の蔓がちょいちょいと手招き(?)をしてきた。誘われるようにアルティエは空中へ駆け上がる。
「む?」
将門も蔓へ飛び乗ろうとする。しかし乗った部分がちぎれたり、蔓に頭をぶつけたりしてうまくいかない。逆にアルティエの方は、倒れそうになってもスッと蔓が先回りしてバランスを保ってくれている。これが里実の言う“コントロール”の効果だ。
だがそれも最初のうちだけ。将門達はナイフを蔓に打ち付け、強引にアルティエを追いかける。躊躇は無い。落下死しても代わりはいくらでもいるのだから。
「やべっ」
ついに囲まれ、焦るアルティエ。全く理不尽だ。こっちの残機は常に1しかない。対応を誤ればすぐにガメオベラだ。それでも何とか、ギリギリの綱渡りを続けている。一か八かで伸ばした手から、里実と同じように蔓が現れ、離れた場所の蔓に巻きつく。後はターザンよろしく飛び移る。
「アーアアーーーーーー!」
蔓はアルティエの巨体をも運び切り、役目を終えるとその手に納まる。距離が開いた。今度は包丁を投げるなんて必要は無いだろう。おそらくアレもできるはずだ。種鉄砲!
「うりゃーっ!」
気合を入れると、ちゃんと発射された。里実が撃ったときと違い、足場は不安定だ。将門達は次々と落ちていく。一、二、三、四、五、六……あれ?
「一人足んね……まさか!」
うかつだった。振り返ると、蔓のコントロールに集中していた里実の方に、最後の将門が突撃しようとしている。アルティエは慌てて蔓を伸ばす。狙いは将門でも里実でもない。あらかじめ道端に隠しておいた“あるもの”だ。
「『喰らえ』っ!」
それは鍋! アルティエ愛用の鍋が蔓に操られ宙を舞い、茶色くドロドロした液体をメイドに浴びせ掛ける! こんなものが掛かったらさぞかし熱いだろう。分身を出しても本体は熱いままだ。生かさず殺さず、本体を乗り移らせずに……。
「ふん! 『ムゲ』の味に比ぶればまだまだよ」
と思ったら全然効いてない! その上自慢のカレーをディスられたし、踏んだり蹴ったりでは? しかし。
「……我は今なんと?」
熱さとは別の理由で将門に逡巡が生じた。その隙に、里実が蔓を使って将門を縛り上げる。今度は切られることのないよう、きつく。
後から着地してきたアルティエに、里実は声を掛ける。
「アルさん、今のうちに逃げましょう!」
アルティエはハッとした。彼は今の状況を『命を懸けた戦い』として認識していた。しかしそれは彼に“上の世界”の知識があるからだ。里実は違う。里実にとって将門の襲撃は、『噂の殺人鬼に襲われた』というだけのこと。逃げるという選択肢は当然だった。
「いや、逃げるわけにはいかない」
キラキラダンゲロスwikiのQ&Aには『その場所で決着がつくのが望ましい』との回答がある。それだけならある程度ごまかせたとしても、もっと基本的なルール『朝までに決着』は避けられない。ここで逃げたところで将門は二人を探してくるだろう。逃げているうちに対抗策を考えられるメリットより、目を離すリスクのほうが圧倒的に高い。
「身体がざわざわするんだぜ。ヤツはここで殺す」
さらに、先ほどの将門の様子も関係している。あれなら仕込んでおいた“もう一つの策”にも希望が見える。
魔人二人が目で威嚇しあう中、里実はアルティエの言葉に反応した。
「あの、殺す、なんてよくないと思います……」
どの口がそれを言うか! ツッコミそうになるのをアルティエはこらえた。胎児を堕ろさせただけ(のつもり)のアルティエにとっては里実も立派な連続殺人鬼だが、今敵に回す可能性は一ミリもあってはならない。将門の分身能力はやっかいすぎる。二対一の構図を崩したくはない。
アルティエは将門を殺す方法を考える。敵は一人を殺しても分身に乗り移り、無傷で継戦するのだ。ならば分身を最大の七人まで出させたところで全て同時に殺さなければならない。その手段、一つ思いつくのは種を植えてしまうこと。だがそれは危険すぎる。自分が死ななかったのと同様に、将門まで“樹”に適合されたら最悪だ。朔也の作者ならそこまで考えるのだろうか。分からない。wikiは“過去”は教えてくれても“今”は教えてくれない。これは“誰の話”で自分はどこに向かっているのか。それが分からないことがアルティエはとても不安だった。でもたまらなく嬉しくもあった。目の前の勝利だけを考えればいい。ようやく分かったのだ。能力はただの道具にすぎない。自分の生死は自分の行動次第だと。まあ今は比較的安全な状況だから調子に乗ってそう思えるだけかもしれないが。
将門とのにらみ合いを続けながらも、アルティエは頭の中で必死にプロローグを反芻しヒントを探す。そう……たしか……「強欲の宿り木」プロローグ中で……根で……コンクリートを突き破って……水を吸い取っていた。これだ。おそらく人体からも同様に吸い尽くせるだろう。向こうもこちらの出方を窺っているのか、さっきから分身を出そうとしていないが、将門が再び七人になったときが勝負だ。
しかしその機会は訪れることはなかった。路地裏に四つ目の声が現れたからだ。
「朔也!」
声の主は、平安時代風の鎧に身を包んだ男であった。相馬賢司。将門に乗り移られた朔也の父である。
(おい! 今かよ!)
