『第一夜 渋谷 「殺人鬼がいっぱい」』

◆ガールズトーク◆

街は人でいっぱい。
街は“楽しい”と“苦しい”でいっぱい。
キラキラネオンが輝く街を、私はとことこ歩きます。

道行く人の“楽しい”が私の中を通り過ぎ。
すれ違う人の“苦しい”が私の心を揺らします。

誰も知らない秘密の快楽。
独り占めにするなんて勿体ない。

誰にも言えない孤独の苦しみ。
一人で耐えるなんてかわいそう。

クリップクリップ、切り取って。
私の心に留めます。

いつか貴方に届くまで。

◆◆◆

渋谷スクランブルエリアはスクランブル交差点を見下ろすように聳え立つ開業したばかりの高層ビルだ。
オフィスや商業施設などで構成されるその複合施設の展望エリアに中華レストラン「紅月」は店舗を構えている。
特級厨師の資格を持つ陳オーナーシェフの料理を求めて予約を取るのも半年待ちと言われる人気店であった。

遥か下に広がる渋谷の喧騒などまるで関係ないかのように店内は静かで落ち着いた雰囲気に包まれていた。

「とっても素敵です。これは先ほどと同じ肉なんですか?」

陳シェフの得意料理は様々な趣向を凝らした肉料理の数々であり。
四川や広東に留まらず台湾やモンゴルなど様々な技法を取り入れている。

「ええ。下処理の技法一つで食感というものは大きく変わりますから。そこに加熱法、調味料。料理と言うのは無限の可能性があるのですよ。こちらは日本料理で言う活け造りの技法を用い素材の鮮度を活かしました」

陳シェフは汗を流しながら質問に応える。
店内には厨房の一部が大きく迫り出しておりオーナーシェフの料理の技を直に見る事もできるのも、店のウリの一つだった。

レストランの窓の外には渋谷の代名詞とも言えるスクランブル交差点が見える。
そこに集う人々の群れはここからでは豆粒に等しい。

楽し気に歩くショルダーバッグを抱えた少女も。
ビルの壁際に立つ大男も。
セーラー服の女子高生も
ストリートファッションの女も。
目隠しを付けた少女も。

此処からではその他大勢と何ら変わりはないのだ。

◆◆◆

渋谷スクランブル交差点の中央にショルダーバックを抱えた少女が立っている。
数時間前からの交通規制によって交差点に進入する車両は居ない。
信号機だけが普段通り規則正しく明滅し人の流れを押し留めている。
歩道上に居る人々に囲まれるように誰も居ない交差点の中央に少女は立ち両手を天に掲げた。

「殺人鬼の皆さん!今から殺したり殺されたりしましょう!」

良く通る声。
冗談だったとしても、あまりにも突飛な叫びに周囲の人々はごくりと息を飲み込む。
電光パネルや路上モニタから流れる広告音声がいつもより小さく聞こえるほどに。
猥雑な喧騒は鳴りを潜めていた。

「それはとても気持ちよくて楽しいに違いないです。退屈な週末はお終いにして。キルタイムを始めましょう!」

その声は交差点を見下ろす展望レストランまで届く事はない。

交差点に鳴り響いた一発の乾いた銃声も同じだった。

◆ドッペルぬらりひょん◆

(なんだかモヤモヤする)

稚切バドーは良く解らない不安を感じていた。
朝起きた時にはこんな事は感じなかった。
言いようのない気持ち悪さと高揚感が混ざり合ったような未体験の感覚。
何者かが自分に対して意識をしているのかとも思ったが周囲の思考を探る限りはバドーを警戒する者は存在していなかった。

(何時からだろう?いや、解り切っている。渋谷に足を踏み入れてからだ)

稚切バドーは魔人であり警察の犬である。
限定的に他者の認識を書き換える事が出来る魔人能力を持っている。
そしてその能力を使って他人の思考をある程度読む事すら可能だ。

『象撫(アぺラント・メ・パトレム)』と名付けた魔人能力は。
どのような相手にも警戒されず身近に接近できる能力であり超一級の監視対象とされている。
どのような警備であろうともバドーを阻む事は出来ず、無警戒な対象を暗殺する事は容易だからだ。

これに対して警視庁魔人対策課の監視は対能力装備を用いた物であり。
対象に異常が感知された場合、理由の如何を問わず誤認であっても容赦なくバドーは速やかに処分される事になるだろう。

バドーの望みは出来うる限りの自由で気ままな生活である。
当然の様に死ぬのは願い下げだ。

そしてバドーは能力を警察捜査に提供する事で自身の安全を生活の保障を買ったのだ。
平穏とは言い難いが努力次第ではある程度気ままな生活は維持できる。

今日も彼女を担当する警察官の指示により渋谷に呼び出された所だ。
連日の殺人鬼騒ぎの対処案件である事は容易に想像できた。
その事がバドーの不安を募らせているのだと自己認識を改める。

「よう、待たせたな」

コートを着た中年の男、大悲川南兵衛はコンビニ袋を掲げてバドーに声をかけた。
如何にもと言った風情の人相の悪さと人を人とも思わぬ性格の悪さがあるが正真正銘の警察官である。

(ただし“悪徳”が頭に付きますけど)

大悲川にバドーの能力は通じない。
バドーの能力は対象と自分を“汝”と“我”と認識していなければ成立しない。
相手を個人として認識している事が重要なのである。
人を人とも思わないというのは事実であり大悲川はバドーの事を道具程度にしか思っていない。

相手からの認識が欠如した場合、バドーの能力は書き換えの範囲が著しく低下する。
この場合、バドーの能力でできる認識の書き換えは大悲川自身の自己認識をバドーの大悲川に対する認識と混ぜて書き換える事しかできない。
しかしながらバドーの大悲川に対する認識はクズの悪徳警官であり。
大悲川も自分の事をクズの悪徳警官だと思っている為に書き換えのしようが無いのだ。
完全に一致した物を混ぜてもそれは同一の物にしかならない。

もしも大悲川がバドーをしっかり人として認識した場合は大悲川がバドーに対して持つ認識をも混ぜて書き換えが可能となる。
そうすれば、書き換えの応用の幅は格段に上がっておくことになるだろう。
人の人に対する認識を書き換えると言う事は、敵を味方につけ味方を敵に変える事すらできる恐るべき能力なのである。

(そうなれば、もう少し警察の犬も楽ができるんですけどね)

ビニール袋からオニギリを取り出して頬張る大悲川をバドーは観察する。
いつも通りの太々しい態度が癇に障る。
胸にわだかまるモヤモヤは目の前の男を原因とするものでは無さそうだった。

「呼び出しておいて遅刻するとか、社会人としてどうなんですかね」
「うるせえ、いつもは俺が待ってるんだよォ。遅刻される側の気持ちくらいわかれって話だよ。うげぇっ!なんだこりゃ不味っ!うぺっ!」
「うわっ!汚いじゃないですか!」

大悲川が突如として頬張っていたオニギリを吐き出した為にバドーは後退った。

「いや、なんか調子悪くてよ。そういや昼飯喰ってなかったんでな。コンビニで買ってきたんだ。味覚がおかしくなってんのか?しかし、なんでこんなモン買っちまったかね」
「おや?大悲川さんともあろう方が風邪でもひきましたか?いけませんね、体調管理は社会人の基本ですよ」
「うるせえ、腹は減ってんだよ。まあいいさ、仕事の話だ。いいな」
「はいはい」

