「自首しないと...コノチヲアラスモノ...父さんに相談を...スベテヲケスノダ...」
己の犯した罪と使命感に挟まれ、警察にも自宅へも行けず。
歩いては休みまた歩き、答えの出ないまま朔也はその場所へと戻って来ていた。
「あ...いつの間にか戻って来たのか...」
神田明神。あらゆる意味で朔也の原点であるこの場所へ導かれる様に足を踏み入れようとしたその時、
「朔也くーん」
自分を呼ぶ声がした。振り返ると神田明神の向かいの歩道で巨大な男が手を振っている。
顔は豚のマスクを被っているから確認できなず、声もマスク越しでくぐもってはいたが、その巨体と『カレー南蛮』と書かれたシャツで朔也はすぐに相手を特定する事ができた。
「一番早さん...ですよね?なんて格好を」
「お互い様だ。朔也君さぁ、東京の事件を追ってるんだろ?お話しよーぜ」
一番早アルティエはかつて朔也の父賢司に弟子入りし厨房で働いていた。だか、頭に血が昇るとすぐ暴力を振るい、そのくせ相手が目上の存在や女性だとオドオドしてまともに会話もできない畜生だった。彼は程なくして店から姿を消し、最近自分の店を持ったらしいが半グレの溜まり場と化しているとか彼自身が半グレの仲間であるとか悪い噂が絶えない。
朔也はアルティエを好きになれなかった。寧ろ嫌いな人間の代表とも言える。だが、(本人にその気が無かったとしても)声を掛けて現実に引き戻してくれた事には感謝しているし、事件の情報をくれると言うのならばとホイホイついていった。
「賢司さんから頼まれたんだよ。お前が帰って来ないから探して欲しいって」
「...父さんが」
「まぁまずはこれに座れや。ずっと歩きっぱなしだろお前」
食用油を入れる一斗缶を差し出すアルティエ。朔也がそれに腰を降ろすのを見届けた後、自身はポリバケツに腰掛け話を切り出した。
「賢司さんに頼まれたのとは別に、俺は個人的な用でお前に会いたかったんだよ」
「と言うと」
「俺はついこの間魔人に目覚めた。俺の能力を簡単に言うと『東京内の殺人鬼達の詳細とそいつらによる殺人を終わらせる方法がわかる』だ」
なんだそれは、あまりにも都合が良すぎる。そう思う朔也だったが、歩き疲れ精神もいっぱいいっぱいなのですぐには否定を口に出せなかった。
「この東京には現在27人の恐ろしい殺人鬼がいる。例えばじゃんけんで勝って探偵を転落死させた殺人鬼」
「はい」
疲れているので聞き流す朔也。
「例えば住居と一体化した木目女を便器で殴り殺す殺人鬼」
「はいはい」
ウトウトしながら適当に返事する朔也。
「例えば通り魔を滅多刺しにした分裂女装メイド」
ガチャガチャン!
スカートの下に隠したナイフが何本も落ちて激しく音を立てた。
「い、一番早さん...僕は」
(あの殺人を見られていた!?いや、あの場に他の人は居なかったはず)
冬の冷気とアルティエの言葉か朔也の意識を覚醒させていく。この男は本当に重要な情報を握っている。先程の荒唐無稽な殺人鬼の話も出鱈目ではないのだろうと考えを改めた。
「言い訳とかいらねえから。ただ、俺のここまでの話を信じてくれりゃいい。眠らずちゃんと聞いてくれるか?マジ大事な話なんだわこれ」
「は、はい」
頷くしかなかった。まだ朔也が子供の頃「一番早さんのイモの剥きかたおかしいですよ」と言った三秒後に殴られ、さらにその一秒後に賢司がアルティエを殴ったのを思い出す。
否定するべき流れでもないし、真面目な話見たいだし素直に耳を傾ける朔也。
「27人た。俺の能力で知る事のできた27人の殺人鬼が最後の一人になった時に混乱は終わりを迎える。で、その27人には俺とお前も含まれてたよ」
「それってー!」