せっかく攻略法が見えたのに、とアルティエは心の中で毒づく。賢司を呼んだのは彼だった。どうやったのか? なんてことない。プロローグに店の名前があったので番号を調べてこっそり電話を掛けていただけである。朔也の目を覚ます“もう一つの策”として用意してあったが、間が悪かった。だが来てしまったものは仕方がない。この際だから展開に乗る。
「助けてくれ! 朔也君は正気じゃない!」
「もちろんだとも」
「貴様も、我の邪魔をするか!」
「え? え? どうなってるの?」
四者四様の反応を見せる中、将門の新たに作り出した分身が賢司に向かう。賢司は持っていた刀を投げ捨て、丸腰になった。
「なっ!?」
「朔也、お前のやるべきことは人を傷つけることじゃない。人を守ることだろ」
将門のナイフが賢司の心臓を、ためらうことなく一突きにする。あるいは賢司の方から刺されにいったようにも見えた。鎧姿といい、彼は“覚悟”してきたのだろう。その場に崩れ落ちる。
「ふん、石ころほどの障害にもならぬ」
そう言った将門の手は震えていた。これは、押すしかない! アルティエは叫んだ。
「朔也君! 自分を取り戻すんだ!」
「朔也、くん? しっかりー!」
よく分からないまま里実も応援に乗る。二人の声がどれほど後押しになったのかは定かではないが、将門、いや、朔也は、歩みを止めた。
「我ハ……なにが……東京ノ……守り神……」
頭を抱えて、うずくまる。彼は今まさに、戦っているのだ。
「殺した……滅シタ……殺人鬼は……我……僕……じゃないか!!!」
朔也は叫びながら意識を取り戻した。そして残った将門の現“本体”、つまり蔓に縛られている方の首を掻っ切った。それは朔也が将門を克服したことの証。完全に自分を取り戻したのだ。それから朔也は急いで賢司の元へ駆け寄る。
「父さんっ! 僕……」
もう手遅れだろう。支える賢司の体がやけに軽く感じる。賢司は途切れ途切れに話はじめた。
「なに、気にするな。お前は、“母さんの、仇”、を、取った、だけ、だ」
「どういう、こと?」
「今の、お前と、同じ、だ。六年、前、将門、公に、乗っ取、られた、俺、は、留美子、に、救、われ、た。あい、つの、いの、ちと、ひき、かえ、に」
「そんな! でもそれは!」
将門公がやらせたこと、と言おうとして、その言葉が自分にも当てはまることに気付いてやめた。
「僕は、償うよ。“僕”が殺した人の分。何年かかっても、この東京を守ることで」
賢司はもはや声も出せなかったが、息子の気持ちは十分伝わった。わずかに頷くと、そのまま安らかな顔で息を引き取った。
「父さん……」
朔也がもう動かない父の肩を強く、強く抱く。その側に、里実が近づいてきて合掌した。そして指から一輪の花を咲かせ、賢司の手に握らせた。
「ご愁傷様です」
しゃがみ込んで、朔也と目線の高さを合わせる。
「ありがとうございます。あなたは……」
「私には、家族を失った苦しみは分かりません。でも」
朔也の手を取って、励ますようにぎゅっと握った。その手から、蔓を伸ばして。
「新しい“家族”に出会うことで、その苦しみを和らげられたらいいな、と思うの」
種を植えた。
「うっ!」
途端、朔也はおぞましい吐き気を覚えた。体の中で何かがのたうち回っている。将門に乗っ取られていた間の記憶が無いせいで、“知らない”里実の能力に無警戒だった。いや、あるいは憶えていても油断したかもしれない。里実の言葉には本心からの温かさがあった。
「くそ!」
朔也は舌打ちした。里実へではない。忌々しい能力をこんなすぐに再び使う羽目になった自分へだ。将門に乗っ取られないよう、一人だけ分身を増やす。これで“樹”から逃れられれば……。
