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夕暮れラプソディー - (2007/12/15 (土) 14:17:12) の最新版との変更点

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<div style="line-height: 2em" align="left"> <p><u>夕暮れ</u>ラプソディー 作者:榎本亮</p> <p> </p> <p> 遠い遠い昔、人と鬼は同じ世界に住んでいたのさ。</p> <p> </p> <p> </p> <p>「27……、28……、」<br> さわさわと木の葉が揺れる。<br> 「29……、30!」<br> 神社の鳥居に向かい合うように伏せていた顔をあげる。<br> 「もーいーかーい」<br> 返事が返ってこないことを確かめて、和馬は足を踏み出した。<br> 今は弟の悠斗と隠れん坊の真っ最中。<br> 小学校の友人も誘ったけれど、残念がら今日は皆何かしら予定があるようで。<br> 今は2人で遊んでいた。<br> 参加者が少ないと見つけなければならない人数は少ないが、その代りに鬼は人海戦術は使えない。<br> 和馬は隠れられそうな場所を1人で1つづつ見て歩いた。<br> 日の光がずいぶん弱くなっている。<br> 何度か鬼を交換しながら遊んでいたが、今日はこれが最後になりそうだ。<br> 茂み、神社の床下、小さな駐車場。<br> 池や物置小屋。隠れられそうな所は一通り探したけれど、弟の姿はない。<br> まだ幼稚園児の弟が、自分には思いつかないような所に隠れたとういうのか?<br> それを少し悔しく思いながら歩きまわる。辺りはだんだん光を失っていく。<br> もう世界が闇に染まるまでにカウントダウンが始まっている。<br> 和馬は悔しさよりも不安が大きくなっていった。<br> 「悠ー。僕の負けでいいから帰ろーっ」<br> そう言いながら歩きまわるが、人の気配は感じられない。<br> 薄暗い。<br> まとわりつく空気が告げている。<br> 夜が来る、と。<br> 「悠ー。出てこいよー」<br> まだ出てこない。<br> 暗くなったら帰るというのは、母との約束。<br> そうだというのに、何故悠斗は出てこない?<br> 「悠斗ー!」<br> 叫びながら走りまわる。<br> きょろきょろ見回しながら。<br> 今の和馬の心には不安と心配しかない。<br> 駐車場へも言った。<br> 池にも、茂みにも。<br> 床下なんか、何度ものぞいた。<br> それでも見つからない。<br> 心臓がぎゅうっと小さくなっていくようで、血の気が引いて、指先が冷たくなってきた。<br> そんな時。</p> <p>「なぁ、おチビ。何してんの?」</p> <p>頭の上から突如降ってきた声に、思わず見上げる。<br> 頭上に広がる木の枝の1つに、1人の少年が座っていた。10、11歳くらいだろうか。<br> 和馬より少し年上に見える。<br> 「もう逢う魔が時だ。さっさと帰えんな」<br> そう言ったが、少年は和馬が泣きそうな顔をしていることに気がついた。<br> 「どうかした?」<br> 「悠斗がいない……」<br> 「悠斗?」<br> 「僕の弟…!」<br> ふーんと言うと、その少年はぴょんと枝から飛び降りた。<br> ……………音もなく。<br> 「じゃあ、探すの手伝ってあげるよ。けっこう探すの得意なんだよね」<br> 少年は1度大きく息を吸い込んで歩きだした。<br> 少年が頭に巻いているバンダナの結び目が、歩くたびにぴょんぴょん跳ねる。<br> 「こっちっぽい」<br> 鼻を犬のようにくんくんさせながら歩いて行く少年。<br> 変な癖だと和馬は思った。<br> 「ここにいる」<br> そう断言する少年。<br> 辿り着いたのは、今は使われていない焼却炉。<br> 焼却炉は今はすすけて真っ黒だが、ブロックを積んだだけの簡単なつくり。<br> こんなものがあったなんて、和馬は知らなかった。<br> 背伸びをして中を覗いてみると、そこには膝を抱えて寝ている悠斗の姿が。<br> 「悠斗……」<br> 和馬は心底ほっとした。<br> 少年は軽々とブロックを飛び越えて、焼却炉の中へ。