大悲川が資料を広げる。
今時電子データを使わないのはセキュリティ管理の観点からだとバドーは説明を受けている。
バドーが資料を読んだ後は速やかに焼却処分されるのだ。
書かれた指令やターゲット情報は確実に覚えなくてはならない。

「今夜、渋谷に数人の殺人鬼が集まる。御大層にも殺人鬼を煽って誘いやがった奴が居る。それをご丁寧に警察に通報しやがった」
「どういう事です?仲間を売ったと言う事ですか?」
「いいや、奴らは仲間なんかじゃねえ。警察も無能って訳じゃない。いま東京に跋扈する殺人鬼に対処するには人員が足りてねえだけでな」
「本当ですか?逮捕しきれてないのは殺人鬼に翻弄されてるからじゃないですか?」
「うるせえ、馬鹿。かなりの数の殺人鬼については大凡のデータは掴んでいるさ。だが殺人鬼どもは餌場やヤサを変える。戦闘力の高いそういった奴を複数人追うには警察は人手不足だっつう話だよ」

バドーは資料に目を通す。
売り出し中の職業殺人鬼、新人類こと黒房清十郎。
元チーマーで復讐の為に殺人を繰り返すウラハラシザーズこと浦見栞。
この二人に関しては所在こそ掴めないが本名も能力データも割れている。
渋谷周辺での失踪事件の犯人と言われるラブ・ファントムは正体不明だが被害者の傾向から犯罪者を狙う事が予想される。
事実として渋谷付近を行動しているという自己アピールで犯罪者を誘っている投稿がアンダーグラウンド掲示板で確認されていた。

「そして通報してきたのが、彼女だと?」
「携帯の通話履歴では、間違いなくな。犯罪歴はねえが。あいつが殺人鬼どもを誘ったのは事実さ」

バドーの視界の先にはショルダーバックを抱えてウィンドウショッピングを楽しんでいる少女が見える。

「まだ能力は使うな」
「どうしてですか?さっさと情報を抜いちゃった方が対処が楽ですよ」

釘を刺す大悲川に対してバドーは不満そうな声を上げた。
相手の認識を書き換えると言う事は相手の認識を読み取る事が出来ると同義だ。
態々尋問をしなくてもそれなりの情報を確実に得る事が出来る。
普段の大悲川であれば有無を言わさず能力の実行を命令するはずだ。

「あいつは殺人鬼を誘った。それだけだ、今の所犯罪歴はねえ。捕まえても何にもならん。アレは餌だ。泳がせて殺人鬼を釣る為のな。その為には餌は無傷がいい。奴が魔人だった場合の能力も未知数、誘われて来た殺人鬼にも未知の能力者が居る。どんな切っ掛けでお前の能力が気付かれるかわからん」
「でも、もうこんなに警官を配置しているのにですか?解る相手ならもうバレてますって」

二人の周囲には、いや渋谷スクランブル交差点の周辺には通行人を装った警官がかなりの数潜んでいる。
魔人犯罪対策課の中でも高い戦闘力を誇る対魔人SWAT部隊だ。

「それも織り込み済みだろうさ。通報したって事は俺達を利用して他の殺人鬼を攻撃させようって事もあるさ。はっ、警察を舐めやがって。俺達がクズの思い通り動くわけねえだろ」
「規模はどのくらいなんです?」
「約1000人」
「へえ、それは随分思い切った投入ですね」

バドーが思わず感嘆の声を上げる。
凶悪な魔人犯罪者に対して10数人を投入する事は良くあるが1000人というのは異例だった。

「能力が割れてる二人だけでも相当に危険度が高いからな。知ってるか、警察ってのは相手を殺すのが目的じゃねえんだ。逮捕するのが警察なのさ。殺すより余程難しいのさ。危険な魔人を捕獲するには相当の戦力を一気に投入する事が大事だ。出来る場合にはな。こちらの被害も減って作戦成功率も上がる。」
「この間と言ってる事が違いませんか?殺人鬼が死んでくれればいいんですよね」
「はっ、お前は警察じゃねえからな。お前が何しようがお前がどうなろうが警察にとってはどうでも良い事なのさ。警察の手を煩わせる前に魔人が共倒れになりゃあよ。それはそれでいいって事だぜ」
「そうですか、相変わらずのクソ刑事ですね」
「褒め言葉だと思っておくさ。おっと対象が動くぞ」

ショルダーバックの少女は渋谷のスクランブル交差点に向かって歩き出す。

「随分と人通りの多い方に行きますね。殺人鬼って基本的に人目に付くのを避ける傾向があると思うんですが」
「知るかよ。元々誘い出す場所がスクランブル交差点らしいからな。だがまあ好都合だ。スクランブル交差点付近は警察の配置も多い。一般市民はそれとなく誘導してあるから巻き添えは殆どないだろう」
「殆どって事は0ではないんですよね」
「まあな、完全に交通規制をかけりゃあ奴らが来ねえからな。だからこその1000人だ。紛れ込んだ一般人は精々が数十人って所だ。守り切るさ」
「へえ、警察官っぽい事も言うんですねえ」
「わりいな、俺は警察官なもんでよ。正真正銘正義のお巡りさんよ」

大悲川はニヤリと笑った。

(…どう考えてもクズですけど。正義感はあるのかもしれませんね)

バドーがそう思いかけた時だった。

「殺人鬼の皆さん!今から殺したり殺されたりしましょう!」

交差点の中央で少女が叫ぶ。
バドーは心のモヤモヤが膨れ上がる気がした。
大悲川が目を見開く。

「それはとても気持ちよくて楽しいに違いないです。退屈な週末はお終いにして。キルタイムを始めましょう!」

それはとても良く通る声だった。
バドーは心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
不安が現実になるのを感じる。

「何か、おかしいです。大悲川さ…」

パアァン。

それは乾いた音だった。
安物の花火のような破裂音。
煙と火薬の臭い。
それは、銃声だった。

「か、はッ!?」

銃声はバドーのすぐ後ろから聞こえた。
激痛がバドーの体を駆け巡る。

振り返ると。
大悲川が手に持った拳銃をバドーに向けていた。
銃口からは微かな煙。

「わりいな。どうにも、これはヤバいぜ」

バドーが魔人能力を発動する。
バドーは自分に向けられた意識に敏感だ。
大悲川は明確な殺意をバドーに向けた。
人は物に対して殺意を向ける事は無い。

つまり大悲川はバドーを人と認識して殺意をもって行動したのだ。
『象撫』は完全に発動条件を満たした。

大悲川の殺意の対象を大悲川自身に書き換える。
ただし即死させるわけにはいかない。
ここで大悲川を殺せばバドーに言い訳の余地が無くなってしまう。
警察に追われる生活はバドーの望む所ではない。

バドーは自分のダメージの深刻さを誤魔化す為に痛覚の認識を大悲川と入れ替える。

「ぐあッ!?」

大悲川が腹を押さえてよろめくが痛みの記憶など一瞬の事に過ぎない。
大悲川は過ぎに体制を立て直すだろう。
バドーは腹を銃弾で貫通する大怪我を負っている。
通常でも戦闘は分が悪い。