「なっ!?」
だが、既に手遅れだった。朔也の能力は“樹”も朔也の一部だと“認識”した。だから“樹”ごと分身する。これではいくら分身を増やしたところで苦しみが増すだけだ。
――きっと、罰が当たったんだ。人殺しの僕には、償う暇さえ与えてくれない。
朔也は死を受け入れた。
「父、さん、すぐ、そっちに……」
「なんで・・・朔也君を殺したんだ・・・」
そのとき、私の口をついて出た言葉はそれでした。
おかしいですよね?彼はさっきまで自分が殺すはずの敵だったのに。
でももう、それも関係無いです。
なぜなら『この話』の勝者は彼女なのですから。
なぜかって?見たわけではないですが分かります。私の内臓はもうズタズタなのです。
さっき身体がざわざわしていたのは、そういうことでしょう。
大人しく寝ていればまだ助かったんでしょうか。能力を使うことで樹を刺激してしまったのかもしれません。
「殺したわけじゃないの。ただちょっと、縁が無かっただけ」
知ってました?死が近いと、急に背筋がゾクっとすることがあるみたいですよ。
「俺と、『パートナー』じゃなかったのか?」
本当はそんなことを聞きたいわけじゃないんですけど、コンプレックスからですか、朔也君に嫉妬するような台詞を吐いてしまいました。
「だって、『家族』は多い方がいいでしょう?」
ああ、そうか。
この娘自身は『家族』としか言ってなかったんですね。
勝手に夫婦になったと勘違いしていましたよ。童貞乙。どどど童貞ちゃうわ!
いや地の文が悪いでしょあれ。
ともかくこのお方はどんな相手でも、何人でも受け入れる広い心をお持ちなんですね。
ただ、認識に致命的な欠落が一点あるだけで・・・
「君は、樹に操られている」
そうであってほしい、という願いを込めてつぶやきました。
「そんなこと、考えたこともなかったなぁ」
しかし彼女は、残念なことに否定しませんでした。
「でも、たとえそうだったとしても、それも含めたのが私、だと思います」
樹に操られていようと、そうでなかろうと、彼女は確かに『自分の意思』でこれをやっているのです。
それを聞いて私は愕然としました。
「お前は・・・化け物だ・・・ガハッ!」
つい叫んでしまい、血を吐くことになりました。
体を見るとお腹のあちこちから蔓が生えています。
「まさか、アルさんも・・・」
「近寄るな!化け物!」
もう必要も無いでしょう、豚のマスクを投げ捨てました。
私は人間です。
私は、闘いの中でようやく得た自我を失いたくありませんでした。
たとえ今から死ぬにしても、ほんの一瞬だとしても、樹に支配されるのは我慢できないのです。
幸い、まだ樹は胴体の中だけで蠢いている感じがします。
私は包丁を首筋にあてがいました。
ええ、怖いですよ。チビりそうです。
ですが、
「これが・・・『私』だ!」
これでもう、樹は私の脳に干渉できません。
よかったですね。ハッピーエンドってやつですよ。
ええ、お察しの通りです。
私の首は私自身の手によって刎ね飛ばされたのです。
そうそう、意識の途絶える瞬間、私はとても面白いものを目撃しました。
人を何人殺しても平然としていたお嬢ちゃんの顔が、悲痛に歪んでいたのです。
ざまーみやがれ。
“冥土の案内人”相馬朔也
――死亡(死因:“樹”に養分を吸われ衰弱死)
相馬朔也の父・相馬賢司
――死亡(死因:平将門に意識を乗っ取られた朔也のナイフにより刺殺)
“ポークカレー”一番早アルティエ
――死亡(死因:自らの首を刎ね自殺)
“強欲の宿り木”森本里実
――生存
第一夜『私は私』 終