<br> 眠ったままの悠斗を抱え出した。<br> 受け取って起こそうとするも、悠斗は完全に寝ぼけていている。<br> 仕方がなく和馬は少年の手を借りながら悠斗をおんぶした。<br> 「ありがとう。見つけてくれて」<br> 「いいって。探すの得意っていったろ?」<br> 少年は得意げに胸を張った。<br> 「でも、どうしてわかったの?」<br> 少年は一瞬きょとんとして、それからにっと笑った。<br> 「隠れん坊も鬼ごっこも、鬼が人を見つけたり捕まえる遊びだろ?鬼が子供1人みるけられないでどうするんだよ」<br> 「僕は見つけられなかったよ」<br> 「年季が違うさ。それに鼻とか、目とかも」<br> 「鼻?」<br> そんな話をしていると、あっという間に神社の入り口の鳥居に着いてしまった。<br> じゃあねと言って、少年は背を向けたたが、和馬の声に振り返った。<br> 「今度は一緒に遊ぼうよ」<br> 「どうしうようかなぁ。俺は遅くならないと出てこれないし」<br> 少年は苦笑した。<br> 和馬があまりにも不満そうな顔をするから。<br> 「できたら、遊ぼう。約束な」<br> 少年は頭に巻いていたバンダナを解いて、和馬の腕に巻いた。<br> 「今度、俺と遊ぶ時に返して。会う約束」<br> 「うん」<br> 和馬は嬉しそうに笑った。<br> 風がさわさわと吹く。<br> 少年の髪が揺れて、ピンと尖った耳がちらりと見えた。<br> 和馬が口を開こうとした瞬間、突然強い風が吹き抜けた。<br> 「わっ!!」<br> 思わず顔を背ける。<br> しかし、顔をあげたその先に少年はいなかった。<br> 最後に見たのは、ニッと笑った少年の笑顔。<br> 腕に巻かれたバンダナが、少年は確かに存在していたと語る。<br> 不思議なことなのに、和馬は全く怖くなかった。</p> <p>辺りはもうすっかり暗い。和馬は家に向かって歩き出した。<br> あの不思議な少年との再会を楽しみに思いながら。</p> <p> </p> <p><a href= "http://bbs15.aimix-z.com/mtpt.cgi?room=kansou&amp;mode=view&amp;no=105">感想BBSへ</a></p> <p> </p> </div>
<div style="line-height: 2em" align="left"> <p><u>夕暮れラプソディー</u> 作者:榎本亮</p> <p> </p> <p> 遠い遠い昔、人と鬼は同じ世界に住んでいたのさ。</p> <p> </p> <p> </p> <p>「27……、28……、」<br> さわさわと木の葉が揺れる。<br> 「29……、30!」<br> 神社の鳥居に向かい合うように伏せていた顔をあげる。<br> 「もーいーかーい」<br> 返事が返ってこないことを確かめて、和馬は足を踏み出した。<br> 今は弟の悠斗と隠れん坊の真っ最中。<br> 小学校の友人も誘ったけれど、残念がら今日は皆何かしら予定があるようで。<br> 今は2人で遊んでいた。<br> 参加者が少ないと見つけなければならない人数は少ないが、その代りに鬼は人海戦術は使えない。<br> 和馬は隠れられそうな場所を1人で1つづつ見て歩いた。<br> 日の光がずいぶん弱くなっている。<br> 何度か鬼を交換しながら遊んでいたが、今日はこれが最後になりそうだ。<br> 茂み、神社の床下、小さな駐車場。<br> 池や物置小屋。隠れられそうな所は一通り探したけれど、弟の姿はない。<br> まだ幼稚園児の弟が、自分には思いつかないような所に隠れたとういうのか?<br> それを少し悔しく思いながら歩きまわる。辺りはだんだん光を失っていく。<br> もう世界が闇に染まるまでにカウントダウンが始まっている。<br> 和馬は悔しさよりも不安が大きくなっていった。<br> 「悠ー。僕の負けでいいから帰ろーっ」<br> そう言いながら歩きまわるが、人の気配は感じられない。<br> 薄暗い。<br> まとわりつく空気が告げている。<br> 夜が来る、と。<br> 「悠ー。出てこいよー」<br> まだ出てこない。<br> 暗くなったら帰るというのは、母との約束。<br> そうだというのに、何故悠斗は出てこない?<br> 「悠斗ー!」<br> 叫びながら走りまわる。