(ここで、相手を無力化しなければ、死ぬ)

殺意、狙うべき場所。
急所を誤認させる。

人体の急所である心臓や頭部を腕や足と誤認させる。

窮地を乗り切るべく瞬時に認識の書き換えを終えた時。
大悲川は自らの手足を撃ち抜いてその場に座りこんだ。

(銃弾が貫通したのは幸いでした)

バドーは目隠しに使っていた布を自らの腹に強く巻き素早く止血する。

「へ、へへ。格好つけたばっかりなのによ。だせえ事しちまったな」

大悲川が太々しく笑う。
出血し道路に横たわる姿をみてバドーは鼓動が早まるのを感じた。

「どうして、こんな事を?私の処分命令でも出ていたんですか?」
「いや、違う。知ってしまったのさ」

大悲川の笑みが自嘲へと変わる。

「知ったって。何をです」
「人を殺す快楽を」
「何を言ってるんですか?」
「貴様も感じているんじゃないか?渋谷に来てから感じていた不快感を」

バドーは目を見開く。
漠然と感じていたモヤモヤとした不安が急速に形を得ていくのが理解できてしまう。
それは自分が変わっていく恐怖でしかなかった。

「これは、攻撃だ。やっている本人は攻撃とすら思っていないかも知れねえがな」
「でも、私に対して意識を向けていれば解るはず」
「だから、相手は攻撃と思ってないし一瞬で事足りるのさ。俺達はやったことも無い体験の快楽だけを知ってしまった。人を殺すという悦楽だけを知ってしまった。人は痛みには耐えられても快楽には抗えない。脳が覚えてしまったのさ」
「そこまで解っていて、どうして止められなかったんですか」
「人間の思考なんてのは化学物質と電気信号の集まりだからだ。快楽ってのは脳内物質の報酬だ。麻薬中毒と同じさ、ご褒美がある以上、意思では止められねえんだよ。お前もな」

バドーは自分が手に銃を握りしめているのに気付いた。
それは大悲川が持っていた対魔人用に強化された拳銃だ。

「あの女の宣言はスイッチだ。自覚のなかった俺達の感情がなんなのか教えるスイッチだ。人を殺せば気持ちいという事を思い出させるためのな。クソったれ、あれは本気の善意だろうよ。楽しみを、快楽を共有したいってな」
「あの宣言は周囲全員に向けた物だった。じゃあ、この状態は私達だけじゃないって事ですか?」
「そうだろうよ、今や武装した魔人警官1000人が殺人鬼予備軍だ」

スクランブル交差点から発砲音と悲鳴が聞こえ始める。

「予備軍じゃなかったな。もう始まっちまった。おい、俺を殺せ」
「は?嫌ですよ。そんな事をしたら私がお尋ね者じゃないですか」

そう言いながらもバドーの手は拳銃を大悲川に向けている。

「わりいが。俺も殺人鬼に成り下がるのはゴメンだ。これでも警察官なんでね。他の警官の奴らもそうだろうし。こいつを放っておけば東京は殺人鬼しか居なくなっちまう。そんな殺伐とした現実は見たくもねえさ」
「自分だけ、先に降りようっていうんですか。ズルいですよ」
「はは、俺は悪徳警官でね。ズルいんだよ。だから言っておくがこの混乱で俺が死んだってお前の罪を問う余裕なんて誰もねえだろうさ。ズルく生きろよ」
「本当にクズですね」
「どうせ、この傷でこの混乱を生き延びられるとは思えねえしな。だから、お前がこの混乱を止めるんだ」

それは悪徳警官を自称し、いつも太々しい態度を取る男とは思えないほど真面目な声だった。

「あの女を殺せば能力が解除されるかもしれない。いや、無理かな、一度知った快楽はどうしようもない。やつが死んで脳から快楽が消え去る可能性は低いが、やらないよりは良いだろう。それに少なくともこれ以上の拡散は防げる。渋谷は終わりだろうが日本は救えるぞ、ヒーロー誕生だ」
「それを私にやれって言うんですか?契約外ですよ」
「ははッ!やるしかねえよな、お前みたいなクズの犯罪者が平穏に生きたけりゃあよ」
「本当にもう、死んでくださいよ」

バドーが冗談のつもりで言葉を紡いだ瞬間。
バドーは引き金を引いていた。
周囲で巻き起こる混乱と喧騒に銃声は紛れてしまっていた。
大悲川の額から一筋の血がが流れ、体は崩れ落ちる。

「…わざと撃たせる為に挑発したんでしょう?」

バドーは自分も殺人快楽の熱に酔っている事を自覚した。
引き金にかけた指は恐ろしく軽い。

「やりますよ。やればいいんでしょう?」

バドーの腹に巻かれた布は銃創から滲み出す血で赤く染まっている。
バドーは傷を押さえながらスクランブル交差点に向かって歩き始めた。

「ヒーローにでも殺人鬼でもなってやりますよ」

◆新人類◆

「黒房清十郎だな」
スクランブル交差点を遠目に見る事の出来る場所で壁によりかかるように立つ巨漢を数人の男が取り囲むようにして立っていた。
巨漢は3mほどの身長があり周囲からも明らかに浮いている。
通行人が男達の方をチラチラを見ながら通りすぎていった.

「黒房清十郎。間違いないな?」
「…」

巨漢はその質問に応えない。

(な、なんだ?警察か?だとしたら何故バレたんだ?)

無口、無言の威圧的な雰囲気とは違い黒房清十郎こと殺人鬼コードネーム“新人類”は慌てふためいていた。
アングラ掲示板の殺人鬼スレに書き込まれた誘い文句は罠の臭いを感じさせたが、このミッションを乗り越える事は殺人鬼の本場“刃離鬱怒”を目指す清十郎にはまたとないチャンスに思えた。
そうして意気揚々と渋谷にやって来た清十郎だったが今日はどうにも調子が悪い。
気持ちがフワフワする感じがしていつも以上に思考がまとまらないと清十郎は感じていた。

(どうする?このまま始めてしまってもいいんじゃないか?)