「冥土の案内人、ポークカレー、強欲の宿り木、この三人が今日この路地裏で殺しあう。今日ここで二人の殺人鬼が死ぬ」
そう言った後アルティエは立ち上がり、先程まで椅子代わりにしていたポリバケツをひっくり返した。
ドサッ
鈍い音と共にポリバケツから少女が転げ落ちた。落下の衝撃で顔を歪めるが声も出さず、身動きもしない。意識はあるが動けない程弱っているのは明らかだった。そして、少女の体からは何本か枯れ枝が生えていた。
「一番早さん、この子は」
「そうだ、さっき俺が言った奴」
「便器で殺された木目おん「違う」強欲の宿り木...!」
先程アルティエが言っていた自分達と戦う運命にある殺人鬼。それが何故かアルティエが座っていたポリバケツから出てきて、外傷は無いが死にそうになっている。
「ほら、後はとどめ刺すだけにしておいたぞ。ナイフが嫌なら火炎瓶あるけど使うか?」
カンカンカンカン
アルティエは平然としたまま、遮断機の向こう側から食用油のボトルを投げ渡そうとしてくる。
「一番早さん、一体どういう何分発なんですか!貴方はこんな事をして僕をどうしたいんですか!」
「俺はこのゲームの全てを見てしまった。そしてこう思ったよ。俺では勝てない。だがお前なら間もなく一番線電車が到着します」
◆◇◆◇
ガタンゴトンガタンゴトン
ふあー、おはようございます。約二週間ぶりですね。あー、変な夢見てた。ほとんど覚えてませんけど。
一番早アルティエの無(理のない範囲で)殺人クリア第一夜はーじまーるよー。
と言いましてもまだ早朝ですが。しかし、実質戦闘能力皆無の私は夜が来るまでが勝負。
そう、この昼間に有効なムーヴをして皆さんに評価してもらわないといけないんです。
私にとっての敵は朔也君とさとみんだけではありません。二つのパラレルワールドにいる私自身が最大の敵なのです。あっちの私達も情報を武器にしベストを尽くし、そして敗退するでしょう。なのに、この私が半端な策で勝ってしまったら皆さんは絶対こう思う。
『アルティエの作者は自分のキャラを活かしきれてなかった』そう言ってポイントをあっちにあげるんです。ちくしょう。
と言うわけでアルティエ三天王筆頭である事が義務であるこの私は今、新幹線に乗って東京から西へと向かってます。
え?東京を勝手に出ていいのかって?
モウ!マン!タイ!(銃を構える黒星カットイン)
私wikkiを十回読み返しましたが、夜に東京内の指定した場所で殺しあえとしか書いてませんでした。東京に結界が張られたとか特に書いてなかったです。ですから日帰り旅行してもいいんです!
う
『間もなく電車が駅に到着します...』
あ、着いたみたいですね。ここからは自転車です。駅そばのレンタサイクルで私が乗っても壊れない頑丈なママチャリを借り、近くのホームセンターへ直行。ポリタンクを購入し目的地へゴー。目的地からなるべく近いセルフスタンドで灯油をポリタンクに入れます。
駅の近くにもスタンドはありましたが、灯油が入ったポリタンクをママチャリに乗せての移動はしんどいのでこのタイミングで給油します。
勘のいい読者作者様は私が何をするのかもうおわかりですね?はいそうです。今から...
富 士 の 樹 海 焼 き ま す
え?警官がいるから昼間に派手に犯罪はできないだろうって?
モウ!マン!タイ!(ご飯のおかわりを要求する黒星カットイン)
私wikkiを百回読みましたが、昼間は警官が増員して夜には減るとしか書いてありませんでした。これを素直に読み取るならば、昼間は他県から派遣され夜には帰って行くのでしょう。つまり、東京の外では警官は増えていません!寧ろ減ってます!
よし、園芸部HPの活動報告によるとこの辺りだなっ、ファイアー!