<br> きょろきょろ見回しながら。<br> 今の和馬の心には不安と心配しかない。<br> 駐車場へも言った。<br> 池にも、茂みにも。<br> 床下なんか、何度ものぞいた。<br> それでも見つからない。<br> 心臓がぎゅうっと小さくなっていくようで、血の気が引いて、指先が冷たくなってきた。<br> そんな時。</p> <p>「なぁ、おチビ。何してんの?」</p> <p>頭の上から突如降ってきた声に、思わず見上げる。<br> 頭上に広がる木の枝の1つに、1人の少年が座っていた。10、11歳くらいだろうか。<br> 和馬より少し年上に見える。<br> 「もう逢う魔が時だ。さっさと帰えんな」<br> そう言ったが、少年は和馬が泣きそうな顔をしていることに気がついた。<br> 「どうかした?」<br> 「悠斗がいない……」<br> 「悠斗?」<br> 「僕の弟…!」<br> ふーんと言うと、その少年はぴょんと枝から飛び降りた。<br> ……………音もなく。<br> 「じゃあ、探すの手伝ってあげるよ。けっこう探すの得意なんだよね」<br> 少年は1度大きく息を吸い込んで歩きだした。<br> 少年が頭に巻いているバンダナの結び目が、歩くたびにぴょんぴょん跳ねる。<br> 「こっちっぽい」<br> 鼻を犬のようにくんくんさせながら歩いて行く少年。<br> 変な癖だと和馬は思った。<br> 「ここにいる」<br> そう断言する少年。<br> 辿り着いたのは、今は使われていない焼却炉。<br> 焼却炉は今はすすけて真っ黒だが、ブロックを積んだだけの簡単なつくり。<br> こんなものがあったなんて、和馬は知らなかった。<br> 背伸びをして中を覗いてみると、そこには膝を抱えて寝ている悠斗の姿が。<br> 「悠斗……」<br> 和馬は心底ほっとした。<br> 少年は軽々とブロックを飛び越えて、焼却炉の中へ。<br> 眠ったままの悠斗を抱え出した。<br> 受け取って起こそうとするも、悠斗は完全に寝ぼけていている。<br> 仕方がなく和馬は少年の手を借りながら悠斗をおんぶした。<br> 「ありがとう。見つけてくれて」<br> 「いいって。探すの得意っていったろ?」<br> 少年は得意げに胸を張った。<br> 「でも、どうしてわかったの?」<br> 少年は一瞬きょとんとして、それからにっと笑った。<br> 「隠れん坊も鬼ごっこも、鬼が人を見つけたり捕まえる遊びだろ?鬼が子供1人みるけられないでどうするんだよ」<br> 「僕は見つけられなかったよ」<br> 「年季が違うさ。それに鼻とか、目とかも」<br> 「鼻?」<br> そんな話をしていると、あっという間に神社の入り口の鳥居に着いてしまった。<br> じゃあねと言って、少年は背を向けたたが、和馬の声に振り返った。<br> 「今度は一緒に遊ぼうよ」<br> 「どうしうようかなぁ。俺は遅くならないと出てこれないし」<br> 少年は苦笑した。<br> 和馬があまりにも不満そうな顔をするから。<br> 「できたら、遊ぼう。約束な」<br> 少年は頭に巻いていたバンダナを解いて、和馬の腕に巻いた。<br> 「今度、俺と遊ぶ時に返して。会う約束」<br> 「うん」<br> 和馬は嬉しそうに笑った。<br> 風がさわさわと吹く。<br> 少年の髪が揺れて、ピンと尖った耳がちらりと見えた。<br> 和馬が口を開こうとした瞬間、突然強い風が吹き抜けた。<br> 「わっ!!」<br> 思わず顔を背ける。<br> しかし、顔をあげたその先に少年はいなかった。<br> 最後に見たのは、ニッと笑った少年の笑顔。<br> 腕に巻かれたバンダナが、少年は確かに存在していたと語る。<br> 不思議なことなのに、和馬は全く怖くなかった。</p> <p>辺りはもうすっかり暗い。和馬は家に向かって歩き出した。<br> あの不思議な少年との再会を楽しみに思いながら。</p> <p> </p> <p><a href= "http://bbs15.aimix-z.com/mtpt.cgi?room=kansou&amp;mode=view&amp;no=105">感想BBSへ</a></p> <p> </p> </div>

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