思考を廻らせる清十郎の無言の威圧に耐えかねる様に男達は警察手帳を取り出す。

「お前が住んでいるアパートの両隣の部屋で変死体が発見された。無関係という言い訳は通じない。事情聴取の為に同行願おうか」
「あ、なんだ。そっち?」

拍子抜けしたように清十郎が言葉を紡ぐ。
その口調のあまりの軽さに所轄刑事たちは面食らった。
警視庁の殺人鬼対策課SWATとは全く関係なく、彼らは管内でおきた変死事件の捜査をしていたのだ。

「いや、アレはウッカリと言うか。本当に申し訳ないと思ってるんですよね」
「な、貴様!やはり!」
「んん~。ここで普通の刑事さん相手に戦うのも気が引けるしなあ」

清十郎が一歩後ろに後退する。
だが背後にはビルの壁面しかなく包囲する刑事たちに追い詰められた形に変わりはなかった。

ズブリ…。

だが清十郎の体が壁にめり込んでいく。

「悪いけど、皆さんを相手にしている暇はないんですよ。それに今からだと僕のイメージ作りに反しちゃう感じもするし…」
「こ、こいつ魔人かッ!」

清十郎の魔人能力『マーダー・エントリー』は障害物に侵入・通過する事が出来る。
逃走を図ろうとした清十郎に刑事は拳銃を向ける。

「動くなッ!」
「いや~、魔人相手とは言え人通りの多い街中じゃ巻き添えが怖くて撃てないでしょ?刑事さん」
「逃がさんぞ!逮捕す…」

その時だった。

「殺人鬼の皆さん!今から殺したり殺されたりしましょう!」
「それはとても気持ちよくて楽しいに違いないです。退屈な週末はお終いにして。キルタイムを始めましょう!」

スクランブル交差点の中央から良く通る声が響いた。
刑事たちと清十郎は一瞬思考停止したように目を見開く。

「逮捕…?いや!射殺だ!凶悪犯を射殺しろッ!」

リーダー格の刑事が叫び清十郎を取り囲む刑事たちが次々と発砲する。
刑事たちの目は熱に浮かされたようにギラギラと輝いていた。

「うわッ!?」

迫りくる銃弾に驚きの声を上げつつ清十郎は壁の中に退避する。

(おかしいな、迷いなく発砲したぞ?ここは仕切り直した方が良いか?いや、“殺して”おこう)

沈み込んだ場所から数mずれた壁の中から清十郎が飛び出す。

「ああッ!あがああああああああああああああああッ!!」

雄叫びを上げつつ刑事の頭を掴み、それを握りつぶす。
銃弾が浴びせられるが頭の潰れた刑事の死体を盾にしてそれを受け流す。
そもそも通常の拳銃程度では清十郎の規格外の肉体には致命傷を与える事すら難しいだろう。

(当たるとちょっと痛いんだよね)

道路標識を引っこ抜くと刑事たちに叩きつける。
瞬く間に清十郎を取り囲んでいた刑事たちは一蹴された。

「はは、なんだ。物足りないなあ」

清十郎はぐるりと周囲を見渡す。
通行人と思われていた人々が銃を持ち清十郎の方を見つめていた。
人々の武装は先ほどの刑事達のものより明らかに物々しい。

「なんだ、いっぱい居るじゃないですか?ひょっとして別口かな」

スクランブル交差点付近から発砲音や悲鳴が聞こえてくる。

「あっちも面白そうだなあ」
「殺人鬼“新人類”だな?」
「あ、なるほど。こっちはガチなわけか。ハメられたかな」
「だとしても、お前がここで死ぬ事に変わりはない」
「ふうん、じゃあさっきのは本当に巻き込まれただけの可哀想なお巡りさんだったのか」

対魔人特殊部隊の目は明らかにギラギラと輝いている。
殺人鬼である清十郎はその殺意を感じ取っていた。
何かが異常である事が流石の清十郎にも理解してとれた。

「敵討ちならやめておいた方がいいですよ?僕は結構強いので」

そういうと清十郎は持っていた道路標識を敵に向かって投げつける。
圧倒的な膂力から繰り出された投擲武器は人間一人を貫通して道路に突き刺さる。

黒房清十郎という人間は子供の頃から殺人鬼に憧れて生きてきた。
ニュースを賑わす殺人鬼やフィクションに登場する殺人鬼に夢を馳せて生きてきた。
まるでヒーローに憧れる子供の様な精神のまま成長してきた。
殺人鬼としての腕を磨くために暴力沙汰に好んで手を出し、暴力組織にも進んで加入していった。
そこから様々な事を学び取る為に。

清十郎の原動力は無垢な憧れであり。
けして殺人衝動ではない。
殺人は手段であり殺人鬼としての表現方法であったが悦びではなかった。

原宿で暴力の限りを尽くしていた時も。
原宿で恐れられていたチームのリーダー格の魔人を殺した時も。
その殺しに関わる事で裏社会に名を売った時も。
本場の殺人鬼からスカウトオーディションを持ちかけられた時も。

それは殺人の悦楽ではなく。
成りたい自分へと突き進む情熱と憧れでしかなかった。

「はは、いいね。君達を殺してここに居る全員を皆殺しにすれば」

だが、今の清十郎は完全に殺人の熱に浮かれていた。
人を殺すと言う快楽を楽しんでいた。
それは殺人鬼“新人類”に足りなかった物。
殺人へのモチベーションだった。
それが他人から与えられた借り物であったとしても。

それこそは、黒房清十郎という人間が殺人鬼“新人類”として目指すべきだった殺人鬼の姿だった。

「アハッ!アハハハハハハハハッ!アア!アアアアアアアアアアアアーッ!!」

新人類が肺と声帯を全力で震わせ雄叫びを上げる。
近くに居た魔人特殊部隊数名が脳をシェイクされ口や鼻から血を噴出させて死亡する。

この場に居る魔人の中で、一対多数戦闘に最も適応しているのは間違いなく新人類である。

「殺せ!奴を殺すんだ!」

殺人衝動に蝕まれつつも警察官としての正義感を以て特殊部隊員達が新人類に攻撃を仕掛ける。
圧倒的な体格と身体能力。
障害物に潜れる魔人能力。
殺人超音波によるソナー索敵と広範囲攻撃。
これらを持つ規格外の殺人鬼に対して小隊規模の特殊部隊は余りにも無力である。

そう、このままであれば。

「見つけた」

それは、大きな声ではなかった。
だが、この喧騒の中でも新人類の耳にはっきりと届く声だった。

新人類が声のした方向を見る。
そこにはストリートファッションに身を包んだ目つきの悪い女が立っていた。

「見つけた」

耳には無数のピアス。
美しい唇にも一つのピアスが輝いている。
ラメ入りのルージュがひかれた唇が笑みを形作る。

「“裏原宿ストローヘッズ”分隊長。爆殺オーガの清十郎」

ツーブロックの頭の前髪から覗く切れ長の瞳が燃える様に輝く。
それは獲物を見つけた猛獣の瞳。

「見つけた」

女の持つ鋏がクルクルと回転した。

◆ウラハラシザーズ◆

浦見栞を殺人鬼と呼ぶのは真実を得た表現ではない。
彼女が殺すのは兄を殺した人物達で、その目的は復讐であるからだ。

殺人という行為は復讐の手段であり目的ではなく。
ましてや楽しみですらない。

復讐鬼というのが彼女を表現するのに適切だった。
今日までは。

渋谷付近に殺人鬼が集まるらしいという情報は栞にとって些細なものでしかなかった。
アングラ掲示板に流れてくるどうでも良い情報で終わるはずだった。
そのスレッドを少し遡って読んだのは只の気まぐれに過ぎなかった

栞は目を疑った。
まさか本名で書き込みをしているとは。

『13:黒房 清十郎:20○○/○/○(火)19:07:58』
『やっぱり、構造物の多い場所で戦う方が”らしい”と思うので、そういった場所へ行きたいと考えています。』
『でも、地方から出てきたので…正直、渋谷とか原宿とか秋葉原とか、土地勘がないんです…。』
『死にたくない人は、開けた場所へ逃げればいいと思いますよ。』
『っと。本当にこれでいいのかなぁ?もう一回”彼”に聞いてみようっと。』