◇◆◇◆
「ああっお父さんが死んだ!この人殺し!」
「里実さん、授業中ですよ?」
父の死をテレパシー的なもので感じとった里実は驚愕の声を上げ先生に注意された。
この父というのは会社から戦力外通告された方ではなく、宿り木の本体の方である。
「父さん(父さんじゃない方)の最後のメッセージによると、犯人はカレー南蛮のシャツの男...絶対許さない」
「里実さん?」
本体からの支援と内申点を失った里実だったが、得たものも大きかった。
それは殺意。これからの戦いに絶対に必要になるものを里実はこの時手にしたのだ。
強大な力でごり押すだけの無垢な存在はもういない。ここにいるのはカレー南蛮シャツ絶対殺すウーマンなのだ。
◇◆◇◆
これぐらい燃え広がったなら十分でしょう。これでさとみんが弱体化してくれるといいのですが。
富士ハイキングコースのキャンプファイアーを終えたら即座にママチャリでキノコダッシュ。帰りの新幹線に乗ります。
現在10時少し前、この時間なら出てくれそうなので、電車の待ち時間にちょっとS・K(相馬・賢司)に電話してみます。
アレハーダレダダレダダレダアレハー
「俺だ」
「賢司さんお久し振りです」
「一番早か、どうした?」
「いやあ、最近この辺物騒になったじゃないですか。将門様とか朔也君とか大丈夫かと思って」
「お前の嫌な予感は当たってるよ。実は朔也がなあ...」
S・KからS・K(朔也の情報・獲得)しました。どうやらプロローグ以降帰宅も連絡もしていない様です。よすよす。
「それじゃあ俺も朔也君探してみます。俺の店今休業してて暇ですし」
「助かるよ」
「じゃあ、朔也君見つけたらまた電話しますので、朔也君が家の方に帰ってきたら電話お願いします」
「わかった。俺は引き続き店でカレー作って待っている事にするよ」
よっしゃ~、これでS・KがS・K(戦闘に参加しないの・確定)!お前はそこで息子が死ぬまでカレー作ってろ!
「じゃあまた、何かあったら」
「あ、ちょっと待て一番早。一つ注意しとく事がある」
「ギグ、な、何でしょう」
「お前人前でもカレー南蛮の文字Tシャツ着てるらしいな。ダサすぎるからやめろ」
「あのシャツ買ってくれたの賢司さんですよ?」
「バーロー、あれは上着の下に着るんだよ。お前の着こなしじゃあ単なる出落ちだろ。そんなだから童貞なんだ」
「どどど童貞ちゃうわ!もう切りますからね!」
S・K(シャツの・着こなし)を注意され軽くへこみましたが私は元気です。東京に帰ってきましたので近くのショッピングセンターに寄ってから神田明神に向かいます。
私がショッピングセンターで買ったのは以下の三点です。
- 食用油のボトル六本セット
- ティッシュ一箱
- ミントの種一袋
買い物を終え神田明神に...入りません。
用があるのは神田明神の向かいにある路地裏です。まだ夜まで時間はありますがここで準備をしながら敵を待つ事にします。
戦場に指定されたのは『路地裏』。私が何故東京にある数多の路地裏からここを選んだのか、理由は二つあります。
まず、朔也君の家を戦場にしたくなかったからです。彼の働くカレーショップは路地裏に存在し、もしそこが戦場になると最悪S・Kまで参戦して勝率がガクッと低下します。なので、朔也君が帰宅していないはずのこの状況で私がここを一歩も動かない事て戦場を確定させ、また、神田明神に向かうかもしれない朔也君を先に発見する事もこの場所なら可能です。
もう一つの理由ですが、これは事前準備をしながら説明したいと思います。
取り敢えずこの場所全体に目星をつけたいと思います。ふむふむ、この場所は奥行き五十メートル程度、道幅は三メートル程度。中心から少し奥にマンホールがあり、路地の突き当たりにはポリバケツ。
ちょっとマンホールの蓋が取れるか確認してみます。おっ、動いた。このマンホールは緊急避難先に使えそうです。それからポリバケツの蓋、これは盾の代わりにできそうです。
右手に肉切り包丁左手にポリバケツの蓋。どこかの原始人ぽい新人類がみたら「なんて洗練された殺人鬼スタイルだ」と褒めてくれる事間違いなしです。まあ、私は殺人鬼じゃなくて一般人ですけど。
さて、この路地裏がどんな場所か確認できたので、先程ショッピングセンターで買ってきた物を使い事前準備です。
まずミントの種。これはそのまま地面に撒いておきます。ミントは他の植物の成長を阻害する効果があります。もしかしたら、さとみんに効くかもしれないのでついでに買ってきました。
で、こちらがより重要な策なのですが、この食用油とティッシュペーパーで簡易型火炎瓶を作ります。作り方は簡単、食用油のボトルにティッシュを適量差し込む。そしてこれを使い...