馬鹿なのか、それとも同姓同名の別人の馬鹿なのか。
栞は判断に迷ったが、元々標的の情報は少ない。
ダメ元で調査を開始し標的を確認した。

その巨体を見間違うハズもなく。
“裏原宿ストローヘッズ”分隊長であった爆殺オーガの清十郎は発見された。
兄が殺された夜、その場所に3m近い巨漢が居た事は早い段階で掴んだ確実な情報の一つだった。

今日は尾行をしてここまで来た。
対象を殺すのは確定した事実だが、相手は元“裏原宿ストローヘッズ”の中でもかなりの武闘派である。
闘って負けるつもりはなかったが栞の目的は復讐であって正々堂々と戦う事ではない。
人目に付く場所よりも奇襲を行いやすい場所に移動するのを待つのが得策だった。

(でも、本来は人目に付かない場所に行くと言っていたのに、こんな人込みを選ぶってどういう事?ま、考えても仕方ないけど)

パーカーのフードを目深に被り、大きめのポケットに手を突っ込んで中の鋏をカチャカチャと弄ぶ。
普段なら復讐の前にはそんな事をしないのに栞はその事に気付いていなかった。

清十郎はビルの壁にもたれ掛かる様に立っていた。

(いざと言うときは壁の中に逃げる気かあ。でも、やれるよね)

このまま人ごみの流れに身を任せて近づき奇襲する。

(それで、いいよね。兄さん)

栞が行動を開始しようとしたとき清十郎を囲むように男達が現れる。

(あ、あの馬鹿!警察に尻尾を掴まれたの?)

圧倒的な戦闘力に対してその他の物事に関する事が素というか大雑把なのは昔と変わりない。
そういう素直で間の抜けた所を栞の兄である絶彦にも可愛がられていた。

(その信頼を裏切ったアイツを許すわけにはいかない)

このまま警察に身柄を拘束される事はないと栞は判断する。
その程度の弱さでは分隊長にはなれない。
だが、ここを乗り切られると言う事は、今後は警察による捜査が栞の復讐の邪魔になってしまうだろう。

「殺人鬼の皆さん!今から殺したり殺されたりしましょう!」
「それはとても気持ちよくて楽しいに違いないです。退屈な週末はお終いにして。キルタイムを始めましょう!」

誰かが叫んだ。
ドクンと栞の鼓動が高鳴る。
栞にとって、そんな事はどうでも良い事だ。

(アイツを殺す。他はどうでも良い)

鋏を抜き放つ。
目の前では清十郎と警官が戦闘を開始していた。
清十郎が逃走を選ばずに戦闘に入ったのは幸運だ。

「邪魔な人間は、“殺して”しまえばいいよね。兄さん」

そう呟くと栞は目の前に居た警官の首を切り落とした。
栞の両手の先で鋏がクルクルと回る。

「私の邪魔をする人は死んじゃえばいい」

鋏に付いた血と脂が回転によって綺麗に飛び散る。
刃物の切れ味は人を斬る事で血と脂に塗れて切れ味を失っていく。
だが栞の鋏術にその欠点は無い。
パフォーマンスじみた鋏の回転で攻撃とメンテナンスを同時に行っているのだ。
回転した鋏は栞の腰のベルトに付けられた理容師用の鋏ホルスターに綺麗に収まった。

周囲では様々な殺戮が行われているが栞にとってそんな事はどうでも良かった。

「見つけた」

栞は呟く。
清十郎が栞の方を振り向き目が合う。
誰が死のうが関係ない。

「見つけた」

栞にとって自分がどう殺し。
どう“楽しむか”が問題なのだ。

「“裏原宿ストローヘッズ”分隊長。爆殺オーガの清十郎」

兄を殺した相手が普通に死ぬのは“楽しく”ない。
殺人鬼“ウラハラシザーズ”の目的は復讐であり。
その過程を“楽しむ”事にはなんら問題が無いのだから。

「見つけた」

ウラハラシザーズの鋏がクルクルと回転する。

「アアッ!アアアアアアアアーッ!!」

新人類が絶叫と共に殺人音波を発した。

キンッ…。

ウラハラシザーズの鋏が空を斬る。
一瞬の後、殺人音波が到来するが周囲の特殊部隊員や通行人の頭が弾け飛んだだけに終わった。
ウラハラシザーズは無傷である。

ウラハラシザーズの魔人能力は『因果嘲(エンガチョウ)』。
その名の通り縁を、物事や概念の繋がりを糸として視覚してそれを切断する事が出来る能力だ。

自身を対象にして発せられた殺人音波という現象からはウラハラシザーズに向けて関係性の糸が瞬時に構築されている。
ウラハラシザーズはそれを断ち切ったのだ。
関係性を失ったモノはお互いに影響を与える事はできなくなる。
殺人音波はまるで何も無かったかのようにウラハラシザーズの横を通り抜けていった。

「誰かと思えば栞ちゃんじゃないか。久しぶりだね」
「ン…久しぶりね。清十郎」

新人類は軽く挨拶をしながら自身の胸をゴリラのドラミングの様にドコドコと叩きながら地面を踏み鳴らした。
打撃の振動が地面を揺らし始める
新人類の圧倒的な身体能力は局地的な地震すら起こすことが可能なのだ。

ウラハラシザーズは鋏を回転させる。
自分に直接迫りくる打撃音の衝撃波は『因果嘲』で自分との関係性を切る事で無効化できる。
だが地面と自分の関係性を切る事はできない、そんな事をすれば彼女はその場に立つ事すらできなくなってしまうだろう。

グラグラと揺れる足場の悪さがウラハラシザーズの行動を妨害する。

「久しぶりに会ったのに、いきなり襲い掛かってくるなんて酷いなあ」
「清十郎こそ」
「ん、なんだい?」
「どうして、兄さんを殺したの?」

立つ事もままならず、揺れに干渉するには新人類との距離が遠い。
次々と生み出されるドラムロール打撃の衝撃波は殺人音波ほどの威力はないものの数が多く対処しきれない数発分はウラハラシザーズの体力を確実に削っていく。

「リーダーを殺す事を決めたのはカズトで、実際に手を下したのもカズトだよ」
「清十郎は何もしなかったって言いたいの?」
「いや、何もしてない訳ないじゃない。今と一緒さ。リーダーの動きを止めるのが僕の役目。まあそんなに長い間はムリだけど奇襲で一瞬足止めするくらいならね。あとは僕の仕事じゃないさ、あの場に何人の魔人が居たと思ってるの?」
「そいつらは全員殺すわ」

ウラハラシザーズが鋏を強く握りしめ憎しみを込めた声で唸る。

「ああ、怖いね。んん~でもさ、知ってた?なんでそんな人数の人間が集まってリーダーを殺したと思う?」
「知らない」
「みんなリーダーの事が嫌いだったのさ。強くて怖くて優しくて友情にも厚いけど。彼についていった先に地獄しか見えないんじゃさ。その強さも怖さも優しさも全部彼らを縛る重荷でしかなかったってワケ。そんな鎖で縛ってくる奴が好かれるとでも思うのかい?」

新人類がその強面に似合わぬ楽し気な口調で話す。

「嘘だわ」
「事実だよ。まあ、僕は元々チームに居たのは殺人鬼になる為の勉強だったからね。リーダーの事は割と好きだったよ。それに人を殺してもチームのせいにできる。おかげで沢山経験が積めたし。リーダーを殺した時の経験も、ほら今まさに役に立っている」
「清十郎ってそんなに良く喋る奴だったのね。昔はもっと純朴な感じだったのに」
「んん、どうしてかな。今日は妙にハイだからね。獲物をただ殺すよりもこうやって会話して楽しむのも良いかと思えてくるんだ。ね、今の僕ってサイコパス殺人鬼っぽいと思わない?」

新人類は自分の殺人鬼らしさに酔っている。
普段の新人類ならば迷うことなく相手に止めを刺したはずだ。

「そんなに相手を殺すのに時間をかけてちゃ、殺すのも上手く行かなくなるんじゃない?」
「そんな事は…む?」

二人の殺人鬼の周囲を目をぎらつかせた特殊部隊員達が取り囲んでいる。
殺人の枷を外された暴力集団であっても元々あった警察としての正義感が消えたわけではない。
殺人衝動の赴くままに殺し合いを続けていてもより殺すべき相手が居れば彼らはそれを狙うのだ。

「なるほど~、会話に付き合ってくれたのは時間稼ぎだったか。僕を道連れにするつもりかい?」
「俺達はもう戻れん所に来ている。人を殺す事は止められん。だが、だからと言って殺人鬼を見逃すわけにはいかん。奴を地獄への道連れとしろッ!その後はお互いに殺しあって出来るだけ数を減らせッ!それが俺達にできる唯一の平和への道だッ!撃てーッ!」

隊長格の指示に従い新人類に向けられた銃口が一斉に火を噴く。
地面が揺れ居ている範囲はそこまでは広くなく、特殊部隊の強化ライフルや拳銃の威力でなら十分に範囲外からの有効打になりうる。

「うおおおおッ!?」

ドラムロール打撃による衝撃波では複数人の対処は難しい。
ましてや殺人音波であってもこの数の銃弾は防ぎきれない。

(逃げるしかないッ!壁の中へ!)

新人類が『マーダー・エントリー』を発動しビルの壁の中に沈み込もうとする。

「逃がす…もんかァッ!!」

ウラハラシザーズが鋏でビルの壁を斬りつけた。

「うわッ!な!?」

『因果嘲』はモノとモノの関係性を断つ能力。
壁との関係性を断たれた新人類は壁に半分埋まった状態で身動きが取れなくなった。
彼にはもう壁の事が見える事すらない。

「な、これは!栞ちゃんの能力かッ!何を…そもそもなぜ君が“狙われないんだ”!?」

如何に怪力を誇り、殺人音波を操る新人類であっても影響を与える事も知覚する事すらできないモノをどうする事も出来ない。
壁は壁としてただあり、身動きすらできなくなってしまったのだ。

「うぼあッ!?」

慌てる新人類の体や頭部などの露出している部分に無数の銃弾が撃ち込まれ。
情けない断末魔をあげて新人類は死亡した。

ウラハラシザーズは今まで幾度も殺人を犯してきた。
当然、それは殺人事件として警察も把握している。
だからウラハラシザーズは“警察組織”との関係を断ったのだ。

それぞれの警官個人は浦見栞という人間を知覚できる。
だが警察と言う組織は“ウラハラシザーズ”という殺人鬼を知覚できなくなっていた。
捜査線上に浦見栞の情報があがり個々の警察官はそれを認識する者も当然いる。
だが組織としての捜査となると全く情報が掴めなくなっていた。

警察の特殊部隊による攻撃はウラハラシザーズを認知せず新人類だけを狙った。
その隙をついてウラハラシザーズは標的を拘束したのだ。

新人類を殺害した特殊部隊員達はそれぞれ周囲の戦闘へと戻っていく。

(もう、この場所に居る意味はない。早くここから離脱しないと)

ウラハラシザーズは顔をあげた。
ビルの壁面にはクリスマスセールのポスターが貼ってある。

(ああ、最近TVで良く見るアイドルね)

サンタの衣装を着た可愛らしい女性がプレゼントを手に持って微笑んでいる。
その隣ではベテラン俳優がビールの宣伝をしているポスターが貼ってある。
街にはネオンが輝いている

「そうか、もうクリスマスだっけ」

バス停の時刻表が目に留まる。
次のバスの時刻はとっくに過ぎていて遅延の表示が赤く光っていた。

「こんな混乱の最中じゃ仕方ないよね」

街角のスピーカーからは軽快なクリスマスソングが聞こえてくる。
良く聞くメロディーが耳に残った。

電気屋のディスプレイが何かのCMを流している。
何かがおかしい。

周囲では依然として戦闘が継続されている。

(なのに…なぜこんな物が目に留まるの?)

ウラハラシザーズの視界に入る様々な広告媒体が彼女に圧倒的な存在感をもって訴えている。
危機感がウラハラシザーズの思考に走る。

(まさか攻撃かッ!)

ウラハラシザーズは広告の一つと自分の関係性を断つ。
しかし、一つを遮断した所で街には広告が溢れている。

「こ、これは…ヤバ…」
「そりゃあ宣伝広告だからね。目にも付くさ」

ウラハラシザーズの首元に何かが突き刺さった。
液体が注入されウラハラシザーズの意識が遠のく。

「ふふ、広告というモノは他人の意識を引く様にプロが作っているから」

誰かがウラハラシザーズに話しかけているが良く聞き取れない。
彼女の耳には街頭ビジョンから聞こえるCMやスピーカーから流れるクリスマスソングが圧倒的な存在感となって聞こえているからだ。

意識を失う彼女が最後に目にしたのはサンタクロースのポスターだった。

◆ラブ・ファントム◆

「ふふ、広告というモノは他人の意識を引く様にプロが作っているから」

と西条なつみこと殺人鬼“ラブ・ファントム”は語り掛けた。

「当然、存在感があるわけだよ。普段の二倍の存在感を体感した感想はどうだったかな?私のような美少女が目に入らないくらいだ。余程興味を引いただろうね」

ラブ・ファントムの魔人能力は『バイ・クイーン』。
触れた物の特性を二倍にするという能力だ。

ラブ・ファントムは自分より存在感のある物を周囲に配置する事で相対的な自分の存在感を薄めるアド・ステルスでこの騒乱の中を悠々と歩いていたのだ。

「私の縄張りで派手な事をしているから近くで見物していたが」

ラブ・ファントムは死亡した新人類の砕けた顔を愛おしそうに撫でる。

「中々楽しい見世物だったよ」

銃弾に撃ち抜かれた新人類の頭に指をつっこみ。
脳を抉りだして自らの口に運ぶ。

「ンン…いい味だ。アドレナリンに満ちている。その辺の素人ではこの味は出せないね」

彼女の足元ではウラハラシザーズが絶命していた。

「生きたまま食したい所だったんだけど、そういう訳にはいかなそうだからねえ」

人体に悪影響のある毒は日常に溢れている。
入手する事はそれほど難しい話ではない。
ラブ・ファントムがそれを扱えば、即効性と致死性を二倍にした猛毒が即座に完成する。
それを注入されれば人間一人を絶命させることなど容易い事だった。