神 田 明 神 放 火 し ま す
えっ、流石に東京でそんな事したら捕まる?
それに神田明神への攻撃は色々まずい?
モウ!マン!タイ!(交際相手から親を紹介してもらう黒星カットイン)
こんなもんで火がつくのならテロリストは火炎瓶にガソリンなんて使いません。というか、私は神田明神を燃やす気はありません。
『誰かが火炎瓶の様なものを投げ込み神田明神を焼こうとした』そう思わせればいいのです。朔也君に程よく冷静を失わせこの路地裏に誘導する事が真の目的です。
んで、残りの食用油は路地裏の入り口に撒いて、朔也君もさとみんもスッテンコロリンしてもらいます。倒れた所に急所に一撃で勝った第一夜完!です。
私アルティエは一般人なので積極的な殺人はやりたくは無いのですが、彼らは共に邪悪な存在に操られてこの戦いに参加しています。ですので、ここで苦しませずに殺す事が救いになると考え確実に仕留めたいと思います。
...説明している間に日が沈んできました。完全に夜になり警官が減ったら火炎瓶を神田明神に投げ込みます。
よし、今だファイアー!
◇◆◇◆
この日、神田明神では将門様の怒りを抑える為に臨時イベントを行っていた。神官達が焚き火を囲み踊るというよくある鎮魂の儀式である。
だが、神官達と焚き火の距離が一番近くなるマイムマイムマイムマイムマイムレッセッセの瞬間、神田明神の向かいから食用油のボトルが飛んできて焚き火にイン。
「あづいいいい」
大きくなった炎は神官達のヒラヒラした服に燃え移り、さらに熱さに耐えかね転がり回った神官達か酒樽やおみくじ売り場や屋台のプロパンガスにぶつかり最悪のピタゴラスイッチは完成した。
2019年冬、神田明神焼け落ちる。
『庭行くと将門燃えてた』と覚えよう。
「あづいいい」
神田明神の火災が取り返しつかないレベルになった頃、朔也も燃えていた。何度も致命傷を負いこの度に将門パワーで復活していた朔也は体の半分が優しさもう半分は将門と化していたのだ。故に神田明神が燃えたら朔也も燃える。
なお、里実については富士の樹海の本体とはそこまで強くリンクしていなかったので一緒に燃えずに済んだのだ。
「ワレニヒヲカケタモノゼッタイユルサン」
スロースターターの朔也も今度ばかりは開幕全力投球。七人に分裂すると共に将門モードにチェンジし現場へと向かう。
神田明神は赤く燃え夜の街を照らしていた。向かいの道路では豚のマスクを被った二メートルを超える大男が頭を抱え震えている。彼の足元には食用油のボトルが数本転がっており、放火犯である事は一目瞭然だった。
「ひいいいっ、やっぱり本気で怒ってらっしゃるー!」
朔也軍団と目が合った男は悲鳴を上げながら路地裏へと逃げていく。その男の体型と声は朔也が知るものだった。
「一番早さん?何であの人がこんな事を...イズレニセヨゲドウホロホスノミ」
一瞬通常に戻ってから再度将門になり路地裏に足を踏みこむ。その瞬間朔也達の体が一段と激しく燃え上がった。油に引火したのだ。
「グオオオオ!!」
全身の殆どが炎に包まれ苦しむ朔也軍団。それを見たアルティエは先程の気弱な態度は消え去り頭をガクガク揺らしながら両手を広げ笑い出した。
「くく...ぷぷぷ、うひゃっほーい!読者様作者様見ていますか?これぞアルティエの一番早い攻略チャートでございまああす!!」
えー、突然ですが作者の体調が急に悪くなったのでこのSSはここで終了します。もうしわけありません。
「えっ」
この後里実が到着し派手に転んで朔也達と絡まって身動きとれないまま燃え尽きてアルティエが勝ちました。
「これ勝ったけど負けるやつだ!」