「こっちの大男の方は、攻撃が無差別だから、私とは相性が悪くてね。ちょっと戦うのは避けたい所だったんだけれど。君のおかげで助かったよ、さて」

ラブ・ファントムの視界の先にはショルダーバッグを抱えた少女が立っている。

「この状況を作り出したのは君だね」
「せっかくの殺し合いなのに本物が居なくてがっかりしていたんです」
「はは、本物か。作り物の即席殺人鬼には興味が無いって?」

ラブ・ファントムの問いに少女はニコリと微笑む。

「私を探していたって事か。正体がバレていたのは意外だったね。明確な目的がある相手にアド・ステルスは通じないしね」

少女がショルダーバックから銃を取り出す。
対魔人特殊部隊が装備していた物を奪い取ったのだろう。
少女は躊躇なくラブ・ファントムに向けて銃を発砲した。

「危なッ!」

ラブ・ファントムは抜群の反射神経でこれを回避する。
鍛えあげたしなやかな肉体は魔人能力によって2倍に強化されている。
人外レベルの魔人と渡り合うにはこれでも十分とは言えないが、銃弾程度を避けるには問題ない。

「ふふッ。いつもなら」

ラブ・ファントムは疾走する。

「隠れて様子を見て、こんな明らかな罠には飛び込んだりはしないんだけど」

少女に肉薄すると取り出したナイフを一閃する。
銃を持った手が綺麗に切断された。

「どうも、今日は殺しがしたくてね。思うにこれは君の能力だね。殺人の熱狂というか快楽を他人に伝染させている」
「きゃあああッ」

悲鳴を上げて少女は逃走する。
その後ろ姿を笑いながらラブ・ファントムは眺める。

「なんとも追いかけたくなるような逃げ方だね。君の能力は確かに凶悪だ。人から冷静さを奪ってしまう。そこで死んでいる彼女も大男も、本当なら引き際を見極める事ができたはずだ。でもそれができなかった」

腕を斬り落とされた少女が笑みを浮かべて振り返る。

「ええ、そうです。『ガールズ・トーク』は人の脳に囁きかける。とても楽しい事を」
「それが殺人の快楽ってワケか。なるほど、だからかな。私には効果が薄かった」

少女は怪訝な表情を浮かべる。

「どういう事?」
「確かに人を殺すのは楽しい。バンピーやルーキーがそれに浮かれてしまうのも解るんだけどね。私は人を殺すのも好きだけど他にも好きな事があるんだ」
「嘘よ。人を殺すより楽しい事なんて今まで何もなかったわ」
「それこそ、人の趣味はそれによりけりって事さ、私にとっての殺人は快楽ではあるが食事への行程の一つに過ぎないからね。思うに君のその感情も最近得たものなのではないかな?君も殺人の快楽に酔うルーキーの一人にすぎなかったって事さ」
「うるさいッ!」
「もう少し会話を楽しみたいところだけど、お別れの時間だ。大丈夫、君はすぐには殺さない。時間をかけてゆっくり食べてあげよう、毒は使わない。素材の味が鈍るからね」

ラブ・ファントムはナイフを構え少女に近付いていく。

「お別れの時間というのは間違っていないですね。ただし負けるのは貴方の方だ」

少女が今までと違った口調ではっきりと喋る。
それを意に介さずラブ・ファントムはナイフを振るった。

◆ドッペルぬらりひょん◆

ラブ・ファントムはナイフを振るった。
そしてそのナイフは自らの両足を切り落としていた。

「私を認識し、私も貴方を認識した。明確な害意を持って。それで終わりです」

稚切バドーの魔人能力『象撫』はお互いがお互いを認識した時に最大の効果を発揮する。
ショルダーバックとそれっぽい服装ですこしでもそうかもしれないという認識をもったラブ・ファントムのバドーへの認識を固定化したのだ。

「腕を斬り落とされたのは正直、最悪って感じでしたけど」
「ぐぅ…う…」

ラブ・ファントムが呻き声を上げる。

「自分には能力が薄いですか?冗談でしょう?たしかに効きは鈍かったかもしれませんがしっかりと貴方も殺人の悦楽に染まっていましたよ。お互いに引き際を誤りましたね」
「君も、死ぬつもりか。生き残るつもりはないって?」
「仕方ないでしょう。やらないと只の人殺しで終わりです。せめて格好良く死にたいじゃないですか。…これで、この場所に居る殺人鬼は全て止められましたよね。大悲川…さん」

バドーがスクランブル交差点にたどり着いたとき。
少女は既に死にかけていた。

殺人の騒乱の標的となり銃で撃たれていたのだ。
少女の死によって能力が解除される事は無かった。
死に際の少女の認識を辛うじて読み取れたのは『ガールズトーク』という名称だけだった。

それが彼女の能力名だったのか殺人鬼としての名だったのかは解らない。
バドーは少女のショルダーバッグとコートを剥ぎ取って変装したのだった。

「特殊部隊の人達は流石ですね。自分たちで殺しあって数を減らしています。何人かは生き残るでしょうけれど。最悪の殺人鬼はなんとか始末しました」

血が止まらない。
腹を貫通する銃創と切り落とされた腕から流れる出血はバドーの生命と同じだった。
もはや、零れ落ちる命を留める事はできない。

バドーの前に誰かが立っていた。
バドーは最後の力で能力を使おうとする。

(何コレ。こんな意識をどう書き換えれば良いの?)

それは無数の快楽だった。
一人の人間が持つ自意識を超えた悦楽と苦痛の意識の混沌だった。
猥雑な無数の意識が楽し気に語り合っている。
その会話はまったくかみ合わず。
ただただ、楽し気だった。
少女達がとりとめのない会話をするように。

「一つを書き換えたくらいじゃ何にもならない…ダメだ。クソ…『ガールズトーク』…これが本物。交差点で死んでいたのは…私達と同じ快楽に…」
「今日だけで、色んな死に方が体験できました。どうもありがとう。そしてご苦労様です。ヒーローさん」

バドーを見下ろす殺人鬼“ガールズトーク”は手に持った斧を振り下ろした。

◆ガールズトーク◆

西条なつみが目を覚ますとそこは赤い空間だった。

「…ふゅ…は」

声がでない。
口からは空気が漏れるだけだ。

(喋る事すらできないのか?)

視界も半分遮られている。
両足と左腕の感覚が無く、唯一感覚が残る右腕も動かせない。

「ああ、目が覚めましたね。辛くないですか?」

やや中国訛りの声が西条なつみの耳に飛び込んだ。

「ひゃぅ…」
「ああ、いけません。肺が殆どありませんからね。空気ポンプと簡易の血液循環装置でなんとか命を保っているだけですので。それも一時間くらいが限度ですけれど。頑張れば会話はできると思いますよ」
「ここ…は?」

西条なつみはなんとか喉の奥から溢れる空気をつかって声を絞り出す。

「ああ、ここですか?ここは『紅月』。渋谷スクランブルスクエアに開店したばかりの私の店ですとも」
「レス…」
「そう、レストランです。雑誌などにも紹介されていますから。もしかしたらご存知でしたか?」
「なま…え」
「名前をご存じで。それは光栄です。何しろ貴方は先駆者でいらっしゃる」
「せん…」

次々と言葉を繰り出す男は陳という名前のシェフだったと西条なつみは思い出す。

「さあ会話はお辛いでしょう?お客様がお待ちですのでどうぞ客席へ」

陳シェフは西条なつみの乗った台車をガラゴロと押していく。

店内は遥か下に広がる渋谷の喧騒などまるで関係ないかのように店内は静かで落ち着いた雰囲気に包まれていた。
騒がしさなど全くない。

店の中は赤く染まっていた。
週末のディナーを楽しむはずだった人々はバラバラの肉塊と化していた。

店内の中央にあるテーブルで一人の少女が食事をしている。

「ああ、素晴らしい味の悦楽!楽しんでいただけるようで料理人冥利に尽きますとも」

陳シェフの歓喜の言葉とともに西条なつみの脳内に圧倒的な快楽が流れ込んできた。

味覚。
食べるという快楽。
人を喰うと言う悦楽。
しかし、これは今まで西条なつみが感じてきた快楽とは別物だった。

「とっても素敵です。これは先ほどと同じ肉なんですか?」

食事を続ける少女が質問する。

陳シェフの得意料理は様々な趣向を凝らした肉料理の数々であり。
四川や広東に留まらず台湾やモンゴルなど様々な技法を取り入れている。

「ええ。下処理の技法一つで食感というものは大きく変わりますから。そこに加熱法、調味料。料理と言うのは無限の可能性があるのですよ。こちらは日本料理で言う活け造りの技法を用い素材の鮮度を活かしました」

陳シェフは汗を流しながら質問に応える。
店内には厨房の一部が大きく迫り出しておりオーナーシェフの料理の技を直に見る事もできるのも、店のウリの一つだった。

「腿肉は筋がありますが、流石に良く鍛えられていたようで、筋切をして蒸す事で柔らかくすることができました」

陳シェフが西条なつみの方を向く。

「料理というモノは何事も下処理が大事です。とくに生き物の内臓などは。言い方は悪いですが糞尿が詰まっていますからね。そのまま食べるのはおススメしません。単純に不味いですから。ご存知ですか?サンマという魚は内臓の構造上常にうんこをしているそうで、はらわたに排せつ物が残らないのです。ですからそのままでも美味しく食べられると」
「ふゅ…あ。いけ…づく…り」

西条なつみが声を絞り出す。

「おお、そうです。これは私独自の技法なのですが。今まで食材の声を聞く事ができなかったのです。どうでしょう?苦しくないと良いのですが」
「ああ…あああッ」

西条なつみの右目から涙が零れ落ちる。
その目に映るのは今まさに自分の左の目玉を口に入れて美味しそうに食べる少女の姿だった。
その悦楽が西条なつみの脳に流れ込んでくる。

「こんにちは、西条なつみさん。ラブ・ファントムと呼んだ方が良かったかな?」
「あ…なた…は?」
「初めまして、私は…そうですね『ガールズトーク』です」

自己紹介しながらガールズトークはパクリと肉を口に入れた。
西条なつみの脳内に濃厚なうま味が広がっていく。

「ああ、それは俗に言うハラミという部分でして。横隔膜ですな。内臓なのですが呼吸をする為の部位なので柔軟な筋肉でもあるわけで美味であって良かったです」

陳シェフがうっとりしながら食材を解説する。

「街を歩いていて色んな人とすれ違いました。復讐や憧れ平穏。そんな悦びも悪くは無かったんですけれど。ちょっと平凡でつまらないじゃないですか。目的であってそれは楽しみではない。それに比べて貴方の快楽は特別でした。ぜひ味わってみたいなって思ったんです。体験してみてとても良かったので感謝したいって思ってお招きしました。ご迷惑だったですか?」
「め…わ。い…え」

迷惑なはずなかった。
今までの自分の食べると言う行為のなんと雑だったことか。
食材を味わうと言う事は素晴らしいものだったが料理という観点を完全に見失っていたと西条なつみは感じていたのだ。

「ごめんなさい、喋りにくくて。でも貴方へのお礼をするにはこうするのが一番かなって思って」
「おれ…い?」
「だって、西条さん。貴方、自分を食べたかったんじゃないんですか?」
「ああ…ああああッ」
「だって、自分で自分を食べるなんて難しいでしょう?腕とか足くらいならともかくとして内臓とかは自分では食べられない。でも私ならその夢を叶えてあげられるなって思ったんです」
「あは、あはははは」

西条なつみは歓喜の声を上げた。
望んでいたがけして手に入るはずもなかった夢が叶おうとしている。

「では、本日の目玉料理を…って目玉はさっき料理してしまったんですけどねえ」

陳シェフが笑えないジョークを言いながら中華包丁を持ちだす。

「西条さん、もう喋れなくなりますけど。最後までしっかり味わってくださいね」
「ま…って」
「まだ何かありますか?」
「みぎ…て」
「ああ、良いですよ。わかります」

ガールズトークは西条なつみの右腕の拘束を外し、そっとその手を彼女の顔に触れさせた。
西条なつみの魔人能力『バイ・クイーン』は振れた物の特性を二倍にする。

「わた…しの…おいし…さ…を…に…ばいに」
「それってとても素敵な能力の使い方だと思います」

ガールズトークがニッコリと微笑み。
陳シェフが包丁を振り下ろす。

「続きましてはタン。即ち舌ですな。牛タンや豚タンも美味でありますので。これはステーキにしてみようかと。あと脳の方も少し削ってスープと一緒に蒸してみようかな」

そんな声を聴きながらラブ・ファントムこと西条なつみの心は幸福で満たされていった。

(死の直前まで最高の料理を味わえるなんて、控えめに言っても最高に素敵だわ)
「ああ、舌を切り落とされる感覚ってとっても素敵です」

ガールズトークの魔人能力『クラック・クラック』は。
他人と苦楽を共にする能力。
人と苦痛と悦楽を共有する能力。

悦楽は他人の脳に沁み込んで人々を目覚めさせる。

中華料理の陳シェフは人を料理すると言う悦楽に憑りつかれ新たな境地に至った。
通りすがりの名前すら知られなかった少女は殺人の快楽に囚われその素晴らしさを人に伝えるべくスクランブル交差点で死を遂げた。
そして西条なつみは自分を食べる快楽に身を任せ食材として死んだ。

ガールズトークは人々の快楽を取り込んで新たな価値を生み出していく。

◆◆◆

街は人でいっぱい。
街は“楽しい”と“苦しい”でいっぱい。

でもみんなが楽しいを分かち合えたなら。
それってとても素敵な夜。

リンドンリンドン素敵な夜に、楽しい楽しいベルの音。

幸せなら手を叩きましょう。
クラップクラップ。
拍手喝采。

この楽しさをみんなが知れば。

街は殺人鬼でいっぱい。
街は食人鬼でいっぱい。

皆が幸せになったなら。
私は次の楽しいを探しに出かけます。

◆◆◆

キラキラダンゲロス第一夜。

東京渋谷、壊滅。
最終更新:2020年07月03日 20:51